説明

流動床ガス化装置の運転方法及び流動床ガス化装置並びに石炭ガス化複合発電システム

【課題】ガス化速度を維持しつつ、流動床の温度を低くしてガス化を行うことができ、且つ、多様な炭種の石炭をガス化することができる流動床ガス化装置運転方法及び流動床ガス化装置並びに石炭ガス化複合発電システムを提供すること。
【解決手段】流動床ガス化装置1のガス化炉2の流動床に、燃料としてアルカリ化合物を含有する固体粒子を添加することにより、石炭をガス化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床ガス化装置及びその運転方法に関し、更に詳しくは、火力発電設備や燃料ガス製造設備等において石炭のガス化に使用される流動床ガス化装置を効率よく運転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭は、石油資源の枯渇が叫ばれるようになっていることから注目を浴びている。石炭のガス化や液化の研究、またそれによって得られるものを原料とする化学反応の開発などが精力的に進められており、例えば、乾留(dry distillation)などによって石炭から得られるガスは、都市ガスや合成化学原料に用いられている。
【0003】
石炭のガス化装置の1つとして、流動床ガス化炉(以下、「ガス化炉」という)を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−227205号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このガス化炉では、炉体の底部に、砂等の流動化用粒子を一定高さに充填し、この流動化用粒子を、底部に設けた散気装置から空気等の流動化用ガスを送ることで浮遊流動させて、流動床を形成する。
流動床で石炭の一部を燃焼させると、その燃焼熱により流動床が加熱され、蓄熱して、石炭を持続的にガス化させることができる。
上述のような石炭のガス化装置の問題点の1つは、石炭のガス化速度が遅く、ガス化効率が低いことである。
ガス化効率を高める方法としては、石炭の粒子径を小さくして反応しやすくする、流動床の温度を上げてガス化速度を高める、ガス化炉の容積を大きくして石炭の炉内滞留時間を長くする等の方法が考えられる。
しかしながら、流動床を形成する流動化用粒子としては、その流動性を考慮すると、平均粒径が約0.5mm以上、好ましくは0.5〜2mm程度の大きさである必要があるので、石炭の粒子径を小さくすることには限度がある。
また、ガス化炉の容積を大きくするのにも技術的に制約がある。
したがって、流動床の温度を上げることが、ガス化効率を高める最も現実的な方法であると考えられるが、それにはいくつかの問題が生じる。
【0005】
問題の1つは、流動床ガス化装置内に、石炭等の物質の流動トラブルを誘発するクリンカ(粗大粒子)が形成されやすくなることである。
通常、ガス化炉内において、流動床は、約800〜1200℃の温度で燃焼している。ところが何らかの要因によって流動床の温度が全体的又は局部的に高くなり、石炭中の灰分の軟化溶融温度以上となると、灰分が、軟化溶融したり、石炭粒子間でバインダーの役目を果たすなどして、クリンカが形成される。
ガス化炉内や、石炭、流動床を形成するためのガス、石炭を燃焼させる酸素を含む燃焼ガス等を供給する配管内等にクリンカが形成されると、それらの供給や装置内での物質流動がうまくいかず、適正な温度調節や流動床形成、燃料の燃焼等が困難になってしまう。
更に、生成したクリンカを除去するために、装置を長時間停止する必要が生じてしまう。また、流動床の温度を上げるためには、多量の燃料を使用する必要があるので、コストが高くなってしまう。
【0006】
このように、流動床の温度を高くすると、流動床の温度が、石炭中の灰分の軟化溶融温度(以下、「クリンカ形成温度」という)以上に上昇しやすくなり、クリンカが形成されやすくなってしまう。
それゆえに、クリンカの形成を防止するためには、流動床の温度を、クリンカ形成温度よりもできるだけ低くすることが望ましい。
しかしながら、単に流動床の温度を低くするだけでは、石炭のガス化速度が遅くなり、ガス化効率が低下してしまう。
【0007】
一方、使用する石炭の炭種を、例えば約1500℃以上の高融点の灰分のみを含むものに制限して、流動床の温度をその融点より低い温度、例えば950〜1200℃とすれば、石炭のガス化速度を維持しつつ、クリンカの形成を防ぐことは可能である。
しかしながら、使用できる石炭の炭種が制限されることから、コストが高くなるという問題がある。
また、例えば1100〜1200℃といった低融点の灰分を含む炭種や、高融点の灰分と低融点の灰分とが混在する炭種をガス化することは困難である。
【0008】
すなわち、石炭のガス化反応は、通常、一定の温度以上に加熱されないと十分な反応速度とならない。石炭のガス化反応が十分な反応速度をもって生起する温度(以下、「反応温度」という)は、炭化度や含有する灰分により、炭種毎に若干異なるが、一般に950℃以上の温度が必要である。
