説明

流体封入式筒形防振装置

【課題】衝撃的な荷重の入力等に起因して流体室に惹起される著しい圧力変動を、高い信頼性と耐久性のもとに安定した作動特性をもって軽減乃至は回避せしめ得るリリーフ流路が、少ない部品点数と簡単な構造で実現され得る、実用性の高い新規な構造の流体封入式筒形防振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】中間スリーブ26の凹溝36に通路部材58を組み込んで、アウタ筒部材14との間に配設し、リリーフ流路64,64を形成すると共に、リリーフ流路64,64の一方の開口を弾性弁体68,68によって蓋をした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナ軸部材の外周側に離隔してアウタ筒部材を配設せしめて、それら両金具を本体ゴム弾性体で連結せしめた筒形防振装置に係り、特に内部に封入された非圧縮性流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした、例えば自動車用のサスペンション・ブッシュやエンジンマウント,サブフレームマウント,ボデーマウント,デフマウント等として好適に採用される流体封入式の筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体の一種として、インナ軸部材とその外周側に離隔配置したアウタ筒部材を本体ゴム弾性体で連結せしめた筒形防振装置において、その内部に非圧縮性流体を封入し、振動入力時に惹起される流体の共振作用等を利用して防振効果を得るようにした流体封入式の筒形防振装置が知られている。
【0003】
より具体的には、このような筒形防振装置は、一般に、実開平1−149044号公報等に開示されているように、インナ軸部材とその外周側に離隔配置された中間スリーブの径方向対向面間に本体ゴム弾性体を配設すると共に、中間スリーブに対してアウタ筒部材を外嵌固定した構造とされている。このような構造を採用することにより、中間スリーブに設けた窓部を通じて外周面に開口するように形成したポケット部をアウタ筒部材の外嵌固定によって流体密に封止して、密閉構造の流体封入領域を容易に形成することが可能となる。また、インナ軸部材とアウタ筒部材の間への軸直角方向の振動入力時に、非圧縮性流体の流動が効率的に生ぜしめられるように、かかる流体封入領域は、一般に、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸直角方向対向面間において、インナ軸部材を軸直角方向に挟んだ両側部分に形成された複数の流体室と、それらの流体室を相互に連通するオリフィス通路によって構成されている。
【0004】
このような従来構造の流体封入式筒形防振装置では、振動入力時に、複数の流体室間に惹起される相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられることとなり、このオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用を利用して、有効な防振効果を得ることが可能となるのである。
【0005】
しかしながら、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果は比較的に狭い周波数域でしか発揮され得ず、特に防振を目的とする周波数域にチューニングされたオリフィス通路では、そのチューニング周波数よりも高周波数域の振動入力時に流通抵抗が著しく増大して防振性能が大幅に低下してしまうという不具合があった。
【0006】
また、衝撃的な振動入力時には、オリフィス通路を通じての流体流動が追従し得ずに、流体室に対して大きな圧力変動が惹起されることとなり、それに伴って、衝撃的な振動が惹起されたり、封入流体における気相分離に起因する異音や振動の発生が問題となる場合があった。
【0007】
そこで、このような問題に対処するために、特許文献1(DE4332367A1)には、オリフィス通路によって接続された二つの流体室間に跨がってリリーフ流路を形成すると共に、このリリーフ流路内にゴム弾性体からなるシールリップを突設した構造が提案されている。即ち、通常の振動入力時には、リリーフ流路がシールリップで遮断状態に維持されるが、流体室間に著しい圧力差が発生した場合には、シールリップが弾性変形して隙間が生ぜしめられることにより、その隙間を通じてリリーフ流路が連通状態とされて流体室間での流体流動が許容されて、流体室における著しい圧力変動を解消するようになっている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1に開示された従来構造では、シールリップの突出先端面がリリーフ流路の内周面に押し付けられることでリリーフ流路が遮断状態に維持されるようになっていることから、シールリップの開閉作動に際して、シールリップとリリーフ流路内面との擦れが発生する。そのために、シールリップの磨耗が避けられず、長期間に亘って安定した作動を望むことが出来ないという問題があった。加えて、シールリップの開閉作動が、シールリップとリリーフ流路の当接面における摩擦係数に依存してしまうことから、製造条件や加工条件のばらつきによってシールリップの作動が安定し難しいという問題もあったのである。
【0009】
なお、特許文献2(特公平7−92106号公報)には、インナ軸部材に対して特別な環状部材を外嵌固定し、この環状部材に対して二つの流体室を相互に連通する通路を形成すると共に、かかる通路の流体室への開口部に逆止弁を設けた構造が提案されている。このような構造であれば、通路の内面に接触しない形態の逆止弁を構成することが可能となり、そうすることで、確かに、逆止弁の磨耗や作動のばらつきを回避できる。ところが、特許文献2の図面からも明らかなように、この従来構造の流体封入式筒形防振装置では、インナ軸部材に対して逆止弁を構成する環状の弾性部材を組み付け、更に通路形成用の環状部材を外嵌固定する必要があるために、構造が複雑で部品点数も多く、製造および組み付けが非常に難しく煩雑であった。加えて、環状部材に対して、その内部をトンネル状の形態をもってのびるようにリリーフ流路を形成する必要があるだけでなく、その開口部に配設される逆止弁も円環形状の部材によって形成されることから、製造および組み付けがより一層複雑となり、その実用化は極めて難しかったのである。
【0010】
【特許文献1】独国公開特許公報4332367号
