説明

流路切換装置

【課題】高圧流体の流路をスムーズに切り換えできる流路切換装置を提供する。
【解決手段】海水淡水化プラントの動力回収装置に組み込まれた5ポート切換弁70は、4つの隔壁74a、74b、74c、74dによって区画された5つのチャンバ71a、71b、71c、71d、71eを有するシリンダ71、および2つのアクチュエータ72、73を有する。一方のアクチュエータ72の弁体76は、隔壁74aの孔75aと隔壁74bの孔75bを交互に開閉し、もう一方のアクチュエータ73の弁体76は、隔壁74cの孔75cと隔壁74dの孔75dを交互に開閉する。これにより、ポート70cを介して中央のチャンバ71cに送り込まれた高濃度塩水が、ポート70bおよびポート70dを介して、2つの圧力変換部へ交互に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、水や油などの流体の流路を切り換える流路切換装置に係り、特に、海水を淡水に変える海水淡水化装置の動力回収装置に組み込まれた、高圧流体の流路を切り換えるための流路切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高圧流体の流路を切り換える流路切換装置として、例えば、下記特許文献1に開示された逆浸透膜濃縮装置に組み込まれた切換弁が知られている。この逆浸透膜濃縮装置は、例えば、海水を逆浸透膜に透過させて淡水化する装置として利用される。
【0003】
特許文献1に開示された切換弁は、複動ポンプで加圧された被濃縮液によって図1の位置に切り換えられる。ここで、被濃縮液は、例えば海水である。加圧された被濃縮液は、切り換えられた切換弁を通って、逆浸透膜槽へ送り込まれる。このとき、逆浸透膜を透過しなかった比較的高い圧力の非透過液が、切換弁を介して複動ポンプのヘッド側シリンダ室へ戻されて、被濃縮液の加圧エネルギーとして利用される。
【0004】
複動ポンプのピストンがキャップ側シリンダ室の終端壁まで移動すると、今度は、複動ポンプが逆転動作されてピストンが後退される(図2、矢印B)。これにより、被濃縮液タンクから新たな被濃縮液がキャップ側シリンダ室へ送り込まれるとともに、加圧に利用された非透過液が切換弁を介してヘッド側シリンダ室から排出される。
【0005】
切換弁は、弁室の内周壁面に沿って摺動するスプールを有する。スプールの周面は、移動の途中で流路を塞ぐ弁体として機能する。また、スプールの周面上には、流路をつないで開通させるための円周溝が形成されている。つまり、この切換弁は、複動ポンプで加圧される被濃縮液の圧力変化に応じてスプールを移動させて、被濃縮液の流路を開閉制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−52025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に開示された切換弁では、スプールを弁室の内周壁面に沿って摺動させることで流路を開閉させるため、海水淡水化プラントのように極めて高い圧力の流体を取り扱う場合には、流路を完全に閉じることが難しい。つまり、この切換弁を海水淡水化プラントに用いた場合には、海水が漏れる可能性が高い。このため、特許文献1の切換弁は、海水の漏れを防止するOリングをスプールの周面上に設けている。
【0008】
また、特許文献1の切換弁は、スプールを1往復させる間に被濃縮液の供給および排出を行うため、被濃縮液を逆浸透膜槽へ間欠的に供給することになり、装置の稼働率が低くなる。このため、1つの逆浸透膜槽に対して2組の装置を接続して交互に動作させる方法も考えられるが、その分、装置が大型化するとともに設備費が増大してしまう。
【0009】
さらに、特許文献1の切換弁は、スプールを移動させて複数の流路を同時に開閉制御するため、複数の流路の開閉タイミングをずらすことができない。このため、各流路を通る被濃縮液の圧力差などに応じて流路の切り換えタイミングを微調整することができず、流路の切り換えをスムーズにできない。
【0010】
