説明

流動性組成物及びそれを用いて形成した電極並びに配線パターン

【課題】 金属コロイド粒子を高濃度に配合した流動性組成物において、金属コロイド粒子が異常成長した粒子塊の発生を防止し、長期的安定性に優れた流動性組成物を提供する。
【解決手段】 金属コロイド粒子を少なくとも5重量%配合した流動性組成物に、ヒドラジンまたはその水和物、アルデヒド類などの還元性物質を該金属コロイド粒子100重量部に対して0.1〜50重量部の範囲配合する。本発明の流動性組成物は長期間保管した後に使用しても、導電性等の性能が優れ、均一な塗布物を形成し易く、特に、プリント配線基板等の微細電極または配線パターンの形成などに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コロイド粒子を配合した流動性組成物、及びその流動性組成物を用いて形成した電極並びに配線パターンに関する。
【背景技術】
【0002】
平均粒子径が1〜100nm程度の金属粒子は金属コロイド粒子と呼ばれ、導電性が非常に高く、可視光を透過する性質を有しており、例えば、金属コロイド粒子を配合したコーティング剤や塗料等の流動性組成物を塗布することで、ブラウン管、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽に適用されている。また、近年、銀、銅等のコロイド粒子を配合したペースト、インキ、塗料等の流動性組成物を用いて、微細な電極を形成する技術が提案されている。これは、前記流動性組成物を、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法で基板上に回路や電極のパターンを塗布した後、加熱して金属コロイド粒子を融着させるもので、特に、プリント配線基板の製造に応用されつつある。例えば、金属コロイド粒子に化学吸着性を有する官能基を含む有機化合物で被覆し、この金属コロイド粒子の分散液を用いて配線を形成する技術(特許文献1参照)が知られている。
【0003】
金属コロイド粒子は、微粒子であるが故に表面エネルギーが大きく、凝集し易いため、金属コロイド粒子の表面に、通常、保護コロイドと呼ばれる表面保護剤を被着させ、その立体障害的な効果により、分散安定化させている。特許文献1記載の技術においても、化学吸着性を有する官能基を含む有機化合物が、保護コロイドとして作用している。
【0004】
【特許文献1】WO01/070435号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記流動性組成物は、できる限り塗布物の熱収縮を抑制するため、一般的に、バインダーを用いず、しかも、金属コロイド粒子を高濃度に配合している。このような組成の流動性組成物は、高濃度であるが故に、金属コロイド粒子の粒子間距離が小さく、粒子間相互作用が強く働き、保護コロイドによっても相互作用を抑制し難く、また、通常の塗料やインキのように、バインダーの吸着による安定化効果が期待できないので、分散安定性が損なわれ易い。このため、製造直後では保護コロイドの作用により分散安定性が良いが、製造後長期間経過すると、例えば、1〜2ケ月の期間保管すると、金属コロイド粒子が異常成長した粒子塊が多数発生し、これを用いると、導電性の低下などを生じ、特に、微細な回路や電極のパターンを基板上に形成する際に配線の断絶、混線といった大きな障害を引き起こすことになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、金属コロイド粒子が高濃度に配合され、実質的にバインダーを含まない流動性組成物において、還元性物質を添加することにより、金属コロイド粒子が異常成長した粒子塊の発生を防止し、優れた長期的安定性が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、少なくとも金属コロイド粒子と分散媒と還元性物質とを混合してなり、金属コロイド粒子の含有量が少なくとも5重量%であり、該金属コロイド粒子100重量部に対して還元性物質を0.1〜50重量部配合してなることを特徴とする流動性組成物であり、前記流動性組成物を用いて形成されることを特徴とする電極または配線パターンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の流動性組成物は長期間保管した後に使用しても、導電性等の性能が優れ、均一な塗布物を形成し易く、特に、プリント配線基板等の微細電極及び配線パターンの形成などに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、少なくとも金属コロイド粒子と分散媒と還元性物質とを混合してなるインキ、塗料、ペースト等の流動性組成物であって、金属コロイド粒子の配合量が少なくとも5重量%の高濃度にあり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上であり、還元性物質の配合量は金属コロイド粒子100重量部に対して0.1〜50重量部の範囲、好ましくは0.3〜30重量部の範囲、より好ましくは0.5〜10重量部の範囲、更に好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。好ましい実施態様は、金属コロイド粒子を含む分散媒に少なくとも還元性物質を混合してなる流動性組成物であり、金属コロイド粒子、還元性物質の配合量は前記範囲である。分散媒中の金属コロイド粒子は経時的に酸化され、金属コロイド粒子から金属イオンが溶出し易くなり、溶出した金属イオンが金属コロイド粒子を粒成長させ、粒子塊を形成するのではないかと推測される。本発明では、還元性物質を配合することにより、金属コロイド粒子の酸化を防止することで、粒子塊の生成を防ぎ、流動性組成物の長期的な安定性を向上させたものである。
