説明

流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】流体の増粘状態に応じて適切な印字前フラッシング処理を行うことができる流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、複数のノズル20(20A〜20D)を囲むように流体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、流体噴射ヘッドにキャップ部材を当接して休止した後にキャップ部材を離間してフラッシング処理を行うフラッシング処理部と、を備え、流体の増粘条件が所定条件を満たす場合には、第一流体を噴射するノズル20Dのみフラッシング条件を変更してフラッシング処理(FL2)を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンタ等の流体噴射装置及びそのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンタ(以下、「プリンタ」と言う)は、キャリッジに搭載された記録ヘッド(流体噴射ヘッド)のノズル形成面に形成されたノズルから記録媒体にインク(流体)を噴射することで印刷を行っている。ノズルの開口からインクの水分が蒸発しやすくなっているため、ノズル内のインクの粘度が上昇してノズルが目詰まりしやすい。
このため、プリンタでは、定期的にノズル内のインクを強制的に排出するメンテナンス(クリーニング、フラッシング等)を行うことで、ノズルの目詰まりを解消するようにしている。
【0003】
また、プリンタの休止時には、キャップにより記録ヘッドのノズル形成面をキャップにより封止することで、ノズルの開口からのインクの水分蒸発を抑制するようにしている。この際、プリンタの休止状態に移行する前にキャップ内に最も保湿成分(保湿剤)の少ない組成のインクを吐出(噴射)してキャップ内の保湿成分の割合を少なくすることで、ノズル内のインクからキャップ内の保湿成分によって水分が奪われるのを抑制するようにしたプリンタが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−280174号公報
【特許文献2】特開2008−44337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
記録ヘッドの各ノズルから噴射されるインクの保湿成分(保湿剤)割合は、インク毎に異なっている。このため、プリンタの休止後に印字を開始する際には、各インクの増粘状態がばらついしまう。
特に、水分含有量の少ないインク(例えばマゼンタ)は増粘しやすいため、印字開始直前に一律に印字前フラッシング処理を行ったとしても増粘の解消が不十分となる場合がある。更に、印字前フラッシング処理によりメニスカスが破壊されて、噴射不良となる場合があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、流体の増粘状態に応じて適切な印字前フラッシング処理を行うことができる流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、複数のノズルから流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記流体噴射ヘッドに対向して配置されると共に前記複数のノズルを囲むように前記流体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、前記流体噴射ヘッドに前記キャップ部材を当接して休止した後に前記キャップ部材を離間して前記キャップ部材に向けて前記流体を噴射するフラッシング処理を行うフラッシング処理部と、を備える流体噴射装置において、前記フラッシング処理部は、前記流体の増粘条件が所定条件を満たす場合には、第一流体を噴射するノズルのみフラッシング条件を変更してフラッシング処理を行うことを特徴とする。
【0008】
また、前記第一流体は、前記流体のうち含有水分量が最も少ない流体であることを特徴とする。
また、前記第一流体は、マゼンタインクであることを特徴とする。
【0009】
また、前記増粘条件は、前記休止の経過時間と前記休止直前の流体噴射時間であることを特徴とする。
【0010】
また、前記フラッシング処理は、フラッシング前微振動と噴射量の多いパワーフラッシングと噴射量の少ないノーマルフラッシングとからなり、前記フラッシング条件の変更は、前記フラッシング前微振動の回数を増やし、前記パワーフラッシングを行わずに、前記ノーマルフラッシングの回数を増やすことを特徴とする。
【0011】
また、前記フラッシング条件の変更前の流体噴射量と変更後の流体噴射量は、同一であることを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、複数のノズルから流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記流体噴射ヘッドに対向して配置されると共に前記複数のノズルを囲むように前記流体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、を備える流体噴射装置のメンテナンス方法において、前記流体噴射ヘッドに前記キャップ部材を当接して休止する工程と、前記キャップ部材を離間して前記キャップ部材に向けて前記流体を噴射する際に、前記流体の増粘条件が所定条件を満たす場合には、第一流体を噴射するノズルのみフラッシング条件を変更してフラッシング処理を行う工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンタの全体構成を示す斜視図である。
