説明

流体封入式防振装置

【課題】目的とする防振性能を実現しつつ、負圧解消用の短絡スリットを備えた可動膜の耐久性を有利に確保することが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】仕切部材44に組み付けられる可動ゴム膜64の各面に受圧室78と平衡室80の圧力を及ぼして受圧室78の圧力変動を吸収する液圧吸収機構を構成すると共に、可動ゴム膜64の中央部分を貫通して所定長さで延びる短絡スリット72を形成し、可動ゴム膜64の弾性に基づいて短絡スリット72を閉塞状態に保持せしめると共に、振動入力時に受圧室78に負圧が惹起されて可動ゴム膜64が受圧室78側に向かって弾性変形せしめられることにより連通状態となる弁機構を構成し、更に、短絡スリット72の両端部分には可動ゴム膜64を厚さ方向に貫通する亀裂防止孔76を形成すると共に、可動ゴム膜64の仕切部材44への組付状態下で亀裂防止孔76が閉塞されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のエンジンマウント等として好適に用いられる防振装置に係り、特に、内部に封入された流体の流動作用に基づいて防振効果が発揮されるようにした流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、防振連結すべき一方の部材を他方の部材に防振連結する手段として、例えば、第一の取付部材を、筒状部を有する第二の取付部材の一方の開口部側に離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で相互に連結した構造を有する防振装置が知られている。また、問題となる特定周波数域の振動に対して優れた防振効果を得るために、内部に封入された流体の流動作用に基づく防振効果を利用した流体封入式の防振装置も提案されている。
【0003】
すなわち、流体封入式防振装置は、例えば、特許文献1(特許第2805305号公報)に示されているように、第一の取付部材を筒状部を備えた第二の取付部材の一方の開口部側に離隔配置せしめると共に、該第二の取付部材で仕切部材を支持せしめて、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室を形成すると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた構造とされている。このような流体封入式防振装置によれば、振動入力時において、内圧変動が生ぜしめられる受圧室と、容積変化が許容されて略大気圧に維持される平衡室の間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる。そして、かかる相対的な圧力変動によってそれら両室を相互に連通するオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく優れた防振効果が発揮されるようになっている。
【0004】
しかしながら、例えば、上述の如き流体封入式防振装置を自動車用のエンジンマウントとして採用する場合等においては、自動車の走行状態等に応じて入力振動の周波数が変化する。それ故、オリフィス通路のチューニング周波数域の振動が入力されると、流体の流動作用に基づいて有効な防振効果が発揮される一方、チューニング周波数よりも高周波数域の振動が入力されると、オリフィス通路が実質的に閉塞状態とされて防振性能が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1等において、受圧室と平衡室を仕切る可動膜を仕切部材に組み付けて、該可動膜の微小変形による液圧吸収作用を利用して、オリフィス通路のチューニング周波数域よりも高周波数域の振動に対して有効な防振効果を得られるようにした構造が提案されている。
【0006】
ところで、従来の流体封入式防振装置においては、第一の取付部材と第二の取付部材の間に大きな振動が入力された場合に、異音や振動が発生するおそれがあった。例えば、流体封入式防振装置を自動車のエンジンマウントとして採用する場合には、凹凸のある波状路上の走行時等において、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な振動荷重が入力されて、乗員が体感できる程の異音や振動を生じる場合があった。
【0007】
このような異音や振動が発生するメカニズムは、未だ充分に明らかとはなっていないが、大きな加速度で衝撃的な振動荷重が第一の取付部材と第二の取付部材の間に入力されると、受圧室内においてキャビテーションと解される気泡が発生する。そして、かかる気泡の崩壊に際して形成される爆発的な微小噴流が水撃圧となって第一の取付部材や第二の取付部材に伝播し、車両ボデーに伝達されることによって、問題となる異音や振動が生ぜしめられるものと考えられる。従って、衝撃荷重の入力に際して発生する受圧室内の負圧を可及的速やかに解消することが、キャビテーションに起因する異音や振動を低減乃至は回避するために有効とされている。
【0008】
そこで、このような異音や振動を低減乃至は回避する一つの方法として、特許文献1に示された流体封入式防振装置においては、受圧室と平衡室を仕切るように配設された可動膜に短絡孔としてのスリットを形成した構造が提案されている。このような特許文献1に記載の流体封入式防振装置では、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な振動荷重が入力されて受圧室内に負圧が発生すると、可動膜に形成されたスリットが開口せしめられて、該スリットを通じて受圧室と平衡室が相互に短絡されることにより、受圧室内の負圧が速やかに解消されるようになっている。
