説明

流体噴射装置

【課題】クリーニング動作後にキャップ内に残った流体を完全に吸引可能とする。
【解決手段】噴射ノズルからの流体を受ける流体受け部には、流体を受ける凹部と、凹部内の流体を吸引するための開口部が設けられ、開口部には、吸引ポンプが接続されている。更に、吸引ポンプからの負圧を受けて、凹部内を開口部の方向に引き込まれることで、吸引ポンプが凹部内の流体を吸引する動作を補助する吸引動作補助部材が設けられている。こうすれば吸引ポンプを作動させて吸引動作補助部材を凹部内に引き込むことにより、凹部内に付着した流体を、より確実に吸引することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンタでは、微細な噴射ノズルから、正確な分量のインクを正確な位置に噴射することによって、高画質の画像を印刷することが可能である。また、この技術を利用して、インクの代わりに各種の流体を基板に向けて噴射すれば、電極や、センサ、バイオチップなどを製造することも可能である。
【0003】
このような技術では、インクなどの流体を、正確な位置に、正確な分量だけ噴射することを可能とするために、専用の噴射ヘッドが用いられる。また、噴射ヘッド内に供給されたインクなどの流体は、時間とともに水分が蒸発あるいは成分が揮発して粘度が増加してしまう。粘度が増加した状態では、噴射ヘッド内の流体を正確な位置に正確な分量で噴射することができないので、流体を噴射しない間は噴射ノズルをキャップで覆うことにより、流体の増粘などを抑制する。もっとも、キャップで覆っていても、長い間には増粘してしまうので、このような場合には、吸引ポンプを用いてキャップ内を減圧し、噴射ヘッド内の増粘した流体を吸い出す動作(クリーニング動作)が行われる。
【0004】
また、吸引ポンプが吸い出せずにキャップ内に残った流体は、キャップ内に付着したままにしておくと、やがて乾燥する。そして、このようなキャップで噴射ノズルを覆うと、乾燥した流体が噴射ノズル内の流体から水分などを奪うために、却って噴射ヘッド内の増粘を促進してしまう。そこで、クリーニング動作後は、キャップ内に外気を導入しながら空吸引を行うことにより、通路に付着した流体を外気と一緒に吸い出す技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−270419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案されている技術では、キャップ内に付着した流体を十分に吸い出すことができないという問題があった。その結果、キャップ内に残った流体が乾燥して固化し、吸引ポンプとの接続孔を塞いでしまうという問題があった。また、インクジェットプリンタには、噴射ヘッド内の流体の増粘を防止するために、フラッシング受けに向かって、定期的に流体を噴射する動作(フラッシング動作)を行う。フラッシング受けに噴射された流体をそのままにしておくと、乾燥した流体が堆積して、やがて噴射ヘッドに接触してしまう問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、キャップやフラッシング受けなどの流体受け部内に残った流体を、完全に吸い出すことが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドからの流体を受ける凹部が形成された流体受け部と、
前記凹部内に設けられた開口部に接続されるとともに、該凹部内の流体を吸引する吸引ポンプと、
前記吸引ポンプからの負圧を受けて、前記凹部内を前記開口部の方向に引き込まれることにより、該吸引ポンプが該凹部内の流体を吸引する動作を補助する吸引動作補助部材と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の流体噴射装置においては、凹部が設けられた流体受け部によって、噴射ノズルからの流体を受けることが可能である。また、凹部には開口部が設けられており、凹部内に溜まった流体を開口部から吸引することも可能である。もっとも、凹部内に溜まった流体は開口部から吸引することができても、凹部内に付着した流体を吸引することは難しい。そこで、吸引ポンプからの負圧によって凹部内を開口部の方向に引き込まれることで、凹部内の流体が吸引ポンプに吸引され易くする吸引動作補助部材を設けておく。
【0010】
こうすれば、吸引ポンプを作動させて吸引動作補助部材を引き込むことにより、凹部内の流体を、より確実に吸引することが可能となる。その結果、キャップの凹部内で流体が固化して開口部を塞いだり、キャップの凹部を噴射ヘッドに当接した時に、噴射ヘッド内の流体の増粘を促進してしまうことを回避することが可能となる。また、フラッシング受けの凹部内で固化した流体が堆積して、噴射ヘッドに接触してしまう事態も回避することが可能となる。
【0011】
また、このような本発明の流体噴射装置においては、次のようにしても良い。先ず、噴射ヘッドとは異なる位置に吸引動作補助部材を設けるとともに、この吸引動作補助部材に流体受け部が当接されると、流体受け部の凹部と吸引動作補助部材との間に閉空間が形成されるようにしておく。そして、このようにして閉空間を形成した状態で吸引ポンプを作動させると、吸引ポンプの負圧によって吸引動作補助部材が変形して引き込まれ、閉空間の容積を減少させることで、吸引ポンプが流体を吸引する動作を補助するようにしてもよい。
【0012】
こうすれば、閉空間の容積が減少するに従って、凹部内に付着した流体が開口部の周辺に集められて、最終的に開口部から吸引されるので、凹部内に付着した流体を、より確実に吸引することが可能となる。その結果、キャップの凹部内で流体が固化して開口部を塞いだり、キャップの凹部を噴射ヘッドに当接した時に、噴射ヘッド内の流体の増粘を促進してしまうことを回避することが可能となる。また、フラッシング受けの凹部内で固化した流体が堆積して、噴射ヘッドに接触してしまう事態も回避することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、流体を吸収する流体吸収部材を凹部内に設けておき、吸引動作補助部材を引き込むことによって、流体吸収部材を圧縮するようにしても良い。
【0014】
こうすれば、流体吸収部材に吸収されている流体を絞り出して吸引ポンプで吸引することができる。このため、流体吸収部材に吸収された流体が、流体吸収部材の内部で増粘したり、固化したり、更には流体吸収部材を目詰まりさせることを回避することが可能となる。
【0015】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、次のようにしても良い。先ず、吸引動作補助部材を噴射ヘッドに隣接して設けておく。そして、流体受け部と噴射ヘッドとを当接させる第1の駆動手段と、流体受け部と噴射ヘッドとの相対位置を変更させる第2の駆動手段とを用いて、吸引動作補助部材と流体受け部とを当接するようにしても良い。