【図2】メンテナンスユニットの概略構成を示す断面図である。
【図3】インクジェット式プリンタの電気的構成を示すブロック回路図である。
【図4】印字前フラッシングのパターンを示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る印字前フラッシング処理を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンタ及びそのメンテナンス方法について図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明において、「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、図1における「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」と一致するものとする。
【0015】
図1に示すように、インクジェット式プリンタ(流体噴射装置)11は、平面視矩形状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内には、左右方向に延びるプラテン13が架設される。このプラテン13上には、フレーム12の背面に設けられた紙送りモータ14を有する紙送り機構により記録用紙Pが後側から給送されるようになっている。
また、フレーム12内におけるプラテン13の上方には、プラテン13の長手方向(左右方向)と平行に棒状のガイド部材15が架設されている。
【0016】
ガイド部材15には、キャリッジ16が、軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能に支持されている。キャリッジ16は、フレーム12内の後面に設けられた一対のプーリ17a間に張設されたタイミングベルト17を介してフレーム12の背面に設けられたキャリッジモータ18に連結される。キャリッジ16は、キャリッジモータ18の駆動によりガイド部材15に沿って往復移動される。
【0017】
キャリッジ16の下面には、記録ヘッド(流体噴射ヘッド)19が設けられる。記録ヘッド19の下面は、複数のノズル20が形成されたノズル形成面19aとなっている(図2参照)。
また、キャリッジ16における記録ヘッド19の上側には、インクカートリッジ21が着脱可能に搭載される。このインクカートリッジ21内には、インク(液体)がそれぞれ記録ヘッド19に供給可能に収容されている。
【0018】
インクには、保湿剤及び水分が含有される。保湿剤としては、グリセリンやジエチレングリコール等の多価アルコール類が用いられる。多価アルコール類は、吸湿性を有するため、インクに含有させることで、ノズル20内でのインクの増粘を抑制してノズルの目詰まりを抑制するようになっている。
【0019】
また、インクにおける水分及び保湿剤の割合としては、例えば、水分が55〜70%(純水:45〜60%)程度、保湿剤が15〜20%程度である。
この場合における水分(量)とは、分散液や水溶液中の水分と純水の合計量をいう。
【0020】
なお、シアンインクでは、水分(純水)が40%程度、保湿剤が10%程度である。マゼンタインクでは、水分(純水)が25%程度、保湿剤が9%程度である。
このように、マゼンタインクは、水分(純水)量及び保湿剤量がともに少ないため、増粘しやすいインクとして知られている。
【0021】
インクカートリッジ21内のインクは、記録ヘッド19内に各ノズル20と対応するように備えられた圧電素子20aの駆動により、インクカートリッジ21から記録ヘッド19へと供給される。更に、各ノズル20からプラテン13上に給送された記録用紙Pに向けて噴射されることにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
なお、ノズル20Aからはブラックインク(B)、ノズル20Bからはイエローインク(Y)、ノズル20Cからはシアンインク(C)、ノズル20Dからはマゼンタインク(M)が噴射される。
【0022】
また、フレーム12内の右端部に位置する非印刷領域には、非印刷時に記録ヘッド19のメンテナンス(クリーニング、フラッシング等)を行うためのメンテナンスユニット22が設けられている。
【0023】
図2に示すように、メンテナンスユニット22は、記録ヘッド19のノズル形成面19aを封止可能な上側が開口した有底四角箱状をなす合成樹脂製のキャップ23を備えている。キャップ23の全ての壁部(底壁及び周壁)の肉厚は、均一になっている。
キャップ23内には、キャップ23の内底面全体を覆うように、可撓性を有する多孔質材料からなる四角板状のインク吸収材24が敷設されている。キャップ23の上面全体には、ゴム等の可撓性部材よりなる四角枠状のシール部材25が密着するように設けられている。
【0024】
また、キャップ23には、このキャップ23を昇降させるための昇降装置26が連結されている。そして、キャリッジ16を非印刷領域に移動させた状態で、キャップ23を昇降装置26によって上昇させることで、シール部材25の上面が記録ヘッド19のノズル形成面19aに当接され、各ノズル20がキャップ23により封止されるようになっている。
