説明

流体搬送装置および流体搬送方法

【課題】 搬送したい試料の種類や濃度、搬送目的によって、適宜、導入量を変化させることが可能な流体搬送装置を提供する。
【解決手段】 流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブとを備えた流体搬送装置であって、前記流路は、第1の流路、第2の流路及び第3の流路と、これら3つの流路の一端が第4の流路に接続された少なくとも4つの流路からなり、少なくとも第1乃至第3の各流路の途中に前記バルブを備えると共に、前記バルブは前記流路に流体が流れたときに前記バルブの上流側と下流側との間に生じる圧力差に応じて作動するものであり、前記圧力差が所定の値未満のとき各バルブは流体を通過させ、前記圧力差が所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は各バルブに応じて設定されている流体搬送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体搬送装置および流体搬送方法に関し、特にチップ上で化学分析や化学合成を行う小型化分析システム(μ−TAS:Micro Total Analysis System)において、流体の流れを制御するためのバルブを用いた流体搬送装置および流体搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体微細加工技術の発展に伴い、ガラスやシリコン等の基板上に、微小な流路とポンプ、バルブ等の流体素子およびセンサを集積化し、その基板上で化学分析を行うシステムが注目されている。これらのシステムは、小型化分析システム、μ−TAS(Micro Total Analysis System)あるいはLab on a Chipと呼ばれている。化学分析システムを小型化することにより、無効体積の減少や試料の分量の大幅な低減が可能となる。また、分析時間の短縮やシステム全体の低消費電力化が可能となる。さらに、小型化によりシステムの低価格を期待することができる。μ−TASは、システムの小型化、低価格化および分析時間の大幅な短縮が可能なことから、在宅医療やベッドサイドモニタ等の医療分野、DNA解析やプロテオーム解析等のバイオ分野での応用が期待されている。
【0003】
上記したμ−TASにおいて、微小流路内の流体の流れを制御するために、様々な形態のバルブがこれまでに提案されている。マイクロマシーニング技術を用いてシリコン基板上形成されたマイクロバルブが報告されている(非特許文献1参照)。該マイクロバルブは、シリコンのダイヤフラムを圧電アクチュエータで駆動することにより、流体の流れを制御することが可能である。また同文献では、多結晶シリコンの板上の駆動部材を弾性的に支持した一方向バルブ(One−way Valve)が報告されている。該バルブは、流れてくる流体自体により駆動部を動作させ、駆動部に対向した位置に形成された孔をふさぐことにより流路を遮蔽する。このように、アクチュエータを備えずに、流体そのものにより動作するバルブは、受動バルブ(Passive valve)と呼ばれている。受動バルブは、アクチュエータが不要なので、比較的単純な構造で流体を制御できる、作製コストが低い等の利点がある。
【0004】
上記したμTASにおいて、一定量の液体試料を流路中から取り出して、次の工程に搬送する操作は、非常に有用である。例えば、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)のカラム部分(分析部分)に、一定量の液体試料を注入するインジェクタ−が、特許文献1に開示されている。図8は、サンプリングバルブ801を用いて一定量の液体試料をHPLCカラム803に注入する方法である。図8では、液体試料を太い線で、緩衝液を細い線で示してある。はじめ、サンプリングバルブを図8(a)のように配置する。液体試料は試料ループ流路804を満たしていて、緩衝液は分析用流路805を満たしている。次に図8(b)のように、サンプリングバルブ801を回転し、サンプリングバルブ内801内の液体試料806を、分析用流路805に挿入する。次に図8(c)のように、圧力発生源802を駆動することにより、サンプリングバルブ内にあった液体試料806を切り出して、HPLCカラム803に搬送する。さらに、特許文献1には、誘電性の多孔質材料と十字型の流路の交差部を利用して、該交差部に規定される体積の液体試料をHPLCカラムに導入する方法が開示されている。この方法では、誘電性の多孔質材料が電気浸透流は通過させるのに対して圧力流(Pressure driven flow)に対して非常に高い流路抵抗を示すという現象を利用している。
【特許文献1】米国特許第6290909号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の技術においては、以下に示すような問題点がある。
図8に示したサンプリングバルブを用いる方式は、特許文献1でも指摘されているように、正確な分析を実施する場合、流れの乱れによる混合、無効体積を最小にするために、バルブの開閉動作を正確に行う必要がある。しかしながらこれらのことは非常に困難である。また、正確な開閉動作を実施するためには、おおがかりな制御系が必要になりシステム全体が大型化する可能性がある。
【0006】
よって、本発明の課題は、おおがかりな制御系を用いることなく、一定量の試料を切り出すことが可能な流体搬送装置を提供することである。
特許文献1に開示されている方法では、誘電性の多孔質材料が圧力流(Pressure driven flow)に対して非常に高い流路抵抗を示し、電気浸透流のみを通過させるという現象を利用している。電気浸透流は、流路内壁表面の帯電と溶液中のイオンの移動によって発生する。したがって、流路内壁表面と液体試料の組合わせによっては、電気浸透流が発生しない、もしくは発生したとしても駆動力が弱くなる可能性がある。また、電位差を印可することにより電気泳動効果で試料中の各成分が分離してしまう可能性がある。したがって、特許文献1に開示されている方法は、このような場合には用いることが困難である。
