説明

流体噴射装置及び流体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】ランニングコストを低減できる流体噴射装置及び流体噴射装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】インクを噴射する複数の記録ヘッドを用いて記録用紙に所定の画像データに基づく印字を行うプリンターであって、上記複数の記録ヘッドのうち上記印字を実行しない記録ヘッドについて、その噴射特性を回復させるのに必要な上記インクの消費量に応じて、該記録ヘッドから上記インクを予備噴射させるフラッシング処理あるいは該記録ヘッドから上記インクを吸引する吸引処理の実行を選択する制御装置を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置及び流体噴射装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を噴射する流体噴射装置として、例えば下記特許文献1に記載のインクジェット式記録装置が知られている。インクジェット式記録装置は、記録媒体(媒体)に文字や画像等を記録する装置であり、記録ヘッド(流体噴射ヘッド)に設けられたノズルから記録媒体にインク(流体)を選択的に噴射する構成になっている。
この流体噴射装置では、良好な噴射特性を維持又は回復させるため、当該記録ヘッドのメンテナンス処理を定期的に行っている。その具体的なメンテナンス処理としては、例えば、キャップ部材に記録ヘッドを対向させ、ノズルからインクを定期的に予備噴射させることで、増粘インクによるノズルの目詰まり防止や、ノズルのメニスカスを調整して、記録ヘッドから正常にインクを噴射させるフラッシング処理(予備噴射処理)と、キャップ部材で記録ヘッドをキャッピングした後に吸引ポンプを駆動させて、各ノズルから粘性が高くなったインクや付着したゴミ等を強制吸引してメニスカスを調整し、記録ヘッドから正常にインクを噴射させる吸引処理とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−256452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、流体噴射装置には、記録ヘッドを記録媒体の幅方向に複数配置して印字を行う所謂ラインヘッドプリンターがある。従来のメンテナンス処理では、これら記録ヘッドの全てについて一様に行っていた。メンテナンス処理では、印字処理以外でインクを消費することから、ランニングコストが高くなるという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたもので、ランニングコストを低減できる流体噴射装置及び流体噴射装置のメンテナンス方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体を噴射する複数の流体噴射ヘッドを用いて媒体に所定の画像データに基づく印字を行う流体噴射装置であって、上記複数の流体噴射ヘッドのうち上記印字を実行しない流体噴射ヘッドについて、その噴射特性を回復させるのに必要な上記流体の消費量に応じて、該流体噴射ヘッドから上記流体を予備噴射させる予備噴射処理あるいは該流体噴射ヘッドから上記流体を吸引する吸引処理の実行を選択する制御装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、所定の画像データに基づいて印字を行う際に、複数の流体噴射ヘッドのうち印字を実行しない流体噴射ヘッドがある場合、メンテナンス処理において、その流体噴射ヘッドについては、その噴射特性を回復させるのに必要な流体の消費量に応じて、予備噴射処理あるいは吸引処理を選択することで、その流体噴射ヘッドについて印字処理以外で消費される流体を低減する。
【0007】
また、本発明においては、上記制御装置は、上記予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とに基づいて、上記予備噴射処理あるいは上記吸引処理の実行を選択するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とに基づいて、印字時間あたりの上記消費量をそれぞれの処理で比較し、印字を実行しない流体噴射ヘッドについて好ましい方のメンテナンス処理を選択する。
【0008】
また、本発明においては、上記制御装置は、上記予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータを有し、該テーブルデータに基づいて上記予備噴射処理あるいは上記吸引処理の実行を選択するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータに基づいて、印字時間あたりの上記消費量をそれぞれの処理で比較し、印字を実行しない流体噴射ヘッドについて好ましい方のメンテナンス処理を選択する。
【0009】
また、本発明においては、流体を噴射する複数の流体噴射ヘッドを用いて媒体に所定の画像データに基づく印字を行う流体噴射装置のメンテナンス方法であって、上記複数の流体噴射ヘッドのうち上記印字を実行しない流体噴射ヘッドについて、その噴射特性を回復させるのに必要な上記流体の消費量に応じて、該流体噴射ヘッドから上記流体を予備噴射させる予備噴射処理あるいは該流体噴射ヘッドから上記流体を吸引する吸引処理の実行を選択する処理選択工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、所定の画像データに基づいて印字を行う際に、複数の流体噴射ヘッドのうち印字を実行しない流体噴射ヘッドがある場合、メンテナンス処理において、その流体噴射ヘッドについては、その噴射特性を回復させるのに必要な流体の消費量に応じて、予備噴射処理あるいは吸引処理を選択することで、その流体噴射ヘッドについて印字処理以外で消費される流体を低減する。