【特許文献2】特公平7−92106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、衝撃的な荷重の入力等に起因して流体室に惹起される著しい圧力変動を、高い信頼性と耐久性のもとに安定した作動特性をもって軽減乃至は回避せしめ得るリリーフ流路が、少ない部品点数と簡単な構造で実現され得る、実用性の高い新規な構造の流体封入式筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0013】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材とその外周側に離隔配置された中間スリーブの径方向対向面間に本体ゴム弾性体を配設すると共に、該中間スリーブに対してアウタ筒部材を外嵌固定する一方、該本体ゴム弾性体で連結せしめた該インナ軸部材と該アウタ筒部材の径方向対向面間において振動入力時に相対的な圧力変動が生ぜしめられる複数の流体室を周方向に離隔して形成すると共に、それら複数の流体室を相互に連通するオリフィス通路を形成して、振動入力時に該オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式筒型防振装置において、前記中間スリーブに複数の窓部を設けて、それら各窓部を通じて外周面に開口する複数のポケット部を形成し、それら複数のポケット部を前記アウタ筒部材で流体密に覆蓋することによって前記複数の流体室を形成する一方、該中間スリーブの軸方向中間部分において外周面に開口して該複数の窓部間に亘って周方向に延びる凹溝を設け、該凹溝に対して別体の通路部材を嵌め込んで該アウタ筒部材により該通路部材を該凹溝内に流体密に押し付けて固定的に組み付けることにより、周方向に延びて該複数の流体室の間に跨がって延びるリリーフ流路を該通路部材で形成し、該リリーフ流路の少なくとも一方の開口部を該アウタ筒部材の内周面よりも径方向内方に離隔位置せしめると共に、該中間スリーブの該凹溝の底面から開口部に向かって突出する弾性変形可能な弾性弁体を該アウタ筒部材の内周面にまでは達しない突出高さで形成して、該リリーフ流路の該一方の開口部が設けられた該通路部材の周方向一方の端面に重ね合わせて該リリーフ流路の開口部を実質的に閉塞せしめ、該弾性弁体の弾性変形によって該リリーフ流路を通じて前記複数の流体室が連通され得るようにしたことを特徴とする。
【0014】
このような、第一の態様に従う構造とされた液入筒型防振装置においては、中間スリーブの凹溝を利用してリリーフ流路を構成することにより、スペースを効率的に確保することができる。また、このような中間スリーブにおける凹溝は、例えば、実開平1−149044号にも開示されているように、従来からオリフィス通路などを形成するために一般に採用されている構成であり、その形成は容易であって、リリーフ流路を簡単な構造で構成することができる。
【0015】
また、中間スリーブが本体ゴム弾性体の外周面に一体加硫接着で固着されることにより、外周面上に突出する弁は、この本体ゴム弾性体を利用して容易に本体ゴム弾性体と一体形成することができる。
【0016】
更に、リリーフ流路を形成する通路部材を、本体ゴム弾性体や中間スリーブと別体で形成すると共に、凹溝に対して外周面から嵌め込んで取り付けることにより、凹溝にリリーフ流路を容易に形成することができる。
【0017】
しかも、リリーフ流路の一方の開口部をアウタ筒部材の内周面よりも径方向に離隔位置せしめると共に、弾性弁体をアウタ筒部材の内周面にまでは達しない突出高さで形成したことにより、流体室に対して振動が入力されて、弾性弁体が弾性変形した場合においても、弾性弁体がアウタ筒部材に対して摺接することがなく、摩擦によって弾性弁体の作動が阻害されるのを回避することができる。更に、摩擦によって弾性弁体が磨耗や破損等を生じて、作動が不安定になることも防止できる。
【0018】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造の流体封入式筒型防振装置において、前記通路部材によって前記リリーフ流路を二つ形成すると共に、それら二つのリリーフ流路における互いに反対側の前記流体室への開口部をそれぞれ実質的に閉塞するように、前記弾性弁体を該通路部材の周方向両側に各一つ形成したことを特徴とする。
【0019】
このような、本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、流体室に対して、オリフィス通路のチューニング周波数以上の周波数域の振動、若しくはオリフィス通路による流体流動が追随し切れない大振幅振動が入力されると、二つのリリーフ流路の内、どちらか一方が弾性弁体の弾性変形によって連通状態とされると共に、他方が弾性弁体によって閉塞状態とされる。それ故、径方向における振動がどの方向から加わっても、リリーフ流路が確実に連通状態とされることから、確実に流体室内の圧力上昇を回避することができて、防振性能を安定して発揮できる。
【0020】
また、通路部材を凹溝に対して取り付ける際に、周方向両端面に重ね合わされる両方の弾性弁体で通路部材を周方向で位置決めすることが出来る。それ故、通路部材を正しい位置へ容易に組み付けることが可能となる。
【0021】
更に、二つのリリーフ流路が一つの通路部材で形成されることから、少ない部品点数で実現することが可能となる。
【0022】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置であって、前記弾性弁体を弾性的な付勢力をもって、前記通路部材の周方向端面における前記リリーフ流路の開口部に対して当接状態で組み付けたことを特徴とする。
【0023】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、弾性弁体をリリーフ流路の開口部に対して確実に当接せしめることができる。それ故、オリフィス通路がチューニングされている周波数域の振動入力時には、流体室における圧力変動を効率的に確保できて、オリフィス通路を通じての流体流動量を充分に確保してオリフィス通路による防振効果も一層有利に得ることが可能となる。
【0024】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置であって、前記中間スリーブにおいて、一対の窓部を径方向に互いに対向位置して開口形成すると共に、それぞれの窓部を通じて開口する一対のポケット部が、それぞれアウタ筒部材で覆蓋されることによって、インナ軸部材を径方向で挟んだ両側に位置する一対の流体室を形成する一方、それら流体室の周方向両側の端部間に跨って第一の凹溝と第二の凹溝を形成して、該第一の凹溝に対して前記通路部材を組み付ける一方、第二の凹溝に対して前記オリフィス通路を形成したことを特徴とする。
【0025】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、一対の流体室を接続するオリフィス通路を、中間スリーブに形成した第二の凹溝を利用して形成したことにより、オリフィス通路を簡易な構造をもって容易に形成することができる。また、中間スリーブにオリフィス通路を形成したことによって、オリフィス通路の通路長を大きく確保することができて、オリフィス通路をチューニング可能な周波数域が広くなる。
