説明

流路内を通流する液体の温度制御方法

【課題】流路内の液体温度を精度良く制御することが可能であって、特に流路内に形成された複数の層流について個別に温度の測定と調整を行うことが可能な温度制御方法の提供。
【解決手段】流路C内を通流する液体中に、温度に依存して光学特性が変化する温度指標粒子1を含有させておき、前記温度指標粒子1に光Lを照射して前記光学特性を測定し、得られた測定値に基づいて前記液体の温度を算出する温度制御方法を提供する。この温度制御方法は、さらに、前記液体中に光Lの照射によって蓄熱される温度制御粒子2を含有させておき、前記蓄熱を利用して前記液体を加温することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路内を通流する液体の温度を自動的に制御するための温度制御方法等に関する。より詳しくは、温度依存的に光学特性が変化し得る温度指標粒子を用いた温度制御方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や効率化、集積化、あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。μ−TASでは、単一のデバイス上で流体制御、試料処理、多段階反応、温度制御、分離及び検出等の工程を行うことが可能であるため、分析化学、生化学及び医療科学等の分野で大きな発展が期待される。
【0004】
特許文献1には、μ−TASにおける液体処理方式に関し、可動光ビームによってマイクロチャネル(流路)内に発生させた気泡によってポンピングやミキシング、バルブ切換えを行うマイクロポンプシステムが開示されている(当該文献請求項1、請求項55、請求項56、請求項60参照)。このマイクロポンプシステムは、例えば診断またはハイスループットスクリーニング等の分析を目的とする、または例えば組み合わせ化学ライブラリの合成のためのアプリケーションに使用可能なものである(当該文献段落0144参照)。
【0005】
μ−TASの生物学的分析への応用例としては、マイクロチップ上に設けられた流路内で細胞等の微小粒子の特性を光学的に分析し、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収する微小粒子分取技術がある。
【0006】
この微小粒子分取技術に関連して、非特許文献1及び非特許文献2には、マイクロチップ流路内においてフローサイトメトリーを行い、所望の微小粒子を分別する技術が提案されている。このマイクロチップは、T字型の流路を形成させて、分取したい細胞とそれ以外の細胞とを、シース流の送流方向を切り換える(流路選択制御) ことによって分別を行うものである。また、特許文献2には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置され、電界との相互作用により微粒子の移動方向を制御するものである。
【0007】
μ−TASの化学的及び生物学的分析への利用を拡大するためには、マイクロチップ上の流路内において、溶液等の液体の温度を正確に測定し、流路内の液相反応の温度を高い精度で調整することが必要とされる。
【0008】
特許文献3には、マイクロチップ流路内の液体温度の制御方法に関し、液相温度を蛍光物質からの発光強度の検知によって非接触で測定する温度測定方法、ならびに液相を赤外線(IR)レーザーの照射によって加熱して液相温度を調整する温度制御方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、マイクロデバイス(マイクロチップ)に保持された液成分に光源からの光エネルギーを直接供給することにより、または液成分に近接して設けられた昇温領域に光エネルギーを供給し、この昇温領域から移動する熱エネルギーにより、液成分の加熱を行う温調方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特表2005−538287号公報
【特許文献2】特開2003−107099号公報
【特許文献3】国際公開第2002/090912号
【特許文献4】国際公開第2003/093835号
【非特許文献1】Anne. Y. Fu, et al., "A microfabricatedfluorescence-activated cell sorter", Nature Biotechnology, Vol.17, November 1999, pp.1109-1111
【非特許文献2】Anne Y. Fu, et al., "An Integrated MicrofablicatedCell Sorter", Analytical Chemistry, Vol.74, No.11, June 1, 2002, pp.2451-2457
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
μ−TASでは、例えば、上記特許文献1中、図6で説明されるように、化学的及び生物学的反応における複雑な試料処理や多段階反応、分離処理等を行なうため、流路内に複数の液体を層流として送液することが行われている。
【0012】
例えば、上記非特許文献1及び2に開示されるマイクロチップを用いた微小粒子分取技術においては、微小粒子を流路中心部に送流することにより、流路に対し集光される光を精度良く微小粒子に照射して、光学測定精度を高めること等を目的として、流路内に形成した溶媒(シース液)層流中に微小粒子の分散液を導入し、分散液層流がシース液層流によって囲まれた状態で送液することが行われる。
【0013】
