説明

流路基板の製造方法

【課題】親水性である微細流路を備えた基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)アルカリ性溶液をケミカルエッチング液として用いることで、ポリイミド樹脂層11をエッチングするとともに、該エッチングされた前記ポリイミド樹脂層11の表面を親水性化する工程と、(B)前記エッチングされたポリイミド樹脂層11に、他のポリイミド樹脂層12,13を積層することで流路を形成する工程と、を少なくとも行なうポリイミド樹脂製の流路基板の製造方法とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路基板の製造方法に関する。より詳細には、親水性の流路を備えた基板を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛋白質等の網羅的解析や、各種測定試料の小容量化・微量化を可能とするための技術の開発が行なわれている。少量の測定試料で解析可能であれば、解析時間の短縮や必要とする試料の少量化が可能となるため、医療、環境科学、食品分析等といった幅広い分野への応用が期待されている。
【0003】
このようなものとして、測定試料に含まれる蛋白質がごく微量であっても測定可能なセンサーチップ等が挙げられ、例えば、血液分析チップや生体高分子検出チップ等として用いられている。センサーチップは、主に、各種生体反応を検出する検出部と、測定試料を含有する溶液を前記検出部に導くための微細流路等から構成されている。例えば、特許文献1には、装置の小型化を可能とする集積回路化バイオセンサーに関する技術が開示されている。
【0004】
ここで、測定試料の小容量化・微量化を可能とするためには前記微細流路が親水性であることが重要となる。微細流路内が疎水性である場合には、微細流路内の表面張力等が大きな抗力として作用してしまい、測定試料を含有する溶液を微細流路内で流動させることが困難となる。
【0005】
特に、前記血液分析チップにおいて血球を選別することや、前記生体高分子検出チップにおいて高分子をフィルタリングすること等を目的として、数μm〜数十μmの微細な形状を微細流路内に組み込む場合があり、このような場合には親水性であることが特に重要となる。このような観点等から親水性の微細流路を備えた基板を簡便に作製できる技術の開発が望まれている。
【0006】
一方、基板をエッチング処理すること等によって細かい細工をした基板等が電子業界等で用いられている。このような基板の材料として、ポリイミド樹脂フィルム等が用いられている。このポリイミド樹脂フィルムは、耐熱性にも優れているフレキシブルな基板として有用であり、例えば、銅積層フィルムを用いた銅パターニングによって形成されたフレキシブルな配線基板等が、ケミカルエッチング法によって作製されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−132981号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えば、微細流路を備えた基板の材料としてポリイミド樹脂フィルム等を用いた場合、スリットを形成する際にレーザー加工や機械加工を施すだけでは、流路は依然として疎水性であるため問題となる。
【0009】
そこで、本発明は、親水性である微細流路を備えた基板の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ポリイミド樹脂は、一般に、耐熱性に優れ、高温での機械特性が余り変化しないという性質を有している。その一方で、耐薬品性に優れているが、アルカリには弱いという性質も有している。本願発明者らは、この欠点ともいえる性質に着目しただけでなく発想を大きく転換し、更にこの性質等を微細流路の形成に応用すべく鋭意研究を行なった。その結果、ポリイミド樹脂のもつ優れた性質を生かしつつ、効率よく親水性の微細流路を形成する技術を見出して本発明を完成させた。
【0011】
まず、本発明は、(A)アルカリ性溶液をケミカルエッチング液として用いることで、ポリイミド樹脂層をエッチングするとともに、該エッチングされた前記ポリイミド樹脂層の表面を親水性化する工程と、(B)前記エッチングされたポリイミド樹脂層に、他のポリイミド樹脂層を積層することで流路を形成する工程と、を少なくとも行なうポリイミド樹脂製の流路基板の製造方法を提供する。アルカリ性溶液を用いてケミカルエッチングすることで、ポリイミド樹脂層の表面を効率よく親水性化することができるため、微細な流路であっても簡便かつ効率よく親水性化することができる。