流動床の温度が、この反応温度よりも低いと、ガス化反応速度が十分でなかったり、ガス化しない等の問題が生じる。
【0009】
さらに、流動床の温度を上げることによって生じる他の問題として、流動床ガス化装置が、ガス化炉の後流側に、発生した石炭ガス化ガス中に含まれる硫黄化合物を脱硫するための脱硫炉を備えており、脱硫剤として石灰石を用いる場合に、脱硫炉の脱硫性能の低下がある。
脱硫剤として石灰石を用いる場合、その脱硫効率は950℃近辺で最も良好であり、温度が高くなりすぎると脱硫性能は低下してしまう。したがって、ガス化炉から導入される石炭ガス化ガスの温度が高すぎると、脱硫炉内の温度も高くなり、脱硫性能が低下する。
このことからも、流動床の温度を上げることは好ましくない。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、ガス化速度を維持しつつ、流動床の温度を低くしてガス化を行うことができ、且つ、多様な炭種の石炭をガス化することができる流動床ガス化装置の運転方法及び流動床ガス化装置並びに石炭ガス化複合発電システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
請求項1に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、石炭を流動化用粒子として含むガス化炉を備えた流動床ガス化装置を用い、前記ガス化炉で、酸素を含むガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該ガス中の酸素により石炭を部分燃焼させ、燃焼により発生した二酸化炭素と水蒸気により石炭を石炭ガス化ガスとチャーへ転換する流動床ガス化装置の運転方法であって、前記ガス化炉の流動床に、燃料としてアルカリ化合物を含有する固体粒子を添加することにより、石炭をガス化させることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、流動床ガス化装置のガス化炉の流動床に燃料として、また、流動床を形成する流動化粒子として、石炭と混合された際に、石炭ガス化反応の触媒として働くアルカリ化合物を含有する固体粒子が添加され、これにより、ガス化速度が維持されつつ、石炭のガス化反応が生じる反応温度が低下する。
【0012】
請求項2に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、前記固体粒子が、木材、バイオマス及び都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなることを特徴とする。

このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、カリウム(K)やナトリウム(Na)等を含むアルカリ化合物が多く含まれた、木材、バイオマス及び都市ゴミが、固体粒子として使用される。
【0013】
請求項3に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、前記固体粒子がゴミ固形化燃料であることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、都市ゴミを加工してできたゴミ固形化燃料が、固体粒子として使用される。
【0014】
請求項4に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、前記固体粒子の平均粒径が、0.5mm〜2mmであることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、固体粒子の平均粒径を0.5mm〜2mm、すなわち、石炭の平均粒径と略同等にすることにより、固体粒子と石炭粒子とを迅速且つ均等に混合しやすくなる。
【0015】
請求項5に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、前記流動床ガス化装置が、さらに、前記ガス化炉に連結された、石灰石等の脱硫剤を流動化用粒子として含む脱硫炉を備えており、
前記脱硫炉に前記石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該石炭ガス化ガス中の硫黄化合物を石灰石中にCaSとして固定・脱硫することを特徴とする。
このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、石炭ガス化ガスは、脱硫炉においてガス中の硫黄化合物が除去された後、発電機を駆動するガスタービンに導かれ、このガスタービンの燃料として使用される。
【0016】