上記特許文献3及び4に開示される温度制御方法は、マイクロチップ流路内の液体温度を精度良く制御することを可能にするものである。しかしながら、上記のように流路内に複数の液体を層流として送液する場合において、各層流の温度を個別に制御することを想定したものとはなっておらず、μ−TASにおける液体制御をより高い精度で行うためには、複数の層流の温度測定及び温度調整を個別に行うための技術が望まれる。
【0014】
そこで、本発明は、流路内の液体温度を精度良く制御することが可能であって、特に流路内に形成された複数の層流について個別に温度の測定と調整を行うことが可能な温度制御方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題解決のため、本発明は、流路内を通流する液体中に、温度に依存して光学特性が変化する温度指標粒子を含有させておき、前記温度指標粒子に光を照射して前記光学特性を測定し、得られた測定値に基づいて前記液体の温度を算出する温度制御方法を提供する。
この温度制御方法は、さらに、前記液体中に光の照射によって蓄熱される温度制御粒子を含有させておき、前記蓄熱を利用して前記液体を加温することができる。
また、前記流路内に複数の層流として導入された前記液体の各層流に含有される前記温度指標粒子について、前記光学特性を測定することにより、各層流の温度を算出することもでき、さらに、前記層流に含有される前記温度制御粒子に対し光を照射することにより、各層流を加温することも可能である。これは、特に、流路内における微小粒子の光学測定方法において、前記流路内に導入された、前記微小粒子を含む分散液層流と、溶媒層流と、の温度制御を行う場合に有用となる。
【0016】
本発明において、「液体」という用語は広義に解釈されるべきであり、均質な液体、懸濁液、すなわち、微小粒子を含む液体、小さい気泡を含む液体、水性液、有機液体、二相系及び疎水性の液体及び親水性の液体を含み得るものとする。
【0017】
また、「微小粒子」とは、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連高分子物質、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などの微小粒子が広く含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。生体高分子物質には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。さらに、ガラスやポリスチレンなどの微小粒子の表面又は内部に、DNAやタンパク質、抗体等の生体関連高分子物質を、化学的又は物理的に修飾、固相化した微小粒子であってもよい。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【0018】
「微小粒子測定方法」は、流路内において、上記の細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などの微小粒子の光学特性を測定するための方法を広く意味する。具体的には、パーティクルアナライザーやフローサイトメーター、さらには光学特性の測定結果に基づいて微小粒子の分取を行うセルソータ等を用いた方法が含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、流路内の液体温度を精度良く制御することが可能であって、特に流路内に形成された複数の層流について個別に温度の測定と調整を行うことが可能な温度制御方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
図1は、本発明に係る温度制御方法の第一実施形態を説明するための模式図である。
【0022】
図1(A)中、符号Cは、液体が導入される流路を示す。液体は、図中左から右へ矢印F方向に送液されるものとする。
【0023】
流路Cは、例えば、マイクロキャピラリーや、基板上に設けられたマイクロチャネル、フローセル等であって、化学的及び生物学的分析のための液体が送液される送液路である。
【0024】
図1(A)中、符号1及び2は、それぞれ温度指標粒子及び温度制御粒子を示す。また、図中、符号Lは、温度指標粒子1の光学特性を測定するための測定用レーザーを、符号Lは、温度制御粒子2を加熱するための加熱用レーザーを示す(図中、測定用レーザーL及び加熱用レーザーLの流路C照射面におけるレーザースポットを点線で囲った円形領域として示す)。また、測定用レーザーL及び加熱用レーザーLは、同一の光学スポットによって実現することも可能である。この場合には、図1(B)に示すように、レーザーをパルス状とし、測定用パルスLと加熱用パルスLとを照射する。この際、レーザーパルスの時間軸方向の間隔は、流路C内における温度指標粒子1及び温度制御粒子2の送流速度に対して十分短い時間間隔とする。これにより、測定用レーザーL及び加熱用レーザーLを単一の光学系により構成することが可能となる。
【0025】
温度指標粒子1は、温度依存的にその光学特性が変化し得る微小粒子であって、その光学特性の検知によって、温度指標粒子1が含有される液体温度を測定し得る微小粒子である。温度依存的な光学特性の変化としては、例えば、以下に説明する磁気カー効果による反射偏光角の変化や磁気ファラデー効果による透過偏光角の変化、相変化による透過率及び反射率の変化などが挙げられる。
【0026】
「磁気カー効果」とは、磁性物質が円偏光を吸収する際に左円偏光と右円偏光に対して吸光度に差が生じる現象のことをいう。直線偏光は同じ振幅を持つ左円偏光と右円偏光の和と見なすことができる。そのため、磁性物質に直線偏光を照射すると、その直線偏光を構成していた左円偏光と右円偏光に振幅の差が生じ、反射光が楕円偏光に変化する。この楕円偏光の偏光角度(反射偏光角度)は、磁性物質の温度に依存して変化し、磁性物質の磁化が消失するキュリー温度で0となることが知られている。
【0027】
