説明

流路デバイスおよび流体の混合方法

【課題】 マイクロ流路内に含まれる複数の流体を効率よく混合させる。
【解決手段】 流体を流すための、少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させ、それぞれの流体による界面を形成する合流流路と、前記合流流路の下流に配され、流れ方向に対する断面が該合流流路よりも界面が増大する方向に長い混合流路と、を有することを特徴とする流路デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の流体を混合するための流路を有する流路デバイスおよび流体を混合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学および生化学反応の経過や結果を確かめるために濃度、成分などの所望の情報を得ることは分析化学の基礎的な事項であり、それらの情報の取得を目的としたさまざまな装置およびセンサが発明されている。それらの装置やセンサを微細化し、所望の情報を得るまでの全工程をマイクロデバイス上にての実現を目指す、マイクロ・トータル・アナリシス・システム(μ−TAS)またはラブオンチップと呼ばれるコンセプトがある。これは、採取された原料や未精製検体をマイクロデバイス内の流路を通過させることにより検体精製や化学反応などの工程を経て、最終的な化学合成物や検体中に含まれる成分の濃度などを得ることを目標とするコンセプトである。また、これらの分析や反応を司るマイクロデバイスは、必然的に微小量の溶液や気体を扱うことから、マイクロ流路デバイス、あるいはマイクロ流体デバイスと呼ばれることが多い。
【0003】
従来技術のデスクトップサイズの分析機器と比較すると、マイクロ流路デバイスを用いることによってデバイス内に含まれる流体は低容量化されるため、必要試薬量の低減および分析物量の微量化による反応時間の短縮が期待される。このようなマイクロ流路デバイスの利点が認知されるにつれて、μ−TASに関わる技術が注目を集めている。
【0004】
一方、デスクトップサイズの装置をマイクロデバイス化することにより、新たな特徴が生じる。一例として、比界面積の上昇や分子拡散のみによる流体の混合促進などが挙げられ、デスクトップサイズの分析機器では無視できうる現象がマイクロデバイス内では重要になる。特に流路内で複数の溶液を効率的に混合させることは、化学反応を実施するうえで重要であるが、マイクロ流路においては同じ方向に流れる複数の溶液を合流させると層流を形成してしまい、混合が進みにくいという現象が生じる。
【0005】
マイクロ流路内で混合を促進させる方法として、特許文献1には深溝型のマイクロリアクタで、流路の幅に比べて深さ寸法を大きくし、深さ方向に平行な接触面を持つ層流を形成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−050320号公報(図4(B))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のマイクロリアクタは、合流前の2つの流路とも深溝となっており、合流後も同じ深溝幅で合流する構成である。
【0008】
このため、合流時の両者の液量を精度よく制御することが難しく、混合の割合は界面に沿った方向において均一にならない場合があった。
【0009】
よって、大量の反応合成を行うリアクタという観点においては問題とならないが、後にPCRなどの検査反応処理を行うμ−TASなどの分野においては、量的なコントロールが困難となる場合があり、より好適な形態が求められていた。
【0010】
本発明は、このような背景技術を鑑みてなされたものであり、流路を流れる流体を能動的に操作する必要がなく、簡便に作製でき、且つ混合量を制御しつつ流体の混合を促進できる流路デバイスおよびそれを用いた流体の混合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するマイクロ流体デバイスは、流体を流すための、少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させ、それぞれの流体による界面を形成する合流流路と、前記合流流路の下流に配され、流れ方向に対する断面が該合流流路よりも界面が増大する方向に長い混合流路と、を有する