【0016】
こうすれば、流体噴射装置に設けられた第1の駆動手段および第2の駆動手段を利用して、吸引動作補助部材と流体受け部とを当接させることができる。
【0017】
また、このような本発明の流体噴射装置においては、伸縮可能な気密膜によって、吸引動作補助部材を形成する。そして、流体受け部の凹部を当接して閉空間を形成した状態で吸引ポンプを作動させると、気密膜が変形して凹部内に引き込まれるようにしてもよい。
【0018】
こうすれば、流体受け部の凹部の形状に合わせて気密膜が伸縮して変形し、凹部に付着した流体を押し出すことができるので、凹部内の流体をより完全に吸引して排出することが可能となる。
【0019】
また、気密膜とともに凹部内の流体を吸引する本発明の流体噴射装置においては、流体受け部の凹部を、次のような形状としても良い。すなわち、凹部を構成する側面あるいは底面が交わる部分を、曲面形状に形成しておいてもよい。
【0020】
こうすれば、気密膜を吸引したときに、凹部の側面あるいは底面が交わる部分に沿って気密膜が変形し易くなるので、この部分に付着した流体をより完全に吸引することが可能となる。
【0021】
あるいは、上述した本発明の流体噴射装置においては、吸引動作補助部材に、中央部と周辺部とを設けるようにしてもよい。ここで、中央部とは、流体受け部が当接された時に、流体受け部の凹部との間で閉空間を形成する部分である。また、周辺部とは、中央部周囲に設けられて、流体受け部が当接する部分である。そして、周辺部に対して中央部を摺動可能に構成しておき、閉空間を形成した状態で吸引ポンプを作動すると、中央部が凹部内に引き込まれるようにしてもよい。
【0022】
こうすれば、中央部が凹部内に引き込まれる際に、凹部に付着した流体を押しのけるので、押しのけられた流体が凹部内の開口部に集められる。その結果、凹部内の流体をより確実に吸引することが可能となる。
【0023】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、次のようにしてもよい。先ず、凹部内には、流体を吸収する流体吸収部材と、吸引動作補助部材と、引込凹部とを設けておく。ここで、引込凹部とは、吸引動作補助部材が引き込まれる凹部である。また、吸引動作補助部材は、凹部の内壁面との間で流体吸収部材を挟んだ状態で設けておく。更に、吸引ポンプは、凹部内に設けられた開口部だけでなく、引込凹部にも接続しておく。そして、吸引ポンプを作動させて、その負圧によって吸引動作補助部材を引込凹部に引き込むことにより、吸引動作補助部材で流体吸収部材を圧縮するようにしても良い。
【0024】
こうすれば、流体受け部の凹部内に、吸引動作補助部材を設けておくことができるので、流体受け部と吸引動作補助部材とを当接させなくても、吸引ポンプを作動させるだけで、流体吸収部材を圧縮することができる。その結果、内部に吸収されている流体を絞り出して、吸引ポンプで吸引することが可能となる。また、こうして、流体吸収部材から流体を絞り出して吸引することができるので、流体吸収部材に吸収された流体が、流体吸収部材の内部で増粘したり、固化したり、更には流体吸収部材を目詰まりさせることを回避することが可能となる。
【0025】
また、上述したように、凹部内に吸引動作補助部材を備えた本発明の流体噴射装置においては、次のようにしても良い。先ず、流体受け部と噴射ヘッドとを当接させると、流体受け部の凹部と噴射ヘッドとの間に閉空間が形成されるようにしておく。そして、吸引ポンプを作動させた時に、引込凹部と凹部との間に生じる圧力差によって、吸引動作補助部材を引込凹部に引き込むようにしてもよい。
【0026】
流体受け部と噴射ヘッドとを当接させると、凹部には閉空間が形成される。従って、その状態で吸引ポンプを作動させると、吸引ポンプの負圧は、凹部にも引込凹部にも同じようにかかる。その結果、引込凹部と凹部との間に圧力差は発生せず、吸引動作補助部材は引込凹部に引き込まれない。一方、流体受け部と噴射ヘッドとを当接させない状態では、凹部には閉空間は形成されていないので、吸引ポンプを作動させても凹部には負圧がかからない。その結果、引込凹部と凹部との間に圧力差が発生し、吸引動作補助部材を引込凹部に引き込むことができる。従って、流体受け部と噴射ヘッドとを当接させるか否かによって、流体吸収部材から流体を絞り出すか否かを切り換えることが可能となる。
【0027】
更に、凹部内に吸引動作補助部材を備える本発明の流体噴射装置においては、流体吸収部材を、たとえばスポンジなどの弾性に富んだ材料で形成するなどして、吸引動作補助部材からの圧縮力が除かれると、流体吸収部材が自らの復元力によって体積を復元するようにしてもよい。
【0028】
こうすれば、吸引ポンプの作動を停止させるだけで、流体吸収部材が自らの復元力で元の状態に戻って、再び流体を吸収可能となるので、流体噴射装置の構造が複雑化することがない。
【0029】
あるいは、流体吸収部材に弾性を持たせる代わりに、次のようにしても良い。先ず、弾性に富んだ材料で形成されるとともに、流体吸収部材を圧縮する力を受けて変形する復元部材を設けておく。このような復元部材としては、たとえば各種のバネ(コイルバネ、板バネ、空気バネなど)や、弾性に富んだ各種のゴム部材などを用いることができる。そして、吸引動作補助部材からの圧縮力が除かれると、復元部材が元の形状に戻ろうとする力によって、流体吸収部材の体積を復元させるようにしてもよい。
【0030】
こうすれば、流体吸収部材には弾性を付与する必要が無くなるので、その他の特性(たとえば、流体を吸収する特性や、吸収した流体を安定して保持する特性など)を重視して流体吸収部材を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ラインプリンタを例に用いて第1実施例の流体噴射装置の大まかな構造を示した説明図である。
【図2】第1実施例のラインプリンタの詳細な構造を示す説明図である。
【図3】第1実施例のヘッドユニットの底面の形状を示す説明図である。
【図4】ラインプリンタがフラッシングを行う様子を示した説明図である。
【図5】ラインプリンタがクリーニングを行う様子を示した説明図である。
【図6】クリーニング後の凹部の内部を概念的に示した説明図である。
【図7】第1実施例のヘッドユニットの底面に設けられたインク除去部の断面構造を示した説明図である。
【図8】第1実施例のインク除去部を用いて凹部内に付着したインクを除去する様子を示した説明図である。
【図9】第1実施例の第1の変形例において凹部内のインクを除去する様子を示した説明図である。
【図10】凹部の形状を工夫することで凹部内のインクをより完全に除去可能な第1実施例の第2の変形例を示した説明図である。
【図11】第1実施例の第3の変形例に設けられたインク除去部の断面構造を示した説明図である。
【図12】第1実施例の第3の変形例のインク除去部を用いて凹部内に付着したインクを除去する様子を示した説明図である。