この発明の目的は、高圧流体の流路をスムーズに切り換えできる流路切換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の流路切換装置は、高圧流体が流入する流入ポートと、この流入ポートを介して流入した高圧流体を受ける高圧チャンバと、この高圧チャンバの壁に設けられた第1および第2孔と、上記第1孔を介して上記高圧チャンバから流出した高圧流体を供給する第1供給ポートと、上記第2孔を介して上記高圧チャンバから流出した高圧流体を供給する第2供給ポートと、上記第1および第2孔をそれぞれ独立して開閉する第1および第2の弁体と、これら第1および第2の弁体をそれぞれ独立して駆動して、上記第1および第2ポートを介して高圧流体を交互に供給する第1および第2アクチュエータと、を有する。
【0012】
上記発明によると、高圧チャンバの第1および第2孔をそれぞれ第1および第2の弁体によって交互に開閉するよう第1および第2アクチュエータを独立して動作させるようにしたため、高圧流体の圧力損失を防止でき、ウォーターハンマーを防止でき、高圧流体の流路の切り換えをスムーズにできる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の流路切換装置は、上記のような構成および作用を有しているので、高圧流体の流路をスムーズに切り換えできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の実施の形態に係る海水淡水化プラントを示す概略ブロック図である。
【図2】図2は、図1の海水淡水化プラントに組み込まれた動力回収装置の内部構造を示す概略ブロック図である。
【図3】図3は、図2の動力回収装置に組み込まれた5ポート切換弁を示す断面図である。
【図4】図4は、図3の5ポート切換弁を切り換えた状態を示す断面図である。
【図5】図5は、図4に示す状態に5ポート切換弁を切り換えたときの動力回収装置の動作を説明するための概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1には、海水を淡水に変える海水淡水化プラント100の概略ブロック図を示してある。この海水淡水化プラント100は、汲み上げた海水を、前処理系10で薬品処理して、送水ポンプP1により保安フィルタ20へ送る(Q1)。保安フィルタ20を通過した海水は、一方が高圧ポンプP2へ供給され(Q2)、他方が動力回収装置30へ供給される(Q5)。このとき、保安フィルタ20から送り出された海水の圧力P3は、0.2MPa程度とする。
【0016】
高圧ポンプP2は、保安フィルタ20から供給された海水を昇圧し、高圧RO膜(逆浸透膜)40へ送り込む。高圧ポンプP2で昇圧した後の海水の圧力P4は、高圧RO膜40の種類によって適正値が異なるが、本実施の形態では、この圧力P4を6.0MPaにした。
【0017】
高圧RO膜40は、高圧ポンプP2で昇圧されて送り込まれた海水をろ過する。高圧RO膜40の回収率が40%である場合、高圧RO膜40からは、流入した海水の流量の40%の流量の淡水と、60%の流量の高濃度塩水とが排出されることになる。このとき、高圧RO膜40を通過した淡水の圧力は、0.2MPa程度(=P3)まで低下するが、高濃度塩水の圧力P6は5.8MPa程度である。
【0018】
そして、高圧RO膜40で濾過されて排出された淡水は、低圧ポンプP4へ供給され(Q淡水)、濾過されなかった高濃度塩水はその水圧を維持したまま動力回収装置30へ供給される(Qブライン)。
【0019】
低圧ポンプP4は、高圧RO膜40から排出された淡水を再び加圧して低圧RO膜50へ供給する。低圧RO膜50を通過して濾過された淡水は、含有ホウ素が除去されるなどして浄水池60へ供給される。そして、浄水池60へ供給された淡水は、薬品処理された後、浄水として供給ポンプP5を介して利用者へ提供される。
【0020】
一方、低圧RO膜50で濾過されなかったものの高圧RO膜40を通過したほぼ淡水に近い水は、前処理系10へ戻されて、海水淡水化プラント100に再供給される。
【0021】