なお、キャップ23がノズル形成面19aを封止した状態では、インク吸収材24は、キャップ23内のインクを吸収保持して、このキャップ23内の空間を保湿する。
【0025】
キャップ23の下面には、キャップ23内からキャップ23外へインクを排出させる排出通路27aを内部に有する排出部27が下側に延びるように設けられている。排出部27には、可撓性材料よりなる排出チューブ28の基端側(上流側)が接続されるとともに、排出通路27aを介してキャップ23内と排出チューブ28内とが連通されている。
排出チューブ28の先端側(下流側)は、直方体形状をなす廃インクタンク29内に挿入されている。また、排出チューブ28の中間部には、キャップ23側から廃インクタンク29側へ向かってキャップ23内を吸引するためのチューブポンプ30が配設されている。
【0026】
そして、記録ヘッド19のノズル形成面19a(各ノズル20)をキャップ23により封止した状態でチューブポンプ30を駆動することで、各ノズル20内の増粘したインクが気泡等とともに吸引され、キャップ23及び排出チューブ28を介して廃インクタンク29内に排出される、いわゆるクリーニングが行われるようになっている。
なお、廃インクタンク29内には、廃インクタンク29内に排出されたインクを吸収保持する廃インク吸収材31が収容されている。
【0027】
次に、インクジェット式プリンタ11の電気的構成について説明する。
図3に示すように、インクジェット式プリンタ11は、制御部40を備えている。制御部40には、紙送りモータ14、キャリッジモータ18、圧電素子20a、昇降装置26及びチューブポンプ30などが電気的に接続されている。
そして、これら両モータ14,18、圧電素子20a、昇降装置26及びチューブポンプ30などは、それらの駆動状態がそれぞれ制御部40によって制御されるようになっている。
【0028】
制御部40内には、CPU41、ROM42、RAM43、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)44、RTC(Real Time Clock)45、前回の印字時間を計時する第一タイマ46、休止時間を計時する第二タイマ47などが設けられている。
ROM42には、インクジェット式プリンタ11を制御するための各制御プログラム、及び各種情報(後述する各クリーニングパターン及び各フラッシングパターンを示すテーブル)などが記憶されている。
RAM43には、インクジェット式プリンタ11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報が記録されるようになっている。
【0029】
EEPROM44には、インクジェット式プリンタ11が電源オフ状態にされたとしても消去されるべきではない各種の情報(前回印字時間TA、休止時間TB)が記録されるようになっている。
RTC45は、インクジェット式プリンタ11が電源オン状態である間は勿論のこと、インクジェット式プリンタ11が電源オフ状態となってからも図示しないコンデンサからの給電がある間は、クロック信号を出力する。
【0030】
ROM42には、メンテナンスユニット22において実行される複数種のフラッシング処理のパターン(フラッシング条件)が記憶・設定される。
特に、図4に示すように、印字前フラッシングに関しては、二種類のパターン(第一印字前フラッシングパターンFL1、第二印字前フラッシングパターンFL2)が設定されている。
【0031】
第一印字前フラッシングパターンFL1は、全てのノズルに対して適用されるフラッシングパターンである。第一印字前フラッシングパターンFL1は、従来から行われている既知の印字前フラッシングパターンである。
第一印字前フラッシングパターンFL1は、インクを噴射しない微振動、小さなインク滴を強力に噴射するパワーフラッシング、大きなインク滴を噴射するノーマルフラッシングがこの順に連続して行われるように設定されている。
微振動、パワーフラッシング及びノーマルフラッシングの回数としては、例えば、微振動が450SEG、パワーフラッシングが2400SEG、ノーマルフラッシングが2340SEGに設定されている。
なお、微振動、パワーフラッシング及びノーマルフラッシング並びにSEGの詳細については、例えば特開2008−23756号公報等に開示されているので、その説明を省略する。
【0032】
第二印字前フラッシングパターンFL2は、短期増粘しやすいインクを排出するノズル20、すなわちマゼンタインクを噴射するノズル20Dに対してのみ適用されるフラッシングパターンである。
また、第二印字前フラッシングパターンFL2は、第一タイマ46,第二タイマ47により計時された時間が、所定の条件を満たす場合にのみ適用される。言い換えれば、所定の条件を満たさない場合には、ノズル20Dには第一印字前フラッシングパターンFL1が適用される。
第二印字前フラッシングパターンFL2は、インクを噴射しない微振動と大きなインク滴を噴射するノーマルフラッシングがこの順に連続して行われるように設定されている。つまり、小さなインク滴を強力に噴射するパワーフラッシングは行わないように設定されている。
微振動及びノーマルフラッシングの回数としては、例えば、微振動が8000SEG、ノーマルフラッシングが1500SEGに設定されている。
なお、第二印字前フラッシングパターンFL2がノズル20Dに適用される条件(第一タイマ46,第二タイマ47の計時時間)については、後述する。