【図13】第2実施例のヘッドユニットの底面の形状を示す説明図である。
【図14】第2実施例のキャップ部の大まかな形状を示した斜視図である。
【図15】キャップ部の詳細な構造を示した説明図である。
【図16】第2実施例のラインプリンタがクリーニングによって噴射ノズルからインクを吸引する様子を示した説明図である。
【図17】第2実施例のラインプリンタがキャップ部をヘッドユニットに当接させない状態で空吸引を行う様子を示した説明図である。
【図18】インク除去補助部材を復元させるバネ部材を備えた第2実施例の第1の変形例を示した説明図である。
【図19】負圧通路に開閉弁が設けられた第2実施例の第2の変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.装置構成:
A−2.メンテナンス動作:
A−3.第1の変形例:
A−4.第2の変形例:
A−5.第3の変形例:
B.第2実施例:
B−1.装置構成:
B−2.インク吸収部材の機能維持動作:
B−3.第1の変形例:
B−4.第2の変形例:
【0033】
A.第1実施例 :
A−1.装置構成 :
図1は、ラインプリンタ1を例に用いて第1実施例の流体噴射装置の大まかな構造を示した説明図である。図示されているように、第1実施例のラインプリンタ1は、大まかには箱型の外形形状をしており、上面には、モニタパネル2と、ユーザーが操作するための操作パネル3と、ラインプリンタ1の各種メンテナンスを行うためのメンテナンス扉4が設けられている。また、ラインプリンタ1の前面には、印刷用紙を装填する際に開ける給紙扉5が設けられており、更に、向かって右側面には、印刷された印刷用紙が排出される排紙口6が設けられている。
【0034】
ラインプリンタ1の内部には、各種の機能を実行する複数のユニットあるいは部品が搭載されている。先ず、ラインプリンタ1のほぼ中央の位置には、印刷用紙にインクを噴射するヘッドユニット30が設けられており、ヘッドユニット30の下方には電源ユニット70が設けられている。ヘッドユニット30の内部には、インクを収納したインクカートリッジが装着されており、ヘッドユニット30の底面側からインクを噴射して印刷用紙上に画像を印刷することが可能となっている。
【0035】
図1の紙面上で、ヘッドユニット30の左下の位置には、印刷用紙が装填される給紙カセット10が設けられており、給紙カセット10の右端の上面に接する位置に、給紙ローラ20が設けられている。更に、給紙ローラ20の奥側には給紙モータ22が接続されている。給紙モータ22を駆動して給紙ローラ20を回転させると、給紙カセット10から印刷用紙が1枚、ヘッドユニット30に向かって搬送され、ヘッドユニット30の下面を通過する際に、インクが噴射されて画像が印刷される。図1では、印刷用紙の搬送経路が太い破線で示されている。印刷用紙は、画像が印刷された後は、一旦、下方に搬送された後、排紙口6から排出される。
【0036】
紙面上で、ヘッドユニット30の右側の領域は、空きスペースとなっており、この空きスペースの下方には、キャップ部40や、吸引ポンプ50、廃液タンク52などが設けられている。また、モニタパネル2や操作パネル3が設けられている部分の直ぐ下の位置には、ラインプリンタ1の各種の動きを制御する制御ユニット80が搭載されている。
【0037】
図2は、第1実施例のラインプリンタ1の詳細な構造を示す説明図である。図2では、ラインプリンタ1を正面側から見た時の内部の様子が概念的に示されている。以下では、図2を参照しながら、ラインプリンタ1に搭載された各ユニットおよび部品の動作について説明する。先ず、給紙カセット10には、複数枚の印刷用紙が装填される。給紙カセット10に装填された印刷用紙はバネ12によって押し上げられて、上方に設けられた給紙ローラ20に押し付けられている。給紙ローラ20は、金属製の細長い円柱を長さ方向に半分に割って形成した略半円形断面の細長い部材であり、円周部分を構成する側面はゴム材料によって形成されている。この給紙ローラ20の一端には給紙モータ22が接続されており、給紙モータ22によって給紙ローラ20を回転させることによって、給紙カセット10から印刷用紙を1枚だけ、ヘッドユニット30に向かって送り出す。
【0038】
給紙ローラ20とヘッドユニット30との間には、複数のガイドローラ26が設けられている。ガイドローラ26は、図示しないモータによって駆動されて回転することにより、印刷用紙をガイドしながら、ヘッドユニット30へと搬送する。
【0039】
ヘッドユニット30は、印刷用紙の搬送経路上に、印刷用紙を跨ぐような状態で設けられており、ヘッドユニット30の底面側(すなわち、印刷用紙に面する側)には、インクを噴射する複数の噴射ヘッドが設けられている(図3を参照)。また、ヘッドユニット30の内部には、シアンインク(Cインク)、マゼンタインク(Mインク)、イエロインク(Yインク)、黒インク(Kインク)の4種類のインクを収容したインクカートリッジが搭載されている。これらインクカートリッジ内に収容されたインクが、ヘッドユニット30の下面側に設けられた複数の噴射ヘッドから噴射される。
【0040】
図3は、第1実施例のヘッドユニット30の底面の形状を示す説明図である。図3(a)には、ヘッドユニット30を底面側(印刷用紙に面した側)から見たときの様子が示されている。また、図3(b)には、図3(a)中で矢視Pと示した方向から見たヘッドユニット30の底面の形状が示されている。図3(a)に示されるように、第1実施例のヘッドユニット30の底面には、略矩形形状をしたノズルユニット32が、6つずつを一組として4組(合計24個)設けられている。また、各組の6つのノズルユニット32は、3つずつ二列に並べられるとともに、互いの列のノズルユニット32が互い違いとなるように配列されている。更に、各ノズルユニット32には、インクを噴射する複数の噴射ノズルが列状に設けられている。このようなノズルユニット32が互い違いに配列されることにより、6つのノズルユニット32が一体となって1つの噴射ヘッド34を構成している。上述したように、第1実施例のヘッドユニット30には、24個のノズルユニット32が設けられているから、結局、4つの噴射ヘッド34が設けられており、各噴射ヘッド34が、Yインクを噴射する噴射ヘッド34y、Mインクを噴射する噴射ヘッド34m、Cインクを噴射する噴射ヘッド34c、Kインクを噴射する噴射ヘッド34kとなっている。
【0041】
また、図2に示されるように、ヘッドユニット30の下方には、ヘッドユニット30の底面に向かい合うようにして、プラテン24と呼ばれる略平坦な部分が設けられている。給紙ローラ20およびガイドローラ26によって搬送されてきた印刷用紙は、プラテン24の上に供給され、プラテン24の上を搬送されながら、ヘッドユニット30の底面の噴射ヘッドからインクが噴射されて、画像が印刷される。こうして画像が印刷された印刷用紙は、プラテン24の下流側に設けられたガイドローラ26によって、進行方向を、下方に曲げられた後、廃液タンク52の下側を通って、排紙口6からラインプリンタ1の外部に排出される。