【0007】
よって、本発明の課題は、必ずしも電気浸透流を用いることなく、流路内壁表面と液体試料の種類によらずに、一定量の試料を切り出すことが可能な流体搬送装置を提供することである。
【0008】
また、特許文献1に開示されている方法では、交差部(Junction)の体積により、導入される試料の量が決定される。したがって、搬送したい試料の種類や濃度、搬送目的によって、適宜、導入量を変化させることができない。また、交差部の体積は、交差する二本の流路の幅と深さにより、決定される。したがって、流路抵抗等の流体パラメータをもとに流路の形状を設計した場合、その形状により、導入量が決定されてしまう。
【0009】
よって、本発明の課題は、搬送したい試料の種類や濃度、搬送目的によって、適宜、導入量を変化させることが可能な流体搬送装置を提供することである。さらに、本発明の課題は、流路の幅と深さに導入量が規定されることのない流体搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第一は、流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブと、を備えた流体搬送装置であって、前記流路は、第1の流路、第2の流路及び第3の流路と、これら3つの流路の一端が第4の流路に接続された少なくとも4つの流路からなり、少なくとも第1乃至第3の各流路の途中に前記バルブを備えると共に、前記バルブは、前記流路に流体が流れたときに前記バルブの上流側と下流側との間に生じる圧力差に応じて作動するものであり、前記圧力差が所定の値未満のとき各バルブは、流体を通過させ、前記圧力差が所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は、各バルブに応じて設定されていることを特徴とする流体搬送装置である。
【0011】
前記バルブは、所定の方向に流体が流れるときはこれを通過させ、前記所定の方向と逆方向に流れるときは、前記圧力差が前記所定の値未満のときは通過させ、前記圧力差が前記所定の値以上のときは流体の流れを遮断することが好ましい。
前記第4の流路には、一端に送流手段が接続され、他端に流体の分析手段が接続されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の第二は、流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブと、を備えた流体搬送装置を用いた流体搬送方法であって、前記流路は、第1の流路、第2の流路及び第3の流路と、これら3つの流路の一端が第4の流路に接続された少なくとも4つの流路からなり、少なくとも第1乃至第3の各流路の途中に前記バルブを備えると共に、前記バルブは、前記流路に流体が流れたときに前記バルブの上流側と下流側との間に生じる圧力差に応じて作動するものであり、前記圧力差が所定の値未満のとき各バルブは、流体を通過させ、前記圧力差が所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は、各バルブに応じて設定されている前記流体搬送装置を用意する工程と、前記第4の流路の一端より、第1の流体を導入し、前記第1乃至第4の流路を第1の流体で満たす工程と、前記第1乃至第3の流路の、前記第4の流路に接続された一端とは逆の他端の一つから、第2の流体を導入し、第2の流体を導入した他端を備えた流路と、これとは別の第1乃至第3の流路の少なくとも一つ及び、第4の流路の前記他端を備えた流路との第1の交差部と前記別の第1乃至第3の流路の少なくとも一つとの第2の交差部との間を第2の流体で満たす工程と、前記第4の流路の一端より第1の流体を導入し、前記第1の交差部と第2の交差部との間の第2の流体を第4の流路の他端に搬送する工程とを有することを特徴とする流体搬送方法である。
【0013】
前記第4の流路の一端からの第1の流体の導入を、前記一端に接続した送流手段を用いて行うことが好ましい。
前記第4の流路の他端には、分析手段が接続され、第1の交差部と第2の交差部との間の第2の流体を前記分析手段に搬送することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明は、おおがかりな制御系を用いることなしに、一定量の試料を切り出して搬送することできるという効果がある。また、本発明には、流路内壁表面や液体試料の種類によらずに一定量の試料を切り出して搬送することできるという効果がある。さらに本発明には、分析したい試料の種類や濃度、搬送目的によって、適宜、導入量を変化させることが可能となるという効果がある。さらに、本発明には、流路の幅と深さに導入量が規定されることがないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明では、本発明の流体搬送装置を用いて、分析部に一定量の液体試料(第二の液体)を搬送する方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、一定量の液体試料を搬送し、他の液体試料に導入して混合、反応させる場合にも本発明の液体搬送装置を用いることができる。
ここで本発明における流体とは、液体または気体を指すものとする。
【0016】
(流体搬送装置の構成)
図1は、本発明の流体搬送装置の動作原理を説明するための模式図である。
本発明の流体搬送装置は、送液手段111と分析部112を接続する第四の流路104、前記第四の流路104と、それぞれ第一の交差部105、第二の交差部106、第三の交差部107で交差する、第一の流路101、第二の流路102、第三の流路103、前記第一の流路101中に設置された第一のバルブ108、前記第二の流路102中に設置された第二のバルブ109、前記第三の流路103中に設置された第三のバルブ110より構成される。
【0017】