【0009】
ところが、特許文献1に示された流体封入式防振装置のように、ゴム弾性体で形成された可動膜にスリットを形成すると、可動膜の弾性変形に伴うスリットの開閉が繰り返されることにより、スリットの長手方向両端部において可動膜に亀裂が生じ易く、可動膜の耐久性を充分に確保することが困難であった。
【0010】
【特許文献1】特許第2805305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、目的とする防振性能を有効に実現しつつ、負圧解消用の短絡スリットを備えた可動ゴム膜の耐久性を有利に確保することが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0013】
すなわち、本発明は、第一の取付部材が筒状部を有する第二の取付部材の一方の開口部側に離隔配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されることにより、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、それら本体ゴム弾性体と可撓性膜の間に外部から密閉されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されると共に、該第二の取付部材で支持される仕切部材によって該流体室が二分されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部を該本体ゴム弾性体で構成した受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部を該可撓性膜で構成した平衡室が形成されて、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成された流体封入式防振装置において、前記仕切部材に可動ゴム膜が組み付けられており、該可動ゴム膜の一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされてこれら受圧室と平衡室の圧力差に基づく該可動ゴム膜の弾性変形によって該受圧室の圧力変動を吸収する液圧吸収機構が構成されていると共に、該可動ゴム膜の中央部分には所定長さで延びる短絡スリットが該可動ゴム膜を貫通して形成されており、該可動ゴム膜の弾性に基づいて該短絡スリットが閉塞状態に保持されると共に、振動入力時に該受圧室に対して所定の負圧が惹起されて該可動ゴム膜が該受圧室側に向かって弾性変形せしめられることにより連通状態とされる弁機構が構成されており、更に、該短絡スリットの両端部分には、該可動ゴム膜を厚さ方向に貫通する亀裂防止孔が形成されていると共に、該可動ゴム膜の該仕切部材への組付状態下では該亀裂防止孔が閉塞されていることを特徴とする。
【0014】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、液圧吸収機構を構成する可動ゴム膜に短絡スリットが貫通形成されており、衝撃的な振動荷重の入力によって受圧室内の圧力が大幅に低下せしめられると、短絡スリットが開口して受圧室と平衡室の間で該短絡スリットを通じての流体流動が生ぜしめられるようになっている。かかる短絡スリットを通じての流体流動によって、受圧室内の負圧が可及的速やかに解消されて、受圧室内の圧力低下に起因すると考えられる異音や振動が効果的に低減乃至は回避されるようになっている。
【0015】
しかも、本発明によれば、入力振動に応じて開閉する短絡スリットの両端部において問題となり易い亀裂の発生が有利に防がれるようになっている。即ち、短絡スリットの両端部分には、可動ゴム膜を板厚方向で貫通する亀裂防止孔が形成されている。これにより、短絡スリットが開口せしめられる際に、短絡スリットの両端部分においてスリット幅方向での引張力が可動ゴム膜に及ぼされるのを防いで、可動ゴム膜における短絡スリットの両端部分に亀裂が生じて可動ゴム膜が裂けるのを防ぐことが出来る。それ故、短絡スリットを有する可動ゴム膜の耐久性を有利に確保することが出来ると共に、短絡スリットの開閉作動を安定して実現することが出来る。
【0016】
さらに、亀裂防止孔は、可動ゴム膜の仕切部材への組付け状態下において閉塞されるようになっている。それ故、防振対象振動の入力に際して、亀裂防止孔を通じて受圧室と平衡室の間で封入流体が流動せしめられるのを防いで、オリフィス通路を通じて両室間を流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得ることが出来る。
【0017】
また、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、前記短絡スリットの両端部分において他の部分よりも厚肉とされた補強部が前記可動ゴム膜に設けられており、該補強部を貫通するように前記亀裂防止孔が形成されている構造が好適に採用される。
【0018】
このように可動ゴム膜において亀裂防止孔が形成される部分に補強部を設けて、可動ゴム膜を部分的に厚肉とすることにより、亀裂の発生が問題となり易かった短絡スリットの両端部分において可動ゴム膜の耐久性を向上せしめることが出来て、当該箇所における亀裂の発生をより有利に防ぐことが出来る。
【0019】
また、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、前記可動ゴム膜の前記仕切部材への組付け状態下において前記亀裂防止孔の前記平衡室側の開口部が閉塞されるようになっていることが望ましい。
【0020】