【0010】
本発明で用いる金属コロイド粒子には特に制限はなく、1種を用いても良いし、2種以上の金属コロイド粒子を混合して用いても良い。また、金属コロイド粒子を構成する金属にも特に制限はなく、1種の金属で構成されても、2種以上の金属の合金で構成されても良い。金属コロイド粒子を構成する金属は、周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも金、銀、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、電極や配線パターン形成用の流動性組成物に用いるには、導電性とコストのバランスから銀または銅が特に好ましい。金属コロイド粒子の平均粒子径は、1〜100nm程度の一般的なものを用いることができ、より微細な電極、配線パターンを得るためには、5〜50nmの範囲の平均粒子径を有する金属コロイド粒子を用いるのが好ましい。導電性が安定した電極、配線パターンを得るには、一回の塗工で膜厚の厚い塗布物を形成するのが望ましいので、金属コロイド粒子はより高濃度で配合されるのが好ましく、その含有量は前記のように5重量%以上であれば良く、10重量%以上であればより好ましく、15重量%以上であれば更に好ましい。金属コロイド粒子は、予め金属コロイド粒子を分散媒に分散させた所謂金属コロイド溶液として用いることもできる。
【0011】
金属コロイド粒子は、その表面に保護コロイドを有していると、保護コロイドの作用により、分散媒中に更に安定した状態で分散できるので好ましい。保護コロイドとしては公知の化合物を用いることができ、例えば、クエン酸及びその誘導体、アニリン及びその誘導体、硫黄化合物等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。本発明では、金属コロイド粒子の保護効果が高い硫黄化合物を用いるのが好ましく、具体的に、(1)チオール類((a)酸チオール類(例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸等)、(b)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン、メルカプトエタノール、アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(c)脂環式チオール類(例えば、シクロヘキシルチオール等)、(d)芳香族チオール類(例えば、チオフェノール等)、(2)チオグリコール類(例えば、チオジエチレングリコール、チオジグリコール酸、エチレンチオグリコール等)、(3)チオアミド類(例えば、チオホルムアミド等)、(4)ジチオール類、(5)チオン類、(6)ポリチオール類、(7)チオ炭酸類、(8)チオ尿素類、(9)複素環式硫黄化合物、(10)チアゾール類、(11)硫化水素及びそれらの誘導体等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。硫黄化合物がチオール類であればより好ましく、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールから選ばれる少なくとも1種であれば、更に好ましい。保護コロイドは金属コロイド粒子1重量部に対し、0.05〜1.5重量部の範囲で被着されていれば、所望の保護効果が得られるので好ましい。
【0012】
金属コロイド粒子は、公知の方法を用いて製造することができ、例えば、(1)金属を真空中で蒸発させて、気相中から金属コロイド粒子を凝結させる方法、(2)金属化合物溶液に還元剤を添加して、液相中から金属コロイド粒子を析出させる方法などを用いることができ、(2)の方法では廉価に金属コロイド粒子が得られるため、より好ましい方法である。(2)の方法において、金属コロイド粒子を製造するための原料である金属化合物は、例えば、前記金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩等を用いることができる。金属化合物を溶解する媒液には、水またはアルコール等の有機溶媒、あるいはこれら2種以上の混合溶媒を用いることができ、金属化合物の媒液中の濃度は、金属化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。水性の金属コロイド粒子を製造するには、金属化合物が水溶性のものであれば好ましいが、水に難溶であっても、金属成分と可溶性の錯体を形成する塩素イオンやアンモニア等を含む化合物を加えて用いることもできる。
【0013】