【0010】
また、本発明においては、上記処理選択工程では、上記予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とに基づいて、上記予備噴射処理あるいは上記吸引処理の実行を選択するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とに基づいて、印字時間あたりの上記消費量をそれぞれの処理で比較し、印字を実行しない流体噴射ヘッドについて好ましい方のメンテナンス処理を選択する。
【0011】
また、本発明においては、上記処理選択工程では、上記予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータに基づいて、上記予備噴射処理あるいは上記吸引処理の実行を選択するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、予備噴射処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係と、上記吸引処理に関する上記印字の時間と上記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータに基づいて、印字時間あたりの上記消費量をそれぞれの処理で比較し、印字を実行しない流体噴射ヘッドについて好ましい方メンテナンスの処理を選択する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるプリンターの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態におけるプリンターの要部構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるプリンターの要部構成を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるノズル形成面におけるノズルの配列状態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における記録ヘッドの内部構成を示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるフラッシング処理を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態における吸引処理を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態におけるプリンターの動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態における印字処理により記録用紙に印字される画像を示す模式図である。
【図10】本発明の実施形態における吸引処理に関する印字時間と吸引量との相関関係を示す図である。
【図11】本発明の実施形態におけるフラッシング処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係と吸引処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係とを示す図である。
【図12】本発明の実施形態におけるフラッシング処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係と吸引処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係とに基づいて印字を実行しない記録ヘッドのメンテナンス処理を選択するテーブルデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る流体噴射装置の各実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、プリンターと称する)を例示する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態におけるプリンター1の構成を示すブロック図である。図2は、本発明の実施形態におけるプリンター1の要部構成を示す断面図である。図3は、本発明の実施形態におけるプリンター1の要部構成を示す平面図である。
なお、図2及び図3に示すように、記録用紙(媒体)Pの搬送方向をX軸方向と、該搬送方向と直交する搬送路幅方向をY軸方向と、X軸方向及びY軸方向と直交する高さ方向をZ軸方向と称して以下説明する場合がある。
【0015】
本実施形態のプリンター1は、複数の記録ヘッド(流体噴射ヘッド)6を備えるラインヘッドプリンターであり、複数の記録ヘッド6を用いて記録用紙Pにインク(流体)を噴射することで所定の情報や画像を印字する印字処理を行う構成となっている。本実施形態のプリンター1は、図1に示すように入力装置2と、記憶装置3と、制御装置4と、記録用紙搬送装置5と、記録ヘッド6と、キャッピング装置7と、プラテン移動装置8とを有する。
【0016】
入力装置2は、制御装置4に外部からの印字処理に係る各種指令やデータを入力するものであり、使用者が操作する操作パネルや、外部から印字データ等を入力する通信装置等を含む。
記憶装置3は、各種構成機器の動作プログラムや入力装置2から入力されるデータを記憶するものである。
制御装置4は、各種構成機器の動作を電気的に制御するものであり、入力装置2、記憶装置3、記録用紙搬送装置5、記録ヘッド6、キャッピング装置7、プラテン移動装置8との間でデータ授受を行う各種入出力インターフェイス回路や、該データに基づき所定の演算処理等を行うCPU等を有する。
【0017】
記録用紙搬送装置5は、図2に示すように、X軸方向に延びる搬送路に沿って記録用紙Pを搬送する複数の搬送ローラ51を有する。搬送ローラ51は、Y軸方向に延びる回転軸周りに回転することにより記録用紙PをX軸方向に移動させる構成となっている。