そして、本発明は、前記ケミカルエッチング液は、ポリイミド樹脂のカルボニル基をカルボン酸基へ変換可能な物質を含有するケミカルエッチング液を用いることができる。このようなケミカルエッチング液を用いることで、ポリイミド樹脂表面を、親水性であるカルボン酸基に改質することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る流路基板の製造方法によれば、親水性の微細流路を備えた基板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る方法の実施形態例について、添付図面を参照にしながら説明する。なお、図面に示された実施形態等は、本発明の好適な実施形態を例示したものであり、これにより本発明が狭く解釈されることはない。
【0014】
本発明によれば、ポリイミド樹脂層を積層する流路形成技術において、アルカリ性のケミカルエッチング液を用いてケミカルエッチングをすることで、エッチング処理を行うとともに、エッチング処理されたポリイミド樹脂表面の改質効果として親水性化を行なうことができる。これにより、親水性の微細流路を簡便に形成することができる。以下、本発明に係る製造方法について、より詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る流路基板の製造方法を説明する概念図である。なお、以下に使用する図面では、説明の便宜上、基板の構成等については簡素化して示している。
【0016】
まず、基板として用いるポリイミド樹脂層11の両面にマスク層21,22を形成させる工程を行なう(図1符号S1参照)。このマスク層21,22は、エッチングの際にポリイミド樹脂層11の保護層として機能するものである。
【0017】
本発明において用いられるポリイミド樹脂は、そのモノマー成分等については限定されず、例えば、芳香族二酸無水物と芳香族ジアミンの重縮合でポリアミド酸とし、このポリアミド酸を閉環反応によってイミド化させる反応等によって得ることができる。
【0018】
そして、芳香族二酸無水物等については特に限定されず、例えば、ピロメリット酸無水物(1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物)、1,1',2,2'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
【0019】
また、ジアミン成分等については特に限定されず、使用する酸無水物との反応性等を考慮して適宜選択でき、例えば、3,4'−オキシジアニリン、m−フェニレンジアミン、2,2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等を用いることができる。
【0020】
例えば、ポリイミド樹脂のモノマーとして用いる芳香族二酸無水物と芳香族ジアミンの組合せについては、例えば、ピロメリット酸とジアミノ−ジフェニルエーテル系化合物からなるポリイミドや、ビフェニルテトラカルボン酸とフェニレンジアミン系化合物とからなるポリイミドや、前記の芳香族二酸無水物と芳香族ジアミン化合物から選択される2種以上のモノマーで構成される共重合体ポリイミド化合物が挙げられる。
【0021】
本発明において用いるポリイミド樹脂層11や、後述する他のポリイミド樹脂層12,13の厚さ等については限定されず、適宜好適な厚さとすることができる。本発明において、前記ポリイミド樹脂層11,12,13は、好適にはポリイミド樹脂フィルムであることが望ましい。
【0022】
前記マスク層21,22は、ケミカルエッチング法において用いられる従来公知のマスキング剤を用いることができ、例えば、銅箔等を用いることができる。そして、本発明において、ポリイミド樹脂層11上へのマスク層21,22の形成方法については限定されず、従来公知の形成方法を採用でき、マスク層21,22に用いられる物質等を考慮して適宜好適な方法を採用できる。
【0023】
次に、マスク層21の上にフォトレジスト層3を形成させる工程を行なう(図1符合S2参照)。フォトレジスト層3には、従来公知のフォトレジスト剤を用いることができ、例えば、露光によって不溶化するネガ型フォトレジストであってもよいし、露光によってフォトレジスト層3が可溶化するポジ型フォトレジストであってもよい。具体的には、成膜性に優れたポリケイ皮酸系樹脂や、感光性のジアジドを配合したフェノール−ホルムアルデヒド系樹脂等を用いることができる。
【0024】
続いて、フォトレジスト層3を露光してパターニングする工程を行なう(図1符合S2参照)。露光することで、フォトレジスト層3の表面に凹凸を発生させる。フォトレジスト層3としてネガ型フォトレジストを用いた場合には、露光した箇所が不溶化するため、露光した箇所が凹部となる。一方、フォトレジスト層3としてポジ型フォトレジストを用いた場合には、露光した箇所が可溶化するため、露光した箇所が凸部となる。
【0025】
露光に用いられる光波長等は、特に限定されず、フォトレジスト層3で用いたフォトレジスト剤に応じて選択できる。また、本発明の目的から逸脱しない範囲で、適宜、電子線を用いた電子線レジストによってパターニングしてもよい。
【0026】