【0042】
また、前述したように、図2の紙面上で、ヘッドユニット30の右側(印刷用紙の搬送方向から見て下流側)は空きスペースとなっており、この空きスペースの下方には、キャップ部40が設けられている。キャップ部40の上面には、ヘッドユニット30の底面に設けられたそれぞれの噴射ヘッドに対応する位置に、インクを受ける凹部42が設けられている。そして、図2中に斜線を付した矢印で示したように、ヘッドユニット30をスライドさせて、キャップ部40の上方まで移動させることによって、以下に説明するメンテナンス動作を行う。
【0043】
A−2.メンテナンス動作 :
メンテナンス動作とは、噴射ヘッド34内のインクが増粘すると適切にインクを噴射することができなくなるため、これを回避するために行われる動作である。メンテナンス動作としては、「フラッシング」と呼ばれるメンテナンス動作と、「クリーニング」と呼ばれるメンテナンス動作と、「キャッピング」と呼ばれるメンテナンス動作の3つが代表的である。以下では、これらの動作について簡単に説明する。
【0044】
図4は、第1実施例のラインプリンタ1が、フラッシングを行う様子を示した説明図である。フラッシング時には、先ず始めに、ヘッドユニット30をキャップ部40の上まで移動させる。図4(a)には、アクチュエータ30mを用いて、ヘッドユニット30をキャップ部40に向かって移動させる様子が示されている。そして、図4(b)に示すように、ヘッドユニット30をキャップ部40の上まで移動させた状態で、ヘッドユニット30の各噴射ヘッド34から、キャップ部40に設けられた各凹部42に向かってインクを噴射する。噴射ヘッド34内のインクの増粘が軽微な場合は、このようにフラッシングを行って、増粘したインクを凹部42内に噴射することで、噴射した分量に相当する新たなインクが噴射ヘッド34内に供給されて、噴射ヘッド34内のインクの粘度を正常範囲に回復させることができる。フラッシング後は、ヘッドユニット30を再びプラテン24の上に移動させて、印刷を再開する。
【0045】
図5は、第1実施例のラインプリンタ1が、クリーニングを行う様子を示した説明図である。クリーニング時にも、フラッシング時と同様に、先ず初めは、ヘッドユニット30をキャップ部40の上まで移動させる(図4(a)参照)。続いて、図5(a)に示すように、アクチュエータ40mを用いてキャップ部40を上昇させることにより、ヘッドユニット30の底面に当接させる。こうすることにより、キャップ部40に設けられたそれぞれの凹部42が、対応する噴射ヘッド34の周囲に密閉空間を形成する。この状態で吸引ポンプ50を作動させると、凹部42が押し付けられて形成された密閉空間が負圧となり、噴射ノズルからインクが強制的に吸い出されることになる。吸い出されたインクは、チューブ44を介して吸引ポンプ50に流入し、廃液タンク52へと排出される。
【0046】
クリーニングでは、噴射ヘッド34内のインクを強制的に吸い出している。このため、噴射ヘッド34内のインクの増粘が、フラッシングでは回復できない程度まで進んだ場合でも、噴射ヘッド34内のインクの粘度を正常範囲に回復させることができる。所定量のインクを吸い出したら、図5(b)に示すように、キャップ部40を元の位置まで下降させた後、ヘッドユニット30を再びプラテン24の上に移動させる。こうすれば、印刷を再開することができる。尚、噴射ノズルからインクを吸引した直後は凹部42がインクで満たされた状態となっている。そこで、キャップ部40を降下させる際には、一旦、図示しない大気開放弁を開いた状態で、凹部42からインクを吸い出す空吸引を行ってから、キャップ部40を降下させても良い。
【0047】
また、噴射ノズルのインクは外気に曝されているから、印刷していない間も少しずつ水分が蒸発して、インクが増粘していく。そこで、画像を印刷していない間は、図5(a)に示すように、ヘッドユニット30の底面にキャップ部40を当接させておくメンテナンス動作(キャッピング)が行われる。キャッピングしておけば、噴射ノズルの部分からインクの水分が蒸発することを抑制して、インクの増粘を回避することができる。
【0048】
図6は、クリーニング後の凹部42の内部を概念的に示した説明図である。上述したように、フラッシング中は凹部42に向かってインクが噴射され、また、クリーニング中は、凹部42がインクで満たされた状態となっている。このため、クリーニングを行った後は、凹部42の内側にインクが付着した状態となっている。また、フラッシングで噴射したインク量がそれほど多くない場合、あるいはフラッシング後に吸引ポンプ50を作動させた場合にも、同様な状態となっている。そして、このように付着したインクは、いくら吸引ポンプ50を作動させても吸引することは困難である。図6中に破線で示した矢印は、吸引ポンプ50を作動させることで、凹部42に設けられた開口部42pから、チューブ44を介して空気が吸い出される様子を表している。
【0049】
図6に示されるように、吸引ポンプ50を作動させても、凹部42に付着したインクの吸引は困難であるが、だからといって、凹部42の内側に付着したインクを、そのまま放置しておくと、付着したインクが凹部42内で乾燥する。その結果、いずれは、吸引ポンプとの接続孔を塞いだり、乾燥した流体が堆積して噴射ヘッドに接触したりといった問題が発生する。また、乾燥したインクが付着した凹部42で噴射ヘッド34を覆うと、乾燥したインクが噴射ノズル内のインクから水分を奪うため、噴射ヘッド34内のインクの増粘を促進してしまう。そこで、図3に示されるように、第1実施例のラインプリンタ1では、ヘッドユニット30の底面に、凹部42内に付着したインクを除去するためのインク除去部60が設けられている。
【0050】
図7は、第1実施例のヘッドユニット30の底面に設けられたインク除去部60の断面構造を示した説明図である。図3を用いて前述したように、インク除去部60は、底面側(印刷用紙側)から見ると、噴射ヘッド34と同じ長さを有する矩形形状となっているが、横方向からの断面構造は、細長い空気室61の底面に、空気を通さず伸縮性に富んだ材料で形成された気密性の隔膜65が張られた様な構造となっている。また、空気室61には、小さな空気穴62が設けられており、外気の出入りが可能となっている。更に、インク除去部60は、ヘッドユニット30の底面に設けられたノズルユニット32よりも、僅かに突出した状態で設けられている。
【0051】
図8は、第1実施例のインク除去部60を用いて、凹部42内に付着したインクを除去する様子を示した説明図である。凹部42内に付着したインクを除去するに際しては、先ず始めに、インク除去部60を凹部42の上まで移動させた後、キャップ部40を上昇させることにより、凹部42をインク除去部60の隔膜65に押し付ける。図8(a)には、インク除去部60の隔膜65に凹部42が押し付けられた様子が示されている。インク除去部60の空気室61の大きさは、凹部42が上方に開口している大きさと同じ大きさがあれば足りるが、インク除去部60の位置合わせを容易にするために、空気室61の大きさを凹部42よりも一回り程度、大きくしておくことが望ましい。また、インク除去部60は、ノズルユニット32よりも僅かに突出した状態で設けられているので、インク除去部60に凹部42を押し付けたときに、他の凹部42がノズルユニット32に接して異なる種類のインクが混じるといった問題が生じることはない。