ことを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決する流体の混合方法は、少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させる合流流路と、を有する流路デバイスを用いた流体の混合方法であって、前記2つの流路から流体をそれぞれ流し、合流流路においてそれぞれの流体による界面を形成させ、該合流流路の下流にて前記流体どうしの界面を増大させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の流体を合流流路で合流させた後に、下流の拡大流路で接触界面方向が大きくなるように層流を形成させることができる。これにより、合流時の各流体の量的な制御が容易であり、且つ速やかに混合させる流路デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の流路デバイスの原理を示す概念図である。
【図2】本発明の流路デバイスの一実施形態を示す図である。
【図3】本発明の流路デバイスを用いた2液混合の一実施態様を示す概念図である。
【図4】本発明の流路デバイスを用いた2液混合の一実施態様の流路断面図である。
【図5】本発明の流路デバイスを用いた2液混合の一実施態様を示す概念図である。
【図6】本発明の流路デバイスを用いた2液混合の一実施態様の流路断面図である。
【図7】本発明の流路デバイスを用いた3液混合の一実施態様を示す概念図である。
【図8】本発明の流路デバイスを用いた3液混合の一実施態様の流路断面図である。
【図9】本発明の流路デバイスを用いた4液以上を混合する一実施態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特にXYZの方向軸に関する記載がない場合は、基板に形成された流路のうち、基板面に平行な方向の平面を流路幅方向、基板面に垂直な方向の平面を流路高さ方向として説明する。
【0016】
本発明に関わるデバイスは、流体を流すための、少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させ、それぞれの流体による界面を形成する合流流路と、前記合流流路の下流に配され、流れ方向に対する断面が該合流流路よりも界面が増大する方向に長い混合流路と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に関わる流体の混合方法は、少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させる合流流路と、を有する流路デバイスを用いた流体の混合方法であって、前記2つの流路から流体をそれぞれ流し、合流流路においてそれぞれの流体による界面を形成させ、該合流流路の下流にて前記流体どうしの界面を増大させることを特徴とする。
【0018】
流路デバイスは、混合流路となる溝が形成された第1の基板を有しており、混合流路が、合流流路から離れるにつれて前記溝の深さ方向に大きくなる拡大流路部を有する構成、さらには拡大流路部の天面が、第2の基板の底面である構成であることが好ましい。
【0019】
またさらに、第1の基板に第1流路、第2の基板に第2流路が形成され、前記第1流路の端部が前記第2流路に接続して第2の基板に合流流路を形成するように第2の基板と第1の基板を接合した流路デバイスとして構成し、前記合流流路の端部が、前記第1の基板に形成された前記流路の略端部に接続することが好ましい。
【0020】
あるいは、第1の基板に分岐を有する第1流路、第2の基板に分岐を有する第2流路が形成され、前記第1流路の一つの端部が前記第2流路に接続して第2の基板に形成された第2の合流流路を形成し、前記第2流路の一つの端部が前記第1流路に接続して第1の基板に形成された第1の合流流路を形成し、前記第1の合流流路の端部が前記第2の合流流路に接続するように第2の基板と第1の基板を接合したマイクロ流体デバイスであり、前記第2の合流流路の端部が前記第1の基板に形成された前記流路の略端部に接続することが好ましい。
【0021】
そして合流流路において、界面の方向を変えるための屈曲流路を有する構成にするとよい。混合のための複数の流路、流路に接続する供給口などを、深い溝を形成した混合流路に対して、一方の領域側にそれらを集積化させることができるようになる。これにより、もう一方の領域を混合後の流路を形成する領域として使用できるようになるので、より集積化することができるようになる。
