説明

流体封入式防振装置

【課題】第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動に対する防振効果を、優れた信頼性で安定して得ることのできる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】仕切部材42の主液室58側に弾性隔壁62が配設されて、弾性隔壁62と仕切部材42の対向面間に空気室108が形成されており、仕切部材42に形成された連通路110の一方の端部が空気室108への連通口とされていると共に、連通路110の他方の端部が大気への開放口122とされて、連通路110の開放口122が可撓蓋体124によって覆蓋されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置に係り、特に内部に封入された流体の流動作用等に基づいた防振効果を利用する流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワーユニットと車両ボデー等の振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結乃至は防振支持する防振装置が知られている。防振装置は、振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられる第1の取付部材と、振動伝達系を構成する他方の部材に取り付けられる第2の取付部材とが、本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しており、自動車のエンジンマウント等として採用されている。
【0003】
また、防振装置の一種として、内部に非圧縮性流体が封入された流体封入領域が設けられており、流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果が発揮されるようにした流体封入式防振装置も知られている。この流体封入式防振装置は、第2の取付部材によって支持される仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された主液室と、壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室が形成されていると共に、それら主液室と副液室を相互に連通する第1のオリフィス通路が形成された構造を有している。
【0004】
ところで、流体封入式防振装置では、第1のオリフィス通路がチューニングされた周波数領域の入力振動に対して、流体の流動作用に基づく優れた防振効果が発揮される一方で、チューニング周波数を外れた入力振動に対しては、有効な防振効果が得られ難いという問題がある。特に、チューニング周波数よりも高周波数域では、反共振による第1のオリフィス通路の実質的な遮断によって、高動ばね化が問題になる。そこで、仕切部材における主液室の壁部の一部を構成する部分に弾性隔壁が設けられると共に、弾性隔壁を挟んで主液室と反対側に空気室が形成されており、空気室が連通路を通じて大気に開放された構成が採用される場合もある(特開2010−48350号公報(特許文献1)参照)。これによれば、弾性隔壁の弾性変形が、大気に開放された空気室によって充分に許容されて、振動入力による主液室の内圧変動が弾性隔壁の弾性変形によって吸収されることから、第1のオリフィス通路の実質的な遮断による高動ばね化が抑えられる。
【0005】
しかし、このように空気室が連通路を通じて大気に開放されていると、防振装置の装着状況等によっては、連通路の大気側開口部から砂礫や塵埃等の異物が侵入するおそれがあった。特に、連通路の経路上に断面積の小さな部分があると、侵入した異物が連通路を塞いで遮断することにより、目的とする防振性能が発揮され難くなるといった不具合が生じるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−48350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動に対する防振効果を、優れた信頼性で安定して得ることのできる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室が形成されていると共に、他方の側に壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室が形成されており、それら主液室と副液室を相互に連通する第1のオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、前記仕切部材の前記主液室側に弾性隔壁が配設されて、該弾性隔壁と該仕切部材の対向面間に空気室が形成されており、該仕切部材に形成された連通路の一方の端部が該空気室への連通口とされていると共に、該連通路の他方の端部が大気への開放口とされて、該連通路の該開放口が可撓蓋体によって覆蓋されていることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造の流体封入式防振装置によれば、連通路の開放口が可撓蓋体によって覆われていることによって、砂礫や塵埃等の異物が連通路および空気室に侵入するのを防ぐことができる。それ故、連通路の異物による狭窄や遮断等の不具合が回避されることから、空気室の圧力が略大気圧に維持されて、弾性隔壁の弾性変形が安定して許容される。その結果、第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の入力振動に対して、弾性隔壁の変形による液圧吸収作用に基づいた防振効果が、有効に発揮される。
【0010】
しかも、可撓蓋体が可撓性を有していることによって、連通路の開放口が可撓蓋体によって覆蓋されていても、可撓蓋体の変形によって空気室の圧力は略大気圧に維持される。それ故、弾性隔壁の弾性変形が、連通路の開放口が覆蓋されることなく大気に連通されている場合に比して、同程度に許容されて、液圧吸収作用に基づく防振効果を有効に得ることができる。
【0011】
なお、可撓蓋体の弾性を調節することによって、空気室の容積変化に対する空気室の圧力変動の特性をコントロールして、防振特性(第1のオリフィス通路がチューニングされた周波数領域の振動に対する防振性能と、第1のオリフィス通路がチューニングされた周波数領域よりも高周波数の振動に対する防振性能のバランス等)を調節することもでき得る。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可撓蓋体が環状ゴム帯で形成されていると共に、前記連通路の前記開放口が前記仕切部材の外周面に開口しており、該環状ゴム帯が該仕切部材の外周に装着されて該開放口が該環状ゴム帯で覆われているものである。