このように亀裂防止孔の閉塞を平衡室側の開口部を塞いで実現することにより、受圧室内に正圧が及ぼされた場合には、受圧室内の圧力によって可動ゴム膜が平衡室側に向かって突出するように弾性変形せしめられる。これにより、亀裂防止孔が閉塞状態に安定して保持されて、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
【0021】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記短絡スリットが前記可動ゴム膜の中心を通って直線的に延びていることが望ましい。
【0022】
このような構造を採用して可動ゴム膜の中心を通るように短絡スリットを設けることにより、短絡スリットの開口を大きく確保することが出来る。それ故、受圧室内に所定の負圧が惹起された場合に、短絡スリットを通じて受圧室と平衡室の間での流体流動量を有利に確保して、受圧室の負圧を速やかに解消することが出来る。従って、キャビテーションに起因すると考えられる異音や振動をより有利に低減乃至は回避することが出来る。
【0023】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記可動ゴム膜の外周縁部が前記仕切部材で支持されていると共に、該仕切部材が該可動ゴム膜に形成された前記亀裂防止孔の開口部に重ね合わされることにより該亀裂防止孔が閉塞されていても良い。
【0024】
これによれば、可動ゴム膜の外周縁部を仕切部材で支持することにより、短絡スリットが形成された可動ゴム膜の中央部分における弾性変形を許容して、可動ゴム膜の弾性変形による液圧吸収作用を有利に実現すると共に、可動ゴム膜の外周縁部を支持する仕切部材を利用して、特別な部材を採用することなく短絡スリットの両端部分に形成される亀裂防止孔を閉塞せしめることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。そして、第一の取付金具12が振動伝達系を構成する一方の部材である図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が振動伝達系を構成する他方の部材である図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、振動伝達系を構成する部材間にエンジンマウント10が介装されて、パワーユニットが車両ボデーによって防振支持されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、主たる振動入力方向である図1中の上下方向を言うものとする。また、図1には、自動車への非装着状態のエンジンマウント10が示されている。
【0027】
より詳細には、第一の取付金具12は、鉄やアルミニウム合金等の剛性材で形成されており、略円形ブロック形状を有している。また、第一の取付金具12の上端部には、径方向外方に向かって広がるフランジ部18が一体形成されている。更に、第一の取付金具12の上端面に開口して中心軸上を延びるようにボルト穴20が形成されており、ボルト穴20の内周面には雌ねじが刻設されている。このような第一の取付金具12は、例えば、ボルト穴20に螺着される図示しない取付ボルトによって図示しないパワーユニットにボルト固定されるようになっている。
【0028】
一方、第二の取付金具14は、第一の取付金具12と同様の剛性材で形成されており、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、第二の取付金具14の軸方向中間部分には、くびれ部22が設けられている。くびれ部22は、軸方向下方に向かって次第に縮径するテーパ部24と、テーパ部24の下端部から外周側に向かって広がる段差部26を含んで構成されている。また、第二の取付金具14の下端部には、外周側に向かって広がる段差28が形成されており、段差28の外周縁部から下方に向かって延び出す大径円筒形状のかしめ片29が一体形成されている。このような第二の取付金具14は、例えば、第二の取付金具14に外嵌固定される図示しないブラケットが車両ボデーに取り付けられること等により、車両ボデーに固定されるようになっている。
【0029】
このような第一の取付金具12と第二の取付金具14は、同一中心軸上に配設されると共に、第一の取付金具12が第二の取付金具14に対して軸方向上方に離隔配置される。そして、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に本体ゴム弾性体16が介装されることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性的に連結されている。
【0030】
本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円錐台形状を有するゴム弾性体で形成されている。また、本体ゴム弾性体16の径方向中央部分には、大径側端面(図1中、下側の端面)に開口するように大径の円形凹所30が形成されている。このような本体ゴム弾性体16の小径側端部には、第一の取付金具12が埋設されており、フランジ部18の下面が本体ゴム弾性体16の小径側端面に重ね合わされるようにして加硫接着されている。一方、本体ゴム弾性体16の大径側端部の外周面には、第二の取付金具14の上端部およびテーパ部24が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で相互に連結されている。なお、本実施形態における本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0031】