第一から第四のバルブに、流体が流れると、流量に応じてバルブ前後に圧力差が発生する。第一のバルブ、第二のバルブ及び第三のバルブは、それぞれ第一の流路、第二の流路及び第三の流路から第四の流路に流入する方向の流れに関しては、その流れによりバルブ前後に発生する圧力差、流量に関わらず、常に通過させる構造を持つ。一方、第四の流路から、第一の流路、第二の流路及び第三の流路から第四の流路に流入する方向の流れに関しては、流量もしくはバルブ前後に発生する圧力差が、ある特定の閾値以上の場合には遮断し、ある特定の閾値未満の場合には通過させる構造を持つ。バルブ部の詳細な構成に関しては、後述する。
【0018】
一定量の流体を切り出して搬送する上で、各バルブの閾値のうち、少なくとも一つは、他のものと異なることが好ましい。これにより特定のバルブのみを開閉することが容易に可能となる。また、切り出して搬送する流体の量を、変化させるためには、全てのバルブの閾値が、他のバルブの閾値と異なることがより好ましい。
【0019】
また、すべてのバルブの閾値が同じ場合でも、各流路の流路抵抗を適切に設計し、交差部分において各流路に分岐する流量の割合、すなわち各バルブに流れる流量を変えることにより、特定のバルブのみを開閉し、一定量の流体を切り出して搬送することも可能である。流路抵抗は、流路の太さや長さを変えることにより、所望の値に設計することが可能である。また、多孔質材料等の流路抵抗の高い材料を流路中に挿入することによっても、変えることが可能である。
【0020】
本発明の搬送装置では、流体が流れることにより発生する圧力差により開閉する受動バルブを用いている。したがって、バルブを駆動するためのアクチュエータや電源が不要であり、装置を小型化することが容易となる。また、バルブは流れに応じて駆動するので、流量計等により流量を監視してバルブ駆動のタイミングを制御する必要がない。
【0021】
また流れそのものによりバルブが開閉するので、送液手段には特に制限がない。圧力流であっても電気浸透流であっても、流量もしくはバルブ前後に発生する圧力差を閾値以上にすることによりバルブを閉状態にすることが可能である。送液手段としては、例えば、市販の液体クロマトグラフィ用ポンプ、シリンジポンプ、電気浸透ポンプ等が挙げられる。ポンプを駆動する場合は、圧力を制御するモードで駆動しても良いし、流量を制御するモードで駆動しても良い。また、送液手段としてピペット等を用いても良い。また流路内に設けたヒータで流体を加熱して、流体を駆動しても良い。
分析部としては、例えばHPLCのカラム等が挙げられる。
【0022】
(一定量の液体の搬送方法)
本発明の図1の液体搬送装置を用いた液体搬送方法について図2(A)、(B)を用いて説明する。
第一のバルブ108、第二のバルブ109、第三のバルブ110の流量の閾値を、それぞれQ1 、Q2 、Q3 とする。また、ここでは、バルブの流量閾値に着目して説明するが、流れによりバルブ前後に発生する差圧に注目して、各工程の送液条件(流量、発生圧力等)を決定して実施しても同様な搬送が可能である。
【0023】
本発明では、流路全体を第一の液体を満たした後、分析部に搬送する第二の液体の量に応じて第四の流路の一部分のみに第二の液体を導入し、第四の流路に導入された第二の液体を切り取って分析部に搬送する。以下、分析部に搬送する第二の液体の量ごとに、搬送工程の一例を説明する。図2では流路のうち、第一の液体が満たされた部分を細い線、第二の液体が満たされた部分を太い線で示す。
【0024】
(a)第一の交差部と第二の交差部間の第二の液体を搬送する場合
(a)−1
まず、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を第一の液体で満たす。すなわち、送液手段111を用いて、各バルブにおける流量が、各バルブの閾値流量以下となるように、第一の液体を送液する。これにより、第一から第三の流路は第一の液体で満たされる。
【0025】
このとき、分析部112の流路抵抗が、第一から第三の流路側と比較して大きく、分析部全体が、第一の液体で満たされない場合がある。このような場合は、上で述べた工程に続いて、第一から第三のバルブのおける流量が、各バルブの閾値流量より大きくなるように、送液手段111を用いて送液する。これにより、各バルブが閉状態となり、分析部が第一の液体で満たされる。分析部全体が第一の液体で満たされた後、送液を停止する。
また、送液を停止しても、バルブが開状態に復帰しない場合は、例えば送液手段の圧力を開放する等の手段により、バルブを開状態に復帰しても良い。
【0026】
(a)−2
図2−(a)に示したように、第一の流路101から、第四の流路104のうち第一の交差部105と第二の交差部106により分画された部分113を通して、第二の流路102に第二の液体114を搬送する。これにより、第四の流路104のうち第一の交差部105と第二の交差部106により分画された部分113に、第二の液体114が導入される。以下、この工程に関して詳しく説明する。
【0027】
導入する流量を、全バルブが開いた状態で、第二のバルブ109に流れる流量がQ2 より小さく、第三のバルブ110に流れる流量がQ3 より大きくなるように設定する。これにより、第三のバルブ110は、送液を開始すると直ちに閉状態となり、一方、第二のバルブ109は開状態のままである。また分析部112及び送液手段111は、第二の流路102および第三の流路103と比較して、非常に流抵抗が高いので、第四の流路104のうち、第一の交差部105より送液手段111側および第三の交差部107より分析部112側には、第二の液体は流入しない。
【0028】
また、分析部112の流路抵抗が低い場合は、分析部112と第三の交差部107の間に、多孔質材料等の流路抵抗の高いものを挿入することも可能である。送液手段111側の流路抵抗が低い場合は、送液手段111と第一の交差部105の間に、多孔質材料等の流路抵抗の高いものを挿入することも可能である。
【0029】
第一の流路101から導入された第二の液体114は、第四の流路104のうち第一の交差部105と第二の交差部106により分画された部分113を通って、第二の流路102へ流れる。このとき、第一のバルブ108内の流れは、常に流れを通過させる方向なので、第一のバルブ108は開状態である。また第三のバルブ110が閉状態になると、第二のバルブ109に流れる流量は増加するが、この増加した流量がQ2 よりも小さくなるように、送液条件を設定する必要がある。