【0013】
第2の態様によれば、環状ゴム帯は、それ自体の弾性によって仕切部材に対して簡易に位置決めされることから、仕切部材の所定位置への装着作業を容易に行うことができる。また、環状ゴム帯をそれ自体の弾性によって仕切部材の外周に密着させることによって、連通路の開放口を接着等の手段を用いることなくある程度のシール性をもって覆蓋することもできる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された流体封入式防振装置において、大気に対して前記可動蓋体で仕切られた内部空間が形成されていると共に、前記連通路の前記開放口が該内部空間に開口されており、該内部空間と前記空気室が該連通路を通じて相互に連通されているものである。
【0015】
第3の態様によれば、連通路の開放口が内部空間に開口していることによって、連通路の開放口と可撓蓋体が所定の距離を隔てて配置されることから、可撓蓋体の変形が内部空間によって充分に許容される。それ故、内部空間が可撓蓋体の変形によって略大気圧に維持されて、連通路を通じて内部空間と連通される空気室が略大気圧に維持されることにより、弾性隔壁の弾性変形が空気室の圧力で阻害されることなく許容される。その結果、弾性隔壁の弾性変形による液圧吸収作用が有効に発揮されて、第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動入力に対して、目的とする防振効果(低動ばね効果)を得ることができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可撓蓋体が前記連通路の前記開放口から外側に向かって凸とされており、該可撓蓋体と該開放口の間に前記内部空間が形成されているものである。
【0017】
第4の態様によれば、可撓蓋体が外側に向かって凸形状とされて弛みを有していることにより、弾性隔壁の弾性変形時に可撓蓋体の変形がより容易に生じて、空気室の圧力変化が抑えられる。また、空気室の容積が増大するように弾性隔壁が変形した場合には、可撓蓋体が外側に向かって凸形状であることによって、可撓蓋体が連通路の開放口に密着するのが防止されて、可撓蓋体の変形が充分に許容されることにより空気室の圧力が略大気圧に維持される。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記主液室には隔壁部材が配設されており、該主液室が該隔壁部材を挟んで二分されて、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部が前記弾性隔壁で構成された中間室とが、該隔壁部材を挟んで形成されていると共に、それら受圧室と中間室とを連通する第2のオリフィス通路が形成されて、該第2のオリフィス通路が前記第1のオリフィス通路よりも高周波数にチューニングされているものである。
【0019】
第5の態様によれば、第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動の入力に対して、第2のオリフィス通路を通じて受圧室と中間室の間で流体流動が生じることにより、流体の流動作用に基づいた防振効果が発揮される。また、中間室の壁部の一部が弾性隔壁によって構成されており、弾性隔壁の弾性変形が空気室によって許容されていることから、振動の入力時に受圧室と中間室の間で相対的な圧力差が効率的に生じて、第2のオリフィス通路を通じた流体流動が有効に惹起される。
【0020】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記隔壁部材が可動部材を含んで構成されており、該可動部材の一方の面に前記受圧室の液圧が及ぼされていると共に、該可動部材の他方の面に前記中間室の液圧が及ぼされているものである。
【0021】
第6の態様によれば、第2のオリフィス通路のチューニング周波数よりも更に高周波数の振動に対して、可動部材の変位や変形による液圧伝達作用によって、受圧室と中間室が実質的に連通される。それ故、高周波数振動の入力時に、第2のオリフィス通路が反共振によって実質的に遮断されても、受圧室の密閉による著しい高動ばね化が回避されて、有効な防振効果が発揮され得る。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1項に記載の流体封入式防振装置において、前記仕切部材には空気管路接続用ポートが設けられており、前記連通路の前記開放口が該空気管路接続用ポートによって構成されているものである。
【0023】
第7の態様によれば、空気室に負圧と大気圧を選択的に作用させることによって、弾性隔壁を能動的に加振して入力振動に対する相殺的な防振効果が得られるようにした空気圧式の流体封入式能動型防振装置や、弾性隔壁の変形の拘束と許容を入力振動の周波数に応じて切り替えることで防振効果をより効率的に得るようにした空気圧切替型の流体封入式防振装置等に用いられる仕切部材を流用することができる。なお、連通路の一部が空気管路接続用ポートで構成された構造では、連通路の断面積が空気管路接続用ポートにおいて部分的に小さくなり易いが、可撓蓋体が連通路の開放口に取り付けられていることから、異物の侵入による連通路の閉塞は問題にならない。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、連通路の開放口が可撓蓋体によって覆蓋されていることにより、大気中から連通路への異物(砂礫や塵埃等)の侵入が可撓蓋体によって防止されて、連通路が異物によって狭窄乃至は遮断されるのを防ぐことができる。しかも、連通路の開放口を覆う可撓蓋体が、可撓性を有して容易に変形し得ることから、空気室の圧力は、可撓蓋体の変形によって、略大気圧で安定して維持される。これにより、空気室の容積が変化した場合にも空気室が略大気圧に安定して維持されて、弾性隔壁の弾性変形が充分に許容されることから、第1のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数領域の振動に対して、液圧吸収作用に基づいた防振効果が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0028】