さらに、本体ゴム弾性体16と一体形成されたシールゴム層32が第二の取付金具14の内周面に固着せしめられている。シールゴム層32は、薄肉のゴム膜で形成されており、第二の取付金具14における段差部26の内周面から段差28の内周縁部に亘る部位を覆うように被着形成されている。
【0032】
また、第二の取付金具14の下端開口部には、可撓性膜としてのダイヤフラム34が配設されている。ダイヤフラム34は、薄肉大径の略円形ドーム形状を有するゴム膜で形成されており、弾性変形が容易に許容されるようになっている。また、ダイヤフラム34の外周縁部には、固定金具36が固着されている。固定金具36は、略円環形状を有しており、筒状の固着部38と該固着部38の上端から外周側に向かって広がるかしめ部40を一体的に備えている。そして、固定金具36の固着部38に対してダイヤフラム34の外周縁部が加硫接着されることにより、ダイヤフラム34が固定金具36を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されている。なお、本実施形態では、かしめ部40の外周縁部と上端面を除く略全面に亘って固定金具36がダイヤフラム34と一体形成されたゴム層で覆われている。
【0033】
このようなダイヤフラム34は、第二の取付金具14に組み付けられる。即ち、固定金具36におけるかしめ部40の外周縁部が、第二の取付金具14の下端部に設けられた段差28に対して下方から重ね合わされると共に、かしめ部40が第二の取付金具14に一体形成されたかしめ片29によってかしめ固定されることにより、ダイヤフラム34が第二の取付金具14の下端部に固定されるようになっている。
【0034】
このように、ダイヤフラム34が第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して組み付けられることにより、第二の取付金具14の軸方向上側の開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されていると共に、第二の取付金具14の軸方向下側の開口部がダイヤフラム34で流体密に閉塞されている。これにより、第二の取付金具14の内周側において本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の軸方向間には、外部から密閉された流体室としての流体封入領域42が形成されている。また、流体封入領域42には、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合液等の非圧縮性流体が封入流体として封入されている。なお、封入流体は、特に限定されるものではないが、後述するオリフィス通路82を流動せしめられる流体の共振作用等に基づく防振効果を有利に得るために、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、このような流体の封入は、ダイヤフラム34の第二の取付金具14(第二の取付金具14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品)への組付けを非圧縮性流体中で行うことにより、有利に実現することが出来る。
【0035】
また、流体封入領域42には、仕切部材44が収容配置されている。仕切部材44は、厚肉の略円板形状を有しており、本実施形態では、仕切金具本体46と蓋金具48を備えている。
【0036】
仕切金具本体46は、全体として厚肉の略円板形状を有しており、その外周縁部が下方に向かって突出せしめられている。また、仕切金具本体46の径方向中間部分には、周溝52が形成されている。周溝52は、仕切金具本体46の上面に開口する凹溝であって、周方向に所定の長さで延びるように形成されている。
【0037】
また、仕切金具本体46の径方向中央部分には、上方に向かって開口する円形の中央凹所54が形成されていると共に、中央凹所54の底壁部の中央を貫通する中央孔56が形成されている。中央孔56は、一定の円形断面を有しており、仕切金具本体46の径方向中央部分を貫通するように形成されている。更に、中央孔56の開口周縁部には、蓋突条58が仕切金具本体46と一体形成されている。蓋突条58は、周方向に延びる円環形状を有しており、中央凹所54の底壁部の内周縁部から上方に向かって突出せしめられている。なお、仕切金具本体46の内周縁部に蓋突条58が設けられることにより、蓋突条58と中央凹所54の壁部の協働によって、周方向に全周に亘って延びて上方に向かって開口する凹溝が設けられている。
【0038】
一方、蓋金具48は、薄肉大径の板状とされており、本実施形態では、中央部分が外周部分よりも上方に位置せしめられた段付きの円板形状を有している。また、蓋金具48の径方向中央部分には、貫通孔60が形成されている。貫通孔60は、仕切金具本体46の中央孔56と略等しい直径で形成された円形の孔であって、蓋金具48の径方向中央部分を板厚方向で貫通するように形成されている。また、貫通孔60の開口周縁部には、支持突条62が一体形成されている。支持突条62は、全周に亘って延びる円環形状を有しており、蓋金具48の内周縁部から下方に向かって突出するように形成されている。
【0039】
そして、蓋金具48は、仕切金具本体46の上端面に対して上方から重ね合わされて組み合わされている。これにより、仕切金具本体46の上端面に開口するように形成された周溝52の上側開口部が蓋金具48で覆蓋されて、周方向に所定の長さで延びるトンネル状の流路が形成されている。
【0040】
また、これら仕切金具本体46と蓋金具48の間には、可動ゴム膜64が配設されている。可動ゴム膜64は、図2〜4に示されているように、略円板形状のゴム弾性体で形成されており、外周縁部には、中央部分に比して厚肉とされた環状支持部66が一体形成されている。