【0022】
本発明の流路デバイスを作製する際の接合において、流路の断面積の高さが幅よりも大きいほうが、接合時の製造誤差を考慮すると、幅が高さよりも大きい形のマイクロ流路よりも、マイクロ流路の断面積を保持したまま接合できる。
【0023】
本発明の流路デバイスは、いわゆるマイクロ流路として、幅、高さ、長さの少なくともいずれかのサイズがμmオーダー、すなわち0.1μm〜500μmであるマイクロ流路デバイスにおいて好適に実施される。
【0024】
例えば、幅50μm、高さ20μmのマイクロ流路において、接合時の圧力により高さ方向が1μm押しつぶされたとすると、断面積は95μmとなる。一方、幅20μm、高さ50μmのマイクロ流路において、同じ製造誤差があるとすると、断面積は98μmとなり、本来意図した100μmにより近くなる。よって、プラスチック素材などでマイクロ流路を作製しようとすると、流路断面積を保つためには流路高さが幅よりも大きい方が有利となる。ここで、前述の層流を多層に形成して混合を促進する方法は、マイクロ流路の断面積の幅方向に界面が形成されるように多層の層流を形成し、層流の界面面積を大きくすることによって混合を促進する。ところが、マイクロ流路の高さが幅方向と比較して大きいときの混合に対しては、界面面積が小さい方向における層流を形成するため、最適ではない。
【0025】
本発明は、マイクロ流路内に層流を形成するが、ある特定の流路内における流体の流れが層流を形成するかまたは乱流を形成するかはレイノルズ数(Re)で見積もることが可能であり、以下の式、
Re=UL/ν
によって導かれる。ここで、U代表速度、Lは代表長さ、νは動粘度係数である。厳密な境界となる数値はないが、一般におよそレイノルズ数が2000より低ければ、当該系の流体は層流を形成すると考えられている。実際、マイクロ流路の場合レイノルズ数が低くなることが知られ、その値は通常100より低く、しばしば1以下にもなるため、マイクロ流路においては流体の流れは層流を形成するものと考えてよい。よって、複数の流体を同一のマイクロ流路に注入したとき、それぞれの流体の流れは接触している界面近傍を除いて混合されることなく進行する。本発明における流路とは、特に断らない限り、レイノルズ数が低いため流路を流れる流体は層流を形成する大きさであるとする。
【0026】
マイクロ流路内における流体の混合は、微少場であるため物理的に撹拌することが容易でなく、また重力の影響もほぼ無視できるほどに小さいことから、混合は分子の拡散に依存する。Einstein−Smoluchowskiの理論から、1次元における分子の拡散時間(t)、拡散距離(σ)および流体の拡散係数(D)の関係、
t=σ/2D
が知られている。いま、あるマイクロ流路の流路幅をwとしたとき、拡散時間はw/Dに比例する。
【0027】
いま、流路断面積が流路幅100μm、流路高さ20μmのマイクロ流路において、2種類の流体がそれぞれ幅50μm、高さ20μmの断面積を有しながら流れているとする。このときそれぞれの流体を構成する分子の拡散に必要な移動距離は、最長50μmであるから、分子の拡散係数を1x10−6cm/sとしたとき、分子の移動に要する時間は12.5秒である。一方、同じ断面積を有するマイクロ流路だが、流路幅20μm、流路高さ100μmで、2種類の流体がそれぞれ幅10μm、高さ100μmの断面積を有しながら流れているときの分子の移動に要する時間は、0.5秒である。つまり、拡散に要する距離が1/5になることにより、移動時間は1/25に短縮される。
【0028】
さらに、層流により形成された界面を通過する分子の量は流束(J)、断面積(A)、時間(t)としたとき、
J・A・t
により決定される。界面を通過する分子の量が大きい方が混合が促進されるため、混合効率は界面の断面積に比例する。例えば、流路幅20μm、流路高さ100μmで断面積が100μmであるマイクロ流路において、2種類の流体が交互に幅5μm、高さ100μmの断面積を有しながら4本の層流を形成して流れているとき、分子の拡散係数を1x10−6cm/sとすると、分子の移動に要する時間は0.125秒である。これを2本の層流が同じ断面積のマイクロ流路を流れているときの状態と比べると、界面面積は3倍になるので、その分の寄与も混合時間には含まれる。
【0029】