動力回収装置30は、後に詳述するように、高圧RO膜40から送り込まれた高濃度塩水の圧力を利用して、保安フィルタ20を介して送り込まれた海水を昇圧する。そして、この動力回収装置30で昇圧された海水は、昇圧ポンプP3へ供給されて(Qブライン)所望する圧力(=P4)までさらに昇圧される。
【0022】
このようにして所望する圧力に調整されて昇圧ポンプP3から送り出された海水は、高圧ポンプP2で昇圧された海水(Q2)と合流されて、高圧RO膜40へ供給される(Qin)。
【0023】
一方、動力回収装置30へ供給されて海水の昇圧に利用された後の高濃度塩水は、ほぼ大気圧まで減圧された状態で動力回収装置30から排出される。
【0024】
図2には、上述した動力回収装置30の内部構造を概略的に示してある。
動力回収装置30は、5ポート切換弁70、圧力変換部31、32、海水供給部34、および制御部36を有する。5ポート切換弁70は、本発明の流路切換装置として機能する。制御部36は、2つの圧力変換部31、32の動作状態をモニターして5ポート切換弁70を切換制御する。
【0025】
5ポート切換弁70は、図3に示すように、周壁を貫通した5つのポート70a、70b、70c、70d、70eを有する略円筒形のシリンダ71、およびこのシリンダ71の両端にそれぞれ固設された2つのアクチュエータ72、73を有する。
【0026】
図示上方の一方のアクチュエータ72は、この発明の第1アクチュエータとして機能し、図示下方のもう一方のアクチュエータ73は、この発明の第2アクチュエータとして機能する。アクチュエータ72、73は、これに限るものではなく、他の駆動機構に置き換えることができる。
【0027】
また、5つのポート70a、70b、70c、70d、70eは、図示の方向に限らず、シリンダ71の周面からいかなる方向に延設しても良い。なお、中央のポート70cは、この発明の流入ポートとして機能し、ポート70bは、この発明の第1供給ポートとして機能し、ポート70dは、この発明の第2供給ポートとして機能する。
【0028】
シリンダ71は、その軸方向に沿って分割された円筒形の5つのチャンバ71a、71b、71c、71d、71eを有する。各チャンバ71a、71b、71c、71d、71eには、それぞれ、上述したポート70a、70b、70c、70d、70eが連通している。互いに隣接するチャンバ間には、4つの円板状の隔壁74a、74b、74c、74dがそれぞれ設けられている。
【0029】
なお、中央のチャンバ71cは、この発明の高圧チャンバとして機能し、その両隣のチャンバ71b、71dは、それぞれ、この発明の第1および第2チャンバとして機能し、両端のチャンバ71a、71eは、それぞれ、この発明の第3および第4チャンバとして機能する。
【0030】
中央の2つの隔壁74b、74cの中央には、それぞれ、後述する弁体76によって開閉される円形の孔75b、75cが形成されている。また、外側の2つの隔壁74a、74dの中央にも、それぞれ、後述するピストンロッド72b、73bを挿通するとともに、弁体76によって開閉される円形の孔75a、75dが形成されている。
【0031】
なお、隔壁74bの孔75bは、この発明の第1孔として機能し、隔壁74cの孔75cは、この発明の第2孔として機能し、隔壁74aの孔75aは、この発明の第3孔として機能し、隔壁74dの孔75dは、この発明の第4孔として機能する。
【0032】
アクチュエータ72(73)は、シリンダ71の軸方向端壁に固定された略円筒形のピストンシリンダ72a(73a)、および上述した隔壁74a、74dの孔75a、75dに挿通されるピストンロッド72b(73b)を有する。ピストンロッド72b(73b)の先端には、上述したシリンダ71の4つの隔壁74a、74b、74c、74dの孔75a、75b、75c、75dを塞ぐ弁体76がそれぞれ設けられている。
【0033】
一方のアクチュエータ72の弁体76は、この発明の第1の弁体として機能し、チャンバ71b内に配置されている。もう一方のアクチュエータ73の弁体76は、この発明の第2の弁体として機能し、チャンバ71d内に配置されている。また、ピストンロッド72b(73b)の基端部には、ピストンシリンダ72a(73a)内で移動するピストン77がそれぞれ設けられている。