より詳細には、第1の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、全体として円形ブロック形状を有していると共に、軸方向中間部分には外周側に突出するフランジ部18が一体形成されている。また、第1の取付部材12には、中心軸上を上下に延びて、上面に開口するねじ孔20が形成されており、その内周面にねじ山が刻設されている。
【0029】
第2の取付部材14は、第1の取付部材12と同様に高剛性の部材とされており、薄肉大径の略円筒形状を有していると共に、軸方向中間部分に段差部22が形成されており、段差部22を挟んだ上側が下側よりも大径とされている。また、第2の取付部材14の下端部は、全周に亘って内周側に突出するように屈曲されており、かかる内周側への突出部分が第1係止爪24とされている。
【0030】
そして、第1の取付部材12と第2の取付部材14が同一中心軸上で上下に離隔して配置されて、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、本体ゴム弾性体16の小径側端部が第1の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面が第2の取付部材14の内周面に加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16の小径側端面が第1の取付部材12の下面に加硫接着されていると共に、本体ゴム弾性体16と一体形成されたストッパゴム26が第1の取付部材12のフランジ部18の上面に加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体16は、第1の取付部材12と第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0031】
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径側の端面に開口する大径凹所28が形成されている。大径凹所28は、逆向きのすり鉢形状を呈する凹所であって、第1の取付部材12までは至らない深さを有すると共に、第2の取付部材14の内径寸法よりも小さい最大直径を有している。更にまた、本体ゴム弾性体16には、筒状のシールゴム層30が一体形成されており、大径凹所28の開口周縁部から下方に延び出して、第2の取付部材14の内周面に固着されている。
【0032】
また、第2の取付部材14には、可撓性膜32が取り付けられている。可撓性膜32は、薄肉大径の略円板形状を有するゴム膜であって、中央部分が上方に凸となるドーム状とされることによって、軸方向に充分な弛みを有している。また、可撓性膜32の外周部分には、筒状の固着部34が一体形成されており、固着部34の外周面が固定部材36に加硫接着されている。この固定部材36は、薄肉大径の略円筒形状を有する硬質の部材であって、その内周面が固着部34によって略全体に亘って被覆されている。更に、固定部材36の上端部は、全周に亘って内周側に突出するように屈曲されており、かかる内周側への突出部分が第2係止爪38とされている。
【0033】
そして、可撓性膜32は、後述する仕切部材42を介して第2の取付部材14に取り付けられており、第2の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、第2の取付部材14の下側開口部が可撓性膜32によって閉塞されている。これにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜32の間には、外部から密閉されて非圧縮性流体が封入された流体室40が形成されている。なお、流体室40に封入される非圧縮性流体としては、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が、採用され得る。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に発揮させるためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0034】
また、流体室40には、仕切部材42が配設されている。仕切部材42は、合成樹脂や金属等で形成された硬質の部材であって、厚肉大径の略円筒形状を有する外周筒状部44と、外周筒状部44の上側開口部を閉塞する略円板形状の中央板状部46とを、一体的に備えている。
【0035】
外周筒状部44は厚肉大径の略円筒形状であって、その下端部分には、外周面に開口して周方向に所定長さで延びる周溝48が形成されている。更に、外周筒状部44には、外周面に開口して周方向に延びる第1係止溝50と第2係止溝52が、周溝48よりも上方で上下に離隔して形成されている。
【0036】
中央板状部46は、中央側に向かって次第に下傾する略すり鉢状のテーパ板形状とされており、外周端部には上方に突出する環状の支持突部54が一体形成されている。更に、支持突部54の基端部(下端部)には、外周面に開口して全周に亘って連続する第3係止溝56が形成されている。
【0037】
このような構造とされた仕切部材42は、第2の取付部材14によって支持されている。即ち、第2の取付部材14の下端部が仕切部材42の上端部に外挿された後、第2の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、第2の取付部材14の下端部が仕切部材42の上端部に外嵌固定される。更に、第2の取付部材14の第1係止爪24が仕切部材42の第1係止溝50に挿入されて、それら第1係止爪24と第1係止溝50が軸方向で係止されることにより、第2の取付部材14と仕切部材42が軸方向で位置決めされている。
【0038】
さらに、仕切部材42には、可撓性膜32が取り付けられている。即ち、可撓性膜32に固着された固定部材36が仕切部材42の下端部に外挿された後、固定部材36に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定部材36が仕切部材42の下端部に外嵌固定されて、可撓性膜32が仕切部材42に取り付けられる。更に、固定部材36の第2係止爪38が仕切部材42の第2係止溝52に挿入されて、それら第2係止爪38と第2係止溝52が軸方向で係止されることにより、固定部材36と仕切部材42が軸方向で位置決めされている。
【0039】
