説明

流体輸送用チューブ及びその製造方法

【課題】耐屈曲性に優れる流体輸送用チューブ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法であって、押出成型する押出成型工程と、該工程で得られた成型品を押出方向に最大引張り率が30%以上となるまで引張る引張工程とを含む流体輸送用チューブの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体輸送用チューブ、さらに詳しくは熱可塑性エラストマーを基材とし、押出成型して得られた成型品を引張ることで得られる、耐屈曲性に優れる流体輸送用チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス輸送用、化学薬品用、医療用、飲料輸送用等に用いられる流体輸送用チューブは、安定した流体輸送を担保するため、チューブを曲げても流体が詰まらないという耐屈曲性が要求されている。その耐屈曲性を向上するためには、閉塞しにくい断面形状からの改良が求められているが、未だ、満足し得る流体輸送用チューブを実現できていないのが実情である。
特許文献1には、断面弓形の扁平閉管形状を有する流体輸送部材と、固定部材とからなり、給排水時の水圧により膨脹して流体流路を形成する給排水ホ−スが開示されている。この流体輸送部材がエラストマーと繊維補強層とからなり、固定部材がスチールコード補強層を弓形断面形状のエラストマー滑り止めセグメントの両側に配置したサンドイッチ構造体からなるものであって、流体輸送部材および固定部材の外周面に繊維補強エラストマー外層が一体的に接合、被覆されているものであるが、チューブを曲げた場合閉塞し易いものであった。
また、耐屈曲性を向上するためには、柔軟性の高い材料を用いることも求められるが、この観点からの改良も未だ十分になされていないのが実情である。
【0003】
【特許文献1】特開平9−273669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐屈曲性に優れる流体輸送用チューブ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法において、押出成型により得られた成型品を押出方向に特定の条件で引張ることで、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) 熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法であって、押出成型する押出成型工程と、該工程で得られた成型品を押出方向に最大引張り率が30%以上となるまで引張る引張工程とを含む流体輸送用チューブの製造方法、
(2) 引張工程における引張を30〜600mm/分の引張速度で行う上記(1)に記載の流体輸送用チューブの製造方法、
(3) 熱可塑性エラストマーを含む組成物が、該熱可塑性エラストマー100質量部に対して、ポリオレフィン樹脂0.1〜50質量部を配合した組成物である上記(1)又は(2)に記載の流体輸送用チューブの製造方法、
(4) 前記の熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の流体輸送用チューブの製造方法、
(5) ポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)からなる群から選ばれる少なくとも一種である上記(4)のいずれかに記載の流体輸送用チューブの製造方法、
(6) ポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)である上記(5)に記載の流体輸送用チューブの製造方法、及び
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により製造された流体輸送用チューブ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、屈曲性に優れた、流体輸送用チューブを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の流体輸送用チューブは、熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなることを特徴とする。
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、特に制限はなく、従来公知の熱可塑性エラストマーの中から、流体輸送用チューブの用途に応じて適宜選択されるが、耐屈曲性の観点からは柔軟性の高い材料が好ましい。この熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
本発明において、これらの熱可塑性エラストマーは、一種を単独で用いてもよいし、また二種以上を組み合わせて使用してもよいが、物性及び加工性のバランスなどの点から、特にポリスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0008】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)とゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックが弾性を付与する。
芳香族ビニル系重合体ブロックを形成する芳香族ビニル系化合物の例としては、スチレン;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン等の核アルキル置換スチレン;o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン等の核ハロゲン化スチレン;1−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン誘導体;インデン誘導体;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
これらの中で、スチレン、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好適である。
これらの芳香族ビニル化合物は、一種を単独で用いてもよいし、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0009】
このポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、その中のソフトセグメントの配列様式により、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−ブロック共重合体(SEPS)、ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体などがある。
これらの中で、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性などの点から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、及びスチレン−エチレン/プロピレン−ブロック共重合体(SEPS)が好ましい。これらのスチレン系エラストマーにおけるスチレンブロックの含有量は、10〜70質量%であることが好ましく、さらには20〜40質量%の範囲が好ましい。
【0010】
上記熱可塑性エラストマーの硬度は、JIS−A規格で80度以下が好ましい。硬度が80度以下であると、成型体としての十分な柔軟性が得られる。以上の点から、硬度がJIS−A規格で70度以下がさらに好ましく、60度以下が特に好ましい。
また、上記熱可塑性エラストマーの重量平均分子量については特に制限はないが、ガスバリア性、機械的特性、及び成型性などの面から、40,000〜120,000の範囲であることが好ましく、さらには60,000〜100,000の範囲が好ましい。
【0011】
