説明

流体封入式防振装置

【課題】部品点数の少ない簡単な構造によって、通常振動の入力時のオリフィス通路による防振効果と、大荷重入力時のキャビテーション異音の低減効果が、何れも有効に発揮される、新規な構造の流体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】仕切部材44が第2の取付部材14で支持される支持部材46と支持部材46から軸方向に突出する弾性シール部58とを有していると共に、弾性シール部58が可撓性膜32に固着された固定部材36に対して軸方向で当接されることにより、オリフィス通路72が弾性シール部58によって平衡室66から隔てられている。弾性シール部58の固定部材36への当接端部には弾性弁部74が設けられており、弾性弁部74が固定部材36への当接側に行くに従って次第にオリフィス通路72側に傾斜するテーパ形状とされていると共に、弾性弁部74が固定部材36に対して軸方向で押し当てられて弾性変形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウント等に用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置としては、第1の取付部材と第2の取付部材を本体ゴム弾性体によって弾性連結した構造を有するものがある。また、防振装置の一種として、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて発揮される防振効果を利用する流体封入式防振装置も知られている。この流体封入式防振装置は、第2の取付部材で支持された仕切部材の両側に壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室の各一方が形成されており、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成された構造を有している(特開2004−251431号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
ところで、流体封入式防振装置では、衝撃的な大荷重の入力時にキャビテーションに起因して発生する異音が問題となっている。即ち、衝撃的な大荷重が第1の取付部材と第2の取付部材の間に入力されると、受圧室に著しい負圧が作用することで受圧室内にキャビテーションに起因する気泡が発生して、かかる気泡が消失する際に異音が発生するのである。
【0004】
そこで、特許文献1では、受圧室の負圧を平衡室に逃がすためのリリーフ機構が設けられている。即ち、受圧室にキャビテーションが問題となる程の過大な負圧が及ぼされると、オリフィス通路と平衡室とを隔てる弾性壁が弾性変形して、平衡室とオリフィス通路が短絡されて、受圧室と平衡室の間で流体が流動し易くなる。その結果、受圧室の負圧が速やかに低減されて、キャビテーション異音が回避される。また、弾性壁の内周側に剛性壁が設けられており、弾性壁の内周側への変形が剛性壁への当接によって阻止されるようになっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された構造では、受圧室の負圧の大きさに対して弾性壁の弾性変形量を調節することが難しく、意図しない開作動によって防振性能が低下したり、リーク量が不充分となって異音の低減効果が有効に発揮されないといった不具合も生じ得る。
【0006】
また、特許文献1の構造では、平衡室とオリフィス通路を隔てる壁部が可動ゴム膜と剛性壁の軸方向での圧接によってシールされており、そのシール部分が弾性壁よりも内周側に設定されている。それ故、弾性壁が外周側に弾性変形しても充分なリーク量が得られず、キャビテーションに起因する異音の防止が実現されないおそれがある。
【0007】
しかも、弾性壁の内周面が剛性壁に重ね合わされており、弾性壁の内周面には平衡室の液圧が及ぼされ難いことから、受圧室の負圧が弾性壁の外周面に作用しても弾性壁の外周側への充分な弾性変形は生じ難く、リーク量が確保されない場合がある。
【0008】
加えて、特許文献1の構造では、通常の振動入力時に平衡室とオリフィス通路を隔てる壁部の流体密性を確保するためには、特別な剛性壁を設ける必要があり、構造の複雑化を避け難いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−251431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、部品点数の少ない簡単な構造によって、通常の振動入力時に平衡室とオリフィス通路の独立性が安定して確保されると共に、キャビテーションが問題になる程の過大な負圧が受圧室に及ぼされた場合に、平衡室とオリフィス通路が確実に短絡されて受圧室の負圧が充分に低減される、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されていると共に、他方の側に壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室がオリフィス通路によって連通されている流体封入式防振装置において、前記仕切部材が前記第2の取付部材で支持される支持部材と該支持部材から軸方向に突出する弾性シール部とを有していると共に、前記可撓性膜の外周部分には該第2の取付部材によって支持される固定部材が固着されており、該弾性シール部が該固定部材に軸方向で当接されることにより該オリフィス通路が該弾性シール部によって前記平衡室から隔てられている一方、該弾性シール部の該固定部材への当接端部に弾性弁部が設けられており、該弾性弁部が該固定部材への当接側に行くに従って次第に該オリフィス通路側に傾斜するテーパ形状とされていると共に、該弾性弁部が該固定部材に対して軸方向で押し当てられて弾性変形されていることを特徴とする。