つまり、多層の層流を形成することにより、混合に必要な拡散距離を減少させ、かつ界面面積を大きく保つことが混合効率を高める上で重要な要素である。
【0030】
本発明は上記の原理を利用して、マイクロ流路内に界面面積が大きくなる方向に多層の層流を形成して、マイクロ流路内における複数の流体の混合を実施する。なお、以下の説明においては2本の流体により形成された層流を2層流、3本の流体により形成された層流を3層流などと記述する。
【0031】
図1は本発明のデバイスの界面面積を大きく保った上で層流を形成する一実施態様を示す概念図である。以下、図1を用いて詳細に説明する。
【0032】
本実施形態のデバイスは、合流流路12がその端部13において略直角に屈曲し、Z軸方向への変位を伴いながら混合流路14に接続している。合流流路12は複数の流体が合流したときに、層流を形成し、接触界面を除いて流体の混合が進行しづらい大きさである。
【0033】
合流流路の下流に配置された混合流路14はX軸方向を流路幅とし、Z軸方向を流路高さとしたとき、流路幅対流路高さのアスペクト比が合流流路よりも大きく形成されている。
【0034】
すなわち、流れ方向(Y軸方向)に対する断面が該合流流路よりも界面が増大する方向(Z軸方向)に長い混合流路を下流に設けることで、層流の接触界面の面積を増大させ、混合を促進させることができるようになる。
【0035】
合流流路12と混合流路14との接続部分は、図1に示すように、端部13の位置から離れるにつれて徐々にアスペクト比を大きくするように、徐々に流路高さを変更する拡大流路部が混合流路の一部として設けられているとよい。このような構造は、合流流路12を一枚の基板に作製し、混合流路14を他の基板に作製して、端部13を混合流路14の略端部の位置に一致させ、合流流路12と混合流路14が略直角となるように二枚の基板を接合すると作製できる。
【0036】
図2は、本形態の流路デバイスを二枚の基板を接合することで構成した具体例を示すものである。混合流路14を有する第1の基板18と合流流路13の一部を有する第2の基板とが接合され、流路デバイスを構成している。混合流路14は、合流流路13との接続部分に、合流流路から離れるにつれて溝の深さ方向に大きくなる拡大流路部16が形成されている。
【0037】
図2(a)は、図1の流路デバイスをX軸方向からみた断面図に対応するものであり、図2(b)は(a)のA−A‘断面およびB−B’断面の流路断面形状を模式的に示すものである。
【0038】
本形態においては、流体10と流体11は互いに混和できる流体でZ軸方向に重なった2層流を形成しており、合流流路12内をまずX軸方向に流れている。合流流路12の端部13において、流体10および流体11はZ軸の負の方向に略直角に曲がると、それぞれ流体10’および流体11’となる。このとき、流体10’は流体11’に比べてよりX軸の正の方向に位置し、おおよそ2層流は保たれる。流体10’および流体11’はY軸方向に伸びる混合流路14内においておおよそ2層流を保ったまま流れるが、混合流路14の流路高さが流路幅より大きな値を有する地点でそれぞれ流体10’’および流体11’’を形成する。よって、流体10’’と流体11’’は、それぞれ流体10と流体11として合流流路12に存在していた時と比較すると、接触界面が増加し、両流体が混合される効率が高くなり、混合の進展の様子は15のように示される。すなわち、図2(b)で示すように、混合流路14の流れ方向における流路の断面形状が、合流流路12よりも界面が増大する方向(Z軸方向)に長い形状となっている。界面の法線方向(X軸方向)は、ともに同じ幅とすることが製造の観点で好ましいが、異なっていても良い。
【0039】
なお、図1においては、流体10と流体11がZ軸方向に重なった2層流を形成しながら合流流路12を流れているが、この2層流を形成することは、以下の方法で達成できる。流体10が流れるための合流流路12を一枚の基板に作製し、流体11を供給するマイクロ流路を他の基板に作製して合流流路12に交差するように二枚の基板を接合することにより実現できる。このとき、流体11を供給するマイクロ流路と、混合流路14が同じ基板上に形成されていることが好ましい。また、合流流路12の流体幅対流路高さの比は任意であるが、マイクロ流体デバイス全体に占める面積を低減するためにおおむね100μm以下の流路幅であることが望ましい。さらに、合流流路12内で形成される接触界面において、わずかな量の流体10と流体11は混合されるが、混合流路14において均一に混合させることを目的とするときは、合流流路12で少量の混合が生じてもかまわない。
