説明

流動床式廃棄物焼却設備

【課題】流動床式廃棄物焼却設備において、焼却炉に投入される廃棄物の性状によらず、流動床を適切な温度に維持して、効率よく安定した運転ができるようにすることである。
【解決手段】流動床2の流動媒体を流動させる流動空気を焼却炉1から排出される排ガスとの熱交換により予熱する一次空気予熱器9と、二次燃焼空気を一次空気予熱器9で予熱された流動空気との熱交換により予熱する二次空気予熱器12を設け、この二次空気予熱器12を通過させる二次燃焼空気の量を調整して流動空気の焼却炉1吹込時の温度を調節するようにした。これにより、一次空気予熱器9入口の排ガス温度を高く設定して、流動空気の焼却炉1吹込時の温度調節可能範囲を広げることができる。従って、焼却炉1に投入される廃棄物の性状が変動しても、廃棄物投入量を減らすことなく流動床2を適切な温度に維持することができ、燃焼状態の安定性の向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ等の廃棄物の焼却処理を行う流動床式廃棄物焼却設備に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ等の廃棄物の焼却処理を行う廃棄物焼却設備には、底部に流動床を有する焼却炉で廃棄物を燃焼させる方式のものが多い(例えば、特許文献1参照。)。この流動床式廃棄物焼却設備は、図3に一例を示すように、通常、焼却炉51の底部に流動媒体層からなる流動床52を形成し、流動媒体を流動させる流動空気と二次燃焼空気を焼却炉51へ吹き込んで焼却炉51に投入された廃棄物を燃焼させている。その流動空気は一次送風機53から、二次燃焼空気は二次送風機54からそれぞれ送風路55、56を介して焼却炉51に吹き込まれる。
【特許文献1】特開2005−274025号公報
【0003】
また、図3に示した設備の焼却炉51の上部は、廃棄物の燃焼により生じた排ガスを所定温度に冷却するガス冷却室57となっており、このガス冷却室57から設備外へ排ガスを排出する排出管58の途中に、焼却炉51へ吹き込まれる前の流動空気を排ガスとの熱交換により予熱する一次空気予熱器59が設けられている。そして、流動空気用の送風路55には、一次空気予熱器59よりも上流側に、焼却炉51への吹込量を調整するバルブ60と、一次空気予熱器59の通過量を調整するバルブ61が取り付けられ、焼却炉51には流動床52温度調節用の水噴霧装置62と補助バーナ63が設けられている。
【0004】
ところで、上記のような流動床式廃棄物焼却設備では、一般に、焼却炉の流動床を形成する流動媒体として熱容量の大きい硅砂を用い、高温(600〜700℃程度)の硅砂で焼却炉に投入された廃棄物を瞬時に乾燥・ガス化して燃焼させるとともに、その熱により硅砂が高温に保たれるようにしている。しかし、この硅砂の温度、すなわち流動床の温度は、廃棄物の性状に大きく影響され、紙やプラスチック等、発熱量の大きい廃棄物の投入量が多いときは上昇し、厨芥や水分を多く含むもの等、発熱量の小さい廃棄物が多く投入されたときには急激に低下する。このように廃棄物の性状によって流動床温度が大きく変動すると、焼却炉の燃焼状態が不安定になり、トラブルが生じやすい。
【0005】
そこで、流動床温度が大きく上昇したときには、焼却炉に吹き込む流動空気の温度を低くする(対策1)、発熱量の大きい廃棄物の投入量を減らす(対策2)、流動空気の吹込量を減らす(対策3)、流動床へ水を噴霧する(対策4)等の対策が実施される。一方、流動床の温度低下が著しいときは、流動空気温度を上昇させる(対策1’)、水分の多い廃棄物の投入量を減らして砂層内での水分潜熱による熱損失を少なくする(対策2’)、補助バーナによる助燃を行う(対策5)等の対策がとられる。
【0006】