図2に、磁性物質の温度と、磁気カー効果による反射光の偏光角度(反射偏光角)と、の関係を模式的に示す。図中、横軸は温度、縦軸は偏光角度、符号T1はキュリー温度を示す。
【0028】
物質温度と反射偏光角は、図に示すような相関関係を有し、その相関曲線は各物質に応じた固有の温度特性によって表すことができる。従って、この相関曲線に基づけば、磁性物質の反射偏光角からその物質温度を求めることが可能となる。
【0029】
光学特性として、磁気カー効果による反射偏光角を測定する場合には、温度指標粒子1を、例えば、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)により形成したマイクロビーズの表面に、磁性鉄や磁性コバルト、磁性ニッケル等の磁性金属(または磁性合金)を成膜、塗布、噴霧、溶着、内包することにより得る。また、光透過性マイクロビーズの内部に磁性金属を充填してもよい。この他、温度指標粒子1は、磁性物質に対し測定用レーザーLを照射し、反射光を得ることが可能に構成されたものであれば特に限定されず用いることができる。温度指標粒子1の最表層面には、腐食防止や反応防止のための処理を行ってもよく、例えば、テフロン(登録商標)などの有機膜や、各種酸化膜などの無機膜を形成することができる。
【0030】
温度指標粒子1に対する測定用レーザーLの照射によって得られる反射光の反射偏光角の測定は、MO(Mini Disk:登録商標)などの光磁気ディスクに用いられる公知の光ピックアップ装置と同様の原理によって行うことが可能である。一般的な光ピックアップ装置は、レーザー光源、複数個の検出器、偏光ビームスプリッタまたは偏光ホログラム素子、及び対物レンズなどから構成される。
【0031】
具体的な方法としては、さまざまな振動ベクトルを持った光の混ざった非偏光を励起光とし、偏光プリズムにて直線偏光とした後に、λ/4波長板などの円偏光変調器にて左右の円偏光に変換し、測定用レーザーLとする。この測定用レーザーLの左右円偏光に同期して、温度指標粒子1からの反射光の吸光度データを交互に光電子倍増管などの検出器で検出、計算処理し、反射偏光角を求める。レーザー光源には、アルゴンやヘリウム等のガスレーザーや半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等公知の光源から適宜選択して用いればよい。
【0032】
「磁気ファラデー効果」とは、物質に磁場をかけ、それと平行な方向に直線偏光を透過させたときに偏光面が回転する現象のことをいう。この偏光面の回転角度(透過偏光角)は、物質の温度に依存して変化し、その磁性物質の磁化が消失するキュリー温度で0となることが知られている。
【0033】
また、「相変化」とは、一般に、物質の液体、気体、個体の三相間の変化のことをいい、本発明では、特に、情報記録技術において、記録媒体が熱の印加によって結晶相とアモルファス相の間を変化することを利用した記録技術(相変化記録技術)と同義に用いるものとする。相変化は、物質の温度に依存した結晶相及びアモルファス相の間の変化により、該物質に照射される光の透過率及び透過率が変化することを利用している。
【0034】
図3に、物質の温度と磁気ファラデー効果による透過偏光角の関係(A)、物質の温度と相変化による透過率及び反射率の関係(B)を模式的に示す。図(A)中、横軸は温度、縦軸は透過偏光角、符号T1はキュリー温度を示す。図(B)中、横軸は温度、縦軸は透過率又は反射率、符号Tは相変化温度を示す。
【0035】
図に示すように、物質温度と透過偏光角、及び、物質温度と透過率/反射率の相関関係は、各物質に応じた固有の相関曲線によって示すことができる。従って、この相関曲線に基づけば、物質の透過偏光角又は透過率/反射率からその物質温度を求めることが可能となる。
【0036】
光学特性として磁気ファラデー効果による透過偏光角を測定する場合には、温度指標粒子1は、例えば、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)により形成した光透過性のマイクロビーズに、磁性材料を含有させることにより得ることができる。磁性材料には、例えば、磁性ガーネットなどの透明(光透過)磁性体を用いる。
【0037】
また、光学特性として相変化による透過率/反射率を測定する場合には、マイクロビーズの表面に相変化材料を成膜、塗布、噴霧、溶着するか、光透過性のマイクロビーズの内部に相変化材料を充填又は含有させる。相変化材料には、例えば、Ag-In-Sb-Te(銀-インジウム-アンチモン-テルル)合金やGe-Sb-Te(ゲルマニウム-アンチモン-テルル)合金などを用いることができる。
【0038】
この他、温度指標粒子1は、磁性材料又は相変化材料に対し測定用レーザーLを照射し、透過光又は反射光を得ることが可能に構成されたものであれば特に限定されず用いることができる。また、温度指標粒子1に対する測定用レーザーLの照射によって得られる透過光の透過偏光角や、透過光(又は反射光)の透過率(又は反射率)の測定は、公知の装置及び測定原理によって行うことが可能である。
【0039】
本発明に係る温度制御方法では、温度指標粒子1における上述のような反射偏光角や透過偏光角、透過率/反射率などの光学特性の変化を、測定用レーザーLにより検知し、これら光学特性と物質温度との相関関係に基づいて温度指標粒子1の温度を測定することによって、温度指標粒子1が含有される液体の温度の測定を行う。
【0040】
温度指標粒子1は、上述の構成の他、種々の磁性ビーズ、蛍光ビーズ、光学ビーズ、形状記憶合金ビーズを用いてもよく、その光学特性として磁化量や蛍光量、透過率、吸収率等を測定用レーザーLによって検知すれば、温度指標粒子1の温度、及び温度指標粒子1が含有される液体の温度の測定を行うことができる。
【0041】