請求項6に記載の流動床ガス化装置の運転方法は、前記流動床ガス化装置が、さらに、前記脱硫炉内で脱硫された石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスに含まれる粒子を分離・除去する脱塵装置と、水又は水蒸気を加熱するための熱交換器を内蔵する酸化炉とを備え、前記酸化炉に、前記ガス化炉からチャー、前記脱硫炉から石灰石、前記脱塵装置から粒子をそれぞれ導入した後、酸素を含むガスを導入して、該ガス中の酸素により、前記チャー及び前記粒子中の未燃焼分を燃焼させるとともに、前記石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で前記熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスを前記ガス化炉へ送給することを特徴とする。
このような流動床ガス化装置の運転方法によれば、脱硫炉においてガス中の硫黄化合物が除去された石炭ガス化ガスは、ガスタービンの上流側で脱塵装置によりガスに含まれる粒子が分離・除去されるとともに、酸化炉に、ガス化炉からチャー、脱硫炉から石灰石、脱塵装置から粒子がそれぞれ導入された後、酸素を含むガスが導入されて、このガス中の酸素により、チャー及び粒子中の未燃分が燃焼させられるとともに、石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスがガス化炉へ送給される。熱交換後のガス、すなわち、所望の温度にされたガスがガス化炉へ送給されることによりガス化炉の効率を向上させることができるとともに、水又は水蒸気により回収された熱を、蒸気タービンの駆動に用いれば、蒸気タービンの効率を向上させることができる。
【0017】
請求項7に記載の流動床ガス化装置は、石炭を流動化用粒子として含むガス化炉を備え、当該ガス化炉で、酸素を含むガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該ガス中の酸素により石炭を部分燃焼させ、燃焼により発生した二酸化炭素と水蒸気により石炭を石炭ガス化ガスとチャーへ転換する流動床ガス化装置であって、前記ガス化炉の流動床に、燃料としてアルカリ化合物を含有する固体粒子を添加する、固体粒子供給手段が設けられていることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、流動床ガス化装置のガス化炉の流動床に、燃料として、また、流動床を形成する流動化粒子として、石炭と混合された際に、石炭ガス化反応の触媒として働くアルカリ化合物を含有する固体粒子が添加され、これにより、ガス化速度が維持されつつ、石炭のガス化反応が生じる反応温度が低下する。
【0018】
請求項8に記載の流動床ガス化装置は、前記固体粒子が、木材、バイオマス及び都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、カリウム(K)やナトリウム(Na)等を含むアルカリ化合物が多く含まれた、木材、バイオマス及び都市ゴミが、固体粒子として使用される。
【0019】
請求項9に記載の流動床ガス化装置は、前記固体粒子がゴミ固形化燃料であることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、都市ゴミを加工してできたゴミ固形化燃料が、固体粒子として使用される。
【0020】
請求項10に記載の流動床ガス化装置は、前記固体粒子の平均粒径が、0.5mm〜2mmであることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、固体粒子の平均粒径を0.5mm〜2mm、すなわち、石炭の平均粒径と略同等にすることにより、固体粒子と石炭粒子とを迅速且つ均等に混合しやすくなる。
【0021】
請求項11に記載の流動床ガス化装置は、前記ガス化炉に連結された石灰石等の脱硫剤を流動化用粒子として含む脱硫炉を備えており、前記脱硫炉に前記石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該石炭ガス化ガス中の硫黄化合物を石灰石中にCaSとして固定・脱硫することを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、石炭ガス化ガスは、脱硫炉においてガス中の硫黄化合物が除去された後、発電機を駆動するガスタービンに導かれ、このガスタービンの燃料として使用される。
【0022】