しかしながら、上述した従来の対策には、それぞれ以下のような問題があった。まず、流動空気温度の調節(対策1、1’)は一次空気予熱器を通過させる流動空気の量を調整することにより行うのが一般的であるが、予熱器通過空気量を変化させると予熱器で排ガスから回収する熱量が変動してしまい、予熱器の排ガス通路を形成する管壁が通過空気量を減らしたときの温度上昇によって変質したり腐食したりするおそれがある。このため、実際には、予熱器通過空気量を通常運転状態から大幅に減らすことはできず、焼却炉に吹き込む流動空気の温度を十分に低くすることができない。また、通過空気量を減らしたときの予熱器温度の上昇を抑えるように予熱器入口の排ガス温度は比較的低く設定されており、通過空気量を増やしても流動空気の温度を効果的に上昇させることは困難であった。
【0007】
次に、廃棄物の投入量を減らす方法(対策2、2’)は、焼却設備全体の処理効率の低下をまねく。また、流動床の温度が低下したときに廃棄物投入量を減らすと、焼却炉へのトータル入熱量が少なくなるため、炉内温度を管理基準下限値以上に保つことが困難となり、補助バーナによる助燃(対策5)が必要となって処理コストの増大をまねく。
【0008】
流動床温度上昇時に流動空気吹込量を減らす方法(対策3)は、砂層での燃焼率を抑えて部分ガス化燃焼を促進することにより、流動床の温度上昇を効果的に抑えることができる。しかし、流動空気吹込量を通常運転状態から大幅に減らすと、流動床が良好な流動状態を確保できなくなって、流動床内に不燃物が堆積するようになる。そして、この流動不良状態が長期間継続すると、不燃物の堆積が焼却停止を引き起こすことがある。
【0009】
また、流動床へ水を噴霧する方法(対策4)では、流動媒体である硅砂に直接水を噴霧するので、硅砂がヒートショックにより崩壊して粉化し、排ガスとともに焼却炉から持ち出されやすい。さらに、硅砂がCa化合物や塩類の無機化合物との結合により互いに固着しあって、流動不良が生じやすいという難点もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、流動床式廃棄物焼却設備において、焼却炉に投入される廃棄物の性状によらず、流動床を適切な温度に維持して、効率よく安定した運転ができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、焼却炉の底部に流動媒体層からなる流動床を形成し、流動媒体を流動させる流動空気と二次燃焼空気を前記焼却炉へ吹き込んで焼却炉に投入された廃棄物を燃焼させる流動床式廃棄物焼却設備において、前記流動空気を焼却炉へ吹き込む前に焼却炉から排出される排ガスとの熱交換により予熱する一次空気予熱器と、前記二次燃焼空気を焼却炉へ吹き込む前に前記一次空気予熱器で予熱された流動空気との熱交換により予熱する二次空気予熱器を設け、前記二次空気予熱器を通過させる二次燃焼空気の量を調整することにより、前記流動空気の焼却炉吹込時の温度を調節するようにした。
【0012】
すなわち、一次空気予熱器で予熱された流動空気との熱交換により二次燃焼空気を予熱する二次空気予熱器を設け、この二次空気予熱器を通過させる二次燃焼空気の量によって流動空気の焼却炉吹込時の温度を調節する構成とすることにより、流動空気の全量を一次空気予熱器に通して一次空気予熱器での回収熱量を常時一定に保てるようにしたのである。これにより、一次空気予熱器入口の排ガス温度を回収熱量に応じて従来よりも高く設定でき、一次空気予熱器の管壁の過度な温度上昇による変質や腐食を発生させることなく、流動空気の一次空気予熱器通過後の温度を高めることができる。その結果、流動空気の焼却炉吹込時の温度調節可能範囲が広がり、流動床を適切な温度に維持しやすくなる。
【0013】
上記の構成において、前記一次空気予熱器で予熱された流動空気の一部を二次燃焼空気として前記焼却炉へ吹き込むことにより、前記焼却炉へ吹き込まれる流動空気の量を調節するようにし、その下限値を廃棄物性状別に設定すれば、流動床を常時良好な流動状態に保つことができ、流動床内の不燃物の堆積を防止できる。
【0014】