なお、本発明では、ポリイミド樹脂層11をケミカルエッチングする際に、その表面をマスクすることができればよく、上記のフォトレジスト層3によってマスク層21をパターニングする工程(図1符合S2〜S4等参照)を省略することもできる。
【0027】
そして、マスク層21をエッチング処理する工程を行なう(図1符合S4参照)。フォトレジスト層3により被覆されていないマスク層21表面を除去する。エッチング処理の方法は特に限定されず、従来公知の方法によって行なうことができる。例えば、フッ化水素酸等の液体によるウエットエッチングによってもよいし、四フッ化炭素等の気体を使用したガスエッチングによってもよい。また、エッチング剤についても、マスク層21で用いたマスキング剤を溶解・除去可能なエッチング液であればよく、その種類等については限定されない。
【0028】
続いて、フォトレジスト層3を剥離する工程を行なう(図1符合S5参照)。これにより、フォトレジスト層3をポリイミド樹脂層11上から完全に除去する。
【0029】
更に、ポリイミド樹脂層11をアルカリ性のケミカルエッチング液を用いてエッチング処理する工程を行なう(図1符合S6参照)。このケミカルエッチングにより、ポリイミド樹脂層11にスリットを形成しながら、ポリイミド樹脂層11の表面改質効果として親水性化を行なうことができる。即ち、ケミカルエッチングによってスリットを形成する処理と、その表面を親水性化する処理とを同時に行うことができるため、その結果、簡便に微細流路H1,H2を形成することができる。
【0030】
この工程(図1符合S6参照)では、マスク層21でマスキングされていない箇所はケミカルエッチングによって侵食させることでスリットを形成させる。本発明においてケミカルエッチング処理の方法は、特に限定されず、例えば、ケミカルエッチング液にポリイミド樹脂層11の処理面を浸漬したり、ケミカルエッチング液をスプレー等によって噴霧する方法等によって行うことができる。
【0031】
更に、アルカリ性のケミカルエッチング液を用いることで、ケミカルエッチング処理されたポリイミド樹脂層11の処理表面を親水性化することができる。本発明で用いられる前記アルカリ性のケミカルエッチング液は、ポリイミド樹脂11の表面を親水性化することができればよく、その種類等については特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム等の無機化合物や、ヒドラジン、非ヒドラジン系のアルカリ性のケミカルエッチング液等を用いることができる。そして、どの程度の親水性を微細流路に付与したいか等を考慮して、適宜好適なエッチング液やその処理時間等を決定することもできる。
【0032】
本発明において前記アルカリ性のケミカルエッチング液で処理した際の作用機構については、定かではないが、ポリイミド樹脂層11表面のカルボニル基がアルカリ性のケミカルエッチング液によって親水性基へ変換されるのではないかと考えられる。このような親水性基としては、例えば、カルボン酸基(−COOH)や、水酸基(−OH)等が挙げられる。
【0033】
また、ケミカルエッチングで表面改質を行なうことで親水性化する効果については、いわゆる残基処理等の化学的な効果のみならず、表面粗さを大きくすること等による物理的な効果も得ることができる。つまり、ポリアミド樹脂表面への水分子の付着は、水分子とポリアミド樹脂表面上の分子との間に形成される水素結合やファンデルワールス力等による影響がある。従って、ポリアミド樹脂表面の表面エネルギー等の因子も親水性に影響を与え、表面粗さも重要な因子となる。
【0034】
これに関して、本発明ではケミカルエッチングを行なうことで、表面粗さを大きくすることができる。その結果、表面エネルギーを大きくし、水分子を効率よく樹脂表面に付着させることもできる。本発明では、かかる作用によっても微細流路の親水性をより向上させることができる。
【0035】
続いて、ポリイミド樹脂層11からマスク層21を剥離する工程を行なう(図1符合S7参照)。本発明において、前記ポリイミド樹脂層11からマスク層21を剥離する方法は特に限定されず、適宜好適な方法を用いることができる。
【0036】
そして、スリットが形成されたポリイミド樹脂層11を、他のポリイミド樹脂層12,13によりサンドイッチ状に挟んで積層する工程を行なう(図1符合S8参照)。これにより前記スリットを微細流路H1,H2とすることができる。
【0037】
本発明において、ポリイミド樹脂層11,12,13同士の接合方法は、特に限定されず、例えば、接着による方法や、ポリイミド樹脂層11,12,13自体の加圧・加熱による層間相互拡散を用いた拡散接合による方法等が挙げられる。特に、前記拡散接合はポリイミド樹脂層11,12,13同士を強固に接合できるので微小流路H1,H2を形成するには好適である。
【0038】
本発明に係る製造方法で得られる流路基板のサイズや層構造は、目的に応じて適宜選定可能であり、微細流路の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。
【0039】