このように仕切部材42が第2の取付部材14および可撓性膜32に取り付けられることにより、仕切部材42は、流体室40内で軸直角方向に広がるように配置される。これにより、流体室40が仕切部材42を挟んで上下に二分されており、仕切部材42を挟んだ上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された主液室58が形成されていると共に、仕切部材42を挟んだ下側には、壁部の一部が可撓性膜32で構成されて、容積変化が容易に許容される副液室60が形成されている。なお、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品(第2の取付部材14)および可撓性膜32の一体加硫成形品(固定部材36)と、仕切部材42との組付け作業を、非圧縮性流体で満たされた水槽中で行うことにより、主液室58および副液室60に対して非圧縮性流体を容易に封入することができる。
【0040】
また、仕切部材42には、弾性隔壁62が取り付けられている。弾性隔壁62は、略円板形状のゴム弾性体で形成されており、外周部分が外周側に向かって次第に下傾するテーパ形状とされていると共に、中央部分はその径方向中間部分が環状に厚肉とされた円板形状を有している。更に、弾性隔壁62の外周側には、厚さ方向の両側に突出して略円筒形状を呈する封止ゴム64が一体形成されている。
【0041】
さらに、弾性隔壁62の外周面には、支持部材66が固着されている。支持部材66は、略円環板形状乃至は円筒形状を呈する硬質の部材であって、その内周面に封止ゴム64の外周面が重ね合わされて加硫接着されている。また、支持部材66の下端部は、内周側に突出するように屈曲されて、第3係止爪68とされており、封止ゴム64よりも内周側に突出されている。なお、本実施形態の支持部材66は、上端部分も内周側に屈曲しており、封止ゴム64の上面に固着されている。
【0042】
そして、弾性隔壁62は、仕切部材42の主液室58側(上側)に配設されて、仕切部材42によって支持されている。即ち、支持部材66の下端部が仕切部材42の中央板状部46に設けられた支持突部54に外挿された後、支持部材66に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、支持部材66が支持突部54に外嵌固定されて、弾性隔壁62が仕切部材42に取り付けられる。また、支持部材66の第3係止爪68が、支持突部54の基端部分に形成されて外周面に開口する第3係止溝56に挿入されて、第3係止爪68が第3係止溝56に軸方向で係止されることにより、弾性隔壁62が仕切部材42に対して軸方向で位置決めされている。かかる取付状態において、弾性隔壁62は、外周部分が仕切部材42の支持突部54に当接支持されていると共に、中央部分が仕切部材42の中央板状部46に対して上方に離隔して配置されている。
【0043】
また、主液室58には、隔壁部材70が配設されている。隔壁部材70は、本体プレート72と挟持プレート74の間に可動部材としての可動ゴム膜76が挟持されて構成されている。
【0044】
本体プレート72は、中央部分が逆向きの略有底円筒形状とされており、その周壁部が嵌着筒状部78とされていると共に、上底壁部が支持板部80とされている。この支持板部80には、径方向中間部分において上方に凸の当接突部82が全周に亘って連続的に設けられており、当接突部82の外周側には上方に凹の支持溝部84が形成されていると共に、当接突部82の内周側には厚さ方向で貫通する複数の透孔86が形成されている。
【0045】
また、本体プレート72の外周部分は、周上の3箇所において、中央部分の開口周縁部から軸直角方向外側に延び出すフランジ状部88が設けられており、周方向で相互に所定距離を隔てて等間隔に配置されている。更に、周方向で隣り合うフランジ状部88の周方向間には、支持板部80から軸直角方向外側に延び出すと共に、その外周端部が軸方向下方に屈曲してフランジ状部88の外周端部と周方向で一体とされた、トンネル状部90が設けられている。なお、周上でトンネル状部90が設けられた部分において、嵌着筒状部78には径方向に貫通する孔が開口している。
【0046】
挟持プレート74は、略円環板形状とされており、内周部分が内周側に向かって上方に傾斜する支持部92とされている。更に、挟持プレート74は、本体プレート72よりも外径寸法が小さくされている。そして、挟持プレート74は、本体プレート72の支持板部80に対して、同一中心軸上で上方から重ね合わされて固定されている。なお、本体プレート72と挟持プレート74の固定手段は、特に限定されるものではなく、溶接や接着、係止等の各種手段が採用され得る。
【0047】
また、本体プレート72と挟持プレート74の間には、可動ゴム膜76が配設されている。可動ゴム膜76は、略円板形状のゴム弾性体で形成されており、外周部分が外周側に向かって下傾していると共に、外周端部が略円形断面で周方向に延びる環状の挟持部94とされている。
【0048】
そして、可動ゴム膜76の挟持部94が、本体プレート72の支持溝部84と、挟持プレート74の支持部92との軸方向対向面間で挟持されることによって、可動ゴム膜76が本体プレート72と挟持プレート74の間に配設されている。また、可動ゴム膜76の外周部分が本体プレート72と挟持プレート74によって拘束されていると共に、中央部分が当接突部82よりも内周側において、微小振幅での弾性変形が上下方向で許容されている。なお、本体プレート72に形成された透孔86と、挟持プレート74の中央孔が、何れも可動ゴム膜76によって覆われている。
【0049】
このような構造とされた隔壁部材70は、本体プレート72の嵌着筒状部78が弾性隔壁62の支持部材66に外嵌固定されることにより、弾性隔壁62を介して仕切部材42に取り付けられている。
【0050】
かかる配設状態において、隔壁部材70は、本体プレート72の支持板部80が弾性隔壁62に対して上方に離隔して配置されており、主液室58が隔壁部材70を挟んで二分されている。即ち、隔壁部材70の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室96が形成されている。一方、支持板部80と弾性隔壁62との軸方向対向面間には、壁部の一部が弾性隔壁62で構成されて、弾性隔壁62の変形によって容積変化が許容される中間室98が形成されている。なお、本体プレート72の外周部分(フランジ状部88およびトンネル状部90)は、仕切部材42の外周筒状部44に対して上方に離隔して配置されている。