【0052】
凹部42をインク除去部60の隔膜65に押し付けたら、今度は、吸引ポンプ50を作動させて、凹部42内の開口部42pから空気を吸い出してやる。隔膜65は伸縮性に富んだ材料で形成されており、また、空気室61は空気穴62によって外部と連通しているので、凹部42の空気が吸い出されるにつれて隔膜65が凹部42側に引き込まれる。その際に、凹部42の内側に付着したインクが隔膜65によって押し出され、その結果、チューブ44に接続された開口部42pの周囲に集められて、最終的に吸引ポンプ50によって吸引されることになる。図8(b)には、凹部42の内側に付着したインクが、凹部42内に引き込まれる隔膜65によって押し出され、吸引ポンプ50に吸引される様子が示されている。こうすれば、凹部42の内側に付着したインクを、ほぼ完全に吸い出すことが可能となる。その結果、凹部42内に付着したインクが乾燥して、種々の問題を発生させることがなく、噴射ヘッド34内のインクを適切な性状に保つことにより、高画質な画像を印刷することが可能となる。
【0053】
A−3.第1の変形例 :
上述した第1実施例では、キャップ部40の凹部42内には、チューブ44を介して吸引ポンプ50に接続された開口部42pが形成されているだけであるものとして説明した。しかし、凹部42に、インクを吸収するインク吸収部材68を設けておいても良い。
【0054】
図9は、凹部42内にインク吸収部材68が設けられた第1実施例の第1の変形例において、凹部42内のインクを除去する様子を示した説明図である。図8を用いて前述した第1実施例に対して、凹部42内にインク吸収部材68が設けられている点のみが異なっている。図9に示した第1の変形例においても、凹部42内に付着したインクを除去するに際しては、先ず始めに、インク除去部60を凹部42の上まで移動させた後、キャップ部40を上昇させることにより、凹部42をインク除去部60の隔膜65に押し付ける(図9(a)参照)。続いて、吸引ポンプ50を作動させて、凹部42内の開口部42pから空気を吸い出してやる。すると、隔膜65が凹部42側に引き込まれて、凹部42の内側に付着したインクを押し出すとともに、凹部42内に設けられたインク吸収部材68を圧縮する。その結果、インク吸収部材68内に吸収されていたインクが絞り出され、開口部42pの周囲に集められて、最終的に吸引ポンプ50によって吸引される。図9(b)には、凹部42内に引き込まれた隔膜65が、インク吸収部材68を圧縮する様子が示されている。
【0055】
上述した第1実施例の第1の変形例によれば、凹部42の内側に付着したインクのみならず、インク吸収部材68に吸収されているインクも、開口部42pから吸い出すことが可能となる。その結果、インク吸収部材68内に吸収されたインクが乾燥して、インク吸収部材68が目詰まりを起こすことを回避することができる。また、インク吸収部材68のインクが乾燥した状態でキャッピングを行ったために、噴射ヘッド34内のインクを増粘させてしまう事態も回避することが可能となる。
【0056】
A−4.第2の変形例 :
また、上述した第1実施例では、キャップ部40側の凹部42の形状を変更することで、凹部42内に付着したインクをより完全に吸引することも可能である。図10は、凹部42の形状を工夫することで凹部42内のインクをより完全に除去可能な第1実施例の第2の変形例を示した説明図である。例えば、図10(a)に示すように、凹部42の底面と、側面とが交わる角部43を、曲面形状に形成する。あるいは、凹部42の側面同士が交わる角部も曲面形状に形成しても良い。更には、図10(b)に示すように、吸引ポンプ50に接続されたチューブ44の開口部分の周囲に斜面45を形成して、開口部分が低くなるようにしてもよい。図10(c)には、凹部42がこのような形状となっている場合に、凹部42に付着したインクを除去する様子が示されている。
【0057】
凹部42の角部(底面と側面とが交わる角部、あるいは側面同士が交わる角部)を曲面形状にしておけば、隔膜65が沿い易くなるので、凹部42内に付着したインクを、隔膜65によってより完全に押し出すことができる。また、凹部42の底面にチューブ44が開口している部分の周囲に斜面を形成しておけば、隔膜65によって押し出されたインクを、チューブ44が開口している部分に集め易くなる。その結果、凹部42内に付着したインクをより完全に吸引することが可能となる。
【0058】
A−5.第3の変形例 :
以上に説明した第1実施例では、インク除去部60に設けられた隔膜65を吸引ポンプ50の負圧で引き込み、その際に、凹部42に付着したインクを隔膜65が押し出すことによって、インクを除去するものとして説明した。しかし、凹部42に付着したインクを押し出すことが可能であれば、引き込む対象は必ずしも隔膜65である必要はない。例えば、インク除去部60の一部に可動部を設けておき、その可動部を引き込むことによって、凹部42に付着したインクを押し出すようにしても良い。以下では、このような第2実施例について説明する。
【0059】
図11は、第1実施例の第3の変形例に設けられたインク除去部60の断面構造を示した説明図である。第3の変形例のインク除去部60では、空気室61内に摺動可能な状態で中央可動部67が設けられている点で、前述した第1実施例が大きく異なっているが、その他の点は、ほぼ同様である。また、図11に示されているように、空気室61には弱いバネが設けられており、中央可動部67は、通常状態では、ほぼ面位置まで空気室61側に引き込まれた状態となっている。
【0060】
図12は、第1実施例の第3の変形例のインク除去部60を用いて、凹部42内に付着したインクを除去する様子を示した説明図である。凹部42内に付着したインクを除去するに際しては、第3の変形例においても、先ず始めにインク除去部60を凹部42の上まで移動させ、キャップ部40を上昇させる。こうすることにより、凹部42を、インク除去部60の中央可動部67に当接する。図12(a)には、インク除去部60の中央可動部67に凹部42を押し付けた様子が示されている。
【0061】
次に、前述した第1実施例と同様に、吸引ポンプ50を作動させて、凹部42内の空気を吸引する。すると、中央可動部67の下側の凹部42は負圧となるが、上側の空気室61は大気圧のままなので、上下の圧力差によって中央可動部67が凹部42側に引き込まれる。その際に、凹部42の内側に付着したインクが中央可動部67によって押し出され、その結果、チューブ44に接続された開口部42pの周囲に集められて、最終的に吸引ポンプ50によって吸引されることになる。図12(b)には、凹部42の内側に付着したインクが、凹部42内に引き込まれる中央可動部67によって押し出され、吸引ポンプ50に吸引される様子が示されている。こうすれば、凹部42の内側に付着したインクを、ほぼ完全に吸い出すことが可能となる。