還元剤としては公知のものを用いることができ、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその金属塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその金属塩、アルデヒド類、アルコール類、アミン類、糖類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。還元反応は任意の温度で行うことができ、水性媒液中で行う場合には、5〜90℃の範囲の温度であれば、反応が進み易いので好ましい。還元剤の添加量は金属に還元できる範囲であれば適宜設定することができ、金属化合物1モルに対して、0.2〜50モルであることが好ましい。添加量が0.2モル未満では還元反応が十分に進行し難いため好ましくなく、50モルを超えると生成した金属コロイド粒子の分散が不安定になり易いため好ましくない。
【0014】
金属化合物と還元剤の混合液のpHを8〜14の範囲に調整すると、金属化合物が媒液中に均一に分散し、還元反応が生じ易いので好ましい。更に好ましいpHの範囲は8〜13であり、8〜12であれば一層好ましい。具体的には、例えば、金属化合物を含む媒液のpHを調整した後、金属化合物を還元しても良く、あるいは、還元剤を混合した後、pHを調整しても良い。pH調整には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等の塩基性化合物を用いることができる。このようにして得られた金属コロイド粒子は、媒液のpHを5以下にすると容易に凝集するので、吸引ろ過、沈降分離等の比較的簡単な操作でろ別できる。より好ましいpHの範囲は、0〜5である。ろ別した金属コロイド粒子は常法により洗浄することができ、可溶性塩類や残存する還元剤を十分に除去できる。pH調整には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸等の酸性化合物を用いることができる。
【0015】
金属コロイド粒子の表面に保護コロイドを被着するには、金属コロイド粒子を分散した媒液中に保護コロイドを添加し混合して被着するか、あるいは、保護コロイドの存在下に金属化合物と還元剤とを反応して保護コロイドが被着した金属コロイド粒子を製造することもできる。後者の方法では還元反応の際に保護コロイドが存在しているため、より高度に分散した金属コロイド粒子が得られるため好ましい方法である。
【0016】
金属コロイド粒子を分散させる分散媒としては、用いる金属コロイド粒子との親和性に応じて適宜選択し、例えば、水、アルコール類、ケトン類等の親水性有機溶媒、直鎖状炭化水素類、環状炭化水素類、芳香族炭化水素類等の疎水性有機溶媒等を用いることができ、これらから選ばれる1種を用いても、または相溶性を有する2種以上を混合分散媒として用いても良く、あるいは、親水性有機溶媒を相溶化剤として用いて水と疎水性有機溶媒を混合して用いることもできる。前記の銀、銅のような親水性の金属からなる金属コロイド粒子を用いるのであれば、水または水を主体とする親水性有機溶媒との混合分散媒を用いることが好ましい。この場合、水は、通常、分散媒中に50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれていれば良い。また、水は表面張力が大きいので、必要に応じて、比誘電率が35以上、好ましくは35〜200の範囲の、沸点が100℃以上、好ましくは100〜250℃の範囲の有機溶媒を添加すると、加熱焼成時に塗布物にシワや縮み等の表面欠陥が生じ難く、均一で密度の高い塗布物が得られ易いので好ましい。このような有機溶媒としてN−メチルホルムアミド(比誘電率190、沸点197℃)、ジメチルスルホキシド(比誘電率45、沸点189℃)、エチレングリコール(比誘電率38、沸点226℃)、4−ブチロラクトン(比誘電率39、沸点204℃)、アセトアミド(比誘電率65、沸点222℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(比誘電率38、沸点226℃)、ホルムアミド(比誘電率111、沸点210℃)、N−メチルアセトアミド(比誘電率175、沸点205℃)、フルフラール(比誘電率40、沸点161℃)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。中でも、表面張力が50×10−3N/m以下のN−メチルホルムアミド(表面張力38×10−3N/m)、ジメチルスルホキシド(表面張力43×10−3N/m)、エチレングリコール(表面張力48×10−3N/m)、4−ブチロラクトン(表面張力44×10−3N/m)、アセトアミド(表面張力39×10−3N/m)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(表面張力41×10−3N/m)等であれば、更に効果が高く好ましい。これらの高比誘電率、高沸点の有機溶媒は、水を除く分散媒中に20〜100重量%の範囲で含まれているのが好ましく、40〜100重量%の範囲が更に好ましい。
【0017】