【0040】
合流流路12や混合流路14を形成するデバイスの材質は、ガラス、セラミック、半導体またはそれらのハイブリッドなど、特に限定を設ける必要はないが、混合流路14の流路幅対流路高さを大きくするためには、プラスチック材質であると作製しやすい。プラスチック材質であれば、流路高さが流路幅と比較して大きな流路でも、機械加工や射出成型などの比較的安価な方法により流路を形成することが可能だからである。
【0041】
流体10や流体11は、互いに混和性であれば特に制限はない。また、流体10と流体11の主成分が同一のものであっても構わない。例えば、流体10と流体11の主成分は水であるが、いずれにも水溶性の物質が含まれており、流体10と流体11の混合によって物質の反応が開始されるものである。また、流体10内に水溶性の検体が含まれ、流体11が水を主成分とする試薬であってもよい。
【0042】
以上、マイクロ流路内で層流を形成するとき、接触界面面積が大きくなる方向に層流を形成する方法を説明したが、さらに層流を多層に形成する方法を実施例を通じて説明する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示し本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明をより詳細に説明するための例であって、実施形態は以下の実施例のみに限定されない。
【0044】
(実施例1)
実施例1において、マイクロ流路内において多層の層流を形成し、その層流の方向転換をすることにより接触界面面積が大きくなる方向に多層層流を形成する本発明の方法について図3および図4を用いて説明する。
【0045】
図3はマイクロ流体デバイスにおけるインレットと流路を表示した斜視図である。実線で記載された流路は第2の基板に作製された流路であり、破線で示された流路は第1の基板に作製された流路である。第2の基板に形成された溝と第1の基板の平面部分、または第1の基板に形成された溝と第2の基板の平面部分を一致させて接合することにより、第2と第1の基板に流路が形成される。ただし、図3における24、24’、26、28においては、第2の基板に作製された流路と第1の基板に作製された流路が交差する位置であるので、流路が高さ方向の変位を伴って接続している。
【0046】
第2のインレットに含まれる流体20は、分岐を有する流路22を流れる。第1のインレットに含まれる流体21は分岐を有する流路23を流れる。なお、流路20と流体21は互いに混和できる物質である。流路23は流路22と合流地点24において合流する。このとき、流路23を流れる流体21は合流地点24において、Z軸の正の方向への変位を伴いながら流体20と合流する。そして、合流流路25内において、流体20と流体21は流体20がZ軸の正の方向にある向きで2層流を形成する。図4(A)は合流地点24における、ZX断面図を表わしている。
【0047】
一方、流路22および流路23を合流地点24’方向に流れる、それぞれ流体20および流体21は、合流地点24’において、流体20がZ軸の負の方向への変位を伴いながら流体21と合流し、合流流路25’を流れる。合流地点24’と合流流路25’内を流れる流体20と流体21の様子を、合流地点24’付近のZX断面図を図4(B)に示している。流体20は流路22からZ軸の負の方向への変位を伴って流体21と合流しているため、合流流路25’内では、流体20がZ軸の正の方向になる2層流を形成する。
【0048】
合流流路25および合流流路25’はさらなる合流地点26にて合流する。このときの流体の流れをZX断面図として図4(C)に示す。合流流路25’を流れる2層流は、Z軸の正の方向へ変位を伴いながら、合流流路25を流れる2層流と合流するため、合流流路27内で4層流を形成する。このさいに、合流流路25および合流流路25’における層流の形成方向は合流地点26を通過しても不変である。なお、合流流路25と合流流路25’が合流するときの、XY平面上に作製される角度であるが、180度のときはそれぞれの流路を流れる層流が維持されない場合が生じるため、角度は180度であってはならない。好ましくは、0度より大きくおおよそ45度以下である。