【0062】
以上に説明した第3の変形例のインク除去部60では、吸引ポンプ50の負圧によって中央可動部67を引き込んでいる。従って、中央可動部67の形状を凹部42の形状に合わせておけば、凹部42の角部に付着したインクも中央可動部67によって押し出すことができ、完全にインクを吸い出すことができる。また、中央可動部67が摺動するストロークを長くしておけば、深い凹部42であっても、内部に付着したインクを押し出して、完全に吸い出すことが可能となる。
【0063】
B.第2実施例 :
以上に説明した第1実施例および第1実施例の各種変形例では、インク除去部60が、キャップ部40ではなく、ヘッドユニット30に設けられているものとして説明した。しかし、キャップ部40にインク除去部60を設けるようにしても良い。以下では、このような第2実施例について説明する。
【0064】
B−1.装置構成 :
図13は、第2実施例のヘッドユニット130の底面の形状を示す説明図である。図示されるように、第2実施例のヘッドユニット130は、図3を用いて前述した第1実施例のヘッドユニット30に対して、インク除去部60が設けられていない点のみが異なっており、その他の点については同様である。
【0065】
図14は、第2実施例のキャップ部140の大まかな形状を示した斜視図である。図示されるように、第2実施例のキャップ部140は略矩形の板状の形状をしており、キャップ部140の上面には、ヘッドユニット130の底面に設けられたそれぞれの噴射ヘッドに対応する位置に、インクを受ける細長い凹部142が設けられている。図13に示したように、第2実施例のヘッドユニット130には、4つの噴射ヘッドが設けられており、このことに対応して、キャップ部140には4つの凹部142が設けられている。
【0066】
また、それぞれの凹部142内には、細長い略矩形形状に形成されたインク吸収部材68と、インク吸収部材68を押さえるインク除去補助部材160とが収納されている。インク吸収部材68は、不織布などの多孔性で且つ弾力性に富んだ材料によって形成されており、表面張力の作用によって凹部142内のインクを吸い込んで、内部に蓄えておくことが可能となっている。また、インク除去補助部材160は、硬質樹脂あるいは金属などによって形成された板状の部材である。板状のインク除去補助部材160には、大きな窓部160wが複数箇所に形成されており、部材の下面側(インク吸収部材68に接する側)には、略円柱形状をした小さなピストン160pが、複数箇所に突設されている。
【0067】
図15は、キャップ部140の詳細な構造を示した説明図である。図15(a)には、凹部142のほぼ中央の位置で長手方向に断面を取ることによって、キャップ部140の構造が示されている。また、図15(b)には、インク除去補助部材160およびインク吸収部材68を取り除いた状態で、凹部142内を上面視することにより、キャップ部140の構造が示されている。
【0068】
図15に示されるように、凹部142の底面には、底面を略円柱状に穿って形成した複数の引込凹部146が設けられており、それぞれの引込凹部146は、キャップ部140の内部に形成された負圧通路147を介して吸引ポンプ50に接続されている。図14を用いて前述したように、インク除去補助部材160の下面側には複数の小さなピストン160pが突設されているが、これらのピストン160pが、凹部142に設けられた引込凹部146に嵌合することにより、インク吸収部材68を挟み込んだ状態で、インク除去補助部材160が凹部142に組み付けられるようになっている。
【0069】
また、凹部142の底部には、インクを吸引するための開口部144が設けられており、開口部144も、キャップ部140の内部に設けられた吸引通路145を介して吸引ポンプ50に接続されている。尚、理解の便宜から、図15では、引込凹部146および引込凹部146に接続された負圧通路147については破線で表示し、開口部144および開口部144に接続された吸引通路145については実線で表示している。
【0070】
上述した第2実施例のラインプリンタ1においても、前述した第1実施例と同様に、フラッシングや、クリーニング、キャッピングなどの各種のメンテナンス動作を行うことで、噴射ヘッド34内のインクが増粘することを回避している。また、キャップ部140の凹部142内にはインク吸収部材68が設けられているので、フラッシング時に噴射されたインクが凹部142内から飛び散ることがない。また、キャッピング時には、インク吸収部材68内に吸収されたインクによって、凹部142内を適度な湿度に保つことで、噴射ヘッド34内のインクの増粘を抑制することが可能である。
【0071】
しかし、インク吸収部材68に吸収されたインクをそのままにしておくと、インク吸収部材68が目詰まりしてインクを吸収できなくなるばかりでなく、乾燥が進んでインクが固化すると、キャッピングすることによって、却って噴射ヘッド34内のインクの増粘を促進する虞もある。そこで、第2実施例のラインプリンタ1では、インク吸収部材68だけでなく、略平板形状のインク除去補助部材160を凹部142内に設けておき、空吸引を行うことによって、インク吸収部材68のインクを吸収する機能を維持することが可能となっている。以下では、この点について詳しく説明する。
【0072】
B−2.インク吸収部材の機能維持動作 :
説明の便宜から、先ず始めに、クリーニング時にインクを吸引している状態について説明し、その説明を踏まえて、第2実施例のラインプリンタ1が空吸引を行うことによって、インク吸収部材68の機能を維持する動作について説明する。
【0073】
図16は、第2実施例のラインプリンタ1が、クリーニングによって噴射ノズルからインクを吸引する様子を示した説明図である。図16では、1つの凹部142内の構造を簡略化して表示している。前述したように、凹部142の中にはインク吸収部材68が設けられ、インク吸収部材68の上には、略平板形状のインク除去補助部材160が設けられている。また、インク除去補助部材160の下面側に突設されたピストン160pは、凹部142の底面に設けられた引込凹部146に嵌合している。このような第2実施例のキャップ部140を、ヘッドユニット130の底面に当接させると、キャップ部140の凹部142とヘッドユニット130との間に、ノズルユニット32を内包する密閉空間が形成される。このような状態で、吸引ポンプ50を作動させると、吸引ポンプ50からの負圧が、吸引通路145を介して開口部144に伝達され、同時に負圧通路147を介して引込凹部146にも伝達される。
【0074】