【0018】
記録ヘッド6は、インクを噴射する複数のノズル17が設けられたノズル形成面(噴射面)21Aを有する。この記録ヘッド6は、ノズル形成面21Aが−Z方向に向くように配置されている。
記録ヘッド6は、図3に示すように、搬送路の幅方向(Y軸方向)に沿って複数設けられて、記録ヘッド6a1、6a2、6a3、6a4の列と、記録ヘッド6b1、6b2、6b3の列の計2列を構成する。この複数の記録ヘッド6は幅方向に沿って互い違いに配置される千鳥配列となっている。すなわち、Y軸方向に沿って、記録ヘッド6a1、記録ヘッド6b1、記録ヘッド6a2、記録ヘッド6b2、記録ヘッド6a3、記録ヘッド6b3、記録ヘッド6a4が順次配置される。
【0019】
図4及び図5を参照して記録ヘッド6の構成について説明する。
図4は、本発明の実施形態におけるノズル形成面21Aにおけるノズル17の配列状態を示す図である。図5は、本発明の実施形態における記録ヘッド6の内部構成を示す部分断面図である。
【0020】
図4に示すように、ノズル17はノズル形成面21Aにおいて搬送路の幅方向に沿って複数設けられ、ノズル列16を形成する。このノズル列16は、搬送方向に沿って計6列設けられる。ノズル列16(C1),16(M1),16(Y),16(C2),16(M2),16(B)は、それぞれ、シアン(C1),マゼンタ(M1),イエロー(Y),ライトシアン(C2),ライトマゼンタ(M2),ブラック(B)の各色に応じたインクを噴射する構成となっている。1つのノズル列16は、例えば、180個のノズル17によって構成されている。
【0021】
図5に示すように、記録ヘッド6は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えると共に、共通インク室29と、インク供給口30と、圧力室31とを形成する。さらに、流路形成ユニット22は、ダイヤフラム部として機能する島部32と、共通インク室29内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33とを備える。ヘッド本体18には、固定部材26と共に駆動ユニット24を収容する収容空間23と、インクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成される。
【0022】
上記構成の記録ヘッド6によれば、ケーブル27を介して駆動ユニット24に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19がキャビティに接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。このため、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル17から、インクが噴射される。
【0023】
図2に戻り、記録用紙Pを搬送する搬送路の一部を構成するプラテン81(81a,81b)は、プラテン移動装置8により、記録ヘッド6とキャップ部材71との間を遮る遮蔽位置(図2に示す位置)と該遮蔽位置から退避する非遮蔽位置(図6及び図7に示す位置)との間を、搬送方向(X軸方向)に沿って往復移動自在な構成となっている。プラテン81は、搬送方向に延びる略板形状を有し、記録ヘッド6が設けられる表面側で記録用紙Pを支持する。なお、プラテン81の表面には、記録用紙Pを平らに支持するためのリブ(凹凸)を有していても良い。
【0024】
プラテン移動装置8は、プラテン81のキャップ部材71が設けられる側に設けられた不図示のラックと噛合可能で搬送路の幅方向に延びる回転軸周りに回転自在なピニオン82を有する。プラテン移動装置8は、ピニオン82を回転させることにより、プラテン81を遮蔽位置と非遮蔽位置との間を移動させる構成となっている。なお、遮蔽位置においては、プラテン81a及びプラテン81bは互いの端部を当接させて記録用紙Pを支持する連続的支持面を形成する構成となっている。
【0025】
キャッピング装置7は、各記録ヘッド6と一対一で対応して複数設けられており、キャップ部材71と、吸引ポンプ72と、大気開放バルブ73と、廃インクタンク74とを備える。
キャップ部材71は、記録ヘッド6に対向する側が開口する略枡形状を有する。なお、キャップ部材71の開口縁部をリップ部71Aと称する。リップ部71Aは、ゴム部材等の弾性部材から形成され、複数のノズル17を囲うようにノズル形成面21Aと当接可能な構成となっている。また、キャップ部材71の内には、インクを吸収するスポンジ等の吸収材75が設けられている。
【0026】
キャップ部材71は、キャップ部材移動装置71Bにより、上下方向(Z軸方向)に移動可能な構成となっている。キャップ部材移動装置71Bは、制御装置4の制御の下にキャップ部材71を、記録ヘッド6と所定距離を空けて待機する待機位置(図2に示す位置)と、記録ヘッド6のノズル形成面21Aとリップ部71Aとが当接する当接位置(図7に示す位置)との間を移動させる構成となっている。キャップ部材移動装置71Bの構成の一例としては、ラック・ピニオン機構やカム機構等の周知の構成を採用できる。
【0027】
キャッピング装置7は、記録ヘッド6の良好な噴射特性を維持又は回復させるメンテナンス処理に用いられる。メンテナンス処理には、図6に示すフラッシング処理(予備噴射処理)と、図7に示す吸引処理とがある。
フラッシング処理は、プラテン81を非遮蔽位置に移動させてキャップ部材71と記録ヘッド6とを対向させた後、ノズル17からインクを定期的に予備噴射させることで、増粘インクによるノズル17の目詰まり防止や、ノズル17のメニスカスを調整して、記録ヘッド6から正常にインクを噴射させる処理である。
吸引処理は、プラテン81を非遮蔽位置に移動させてキャップ部材71で記録ヘッド6をキャッピングした後に吸引ポンプ72を駆動させて、各ノズル17から粘性が高くなったインクや付着したゴミ等を強制吸引してメニスカスを調整し、記録ヘッド6から正常にインクを噴射させる処理である。