また、前記焼却炉に流動床へ水を噴霧する水噴霧装置を設ける場合は、前記流動空気の焼却炉吹込時の温度がその調節可能範囲の下限となり、前記焼却炉へ吹き込まれる流動空気の量が廃棄物性状別の下限値となり、かつ前記流動床の温度が所定温度以上となったときにのみ、前記水噴霧装置を作動させるようにするとよい。これにより、通常運転時に流動床への水噴霧による不具合を生じさせることなく、流動空気の調節で流動床温度の上昇を抑えきれないような非常時に焼却炉の燃焼状態を安定させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の流動床式廃棄物焼却設備は、上述したように、一次空気予熱器で予熱された流動空気との熱交換により二次燃焼空気を予熱する二次空気予熱器を設けることにより、従来に比べて流動空気の一次空気予熱器通過後の温度を高められるようにしたものであるから、流動空気の焼却炉吹込時の温度調節可能範囲が広く、焼却炉に投入される廃棄物の性状が変動しても流動床を適切な温度に維持しやすい。また、これにより、従来の廃棄物投入量制限等の対策をほぼ不要とすることができるので、焼却設備全体の処理効率向上や燃焼状態の安定性向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1に基づき、本発明の実施形態を説明する。この流動床式廃棄物焼却設備の基本的な構成は、図3に示した従来設備と同じである。すなわち、焼却炉1の底部に流動媒体層からなる流動床2を形成し、流動媒体を流動させる流動空気と二次燃焼空気を焼却炉1へ吹き込んで、投入口1aから焼却炉1に投入された廃棄物を燃焼させている。その流動空気は一次送風機3から、二次燃焼空気は二次送風機4からそれぞれ送風路5、6を介して焼却炉1に吹き込まれており、流動床2の流動媒体としては硅砂が用いられている。
【0017】
また、焼却炉1上部が廃棄物の燃焼により生じた排ガスを所定温度に冷却するガス冷却室7となっており、このガス冷却室7から設備外へ排ガスを排出する排出管8の途中に、焼却炉1へ吹き込まれる前の流動空気を排ガスとの熱交換により予熱する一次空気予熱器9が設けられている点、焼却炉1に流動床2温度調節用の水噴霧装置10および補助バーナ11が設けられている点も、従来設備と同じである。
【0018】
一方、この廃棄物焼却設備の従来設備との相違点は以下の通りである。まず、前記流動空気用送風路5には、一次空気予熱器9の下流側に、焼却炉1へ吹き込まれる前の二次燃焼空気を一次空気予熱器9で予熱された流動空気との熱交換により予熱する二次空気予熱器12が設けられている。そして、二次燃焼空気用の送風路6には、二次空気予熱器12を通過させる二次燃焼空気の量を調整するバルブ13が取り付けられ、このバルブ13の開度を変えることにより、流動空気の焼却炉1吹込時の温度を調節できるようになっている。
【0019】
さらに、流動空気用の送風路5には、一次空気予熱器9よりも下流側で分岐して焼却炉1中央部に至る支路5aが設けられ、一次空気予熱器9で予熱された流動空気の一部がこの支路5aを通って二次燃焼空気として焼却炉1へ吹き込まれている。そして、この支路5aに取り付けられたバルブ14の開度を変えることにより、焼却炉1への流動空気吹込量を調節できるようになっている。この焼却炉1では、流動空気吹込量を、発熱量の大きい廃棄物の場合は流動床空塔速度が0.15m/sec以上、発熱量の小さい廃棄物の場合は流動床空塔速度が0.25m/sec以上となるように調節することにより、流動床2を良好な流動状態に保つことができ、流動床2内の不燃物の堆積を防止できる。なお、発熱量の大きい廃棄物の場合は、この流動床空塔速度の確保とともに炉床負荷率を500〜550kg/(m・h)とすることが望ましい。
【0020】
また、焼却炉1の水噴霧装置10は、上述した流動空気の温度および吹込量の調節を最大限に行っても流動床2温度が所定の上限値を超えて上昇する場合にのみ作動するようになっている。すなわち、流動空気の焼却炉1吹込時の温度がその調節可能範囲の下限となり、焼却炉1への吹込量が廃棄物性状別の下限値となり、かつ流動床2の温度が所定温度(720℃程度)以上となったときに、流動床2へ水を噴霧して流動床2温度の上昇を抑え、焼却炉1の燃焼状態を安定させる。従って、通常運転時には、流動床2への水噴霧により硅砂が粉化して焼却炉1から持ち出されたり、硅砂が互いに固着しあって流動不良を生じたりするといった不具合が生じることはない。