【0026】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体を、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材の径方向対向面間において実質的に周方向の全周に亘って配設すると共に、該インナ軸部材を挟んだ両側においてそれぞれ開口する一対のポケット部を該本体ゴム弾性体に形成して、それらの各ポケット部を前記中間スリーブに設けた前記一対の窓部を通じて開口させたことを特徴とする。
【0027】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、流体室が対向位置せしめられている径方向での振動入力時において、圧縮側となる一方の流体室内で正圧が生じると共に、引っ張り側となる他方の流体室内では負圧が生じることとなる。それ故、振動入力時に各流体室間において相対的な圧力差が大きく惹起されて、オリフィス通路を通じての流体流動が一層積極的且つ効果的に生じることとなり、流体の流動作用に基づく防振性能を一層有利に得ることができる。
【0028】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置において、前記中間スリーブにおける前記凹溝の内面にシールゴム層を被着形成したことを特徴とする。
【0029】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、通路部材の両側面及び内周面を凹溝に対して流体密に重ね合わせて、組み付けることにより、流体室間での短絡を防止するシール性が向上されて、流体室間での流体流動等に基づいた目的とする防振性能を一層有利に得ることができる。
【0030】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置において、前記通路部材の内周面に開口する連通溝を形成すると共に、前記中間スリーブにおける前記凹溝の底面によって該連通溝を覆蓋して前記リリーフ流路を形成したことを特徴とする。
【0031】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、別体として形成される通路部材の製造が容易となる。しかも、リリーフ流路の開口部を、アウタ筒部材の内周面から離隔配置することも容易である。
【発明の効果】
【0032】
上述の説明からも明らかなように、本発明に従えば、衝撃的な荷重の入力等に起因して流体室に惹起される著しい圧力変動を、高い信頼性と耐久性のもとに安定した作動特性をもって軽減乃至は回避せしめ得るリリーフ流路が、少ない部品点数と簡単な構造で実現され得る、実用性の高い新規な構造の流体封入式筒形防振装置を実現できる。
【0033】
特に、本発明に従う構造とされた流体封入式筒型防振装置においては、リリーフ流路を形成する通路部材が、中間スリーブに設けられた凹溝に収容されて中間スリーブとアウタ筒部材の間に組み付けられることから、優れたスペース効率と共に良好な組み付け作業性とシール性をもって通路部材を組み付けることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0035】
まず、図1,図2には、自動車のサスペンションブッシュ等に用いられる、本発明の一実施形態としての防振ブッシュ10が示されている。この防振ブッシュ10には、インナ軸部材としての内筒金具12とアウタ筒部材としての外筒金具14が、互いに径方向に所定距離を隔てて配設されていると共に、それらの間に介装された本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。そして、防振ブッシュ10は、内筒金具12と外筒金具14が防振連結される各一方の部材に取り付けられることにより、それら防振連結される部材間に介装されるようになっている。
【0036】
より詳細には、内筒金具12は、小径の略円筒形状を有しており、軸方向中央付近が他の部分に比して僅かに大径とされている。
【0037】
また、内筒金具12の径方向外方には、薄肉大径円筒形状の中間スリーブとしての金属スリーブ26が所定距離を隔てて、且つ略同一中心軸上に配設されている。この金属スリーブ26の軸方向長さは、内筒金具12の軸方向長さよりも小さくされており、内筒金具12の軸方向両端部が、金属スリーブ26から軸方向外方に突出されている。
【0038】
更に、金属スリーブ26の軸方向中央部分には、窓部としての一対の開口窓28,30が径方向一方向に対向位置して形成されている。これらの開口窓28,30は、それぞれ、略矩形状を有しており、金属スリーブ26を貫通して形成されている。更にまた、一対の開口窓28,30における周方向両側の端縁部間には、金属スリーブ26の軸方向中央部分に位置して小径部32が形成されており、この小径部32によって開口窓28,30の周方向端部間に跨って周方向に連続して延びる幅広溝状の凹溝としての周溝34,36が金属スリーブ26の外周面に開口して形成されている。
【0039】
また、内筒金具12と金属スリーブ26の径方向対向面間には、本体ゴム弾性体16が配設されている。かかる本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉円筒形状を有しており、内筒金具12と金属スリーブ26の径方向対向面間において周方向の略全周に亘って介在せしめられている。そして、図3,4に示されているように、本体ゴム弾性体16の外周面が金属スリーブ26の内周面に加硫接着されていると共に、その内周面が内筒金具12の外周面に加硫接着されていることにより、本体ゴム弾性体16が、それら内筒金具12と金属スリーブ26を有する一体加硫成形品38として形成されている。特に、本実施形態では、金属スリーブ26の軸方向両端部分が、一体加硫成形品38の外周面に直接に露呈せしめられていると共に、本体ゴム弾性体16の加硫成型後、必要に応じて、金属スリーブ26に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、本体ゴム弾性体16に対して予圧縮が加えられて引っ張り応力の軽減が図られる。
【0040】
また、金属スリーブ26に形成された周溝34,36の内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のシールゴム層としての被覆ゴム層40が形成されており、周溝34,36の内面の全体が被覆ゴム層40によって覆われている。
【0041】