また、熱可塑性エラストマーを含む組成物(以下「エラストマー組成物」と称することがある。)としては、熱可塑性エラストマー以外の成分として、種々のものを配合することができるが、該エラストマー組成物の加工性、耐熱性の向上を図る点から、ポリオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂などの樹脂成分(以下、単に「樹脂成分」という場合がある。)を好適に挙げることができ、特にポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリブテン−1などを挙げることができる。ポリオレフィン樹脂としてアイソタクティックポリプロピレン又はその共重合体を用いる場合、そのMFR(JIS K7210)が0.1〜50g/10分、特に0.5〜30g/10分の範囲のものが好適に使用できる。
なお、エラストマー組成物中に含まれる熱可塑性エラストマーは、一種単独で、また二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
次に、ポリスチレン樹脂としては、従来公知の製造方法で得られたもの、例えば、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれで得られたものも好適に使用できる。
ここで使用するポリスチレン樹脂の数平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲から選択でき、分子量分布は5以下のものが好ましい。
ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60質量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、これらは一種または二種以上を併用してもよい。
更に、これらポリマーを構成するモノマーの混合物を重合して得られる共重合体も用いることができる。
また、上記ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とを併用することもできる。
例えば、エラストマー組成物にこれらの樹脂を添加する場合、ポリオレフィン樹脂単独を添加する場合に比較してポリスチレン樹脂を併用すると、得られる成型体の硬度が高くなる傾向にある。
従って、これらの配合比率を選択することにより、得られる成型体の硬度を調整することもできる。
この場合、ポリオレフィン樹脂/ポリスチレン樹脂の比率は95/5〜5/95(質量比)の範囲から選択することが好ましい。
【0013】
エラストマー組成物中の樹脂成分の配合量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0〜100質量部程度であることが好ましく、例えば、ポリオレフィン樹脂の場合は、特に0.1〜50質量部がより好ましい。
樹脂成分の配合量が100質量部以下であると、得られる成型体の硬度が高くなり過ぎることがなく好ましい。
【0014】
上記エラストマー組成物中には、さらに軟化剤を添加することができる。軟化剤としては、通常、室温で液体又は液状のものが好適に用いられる。
このような性状を有する軟化剤としては、例えば、鉱物油系,合成系などの各種ゴム用又は樹脂用軟化剤の中から適宜選択することができる。
ここで、鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、なかでも、非芳香族系オイル、特に鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上であって、その数平均分子量が450〜5,000であるものが好ましい。
なお、これらの軟化剤は一種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば二種以上を混合して用いてもよい。
軟化剤の配合量は、特に制限はないが、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、通常1〜1000質量部、好ましくは1〜500質量部の範囲で選ばれる。
配合量が、1質量部以上であると低硬度化することができ、チューブ等の成型体とした場合に十分な柔軟性が得られる。一方、1,000質量部以下であると軟化剤のブリードが抑えられ、また、成型体の十分な機械的強度が得られる。
なお、この軟化剤の配合量は、熱可塑性エラストマーの分子量及び該熱可塑性エラストマーに添加される他の成分の種類に応じて、上記範囲で適宜選定することができる。
【0015】
また、当該エラストマー組成物には、得られる成型体の圧縮永久歪みを改善するなどの目的で、所望によりポリフェニレンエーテル樹脂を配合することができる。
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、公知のものを用いることができ、具体的には、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、又、2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。
なかでも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)や2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、更に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して10〜250質量部の範囲で好適に選択することができる。
この配合量が250質量部以下であると得られる成型体の硬度が高くなりすぎず適度のものとなり、10質量部以上であると得られる成型体の圧縮永久歪みの改善効果が十分となる。
【0016】
また、本発明のエラストマー組成物には、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系添加剤、各種の金属粉、ガラス粉、セラミックス粉、粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤、その他の各種の天然または人工の短繊維、長繊維(各種のポリマーファイバー等)などを配合することができる。
また、中空フィラー、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。
更に、軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0017】
また、本発明のエラストマー組成物には、他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤、抗菌剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、シリコーンオイル、シリコーンポリマー、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体などの各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、レオストマーB(商品名:リケンテクノス(株)製)などの各種接着性エラストマー、ハイブラー(商品名:(株)クラレ製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体)、ノーレックス(商品名:日本ゼオン(株)製、ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを併用することができる。
【0018】
上記シリコーンポリマーは、重量平均分子量が10,000以上、好ましくは100,000以上であるものが望ましい。上記シリコーンポリマーは、当該エラストマー組成物を用いた成型体の表面粘着性を改善する。
該シリコーンポリマーは、取扱い性を良くするために、汎用の熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどに高濃度で配合されたものを用いることができる。