請求項12に記載の流動床ガス化装置は、前記脱硫炉内で脱硫された石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスに含まれる粒子を分離・除去する脱塵装置と、水又は水蒸気を加熱するための熱交換器を内蔵する酸化炉とを備え、前記酸化炉に、前記ガス化炉からチャー、前記脱硫炉から石灰石、前記脱塵装置から粒子をそれぞれ導入した後、酸素を含むガスを導入して、該ガス中の酸素により、前記チャー及び前記粒子中の未燃焼分を燃焼させるとともに、前記石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で前記熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスを前記ガス化炉へ送給することを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、脱硫炉においてガス中の硫黄化合物が除去された石炭ガス化ガスは、ガスタービンの上流側で脱塵装置によりガスに含まれる粒子が分離・除去されるとともに、酸化炉に、ガス化炉からチャー、脱硫炉から石灰石、脱塵装置から粒子がそれぞれ導入された後、酸素を含むガスが導入されて、このガス中の酸素により、チャー及び粒子中の未燃分が燃焼させられるとともに、石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスがガス化炉へ送給される。熱交換後のガス、すなわち、所望の温度にされたガスがガス化炉へ送給されることによりガス化炉の効率を向上させることができるとともに、水又は水蒸気により回収された熱を、蒸気タービンの駆動に用いれば、蒸気タービンの効率を向上させることができる。
【0023】
請求項13に記載の石炭ガス化複合発電システムは、請求項7乃至12のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置を具備してなることを特徴とする。
このような石炭ガス化複合発電システムによれば、ガス化速度を維持しつつ、流動床の温度を低くしてガス化を行うことができ、且つ、多様な炭種の石炭をガス化することができる流動床ガス化装置を具備しているので、石炭ガス化複合発電システム全体の高効率化が図られることになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
[1]本発明では、木材、バイオマス、及び、ゴミ固形化燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)等の都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなる、石炭と同等の粒径の固体粒子を添加することにより、ガス化速度を維持しつつ、石炭のガス化反応が生じる反応温度を低下させることができるので、クリンカ形成を防止することができる。
[2]石炭ガス化の反応温度を低下させることができるので、流動床の温度をクリンカ形成温度よりも低い温度で、低融点の灰分を含む石炭等を含めた多様な炭種の石炭をガス化することができる。
[3]脱硫剤として石灰石を用いる場合に、脱硫炉の温度が脱硫に適した温度よりも高くなりにくく、確実な脱硫を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明においては、木材、バイオマス、及び、ゴミ固形化燃料(以下、「RDF」という)等の都市ゴミが、燃料として、また、流動化粒子として用いられる。
本発明において、バイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる有機物を意味しており、例えば、廃木材、枯草木等を例示することができる。
また、都市ゴミとは、レストランやコンビニエンスストア、家庭等から排出される生ゴミや、紙類等の有機廃棄物を意味し、さらに、都市ゴミを加工してできたRDFがある。
【0026】
木材、バイオマス、及び、RDF等の都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなる固体粒子は、例えば、それぞれを乾燥させ、流動化粒子に適した大きさに粉砕した後、任意の配合比で混合する等の方法によって製造することができる。
流動床の流動化用粒子である石炭の平均粒径は、0.5〜2mmとすることが好ましく、上記固体粒子の平均粒径を石炭と同等にすることにより、固体粒子と石炭粒子とを迅速且つ均等に混合しやすくなる。
木材、バイオマス、及び、RDF等の都市ゴミの配合比は特に限定されない。
【0027】
本発明において、前記固体粒子をガス化炉の流動床に添加、混合すると、各炭種固有の反応温度を低下させることができる。したがって、ガス化炉において、流動床の温度がクリンカ形成温度を越えないように十分に低い温度、好ましくは約950〜1000℃、さらに好ましくは800〜950℃としても、ガス化反応速度を維持することができる。例えば、クリンカ形成温度1000℃の特性を有する石炭を使用する場合、従来は、流動床の温度を約950℃として運転していたが、RDF粒子(平均粒径1mm)を、石炭に対して、1〜50質量%の割合で添加すると、流動床の温度を、例えば900℃としても、従来と同様のガス化反応速度を維持することができる。
【0028】
この作用機序としては、木材、バイオマス及び都市ゴミが、炭素質のガス化に触媒的な作用を発揮していることが考えられる。