本発明において、親水効果をエッチングにより除去した部分以外にも施したい場合には、施したい部分を再度ポリイミド除去溶液に短時間浸漬させることで所望の範囲を親水性化できる。これに関して、図2等に基づいて説明する。
【0040】
図2は、図1の符号1で示された微細流路H1の周辺領域の拡大図である。微細流路H1は、断面視、壁面11a,11b、12a,13aによって囲まている。図1で例示した微細流路の形成工程(図1符合S6〜S8等参照)では、壁面11a,11bについて親水性化されているが、ポリイミド樹脂層12,13の表面である壁面12a,13aについては親水化されていない。前記微細流路H1の親水性をさらに高めたい場合には、前記壁面12a,13aについて前記アルカリ性のケミカルエッチング液(図1符号S6参照)を用いて再度親水性化処理すればよい。
【0041】
従って、本発明に係る製造方法の工程によっては、ポリイミド樹脂をマスクした部分が最後に除去される場合もあるが、そのマスク部分にも親水処理を施したい場合には、再度弱いケミカルエッチング処理を施せばよい。この場合、全ての処理がウエットな環境下で行なうものであれば、1回目に行なったケミカルエッチング工程を再度繰り返すだけであるため、一工程増えるとしても実作業上の負担は軽くてすむため簡便である。
【0042】
即ち、本発明では、ケミカルエッチング処理においてエッチングされなかったポリイミド樹脂表面を、前記ケミカルエッチング溶液により親水性化処理する工程を、別途行なうこともできる。この工程後に、ポリイミド樹脂層11,12,13を積層することで、より親水性が高い微細流路を形成することもできる。このように、本発明では、必要に応じて微細流路H2の親水性の度合いを調節することもできる。
【0043】
図3は、本発明に係る製造方法により得られる流路基板の一実施形態の斜視図であり、図4は同一実施形態の上面である。
【0044】
図3,図4の符号Aは、本発明に係る製造方法により得られる流路基板の一実施形態を表している。該流路基板Aは、微細流路H3と、該微細流路H3から分岐する微細流路H4,H5とを備えている。
【0045】
この流路基板Aは、水溶液等を微細流路H3に矢印X方向に導入させ、微際流露H4へは矢印Y方向に、微細流路H5へは矢印Z方向に効率よく送液させることができる。また、微細流路H3,H4,H5については、親水性の度合いを調節することもできる。従って、例えば、微細流路H3の表面を、微細流路H4やH5の表面よりも親水性であるように処理すれば、試料溶液は微細流路H3に流れ易く、支流となる微細流路H4,H5には流れ難くすることも可能である。
【0046】
そして、微細流路H3,H4,H5は、1種類の液体を送液するために用いるだけでなく、例えば、2種類以上の液体を同一の微細流路H3,H4,H5内に送液することもできる。即ち、流路基板Aは化学反応等を行なうマイクロリアクター等としても応用できる。また、マイクロリアクター等としてだけでなく、2種類以上の液体の混合や分離等を流路基板A内で行なうこともできる。
【0047】
更に、本発明に係る流路基板の製造方法は、バイオセンサ等に用いられる流路を形成する要素技術等としても用いることができる。例えば、医療用や環境計測用や食品分析用等の幅広いバイオセンサをはじめ、各種センサーチップ等にも応用でき、小さなデバイスでありながら網羅的な解析を効率よく行なうこともできる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明に係る製造方法の効果を検証するために、以下の試験を行った。詳しくは、ケミカルエッチングを行なった。詳しくは、本発明に係る製造方法により得られる流路基板と、本発明で行なうケミカルエッチング処理を行なっていない流路基板について、親水性の評価と、微細流路の液体流量の評価を行なった。あわせて、種々のアルカリ性のエッチング液の親水性の処理効果の評価も行なった。
【0049】
<実施例1>
レーザー加工により作成した流路径50μmの小径であるスリットを備えた50μmポリイミド樹脂フィルムを作成し、このスリットをケミカルエッチング処理してから、ポリイミド樹脂フィルムで積層することで微細流路基板を作製した。ケミカルエッチング処理は、非ヒドラジン系のアルカリ性ケミカルエッチング液(東レエンジニアリング(社)製の商品名「TPE3000」)を用いて、40℃で10分間のエッチング処理を行った。
【0050】
<比較例1>
レーザー加工により作成した50μmの小径であるスリットを備えた50μmポリイミド樹脂フィルムを用いた。このポリイミド樹脂フィルムの微細流路は、前記ケミカルエッチング処理を施してない微細流路である。
【0051】
<親水性の評価>
親水性の評価は、JIS−R−3257に準拠して行なった。即ち、評価対象のフィルム上に純水を滴下し、その接触角を測定することで親水性を評価した。接触角測定においては、面内のばらつきを排除するため20点以上を測定し、その平均角度を得た。このようにしてポリイミド樹脂フィルムについてケミカルエッチング前後の接触角の変化を測定した。