【0034】
アクチュエータ72(73)には、それぞれ図示しないポンプが接続されている。すなわち、ピストン77で区画されたピストンシリンダ72a(73a)の2つの圧力室78、79にエアーを交互に送り込んでピストン77を作動させ、ピストンロッド72b(73b)の先端に取り付けられた弁体76を軸方向に移動させる。アクチュエータ72(73)の駆動は、空気圧に限らず、油圧などを用いることができる。
【0035】
一方のアクチュエータ72を動作させると、シリンダ71のチャンバ71a、71b間の隔壁74aに設けられた孔75aと、チャンバ71b、71c間の隔壁74bに設けられた孔75bと、が弁体76によって交互に開閉される。また、他方のアクチュエータ73を動作させると、シリンダ71のチャンバ71c、71d間の隔壁74cに設けられた孔75cと、チャンバ71d、71e間の隔壁74dに設けられた孔75dと、が弁体76によって交互に開閉される。
【0036】
本実施の形態では、2つの弁体76は、独立して開閉可能となっている。また、各弁体76は、対応する隔壁74a、74b、74c、74dの孔75a、75b、75c、75dに対し、軸方向に移動することにより孔を開閉する、グローブバルブのように機能する。このため、本実施の形態のように、高圧の流体を取り扱う海水淡水化プラント100に適したバルブ構造である。
【0037】
シリンダ71の中央のチャンバ71cに連通したポート70cには、上述した高圧RO膜40から高濃度塩水が送り込まれる。また、中央のチャンバ71cの両隣の2つのチャンバ71b、71dに連通したポート71b、71dは、中央のチャンバ71cに送り込まれた高濃度塩水を、交互に、圧力変換部31、32へ送り込む。さらに、両端のチャンバ71a、71eに連通したポート70a、70eは、図示しない合流部で合流されて、圧力変換部31、32から減圧されて送り出された高濃度塩水を排水する。
【0038】
圧力変換部31(32)は、シリンダ31a(32a)の内部空間を軸方向に区画するピストン31b(32b)を有する。ピストン31b(32b)は、その両側の2つの圧力室31c(32c)、31d(32d)の圧力差を相殺するように軸方向に移動する。一方の圧力室31c(32c)は、上述した5ポート切換弁70のポート70b(70d)に接続されている。他方の圧力室31d(32d)は、後述する海水供給部34に接続されている。つまり、一方の圧力室31c(32c)には高濃度塩水が供給され、他方の圧力室31d(32d)には海水が供給される。言い換えると、圧力変換部31(32)内で海水と高濃度塩水が混ざることはない。
【0039】
海水供給部34は、直列に連結された4つの逆止弁34a、34b、34c、34dを有する。各逆止弁34a、34b、34c、34dは、その両端の圧力差に応じてそれぞれ独立して開閉する。言い換えると、これら4つの逆止弁34a、34b、34c、34dは、保安フィルタ20から送り込まれる海水を各圧力変換部31、32の圧力室31d、32dへ送り込むとともに、各圧力室31d、32dから送り出された海水を上述した昇圧ポンプP3へ送り出すよう動作する。
【0040】
制御部36は、2つの圧力変換部31、32の作動状態をモニターして、5ポート切換弁70の2つのアクチュエータ72、73を独立して動作制御する。
【0041】
以下、図2乃至図5を参照して、上述した構造の動力回収装置30の動作を上述した5ポート切換弁70の動作とともに説明する。
図3に矢印で示すように、高圧RO膜40から比較的高い圧力P6(=5.8MPa)で5ポート切換弁70へ送り込まれた高濃度塩水は、5ポート切換弁70の中央のポート70cを介して、中央のチャンバ71cに流入する。このとき、制御部36が、図3に示す状態に2つのアクチュエータ72、73を切り換えておくと、チャンバ71cに流入した高濃度塩水は、隔壁74bの孔75bを通って隣のチャンバ71bに流れ込み、ポート70bを介して一方の圧力変換部31の圧力室31cに流入する。