更にまた、本体ゴム弾性体16の軸方向中央部分には、内筒金具12を挟んだ径方向一方向(図2中における上下方向)で対向位置せしめられるようにして、一対のポケット部42,44が形成されている。この一対のポケット部42,44は、それぞれ、金属スリーブ26に形成された開口窓28,30を通じて、本体ゴム弾性体16の外周面に開口している。各ポケット部42,44の深さ寸法は、内筒金具12までは僅かに至らない大きさとされていると共に、各ポケット部42,44の周方向寸法は、本体ゴム弾性体16の周方向長さの半周以下とされている。特に、本実施形態においては、各ポケット部42,44は、径方向に直交する方向に直線的に延びる略平坦な底面を有しており、図2中における左右方向に型割りの成形型を用いることが出来るようになっている。
【0042】
また、かくの如き本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38には、オリフィス部材48が外周面上に組み付けられている。
【0043】
オリフィス部材48は、図5,6,7に示されているように、全体に略一定の肉厚で円弧板状(略C字形)に湾曲して周方向に延びる円弧板形状を有する樹脂製の部材であって、その幅寸法が周溝34,36の幅寸法よりも僅かに小さくされている。なお、オリフィス部材48は、その内周面の曲率が金属スリーブ26における周溝34,36の外周面の曲率と略同じとされていると共に、その外周面の曲率が、金属スリーブ26内周面の曲率と略同じに設定されている。
【0044】
このようなオリフィス部材48は、一体加硫成形品38に対して、金属スリーブ26における開口窓28,30と周溝34を周方向に跨いで配設されている。すなわち、オリフィス部材48は、径方向で周溝34が形成されている側から嵌め付けられて、その周方向中央部が金属スリーブ26に設けられた周溝34上に組みつけられると共に、両端部が金属スリーブ26に設けられた周溝36の周方向両端にそれぞれ組み付けられて位置せしめられている。
【0045】
本実施形態におけるオリフィス部材48の一体加硫成形品38に対する取付けに際しては、オリフィス部材48の切欠部50に対して一体加硫成形品38を径方向外方から嵌め入れることにより、オリフィス部材48を一体加硫成形品38に対して外嵌状態で組み付ける。しかし、オリフィス部材48の切欠部50の周方向長さは、周溝34,36の周方向長さに比して短く、嵌付けが困難である。そこで、ポリアミド等の変形可能な樹脂材料で形成されている、オリフィス部材48の周方向中央の外周面には、幅方向(軸方向)に連続して延びる取付溝52が幅方向全長に亘って形成されている。かかる取付溝52によって、周方向中央においてオリフィス部材48の部材厚が薄肉とされて、曲がり易くなっていることで、オリフィス部材48の切欠部50を弾性的に押し広げて拡開させることができるようになっている。即ち、オリフィス部材48の両端部を離隔せしめることができて、切欠部50の周方向長さを周溝34,36の周方向長さより長くすることができる。これによって、一体加硫成形品38を切欠部50からオリフィス部材48の内周空間へ嵌め込むことができて、オリフィス部材48を一体加硫成形品38の外周面上に組み付けることが可能とされている。
【0046】
オリフィス部材48は、一体加硫成形品38への組付け状態下、図2に示されているように、金属スリーブ26の略3/4の周方向長さを有しており、外周面上には、一方の端部から他方の端部まで一定の断面形状で連続して延びるオリフィス形成溝54が形成されている。このオリフィス形成溝54は、オリフィス部材48の周方向両端部付近において、内周壁部を貫通してオリフィス部材48の内周面に開口する連通孔56によって各ポケット部42,44と連通している。また、オリフィス部材48の幅方向両端面は、周溝34の両側面に流体密に重ね合わせられており、取付溝52が実質的に閉塞している。
【0047】
一方、周溝36において、オリフィス部材48の周方向両端部間、すなわちオリフィス部材48の切欠部50には、通路部材58が取り付けられている。かかる通路部材58は、図8に示されているように、略直方体形状を有する2つの流路形成部60,60をクランク状に繋いで一体的に形成されており、全体として略クランク形状でブロック体とされている。通路部材58は、硬質の材料、例えば、合成樹脂や金属が好ましい。更に、通路部材58は、その最大幅寸法が周溝36の幅寸法より僅かに小さくされていると共に、その径方向厚さは略一定であり、周溝36の深さより僅かに小さくされている。また、通路部材58は、その周方向に湾曲せしめられており、その内周面の曲率が周溝36底面の周方向の曲率と略同じとされていると共に、その外周面の曲率が金属スリーブ26の外周面の周方向の曲率と略同じとされている。
【0048】
更に、図9に示されているように、各流路形成部60,60には、内周面に開口して、各流路形成部60,60の周方向全長に亘って延びる、連通溝としての流路形成溝62が形成されている。かかる流路形成溝62は、全長に亘って一定の断面形状で、周方向に略直線的に延びている。
【0049】
このような通路部材58は、周溝36の外周面上においてオリフィス部材48と略同一周上に取り付けられる。そして、通路部材58に形成された流路形成溝62の内周面への開口が周溝36の底面に被着形成された被覆ゴム層40によって覆蓋されて、周方向に延びるリリーフ流路としての圧逃がし流路64が形成される。また、通路部材58の両端部にそれぞれ開口する圧逃がし流路64の開口部がオリフィス部材48に形成された連通孔56を介してポケット部42,44に連通せしめられていると共に、図10,11に示されているように、通路部材58の中央側に開口する圧逃がし流路64の中央開口部66が、周溝36の底面において、径方向外方へ向かって突出形成された弾性弁体としての流路閉塞弁体68にそれぞれ重ね合わせられており、それによって、通路部材58が周方向に位置決めされている。
【0050】
流路閉塞弁体68は、薄肉のゴムで形成された板状の突起であって、周溝34,36の底面において、径方向外方に向かって周溝36の深さに比べて僅かに低い高さで突出せしめられており、被覆ゴム層40と一体的に形成されている。また、周溝36の周方向中央付近において、二つの流路閉塞弁体68が周方向に僅かにずれた位置で且つ幅方向に並んで突出形成されており、上述の通り、各圧逃がし流路64のそれぞれ一方の中央開口部66に重ね合わせられて中央開口部66を覆っている。更に、流路閉塞弁体68は通路部材58と反対の面が傾斜面とされており、基部よりも先端に行くに従って次第に薄肉となっている。
【0051】