【0028】
続いて、図8に示すフローチャートを参照して、本発明の特徴的なメンテナンス処理について説明する。
図8は、本発明の実施形態におけるプリンター1の動作を示すフローチャートである。
先ず、制御装置4は、入力装置2から入力された記録用紙Pに印字すべき画像データを取得して、その取得した画像データを解析する(ステップS1)。画像データは、ドットマトリクスにより構成されるものであり、ドットの位置及びその位置でのドットの色調等のデータが含まれる。
【0029】
図9は、本発明の実施形態における印字処理により記録用紙Pに印字される画像Gを示す模式図である。
本印字処理では、同図に示すように、同一の画像Gを複数印字する所謂ラベル印刷を行うこととする。本印字処理では、説明の容易化のため、ある特定の画像Gの印字開始から、次の画像Gの印字開始までの時間を1秒と設定する。
【0030】
制御装置4は、図9に示す画像Gの画像データに基づいて、印字を実行する記録ヘッド6と、印字を実行しない記録ヘッド6とを特定する(ステップS2)。
本実施形態の制御装置4は、画像データに基づいて画像Gの印字領域にある記録ヘッド6(6a1,6b1,61a2,6b2,6a3)を、印字を実行する記録ヘッド6と特定し、画像Gの印字領域の外にある記録ヘッド6(6b3,6a4)を、印字を実行しない記録ヘッド6と特定する。
【0031】
次に、制御装置4は、印字を実行しない記録ヘッド6(6b3,6a4)についてするメンテナンス処理の種類を選択する(ステップS3:処理選択工程)。
制御装置4は、印字を実行しない記録ヘッド6について、その噴射特性を回復させるのに必要なインク消費量に応じて、フラッシング処理もしくは吸引処理を選択する。
【0032】
フラッシング処理が、1つのノズル17あたり8秒毎に72発(1発あたり例えば20ナノグラム)の吐出が必要だとすると、1つの記録ヘッド6のノズル数は180×6列あるので、印字時間が5000秒であれば、そのインク消費量は、5000÷8×72×20×180×6=0.972(g)となる。印字時間が10000秒であれば、そのインク消費量は、その2倍の1.944(g)となる。
【0033】
フラッシング処理しない場合、吸引処理の吸引量(インク消費量)は、図10に示す吸引処理に関する印字時間と吸引量との相関関係に基づく。
図10によれば、印字時間が5000秒である場合、5000秒(s)は1.39時間(h)であるので、その印字時間あたりのインク吸引量は0.8gとなる。また、印字時間が10000秒である場合、10000秒は2.78時間であるので、その印字時間あたりのインク吸引量は2.5gとなる。
【0034】
したがって、印字時間が5000秒であれば、フラッシング処理した場合のインク消費量は0.972(g)になるのに対し、吸引処理した場合のインク消費量は0.8(g)になるので、ステップS3において制御装置4は、インク消費量が少ない吸引処理を、印字を実行しない記録ヘッド6のメンテナンス処理として選択する。
また、印字時間が10000秒であれば、フラッシング処理した場合のインク消費量は1.944(g)になるのに対し、吸引処理した場合のインク消費量は2.5(g)になるので、ステップS3において制御装置4は、インク消費量が少ないフラッシング処理を、印字を実行しない記録ヘッド6のメンテナンス処理として選択する。
【0035】
次に、制御装置4は、フラッシング処理を行う定期タイマーをスタートさせる(ステップS4)。そして、制御装置4は、記録ヘッド6による画像データに基づく画像Gの記録用紙Pへの印字を開始させる(ステップS5)。
【0036】
次に、制御装置4は、タイマーが計時する時間が7秒より大きい値、すなわち8秒に達したか否かを判定する(ステップS6)。制御装置4は、タイマーの計時が8秒に達していないときは、印字を続行させる。一方、制御装置4は、タイマーの計時が8秒に達したときは、ノズル17におけるインク増粘が懸念されるため、現在印字している画像Gの印字終了後(本実施形態では画像Gの8枚目終了後)、フラッシング処理をする記録ヘッド6(印字を実行する記録ヘッド6、ステップS3でフラッシング処理が選択された印字を実行しない記録ヘッド6)について、1つのノズル17から72発の予備噴射をさせるフラッシング処理を実行させる(ステップS7)。
【0037】
次に、制御装置4は、フラッシング処理を行う定期タイマーをゼロにリセットして計時をリスタートさせる(ステップS8)。そして、制御装置4は、印字する画像Gがあるか否かを判定する(ステップS9)。制御装置4は、印字する画像Gが所定数に達していない場合は、ステップS5に戻り、記録ヘッド6による画像データに基づく画像Gの記録用紙Pへの印字を開始させる。一方、制御装置4は、印字する画像Gが所定数に達したときは、印字ジョブを終了させる。
【0038】
印字ジョブ終了後、制御装置4は、フラッシング処理をしていない記録ヘッド6があるか否かを判定する(ステップS10)。
ステップS3において、印字を実行しない記録ヘッド6のメンテナンス処理が吸引処理と選択されている場合には、ステップS11に移行し、制御装置4は、その記録ヘッド6のみ吸引処理を実行させる。一方、制御装置4は、印字を実行しない記録ヘッド6のメンテナンス処理がフラッシング処理と選択されている場合は、ステップS11に移行せずにメンテナンスジョブを終了させる。