【0012】
このような本発明の第1の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、平衡室とオリフィス通路を隔てる弾性シール部に弾性弁部が設けられて、第2の取付部材によって支持される可撓性膜の固定部材に対して軸方向で押し当てられている。これにより、振動の非入力時および通常の振動入力時には、オリフィス通路が平衡室に対して流体密に仕切られて流路長および流路断面積が保持されることで、目的とする防振効果が有効な発揮される。一方、衝撃的な大荷重の入力によって受圧室に過大な負圧が発生すると、弾性弁部がオリフィス通路側に倒れ込むように弾性変形されることで、オリフィス通路の平衡室への開口面積が大きくなって、オリフィス通路が平衡室に短絡される。これにより、平衡室から受圧室への流体の流入量が増加して、受圧室の負圧が速やかに低減乃至は解消されることから、キャビテーションに起因する異音の発生を抑えることができる。
【0013】
また、弾性弁部は、先端に向かってオリフィス通路側に傾斜するテーパ形状とされていると共に、固定部材に対して軸方向で押し当てられて予め弾性変形されている。それ故、受圧室に正圧が及ぼされた場合には、受圧室の液圧がオリフィス通路を通じて弾性弁部に作用することで、弾性弁部が固定部材により強く押し当てられて、オリフィス通路と平衡室の短絡が防止される。一方、受圧室に負圧が及ぼされた場合には、受圧室の液圧がオリフィス通路を通じて弾性弁部に作用することで、弾性弁部に固定部材から離隔する方向の力が作用して、弾性弁部が固定部材から速やかに離隔することでオリフィス通路と平衡室が短絡される。このように、弾性弁部の形状と、弾性弁部の固定部材への当接方向を工夫することで、弾性弁部の閉鎖状態での維持と開放状態への切替えが何れも安定して実現されているのである。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記支持部材が環状とされていると共に、該支持部材の中心孔を閉塞するように可動膜が設けられており、該可動膜の外周部分に前記弾性シール部が一体形成されて該支持部材に固着されているものである。
【0015】
第2の態様によれば、弾性シール部が可動膜と一体形成されることによって、防振性能の向上と、キャビテーション異音の防止が、少ない部品点数で実現される。
【0016】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記支持部材における前記弾性シール部の固着部分が、軸方向両側で前記可動膜よりも外方に突出して設けられているものである。
【0017】
第3の態様によれば、支持部材が可動膜よりも軸方向(可動膜の厚さ方向)で両側に突出して弾性シール部に固着されており、支持部材を更に軸方向外側に外れた部分に弾性弁部が設けられている。それ故、弾性シール部が可動膜と一体形成された構造において、可動膜に作用する力の弾性弁部への伝達が支持部材によって防止される。それ故、可動膜の弾性変形が弾性弁部の開閉作動に影響するのを防ぐことができて、優れた防振効果とキャビテーション異音の防止効果が何れも有効に発揮される。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性弁部が前記固定部材への当接側に向かって薄肉とされているものである。
【0019】
第4の態様によれば、基端部分が比較的に厚肉とされていることによって、意図しない開作動を防止することができて、目的とする防振性能を実現することができる。一方、先端部分が徐々に薄肉となっていることによって、受圧室への過大な負圧の作用時には先端部分が弾性変形してオリフィス通路と平衡室の短絡が充分な開口面積で実現される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、受圧室に過大な負圧が及ぼされた場合に、弾性弁部の弾性変形によって、オリフィス通路と平衡室が短絡されて、受圧室の負圧が速やかに解消される。しかも、弾性弁部が先端側に向かってオリフィス通路側に傾斜するテーパ形状とされていることで、受圧室の負圧が弾性弁部を固定部材から離隔させる方向で作用して、弾性弁部の開作動によるオリフィス通路と平衡室の短絡が効率的に実現される。加えて、受圧室に正圧が作用した場合には、弾性弁部が固定部材側により強く押し当てられることから、弾性弁部が閉状態に保持されて、オリフィス通路による防振効果が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の1実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントを構成する仕切部材の斜視図。
【図3】図2に示された仕切部材の平面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】図1に示されたエンジンマウントの要部を拡大して示す縦断面図であって、(a)が振動の非入力状態乃至は通常の振動入力状態を、(b)が大荷重の入力によって受圧室に過大な負圧が作用した状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の1実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、所謂吊下げ型のものであって、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として図1中の上下方向を言う。