インク吸収部材68は、不織布などの多孔性の材料で形成されていることから、開口部144が負圧になると、密閉空間も負圧となって、ノズルユニット32の噴射ノズルから強制的にインクが吸引されることになる。また、引込凹部146が負圧になっても、密閉空間も同様に負圧になっているので、インク除去補助部材160のピストン160pは、下面側(引込凹部146側)からも上面側(密閉空間側)からも同じ力で吸引されることになる。このため、クリーニング中は、インク除去補助部材160がピストン160pによって駆動されることはない。
【0075】
図17は、第2実施例のラインプリンタ1が、キャップ部140をヘッドユニット130に当接させない状態で、空吸引を行う様子を示した説明図である。キャップ部140をヘッドユニット130に当接させたままであっても、大気開放弁(図示は省略)を開いて凹部142内に空気を導入可能な状態で空吸引を行う場合でも、以下の説明は同様に適用することが可能である。
【0076】
図17に示したように、キャップ部140をヘッドユニット130から離した状態で、吸引ポンプ50を作動させると、吸引ポンプ50で発生した負圧が、吸引通路145および負圧通路147を介して、それぞれ開口部144および引込凹部146に伝達される。しかし、図16に示したクリーニング時とは異なり、空吸引の場合は、凹部142が密閉空間となっていないので、ピストン160pの上面側には負圧は作用せず、下面側にのみ負圧が作用する。その結果、ピストン160pは、上面側と下面側との差圧によって、インク吸収部材68を押し潰しながら、下方に移動する。このときに、インク吸収部材68内に吸収されていたインクが絞り出され、そして、開口部144から吸引通路145を経由して排出される。
【0077】
このように、第2実施例のラインプリンタ1では、空吸引を行う際に、インク吸収部材68内に吸収していたインクを絞り出して、開口部144から排出することができる。このため、インク吸収部材68内でインクが固化してしまい、キャッピング時に、噴射ノズル内のインクから水分を奪って、噴射ヘッド34内のインクの増粘を促進することを回避することができる。
【0078】
また、空吸引を終了して、吸引ポンプ50の作動を停止すると、ピストン160pにかかっていた差圧がなくなるから、インク吸収部材68は自身の弾性によって、インク除去補助部材160を押し上げながら、空吸引前の状態に復元する。そして、その後、再びフラッシング(あるいはクリーニング)を行って、インク吸収部材68にインクを吸収させれば、インク吸収部材68内には常に新しい(乾燥していない)インクを含ませておくことができる。このため、キャッピングした時に、噴射ノズルの周囲に形成された密閉空間内の湿度を保って、噴射ノズルの部分のインクが増粘することを回避することが可能となる。
【0079】
更に、インク吸収部材68を押し潰すための主な機構は、ピストン160pを備えたインク除去補助部材160、およびキャップ部140内に形成された負圧通路147に過ぎず、これらは全てキャップ部140の中に収めておくことができる。このため、インク吸収部材68を押し潰すための特別な機構を搭載する場合に較べて、たいへんに簡素で小型な構造とすることが可能である。
【0080】
また、クリーニング中は、噴射ノズルからインクが強制的に吸い出されるために、多量のインクが開口部144から排出される。従って、クリーニング中にインク吸収部材68が押し潰されると、インク吸収部材68が抵抗となって、多量のインクや増粘したインクを排出することが難しくなる。この点で、第2実施例のラインプリンタ1では、図16を用いて前述したように、クリーニング中は、インク除去補助部材160によってインク吸収部材68が押し潰されることがない。このため、多量のインクや増粘したインクを、開口部144から排出することが可能となる。
【0081】
B−3.第1の変形例 :
尚、上述した第2実施例では、インク吸収部材68が弾力性に富んだ材料によって形成されており、インク除去補助部材160から押し付けられる力がなくなると、自身の弾性力で元の形状に復元するものとして説明した。しかし、インク除去補助部材160が自身の弾性力で元の形状に復元するのではなく、インク除去補助部材160を復元させるような弾性部材を別途、設けるようにしても良い。
【0082】
図18は、インク除去補助部材160を復元させるバネ部材を備えた第2実施例の第1の変形例を示した説明図である。図示した例では、引込凹部146の中に小さなコイルバネ146sが収納されている。また、インク除去補助部材160とインク吸収部材68とは接着されている。インク除去補助部材160がインク吸収部材68を圧縮する際には、インク吸収部材68と同時にコイルバネ146sも圧縮されるが、インク吸収部材68を圧縮する力が無くなると、コイルバネ146sがピストン160pを押し上げる。その力によって、インク吸収部材68を元の形状に復元することが可能となる。
【0083】
こうすれば、インク吸収部材68の材質あるいは形状を検討する際に、元の形状に戻ろうとする復元力については考慮しなくて良い。その結果、インクの吸収し易さや、鳩首したインクを保持する能力などに焦点をあてて材質などを検討することができるので、より適切なインク吸収部材68とすることが可能となる。
【0084】
B−4.第2の変形例 :
また、上述した第2実施例では、吸引ポンプ50と引込凹部146とは、負圧通路147によって連通しており、吸引ポンプ50を作動させると、その負圧は必ず引込凹部146に導かれるものとして説明した。しかし、負圧通路147に開閉弁147vを設けておき、開閉弁147vを開いていなければ、吸引ポンプ50の負圧が引込凹部146に導かれないようにしても良い。
【0085】
図19は、負圧通路147に開閉弁147vが設けられた第2実施例の第2の変形例を示した説明図である。このようにしておけば、引込凹部146に負圧をかけたくないときには、開閉弁147vを閉じておくことで、負圧がかからないようにすることができる。たとえば、開閉弁147vを閉じた状態でフラッシングを行えば、インク吸収部材68を圧縮せずにフラッシングを行うことができる。また、クリーニング中に開閉弁147vを閉じた場合には、吸引ポンプ50の負圧を受けて凹部142内の圧力は低下するものの、引込凹部146の圧力は低下しない。その結果、ピストン160pには、引込凹部146から凹部142の方向に押し上げるような力が作用する。従って、たとえばインク吸収部材68の上面をインク除去補助部材160に接着しておけば、インク吸収部材68を元の形状に復元させることも可能となる。
【0086】
以上、各種の実施例および各種の変形例のラインプリンタ1について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0087】
例えば、上述した各種の実施例および各種の変形例では、ヘッドユニット30、あるいはヘッドユニット130は移動せずに、印刷用紙が搬送されることによって画像が印刷される所謂ラインプリンタについて説明した。しかし、印刷用紙上でノズルユニット32を往復動させながら画像を印刷する所謂シリアルプリンタに対しても、同様に適用することができる。