【0041】
さらに、可動ゴム膜64には、短絡スリット72が形成されている。本実施形態における短絡スリット72は、可動ゴム膜64の中心を通るように径方向一方向で直線的に延びて、可動ゴム膜64を板厚方向に貫通する切込みであって、可動ゴム膜64の外周縁部に形成された環状支持部66に対して僅かに内周側に離隔した位置に形成されている。
【0042】
更にまた、短絡スリット72の長手方向両側には、補強部74,74が形成されている。補強部74は、平面視で略半円形状を呈しており、可動ゴム膜64の中央部分における他の部分よりも厚肉とされている。特に本実施形態では、補強部74において可動ゴム膜64が部分的に下方に突出せしめられることにより厚肉となっており、補強部74の下端面が軸直角方向に広がる略平坦面とされている。
【0043】
また、可動ゴム膜64の補強部74には、亀裂防止孔76が形成されている。亀裂防止孔76は、可動ゴム膜64における一対の補強部74,74の形成部位にそれぞれ貫通形成された小径の円形孔であって、短絡スリット72の長手方向両側に形成されている。また、本実施形態では、短絡スリット72の長手方向両端部が亀裂防止孔76,76に至るように形成されている。
【0044】
そして、このような本実施形態に係る可動ゴム膜64は、仕切金具本体46と蓋金具48の間で挟持されて、それら金具46,48に組み付けられている。即ち、可動ゴム膜64が仕切金具本体46の中央部分に形成された中央凹所54に嵌め付けられて、可動ゴム膜64の外周縁部に設けられた環状支持部66が中央凹所54の周壁部と蓋突条58の径方向間で位置決め支持されると共に、仕切金具本体46と仕切金具本体46に対して上方から重ね合わされる蓋金具48との間で環状支持部66が挟み込まれることにより、可動ゴム膜64が仕切金具本体46と蓋金具48に対して固定的に取り付けられている。
【0045】
かかる可動ゴム膜64の仕切金具本体46および蓋金具48への組付け状態下においては、仕切金具本体46に形成された中央孔56と蓋金具48に形成された貫通孔60が、可動ゴム膜64によって遮断されている。これにより、可動ゴム膜64を備えた本実施形態に係る仕切部材44が構成されている。
【0046】
また、仕切金具本体46の内周縁部に設けられた蓋突条58の突出先端面が、亀裂防止孔76に対して下方から重ね合わされることにより、可動ゴム膜64の仕切金具本体46及び蓋金具48への組付け状態下において亀裂防止孔76が閉塞されている。特に本実施形態では、可動ゴム膜64における亀裂防止孔76,76の形成部分に、後述する平衡室80側に突出する補強部74,74が形成されており、可動ゴム膜64の周上において補強部74,74の形成部分が蓋突条58に当接せしめられると共に、補強部74,74を外れた外周部分が蓋突条58に対して上方に離隔位置せしめられるようになっている。
【0047】
このような構造とされた仕切部材44は、第二の取付金具14に支持されて流体封入領域42に収容配置されている。即ち、ダイヤフラム34が第二の取付金具14に組み付けられる前に、仕切部材44が第二の取付金具14に対して下側開口部から挿し入れられて、第二の取付金具14に設けられた段差部26に対してシールゴム層32を介して下方から当接せしめられる。そして、第二の取付金具14に対して八方絞り等の縮径加工を施すことにより、仕切部材44が第二の取付金具14に対して内嵌固定されて支持されるようになっている。なお、本実施形態では、仕切部材44が第二の取付金具14に組み付けられた状態で、ダイヤフラム34が第二の取付金具14に対して組み付けられるようになっており、かしめ部40の内周縁部上面が仕切金具本体46の外周縁部下面に当接せしめられることにより、ダイヤフラム34と仕切部材44が相対的に位置合わせされると共に、仕切部材44が段差部26と固定金具36の軸方向間で挟み込まれて位置決めされるようになっている。
【0048】
また、仕切部材44がシールゴム層32を介して第二の取付金具14で支持されることにより、仕切部材44と第二の取付金具14の間が流体密にシールされた状態で、仕切部材44が第二の取付金具14に対して組み付けられている。これにより、仕切部材44が流体封入領域42内に収容配置された組付け状態下においては、流体封入領域42が仕切部材44を挟んだ両側に二分されている。そして、仕切部材44を挟んだ一方の側(図1中、上)に、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動の入力に際して圧力変動が及ぼされる受圧室78が形成されていると共に、仕切部材44を挟んだ他方の側(図1中、下)に、壁部の一部がダイヤフラム34で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室80が形成されている。
【0049】
また、仕切部材44が第二の取付金具14に対して組み付けられた状態においては、可動ゴム膜64の一方の面に対して蓋金具48に形成された貫通孔60を通じて受圧室78内の圧力が及ぼされるようになっていると共に、他方の面に対して仕切金具本体46に形成された中央孔56を通じて平衡室80内の圧力が及ぼされるようになっている。これにより、可動ゴム膜64が受圧室78と平衡室80の相対的な圧力差に基づいて弾性変形せしめられるようになっており、後述する中乃至高周波小振幅振動の入力に際して受圧室78に及ぼされる圧力変動を平衡室80側に逃して吸収する液圧吸収機構が、可動ゴム膜64によって構成されている。なお、振動の非入力状態下では、可動ゴム膜64自体の弾性によって可動ゴム膜64に形成された短絡スリット72が閉塞状態に保持されるようになっている。