木材、バイオマス及び都市ゴミは、カリウムやナトリウム等を含むアルカリ化合物の含有量が多く、このアルカリ化合物が、石炭と混合された際に、石炭ガス化反応の触媒として働くと考えられる。
【0029】
本発明においては、市販の高価な触媒(KCO、NaCO等)を加えなくても燃焼を維持することができる。
図4は、触媒としてKCOを加えた場合(図において点線で示す)と、KCOを加えなかった場合(図において実線で示す)とにおける燃焼の度合(炭素転換率:固体の炭素がどれだけ燃焼してガスになったかを示す)と時間との関係を示すグラフである。図4に示すように、アルカリ化合物を含む触媒を添加することにより、ガス化反応速度が高められていることがわかる。
【0030】
さらに、脱硫炉を備えた流動床ガス化装置を用いる場合には、脱硫炉の温度が高くなりすぎることが少なく、石灰石による脱硫反応に適した温度範囲に維持することが容易である。
【0031】
図1に示す流動床ガス化装置1は、本発明で使用可能な流動床ガス化装置の一例であり、ガス化炉2と、脱硫炉3と、脱塵装置5と、酸化炉7とを備えたものである。以下、本発明の流動床ガス化装置運転方法の好ましい実施形態について、図1を用いて説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0032】
まず、図1に示す流動床ガス化装置1のガス化炉2の底部付近に、燃料である石炭を、流動床を形成するための流動化用粒子として経路21を介して供給する。
また、石炭と一緒に又は別々に、木材、バイオマス及び都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなる固体粒子、例えばRDFを添加する。添加する固体粒子の粒径は、流動床を形成することが可能な粒径とし、好ましくは石炭と同等の0.5〜2mmのものを用いる。
そして、ガス化炉2の底部から経路22を介して、流動化ガスとして、空気等の酸素を含むガスを供給することにより、ガス化炉2内に供給された石炭及び固体粒子を流動化するとともに、該ガス中の酸素により石炭を部分燃焼させ、燃焼により発生した二酸化炭素と水蒸気により石炭を石炭ガス化ガスとチャーへ転換する。その主反応は、以下の通りである。
C+CO → 2CO
C+HO → CO+H
ガス化する石炭は全体の50〜85%程度であり、残りの石炭や生成チャーは、流動化用粒子として流動床11aを形成する等に利用される。
このとき、上記固体粒子を添加したことにより、石炭のガス化反応が生起する温度(反応温度)が低くなっているので、供給する空気量や石炭量を調節して、流動床11aの温度を、反応温度とクリンカ形成温度との間のできるだけ低い温度、好ましくは950〜1000℃、さらに好ましくは800〜950℃とする。
【0033】
ガス化炉内で発生した石炭ガス化ガスは、ガス化炉2と脱硫炉3との間に設けられた多孔板4を通って脱硫炉3に送られる。
脱硫炉3には、脱硫剤である石灰石を流動化用粒子として供給し、ガス化炉2から導入された石炭ガス化ガスを流動化ガスとして流動床11bを形成する。このとき、脱硫炉3は、石炭ガス化ガスにより、最適な脱硫温度となる温度(950℃程度)に昇温される。
そして、石炭ガス化ガス中のHSが、以下の式(1)及び(2)の反応により石灰石と反応し、石灰石の一部がCaSに転換される。
CaCO → CaO+CO (1)
CaO+HS → CaS+HO (2)
【0034】
なお、脱硫剤として石灰石を用いた場合、式(1)の反応は930℃未満では生起しにくく、式(1)の反応が生起しないと、式(2)の反応も生じない。それゆえに、脱硫反応は930℃以上で行うことが好ましい。
しかしながら、脱硫剤として、石灰石に代えて、下記A)〜F)から選択された脱硫剤を用いることにより、900℃以下の温度でも脱硫が可能となる。
A)ドロマイト(CaMg(CO
B)低品位石灰石(CaCO含有量95%以下)
C)消石灰(Ca(OH)
D)生石灰(CaO)
E)粘土を1〜10質量%含有する石灰石と、A)〜D)から選択された1種又は2種以上との混合物
F)石灰石と、A)〜E)から選択された1種又は2種以上との混合物
【0035】
上記反応により脱硫された石炭ガス化ガスは、経路23を介して脱塵装置5へ導入され、ガス中に含まれる粒子が除去される。この脱硫・脱粒子後の石炭ガス化ガスは、さらにセラミックフィルタ6等のフィルタで微粒子を除去する。この石炭ガス化ガスは、燃料用ガスとして利用可能であり、例えば、火力発電設備または石炭ガス化複合発電システムでは、発電機を駆動するガスタービンの燃料として利用される。
一方、取り除かれた粒子(CaSを含有)は、経路24を介して酸化炉7に送られる。
【0036】
酸化炉7には、CaSを含有する上記粒子のほかに、ガス化炉2の底部から、経路25を介して、石炭のガス化残渣であるチャーの一部が送られる。また、脱硫炉3からはCaSを含有する石灰石が経路26を介して送られる。