温度指標粒子1は、流路C内に導入される液体に予め含有されていてもよく、流路C内への導入後の液体に投入される場合であってもよい。温度指標粒子1は、液体中に含有され間歇的に流路C内を送流されるものであり、液体中における濃度(粒子数)は適宜設定される(なお、図1(A)では、模式的に3つの温度指標粒子1が等間隔に送流された状態を示している)。
【0042】
以上、説明したように、本発明に係る温度制御方法では、流路C内を間歇的に送流される温度指標粒子1に対し、測定用レーザーLを照射し、その光学特性を検知することで、液体温度の測定することができる。
【0043】
次に、温度制御粒子2について説明する。
【0044】
温度制御粒子2は、熱源としての加熱用レーザーLの照射によって蓄熱され得る微小粒子である。温度制御粒子2は、照射される加熱用レーザーLから光エネルギーの供給を受けて蓄熱され、蓄熱した熱エネルギーにより流路C内の液体を加温する。
【0045】
加熱用レーザーLの光源には、例えば、アルゴンやヘリウム等のガスレーザーや半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)等公知の光源が適宜選択して用いることができる。
【0046】
温度制御粒子2は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)により形成したマイクロビーズの表面に、加熱用レーザーLに対する吸光性に優れ、融点が高く熱により容易に変質もしくは変形しないような蓄熱材料を成膜、塗布、噴霧、溶着、内包またはスポットすることにより得ることができる。具体的には、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属や、これらをベースとする合金、例えば、ステンレス、炭素鋼、黄銅、白銅、アルミニウム合金、さらにはアルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、炭化珪素をはじめとするセラミックス等が好適に用いられる。また、これらを光透過性マイクロビーズの内部に充填又は含有させることにより温度制御粒子2を形成することもできる。この他、温度制御粒子2は、加熱用レーザーLを吸光し、蓄熱され得るよう構成されたものであれば特に限定されず用いることができる。温度制御粒子2の最表層面には、腐食防止や反応防止のための処理を行ってもよく、例えば、テフロン(登録商標)などの有機膜や、各種酸化膜などの無機膜を形成することができる。
【0047】
温度制御粒子2は、流路C内に導入される液体に予め含有されていてもよく、流路C内への導入後の液体に投入される場合であってもよい。温度制御粒子2は、液体中に含有され間歇的に流路C内を送流されるものであり、液体中における濃度(粒子数)は適宜設定される(なお、図1(A)では、模式的に3つの温度制御粒子2が等間隔に送流された状態を示している)。
【0048】
本発明に係る温度制御方法においては、先に説明した温度指標粒子1に基づいて得られた流路C内の液体温度の測定結果に基づいて、温度制御粒子2に対し加熱用レーザーLを照射して液体の加温を行う。
【0049】
これまで、温度指標粒子1と温度制御粒子2を別個に構成する場合について説明したが、両者の機能を同一の粒子に付すことも可能である。この場合、図4の粒子断面模式図に示すように、温度指標粒子1に用いた磁性材料又は相変化材料などの温度測定用材料と、温度制御粒子2に用いた蓄熱材料と、を同一の粒子に修飾する。図4(A)は、符号111で示す温度測定用材料を粒子の表面に成膜し、符号121で示す蓄熱材料を粒子内部に含有させ構成した例を示している。また、図4(B)には、逆に、蓄熱材料121を粒子の表面に成膜し、温度測定用材料111を粒子の内部に含有させた例を示す。これらの態様において、粒子は、温度測定用材料111及び蓄熱材料121に光を照射するための光透過性を有していることが必要であり、測定用レーザーL及び加熱用レーザーLには、温度測定用材料111及び蓄熱材料121の光透過性を考慮して異なった波長のレーザーが用いられる。
【0050】
以下、具体的な装置の構成を示しながら、本発明に係る温度制御方法について説明する。
【0051】
図5に、本発明に係る温度制御方法のためのシステム(装置)の構成を示す。
【0052】
このシステムは、測定用レーザーLの光源31と、測定用レーザーLを基板33上に配設された流路Cの所定位置に集光し、温度指標粒子1に照射するためのコリメータレンズ311とダイクロイックミラー312及び対物レンズ313を備えている。また、加熱用レーザーLは、光源32から出射され、コリメータレンズ321と対物レンズ323により、流路Cの所定位置に集光され、温度制御粒子2に照射されるよう構成されている。なお、図では、流路Cに対する加熱用レーザーLの照射位置を、測定用レーザーLの照射位置に対して、流路Cの送液方向(図中矢印F参照)下流に示したが、加熱用レーザーLの照射位置が上流にある場合であってもよい。また、図1(B)において説明したように、測定用レーザーL及び加熱用レーザーLを同一の光学系により構成することもでき、これにより装置の小型化、省電力化を図ることが可能となる。
【0053】
測定用レーザーLの照射により温度指標粒子1から生じる反射光は、ダイクロイックミラー312と偏光板314を経て、検出器32に導光され検出される。検出器34は、検出された反射光を増幅して電気信号へと変換し、解析部35へ出力する。
【0054】
温度指標粒子1の透過光を検出する場合には、検出器34は、測定用レーザーLの照射方向に対し、基板33の反対側に設けられる必要がある。この場合、基板33は、測定用レーザーLを透過可能な材質により形成される(基板33の材質については後述する)。
【0055】