【0051】
また、本体プレート72のフランジ状部88には、厚さ方向に貫通する第1連通孔100が形成されており、受圧室96が本体プレート72の外周部分と仕切部材42の外周筒状部44との対向面間に連通されている。更に、この本体プレート72の外周部分と仕切部材42の外周筒状部44との対向面間の領域は、外周筒状部44を軸方向に延びる図示しない通孔を通じて周溝48の一方の端部に連通されている。そして、周溝48の他方の端部が第2連通孔102を通じて副液室60に連通されることにより、受圧室96と副液室60とを相互に連通する第1のオリフィス通路104が形成されている。なお、第1のオリフィス通路104は、受圧室96および副液室60の壁ばね剛性を考慮しつつ、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を適当に設定することによって、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
【0052】
また、受圧室96と中間室98は、トンネル状部90において相互に連通されており、もって、第2のオリフィス通路106が形成されている。この第2のオリフィス通路106のチューニング周波数は、第1のオリフィス通路104のチューニング周波数よりも高周波数に設定されており、本実施形態では、アイドリング時振動に相当する十数Hz程度の中周波数に設定されている。
【0053】
また、可動ゴム膜76には、その上面に挟持プレート74の中心孔を通じて受圧室96の液圧が及ぼされていると共に、その下面に透孔86を通じて中間室98の液圧が及ぼされている。そして、走行こもり音に相当する数十Hz程度の高周波小振幅振動の入力時には、受圧室96と中間室98の相対的な圧力変動に基づいて、可動ゴム膜76が共振状態で厚さ方向に微小変形することで、受圧室96の液圧が中間室98に伝達されるようになっている。なお、低乃至中周波数の振動入力時には、可動ゴム膜76が本体プレート72の支持板部80に当接して実質的に拘束されることにより、液圧伝達作用の発揮が阻止されるようになっている。
【0054】
また、弾性隔壁62を挟んで中間室98と反対側には、空気室108が形成されている。即ち、弾性隔壁62の仕切部材42への装着状態において、軸直角方向に広がる略円板形状とされた弾性隔壁62と、略すり鉢形状とされた仕切部材42の中央板状部46とが、軸方向に所定距離を隔てて対向している。更に、仕切部材42の支持突部54と支持部材66との軸直角方向間で、弾性隔壁62と一体形成された封止ゴム64が狭圧されており、それら支持突部54と支持部材66の間が流体密にシールされている。これらにより、弾性隔壁62と仕切部材42の中央板状部46との軸方向対向面間には、主液室58に対して流体密に隔てられた空気室108が形成されている。この空気室108は、空気で満たされており、非圧縮性流体は封入されていない。なお、主液室58の壁部の一部が弾性隔壁62によって構成されている。また、空気室108は、仕切部材42の第2の取付部材14および固定部材36への取付作業に先んじて、弾性隔壁62が仕切部材42に対して大気中で取り付けられることによって、容易に形成される。
【0055】
さらに、空気室108の壁部を構成する仕切部材42には、連通路110が形成されている。より具体的には、仕切部材42の外周筒状部44が周上の一部において内周側に突出しており、かかる突出部分を利用して連通路110が貫通形成されている。この連通路110は、外周筒状部44の突出部分を上下方向に延びる空気室側連通部112と、空気室側連通部112に連通して軸直角方向で外周側に延びるポート管路114とを、含んで構成されている。また、仕切部材42の外周筒状部44には、外周面に開口する接続凹所116が形成されており、ポート管路114が接続凹所116内に突出する筒状の空気管路接続用ポート118を利用して形成されている。なお、接続凹所116は、仕切部材42の装着状態において、第2の取付部材14が嵌着された上端部と、固定部材36が嵌着された下端部との軸方向間に形成されており、第2の取付部材14や固定部材36によって覆われることなく開口している。
【0056】
そして、連通路110は、一方の端部である空気室側連通部112の開口部が、空気室108の底壁面に開口する空気室108への連通口120とされていると共に、他方の端部であるポート管路114の開口部が、接続凹所116を介して仕切部材42の外周面に開口する大気への開放口122とされている。なお、上記からも明らかなように、本実施形態では、連通路110の開放口122側の端部が、空気管路接続用ポート118を利用して形成されている。
【0057】
この連通路110の開放口122は、可撓蓋体としての環状ゴム帯124によって覆蓋されている。環状ゴム帯124は、全周に亘って略一定の断面形状で延びる帯状のゴム弾性体であって、軸方向の中間部分が外周側に凸となる縦断面形状を有する覆蓋部126とされていると共に、軸方向の両端部分がそれぞれ環状乃至は筒状の取付部128とされている。また、環状ゴム帯124は、弾性隔壁62や可動ゴム膜76に比して薄肉とされて、本実施形態では可撓性膜32と同程度の厚さで形成されることで充分な可撓性を有しており、厚さ方向の変形が容易に許容されている。また、環状ゴム帯124は、上側の取付部128の内径寸法が第2の取付部材14の外径寸法よりも小さくされていると共に、下側の取付部128の内径寸法が固定部材36の外径寸法よりも小さくされている。
【0058】
そして、環状ゴム帯124は、軸方向上側の取付部128が第2の取付部材14の下端部に外嵌されると共に、軸方向下側の取付部128が固定部材36の上端部に外嵌されることにより、仕切部材42の外周に装着されている。環状ゴム帯124をそれら第2の取付部材14および固定部材36に外嵌する際には、取付部128を拡径変形させて第2の取付部材14および固定部材36に外挿した後、取付部128の変形を解除することによって、取付部128がそれ自体の弾性によって第2の取付部材14および固定部材36に嵌着される。尤も、取付部128が締結用のバンド等で締め付けられて、第2の取付部材14と固定部材36に固定されていても良いし、取付部128が接着や溶着等によって第2の取付部材14と固定部材36に固定されていても良い。
【0059】