酸化炉7の底部からは、経路27を介して空気が供給され、チャー、石灰石、粒子等によって流動床11cが形成される。酸化炉7内の流動床11cでは、850〜1000℃で、チャー及び前記粒子中の未燃分が燃焼するとともに、粒子及び石灰石中のCaSが以下の反応によりCaSOに酸化する。
CaS+2O → CaSO
【0037】
酸化によって生じた反応熱は、熱交換器8内の水又は水蒸気を加熱する。酸化炉7から排出されたガスは、経路28を介してガス化炉2へ送給され、流動化ガスとして、また、ガス化炉2の温度を確保するためにも利用することができる。また、石炭に含まれていた灰分と脱硫剤のうち粗粒のものは、酸化炉7下部から、経路29を介して排出することができる。
【0038】
なお、この実施形態では、ガス化炉2のほかに、脱硫炉3、脱塵装置5及び酸化炉7を備えた流動床ガス化装置1を用いたが、本発明は、流動床ガス化炉を備える既知の任意の流動床ガス化装置を用いて実施することができる。
【実施例】
【0039】
石炭(ブレアソール炭、平均粒径1mm)、及び、RDF(平均粒径1mm)20質量%を石炭(ブレアソール炭、平均粒径1mm)80質量%に添加したもの(以下、RDF20/ブレア80という)について、図2に示した流動床ガス化装置31(部分酸化炉(ガス化炉)32+脱硫炉33)を用い、以下の試験条件で流動床ガス化装置31を運転した。
部分酸化炉32 酸素含有ガス:空気
石炭、及び、RDF20/ブレア80の投入量:15kg/h
脱硫炉33 石灰石:平均粒径0.3mm、
井倉産石灰石、(投入量1kg/h)
石炭は、ロックホッパ34からスクリューフィーダ35で定量切り出して空気により気流搬送し、部分酸化炉32の炉底から供給した。RDF20/ブレア80は、RDFをロックホッパ(固体粒子供給手段)36からスクリューフィーダ(固体粒子供給手段)37で定量切り出して空気により気流搬送し、石炭と混合して、部分酸化炉32の炉底から供給した。空気、水蒸気は分散板を通して供給した。
部分酸化炉32の上部に設置してある脱硫炉33に石灰石を供給して脱硫を行った。石灰石は脱硫炉上部のホッパ38からスクリューフィーダ39により定量供給した。なお、本試験で使用した流動床ガス化装置31の脱硫炉33の温度は、部分酸化炉32の運転条件の影響を受けており、脱硫炉33だけ独立して任意の温度条件に設定できない。
部分酸化炉32内への空気の供給量を調節することにより流動床の温度を変化させ、その温度でのガスの発生量及び組成を測定し、チャー等の粒子性状の分析結果を解析して、ガス化反応速度を求めた。その結果を図3に示す。
【0040】
試験の結果、石炭単味の場合と比較して、RDFを混入すると、低温での反応速度が増大し、クリンカ形成が抑制される低温での運用においても十分なガス化反応速度が得られていた。例えば、RDF20/ブレア80の約900℃でのガス化速度は、石炭単味の約1020℃のガス化速度と同等であった。
この結果から、本発明の方法を用いることにより、石炭のガス化反応温度を低下させることができ、石炭単味の場合と比較して、より低い温度で同じ反応速度を得ることが可能になったことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に使用可能な流動床ガス化装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例で用いた流動床ガス化装置の概略図である。
【図3】実施例の結果を示す図である。
【図4】触媒としてKCOを加えた場合と、KCOを加えなかった場合とにおける燃焼の度合と時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 流動床ガス化装置
2 ガス化炉
3 脱硫炉
5 脱塵装置
7 酸化炉
8 熱交換器
9 脱塵装置
11a 流動床
11b 流動床
11c 流動床
31 流動床ガス化装置
32 部分酸化炉(ガス化炉)
33 脱硫炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を流動化用粒子として含むガス化炉を備えた流動床ガス化装置を用い、前記ガス化炉で、酸素を含むガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該ガス中の酸素により石炭を部分燃焼させ、燃焼により発生した二酸化炭素と水蒸気により石炭を石炭ガス化ガスとチャーへ転換する流動床ガス化装置の運転方法であって、
前記ガス化炉の流動床に、燃料としてアルカリ化合物を含有する固体粒子を添加することにより、石炭をガス化させることを特徴とする流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項2】
前記固体粒子が、木材、バイオマス及び都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項3】