【0042】
以下の説明では、制御部36が図3に示す位置に2つの弁体76を移動させた状態を第1の状態と称する。つまり、第1の状態では、制御部36は、弁体76が隔壁74aの孔75aを塞ぐ位置に一方のアクチュエータ72を切り換え、弁体76が隔壁74cの孔75cを塞ぐ位置にもう一方のアクチュエータ73を切り換える。
【0043】
圧力変換部31の一方の圧力室31cに流入した高濃度塩水は、もう一方の圧力室31dとの間の圧力差によって、図2に矢印で示す方向にピストン31bを押し、圧力室31d内を満たしている海水を海水供給部34へ押し出す。このとき、圧力室31dから押し出される海水の圧力P8は、ピストン31bの摩擦により、ほんの少しだけ減圧されて、5.75MPa程度となる。
【0044】
一方、保安フィルタ20から海水供給部34へ送り込まれる海水の圧力P3は、上述したように、0.2MPa程度である。このため、上述したように5ポート切換弁70を切り換えた第1の状態では、圧力P3と圧力P8との間の圧力差によって、逆止弁34aは閉じる。
【0045】
また、このとき、逆止弁34b、34c間の圧力P11は、後述するように、圧力P8と略同じ圧力に維持されているため、逆止弁34bは開く。さらに、逆止弁34c、34d間の圧力P13は、後述するように、略大気圧に近い圧力であるため、逆止弁34cは、圧力P11と圧力P13との間の圧力差によって閉じる。
【0046】
つまり、圧力室31dから5.75MPa程度の圧力で押し出された高濃度塩水は、逆止弁34bを通って昇圧ポンプP3へ供給されることになる。そして、昇圧ポンプP3は、圧力室31dから送り込まれた高濃度塩水を僅かに昇圧(5.75MPa→6.0MPa)して高圧RO膜40へ供給する。つまり、動力回収装置30は、高圧RO膜40から排出された高濃度塩水の圧力エネルギーを、圧力変換部31を介して、海水の昇圧のためのエネルギーに変換したことになる。
【0047】
図3に戻って、上述した第1の状態では、もう一方のアクチュエータ73の弁体76は、隔壁74cの孔75を塞いでいる。言い換えると、第1の状態では、隔壁74dの孔75dが開き、チャンバ71d、71eが連通される。上述したように、第1の状態では、チャンバ71eは、ポート70eを介して概ね大気圧と等しい圧力にされているため、チャンバ71dも大気圧に開放される。そして、ポート70dを介してチャンバ71dに連通した圧力変換部32の圧力室32cも、大気圧に開放される。
【0048】
一方、保安フィルタ20から圧力P3で海水供給部34へ送り込まれる海水は、逆止弁34dを介して、圧力変換部32の圧力室32dへ供給される。このとき、圧力室32dの圧力が圧力室32cの圧力より僅かに高くなり、ピストン32bが図示矢印方向に移動され、圧力室32dも大気圧に近付く。同時に、圧力室32cを満たしていた高濃度塩水が、ピストン32bによって5ポート切換弁70へ押し出される。
【0049】
このとき、逆止弁34dは、圧力P3と圧力室32dの圧力との差によって開き、海水の流通を許可する。一方、逆止弁34a、34cは、上述したように、高濃度塩水の圧力によって閉じている。このため、保安フィルタ20から送り込まれた海水は、逆止弁34dを介して圧力室32dに流れることになる。
【0050】
以上のように、5ポート切換弁70の2つのアクチュエータ72、73を図3に示す位置に切り換えた第1の状態で、制御部36は、圧力変換部31のピストン31bの位置、および圧力変換部32のピストン32bの位置を監視し、各ピストン31b、32bが終点まで移動したことをトリガーとして、2つのアクチュエータ72、73をそれぞれ独立して切換制御する。
【0051】
基本的に、制御部36は、一方の圧力変換部31のピストン31bが高濃度塩水によって押圧されてチャンバ31dの容積が略ゼロになったタイミングで、アクチュエータ72を図4に示す位置に切り換える。これにより、隔壁74aの孔75aが開かれるとともに隔壁74bの孔75bが弁体76によって閉じられて、チャンバ71a、71bが連通される。