【0024】
より詳細には、第1の取付部材12は、小径の略円柱形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされている。また、第1の取付部材12の下部には、中心軸上を延びて下面に開口するねじ孔18が形成されており、内周面にねじ山が刻設されている。更に、第1の取付部材12の上部には、上面に開口する肉抜凹所20が形成されており、第1の取付部材12の軽量化や後述する受圧室64の容積確保が実現されている。なお、第1の取付部材12の上端部には、外周面に突出するフランジ状部22が一体形成されている。
【0025】
第2の取付部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、第1の取付部材12と同様に高剛性の部材とされている。また、第2の取付部材14の下端部は、下方に行くに従って次第に縮径するテーパ形状を有する固着部24とされている。更に、第2の取付部材14の上端部には、フランジ状の段差部26が設けられており、段差部26の外周端部に筒状のかしめ片28が一体形成されて上方に向かって突出している。
【0026】
そして、第1の取付部材12が第2の取付部材14の下側開口部に挿入されて、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、略円錐台形状を呈するゴム弾性体であって、下面が下方に凹となる湾曲面とされていることによって、縦断面でハの字形状とされている。かかる形状とされた本体ゴム弾性体16は、内周面が第1の取付部材12の上部外周面に重ね合わされて固着されていると共に、外周面が第2の取付部材14の固着部24の内周面に重ね合わされて固着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16は、第1の取付部材12と第2の取付部材14に対してそれぞれ加硫接着されており、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12および第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0027】
さらに、第2の取付部材14の内周面上には、シールゴム層30が被着形成されている。シールゴム層30は、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のゴム層であって、本体ゴム弾性体16の外周端部から上方に延び出して第2の取付部材14の上部の内周面を被覆している。
【0028】
また、第2の取付部材14には、可撓性膜32が取り付けられている。可撓性膜32は、上方に凸の略ドーム形状を呈する薄肉のゴム膜であって、外周部分が固定部材36に加硫接着されている。固定部材36は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、上方に向かって次第に小径となっており、上端部分から内周側に突出する内フランジ部38を一体的に備えていると共に、下端部から外周側に突出するフランジ状のかしめ部40を一体的に備えている。なお、本実施形態では、可撓性膜32が固定部材36を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、可撓性膜32の外周部分が固定部材36のかしめ部40を除く略全体に対して固着されており、固定部材36がゴム弾性体で覆われている。
【0029】
そして、固定部材36のかしめ部40が第2の取付部材14のかしめ片28でかしめ固定されて、固定部材36が第2の取付部材14によって支持されることにより、可撓性膜32の一体加硫成形品が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に取り付けられている。
【0030】
これにより、第2の取付部材14の下側開口部が第1の取付部材12および第2の取付部材14で閉塞されていると共に、第2の取付部材14の上側開口部が可撓性膜32で閉塞されており、本体ゴム弾性体16と可撓性膜32の軸方向間には外部から密閉されて非圧縮性流体が封入された流体封入領域42が形成されている。なお、流体封入領域42に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が採用される。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を有利に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
【0031】
また、流体封入領域42には、仕切部材44が配設されている。仕切部材44は、図2〜図4に示されているように、環状の支持部材46と、支持部材46の中心孔を閉塞する可動膜48を含んで構成されている。
【0032】
支持部材46は、略一定の断面形状で周方向に延びる硬質の部材であって、凹溝状の断面を有する溝状部50と、溝状部50の外周壁部の上端から外周側に突出する支持フランジ52を一体的に備えている。更に、溝状部50の内周壁部は、外周壁部よりも上方まで突出する固着壁部54とされている。
【0033】