本発明の流動性組成物に配合する還元性物質は、水溶液中での酸化還元電位が、流動性組成物中に含まれる金属コロイド粒子の酸化還元電位よりも、低い値(貴な値)を示す還元性を有する公知のものが好ましい。例えば、(1)ヒドラジンまたはその水和物、(2)ヒドラジン系化合物(例えば、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等)、(3)アルデヒド類((a)脂肪族アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド等)、(b)芳香族アルデヒド類(例えば、ベンズアルデヒド等)、(c)複素環式アルデヒド類等)、(4)アミン類((a)1級アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等)、(b)2級アミン類(例えば、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等)、(c)3級アミン類(例えば、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等)等)、(5)アミノアルデヒド類(例えば、アミノアセトアルデヒド等)、(6)アルカノールアミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(7)還元糖(例えば、ショ糖、トレパース、マルトース、ラクトース等)、(8)水素化合物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム等)、(9)低次無機酸素酸(例えば、亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸、次亜リン酸等)及びその水化物(例えば、亜硫酸水素)またはそれらの塩(例えば、ナトリウム等のアルカリ金属塩)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。還元性物質が、ヒドラジンまたはその水和物、アルデヒド類、アミン類、アミノアルデヒド類、アルカノールアミン類、還元糖から選ばれる1種以上であれば、加熱焼成により容易に分解し、電極中に導電性を阻害するような成分がほとんど残留しないので好ましく、中でも、ヒドラジンまたはその水和物、アルデヒド類から選ばれる1種以上であれば、常温またはそれ以下の温度下でも還元力が強く、分散安定化の効果が高いのでより好ましい。アルデヒド類の中では脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類が効果が高いので好ましく、脂肪族アルデヒド類が特に好ましい。還元性物質の使用量は、金属コロイド粒子100重量部に対し0.1〜50重量部の範囲であるのが好ましく、この範囲より少ないと、所望の効果が得られ難く、この範囲より多くしても更なる効果は得られ難く経済的でない。より好ましい範囲は、0.3〜30重量部であり、更に好ましい範囲は、0.5〜10重量部である。
【0018】
本発明の流動性組成物は、前記の金属コロイド粒子と分散媒と還元性物質とを公知の方法により混合して製造することができ、例えば、撹拌混合、コロイドミル等の湿式粉砕混合などの方法を用いることができる。混合の手順としては、金属コロイド粒子と分散媒と還元性物質のそれぞれを同時期に混合しても良いが、金属コロイド粒子を分散媒に分散したものをまず調製するか、あるいは、予め調製した金属コロイド溶液を用いて、それに還元性物質を添加し混合するのが良い。
【0019】
本発明の流動性組成物には、前記の金属コロイド粒子、分散媒、還元性物質の他に、界面活性剤、分散剤、増粘剤、可塑剤、防カビ剤等の添加剤を、適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属コロイド粒子の分散安定性を更に高める作用や、流動性組成物のレオロジー特性を制御し、塗工性を改良する作用を有するので好ましく、例えば、第4級アンモニウム塩等のカチオン系、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等のノニオン系等の公知のものを用いることができ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。界面活性剤の配合量は、金属コロイド粒子の種類等によって異なるので、塗料組成に応じて適宜設定するが、一般的には金属コロイド粒子1重量部に対し、0.01〜0.5重量部の範囲が好ましい。また、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等の有機系の硬化性バインダーが含まれていても良い。硬化性バインダーの配合量は使用場面に応じて適宜設定でき、電極や配線パターンを形成する場合は、硬化性バインダーを配合しないか、あるいは、金属コロイド粒子1重量部に対し、0〜0.1重量%の範囲配合するのが適当である。
【0020】
本発明の電極、配線パターンは、前記流動性組成物を、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布後、加熱焼成して得られるものであり、流動性組成物中に金属コロイド粒子が高度に分散しているので、欠陥がほとんどなく均一な組成で、電気特性が優れている。この電極は、プリント配線基板の回路や、その他の微細な導電部材として用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0022】