【0033】
第一印字前フラッシングパターンFL1及び第二印字前フラッシングパターンFL2におけるインクの噴射量は、ほぼ同量になるように設定されている。つまり、フラッシング条件にかかわらず、印字前フラッシングに排出されるインク量はほぼ同一である。マゼンタインクのみが印字前フラッシングにより多量に排出されてインク不足となる事態を回避している。
【0034】
次に、メンテナンスユニット22において、印刷開始前に行われる記録ヘッド19のフラッシング処理(印字前フラッシング)について、図5に基づき説明する。
印字前フラッシングは、印字処理及びそれに続く休止処理(キャップ)の後に行われる。
まず、ステップS1では、第一タイマ46及び第二タイマ47により計時された時間が、所定時間を満たすか否かを判断する。
【0035】
第一タイマ46は、前回の印字時間、すなわち前回の休止から今回の休止までの間に行われた印字処理の時間(前回印字時間TA)を計時する。言い換えれば、前回の休止から今回の休止までの非休止(非封止)時間を計時する。
そして、前回印字時間TAが、印字処理中に短期増粘しない時間T1より長く、印字処理中に短期増粘して定期フラッシング処理が施される時間T2より短いか否かを判断する。
T1<TA<T2
【0036】
つまり、印字処理中に、短期増粘が発生したものの、定期フラッシング処理が施されていない状態、言い換えれば、印字処理中の短期増粘が残っている状態のとき、この条件を満足する。
具体的には、周囲温度が35℃〜40℃の場合には、前回印字時間TAが約30分程度のとき、この条件を満足する。
【0037】
第二タイマ47は、今回の休止(封止)時間(休止時間TB)を計時する。
休止時間TBが、キャップ23内が短期増粘しない時間T3より長く、キャップ23内の空間の水蒸気が飽和する時間T4より短いか否かを判断する。
T3<TB<T4
【0038】
つまり、キャッピング中に、短期増粘が発生したしたものの、キャップ23による増粘防止効果が発揮されない状態、言い換えれば、キャッピング中の短期増粘が残っている状態のとき、この条件を満足する。
具体的には、周囲温度が35℃〜40℃の場合には、休止時間TBが約15分程度のときこの条件を満足する。
【0039】
第一タイマ46及び第二タイマ47により計時された時間が上述した条件を満たさない場合には、ステップS2に移行する。
ステップS2では、全てのノズル20に対して第一印字前フラッシングパターンFL1が適用される。
【0040】
第一タイマ46及び第二タイマ47により計時された時間が上述した条件を満たす場合には、ステップS3に移行する。
ステップS3では、ノズル20A〜20Cに対しては第一印字前フラッシングパターンFL1が適用される。一方、ノズル20Dに対しては第二印字前フラッシングパターンFL2が適用される。
【0041】
ノズル20Dに対してのみ、他のノズル(ノズル20A〜20C)に適用される第一印字前フラッシングパターンFL1とは異なる第二印字前フラッシングパターンFL2を適用するのは、ノズル20Dから噴射されるマゼンタインクが他のノズルから噴射されるインク(ブラック、イエロー等)よりも増粘しやすいからである。
【0042】
第二印字前フラッシングパターンFL2では、インク滴の大きいパワーフラッシングが適用されていない。
ノズル20Dに短期増粘したマゼンタインクが存在する場合、パワーフラッシングを適用すると、インクのメニスカスが破壊されて、噴射不良を引き起こす場合が少なくない。このため、インクのメニスカスを破壊することなく、増粘インクを確実に噴射できるフラッシングパターン、すなわち第二印字前フラッシングパターンFL2を適用する。
【0043】
そして、第一印字前フラッシングパターンFL1が適用されたノズル20A〜20Cのフラッシング処理と第二印字前フラッシングパターンFL2が適用されノズル20Dのフラッシング処理がともに終了することで、印字前フラッシング処理は完了する。
そして、印字前フラッシング処理が終了すると、新たな印字処理が開始される。この際、第一タイマ46がリセットされて計時も開始される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェット式プリンタ及びそのメンテナンス方法によれば、
印刷前フラッシングを行う際に、インク(特にマゼンタインク)が短期増粘する条件が満たされている場合には、短期増粘したインクを噴射するノズル20(ノズル20D)におけるフラッシング条件を変更してフラッシングを行うので、短期増粘したインクを効果的に排出することができる。
上述したように、短期増粘しやすいインクとしては、マゼンタインクが挙げられる。水分量及び保湿剤がともに少ないからである。
【0045】
また、短期増粘する条件として、休止の経過時間と休止直前の流体噴射時間を基準としているので、確実かつ容易に短期増粘を推測することができる。
【0046】
また、通常の印字前フラッシングは、フラッシング前微振動と噴射量の多いパワーフラッシングと噴射量の少ないノーマルフラッシングとからなっているところ、短期増粘したインクに対しては、フラッシング前微振動の回数を増やし、パワーフラッシングを行わずに、ノーマルフラッシングの回数を増やすようにフラッシング条件を変更する。これにより、短期増粘したインクのメニスカスを破壊することなく、短期増粘したインクを確実に排出して増粘を解消することができる。