【0030】
第三のバルブ110が開状態から閉状態になるまでの間に、第四の流路104のうちの第二の交差部106と第三の交差部107により分画された部分に、第二の液体114が、若干量流入する可能性がある。この流入量は次工程において、分析部112に搬送する第二の液体の量に反映される。しかしながら、流入部の端面が、第四の流路104のうちの第二の交差部106と第三の交差部107により分画された部分にあり、かつ同条件で送液したときに、毎回、同じ流入量が得られるのであれば、特に問題にならない。また、第三のバルブ110の応答速度を速くすることにより、この流入量を少なくすることができる。ここでは、この流入量が無視できるくらい少ないものとして、以下の説明を続ける。((b)、(c)の場合に関しても同様である。)
【0031】
(a)−3
次に、送液手段111を用いて、第四の流路104に第一の液体115を搬送する。このとき、第一のバルブ108、第二のバルブ109を流れる流量が、それぞれQ1 、Q2 よりも大きくなるような条件で送液する。これにより、第一のバルブ108及び第二のバルブ109は送液を開始すると、ただちに閉状態となる。第一の交差部105と第二の交差部106間にあった第二の液体116は、図2(b)に示すように、第一の液体にはさまれた状態で切り出され、分析部112に搬送される。
【0032】
なお、(a)−2工程の送液を停止した後、第三のバルブ110が開状態になった場合には、第一のバルブ、第二のバルブ、第三のバルブを流れる流量が、それぞれQ1 、Q2 、Q3 よりも大きくなるような条件で送液することにより、同様に第一の交差部105と第二の交差部106間にあった第二の液体116を切り出して搬送することが可能である。
【0033】
(b)第二の交差部と第三の交差部間の第二の液体を搬送する場合
(b)−1
(a)−1工程と同様の方法で、、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を第一の液体で満たす。
【0034】
(b)−2
次に、図2(c)に示したように、第三の流路103から、第四の流路104のうち第三の交差部107と第二の交差部106により分画された部分117を通して、第二の流路102に第二の液体118を導入する。
【0035】
送液条件を、全バルブが開いた状態で、第二のバルブ108に流れる流量がQ2 より小さく、第一のバルブ109に流れる流量がQ1 より大きくなるように設定する。これにより、第一のバルブ109は、送液が開始されると直ちにで閉状態となり、第二のバルブ109は開状態のままなので、第三の流路103から導入された第二の液体118は、第四の流路104のうち第二の交差部106と第三の交差部107により分画された部分117を通って、第二の流路102へ流れる。このとき、第三のバルブ110内の流れは、常に流れを通過させる方向なので、第三のバルブ110は開状態である。また第一のバルブ108が閉状態になると、第二のバルブ109に流れる流量は増加するが、この増加した流量がQ2 よりも小さくなるように、送液条件を設定する必要がある。
【0036】
(b)−3
次に、送液手段111を用いて、第四の流路104に第一の液体119を搬送する。このとき、第二のバルブ109、第三のバルブ110を流れる流量が、それぞれQ2 、Q3 よりも大きくなるような条件で送液する。これにより、第二のバルブ109及び第三のバルブ110は送液を開始すると、ただちに閉状態となる。第二の交差部106と第三の交差部107により分画された部分117にあった第二の液体120は、図2(d)に示すように、第一の液体119にはさまれた状態で切り出され、分析部112に搬送される。
【0037】
なお、(b)−2工程の送液を停止した後、第一のバルブ108が開状態になった場合には、第一のバルブ108、第二のバルブ109、第三のバルブ110を流れる流量が、それぞれQ1 、Q2 、Q3 よりも大きくなるような条件で送液することにより、同様に第二の交差部106と第三の交差部106に分画された部分117にあった第二の液体120を切り出して搬送することが可能である。
【0038】
(c)第一の交差部と第三の交差部間の第二の液体を搬送する場合
(c)−1
(a)−1工程と同様の方法で、、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を第一の液体で満たす。
【0039】
(c)−2
図2(e)に示したように、第二の流路102から、第四の流路104を通して、第一の流路101及び第三の流路103に第二の液体121を導入する。
【0040】
導入する流量を、全バルブが開いた状態で、第一のバルブ108に流れる流量がQ1 より小さく、第三のバルブ110に流れる流量がQ3 より小さくなるように設定する。これにより、第一のバルブ108、第三110のバルブともに開状態となる。また第二のバルブ109内の流れは、常に流れを通過させる方向なので、第二のバルブ109は開状態である。第二の流路102から導入された第二の液体121は、第二の交差部106で分岐する。分岐したうちの一方の流れは、第四の流路104のうち第一の交差部105と第二の交差部106により分画された部分113を通って、第一の流路101へ流れる。他方の流れは、第四の流路104のうち第二の交差部106と第三の交差部107により分画された部分117を通って、第三の流路へ流れる。
【0041】
(c)−3
次に、送液手段111を用いて、第四の流路104に第一の液体122を送液する。このとき、第一のバルブ108、第二のバルブ109、第三のバルブ110を流れる流量が、それぞれQ1 、Q2 、Q3 よりも大きくなるような条件で送液する。これにより、第一のバルブ108、第二のバルブ109及び第三のバルブ110は送液を開始すると、ただちに閉状態となる。第一の交差部105と第三の交差部との間にあった第二の液体123は、図2(f)に示すように、第一の液体122にはさまれた状態で切り出され、分析部112に搬送される。