【0049】
合流流路27を流れる4層流は、端部28において、混合流路29と略直角に接続される。このときの流体の様子を図4(D)に示す。合流流路27を流れる4層流は、端部28において、Z軸の負の方向へ変位を受けることにより、Z軸方向に重なった層流がX軸方向に重なった層流に変換される。方向転換を受けた層流は、X軸方向への重なりを保持したまま、混合流路29をY軸方向へと流れる。混合流路29は、流路幅(X軸方向)より流路高さ(Z軸方向)が大きい流路なので、層流が形成する接触界面面積が大きい状態にある。よって、界面面積を大きく保ちながら多層の層流を形成することができるため、混合が大きく促進される。
【0050】
流体20と流体21の混合比率を調整するためには、第2と第1のインレットに印加する圧力を調整することにより、流体20および流体21の流量を任意に設定できる。また、混合比率は混合流路29における各層流の幅を観測することにより、混合流路29内に注入された流体の量を確かめることが可能である。
【0051】
このように本発明では、界面面積が大きくなる方向に多層の層流を形成することを、Z軸方向への変位を伴う構造を有しながらも2枚の基板を接合することにより達成できる。また、界面面積を大きくするためには、XY平面上で例えば合流流路27の幅を広くする方法も考えられるが、XY平面方向の面積が大きくなりデバイスの集積化には不利になる。つまり、本発明のように混合流路29の流路幅を流路高さより小さい状態の流路とすれば、混合に要するXY平面方向の面積が低減され、より集積化に適したデバイスを作製することができる効果も有する。
【0052】
(実施例2)
実施例2おいて、混合流路を用いて多層の層流を形成し、接触界面面積が大きくなる方向に多層層流を形成する本発明の方法について図5および図6を用いて説明する。
【0053】
図5はマイクロ流体デバイスにおけるインレットと流路を表示した斜視図である。実線で記載された流路は第2の基板に作製された流路であり、破線で示された流路は第1の基板に作製された流路である。第2の基板に形成された溝と第1の基板の平面部分、または第1の基板に形成された溝と第2の基板の平面部分を一致させて接合することにより、第2と第1の基板に流路が形成される。ただし、図5における44、44’46、46’においては、第2の基板に作製された流路と第1の基板に作製された流路が交差する位置であるので、流路が高さ方向の変位を伴って接続している。
【0054】
第2のインレットに含まれる流体40は、流路42および流路42’に分岐して流れる。第1のインレットに含まれる流体41は、流路43および流路43’に分岐して流れる。流路43および流路43’の端部は、それぞれ流路42および流路42’に接続し、その位置を合流地点44とする。流体41は合流地点44にてZ軸の正の方向に変位を受けながら流体40と合流する。この時の様子を、図6(A)に表わす。合流流路45には、流体40が流体41に対して、Z軸の正の方向にある状態の2層流が形成される。同様に、合流流路45’においても、流体41が合流地点44’にて流体40と合流し、流体40が流体41に対して、Z軸の正の方向にある状態の2層流が形成される。
【0055】
合流流路45を流れる流体は、端部46において、図6(B)に示されるように、Z軸の負の方向に変位を受け、層流の向きがZ軸方向に重なった向きからX軸方向に重なった向きに変換される。そして、この層流の向きを保持したまま混合流路48の合流地点47へ流れる。一方、合流流路45’を流れる流体は、端部46’において、Z軸の負の方向に変位を受け、2層流の向きがZ軸方向に重なった向きからY軸方向に重なった向きに変換される。そして、その2層流の向きを保持したまま混合流路48の合流地点47へ流れる。
【0056】
合流地点47は混合流路48内に配置され、Z軸方向の変位を伴わない合流地点である。つまり、端部46および端部46’から来る流れは、X軸方向に重なった向きの2層流を形成する。合流地点47直前の流れは2層流であるから、XY平面の断面図である図6(C)に示されるように、合流地点47を通過すると4層流が形成される。さらに混合流路48を進行する4層流の流れは、接触界面面積が大きい方向に形成されているため、混合が速やかに進展する。
【0057】
このように、本発明は混合に適する多層の層流を混合流路内で形成して、混合を促進することができる。