【0050】
また、周溝52の開口部を蓋金具48で覆うことにより形成されるトンネル状の流路は、その一方の端部が蓋金具48に形成された図示しない連通孔を通じて受圧室78に連通せしめられると共に、他方の端部が仕切金具本体46に形成された図示しない連通孔を通じて平衡室80に連通せしめられる。これにより、仕切部材44に形成された周溝52を利用して、受圧室78と平衡室80を相互に連通するオリフィス通路82が形成されている。
【0051】
なお、本実施形態におけるオリフィス通路82は、内部を流動せしめられる流体の共振周波数が10Hz程度の低周波数域となるようにチューニングされており、自動車のエンジンシェイク等に相当する低周波数振動に対して、オリフィス通路82を通じて流動する流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるようになっている。このようなオリフィス通路82のチューニングは、オリフィス通路82の通路長と通路断面積の比を適当に調節することにより、設定することが出来る。
【0052】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント10は、第一の取付金具12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が図示しない車両ボデーに取り付けられた車両への装着される。そして、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に主たる振動入力方向である上下方向で振動荷重が入力されると、流体の流動作用等に基づいて目的とする防振効果が発揮されるようになっている。
【0053】
すなわち、自動車の走行時等において、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に入力されると、本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられて、受圧室78内に圧力変動が及ぼされる。これにより、エンジンシェイク等に相当する低周波数域にチューニングされたオリフィス通路82を通じて、受圧室78と平衡室80の間で封入流体が流動せしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づいた高減衰効果等の防振効果が有効に発揮される。なお、低周波数域の振動入力に際しては、入力振動の振幅が大きいことから、可動ゴム膜64の微小な弾性変形による液圧吸収効果が有効に発揮されない。それ故、受圧室78に充分な内圧変動が及ぼされて、オリフィス通路82を通じての流体流動を有利に生ぜしめることが出来る。
【0054】
一方、自動車の停車時等において、アイドリング時振動などの中乃至高周波小振幅振動が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に入力されると、受圧室78と平衡室80の間で相対的な圧力差が生ぜしめられて、かかる圧力差に基づいて可動ゴム膜64が微小変形せしめられる。そして、可動ゴム膜64の微小変形によって受圧室78内の液圧が平衡室80側に伝達される。これにより、可動ゴム膜64の微小な弾性変形による液圧吸収作用に基づいた低動ばね効果等の防振効果が有効に発揮される。
【0055】
なお、本実施形態において、防振対象となる通常の振動荷重が入力されることにより可動ゴム膜64が微小変形せしめられた場合には、可動ゴム膜64に形成された短絡スリット72が閉塞状態に保持されるようになっている。
【0056】
さらに、自動車の走行時における段差の乗越え等により、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に衝撃的な振動荷重が入力されて、受圧室78内の圧力が大幅に低下せしめられると、可動ゴム膜64に形成された短絡スリット72が開口せしめられるようになっている。即ち、受圧室78内が大幅に減圧されると、受圧室78内の負圧が可動ゴム膜64に及ぼされて、可動ゴム膜64に対して受圧室78側への吸引力が作用する。かかる吸引力によって可動ゴム膜64は、受圧室78側に向かって弾性変形せしめられて受圧室78側に吸引変位せしめられる。これにより、短絡スリット72が開口せしめられて、短絡スリット72を通じて受圧室78と平衡室80が相互に連通せしめられる。
【0057】
このように、受圧室78内の圧力が大きく低下して、可動ゴム膜64が受圧室78側に向かって弾性変形せしめられると、可動ゴム膜64に形成された短絡スリット72が開口せしめられて、受圧室78と平衡室80が短絡スリット72を通じて相互に連通せしめられる。これにより、受圧室78と平衡室80の間で短絡スリット72を通じての流体流動が生ぜしめられて、受圧室78内の負圧が可及的速やかに解消される。従って、受圧室78内の圧力低下に起因すると考えられる異音や振動の発生を効果的に防ぐことが出来る。
【0058】
なお、以上の説明からも明らかなように、受圧室78に作用する圧力に応じて短絡スリット72の遮断状態と連通状態が切り替えられるようになっており、可動ゴム膜64の弾性を利用して本実施形態における弁機構が構成されている。
【0059】
ここにおいて、本実施形態に従う構造のエンジンマウント10では、可動ゴム膜64に形成された短絡スリット72の長手方向両側に亀裂防止孔76が形成されており、短絡スリット72が亀裂防止孔76に至る長さで形成されている。これにより、短絡スリット72の開閉に伴って短絡スリット72の長手方向両端部で亀裂が生じるのを防いで、可動ゴム膜64の耐久性の向上を図ることが出来る。特に本実施形態では、亀裂防止孔76が厚肉とされた補強部74を貫通するように形成されており、短絡スリット72の端部付近における亀裂の発生がより有利に防がれるようになっている。