このように圧逃がし流路64と流路閉塞弁体68を配置せしめたことによって、通路部材58の周方向位置を固定することができる。更に、一方の圧逃がし流路64において、流路閉塞弁体68に対して圧逃がし流路64側から周方向で一定以上の圧力が加わると、流路閉塞弁体68が圧力によって弾性変形し、圧逃がし流路64が周方向に連通状態とされる。そのときに、他方の圧逃がし流路64 においては、流路閉塞弁体68に対して圧逃がし流路64と反対側から圧力が加わることとなるため、流路閉塞弁体68が一層強固に圧逃がし流路64の中央開口部66に対して押し付けられることとなって、圧逃がし流路64が閉塞状態に保たれることとなり、流路閉塞弁体68に対して一定以上の圧力が加わった場合には、どちらか一方が連通状態とされると共に、他方が閉塞状態となる。
【0052】
なお、流路閉塞弁体68は、それぞれ重ね合わせられる圧逃がし流路64の中央開口部66に対して、常に弾性的に押し付けられるように付勢力が与えられており、防振ブッシュ10に対して振動が入力していない状態、若しくは入力振動が衝撃的な大振幅振動ではない状態において、圧逃がし流路64の中央開口部66を確実に閉塞せしめることができるようになっている。又、通路部材58を周方向で精度良く位置決めすることができる。
【0053】
このように、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38の外周面に対して、オリフィス部材48および通路部材58をそれぞれ組み付けた後、一体加硫成形品38とオリフィス部材48,通路部材58の各外周面を覆うように外筒金具14が外挿状態で取り付けられる。
【0054】
外筒金具14は、図1,図2に示されているように、薄肉の大径円筒形状を有しており、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38に対して、オリフィス部材48及び通路部材58を組み付けた後に外挿されて、八方絞り等で縮径されることにより、金属スリーブ26とオリフィス部材48及び通路部材58の外周面に嵌着固定されている。即ち、オリフィス部材48及び通路部材58は、外筒金具14により、金属スリーブ26に対して固定的に組み付けられている。また、外筒金具14の内周面には、シールゴム70が固着形成されており、外筒金具14が八方絞り等で縮径されることにより挟圧せしめられて、該金属スリーブ26と外筒金具14の嵌着面間とオリフィス部材48と外筒金具14の嵌着面間,更には、通路部材58と外筒金具14の嵌着面間が、それぞれ、流体密にシールされている。
【0055】
そして、このように本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38に対して、オリフィス部材48と通路部材58,外筒金具14がそれぞれ組み付けられることにより、一対のポケット部42,44の開口部が、それぞれ流体密に覆蓋されている。これにより、一対のポケット部42,44において、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された流体封入領域としての一対の第一,第二の流体室72,74が形成されている。さらに、これら一対の第一,第二の流体室72,74には、それぞれ、非圧縮性流体が封入されている。かかる非圧縮性流体としては、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等が採用されるが、後述する流体の共振作用に基づく防振効果を有利に得るために、本実施形態では、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。即ち、これら一対の第一,第二の流体室72,74は、それらが対向位置する径方向の振動入力に際して、本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて相対的な内圧変動が生ぜしめられるようになっている。なお、流体の封入は、例えば、一体加硫成形品38への外筒金具14の組み付けを流体中で行うことによって為され得る。
【0056】
さらに、外筒金具14の組付けによって、オリフィス部材48の外周面に形成されたオリフィス形成溝54が流体密に覆蓋されており、一対の第一,第二の流体室72,74を相互に連通するオリフィス通路76が形成されている。特に、本実施形態では、外筒金具14の内周面に沿って周方向で略2/3周の長さで形成されている。かかるオリフィス通路76は、一対の第一,第二の流体室72,74の壁ばね剛性等の他、封入された非圧縮性流体の密度等を考慮して通路長さや通路断面積が適当に設定されることにより、内部を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が、目的とする周波数域の振動に対して有効に発揮されるようにチューニングされている。また、一体加硫成形品38に対するオリフィス部材48の取付けを容易にするためにオリフィス部材48の外周面に形成された取付溝52は、その両端が周溝34に被着形成された被覆ゴム層40によって閉塞せしめられると共に、外周面への開口が外筒金具14の内周面に被着形成されたシールゴム70によって覆蓋せしめられる。それ故、実質的に閉塞せしめられており、防振性能に対して何らの影響も生じない。
【0057】
一方、外筒金具14を外挿状態で取り付けると共に、八方絞り等により縮径せしめたことにより、通路部材58が外筒金具14によって径方向内方へ押圧されて、周溝36の内周面に形成された被覆ゴム層40が挟圧されることにより、通路部材58が周溝36に対して密着せしめられる。それによって、通路部材58に設けられた流路形成溝62の内周側開口が被覆ゴム層40によって覆蓋されて、周方向に開口する圧逃がし流路64が流体密な流路として形成されると共に、第一,第二の流体室72,74に封入された非圧縮性流体が第一,第二の流体室72,74と連通せしめられた圧逃がし流路64内にも充填されることとなる。また、圧逃がし流路64がオリフィス部材48に形成された連通孔56によって第一,第二の流体室72,74と連通せしめられていることで、第一,第二の流体室72,74において惹起される圧力変動が、正圧側から負圧側への非圧縮性流体の流体流動として圧逃がし流路64および流路閉塞弁体68に対して伝達されることとなる。
【0058】
ここにおいて、オリフィス部材48と通路部材58は、周溝34,36に対して被覆ゴム層40を介してそれぞれの内周面及び軸方向両端面が流体密に組み付けられている。また、オリフィス部材48と通路部材58には、外筒金具14がシールゴム70を介してそれぞれの外周面に対して流体密に組み付けられている。従って、オリフィス部材48と通路部材58は、何れも外筒金具14及び金属スリーブ26に対して流体密に組み付けられることとなり、オリフィス部材48及び通路部材58と外筒金具14及び金属スリーブ26の各部材間における第一,第二の流体室72,74間での短絡の発生を防止して、第一,第二の流体室72,74間での封入流体の流動がオリフィス通路76及び圧逃がし流路64を通じてのみ生じるようになっている。