【0058】
(実施例3)
実施例3として、3種類以上の流体を速やかに混合するため方法について図7および図8を用いて説明する。
【0059】
第2のインレットに流体60、第1のインレットに流体61、第三のインレットに流体62を含むマイクロ流体デバイスがある。それぞれのインレットから流れでた流体は、混合流路68へ向けて流れながら多層の層流を形成して、混合流路68内で混合される。なお、図7において、実線で示された部分は第2の基板に形成された流路で、破線で示された部分は第1の基板に形成された流路であり、合流地点63、63’、64、64’、および端部66、66’にて互いに接続されている。つまり、このマイクロ流体デバイスは混合する流体が3種類ありながら、2枚の基板から構成されている。
【0060】
流体61は合流地点63において、Z軸方向の変位を伴いながら流体60と合流し、流体60が流体61に対してZ軸の正の方向になるような2層流が形成される。このときの流体の様子を図8(A)に示す。次に、流体62は合流地点64において、流体60と流体61で構成された2層流のZ軸の負の方向に3層目の層を形成するように合流し、3層流となって合流流路65を流れる。このときの流体60、流体61および流体62の様子は図8(B)に示される通りである。
【0061】
合流流路65の端部66において、3層流はZ軸の負の方向に流れを変化させることにより、3層流の向きがX軸方向に重なった流れに変換され、混合流路68を合流地点67へと向かって流れる。このときの3層流の向きを図示したものが、図8(C)である。合流地点63’、64’および合流流路65’を通過した流体も同様に3層流を形成し、端部66’において、3層流の向きがY軸方向に重なった流れに変換され、混合流路68を合流地点67へと向かって流れる。
【0062】
合流地点67付近の流体の流れの様子をXY平面の断面図に表わして図8(D)に図示する。流体60、流体61および流体62により形成された2本の3層流は、Z軸方向の変位を伴わない合流地点67へと向かう。混合流路68は、レイノルズ数が低い状態になる大きさなので、2本の3層流は合流地点67で合流すると6層流を形成する。混合流路68内に6層流が形成されることによって、混合されるために必要な分子拡散の距離が低減され、かつ混合流路68は幅(X軸方向)が高さ(Z軸方向)より大きいため、界面面積も大きく保持されるため、混合が促進され易い環境になる。
【0063】
図7においては、3種類の流体を混合するように図示してあるが、さらに多くの種類の流体を混合するには以下の方法で実現できる。必要があるときには、合流地点64および64’より端部66および66’の方向に第1の基板内に流路を形成し、その流路が合流流路65および65’にZ軸の負の方向から合流するように接続させることにより実現できる。この時のインレットと各流路を図9に示す。つまり、図7における流体62が単独で流れる流路と同じ構造の流路を第1の基板内に平行して新たな流路を作製するだけで、4種類以上の流体の混合にも対応できる。
【0064】
このように、本発明は2種類の流体の混合に特化したものではないため、3種類以上の流体を混合するさいにおいて、2種類の流体を混合する構造の全部分を繰り返し配置する必要がなく、デバイスの混合に要する面積が低減できるという効果も有する。さらに、4種類、5種類の流体の混合のためにも容易な設計変更で対応することができる。
【0065】
(実施例4)
実施例4として、流路に注入される流体が非混和性の流体においても本発明が有用であることを説明するために、マイクロ流体デバイス内における液−液抽出を例として図1を用いて説明する。
【0066】
検体を含む流体10、および検体を抽出するための流体11は内は、合流流路12においてはZ軸方向に重なった層流を形成する。検体は流体11と親和性を保有するものであり、流体11に接触すると、流体11内に抽出される。この抽出効率は、流体10と流体11の接触界面面積に依存し、接触界面面積が大きい方が抽出効率は高い。
【0067】
いま、合流流路12内を流れる流体10および11は端部13において2層流の方向が変換され、混合流路14へと流れる。液−液抽出のさいには、流体10と流体11は互いに非混和であることが多く、混合流路14においてもX軸方向に重なった2層流は保持される。しかし、混合流路14の幅(X軸方向)は高さ(Z軸方向)より高く、その接触界面面積は合流流路12内の2層流よりも大きく設定できる。よって、界面面積の上昇とともに、検体の流体11への抽出効率は高まる。