【0042】
以上、説明したように本発明の流体搬送装置を用いて、上で述べた(a)、(b)、(c)のいずれかの方法を適宜選択することにより、三種類の搬送量のうちから所望の搬送量を選択して、分析部に第二の液体を搬送することが可能となる。
【0043】
上で述べた実施形態では、三つのバルブを用いて、三種類の搬送量を設定したが、さらに多数のバルブを用いることにより、多種類の搬送量を選択可能な流体搬送装置を設計することも可能である。
【0044】
上で述べた実施形態では、各バルブのしきい値は、工程(a)−2及び工程(b)−2における各バルブの開閉が容易となるために、Q1 <Q2 、Q2 >Q3 の関係を持つことが好ましい。
【0045】
また、(a)−2、(b)−2、(c)−2の各工程における第二の液体の送液は、電気浸透流を用いても良いし、圧力流を用いても良い。送液手段としては、例えば、市販の液体クロマトグラフィ用ポンプ、シリンジポンプ、電気浸透ポンプ等が挙げられる。特に、第二の液体が電気浸透流を発生させにくい液体の場合は、圧力流を用いることが好ましい。
【0046】
また、流路101〜104、交差部105〜107、バルブ108〜110、送液手段111及び分析部112の配置は、図1の構成に限定されない。例えば、図3のように、バルブ301〜303、送液手段304、分析部305を配置しても、上で述べたのと同様に搬送量を調節することが可能である。また図4のように、各バルブ401〜403、送液手段404、分析部405を配置しても良い。この場合は、交差部406と交差部407に分画された部分のみでなく、交差部407に導入した第二の液体のみを分析部に導入することも可能である。これにより、極少量の第二の液体を分析部405に搬送することが可能になる。
【0047】
(バルブの説明)
本発明の流体搬送装置には、上で説明したように、流量が特定の値を越えた場合に流れを遮断するバルブを用いる。図5は、本発明の流体搬送装置に用いるバルブの構造の一例を概略図で示したものである。図5はあくまでも一例であり、本発明の流体搬送装置に用いるバルブは、流れの流量、もしくは流れにより発生する圧力差が特定の値を越えた場合に流れを遮断するという特性を有するバルブであれば良い。
【0048】
図5(a)にはバルブ500の上面図、図5(b)には断面図を示す。バルブ内の流路は、細い流路503を有する領域と、太い流路504、505を有する領域に分けられる。遮蔽部は501に示す平板の形状であり、流路504と505の間に、バネ502によって弾性支持された平板501が流路と垂直に、そして流路503の入り口とある距離を保って設置されている。平板501の径は流路503の径よりも大きく、平板501が流路503に向かって変位して流路503と流路505の境界に達した場合、流体の流れを塞ぐことが可能となる。
【0049】
図6(a)に、このバルブに流路504から流路503の向きに液体が流れる場合の経路を示す。このような流れにおいては、液体が流路505を流れる間に、その流量に応じた圧力の低下を生じる。これにより、平板501の表面では、流路504側と流路505側で圧力差が発生する。この圧力差が駆動力となり、平板501は流路503の入り口に向かって変位する。
【0050】
図6(b)は、流路504から流路505への液体の流量が閾値よりも低い場合を示す。平板501は、流路504側と流路505側の圧力差により変位するが、これを保持するバネ502の弾性による復元力により、流路503の入り口を塞ぐまでには至らない。従って、流体は図6(b)に示すように、流路504から503へ抜けていく。液体の搬送を止めると、バネ502の復元力によって平板501は元の位置に戻る。
【0051】
一方、図6(c)は、流路504から流路503への液体の流量が閾値以上である場合を示す。平板501は、流路504側と流路505側の圧力差により変位し、やがて流路503の入り口を塞ぐ。これにより流体の流れは図6(c)に示すように、平板501で遮断される。平板501は液体の圧力によって、流路503の入り口をシーリングした状態で保持され続ける。流路504側から印加されている圧力が取り除かれると、平板501はバネ502の復元力によって流路503の入り口から離れ、液体の搬送が止まったら元の位置に戻る。
【0052】
また、このバルブは、流路503から流路504への流れに関しては常に通過させることが構造上明らかである。そのため、流路504から流路503への流量が閾値以上で動作させる場合に限れば、このバルブは逆止バルブと同じ機能を有することになる。
【0053】
バルブの閾値流量(もしくは閾値圧力差)はバネ502のバネ定数、および平板501と流路503の距離及び平板501の直径、流路503の直径及びバルブを流れる流体の粘性により決定される。この内バネ定数は、バネ502の長さ、厚さ、本数、材質により決定される。これらを最適化することで、所望の閾値特性を有するバルブを設計することが出来る。また、バルブが閉じた状態の時、平板501は流体の圧力により保持されるため、高いシーリング効果が期待でき強度も高い。
【0054】
また、液体の搬送を止めたときに、バネの復元力で平板501は元の位置に戻る。これにより、従来のマイクロバルブで問題となりやすかったSticking(はりつき)、すなわち平板が対向した基板に表面張力によりはりついたまま元に戻らないという問題が発生しにくい。
【0055】
Stickingが特に問題とならないような場合には、バネ定数を弱くすることにより、液体の搬送を止めた後も、表面張力により平板501が元の位置に戻らずに閉状態が維持するように設計することも可能である。このような場合は、流路503側から圧力を印加することにより、平板501を元の位置に戻すことが可能である。上記のことは、平板501と流路503の距離を短くし、閉状態におけるバネの復元力を小さくすることによっても実現することが可能である。
【0056】