【0059】
このような組付け状態下において、内筒金具12の軸方向両端には、ストッパ部材78が外挿状態で取り付けられる。ストッパ部材78は、ストッパ支持金具80とストッパゴム82によって構成されている。ストッパ支持金具80は、全体として略円筒形状の部材で、一方の端部が屈曲せしめられて径方向外方へ延び出す屈曲部84を備えている。また、ストッパ支持金具80における屈曲部84の径方向外方端部に、周方向で全周に亘って連続してストッパゴム82が固着形成されており、内筒金具12における軸方向中央側に屈曲部84およびストッパゴム82が位置した状態で、内筒金具12の軸方向両端にそれぞれ外挿状態で組み付けられている。そして、ストッパ部材78は、防振ブッシュ10に対して大きな振動が加わった場合に、ストッパゴム82が金属スリーブ26に当接することにより、内筒金具12と外筒金具14の相対的な変位を制限している。
【0060】
上述の如き構造とされた防振ブッシュ10においては、軸直角方向において流体室が対向位置せしめられている方向の振動であって、オリフィス通路76がチューニングされた周波数の振動が防振ブッシュ10に対して入力せしめられると、第一,第二の流体室72,74に封入された非圧縮流体がオリフィス通路76を積極的に流動せしめられて、流体の共振作用等による防振効果が発揮される。その際、圧逃がし流路64は流路閉塞弁体68によって実質的に閉塞状態とされており、流体室内の圧力変動が有効に確保されることとなって、オリフィス通路76による防振性能が低下することを防ぐことができる。
【0061】
一方、防振ブッシュ10に対して、オリフィス通路76がチューニングされている周波数より高い周波数の振動が入力せしめられると、オリフィス通路76は反共振的な作用によって実質的に閉塞状態となり、流体流動が生じない。ここにおいて、振動の入力により流体室内に惹起された圧力変動によって、流路閉塞弁体68が弾性変形せしめられて、圧逃がし流路64のどちらか一方が連通状態とされる。これによって、振動入力によって一方の流体室内に生じた圧力が、圧逃がし流路64を通じて、他方の流体室内へと逃がされることとなり、防振性能の著しい低下を防止することができる。
【0062】
更に、例えば、段差の乗り越え等における、衝撃的な振動の入力時においては、オリフィス通路76を通じての流体流動が流体室において生じる圧力変動に追従し切れない。そのような衝撃的な振動の入力時には、第一,第二の流体室72,74内に大きな圧力変動が生じるため、流路閉塞弁体68がかかる圧力を受けて弾性変形し、圧逃がし流路64が連通状態となって、圧力を他方の第一,第二の流体室72,74へ逃がすことにより、防振性能の低下を回避することができる。
【0063】
すなわち、防振ブッシュ10に対して径方向に振動が入力された場合において、第一,第二の流体室72,74のどちらが正圧になった場合であっても、つまり、周溝36において周方向どちら向きの流体流動が生じた場合であっても、正圧側の第一の流体室72(第二の流体室74)に惹起される圧力変動を圧逃がし流路64のどちらか一方が連通状態となることによって、確実に負圧側の第二の流体室74(第一の流体室72)へ逃がすことができるのである。
【0064】
また、一体加硫成形品38に対して別体とされた通路部材58において形成した流路形成溝62を利用して圧逃がし流路64を形成したことにより、圧逃がし流路64を容易に形成することができると共に、流路長や流路断面積等を自由に取ることができて、要求性能に応じた圧逃がし流路64を簡単な構造で実現できる。更に、金属スリーブ26と通路部材58が何れも硬質の部材によって圧逃がし流路64が形成されていることにより、圧逃がし流路64の有効断面積が安定して確保されて、圧逃がし作動の高い信頼性も保たれる。
【0065】
また、流路形成溝62を通路部材58の内周面に開口形成したことにより、圧逃がし流路64を外筒金具14より内周側に容易に形成できる。それ故、圧逃がし流路64の開口部を覆蓋する流路閉塞弁体68を外筒金具14に当接しない突出高さで形成することができて、流路閉塞弁体68が外筒金具14に摺接することによって生じる流路閉塞弁体68の磨耗や作動の不安定さが回避できる。
【0066】
また、流路閉塞弁体68は、周溝36の底面において本体ゴム弾性体16と一体的に形成された被覆ゴム層40と一体的に突出形成されている。これによって、部品点数を減らすことができて、簡単な構造で本発明に従う構造の防振ブッシュ10を実現できる。
【0067】
更に、流路閉塞弁体68が通路部材58に対して当接するような付勢力をもって形成されていることにより、衝撃的な大振幅振動ではなく、更に、オリフィス通路76のチューニング周波数以下の周波数の振動が防振ブッシュ10に対して入力せしめられた場合において、圧逃がし流路64が付勢力を付与された流路閉塞弁体68によって確実に閉塞せしめられて、オリフィス通路76を通じて流体室間を流動せしめられる流動流体の量を十分に確保することができ、オリフィス通路76を通じての流体の共振作用等に基づく防振性能を効果的に発揮できる。また、これによって、部品寸法誤差や組付け誤差に起因する圧逃がし流路64の流路閉塞弁体68による閉塞不良が防止される。
【0068】
また、本実施形態においては、流路閉塞弁体68を周溝36の周方向中央付近に形成したため、一対のポケット部42,44の形状に係らず、本体ゴム弾性体16と一体的に成型することができる。すなわち、本体ゴム弾性体16と流路閉塞弁体68を備えた一体加硫成形品38を加硫成型する際に、ポケット部42,44の形状によっては、ポケット部42,44を形成するために側面形状を設定する一対の中金型において設けられる凸部によるアンダーカットを回避するために、中金型を一対のポケット部42,44が対向位置する径方向から嵌め合わせる必要が生じる。この中金型を取り外す際、ポケット部42,44の対向位置する方向と略直角方向に突出形成された流路閉塞弁体68は、その位置によってはアンダーカットを生じるが、本実施形態においては、周溝36の周方向略中央に流路閉塞弁体68を形成したことにより、中金型の組み合わせ部に流路閉塞弁体68が形成されることとなり、中金型の取り外しの際にアンダーカットを生じない。なお、本実施形態の如く、ポケット部42,44を、底面形状を略平坦面とすると共に、一対の周溝34,36が対向位置する方向において全長に亘って広がる形状とすることによって、一対のポケット部42,44によるアンダーカットを回避した場合には、中金型を一対の周溝34,36が対向位置する方向から取り付けることが可能となるため、流路閉塞弁体68の形成位置を周方向で自由に設定することができる。
【0069】