また、支持部材46の内周側には可動膜48が配設されている。可動膜48は、略円板形状を呈するゴム膜であって、固着壁部54の軸方向中間において軸直角方向に広がっている。また、可動膜48の外周側には、略円筒形状の外周固着部56が、可動膜48よりも上下両側に突出するように一体形成されている。そして、外周固着部56が固着壁部54の内周面に重ね合わされて加硫接着されることによって、可動膜48が外周端部を支持部材46に支持されており、可動膜48の厚さ方向(軸方向)での弾性変形が許容されている。更に、外周固着部56の外周面の全体が支持部材46の固着壁部54に固着されており、固着壁部54が可動膜48よりも軸方向両側に突出して軸方向外側まで至っている。
【0034】
また、外周固着部56と一体形成された充填部58が、支持部材46の溝状部50の溝内に配設されて、溝状部50に加硫接着されている。更に、充填部58の周上の一部には、隔壁部60が一体形成されている。隔壁部60は、充填部58から軸方向上方に向かって突出して径方向に広がる板状乃至はブロック状のゴム弾性体であって、固定部材36と支持部材46の間に形成される空間が隔壁部60によって周上の一部で仕切られている
【0035】
また、可動膜48の外周側には弾性シール部62が一体形成されており、仕切部材44が弾性シール部62を含んで構成されている。弾性シール部62は、略円環状のゴム弾性体であって、支持部材46に固着される外周固着部56から軸方向上方に向かって突出している。なお、弾性シール部62は、可動膜48、外周固着部56、充填部58、隔壁部60と一体形成されており、支持部材46の固着壁部54に固着されている。
【0036】
そして、仕切部材44は、第2の取付部材14によって支持されて流体封入領域42に配設されている。即ち、仕切部材44は、支持部材46の支持フランジ52が第2の取付部材14のかしめ片28でかしめ固定されることによって、第2の取付部材14に固設されている。かかる仕切部材44の第2の取付部材14への組付け状態において、弾性シール部62が固定部材36に対して軸方向下方から押し当てられて、固定部材36と支持部材46の固着壁部54との軸方向間で挟み込まれており、弾性シール部62を挟んだ内周側と外周側が流体密に隔てられている。
【0037】
このように第2の取付部材14で支持された仕切部材44は、流体封入領域42内で軸直角方向に広がるように配置されており、流体封入領域42が仕切部材44を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材44よりも下方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室64が形成されている。仕切部材44よりも上方には、壁部の一部が可撓性膜32で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室66が形成されている。なお、受圧室64と平衡室66に流体封入領域42に封入された非圧縮性流体が封入されていることは言うまでもない。また、平衡室66が弾性シール部62よりも内周側に形成されることで、受圧室64と平衡室66が可動膜48を挟んで軸方向各一方の側に形成されており、可動膜48の一方の面に受圧室64の液圧が及ぼされていると共に、他方の面に平衡室66の液圧が及ぼされている。
【0038】
また、弾性シール部62が固定部材36に押し当てられることによって、弾性シール部62の外周側には、周方向に所定長さで延びるトンネル状流路が、固定部材36と支持部材46の間に形成されている。このトンネル状流路の周方向一方の端部が溝状部50の底壁部および充填部58に貫通形成された連通孔68を通じて受圧室64に連通されていると共に、周方向他方の端部が弾性シール部62を径方向に貫通する連通孔70を通じて平衡室66に連通されている。これにより、受圧室64と平衡室66を相互に連通するオリフィス通路72が、弾性シール部62の外周側を周方向に延びるように形成されている。なお、オリフィス通路72は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を受圧室64および平衡室66の壁ばね剛性に留意しながら調節することによって、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。また、平衡室66とオリフィス通路72は、連通孔70を外れた部分において、弾性シール部62によって相互に隔てられている。
【0039】
また、可動膜48には、下面に対して受圧室64の液圧が及ぼされていると共に、上面に対して平衡室66の液圧が及ぼされている。これにより、受圧室64と平衡室66の間で相対的な液圧差が生じた場合に、可動膜48が両室64,66間の液圧差に基づいて上下に弾性変形するようになっている。
【0040】
また、弾性シール部62の固定部材36への当接端部(上端部)には、弾性弁部74が設けられている。弾性弁部74は、図3,図4に示されているように、薄肉の板状を呈するゴム弾性体であって、支持部材46の固着壁部54を上方に外れた部分に設けられて、隔壁部60の形成部分を除いた略全周に亘って連続的に形成されている。また、弾性弁部74は、固定部材36に当接する前の単体において、上方(固定部材36への当接側)に行くに従って次第にオリフィス通路72側に傾斜するテーパ形状を有している。更に、基端部分が先端部分に比して厚肉とされていると共に、先端部分は略一定の厚さで延び出しており、全体として先端側に向かって薄肉となっている。また、弾性弁部74の突出先端面は、縦断面において半円状を呈する湾曲面とされている。なお、弾性弁部74の基端部分は、外周面が外周側に向かって凹となる湾曲面とされている。
【0041】