【0052】
また、制御部36は、もう一方の圧力変換部32のピストン32bが海水によって押圧されてチャンバ32cの容積が略ゼロになったタイミングで、アクチュエータ73を図4に示す位置に切り換える。これにより、隔壁74cの孔75cが開かれるとともに隔壁74dの孔75dが弁体76によって閉じられて、チャンバ71c、71dが連通される。以下の説明では、図4に示す位置に2つのアクチュエータ72、73を切り換えた状態を第2の状態と称する。
【0053】
しかしながら、本実施の形態の5ポート切換弁70は、2つのアクチュエータ72、73を独立して動作制御できるため、アクチュエータ72、73の切り換えタイミングは必ずしも一致させる必要はない。また、2つの圧力変換部31、32のピストン31b、32bに作用する圧力にも差があるため、2つのアクチュエータ72、73を同時に切り換えても、2つのピストン31b、32bが終点に到達するタイミングにもズレを生じることが予想される。
【0054】
例えば、2つのアクチュエータ72、73を図3の位置から図4の位置へ全く同時に切り換えると、2つの弁体76、76が移動を開始した直後の僅かな時間だけ、2つの弁体76がいずれの孔75a、75b、75c、75dも塞がない状態が出現し、中央のチャンバ71cの圧力が低下して、圧力損失となる。
【0055】
このような不具合を防止するため、図3の状態から一方のアクチュエータ72だけを先に切り換えて、中央のチャンバ71cを区画する一方の隔壁74bの孔75bを塞いだ後、もう一方のアクチュエータ73を切り換えて、中央のチャンバ71cを区画するもう一方の隔壁74cの孔75cを開く方法が考えられる。
【0056】
しかし、一方の弁体76が隔壁74bの孔75bを塞ぐとともに、もう一方の弁体76が隔壁74cの孔75cを塞ぐ状態が長く続くと、密閉された中央のチャンバ71c内の圧力が上昇し、孔75cを塞いでいる弁体76を図4の状態に開いた瞬間に、チャンバ71c内で高圧にされた高濃度塩水が急激に流出して、ウォーターハンマー現象を生じる可能性がある。
【0057】
また、例えば、図3に示す第1の状態では、連通された2つのチャンバ71b、71cが高圧にされているため、この状態から孔75cを塞いでいる弁体76を開くのは容易である反面、もう一方の弁体76を移動させて隔壁74aの孔75aを開くには比較的大きなトルクが必要となる。つまり、制御部36が、2つのアクチュエータ72、73を所望のタイミングで切り換えたとしても、2つの弁体76の動きには僅かな差が生じることが予想される。
【0058】
このため、本実施の形態では、このような2つの弁体76の動きの差を考慮しつつ、一方の弁体76が隔壁74bの孔75bを塞ぐのと略同時に、もう一方の弁体76が隔壁74cの孔75cを開くように、2つのアクチュエータ72、73の動作タイミングを設定した。これにより、上述した圧力損失を最小限に抑えることができ、ウォーターハンマー現象を防止することができ、5ポート切換弁70の切換動作をスムーズにできる。
【0059】
図4に戻って、制御部36が、上述した第2の状態に5ポート切換弁70を切り換えた後、中央のチャンバ71cを満たしていた高圧の高濃度塩水は、隔壁74cの孔75cを介してチャンバ71dに流れ、ポート70dを介してもう一方の圧力変換部32の圧力室32cに流入する。
【0060】
制御部36が5ポート切換弁70を第2の状態に切り換える前の状態(すなわち第1の状態)では、圧力変換部32の2つの圧力室32c、32dは、それぞれ、大気圧程度の低い圧力にされている。このため、圧力変換部32の一方の圧力室32cに高圧の高濃度塩水が流入すると、もう一方の圧力室32dとの間の圧力差によって、図5に矢印で示す方向にピストン32bが押圧される。
【0061】
これにより、圧力室32d内を満たしている海水の圧力が上昇されて海水供給部34へ押し出される。このとき、圧力室32dから押し出される海水の圧力P13は、ピストン32bの摩擦によってほんの少しだけ減圧され、5.75MPa程度となる。
【0062】