更にまた、オリフィス通路76および圧逃がし流路64は、金属スリーブ26における周溝34,36にオリフィス部材48および通路部材58をそれぞれ外嵌した後、外筒金具14を外挿すると共に、八方絞り等により縮径せしめて、オリフィス部材48に形成されたオリフィス形成溝54と通路部材58に形成された流路形成溝62をそれぞれ流体密な流路とすることにより、形成されている。それ故、流体密なオリフィス通路76および圧逃がし流路64をそれぞれ簡単な構造と製造工程によって形成することができる。
【0070】
また、オリフィス通路76のチューニング周波数は、通路断面積:Aと通路長さ:Lの比の値:A/Lによって設定されるが、本実施形態においては、オリフィス通路76が金属スリーブ26の外周面に沿って形成されていると共に、流体室72,74にまで延び出すオリフィス部材48が採用されていることにより、オリフィス通路76を十分な長さをもって形成できる。それ故、オリフィス通路76の通路長さの自由度を大きくとることができて、オリフィス通路76のチューニング周波数を、要求される防振特性に応じて幅広い周波数域で設定することができる
【0071】
また、内筒金具12の軸方向中央部が他の部分に比して大径とされていることによって、内筒金具12の軸直角方向の投影面積を増すことができる。それ故、防振ブッシュ10に対して径方向で一対の周溝34,36の対向位置する方向の振動が入力された場合に、本体ゴム弾性体16や流体室72,74に対する内筒金具12の有効ピストン面積の投影面積を大きく取ることが出来て、防振効果を有利に得ることができる。
【0072】
更に、内筒金具12の軸方向両端部に、ストッパ部材78を取り付けたことにより、防振ブッシュ10に対して衝撃的な大振幅振動が入力すると、ストッパ部材78が外筒金具14に当接して、内筒金具12の外筒金具14に対する相対的な変位量が制限される。
【0073】
以上、本発明の実施形態の幾つかについて説明してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0074】
例えば、前記実施形態において、第一,第二の流体室72,74は、何れも振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて内圧変動が積極的に生ぜしめられる受圧室とされており、2つの流体室72,74には、振動入力時に相対的な圧力変動が生ぜしめられて、オリフィス通路76を通じて第一,第二の流体室72,74間において流体流動が生じるようになっている。しかしながら、例えば、一方の流体室が振動の入力によって内圧変動が生じる受圧室とされて、前記実施形態における第一若しくは第二の流体室72,74と実質的に同一の構造をもって構成されると共に、他方の流体室が壁部の一部が変形容易な可撓性膜等によって構成されて、容積変化が許容される平衡室とされた、公開特許公報2003−120744号に示されている如き防振ブッシュに対しても本発明は適用できる。
【0075】
また、前記実施形態において、圧逃がし流路64は、通路部材58の内周面に開口形成された流路形成溝62を周溝36の底面で覆蓋することによって形成されていたが、圧逃がし流路64は、例えば、通路部材58を周方向に貫通してトンネル上の構造で通路部材58内に形成されていても良く、少なくとも一方の開口部が外筒金具14の内周面より径方向内側に開口せしめられていれば良い。
【0076】
また、前記実施形態においては、一つの通路部材58に対して二つの流路形成溝62を形成し、二本の圧逃がし流路64を一つの通路部材58によって実現したが、一つの通路部材に対して凹溝を一つだけ形成して、通路部材58一つに対して一本のリリーフ流路のみを形成しても良く、一つの通路部材に対して三つ以上の複数の凹溝を形成して、一つの通路部材に対して複数のリリーフ流路が形成されるようにしても良い。
【0077】
更に、周溝36に対して組み付けられる通路部材58は、必ずしも一つである必要はなく、複数の通路部材58を組み付けることもできる。具体的には、例えば、一つの通路部材に対して一本のリリーフ溝を形成すると共に、周溝36に対して、通路部材58を二つ組み付けることにより、互いに周方向で反対側の開口を弾性弁体に対して重ね合わせられた二本のリリーフ流路を一つの周溝36上において形成することもできる。
【0078】
また、流路閉塞弁体68は、必ずしも本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている必要はなく、更に、材質も弾性変形が可能であれば必ずしもゴムである必要は無い。具体的には、例えば、周溝36の底面において金属製の板ばねを径方向外方に突出させて、金属スリーブ26に固着せしめると共に、かかる板ばねをシールゴム層で覆うことによって弾性弁体を実現することもできる。
【0079】
更にまた、前記実施形態において、流路閉塞弁体68は、圧逃がし流路64の開口を確実に閉塞せしめるために、予め付勢力によって圧逃がし流路64の開口に対して押し付けられていたが、流路閉塞弁体68に対して必ずしも常時付勢力を加える必要はなく、要求される防振性能によって適宜に設定されれば良い。なお、付勢力を加えない場合に、圧逃がし流路64の開口と流路閉塞弁体68の開口の間に僅かな隙間があっても、圧の作用で流体密性は保つことが出来る。
【0080】
更にまた、前記実施形態においては、流路閉塞弁体68の形成位置を周溝36の周方向略中央とすると共に、圧逃がし流路64の中央開口部66が流路閉塞弁体68に重ね合わせられるように、通路部材58をクランク形状としたが、流路閉塞弁体68の形成位置は前記実施形態によって何ら限定されない。具体的には、例えば、通路部材58を略矩形形状のブロック体とすると共に、流路閉塞弁体68を周溝36の周方向略両端部に突出形成せしめることもできて、通路部材58をより簡単な形状で実現できる。
【0081】
また、一対のポケット部42,44の形状も前記実施形態によって何ら限定されず、金属スリーブ26に設けられた開口窓28,30を通じて開口する凹状のへこみとすることもできる。なお、流路閉塞弁体68を、周溝36における周方向中央以外の部分に突出形成する場合には、ポケット部42,44の形状や型割り方向によっては、成形金型にアンダーカットを生じる可能性があり、製造が上の理由から、前記実施形態において示したように底面と周方向両端面が略面一のポケット部42,44の形状を採用することが望ましい。
【0082】
更に、通路部材58およびオリフィス部材48は、前記実施形態のように樹脂製である必要はなく、各種の金属材等が適宜に選択されて採用され得る。
【0083】
また、本実施形態において、オリフィス通路76は、別体形成されたオリフィス部材48を用いて周方向に延びる形態で形成されていたが、オリフィス通路76の具体的な形状は要求される防振性能等によって、適宜に設定されるものであって、前記実施形態に限定されない。更に、オリフィス通路76の形成には、別体形成されたオリフィス部材48を用いること防振性能の安定化等にとって望ましいが、必ずしも採用する必要はない。具体的には、例えば、オリフィス通路を、金属スリーブ26の小径部32と外筒金具14の間に形成したり、或いは、本体ゴム弾性体16を一対のポケット部42,44が対向位置する方向に貫通する孔として形成することもできる。