そして、弾性弁部74は、仕切部材44の第2の取付部材14への取付けによって固定部材36に対して軸方向で押し当てられており、弾性弁部74が固定部材36に対して流体密に当接されている。また、弾性弁部74が単体でテーパ形状とされていることから、図1に示されているように、弾性弁部74の先端部分の内周側の面が固定部材36の内フランジ部38に対して軸方向下方から押し当てられている。これにより、弾性弁部74が固定部材36への当接で外周側に倒れ込むように弾性変形されており、弾性弁部74がそれ自体の弾性に基づいて固定部材36への密着状態に保持されている。
【0042】
また、平衡室66とオリフィス通路72を径方向で隔てる壁部が弾性弁部74を含んだ弾性シール部62によって構成されており、弾性弁部74の内周面に平衡室66の液圧が及ぼされていると共に、弾性弁部74の外周面にオリフィス通路72を通じて受圧室64の液圧が及ぼされている。そこにおいて、弾性弁部74は、固定部材36に押し当てられて予め弾性変形されていることから、受圧室64と平衡室66の相対的な圧力差が小さい場合には、固定部材36に対して流体密に当接された状態で保持される。
【0043】
さらに、受圧室64の液圧が平衡室66の液圧に比して著しく低下すると、弾性弁部74の両面に作用する圧力の差に基づいて、弾性弁部74が外周側により大きく弾性変形される。これによって、弾性弁部74が固定部材36から下方に離隔して、平衡室66とオリフィス通路72を径方向に連通する短絡通路76が周上の広範囲に亘って形成される。
【0044】
なお、受圧室64の液圧が平衡室66の液圧に比して著しく上昇すると、弾性弁部74は内周側に弾性変形しようとするが、固定部材36に対して押し付けられる方向となることから、弾性弁部74の変形が固定部材36によって阻止される。これによって、短絡通路76は、弾性弁部74で遮断された状態に保持される。
【0045】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットが車両ボデーによって弾性支持されるようになっている。
【0046】
かくの如きエンジンマウント10の車両装着状態において、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室64と平衡室66の相対的な圧力差に基づいて、それら両室64,66間でオリフィス通路72を通じた流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0047】
このようなエンジンシェイクに相当する通常の低周波大振幅振動が入力された場合には、弾性弁部74が固定部材36への当接状態に保持されて、短絡通路76が弾性弁部74によって遮断されている。それ故、受圧室64の平衡室66に対する相対的な圧力変動が有効に惹起されて、オリフィス通路72を通じての流体流動が効率的に生じる結果、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。なお、縦断面形状において弾性弁部74の基端部分が比較的に厚肉とされていることにより、通常の振動入力時に弾性弁部74の弾性変形が抑えられて、弾性弁部74が短絡通路76を遮断する閉状態に保持される。
【0048】
また、アイドリング時振動や走行こもり音等の中乃至高周波数の小振幅振動が入力されると、オリフィス通路72が反共振的な作用によって実質的に閉塞される。同時に、可動膜48が上下に微小変形することによって、受圧室64の液圧が平衡室66に伝達されることで、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0049】
また、自動車の段差乗越え時等に衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室64に過大な負圧が及ぼされると、弾性弁部74がオリフィス通路72側に強く吸引されることで弾性変形(湾曲)して固定部材36から離隔する。これにより、弾性弁部74と固定部材36の間に短絡通路76が形成されて、短絡通路76を通じてオリフィス通路72が平衡室66に短絡される。そして、短絡通路76を通じて平衡室66から受圧室64に流体が流入することによって、受圧室64の負圧が速やかに低減されて、キャビテーション気泡とそれに伴う異音の発生が防止されるようになっている。以上より明らかなように、受圧室64の負圧を低減してキャビテーション異音を防止するためのリリーフ機構が、弾性弁部74を利用して構成されている。
【0050】
しかも、弾性弁部74が先端側に向かって受圧室64側に傾斜していることから、受圧室64の負圧がオリフィス通路72を通じて弾性弁部74の外周面に及ぼされると、弾性弁部74には径方向外向きの力と軸方向下向きの力が作用する。これにより、受圧室64に過大な負圧が及ぼされた場合に、弾性弁部74が固定部材36から速やかに軸方向で離隔して、受圧室64の負圧に起因するキャビテーション異音の発生が防止される。
【0051】
なお、受圧室64に正圧が及ぼされると、弾性弁部74に対して径方向内向きの力と軸方向上向きの力が作用する。従って、弾性弁部74を大きく弾性変形させ得る程の大荷重が入力されても、受圧室64に作用する圧力が正圧であれば、弾性弁部74が固定部材36に対してより強く押し当てられて、弾性弁部74が短絡通路76を遮断する遮断位置に保持されるようになっている。これにより、キャビテーション異音の発生が問題となり得ない正圧の作用時には、受圧室64の圧力が保持されてオリフィス通路72を通じての流体流動量が効率的に確保されることで、目的とする防振効果が有効に発揮されるようになっている。