【0060】
しかも、本実施形態では、可動ゴム膜64の仕切部材44への組付け状態下において、亀裂防止孔76が仕切金具本体46の内周縁部に設けられた蓋突条58で覆われて遮断されている。これにより、亀裂防止孔76を通じて受圧室78と平衡室80の間で流体が流動せしめられるのを防いで、振動入力時において受圧室78内に内圧変動を有利に惹起せしめることが出来る。それ故、オリフィス通路82を通じての流体流動を有利に実現して、目的とする防振効果を有効に得ることが出来る。
【0061】
特に本実施形態では、亀裂防止孔76が平衡室80側から重ね合わされる蓋突条58で覆蓋されている。これにより、受圧室78内に正圧の圧力変動が及ぼされた場合には、可動ゴム膜64の弾性変形によって亀裂防止孔76の平衡室80側の開口部が蓋突条58に対して押し当てられて、亀裂防止孔76の遮断状態が有利に維持されるようになっている。従って、受圧室78に正圧の圧力変動が及ぼされた場合には、オリフィス通路82を通じての流体流動量が有利に確保されて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるようになっている。
【0062】
さらに、可動ゴム膜64における補強部74,74に対して平衡室80側から当接するように蓋突条58が設けられていることにより、可動ゴム膜64が平衡室80側から支持されて、可動ゴム膜64の平衡室80側への弾性変形が制限されている。これによって、短絡スリット72が有利に閉塞状態に保持されることから、受圧室78に惹起される正圧が短絡スリット72を通じて平衡室80側に逃されるのが有利に防がれ得て、目的とする防振効果がより有利に実現され得る。
【0063】
更にまた、本実施形態においては、蓋金具48の内周縁部に形成された支持突条62が、可動ゴム膜64における環状支持部66よりも中央側の部分に対して受圧室78側に離隔位置せしめられている。そして、衝撃的な振動荷重の入力によって受圧室78に負圧が及ぼされて、可動ゴム膜64が受圧室78側に向かって突出するように弾性変形せしめられた場合にも、支持突条62の突出先端(平衡室80側端部)の可動ゴム膜64に対する接触が防がれるようになっている。これにより、支持突条62の接触による可動ゴム膜64の損傷を防いで、可動ゴム膜64の耐久性の向上を有利に図ることが出来る
【0064】
なお、本実施形態では、蓋突条58が亀裂防止孔76の平衡室80側の開口部に重ね合わされて、該開口部が蓋突条58で覆われることにより、可動ゴム膜64の仕切部材44への組付け状態下において亀裂防止孔76が閉塞されている。このように本実施形態では、亀裂防止孔76の形成部位において、可動ゴム膜64が蓋突条58に対して拘束されることなく離隔可能に組み付けられている。これにより、衝撃的な振動荷重の入力によって受圧室78内に所定の負圧が惹起されて、可動ゴム膜64が受圧室78側に向かって大きく突出するように弾性変形せしめられると、亀裂防止孔76の平衡室80側の開口部と蓋突条58との当接状態が解除されて、亀裂防止孔76を通じて受圧室78と平衡室80の間での流体流動が生ぜしめられるようになっている。それ故、短絡スリット72を通じての流体流動と、亀裂防止孔76を通じての流体流動によって受圧室78内の負圧がより迅速に解消されて、キャビテーションに起因する異音や振動の発生を一層有利に防ぐことが出来る。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0066】
例えば、前記実施形態では、亀裂防止孔76の平衡室80側の開口部に対して蓋突条58の上端面が重ね合わされることにより、亀裂防止孔76が閉塞されるようになっている。しかしながら、亀裂防止孔76は、必ずしも前記実施形態に示されているような環状の蓋突条58によって閉塞されるようになっていなくても良い。具体的には、例えば、仕切金具本体46の内周縁部から受圧室78側に向かって突出する一対の突起を径方向で対向位置するように設けて、該突起を可動ゴム膜64に形成された亀裂防止孔76に対して平衡室80側から挿し込むことにより、亀裂防止孔76が閉塞されるようにすることも出来る。これによれば、亀裂防止孔76が安定して閉塞状態に保持されて、防振特性の安定化を図ることが出来る。
【0067】
さらに、前記実施形態では、仕切部材44に一体形成された蓋突条58が亀裂防止孔76に対して平衡室80側から重ね合わされることにより、亀裂防止孔76が遮断されるようになっているが、亀裂防止孔76は必ずしも蓋突条58で平衡室80側の開口部が覆われることによって遮断されていなくても良い。具体的には、例えば、亀裂防止孔76の受圧室78側の開口部が閉塞されることにより亀裂防止孔76が遮断されるようになっていても良いし、亀裂防止孔76の受圧室78側と平衡室80側の両側開口部が閉塞されることにより亀裂防止孔76が遮断されるようになっていても良い。
【0068】
また、前記実施形態においては、短絡スリット72が直線的に延びる切込みとして形成されていたが、短絡スリットは必ずしも直線的に延びている必要はなく、例えば、湾曲や屈曲等して延びる切込みとされていても良い。更に、可動ゴム膜64に複数の短絡スリットが形成されていても良く、例えば、可動ゴム膜64の径方向一方向で直線的に延びる短絡スリット72が二条以上形成されており、それら複数の短絡スリット72が互いに異なる径方向で延びるように形成されて、十文字状や放射状に設けられていても良い。
【0069】