バネ502および平板501の材質としては、分析する溶液に対して耐性があり、かつ弾性変形に対してある程度の耐性を持つ、例えばシリコンが望ましい。シリコーン等の樹脂を用いることも可能である。必要に応じて、表面をコーティングしても良い。また流路を形成するその他の基板に関しては、分析する溶液に対して耐性がある材料であれば特に制限がない。例えば、ガラス、シリコン、シリコーン樹脂等が挙げられる。また液体の搬送に電気浸透流を用いる場合は、電気浸透流を発生させる材料を選択することが可能である。
【0057】
また、遮蔽部を平板状にし、対向する基板との間にギャップを形成することにより、該ギャップ間を流体が流れるときに圧力低下が発生し、遮蔽部の上下で圧力差が発生する。この圧力差により、遮蔽部が基板方向に移動する。また、遮蔽部の形状は、対向した開口を遮蔽することが可能な形状であれば特に制限はない。特に円形状が、流れの対称性の観点から好ましい。特に断面が円形の流路に対し、流路と中心を同一とする円形状の平板を配置することが好ましい。これにより、流路505における流体の流れおよび圧力分布が中心軸に対して対称となり、遮蔽部の変位を安定させることが可能となる。
【0058】
図5に示したバルブは、平板501をバネ502で支持した形態となっている。このような形態の場合、平板をほとんど変形させずに、バネ部のみを変形させ、平板501の位置を変位させることも可能である。この場合は、平板501の変位が安定するので、安定した閾値圧力を得ることができる。バネ502のみを変形させる場合は、バネ定数が小さくなるように設計する。バネ502を薄く、長くすることにより、個々のバネのバネ定数は小さくなる。バネの本数を減らすことにより、バルブ全体のバネ定数を小さくしても良い。もしくは平板501を厚くすることにより平板を変形しにくい形状に設計しても良い。
【0059】
また、平板501およびバネ502の形状を適切に設計することにより、平板、バネともに変形させることも可能である。この場合は、バネ502のバネ定数が大きくなるように設計する。もしくは平板を薄くすることにより変形しやすくしても良い。平板、バネともに変形する場合は、平板501の中心部が凹形状に変形して、外縁部に沿って流路503を塞ぐことが可能である。これにより、シール性の向上を期待することができる。
【0060】
バネ502の断面形状としては、特に制限がない。図3に示したような断面が長方形の板形状でも良いし、湾曲した形状、蛇行形状としても良い。バネ部の厚さを平板部と異なる厚さにしても良い。
【0061】
例えば断面が円形の流路内に流路と中心を同一とする円形状の平板を支持する場合、バネ502による支持位置は、中心軸に対して対称な位置であることが好ましい。これにより、流路505における圧力分布が中心軸に対して対称となるとともに、平板の変位も対称となる。このことにより、安定した閾値特性が得られる。また閉状態におけるシール性も向上する。
【0062】
複数のバネで平板を支持する場合は、バネ定数の等しい複数のバネで支持することが平板の変位の安定性の点で好ましい。
また本項では、平板上の遮蔽部を板バネで弾性支持した形態を例にとり説明したが、本発明の実施形態はこれに制限されるものではない。例えば片持ち梁や両持ち梁のように、遮蔽部の片端もしくは両端を固定することにより弾性支持しても良い。
【実施例1】
【0063】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中における、寸法、形状、材質、作製プロセス条件は一例であり、本発明の要件を満たす範囲内であれば、設計事項として任意に変更することが可能である。
【0064】
本実施例では、一定量の試料を切り出して搬送可能な液体搬送装置の例を示す。
図7に図1の液体搬送装置の具体的な例を示す。液体搬送装置は、図7(b)に示すように、流路基板701とバルブ基板702とからなる。図7(a)は、図1に示される流路パターンが形成される流路基板の平面図であり、図7(b)及び図7(c)中のA−A‘断面図に相当する。図7(b)は、図7(a)中のB−B’間の断面図、図7(c)は図7(a)中のC−C”間の断面図を示す。なお、図7では説明のため、実際より各流路の太さを強調して示してある。
【0065】
流路基板701には、第一の流路703、第二の流路704、第三の流路705、第四の流路706が形成されている。各流路は、第一の交差部707、第二の交差部708、第三の交差部709で交差している。
【0066】
バルブ基板702には、第一のバルブ710、第二のバルブ711、第三のバルブ712が形成されている。また貫通穴713〜717が形成されている。貫通穴716は、チューブ(不図示)を介して、送液手段であるHPLC用ポンプ(不図示)に接続されている。貫通穴717は、チューブ(不図示)を介して、分析部であるHPLC用カラム(不図示)に接続されている。
【0067】
各部の寸法の例を以下に説明する。流路基板はパイレックス(登録商標)ガラスよりなり、その厚さは500μmである。バルブ基板の主材料はシリコンであり、その厚さは700μmである。流路基板に形成される流路の幅は100μm、深さは50μmである。バルブ基板に形成される貫通穴は直径100μmである。バルブ内の太い流路で形成される領域の直径は300μmである。バルブを形成する平板501は直径200μm、厚さ5μmで、バネ502は長さ50μm、厚さ5μm、幅10μmである。流路505の長さ、すなわち変位のない状態の平板501と流路503の距離は、第一のバルブ710と第三のバルブ712に関しては5μmであり、第二のバルブ711に関しては7.5μmである。
【0068】
室温で水を流した場合の各バルブの閾値流量は、第一のバルブ710と第三のバルブ712に関しては約60μl/minであり、第二のバルブに関しては約300μl/minである。
【0069】
流路基板は、フォトリソグラフィとHF(ふっ酸)溶液によるエッチングにより作製する。バルブ基板は、SOI(Silicon on Insulator)基板及びシリコン基板をマイクロマシーニング技術を用いて加工し、熱融着法により接合することにより作製する。上のように作製した流路基板とバルブ基板を陽極接合法を用いて接合することにより、図7に示した流体搬送装置が完成する。