【0068】
検体は、例えば水溶液中に存在するトルエンであり、これを水とトルエンの混合物を流体10としたとき、流体11はオイルであると、水溶液中のトルエンを流体11のオイル内に抽出できる。
【0069】
このように、本発明は流体を混合させる以外のアプリケーションにおいても、層流を界面面積が大きくなる方向に形成することにより、界面を通過することが必須な反応に対して効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、化学反応、化学分析を実施するためのマイクロ流体デバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
10、10’、10’’ 流体
11、11’、11’’ 流体
12 マイクロ流路
13 端部
14 混合流路
15 流体の混合の様子
20 流体
21 流体
22 流路
23 流路
24、24’ 合流地点
25 合流流路
26 合流地点
27 合流流路
28 端部
29 混合流路
40 流体
41 流体
42、42’ 流路
43、43’ 流路
44、44’ 合流地点
45、45’ 合流流路
46、46’ 端部
47 合流地点
48 混合流路
60 流体
61 流体
62 流体
63、63’ 合流地点
64、64’ 合流地点
65、65’ 合流流路
66、66’ 端部
67 合流地点
68 混合流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流すための、少なくとも2つの流路と、
該2つの流路の流体を合流させ、それぞれの流体による界面を形成する合流流路と、
前記合流流路の下流に配され、流れ方向に対する断面が該合流流路よりも界面が増大する方向に長い混合流路と、
を有することを特徴とする流路デバイス。
【請求項2】
前記流路デバイスは、前記混合流路となる溝が形成された第1の基板を有しており、前記混合流路が、合流流路から離れるにつれて前記溝の深さ方向に大きくなる拡大流路部を有する請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記拡大流路部の天面が、第2の基板の底面である請求項2に記載の流路デバイス。
【請求項4】
第1の基板に第1流路、第2の基板に第2流路が形成され、前記第1流路の端部が前記第2流路に接続して第2の基板に合流流路を形成するように第2の基板と第1の基板を接合した流路デバイスであり、前記合流流路の端部が、前記第1の基板に形成された前記流路の端部に接続する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の流路デバイス。
【請求項5】
前記第1の基板に分岐を有する第1流路、第2の基板に分岐を有する第2流路が形成され、前記第1流路の一つの端部が前記第2流路に接続して第2の基板に形成された第2の合流流路を形成し、前記第2流路の一つの端部が前記第1流路に接続して第1の基板に形成された第1の合流流路を形成し、前記第1の合流流路の端部が前記第2の合流流路に接続するように第2の基板と第1の基板を接合した流路デバイスであり、前記第2の合流流路の端部が前記第1の基板に形成された前記流路の端部に接続する、ことを特徴とする請求項1またはから3のいずれかに記載の流路デバイス。
【請求項6】
前記合流流路に、前記界面の方向を変えるための屈曲流路を有する請求項3または4に記載の流路デバイス。
【請求項7】
少なくとも2つの流路と、該2つの流路の流体を合流させる合流流路と、を有する流路デバイスを用いた流体の混合方法であって、
前記2つの流路から流体をそれぞれ流し、合流流路においてそれぞれの流体による界面を形成させ、該合流流路の下流にて前記流体どうしの界面を増大させる
ことを特徴とする混合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−40776(P2013−40776A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175900(P2011−175900)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】