解析部35は、検出器34から入力される電気信号に基づいて温度指標粒子1の光学特性を解析し、温度指標粒子1の温度と光学特性との相関関係に基づいて、温度指標粒子1の温度、すなわち流路C内の液体温度を算出する。さらに、解析部35は、得られた液体温度の算出結果を、加熱用レーザーLの光源32のレーザー出力を制御するための制御部36に対し出力する。
【0056】
そして、制御部36は、解析部35から入力される算出結果に基づいて光源32のレーザー出力の制御を行うことにより、温度制御粒子2に対する光エネルギーの供給量を変化させる。これにより、温度制御粒子2に蓄熱される熱エネルギーが調整され、流路C内の液体が予め設定された温度にまで加温される。なお、流路C内の液体温度の測定結果が、設定温度以上である場合には、温制御部36は光源32からのレーザー出力を0、ないしは0に近い低レベルに制御する。
【0057】
以上のように、本発明に係る温度制御方法によれば、流路内の液体温度の制御を、温度指標粒子1と温度制御粒子2とにより、液相に対し非接触的に、かつ、反応速度に優れる光学的機序により行うことが可能であるため、流路内の液体の温度を極めて高精度に制御することが可能となる。
【0058】
本発明に係る温度制御方法において、液体温度の測定は、流路の液体に臨む面に、温度依存的に光学特性が変化し得る温度指標部を形成し、その光学特性に基づいて測定を行うよう構成することもできる。
【0059】
図6は、本発明に係る温度制御方法の第二実施形態を説明するための模式図である。
【0060】
図中、符号4で示される温度指標部は、流路Cの液体に望む面に形成され、上述の温度指標粒子1と同様に、温度依存的にその光学特性が変化し、その光学特性の検知によって、流路C内の液体温度を測定し得ることを特徴とする。
【0061】
温度依存的な光学特性の変化としては、例えば、先に説明した磁気カー効果による反射偏光角の変化や磁気ファラデー効果による透過偏光角の変化、相変化による透過率及び反射率の変化などであってよい。
【0062】
温度指標部4の光学特性として、磁気カー効果による反射偏光角を測定する場合には、例えば、磁性鉄や磁性コバルト、磁性ニッケル等の磁性金属(または磁性合金)を流路Cの表面に成膜、塗布、噴霧、溶着する。光学特性として磁気ファラデー効果による透過偏光角を測定する場合には、磁性材料の成膜等により、また、相変化による透過率/反射率を測定する場合には、相変化材料の成膜等により、温度指標部4を形成する。磁性金属、磁性材料及び相変化材料は、流路C内の液体温度をその光学特性に反映できる限りにおいて、流路Cの表面に限らず、流路壁面内部に含有させることも可能である。温度指標部4の最表層面には、腐食防止や反応防止のための処理を行ってもよく、例えば、テフロン(登録商標)などの有機膜や、各種酸化膜などの無機膜を形成することができる。
【0063】
この他、温度指標部4は、種々の光学的反射膜、光学的干渉膜、光学的磁気膜として形成することができ、その光学特性として屈折率、透過率、吸収率、偏光角等を測定し、その温度、及び流路C内の液体の温度の測定を行うことができれば特に限定されない。
【0064】
温度指標部4の光学特性の測定は、温度指標粒子1と同様の装置及び測定原理によって行うことが可能であり、その光学特性に基づいて得られた流路C内の液体温度の測定結果に基づいて、温度制御粒子2に対し加熱用レーザーLを照射することによって、液体の加温を行うことができる。
【0065】
続いて、流路内に複数の層流として送液される液体の温度制御方法について説明する。
【0066】
図7は、本発明に係る温度制御方法の第三実施形態を説明するための模式図である。
【0067】
図7(A)は、基板33上に配設された流路Cの断面模式図であり、送流方向に直交する面での断面を示す(図5中、P−P断面に対応)。図中、符号311は基板33の基板本体部、符号332は蓋部を示す。図7(B)及び(C)は、(A)中、Q−Q断面に対応する流路Cの水平断面図である。通常、基板本体331は、通常、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)であって測定用レーザーLを透過可能であり、測定用レーザーLに対して波長分散が少なく光学誤差の少ない材質を用いて形成される。また、蓋部332は、同材質のカバーシールとして、流路Cを形成した基板上にシールされる。なお、流路Cは、基板33をガラス製とする場合には、ウェットエッチングやドライエッチングによる転写で、またプラスチック製とする場合には、ナノインプリントや成形によって、基板上に形成される。
【0068】
図7では、流路C内において、一の液体層流の周囲を囲むようにして、他の液体層流を形成し、送液する場合を例示した。各層流は、図(B)及び(C)中左から右へ矢印F方向に送液されるものとする。なお、流路C内に形成される層流は複数であってよく、各層流が流路C内に占める位置も図に示した位置関係に限定されない。
【0069】
図7中、流路Cの中心部を送液される層流(以下、「層流A」という)中に含有される温度指標粒子を符号11(図(B)中、黒色の六角形参照)で、周囲を囲む層流(以下、「層流B」という)に含有される温度指標粒子を符号12(図中、黒色の円形参照)で示す。また、層流A中に含有される温度制御粒子を符号21(図中、白色の六角形参照)で、層流Bに含有される温度制御粒子を符号22(図中、白色の円形参照)で示す。
【0070】
温度指標粒子11と温度指標粒子12には、例えば、温度指標粒子11として、表面に磁性金属が成膜され、磁気カー効果による反射偏光角の変化を測定可能とされたマイクロビーズを用い、温度指標粒子12には、磁性材料を含み、磁気ファラデー効果による透過偏光角の変化を測定可能とされた光透過性マイクロビーズというように、互いに異なる光学特性を測定可能なマイクロビーズを用いることができる。
【0071】