【0084】
また、前記実施形態において、内筒金具12は、軸方向の中央部分が拡径されていたが、必ずしも拡径されている必要は無く、径方向への凹凸が無い円筒形状としても良い。
【0085】
前記実施形態において、内筒金具12の軸方向両端部に取り付けられたストッパ部材78は、必ずしも設ける必要は無く、また、設ける場合においても、その形態は前記実施形態によって何ら限定されるものではない。
【0086】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施形態が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態としての防振ブッシュを示す縦断面図であって、図2におけるI−I断面に相当する図である。
【図2】図1における防振ブッシュの横断面図である。
【図3】図1における防振ブッシュを構成する一体加硫成型品を示す縦断面図であって、図4におけるIII−III断面に相当する図である。
【図4】図3に示された一体加硫成型品の正面図である。
【図5】図1における防振ブッシュを構成するオリフィス部材を示す背面図である。
【図6】図5に示されたオリフィス部材の平面図である。
【図7】図5,図6に示されたオリフィス部材の正面図である。
【図8】図1における防振ブッシュを構成する通路部材を示す斜視図である。
【図9】図8に示された通路部材の底面図である。
【図10】図3に示された一体加硫成型品に対する通路部材の取付け状態を示す正面図である。
【図11】図10に示された一体加硫成型品の斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
10 防振ブッシュ
12 内筒金具
14 外筒金具
16 本体ゴム弾性体
26 金属スリーブ
28 開口窓
30 開口窓
32 小径部
34 周溝
36 周溝
38 一体加硫成形品
42 ポケット部
44 ポケット部
48 オリフィス部材
58 通路部材
64 圧逃がし流路
68 流路閉塞弁体
72 第一の流体室
74 第二の流体室
76 オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とその外周側に離隔配置された中間スリーブの径方向対向面間に本体ゴム弾性体を配設すると共に、該中間スリーブに対してアウタ筒部材を外嵌固定する一方、該本体ゴム弾性体で連結せしめた該インナ軸部材と該アウタ筒部材の径方向対向面間において振動入力時に相対的な圧力変動が生ぜしめられる複数の流体室を周方向に離隔して形成すると共に、それら複数の流体室を相互に連通するオリフィス通路を形成して、振動入力時に該オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式筒型防振装置において、
前記中間スリーブに複数の窓部を設けて、それら各窓部を通じて外周面に開口する複数のポケット部を形成し、それら複数のポケット部を前記アウタ筒部材で流体密に覆蓋することによって前記複数の流体室を形成する一方、該中間スリーブの軸方向中間部分において外周面に開口して該複数の窓部間に亘って周方向に延びる凹溝を設け、該凹溝に対して別体の通路部材を嵌め込んで該アウタ筒部材により該通路部材を該凹溝内に流体密に押し付けて固定的に組み付けることにより、周方向に延びて該複数の流体室の間に跨がって延びるリリーフ流路を該通路部材で形成し、該リリーフ流路の少なくとも一方の開口部を該アウタ筒部材の内周面よりも径方向内方に離隔位置せしめると共に、該中間スリーブの該凹溝の底面から開口部に向かって突出する弾性変形可能な弾性弁体を該アウタ筒部材の内周面にまでは達しない突出高さで形成して、該リリーフ流路の該一方の開口部が設けられた該通路部材の周方向一方の端面に重ね合わせて該リリーフ流路の開口部を実質的に閉塞せしめ、該弾性弁体の弾性変形によって該リリーフ流路を通じて前記複数の流体室が連通され得るようにしたことを特徴とする流体封入式筒型防振装置。
【請求項2】
前記通路部材によって前記リリーフ流路を二つ形成すると共に、それら二つのリリーフ流路における互いに反対側の前記流体室への開口部をそれぞれ実質的に閉塞するように、前記弾性弁体を該通路部材の周方向両側に各一つ形成した請求項1に記載の流体封入式筒型防振装置。
【請求項3】
前記弾性弁体を弾性的な付勢力をもって、前記通路部材の周方向端面における前記リリーフ流路の開口部に対して当接状態で組み付けた請求項1又は2に記載の流体封入式筒型防振装置。
【請求項4】
前記中間スリーブにおいて、一対の窓部を径方向に互いに対向位置して開口形成すると共に、それぞれの窓部を通じて開口する一対のポケット部が、それぞれアウタ筒部材で覆蓋されることによって、インナ軸部材を径方向で挟んだ両側に位置する一対の流体室を形成する一方、それら流体室の周方向両側の端部間に跨って第一の凹溝と第二の凹溝を形成して、該第一の凹溝に対して前記通路部材を組み付ける一方、第二の凹溝に対して前記オリフィス通路を形成した請求項1乃至3の何れかに記載の流体封入式筒型防振装置。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体を、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材の径方向対向面間において実質的に周方向の全周に亘って配設すると共に、該インナ軸部材を挟んだ両側においてそれぞれ開口する一対のポケット部を該本体ゴム弾性体に形成して、それらの各ポケット部を前記中間スリーブに設けた前記一対の窓部を通じて開口させた請求項1乃至4の何れかに記載の流体封入式筒型防振装置。
【請求項6】
前記中間スリーブにおける前記凹溝の内面にシールゴム層を被着形成した請求項1乃至5の何れかに記載の流体封入式筒型防振装置。
【請求項7】
前記通路部材の内周面に開口する連通溝を形成すると共に、前記中間スリーブにおける前記凹溝の底面によって該連通溝を覆蓋して前記リリーフ流路を形成した請求項1乃至6の何れかに記載の流体封入式筒型防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−2857(P2006−2857A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180186(P2004−180186)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】