かかる環状ゴム帯124の装着状態において、第2の取付部材14と固定部材36の軸方向間に開口する接続凹所116の開口部が、環状ゴム帯124によって覆蓋されている。また、環状ゴム帯124の装着状態において、外周側に凸の形状を有する覆蓋部126と、仕切部材42の外周面との間には、環状の離間空所130が形成されている。そして、接続凹所116と離間空所130を含んで内部空間132が形成されており、この内部空間132が環状ゴム帯124によって外部空間(大気)から仕切られている。なお、本実施形態の仕切部材42には、接続凹所116とは周上の異なる位置において外周面に開口する肉抜凹所134が形成されており、この肉抜凹所134の開口部が環状ゴム帯124で覆蓋されて、離間空所130と連通されることにより、肉抜凹所134も内部空間132の一部を構成している。
【0060】
さらに、連通路110の開放口122は、内部空間132を構成する接続凹所116に開口しており、開放口122が環状ゴム帯124によって間接的に覆われていると共に、空気室108と内部空間132が連通路110を通じて相互に連通されている。換言すれば、連通路110の開放口122と環状ゴム帯124が軸直角方向で離隔しており、それら開放口122と環状ゴム帯124の間に内部空間132が設けられて、連通路110を通じて空気室108に連通されている。
【0061】
以上の如き構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、それらパワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットが車両ボデーに防振支持されるようになっている。
【0062】
そして、エンジンマウント10の車両への装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波数域の振動が入力されると、受圧室96と副液室60の相対的な圧力差に基づいて、第1のオリフィス通路104を通じての流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいた防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0063】
また、エンジンマウント10の車両への装着状態において、アイドリング時振動に相当する中周波数域の振動が入力されると、低周波数にチューニングされた第1のオリフィス通路104が、反共振等によって実質的に遮断される。一方、中間室98の壁部の一部が弾性隔壁62で構成されて、その下方に空気室108が形成されていることにより、受圧室96と中間室98の間で相対的な圧力差が生じて、第2のオリフィス通路106を通じての流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいた防振効果(低動ばね効果)が発揮される。なお、可動ゴム膜76は、中周波数域の振動入力時には、本体プレート72の支持板部80への当接によって拘束されて、受圧室96と中間室98の間で可動ゴム膜76の微小変形による液圧伝達作用が抑えられるようになっている。
【0064】
また、エンジンマウント10の車両への装着状態において、走行こもり音に相当する高周波小振幅振動が入力されると、第1のオリフィス通路104および第2のオリフィス通路106は、何れも反共振等によって実質的に遮断される。一方、可動ゴム膜76は、中央部分が共振状態で上下に微小変位することで、受圧室96の液圧を中間室98に伝達する液圧伝達作用が発揮される。そして、中間室98に伝達された液圧変動は、弾性隔壁62の変形によって吸収されることから、液圧吸収作用に基づいた防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
【0065】
また、受圧室96と中間室98の相対的な圧力差は、弾性隔壁62の弾性変形による中間室98の容積変化によって生じるようになっており、かかる弾性隔壁62の弾性変形が、連通路110を通じて内部空間132に連通された空気室108によって許容されている。即ち、内部空間132は、壁部の一部が可撓性を有する環状ゴム帯124で構成されており、環状ゴム帯124の変形によって略大気圧に維持されるようになっている。そして、その内部空間132が連通路110を通じて空気室108に連通されていることにより、空気室108は、弾性隔壁62の弾性変形の有無に関わらず、常時略大気圧に維持されている。これにより、空気室108内の圧力変化によって弾性隔壁62の弾性変形が制限されるのを防止できて、中間室98の圧力変化が抑えられる。その結果、受圧室96と中間室98の圧力差が効率的に確保されて、第2のオリフィス通路106を通じての流体流動による防振効果や、可動ゴム膜76の微小変形による防振効果が、何れも効率的に発揮され得る。
【0066】
しかも、空気室108と内部空間132、それらを連通する連通路110には、空気が封入されていることから、液体が封入されている場合に比して、空気室108と内部空間132の間で連通路110を通じての流体(空気)の流動が、流体を慣性マスとするマス−バネ共振等の影響を受けることなく、スムーズに実現される。それ故、空気室108を略一定の圧力に維持することが可能とされて、弾性隔壁62の弾性変形を安定して許容することができる。
【0067】
また、内部空間132は、環状ゴム帯124によって大気から隔てられており、砂礫や塵埃等の異物が内部空間132に侵入することはない。これにより、内部空間132から連通路110に異物が侵入するおそれはなく、連通路110が異物によって狭窄乃至は閉塞されることもない。それ故、空気室108と内部空間132の連通路110を通じた連通状態が保持されて、環状ゴム帯124の可撓性に基づいて空気室108が略大気圧に維持される。
【0068】
特に、仕切部材42は、連通路110の一部が空気管路接続用ポート118で構成されており、弾性隔壁62を能動的に加振する空気圧式の流体封入式能動型防振装置や、弾性隔壁62の弾性変形の許容と制限を切り替える空気圧切替式の流体封入式防振装置等にも、流用可能な構造とされている。このような流体封入式能動型防振装置や切替式の流体封入式防振装置等にも採用可能な構造の仕切部材42は、大気開放型の流体封入式防振装置に採用されると、空気管路接続用ポート118において連通路110の断面積が小さくなっていることから、異物が詰まるおそれがある。しかしながら、本実施形態のエンジンマウント10では、連通路110の開放口122が内部空間132に連通されて、環状ゴム帯124によって大気から隔てられていることから、異物による連通路110の閉塞が回避される。