この場合、温度指標粒子11から生じる反射光の温度依存的な光学特性(反射偏光角)の変化は、図2で示される。一方、温度指標粒子12については、その透過光が、図3(A)で示される温度依存的な光学特性(透過偏光角)の変化を示すこととなる。
【0072】
測定用レーザーLは、例えば図7(B)に示すように、グレーティングなどによって分割され、層流A及び層流Bに対応する位置に、それぞれの層流幅に応じた大きさのレーザースポットとして分割照射される。これにより、反射光の光学特性変化(反射偏光角)からは温度指標粒子11の温度を、透過光の光学特性変化(透過偏光角)からは温度指標粒子12の温度を求めることができる。従って、温度指標粒子11の温度から層流Aの液体温度を、温度指標粒子12の温度から層流Bの液体温度を、個別に測定することが可能となる。
【0073】
また、測定用レーザーLの照射は、図7(C)に示すように、レーザースポットの大きさを層流A及び層流Bの層流幅に対応させ、ガルバノミラーなどによって流路Cに直交する方向(図中矢印R参照)に走査させることにより行うこともできる。これにより、層流A中の温度指標粒子11及び層流B中の温度指標粒子12の光学特性をそれぞれ測定し、層流A及び層流Bの温度を個別に測定することができる。
【0074】
また、上記の例では、温度指標粒子11と温度指標粒子12に、互いに異なる光学特性(磁気カー効果による反射偏光角、と、磁気ファラデー効果による透過偏光角)を示すマイクロビーズを用いる例を説明したが、温度指標粒子11と温度指標粒子12には、一の光学特性(例えば、磁気カー効果による反射偏光角)において異なる温度特性を示すマイクロビーズを用いてもよい。
【0075】
図8に、磁気カー効果による反射偏光角において、異なる温度特性を示す温度指標粒子11と温度指標粒子12について、その温度と、磁気カー効果による反射光の偏光角度(反射偏光角)と、の関係を模式的に示す。図中、横軸は温度、縦軸は偏光角度、符号T1はキュリー温度を示す。
【0076】
図中、実線は、例えば、温度指標粒子11における温度と反射偏光角の相関関係を、点線は、例えば、温度指標粒子12における温度と反射偏光角の相関関係を表す。
【0077】
このように、一の光学特性において異なる温度特性を示すマイクロビーズを用いても、図7(B)又は(C)に示したように測定用レーザーLを照射することにより、層流A及び層流Bの液体温度を個別に検出することが可能である。なお、この場合、測定用レーザーLはパルス状の照射を行うことができる。
【0078】
そして、図5において説明したように、温度指標粒子11及び12に基づいて得られた層流A及び層流Bの液体温度の測定結果に基づいて、温度制御粒子21及び22に対し照射される加熱用レーザーLのレーザー出力を制御することにより、層流A及び層流Bの液体温度を独立して制御することが可能となる。加熱用レーザーLについても、測定用レーザーLと同様に分割又は走査により照射することができ(図7(B)及び(C)参照)、またパルス状の照射を行うことができる。
【0079】
以上のように、本発明に係る温度制御方法では、複数の層流にそれぞれ異なった光学特性若しくは同一の光学特性において異なった温度特性を示す温度指標粒子と、温度制御粒子と、を含有させることにより、各層流の温度を個別に検出し、独立して温度制御を行うことが可能である。
【0080】
先に説明したように、化学的及び生物学的反応における複雑な試料処理や多段階反応、分離処理等の工程では、流路内に複数の液体を層流として送液することが必要となる場合がある。
【0081】
特に、微小粒子測定技術においては、細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の分散液を、フローセル(流路)内に形成したシース液(溶媒)の層流の中心部に導入し、分散液の層流をシース液層流(シース流)で囲むようにして送流することが行われている。
【0082】
これは、微小粒子を流路中心部に送流することにより、光を精度良く微小粒子に照射して、光学測定精度を高めることを主な目的としている。通常、微小粒子測定装置では、流路中央に光を集光して、流路内を送流される微小粒子の光学測定を行っているため、微小粒子の送流位置が流路中心部からずれて変位した場合には、微小粒子に対し精度良く光を照射することができず、測定精度の低下を生じる要因となるためである。
【0083】
しかし、この場合においても、測定の都度、蛍光色素を含有するマイクロビーズなどの標準物質を用いて、予め流路に対する光の照射位置を補正すること(キャリブレーション)が必要とされていた。
【0084】
これは、溶媒層流の中心部に分散液層流を形成する上記方法によっても、溶媒や分散液の温度変化などの要因により、常に微小粒子の送流位置が流路中心部に位置されない場合があるためである。
【0085】
流路内を通流する液体は、流路の中心部で最も送流速度が速く、流路壁面の近傍ほど送流速度が遅くなるため、流路中心部の分散液層流の層流速度と壁面近傍の溶媒層流の送流速度には送流速度に差が生じている。そして、溶媒層流と分散液送流がそれぞれ流路内に占める割合(層流の厚み)は、この送流速度差によって規定されている。
【0086】
しかし、溶媒や分散液の温度が変化すると、溶媒層流及び分散液層流の粘度係数が変化し、それぞれの送流速度に変化が生じる。溶媒や分散液の温度がランダムに変化すると、溶媒層流及び分散液層流が流路内に占める割合(層流の厚み)も不規則に変化し、これにより分散液層流の送流位置にずれが生じる場合がある。
【0087】
従来、上記のような溶媒及び分散液の温度変化による分散液の送流位置の変位を防止し、測定誤差を解消するためには、溶媒及び分散液の供給タンクを所定温度(例えば、4℃)に制御することで、一定温度の溶媒層流及び分散液層流を送液することで解決が図られていた。