一方、保安フィルタ20から海水供給部34へ送り込まれる海水の圧力P3は、上述したように、0.2MPa程度である。このため、図4のように5ポート切換弁70を切り換えた第2の状態では、圧力P3と圧力P13との間の圧力差によって、逆止弁34dは閉じる。
【0063】
また、このとき、第2の状態に切り換える直前の圧力P11が高圧に略維持されているため、圧力P13と圧力P11は略同じ圧力なっていることから、逆止弁34cは開く。さらに、このとき、圧力P8は、後述するように、略大気圧に近い圧力にされるため、逆止弁34bは、圧力P11と圧力P8との間の圧力差によって閉じる。
【0064】
つまり、圧力室32dから5.75MPa程度の圧力で押し出された高濃度塩水は、逆止弁34cを通って昇圧ポンプP3へ供給されることになる。そして、昇圧ポンプP3は、圧力室32dから送り込まれた高濃度塩水を僅かに昇圧(5.75MPa→6.0MPa)して高圧RO膜40へ供給する。つまり、動力回収装置30は、高圧RO膜40から排出された高濃度塩水の圧力エネルギーを、圧力変換部32を介して、海水の昇圧のためのエネルギーに変換したことになる。
【0065】
一方、図4に示す第2の状態では、アクチュエータ72の弁体76が隔壁74bの孔75bを塞ぎ隔壁74aの孔75aを開いており、2つのチャンバ71a、71bが連通されている。また、この状態で、ポート70aが大気圧に開放されているため、連通された2つのチャンバ71a、71bが大気圧に開放されるとともに、圧力変換部31の一方の圧力室31cもポート70bを介して大気圧に開放される。
【0066】
また、5ポート切換弁70を第2の状態に切り換える前の第1の状態で、圧力変換部31のもう一方の圧力室31dは高圧にされている。このため、上述したように制御部36が5ポート切換弁70を第2の状態に切り換えて圧力室31cが大気圧に開放されると、圧力室31cと圧力室31dとの間の圧力差によって、ピストン31bが図5に矢印で示す方向に移動される。これにより、圧力室31d内の圧力も大気圧に近い圧力まで減圧され、圧力P8が大気圧程度まで減圧される。
【0067】
つまり、このとき、圧力P3と圧力P8との間の圧力差によって逆止弁34aが開き、保安フィルタ20から送り込まれる海水が、逆止弁34aを通って圧力変換部31の圧力室31dに流れ込むことになる。
【0068】
この後、制御部36は、2つの圧力変換部31、32のピストン31b、32bの位置を監視し、各ピストン31b、32bが終点まで移動したことをトリガーとして、2つのアクチュエータ72、73を上述したように僅かに差動させ、5ポート切換弁70を再び図3に示す第1の状態に切り換える。
【0069】
以上のように、動力回収装置30の制御部36は、以上の動作を繰り返して、5ポート切換弁70を上述した第1および第2の状態に交互に切り換え、高圧RO膜40から送り込まれる高濃度塩水の圧力を海水の昇圧に利用して、高圧RO膜40へ再供給する。本実施の形態の動力回収装置30は、上述した構造の5ポート切換弁70を上述したタイミングで動作させるため、大気圧の60倍程度の極めて高い圧力の高濃度塩水の流路をスムーズに切り換えでき、圧力損失が無く、ウォーターハンマー現象が生じる不具合も防止できる。
【0070】
これに対し、例えば、2つの弁体を一体化して1つのアクチュエータで駆動する場合を想定すると、2つの弁体76と各隔壁74a、74b、74c、74dの孔75a、75b、75c、75dとの間の寸法精度を高める必要があり、5ポート切換弁70の製造コストが増大する。
【0071】
ここで言う寸法精度が低くなると、弁体76と孔75a、75b、75c、75dとの間に隙間が形成されて、高濃度塩水が漏れて圧力損失につながる。特に、2つの弁体76、76を一体化した場合、一方の弁体76を孔に密着させた状態でもう一方の弁体76と孔との間に隙間ができてしまうことになり、高い寸法精度が要求される。また、2つの弁体76を一体にして駆動すると、2つの弁体76を差動させることができなくなり、上述したウォーターハンマーの問題を解消することができなくなる。