【0052】
その結果、ケミカルエッチングしないポリイミド樹脂フィルムの接触角は約69.2°であったが、ケミカルエッチングしたポリイミド樹脂フィルムの接触角は約36°となった。従って、ケミカルエッチング処理されたポリイミド樹脂からなる流路表面は親水性化されることが示唆された。
【0053】
<流量の評価>
微細路を形成したポリイミド樹脂フィルム層に圧力をかけることで純水を通過させる実験を行った。
【0054】
ケミカルエッチング処理されていないポリイミド樹脂フィルム層は、50kPaの差圧を加圧しても、流路径50μmの流路を通過させることができなかった。
【0055】
ケミカルエッチング処理されたポリイミド樹脂フィルム層は、微小な差圧で1〜1000μm/分の流量速度で流動し続けることができた。そして、測定した全ての箇所において差圧計の測定限界(10kPa)以下の圧力損失しか発生しなかった。従って、ケミカルエッチング処理されたポリイミド樹脂からなる流路表面は親水性化されることが示唆された。
【0056】
<実施例2>
次に、アルカリ性のケミカルエッチング液の任意性等を検討した。具体的には、同じポリイミドフィルムに対して、ケミカルエッチング液として水酸化カリウム、ヒドラジン、非ヒドラジン系ケミカルエッチング液(東レエンジニアリング(社)製の商品名「TPE3000」)の3種についての親水性化の効果を評価した。また、参照としてエッチング処理していないポリイミドフィルムについても同様に親水性を評価した。
【0057】
<親水性の評価>
親水性の評価は、ポリイミドフィルムとして商品名「カプトン(登録商標;東レ・デュポン社製)」を用い,実施例1と同様に、JIS−R−3257に準拠して行なった。即ち、ポリイミドフィルムを各ケミカルエッチング液を用いて40℃、5分間エッチング処理し、このフィルム上に純水を滴下し、その接触角を測定することで親水性を評価した。そして、比較例として、接触角測定においては、面内のばらつきを排除するため20点以上を測定し、その平均角度を得た。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1によれば、エッチング処理していないポリイミド樹脂は81°の接触角であったが、アルカリ性エッチング液により処理された場合の接触角はいずれも81°よりも小さい角度となり、親水性化できたことが示唆された。以上より、本発明において幅広いアルカリ性エッチング液が使用できること等が示唆された。
【0060】
また、アルカリ性エッチング液同士の比較については、水酸化カリウムにより処理された場合には接触角が76°であり一定の親水性化の効果が認められた。更に、ヒドラジン、非ヒドラジン系化合物により処理された場合については、いずれも60°より小さい接触角となった。従って、アルカリ性エッチング液のなかでも、ヒドラジン、非ヒドラジン系化合物を用いることでより高い親水性化が可能であることが示唆された。
【0061】
以上より、本発明に係る微細流路の製造方法によれば、親水性の微細流路を簡便に形成できることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る流路基板の製造方法を説明するための概念図である。
【図2】図1において符号H1で示された微細流路の周辺領域の拡大図である。
【図3】本発明に係る流路基板の製造方法により得られる微細流路基板の一実施形態の斜視図である。
【図4】同実施形態の流路基板の上面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ポリイミド樹脂層
2 マスク層
3 フォトレジスト層
A 流路基板
H1,H2,H3,H4,H5 微細流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)工程と、(B)工程と、を少なくとも行なうポリイミド樹脂製の流路基板の製造方法。
(A)アルカリ性溶液をケミカルエッチング液として用いることで、ポリイミド樹脂層をエッチングするとともに、該エッチングされた前記ポリイミド樹脂層の表面を親水性化する工程、
(B)前記エッチングされたポリイミド樹脂層に、他のポリイミド樹脂層を積層することで流路を形成する工程。
【請求項2】
前記ケミカルエッチング液は、ポリイミド樹脂のカルボニル基をカルボン酸基へ変換可能な物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の流路基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−279382(P2008−279382A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126515(P2007−126515)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】