さらに、前記実施形態では、可動ゴム膜64において補強部74,74や環状支持部66を外れた径方向中央部分が略一定の板厚で形成されているが、例えば、内周側に行くに従って次第に板厚寸法が大きくなる等、可動ゴム膜の板厚が径方向や周方向で変化せしめられていても良い。
【0070】
また、前記実施形態では、低周波数域にチューニングされたオリフィス通路82を備えた構造のエンジンマウント10が示されているが、例えば、エンジンシェイク等に相当する低周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路と、アイドリング時振動等に相当する中周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路を備えた構造の流体封入式防振装置等、各種公知の構造の流体封入式防振装置に対して、本発明は適用可能である。
【0071】
また、前記実施形態では、本発明を自動車用のエンジンマウントに適用した例を示したが、本発明は、例えばサブフレームマウント等、エンジンマウント以外の流体封入式防振装置に適用することも出来る。なお、本発明が自動車以外に用いられる流体封入式防振装置に対しても適用可能であることは言うまでもない。
【0072】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2におけるI−I線断面図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントを構成する可動ゴム膜を示す底面図。
【図3】図2に示された可動ゴム膜のIII−III線断面図。
【図4】図2に示された可動ゴム膜のIV−IV線断面図。
【符号の説明】
【0074】
10:エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16本体ゴム弾性体,34:ダイヤフラム,42:流体封入領域,44:仕切部材,64:可動ゴム膜,66:環状支持部,72:短絡スリット,74:補強部,76:亀裂防止孔,78:受圧室,80:平衡室,82:オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材が筒状部を有する第二の取付部材の一方の開口部側に離隔配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されることにより、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、それら本体ゴム弾性体と可撓性膜の間に外部から密閉されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されると共に、該第二の取付部材で支持される仕切部材によって該流体室が二分されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部を該本体ゴム弾性体で構成した受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部を該可撓性膜で構成した平衡室が形成されて、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成された流体封入式防振装置において、
前記仕切部材に可動ゴム膜が組み付けられており、該可動ゴム膜の一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされてこれら受圧室と平衡室の圧力差に基づく該可動ゴム膜の弾性変形によって該受圧室の圧力変動を吸収する液圧吸収機構が構成されていると共に、
該可動ゴム膜の中央部分には所定長さで延びる短絡スリットが該可動ゴム膜を貫通して形成されており、
該可動ゴム膜の弾性に基づいて該短絡スリットが閉塞状態に保持されると共に、振動入力時に該受圧室に対して所定の負圧が惹起されて該可動ゴム膜が該受圧室側に向かって弾性変形せしめられることにより連通状態とされる弁機構が構成されており、更に、
該短絡スリットの両端部分には、該可動ゴム膜を厚さ方向に貫通する亀裂防止孔が形成されていると共に、該可動ゴム膜の該仕切部材への組付状態下では該亀裂防止孔が閉塞されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記短絡スリットの両端部分において他の部分よりも厚肉とされた補強部が前記可動ゴム膜に設けられており、該補強部を貫通するように前記亀裂防止孔が形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動ゴム膜の前記仕切部材への組付け状態下において前記亀裂防止孔の前記平衡室側の開口部が閉塞されるようになっている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記短絡スリットが前記可動ゴム膜の中心を通って直線的に延びている請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記可動ゴム膜の外周縁部が前記仕切部材で支持されていると共に、該仕切部材が該可動ゴム膜に形成された前記亀裂防止孔の開口部に重ね合わされることにより該亀裂防止孔が閉塞されている請求項1乃至4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−249076(P2008−249076A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93498(P2007−93498)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】