【0047】
また、フラッシング条件の変更前の流体噴射量と変更後の流体噴射量を同一とすることで、短期増粘しやすいインクの消費量のみが増加して不足することを回避できる。
【0048】
なお、上述した実施形態においては、液体噴射装置がインクジェットプリンターである場合を例にして説明したが、インクジェットプリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
また、上述の実施形態においては、液体噴射装置が、インク等の液体を噴射する液体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の液体噴射装置は、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に適用することができる。液体噴射装置が噴射可能な液体は、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体を含む。
【0049】
また、上述した実施形態において、液体噴射装置から噴射される液体としては、インクのみならず、特定の用途に対応する液体を適用可能である。液体噴射装置に、その特定の用途に対応する液体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する液体を噴射して、その液体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の液体噴射装置は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した液体(液状体)を噴射する液体噴射装置に適用可能である。
【0050】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
11…インクジェット式プリンタ(流体噴射装置)、 19…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、 20(20D)…ノズル、 23…キャップ(キャップ部材)、 40…制御部(フラッシング処理部)、 FL1…第一印字前フラッシングパターン、 FL2…第二印字前フラッシングパターン、 TA…前回印字時間、 TB…休止時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから流体を噴射する流体噴射ヘッドと、
前記流体噴射ヘッドに対向して配置されると共に前記複数のノズルを囲むように前記流体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、
前記流体噴射ヘッドに前記キャップ部材を当接して休止した後に前記キャップ部材を離間して前記キャップ部材に向けて前記流体を噴射するフラッシング処理を行うフラッシング処理部と、
を備える流体噴射装置において、
前記フラッシング処理部は、前記流体の増粘条件が所定条件を満たす場合には、第一流体を噴射するノズルのみフラッシング条件を変更してフラッシング処理を行うことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記第一流体は、前記流体のうち含有水分量が最も少ない流体であることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記第一流体は、マゼンタインクであることを特徴とする請求項2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記増粘条件は、前記休止の経過時間と前記休止直前の流体噴射時間であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記フラッシング処理は、フラッシング前微振動と噴射量の多いパワーフラッシングと噴射量の少ないノーマルフラッシングとからなり、
前記フラッシング条件の変更は、前記フラッシング前微振動の回数を増やし、前記パワーフラッシングを行わずに、前記ノーマルフラッシングの回数を増やすことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記フラッシング条件の変更前の流体噴射量と変更後の流体噴射量は、同一であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
複数のノズルから流体を噴射する流体噴射ヘッドと、
前記流体噴射ヘッドに対向して配置されると共に前記複数のノズルを囲むように前記流体噴射ヘッドに当接可能なキャップ部材と、
を備える流体噴射装置のメンテナンス方法において、
前記流体噴射ヘッドに前記キャップ部材を当接して休止する工程と、
前記キャップ部材を離間して前記キャップ部材に向けて前記流体を噴射する際に、前記流体の増粘条件が所定条件を満たす場合には、第一流体を噴射するノズルのみフラッシング条件を変更してフラッシング処理を行う工程と、
を有することを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228255(P2010−228255A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77579(P2009−77579)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】