【0052】
また、本実施形態のエンジンマウント10では、弾性弁部74が可動膜48の外周側に一体形成されていることから、部品点数を増やすことなく簡単な構造でリリーフ機構を実現することができる。しかも、リリーフ機構を構成する弾性弁部74は、平衡室66とオリフィス通路72を隔てるためのシール構造が従来から設けられていた部分に形成されており、構造の複雑化が回避されている。
【0053】
さらに、支持部材46の固着壁部54が可動膜48よりも軸方向両側まで突出して設けられており、固着壁部54が可動膜48から弾性弁部74への力の伝達経路上に位置している。これにより、可動膜48の弾性変形時に、弾性弁部74が開作動し難くなったり、意図せずに開作動してしまうといった不具合が防止される。要するに、液圧吸収機構の作動とリリーフ機構の作動が支持部材46の固着壁部54によって分離されて互いに独立して作動することから、防振効果と異音低減効果を何れも有効に発揮させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態において、弾性弁部74は周上で隔壁部60および連通孔70の形成部分を除いて平面視C字状に設けられていたが、弾性弁部は周上でより狭い領域(周方向長さ)で形成されていても良いし、周上で部分的に複数が設けられていても良い。
【0055】
また、可動膜48は必須ではなく、例えば、支持部材が略円板形状とされると共に、支持部材の径方向中間部分に弾性シール部62が設けられて、その固定部材36への当接側端部に弾性弁部74が設けられていても良い。更に、可動膜48に代えて、可動板構造を設けることも可能である。
【0056】
さらに、液圧吸収機能とリリーフ機能を分離するためには、支持部材46における弾性シール部62への固着部分が可動膜48よりも軸方向両側に突出していることが望ましいが、必須ではなく、例えば固着壁部54が軸方向で可動膜48の厚さ方向中間までしか延び出していなくても良い。また、支持部材は、必ずしも溝状部50を有していなくても良く、例えば鉤形断面を有する支持部材等も採用され得る。
【0057】
また、本発明は、前記実施形態に示された吊下げ型(倒立型)の流体封入式防振装置だけでなく、特開2009−243511号公報に示されているような、正立型の流体封入式防振装置にも適用され得る。
【0058】
さらに、本発明の適用範囲はエンジンマウントに限定されるものではなく、ボデーマウントやサブフレームマウント、デフマウント等にも適用され得る。更にまた、本発明に係る流体封入式防振装置は、自動車用だけではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等にも好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0059】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:第1の取付部材、14:第2の取付部材、16:本体ゴム弾性体、32:可撓性膜、36:固定部材、44:仕切部材、46:支持部材、48:可動膜、62:弾性シール部、64:受圧室、66:平衡室、72:オリフィス通路、74:弾性弁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されており、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されていると共に、他方の側に壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室がオリフィス通路によって連通されている流体封入式防振装置において、
前記仕切部材が前記第2の取付部材で支持される支持部材と該支持部材から軸方向に突出する弾性シール部とを有していると共に、前記可撓性膜の外周部分には該第2の取付部材によって支持される固定部材が固着されており、該弾性シール部が該固定部材に軸方向で当接されることにより該オリフィス通路が該弾性シール部によって前記平衡室から隔てられている一方、
該弾性シール部の該固定部材への当接端部に弾性弁部が設けられており、該弾性弁部が該固定部材への当接側に行くに従って次第に該オリフィス通路側に傾斜するテーパ形状とされていると共に、該弾性弁部が該固定部材に対して軸方向で押し当てられて弾性変形されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記支持部材が環状とされていると共に、該支持部材の中心孔を閉塞するように可動膜が設けられており、該可動膜の外周部分に前記弾性シール部が一体形成されて該支持部材に固着されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記支持部材における前記弾性シール部の固着部分が、軸方向両側で前記可動膜よりも外方に突出して設けられている請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記弾性弁部が前記固定部材への当接側に向かって薄肉とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255458(P2012−255458A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127445(P2011−127445)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】