【0039】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクを噴射する複数の記録ヘッド6を用いて記録用紙Pに所定の画像データに基づく印字を行うプリンター1であって、上記複数の記録ヘッド6のうち上記印字を実行しない記録ヘッド6について、その噴射特性を回復させるのに必要な上記インクの消費量に応じて、該記録ヘッド6から上記インクを予備噴射させるフラッシング処理あるいは該記録ヘッド6から上記インクを吸引する吸引処理の実行を選択する制御装置4を有するという構成を採用することによって、所定の画像データに基づいて印字を行う際に、複数の記録ヘッド6のうち印字を実行しない記録ヘッド6がある場合、メンテナンス処理において、その記録ヘッド6については、その噴射特性を回復させるのに必要なインクの消費量に応じて、フラッシング処理あるいは吸引処理を選択することにより、印字処理以外で消費されるインクを低減することができる。このため、本実施形態によれば、ランニングコストを低減できるプリンター1が得られる。
【0040】
ところで、本実施形態におけるフラッシング処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係と、吸引処理に関する印字時間とインク消費量との相関関係とは、図11のように示される。
上述した本実施形態によれば、フラッシング処理におけるインク消費量が0.8(g)となるのは、4115秒(1.14(h))のときであり、また、そのインク消費量が2.5(g)となるのは、12860秒(3.57(h))のときであり、また、そのインク消費量が4(g)となるのは、20576秒(5.72(h))のときである。
したがって、印字を実行しない記録ヘッド6についてインク消費量の少ない処理モードは、印字時間あたりのインク消費量をそれぞれの処理で比較することで、図12のように示される。図12によれば、印字時間に基づいてメンテナンス処理を選択できるので、制御装置4は、図12に示す相関関係を保持するテーブルデータを予め記憶装置3に記録させてステップS3における処理選択を行う構成であってもよい。
【0041】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
例えば、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体を含む。
【0043】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…プリンター(流体噴射装置)、4…制御装置、6…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、G…画像、P…記録用紙(媒体)、S3…ステップ(処理選択工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する複数の流体噴射ヘッドを用いて媒体に所定の画像データに基づく印字を行う流体噴射装置であって、
前記複数の流体噴射ヘッドのうち前記印字を実行しない流体噴射ヘッドについて、その噴射特性を回復させるのに必要な前記流体の消費量に応じて、該流体噴射ヘッドから前記流体を予備噴射させる予備噴射処理あるいは該流体噴射ヘッドから前記流体を吸引する吸引処理の実行を選択する制御装置を有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記予備噴射処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係と、前記吸引処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係とに基づいて、前記予備噴射処理あるいは前記吸引処理の実行を選択することを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記予備噴射処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係と、前記吸引処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータを有し、該テーブルデータに基づいて前記予備噴射処理あるいは前記吸引処理の実行を選択することを特徴とする請求項2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
流体を噴射する複数の流体噴射ヘッドを用いて媒体に所定の画像データに基づく印字を行う流体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記複数の流体噴射ヘッドのうち前記印字を実行しない流体噴射ヘッドについて、その噴射特性を回復させるのに必要な前記流体の消費量に応じて、該流体噴射ヘッドから前記流体を予備噴射させる予備噴射処理あるいは該流体噴射ヘッドから前記流体を吸引する吸引処理の実行を選択する処理選択工程を有することを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
前記処理選択工程では、前記予備噴射処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係と、前記吸引処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係とに基づいて、前記予備噴射処理あるいは前記吸引処理の実行を選択することを特徴とする請求項4に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記処理選択工程では、前記予備噴射処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係と、前記吸引処理に関する前記印字の時間と前記消費量との相関関係とを予め保持したテーブルデータに基づいて、前記予備噴射処理あるいは前記吸引処理の実行を選択することを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−178022(P2011−178022A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44235(P2010−44235)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】