特に、ポリプロピレンとの配合品が作業性、物性ともに良好である。
このような材料は、例えば、東レダウコーニングシリコーン(株)より市販されている、シリコーンコンセントレートBY27シリーズ汎用タイプとして容易に入手できるものを使用してもよい。
【0019】
当該エラストマー組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
例えば、上記の各成分及び所望により用いられる添加剤成分を加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、プラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサーなどを用いて溶融混練し、更に、所望により有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加したり、又はこれらの必要な成分を同時に混合し、加熱溶融混練することにより、容易に製造することができる。
また、高分子有機材料と軟化剤とを混練した熱可塑性材料を予め用意し、この材料を、ここに用いたものと同種か若しくは種類の異なる一種以上の高分子有機材料に更に混ぜ合わせて製造することもできる。
更に、当該エラストマー組成物においては、有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加して架橋することも可能である。
【0020】
本発明の流体輸送用チューブの製造方法は、上記の熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物を押出成型して成型品を得る押出成型工程と、該工程で得られた成型品を押出方向に最大引張り率が30%以上となるまで引張る引張工程とを含む。本発明の流体輸送用チューブの製造方法によれば、押出成型工程で得られた成型品を、押出方向に引張ることで、得られるチューブの耐屈曲性を向上させることが可能となる。耐屈曲性が向上する機構は判明していないが、押出工程で得られた異方性を有する成型品を押出方向に引張ることで、等方性に近づけることができるので、耐屈曲性が向上すると推測される。
【0021】
引張工程における引張りの方法は、チューブ状の成型品を押出成型工程にて押出された方向に引張ることができれば、特に制限されない。本発明の製造方法において、引張工程における最大引張り率は、30%以上であることを要する。最大引張り率の上限は、チューブ状の成型品が破断しない範囲でなければ特に制限はなく、成型して得られたチューブの厚みや材質により異なるが、通常500%程度である。また、良好な耐屈曲性を得る観点から、最大引張り率は50〜150%が好ましく、50〜100%がより好ましい。ここで、最大引張り率とは、チューブ状の成型品を引張った際の最大長さにおける伸びた分の長さの、引張る前の長さに対する割合である。例えば、最大引張り率100%とは、引張る前の長さの2倍まで引張ったことを意味する。
【0022】
引張工程における引張の速度は、30〜600mm/分が好ましく、30〜250mm/分がより好ましい。上記範囲内であれば、良好な耐屈曲性を得ることができ、チューブ状の成型品が破断することもない。また、本発明の製造方法において、引張工程における引張り回数は、特に制限はなく、1回でも良いし、2回以上であってもよい。
【0023】
このようにして得られた本発明の流体輸送用チューブは、優れた耐屈曲性をもち、インクジェットプリンター用・冷媒輸送用・ガス輸送用・化学薬品用・医療用・飲料輸送用等の流体輸送用チューブなどの用途に好適である。本発明の流体輸送用チューブの内径は、上記に挙げた用途により適宜選択されるが、通常0.1〜3mm程度、好ましくは0.5〜2mmである。また、その肉厚は、内径にもよるが、通常0.1〜2mm程度、好ましくは0.5〜1.5mmである。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)耐屈曲性(屈曲半径);実施例及び比較例で得られた流体移動用チューブを屈曲させた場合、キンクが発生した時の、チューブ屈曲部分の円弧外側の半径(屈曲半径)を測定した。
【0025】
成型例1
スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体〔SIBS:重量平均分子量Mw=約70,000、スチレンブロック含有量30質量%〕100質量部に対してポリプロピレン(出光興産(株)製「H−700」)5質量部を配合した配合物を用い、シリンダー温度180℃の製造条件にて押出成型して、チューブ状の成型品1を得た。ここで、成型品1のサイズ(内径、肉厚、外径)は、表1に示すように3種類を作製した。
【0026】
成型例2
スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体〔SIBS:重量平均分子量Mw=約70,000、スチレンブロック含有量30質量%〕100質量部に対してポリプロピレン(出光興産(株)製「H−700」)5質量部及びグラファイト((株)エスイーシー製「SGP−10」)20質量部を配合した配合物を用い、金型温度80℃、樹脂温度180℃の製造条件にて押出成型して、チューブ状の成型品2を得た。ここで、成型品2のサイズ(内径、肉厚、外径)は、表2に示すように2種類を作製した。
【0027】
実施例1〜20
成型例1及び成型例2で得られた成型品を、各々表1及び表2の条件で引張り、流体移動用チューブを得た。得られたチューブの屈曲半径を表1に示した。
【0028】
比較例1〜5
成型例1及び成型例2で得られた成型品を、引張らずに、流体移動用チューブとした。得られたチューブの屈曲半径を各々表1及び表2に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の流体輸送用チューブは、優れた耐屈曲性を有し、インクジェットプリンター用・冷媒輸送用・ガス輸送用・化学薬品用・医療用・飲料輸送用等の流体輸送用チューブなどの用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー又はそれを含む組成物からなる流体輸送用チューブの製造方法であって、押出成型する押出成型工程と、該工程で得られた成型品を押出方向に最大引張り率が30%以上となるまで引張る引張工程とを含む流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項2】
引張工程における引張を30〜600mm/分の引張速度で行う請求項1に記載の流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーを含む組成物が、該熱可塑性エラストマー100質量部に対して、ポリオレフィン樹脂0.1〜50質量部を配合した組成物である請求項1又は2に記載の流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載の流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項5】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項6】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)である請求項5に記載の流体輸送用チューブの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造された流体輸送用チューブ。

【公開番号】特開2008−20054(P2008−20054A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194713(P2006−194713)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】