金属コロイド粒子の調製
金属化合物として硝酸銀50g、保護コロイドとして硫黄化合物3−メルカプトプロピオン酸1.6gを純水220ミリリットルに溶解し、28%アンモニア水70ミリリットルを加え、pHを11.6の溶液を調整した。一方、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム2.1gを、28%アンモニア水4ミリリットルを加えた295ミリリットルの純水に溶解した。両者を30分間かけて600ミリリットルの純水中に撹拌しながら同時に滴下し、硝酸銀を還元して、3−メルカプトプロピオン酸を表面に被着した銀コロイド粒子を媒液中に生成した。次いで、得られた銀コロイド粒子の媒液を、硝酸(30%)を用いて媒液のpHを2.5に調整し、銀コロイド粒子を沈降させ、真空ろ過機で銀コロイド粒子をろ別し、ろ液の比導電率が10μS/cm以下になるまで水洗した後、水中に再分散して、水性銀コロイド溶液(銀コロイド粒子を50重量%含有)を得た。
【0023】
実施例1〜3、比較例1
前記の銀コロイド溶液を用いて、表1に示す処方により本発明及び比較対象の流動性組成物を得た。それぞれを、試料A〜Dとする。
【0024】
【表1】

*)銀コロイド粒子1重量部に対し、保護コロイドとしてメルカプトプロピオン酸を
0.03重量部含む。
**)分散剤(有効成分40重量%:ビックケミー社製)
【0025】
評価1
実施例1〜3、比較例1の流動性組成物(試料A〜D)を製造直後、製造後1ヶ月及び2ヶ月貯蔵したものについて、#16バーコーターでガラス板上に塗布し風乾した後、70℃の温度で10分間予備加熱し、更に150℃の温度で30分間焼きつけた。得られた塗布物の外観を目視で判定し、体積抵抗率を、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。表2中の外観の「○」は良好な金属光沢があることを、「△」は若干の金属光沢があることを、「×」は白濁していることを示す。また、試料A、Dのそれぞれの塗布物の表面状態を、走査型電子顕微鏡で撮影した。本発明の流動性組成物は、貯蔵後もほとんど塗布物の外観及び導電性が低下せず、安定性が優れていることが判る。
【0026】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の流動性組成物は、長期間保管しても優れた導電性等の性能が得られる塗膜を形成できるため、均一な電極や配線を形成し易く、特に、プリント配線基板等の微細電極、配線パターンの形成などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は実施例1で得られた流動性組成物(試料A)を、製造直後に評価1の方法で得た塗布物表面の電子顕微鏡写真(倍率7300倍)である。
【図2】図2は実施例1で得られた流動性組成物(試料A)を、製造後2ヶ月貯蔵した後、評価1の方法で得た塗布物表面の電子顕微鏡写真(倍率7300倍)である。
【図3】図3は比較例1で得られた流動性組成物(試料D)を、製造直後に評価1の方法で得た塗布物表面の電子顕微鏡写真(倍率7300倍)である。
【図4】図4は比較例1で得られた流動性組成物(試料D)を、製造後1ヶ月貯蔵した後、評価1の方法で得た塗布物表面の電子顕微鏡写真(倍率7300倍)である。
【図5】図5は比較例1で得られた流動性組成物(試料D)を、製造後2ヶ月貯蔵した後、評価1の方法で得た塗布物表面の電子顕微鏡写真(倍率7300倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属コロイド粒子と分散媒と還元性物質とを混合してなり、金属コロイド粒子の含有量が少なくとも5重量%であり、該金属コロイド粒子100重量部に対して還元性物質を0.1〜50重量部配合してなることを特徴とする流動性組成物。
【請求項2】
金属コロイド粒子を含む分散媒に少なくとも還元性物質を混合してなることを特徴とする請求項1記載の流動性組成物。
【請求項3】
還元性物質がヒドラジンまたはその水和物、アルデヒド類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の流動性組成物。
【請求項4】
金属コロイド粒子がその表面に硫黄化合物を有することを特徴とする請求項1記載の流動性組成物。
【請求項5】
金属コロイド粒子が銀または銅のコロイド粒子であることを特徴とする請求項1記載の流動性組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の流動性組成物を用いて形成されることを特徴とする電極。
【請求項7】
請求項1に記載の流動性組成物を用いて形成されることを特徴とする配線パターン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−73436(P2006−73436A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257667(P2004−257667)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】