【0088】
また、前述した第1実施例あるいは第1実施例の各種変形例では、インク除去部60がヘッドユニット30に組み込まれているものとして説明した。しかし、インク除去部60は、必ずしもヘッドユニット30に組み込む必要はなく、ヘッドユニット30と別体に設けても良い。
【0089】
更には、上述した各種の実施例および各種の変形例では、キャップ部40あるいはキャップ部140は、フラッシングだけではなく、クリーニングやキャッピングなどにも用いられるものとして説明した。しかし、フラッシングだけに用いられるキャップ部に対しても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1…ラインプリンタ、 24…プラテン、 30…ヘッドユニット、
32…ノズルユニット、 34…噴射ヘッド、 40…キャップ部、
42…凹部、 42p…開口部、 43…角部、 44…チューブ、
50…吸引ポンプ、 60…インク除去部、 65…隔膜、
67…中央可動部、 68…インク吸収部材、 70…電源ユニット、
80…制御ユニット、 130…ヘッドユニット、 140…キャップ部、
142…凹部、 144…開口部、 145…吸引通路、
146…引込凹部、 146s…コイルバネ、 147…負圧通路、
147v…開閉弁、 160…インク除去補助部材、 160p…ピストン、
160w…窓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドからの流体を受ける凹部が形成された流体受け部と、
前記凹部内に設けられた開口部に接続されるとともに、該凹部内の流体を吸引する吸引ポンプと、
前記吸引ポンプからの負圧を受けて、前記凹部内を前記開口部の方向に引き込まれることにより、該吸引ポンプが該凹部内の流体を吸引する動作を補助する吸引動作補助部材と
を備える流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引動作補助部材は、
前記噴射ヘッドとは異なる位置に設けられて、前記流体受け部に当接することで前記凹部との間に閉空間を形成するとともに、
前記閉空間を形成した状態で前記吸引ポンプが作動すると、前記開口部の方向に引き込まれて該閉空間の容積を減少させることにより、該吸引ポンプが流体を吸引する動作を補助する部材である流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記凹部内に設けられて、前記流体を吸収する流体吸収部材を備え、
前記吸引動作補助部材は、前記凹部内を前記開口部の方向に引き込まれることにより、前記流体吸収部材を圧縮する部材である流体噴射装置。
【請求項4】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記流体受け部または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を駆動することにより、該流体受け部と該噴射ヘッドとを当接させる第1の駆動手段と、
前記流体受け部または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を駆動することにより、該流体受け部と該噴射ヘッドとの相対位置を変更させる第2の駆動手段と
を備え、
前記吸引動作補助部材は、前記噴射ヘッドに隣接して設けられ、前記第1の駆動手段および前記第2の駆動手段によって前記流体受け部との相対位置が変更されることにより、該流体受け部に当接される部材である流体噴射装置。
【請求項5】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引動作補助部材は、伸縮可能な気密膜によって形成されており、前記凹部との間に閉空間を形成した状態で前記吸引ポンプを作動させると、該吸引ポンプからの負圧を受けて該凹部内に引き込まれる部材である流体噴射装置。
【請求項6】
請求項5に記載の流体噴射装置であって、
前記流体受け部は、前記凹部を構成する側面あるいは底面が交わる部分が曲面形状に形成されている流体噴射装置。
【請求項7】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引動作補助部材は、
前記流体受け部が当接された時に前記閉空間を形成する中央部と、該中央部の周囲に設けられて該流体受け部が当接する周辺部とを備え、
前記中央部は前記周辺部に対して摺動可能に構成されており、
前記閉空間を形成した状態で前記吸引ポンプが作動されると、前記中央部が前記凹部内に引き込まれる部材である流体噴射装置。
【請求項8】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記凹部内には、前記流体を吸収する流体吸収部材と、該凹部の内壁面との間で該流体吸収部材を挟んで設けられた前記吸引動作補助部材と、前記吸引動作補助部材が引き込まれる引込凹部とが設けられており、
前記吸引ポンプは、前記開口部に加えて前記引込凹部にも接続されており、
前記吸引動作補助部材は、前記吸引ポンプからの負圧を受けて前記引込凹部に引き込まれると、前記流体吸収部材を圧縮する部材である流体噴射装置。
【請求項9】
請求項8に記載の流体噴射装置であって、
前記流体受け部または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を駆動することにより、該流体受け部と該噴射ヘッドとを当接させる駆動手段を備え、
前記流体受け部は、前記噴射ヘッドに当接されると、前記凹部に閉空間を形成する受け部であり、
前記吸引動作補助部材は、前記吸引ポンプを作動させた時に前記引込凹部と前記凹部との間に生じる圧力差によって、該引込凹部に引き込まれる部材である流体噴射装置。
【請求項10】
請求項8に記載の流体噴射装置であって、
前記流体吸収部材は、前記吸引動作補助部材からの圧縮力が除かれると、自らの復元力によって体積を復元させる部材である流体噴射装置。
【請求項11】
請求項8に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引動作補助部材が前記流体吸収部材を圧縮する力によって弾性変形するとともに、該流体吸収部材に対する該吸引動作補助部材からの圧縮力が除かれると、該流体吸収部材の体積を復元させる復元部材を備える流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−42661(P2010−42661A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98721(P2009−98721)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】