前記固体粒子がゴミ固形化燃料であることを特徴とする請求項1に記載の流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項4】
前記固体粒子の平均粒径が、0.5mm〜2mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項5】
前記流動床ガス化装置が、さらに、前記ガス化炉に連結された石灰石等の脱硫剤を流動化用粒子として含む脱硫炉を備えており、
前記脱硫炉に前記石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該石炭ガス化ガス中の硫黄化合物を石灰石中にCaSとして固定・脱硫することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項6】
前記流動床ガス化装置が、さらに、前記脱硫炉内で脱硫された石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスに含まれる粒子を分離・除去する脱塵装置と、水又は水蒸気を加熱するための熱交換器を内蔵する酸化炉とを備え、
前記酸化炉に、前記ガス化炉からチャー、前記脱硫炉から石灰石、前記脱塵装置から粒子をそれぞれ導入した後、酸素を含むガスを導入して、該ガス中の酸素により、前記チャー及び前記粒子中の未燃焼分を燃焼させるとともに、前記石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で前記熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスを前記ガス化炉へ送給することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置の運転方法。
【請求項7】
石炭を流動化用粒子として含むガス化炉を備え、当該ガス化炉で、酸素を含むガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該ガス中の酸素により石炭を部分燃焼させ、燃焼により発生した二酸化炭素と水蒸気により石炭を石炭ガス化ガスとチャーへ転換する流動床ガス化装置であって、
前記ガス化炉の流動床に、燃料としてアルカリ化合物を含有する固体粒子を添加する固体粒子供給手段が設けられていることを特徴とする流動床ガス化装置。
【請求項8】
前記固体粒子が、木材、バイオマス及び都市ゴミからなる群から選択された1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項7に記載の流動床ガス化装置。
【請求項9】
前記固体粒子がゴミ固形化燃料であることを特徴とする請求項7に記載の流動床ガス化装置。
【請求項10】
前記固体粒子の平均粒径が、0.5mm〜2mmであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置。
【請求項11】
前記ガス化炉に連結された石灰石等の脱硫剤を流動化用粒子として含む脱硫炉を備えており、
前記脱硫炉に前記石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスを流動化用ガスとして用いて流動床を形成するとともに、該石炭ガス化ガス中の硫黄化合物を石灰石中にCaSとして固定・脱硫することを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置。
【請求項12】
前記脱硫炉内で脱硫された石炭ガス化ガスを導入し、該石炭ガス化ガスに含まれる粒子を分離・除去する脱塵装置と、水又は水蒸気を加熱するための熱交換器を内蔵する酸化炉とを備え、
前記酸化炉に、前記ガス化炉からチャー、前記脱硫炉から石灰石、前記脱塵装置から粒子をそれぞれ導入した後、酸素を含むガスを導入して、該ガス中の酸素により、前記チャー及び前記粒子中の未燃焼分を燃焼させるとともに、前記石灰石中のCaSをCaSOに酸化し、その酸化によって生じた反応熱で前記熱交換器内の水又は水蒸気を加熱し、熱交換後のガスを前記ガス化炉へ送給することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置を具備してなることを特徴とする石炭ガス化複合発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−163257(P2008−163257A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356197(P2006−356197)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(598132048)財団法人 石炭エネルギーセンター (8)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】