【0072】
つまり、上述した海水淡水化プラント100のように、極めて高い圧力の流体を取り扱う装置では、本実施の形態の5ポート切換弁70のように、高圧流体の流路を開閉する2つの弁体76をそれぞれ独立して駆動できる個別のアクチュエータ72、73を設けることが有効である。
【0073】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【0074】
例えば、上述した実施の形態では、海水淡水化プラント100の動力回収装置30に組み込まれた5ポート切換弁70に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、油など他の高圧流体の流路を切り換えるバルブとして本発明を適用しても良い。
【0075】
また、5ポート切換弁70の2つのアクチュエータ72、73を切り換える方法として、空圧式,水圧式,油圧式、ソレノイドコイルによる方法などが考えられる。特に、アクチュエータ72、73を切り換えるための動力となる水圧源として、高濃度塩水、送水ポンプP1から出た海水、或いは、高圧ポンプP2から出た高濃度塩水を用いてもよい。
【符号の説明】
【0076】
30…動力回収装置、31、32…圧力変換部、31b、32b…ピストン、31c、31d、32c、32d…圧力室、34…海水供給部、36…制御部、40…高圧RO膜、70…5ポート切換弁、71…シリンダ、70a、70b、70c、70d、70e…ポート、71a、71b、71c、71d、71e…チャンバ、72、73…アクチュエータ、74a、74b、74c、74d…隔壁、75a、75b、75c、75d…孔、76…弁体、100…海水淡水化プラント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧流体が流入する流入ポートと、
この流入ポートを介して流入した高圧流体を受ける高圧チャンバと、
この高圧チャンバの壁に設けられた第1および第2孔と、
上記第1孔を介して上記高圧チャンバから流出した高圧流体を供給する第1供給ポートと、
上記第2孔を介して上記高圧チャンバから流出した高圧流体を供給する第2供給ポートと、
上記第1および第2孔をそれぞれ独立して開閉する第1および第2の弁体と、
これら第1および第2の弁体をそれぞれ独立して駆動して、上記第1および第2ポートを介して高圧流体を交互に供給する第1および第2アクチュエータと、
を有することを特徴とする流路切換装置。
【請求項2】
上記第1孔を介して上記高圧チャンバに連通した第1チャンバと、
上記第2孔を介して上記高圧チャンバに連通した第2チャンバと、をさらに有し、
上記第1の弁体が上記第1チャンバ内で移動可能に配置され、上記第1供給ポートが上記第1チャンバに連通し、
上記第2の弁体が上記第2チャンバ内で移動可能に配置され、上記第2供給ポートが上記第2チャンバに連通していることを特徴とする請求項1に記載の流路切換装置。
【請求項3】
上記第1孔と同軸に上記第1チャンバの壁に設けられた第3孔と、
この第3孔を介して上記第1チャンバに連通した第3チャンバと、
上記第2孔と同軸に上記第2チャンバの壁に設けられた第4孔と、
この第4孔を介して上記第2チャンバに連通した第4チャンバと、を有し、
上記第1アクチュエータは、上記第1の弁体を上記第1孔を塞ぐ位置と上記第3孔を塞ぐ位置との間で往復移動させて、上記第1および第3孔を交互に開閉し、
上記第2アクチュエータは、上記第2の弁体を上記第2孔を塞ぐ位置と上記第4孔を塞ぐ位置との間で往復移動させて、上記第2および第4孔を交互に開閉することを特徴とする請求項2に記載の流路切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−75058(P2011−75058A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228638(P2009−228638)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】