【実施例2】
【0070】
次に、図7の装置を用いて、HPLC(high performance liquid chromatography)により、混合溶液を分離する例を示す。
第一の液体である移動相溶液として、リン酸緩衝液とメタノールを75:25に混合した溶液(以下溶液Aとする。)を用意する。また、第二の液体である分析対象サンプル溶液としては、安息香酸、サリチル酸、フェノールを100mMリン酸緩衝液(pH=7.0;KH2 PO4 −Na2 HPO4 )に溶解させた混合水溶液(以下、溶液Bとする。)を用意する。また、分離部としては、ODS(オクタデシル化シリカ)カラムを用いた逆相クロマトグラフィーカラムを用い、紫外光吸収検出器によって、分離された各成分の検出を行う。
【0071】
分離部へ搬送する溶液Bの量を変えて、三種類の分析を実施する。
(a)第一の交差部と第二の交差部間の第二の液体を搬送する例
まず、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を溶液Aで満たす。すなわちHPLC用ポンプ(不図示)を用いて、50μl/minの流量で、溶液Aを貫通穴716から送液する。この状態では、バルブ710〜712は開状態のままであり、一定時間の送液後、流路703〜706貫通穴713〜717は溶液Aで満たされる。次に、HPLC用ポンプのパージバルブ(不図示)を用いて圧力を開放することにより、バルブ710〜712を再び開状態に戻す(以上の操作により、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部が溶液Aで満たされ、第一から第三のバルブは、開状態となる。)。
【0072】
次に、貫通穴713にチューブ(不図示)を介して、シリンジポンプ(不図示)を接続する。該シリンジポンプを用いて、溶液Bを貫通穴713から流量280μl/minで送液する。これによりバルブ712は直ちに閉状態となり、溶液Bは図2(a)に示した経路で送液される。
【0073】
次に、HPLC用ポンプ(不図示)を用いて、500μl/minの流量で、溶液Aを貫通穴716から送液する。これにより、バルブ710、バルブ712は直ちに閉状態となり、交差部707と交差部708の間にあった溶液Bが切り出され、貫通穴717に接続された分析部(HPLCカラム)に搬送される。
【0074】
紫外光吸収検出器によって、HPLCカラムにより分離された各成分の検出を行う。前記紫外光の波長は280nmである。その結果、安息香酸、サリチル酸、フェノールの溶離時間の差に基づいた3本の明瞭な出力信号ピークを得ることができる。
【0075】
(b)第二の交差部と第三の交差部間の第二の液体を搬送する例
まず、上記(a)と同様に、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を溶液Aで満たす。
【0076】
次に、貫通穴715にチューブ(不図示)を介して、シリンジポンプ(不図示)を接続する。該シリンジポンプを用いて、溶液Bを貫通穴715から流量280μl/minで送液する。これにより、バルブ710は直ちに閉状態となり、溶液Bは図2(c)に示した経路で送液される。
【0077】
次に、HPLC用ポンプ(不図示)を用いて、500μl/minの流量で、溶液Aを貫通穴716から送液する。これにより、バルブ711、バルブ712は直ちに閉状態となり、交差部708と交差部709の間にあった溶液Bが切り出され、貫通穴717に接続された分析部(HPLCカラム)に搬送される。
【0078】
上記(a)と同様に、HPLCカラムにより分離された各成分の検出を行うと、上記(a)と比較してHPLCカラムに搬送される溶液Bの量が多いので、信号強度が大きくなる。
【0079】
(c)第一の交差部と第三の交差部間の第二の液体を搬送する例
まず、上記(a)及び(b)と同様に、第一から第四の流路、第一から第三の交差部、第一から第三のバルブ、分析部を溶液Aで満たす。
【0080】
次に、貫通穴714にチューブ(不図示)を介して、シリンジポンプ(不図示)を接続する。該シリンジポンプを用いて、溶液Bを貫通穴714から流量50μl/minで送液する。この送液条件では、バルブ710、バルブ712は開状態のままであり、溶液Bは図2(e)に示した経路で送液される。
【0081】
次に、HPLC用ポンプ(不図示)を用いて、500μl/minの流量で、溶液Aを貫通穴716から送液する。これにより、バルブ710、バルブ711、バルブ712,は直ちに閉状態となり、交差部707と交差部709の間にあった溶液Bが切り出され、貫通穴717に接続された分析部(HPLCカラム)に搬送される。
【0082】
上記(a)及び(b)と同様に、HPLCカラムにより分離された各成分の検出を行うと、上記(b)と比較してHPLCカラムに搬送される溶液Bの量が多いので、信号強度がさらに大きくなる。
【実施例3】
【0083】
実施例2と同様に、図7で示した分析装置を利用し、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate dehydrogenase)、乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate dehydrogenase)、エノラーゼ(Enolase)、アデニル酸キナーゼ(Adenylate kinase)、チロクロームc(cytochrome c)の5種類のタンパク溶液をHPLCにより分離分析する。
【0084】
第一の液体としては、リン酸緩衝液とメタノールを75:25に混合した溶液を用意する。第二の液体としては、前記5種類のタンパク質を0.3M NaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH=0.7)に溶解させた混合水溶液(各タンパク質の終濃度:1.5mg/mL)を用意する。分析部としては、シリカ系のGFC(サイズ分離)モードのHPLCカラムを用いる。また、分離したタンパク質の検出には、紫外光吸収検出器(波長280nm)を用いる。