【0021】
この廃棄物焼却設備は、上記の構成であり、流動空気の焼却炉1吹込時の温度を、二次空気予熱器12を通過させる二次燃焼空気の量によって調節するようにしたので、流動空気の全量を一次空気予熱器9に通して一次空気予熱器9での回収熱量を常時一定に保つことができる。このため、従来設備よりも一次空気予熱器9入口の排ガス温度を高く(500℃程度に)設定して、流動空気の一次空気予熱器9通過後の温度を高める(350℃程度とする)ことができる。従って、流動空気の焼却炉1吹込時の温度調節可能範囲が広く(50〜310℃程度)、焼却炉1に投入される廃棄物の性状が変動しても、廃棄物投入量を減らすことなく流動床2を適切な温度(600〜700℃程度)に維持することができ、燃焼状態の安定性の向上が図れる。また、二次燃焼空気を150℃程度に予熱できるので、これによっても炉内安定燃焼が促進される。さらに、廃棄物投入量制限等で補助バーナ11による助燃を必要とするケースがほとんどなくなるため、処理コストも従来より安くなる。
【0022】
なお、本発明は、図1のように焼却炉上部にガス冷却室を設けた焼却設備に限らず、図2に示すように、ガス冷却室を焼却炉と分離したタイプの焼却設備にも、もちろん適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の廃棄物焼却設備の概略図
【図2】図1のガス冷却室の配置を変えた例の概略図
【図3】従来の廃棄物焼却設備の一例の概略図
【符号の説明】
【0024】
1 焼却炉
2 流動床
3、4 送風機
5 送風路
5a 支路
6 送風路
7 ガス冷却室
8 排出管
9 一次空気予熱器
10 水噴霧装置
11 補助バーナ
12 二次空気予熱器
13、14 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉の底部に流動媒体層からなる流動床を形成し、流動媒体を流動させる流動空気と二次燃焼空気を前記焼却炉へ吹き込んで焼却炉に投入された廃棄物を燃焼させる流動床式廃棄物焼却設備において、前記流動空気を焼却炉へ吹き込む前に焼却炉から排出される排ガスとの熱交換により予熱する一次空気予熱器と、前記二次燃焼空気を焼却炉へ吹き込む前に前記一次空気予熱器で予熱された流動空気との熱交換により予熱する二次空気予熱器を設け、前記二次空気予熱器を通過させる二次燃焼空気の量を調整することにより、前記流動空気の焼却炉吹込時の温度を調節するようにしたことを特徴とする流動床式廃棄物焼却設備。
【請求項2】
前記一次空気予熱器で予熱された流動空気の一部を二次燃焼空気として前記焼却炉へ吹き込むことにより、前記焼却炉へ吹き込まれる流動空気の量を調節するようにし、その下限値を廃棄物性状別に設定したことを特徴とする請求項1に記載の流動床式廃棄物焼却設備。
【請求項3】
前記焼却炉に流動床へ水を噴霧する水噴霧装置を設け、前記流動空気の焼却炉吹込時の温度がその調節可能範囲の下限となり、前記焼却炉へ吹き込まれる流動空気の量が廃棄物性状別の下限値となり、かつ前記流動床の温度が所定温度以上となったときに、前記水噴霧装置を作動させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の流動床式廃棄物焼却設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−327665(P2007−327665A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157479(P2006−157479)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】