【0088】
しかしながら、この方法では、供給タンクから流路内へ導入した後の溶媒及び分散液の温度変化や、流路内壁への夾雑物の付着等の他の要因で、測定中に分散液層流の送流位置のずれが生じた場合に、柔軟かつ迅速に対応することができず、正確な測定結果が得られないおそれがあった。
【0089】
本発明に係る温度制御方法では、複数の層流にそれぞれ異なった光学特性を示す温度指標粒子と、温度制御粒子と、を含有させることにより、各層流の温度を個別に検出し、独立して温度制御を行うことが可能であるため、測定中に上記のような要因で分散液層流の送流位置のずれが生じた場合にも、各層流の温度制御を介して、それぞれの粘度係数及び送流速度を制御することにより、溶媒層流又は/及び分散液送流が流路内に占める割合(層流の厚み)を柔軟に修正し、送流位置のずれを解消することが可能である。
【0090】
これにより、特に、微小粒子測定技術においては高い測定精度を得ることが可能となる他、流路内に複数の液体を層流として送液し、複雑な試料処理や多段階反応、分離処理等を行なう化学的及び生物学的反応において、各層流の送流位置や流路内に占める割合(層流の厚み)を高精度に制御して、正確な測定結果を得ることが可能となる。
【0091】
さらに、本発明に係る温度制御方法の他の実施形態について説明する。
【0092】
図9は、本発明に係る温度制御方法の第四実施形態を説明するための模式図である。
【0093】
図は、反応緩衝液(図中、斜線で示す)が通流する流路C内に気体あるいは分離液を導入し、該気体あるいは分離液によって分断された状態で送液される反応緩衝液内に、複数の物質を注入し、これら物質の反応を検出するための方法を示している。一つの流路C内で、分断された各液体中において複数の反応を分析し得るため、化学的及び生物学的反応分析のハイスループット化に寄与するものである。以下、この反応分析方法について具体的に説明する。
【0094】
流路C内に導入される反応緩衝液(以下、単に「液体」ともいう)は、図中左から右へ矢印F方向に送流されるものとする。液体中には、温度指標粒子1と温度制御粒子2が所定濃度で含有され、流路C内を間歇的に送流されている。
【0095】
図9中、符号51は、流路C内に気体あるいは分離液を導入するための導入部を示す。導入部51は、その一端において流路Cに連通し、他端から図示しない加圧ポンプにより供給される気体あるいは分離液を流路C内に導入する。以下、導入部51が流路Cに連通する部分を「接続部C12」といい、流路Cの接続部C12上流を「導入路C」、接続部C12下流を「送液路C」というものとする。
【0096】
導入部51からは、所定のタイミングで接続部C12に気体あるいは分離液が導入され、導入路Cから送流される液体を気体あるいは分離液によって分断して送液路Cに送流する。ここで、「気体」という用語は、狭義に解釈されるべきでなく、空気や、窒素、等のガスなどを広く包含し得るものとする。また、「分離液」とは、反応緩衝液に対して、化学的及び物理的に混合や反応を起こすことがない液体を意味し、例えば、水に対する油のような液体を指すものとする。
【0097】
なお、図9では、導入部51を1つ設けた場合を示したが、接続部C12において連通させる導入部51は二以上とすることができる。例えば、接続部C12の両側(図8中上下)に導入部51,51を設け、流路Cの両方向(図9中上下方向)から接続部C12に気体あるいは分離液を導入してもよい。
【0098】
導入した気体によって、流路C内において液体を完全に分断させるため、流路Cは撥水性の材質を用いて形成されることが好ましい。また、流路Cの内壁表面に撥水加工を行ってもよい。撥水加工は、通常使用されるシリコン樹脂系撥水剤やフッ素樹脂系撥水剤などの塗布や、アクリルシリコーン撥水膜やフッ素撥水膜などの成膜による表面処理の他、流路表面に微細構造を形成することによって撥水性を付与することもできる。
【0099】
図9中、符号52,53は、送液路Cにおいて分断された液体中に所定の物質を注入するための注入部を示す。図では、注入部52から物質Sを、注入部32から物質Sを注入し、反応検出部54において物質Sと物質Sとの反応を検出する場合を示した。
【0100】
注入部52,53は、送液路Cに複数配設することができ、分断された液体に、全ての注入部から又はいずれかの注入部から選択的に物質を注入する。また、各注入部からは、複数の物質を同時に注入してもよく、複数の物質から一以上の物質を選択的に注入してもよい。
【0101】
一例として、注入部52から注入される単一の物質Sと反応し得る物質をスクリーニングする目的では、注入部53から物質Sとして複数の候補物質を1つずつ、分断された各反応緩衝液中に順次注入し、反応検出部54において各反応緩衝液内における反応の有無を検出する。その他、予め所定の物質を含有させた反応緩衝液を流路C内に導入すれば、該物質と一次反応し得る候補物質を注入部52から、一次反応生成物と反応し得る二次反応候補物質を注入部53から注入し、二段階のスクリーニングを行うことも可能である。
【0102】
また、PCRへの応用も可能である。例えば、予め増幅対象とする鋳型DNAと塩、ヌクレオチド(dTNPs)等を含有させた反応溶液を流路C内に導入し、注入部52及び注入部53からそれぞれフォワード及びリバースプライマーを複数の組み合わせで注入し、反応検出部54において各反応溶液内における反応の有無を検出すれば、鋳型DNAを効率的に増幅し得るプライマーセットを見出すことができる。
【0103】