【0085】
実施例2と同様に、搬送量の異なる三種類の分析を行う。いずれの場合も、上記5種類のタンパク質の分子量に相関する溶離時間の差に基づく5本の明瞭な信号出力ピークを得ることができる。また、それぞれの場合ごとに、HPLCカラムの搬送した試料の量に応じた信号強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の流体搬送装置の一実施形態を示す概念図である。
【図2A】本発明の流体搬送方法を一実施形態を示す概念図である。
【図2B】本発明の流体搬送方法を一実施形態を示す概念図である。
【図3】本発明の流体半装置の一実施形態を示す概念図である。
【図4】本発明の流体半装置の一実施形態を示す概念図である。
【図5】液体が流れることによって駆動するバルブの一実施形態を示す概念図である。
【図6】液体が流れることによって生じる圧力差によりバルブが駆動する工程を示す概念図である。
【図7】本発明の液体搬送装置の実施例を示す概念図である。
【図8】従来の液体の搬送方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0087】
101 第一の流路
102 第二の流路
103 第三の流路
104 第四の流路
105 第一の交差部
106 第二の交差部
107 第三の交差部
108 第一のバルブ
109 第二のバルブ
110 第三のバルブ
111 送液手段
112 分析部
113 第四の流路のうち第一の交差部と第二の交差部に分画された部分
114、116、118、120、121、123 第二の液体
115、119、122 第一の液体
117 第四の流路のうち第二の交差部と第三の交差部に分画された部分
301、302、303、401、402、403 バルブ
304、404 送液手段
305、405 分析部
406、407 交差部
500 バルブ
501 遮蔽部
502 バネ
503、504、505 流路
701 流路基板
702 バルブ基板
703 第一の流路
704 第二の流路
705 第三の流路
706 第四の流路
707 第一の交差部
708 第二の交差部
709 第三の交差部
710 第一のバルブ
711 第二のバルブ
712 第三のバルブ
713、714、715、716、717 貫通穴
801 サンプリングバルブ
802 圧力発生源
803 HPLCカラム
804 試料ループ流路
805 分析用流路
806 液体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブと、を備えた流体搬送装置であって、前記流路は、第1の流路、第2の流路及び第3の流路と、これら3つの流路の一端が第4の流路に接続された少なくとも4つの流路からなり、少なくとも第1乃至第3の各流路の途中に前記バルブを備えると共に、前記バルブは、前記流路に流体が流れたときに前記バルブの上流側と下流側との間に生じる圧力差に応じて作動するものであり、前記圧力差が所定の値未満のとき各バルブは、流体を通過させ、前記圧力差が所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は、各バルブに応じて設定されていることを特徴とする流体搬送装置。
【請求項2】
前記バルブは、所定の方向に流体が流れるときはこれを通過させ、前記所定の方向と逆方向に流れるときは、前記圧力差が前記所定の値未満のときは通過させ、前記圧力差が前記所定の値以上のときは流体の流れを遮断することを特徴とする請求項1記載の流体搬送装置。
【請求項3】
前記第4の流路には、一端に送流手段が接続され、他端に流体の分析手段が接続されていることを特徴とする請求項1記載の流体搬送装置。
【請求項4】
流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブと、を備えた流体搬送装置を用いた流体搬送方法であって、前記流路は、第1の流路、第2の流路及び第3の流路と、これら3つの流路の一端が第4の流路に接続された少なくとも4つの流路からなり、少なくとも第1乃至第3の各流路の途中に前記バルブを備えると共に、前記バルブは、前記流路に流体が流れたときに前記バルブの上流側と下流側との間に生じる圧力差に応じて作動するものであり、前記圧力差が所定の値未満のとき各バルブは、流体を通過させ、前記圧力差が所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は、各バルブに応じて設定されている前記流体搬送装置を用意する工程と、前記第4の流路の一端より、第1の流体を導入し、前記第1乃至第4の流路を第1の流体で満たす工程と、前記第1乃至第3の流路の、前記第4の流路に接続された一端とは逆の他端の一つから、第2の流体を導入し、第2の流体を導入した他端を備えた流路と、これとは別の第1乃至第3の流路の少なくとも一つ及び、第4の流路の前記他端を備えた流路との第1の交差部と前記別の第1乃至第3の流路の少なくとも一つとの第2の交差部との間を第2の流体で満たす工程と、前記第4の流路の一端より第1の流体を導入し、前記第1の交差部と第2の交差部との間の第2の流体を第4の流路の他端に搬送する工程とを有することを特徴とする流体搬送方法。
【請求項5】
前記第4の流路の一端からの第1の流体の導入を、前記一端に接続した送流手段を用いて行うことを特徴とする請求項4に記載の流体搬送方法。
【請求項6】
前記第4の流路の他端には、分析手段が接続され、第1の交差部と第2の交差部との間の第2の流体を前記分析手段に搬送することを特徴とする請求項4に記載の流体搬送方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−78276(P2006−78276A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261380(P2004−261380)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】