【0069】
また、可撓蓋体として環状ゴム帯124が採用されており、環状ゴム帯124の取付部128が、それ自体の弾性を利用して、第2の取付部材14と固定部材36に密着している。これにより、内部空間132は、環状ゴム帯124によって大気から封止されて隔てられており、環状ゴム帯124と第2の取付部材14および固定部材36との間を通じた異物の侵入が防止されている。
【0070】
しかも、環状ゴム帯124の軸方向の中間部分が、縦断面形状において外周側に凸となる覆蓋部126とされており、仕切部材42の外周面に対して径方向外方に離隔している。これにより、連通路110の開放口122と環状ゴム帯124との離隔距離が大きく確保されて、環状ゴム帯124の変形時にも、連通路110の開放口122に環状ゴム帯124が密着するのを防いで、連通路110を通じた空気の流動が充分に許容される。
【0071】
加えて、外周側に向かって凸形状の覆蓋部126が設けられることで、環状ゴム帯124に対する内部空間132の空気圧および外部空間の空気圧(大気圧)の作用面積が、大きく確保される。それ故、弾性隔壁62の弾性変形時に、環状ゴム帯124が広範囲に亘って変形して、小さな環状ゴム帯124の変形量によって、内部空間132の容積変化を大きく得ることができる。従って、環状ゴム帯124は、それ自体の弾性に起因して変形を制限されるのが防止されることから、環状ゴム帯124の変形によって内部空間132の圧力変動が抑えられて、内部空間132に連通された空気室108の圧力がより安定して略一定に維持される。特に、全周に亘って覆蓋部126が形成されて、その内周側に環状の離間空所130が形成されていることにより、弾性隔壁62の弾性変形時に、環状ゴム帯124が全周に亘って変形することから、より小さな変形量で内部空間132の圧力変動を充分に低減することができる。
【0072】
図2には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第2の実施形態として、自動車用のエンジンマウント140が示されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0073】
より詳細には、エンジンマウント140は、仕切部材142を有している。仕切部材142には、一方の端部が空気室108に開口する連通口120とされると共に、他方の端部が仕切部材142の外周面に開口する開放口122とされた、連通路144が形成されている。また、連通路144は、連通口120に比して開放口122の面積が大きくなっており、後述する可撓ゴム膜146の変形が充分に許容されるようになっている。なお、本実施形態では、第1の実施形態の接続凹所116や空気管路接続用ポート118が省略されて、連通路144が、空気室108側から下方に延びた後、屈曲して軸直角方向外側に延び出す孔によって構成されており、開放口122が仕切部材142の外周面に直接に開口している。
【0074】
また、仕切部材142の外周面には、可撓蓋体としての可撓ゴム膜146が装着されている。可撓ゴム膜146は、薄肉シート状のゴム弾性体で形成されており、仕切部材142の外周面における開放口122の開口する部分に重ね合わされていると共に、開放口122の開口に重ね合わされた部分の周囲が、全周に亘って第2の取付部材14と固定部材36と仕切部材142の各外周面に接着等により固着されている。これにより、連通路144の開放口122は、可撓ゴム膜146によって覆蓋されており、連通路144が可撓ゴム膜146によって大気から隔てられている。なお、図2に示されているように、本実施形態では、可撓ゴム膜146が開放口122に対して隙間なく重ね合わされている。
【0075】
このような構造とされたエンジンマウント140によっても、第1の実施形態と同様に、可撓ゴム膜146の変形によって空気室108の圧力が略大気圧に維持されて、弾性隔壁62の弾性変形による液圧吸収作用が有効に発揮される。更に、連通路144に対する開放口122からの異物の侵入が可撓ゴム膜146によって防止されて、連通路144の異物による閉塞が回避されることから、目的とする防振特性を安定して得ることができる。
【0076】
なお、連通路144の開放口122が仕切部材142の外周面に直接開口していると共に、可撓ゴム膜146が縦断面において直線的な形状とされており、可撓ゴム膜146が連通路144の開放口122に重ね合わされている。そこにおいて、連通路144の開放口122の面積が大きく確保されていることにより、弾性隔壁62が空気室108の容積が大きくなるように弾性変形した場合にも、可撓ゴム膜146が連通路144に入り込むように変形することで、空気室108の圧力が略大気圧に維持されている。
【0077】
第2の実施形態に示された構造からも明らかなように、第1の実施形態において環状ゴム帯124に設けられた外周側に凸の縦断面形状を有する覆蓋部126は、必須ではない。また、可撓蓋体は、第1の実施形態に示された環状のものに限定されるものではなく、本実施形態に示された可撓ゴム膜146のように、仕切部材142の外周面における開放口122の開口部分だけを部分的に覆う膜状のものも採用され得る。
【0078】
また、第1の実施形態では、連通路110の開放口122が接続凹所116内に開口しており、内部空間132を隔てて環状ゴム帯124と径方向に離隔していたが、第2の実施形態に示された可撓ゴム膜146のように、連通路144の開放口122に対して隙間なく配置されていても良い。特に、開放口122の面積が、可撓ゴム膜146の変形を充分に許容して、空気室108の圧力を略一定に保ち得る程度に、大きく確保されている場合には、可撓ゴム膜146が開放口122に対して離間することなく配置された構造が採用され得る。
【0079】
また、第1の実施形態に示された空気管路接続用ポート118は必須ではなく、空気管路接続用ポート118を持たず、流体封入式能動型防振装置や切替式の流体封入式防振装置等には流用不能な仕切部材(例えば、第2の実施形態の仕切部材142)も、採用され得る。
【0080】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、可撓蓋体の形状は、前記実施形態に例示されたものに限定されず、可撓蓋体における連通路の開放口を覆う部分が、外周側に凹の縦断面形状とされていても良い。また、可撓蓋体は、空気室108の圧力変化が防振特性上問題にならない程度で抑えられるように、可撓性が付与されていれば、薄肉の膜状や帯状だけに限定されるものではない。