反応検出部54は、一組の微小電極として送液路111の両側に配設され、電極間に交流電圧を印加して、電極間に流れるインピーダンスの変化により、物質Sと物質Sとの反応を検出する。また、検出部2は、例えば、光学的に反応検出を行う構成であってもよく、公知の光学検出系により構成することができる。この場合、検出部54として、レーザー光源と、光源からのレーザー光を送液路Cの所定の部位に集光・照射するための光学経路とを設け、レーザー光の照射によって送液路C内から発生する光を同一又は他の光学経路により検出器に導光・検出することにより反応の検出を行う。この際、検出を行う光は、レーザー光の照射により発生する散乱光や蛍光などであってよい。
【0104】
導入路Cに導入される液体中には、温度指標粒子1と温度制御粒子2が含有されており、導入部51から導入される気体により分断された液体中にも、温度指標粒子1と温度制御粒子2が所定濃度で含まれている。
【0105】
図9では、この分断された液体中に含まれる温度指標粒子1に対し、注入部53からの物質Sと同時に、測定用レーザーLを照射し、分断された液体(物質S及びSを含む)の温度を測定できるよう構成した場合を示した。
【0106】
そして、温度指標粒子1の光学特性に基づいて得られた液体温度に応じて、注入部53のすぐ下流において温度制御粒子2に対し照射される加熱用レーザーLのレーザー出力を制御することによって、分断された各液体の温度の制御を行う。
【0107】
これにより、分断された液体の温度を物質Sと物質Sの最適反応温度に制御することができため、例えば、上記のPCRの例においては、注入部52及び注入部53から注入されるフォワード及びリバースプライマーに応じた適切な反応温度に液体を保持することが可能となる。
【0108】
また、分断された液体について、それぞれの温度を一定の温度範囲内から段階的に変化させて制御することにより、例えば、注入部52から注入される物質Sと反応し得る物質をスクリーニングする目的では、注入部53から物質Sを注入する場合において、物質Sと物質Sが反応し得る最適反応温度を検討することも可能となる。
【0109】
このように、本発明に係る温度制御方法を用いれば、例えば、流路内を通流する液体を分断し、分断された液体に種々の物質を注入することにより、一つの流路内で複数の化学反応を同時に分析するような上記の反応分析方法のように、流路内において各種の化学的及び生物学的反応を行なう場合において、反応温度の制御や最適温度の検討を容易に行うことが可能となり、分析の一層の精度向上及びハイスループット化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係る温度制御方法の第一実施形態を説明するための模式図である。
【図2】磁性物質の温度と、磁気カー効果による反射光の偏光角度(反射偏光角)と、の関係を示す模式図である。横軸は温度、縦軸は偏光角度、符号T1はキュリー温度を示す。
【図3】物質の温度と磁気ファラデー効果による透過偏光角の関係(A)、物質の温度と相変化による透過率及び反射率の関係(B)を示す模式図である。(A)中、横軸は温度、縦軸は透過偏光角、符号T1はキュリー温度を示す。(B)中、横軸は温度、縦軸は透過率又は反射率、符号Tは相変化温度を示す。
【図4】温度指標粒子1と温度制御粒子2を同一の粒子として構成した場合の該粒子の断面模式図を示す図である。
【図5】本発明に係る温度制御方法のためのシステム(装置)の構成を示す模式図である。
【図6】本発明に係る温度制御方法の第二実施形態を説明するための模式図である。
【図7】本発明に係る温度制御方法の第三実施形態を説明するための模式図である。
【図8】磁気カー効果による反射偏光角において、異なる特性を示す温度指標粒子11と温度指標粒子12の磁性物質の温度と、磁気カー効果による反射光の偏光角度(反射偏光角)と、の関係を示す模式図である。横軸は温度、縦軸は偏光角度、符号T1はキュリー温度を示す。
【図9】本発明に係る温度制御方法の第四実施形態を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0111】
A,B 層流
C 流路
測定用レーザー
加熱用レーザー
1,11,12 温度指標粒子
111 温度測定用材料
121 蓄熱材料
2,21,22 温度制御粒子
33 基板
34 検出器
35 解析部
36 制御部
4 温度指標部
51 導入部
52,53 注入部
54 反応検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内を通流する液体中に、温度に依存して光学特性が変化する温度指標粒子を含有させておき、
前記温度指標粒子に光を照射して前記光学特性を測定し、
得られた測定値に基づいて前記液体の温度を算出する温度制御方法。
【請求項2】
前記液体中に、光の照射によって蓄熱される温度制御粒子を含有させておき、
前記蓄熱を利用して前記液体を加温することを特徴とする請求項1記載の温度制御方法。
【請求項3】
前記流路内に複数の層流として導入された前記液体の各層流に含有される前記温度指標粒子について、前記光学特性を測定することにより、各層流の温度を算出することを特徴とする請求項2記載の温度制御方法。
【請求項4】
前記層流に含有される前記温度制御粒子に対し光を照射することにより、各層流を加温することを特徴とする請求項3記載の温度制御方法。
【請求項5】
流路内における微小粒子の光学測定方法において、
前記流路内に導入された、前記微小粒子を含む分散液層流と、溶媒層流と、の温度を、請求項4に記載の温度制御方法により制御することを特徴とする微小粒子測定方法。


【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−128024(P2009−128024A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300085(P2007−300085)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】