【0081】
また、可撓蓋体の弾性を利用して流体封入式防振装置の防振特性を調節することも可能である。即ち、例えば、連通路110の開口を覆蓋する可撓蓋体に適当な弾性を付与することで、空気室108の容積変化量に対する空気室108の圧力変動量を調節して、弾性隔壁62の変形特性を制御することにより、低周波数領域の振動入力に対する減衰特性と、中〜高周波数領域の振動入力に対する動ばね特性を、適当に調整することもでき得る。
【0082】
また、前記実施形態では、エンジンシェイクに相当する低周波数域の振動と、アイドリング時振動に相当する中周波数域の振動と、走行こもり音に相当する高周波数域の振動との、周波数が異なる3種類の振動に対して、有効な防振効果が発揮される構造が例示されている。しかしながら、本発明は、第1のオリフィス通路104がチューニングされた周波数域の振動と、第1のオリフィス通路104がチューニングされた周波数よりも高周波数域の振動との、少なくとも2種類の振動に対する防振効果が発揮されれば良い。具体的には、例えば、第2のオリフィス通路106と可動ゴム膜76は、何れかが選択的に設けられていても良く、第2のオリフィス通路106が設けられると共に、挟持プレート74と可動ゴム膜76と透孔86とが廃された構造や、第2のオリフィス通路106が廃された構造が、何れも採用可能である。更に、隔壁部材70の全体を廃して、第2のオリフィス通路と可動部材の両方を省略した構造も採用可能であって、主液室58の壁部の一部を構成する弾性隔壁62の液圧吸収作用によって、第1のオリフィス通路104のチューニング周波数よりも高周波数域の振動に対する防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
【0083】
また、可動部材は、前記実施形態に示されているような外周部分を拘束された可動膜構造に限定されるものではなく、厚さ方向の微小変位を許容された状態で収容スペース内に拘束されることなく配設される、可動板構造も可動部材として採用可能である。
【0084】
また、本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、例えば、サブフレームマウントやボデーマウント、デフマウント等への適用も可能である。更に、本発明は、自動車用の流体封入式防振装置のみに適用されるものではなく、例えば、自動二輪車や産業用車両、鉄道用車両等に用いられる流体封入式防振装置にも好適に適用される。
【符号の説明】
【0085】
10,140:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:第1の取付部材、14:第2の取付部材、16:本体ゴム弾性体、32:可撓性膜、42,142:仕切部材、56:主液室、58:副液室、62:弾性隔壁、70:隔壁部材、76:可動ゴム膜(可動部材)、96:受圧室、98:中間室、104:第1のオリフィス通路、106:第2のオリフィス通路、108:空気室、110,144:連通路、118:空気管路接続用ポート、120:連通口、122:開放口、124:環状ゴム帯(可撓蓋体)、132:内部空間,146:可撓ゴム膜(可撓蓋体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された主液室が形成されていると共に、他方の側に壁部の一部が可撓性膜で構成された副液室が形成されており、それら主液室と副液室を相互に連通する第1のオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、
前記仕切部材の前記主液室側に弾性隔壁が配設されて、該弾性隔壁と該仕切部材の対向面間に空気室が形成されており、該仕切部材に形成された連通路の一方の端部が該空気室への連通口とされていると共に、該連通路の他方の端部が大気への開放口とされて、該連通路の該開放口が可撓蓋体によって覆蓋されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記可撓蓋体が環状ゴム帯とされていると共に、前記連通路の前記開放口が前記仕切部材の外周面に開口しており、該環状ゴム帯が該仕切部材の外周に装着されて該開放口が該環状ゴム帯で覆われている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
大気に対して前記可動蓋体で仕切られた内部空間が形成されていると共に、前記連通路の前記開放口が該内部空間に開口されており、該内部空間と前記空気室が該連通路を通じて相互に連通されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記可撓蓋体が前記連通路の前記開放口から外側に向かって凸とされており、該可撓蓋体と該開放口の間に前記内部空間が形成されている請求項3に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記主液室には隔壁部材が配設されており、該主液室が該隔壁部材を挟んで二分されて、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部が前記弾性隔壁で構成された中間室とが、該隔壁部材を挟んで形成されていると共に、それら受圧室と中間室とを連通する第2のオリフィス通路が形成されて、該第2のオリフィス通路が前記第1のオリフィス通路よりも高周波数にチューニングされている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記隔壁部材が可動部材を含んで構成されており、該可動部材の一方の面に前記受圧室の液圧が及ぼされていると共に、該可動部材の他方の面に前記中間室の液圧が及ぼされている請求項5に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記仕切部材には空気管路接続用ポートが設けられており、前記連通路の前記開放口が該空気管路接続用ポートによって構成されている請求項1〜6の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−29142(P2013−29142A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164882(P2011−164882)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】