説明

流路形成構造体及び当該流路形成構造体の製造方法

【課題】構造が大型化した場合であっても溶着部の溶着不良の生じにくい流路形成構造体を提供する。
【解決手段】流路形成構造体1を三つ以上の樹脂成形品により構成すると共に、溶着される樹脂成形品の、溶着面に対して垂直方向から視たときの投影面積を、5cm以上300cm以下に抑える。例えば、第一樹脂成形品10と、第二樹脂成形品20と、一方の面に第一樹脂成形品10が振動溶着され、他方の面に第二樹脂成形品20が振動溶着される第三樹脂成形品30と、を溶着する場合、第一樹脂成形品10及び前記第二樹脂成形品20は、溶着面に対して垂直方向から視たときの投影面積が5cm以上300cm以下になるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路形成構造体及び当該流路形成構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂からなる複数の樹脂成形品を接合する方法として、締結用部品(ボルト、ビス、クリップ等)や接着剤を使用する方法、熱板溶着法、振動溶着法、超音波溶着法、レーザー溶着法等が知られている。
【0003】
このような種々の方法のうち、例えば、振動溶着法による複数の樹脂成形品の接合(溶着)は、2つの樹脂成形品を互いに当接し且つ加圧しながら相互に振動させることにより、各樹脂成形品の当接面を溶融させて接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
以上のような摩擦エネルギーを利用する振動溶着法によれば、短時間で樹脂成形品を溶融させることができるため、複数の樹脂成形品を短時間で溶着できる。つまり、振動溶着法は、生産性に優れる溶着方法である。したがって、振動溶着法による複数の樹脂成形品の溶着は、複数の樹脂成形品が接合されて構成される自動車用部品等の樹脂製品の製造工程を中心に、様々な樹脂製品の製造工程で採用されている。
【0005】
振動溶着法により製造された樹脂製品の一例としては、気体や液体等の流体を通すための流路が樹脂製品の内部に形成された流路形成構造体が挙げられる。
例えば、特許文献2には、複数の樹脂成形品を、レーザー溶着法、振動溶着法により溶着してなる流路形成構造体が開示されている。また、特許文献3には、複数の樹脂成形品を、振動溶着法により溶着してなる吸気構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−052191号公報
【特許文献2】特開2006−071079号公報
【特許文献3】特開2002−089387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、振動溶着される複数の樹脂成形品は、予め個別に製造されるが、製造される樹脂成形品の表面には、微小な反りが発生する。樹脂成形品の表面に発生する反りの大きさは、樹脂成形品のサイズが大きくなるほど大きくなる。そして、樹脂成形品の表面のうちの他の樹脂成形品との溶着面に発生する反りが大きくなった場合には、溶着部の一部に隙間ができる等の問題が生じ、溶着部の密着性が低下してしまう。つまり、溶着面において摩擦エネルギーが十分に発生せず、2つの樹脂成形品が溶着される溶着部に溶着不良が生じる場合がある。
【0008】
流路形成構造体においては、溶着部に溶着不良が生じると、流路を流れる流体の漏れにつながるため、僅かでも溶着部に溶着不良が生じると大きな問題となる。そのため、従来、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積がおよそ300cm以上になるような大きな樹脂成形品を用いて、大型の流路形成構造体を振動溶着法により製造することは困難であった。
【0009】
従って、本発明は、構造が大型化した場合であっても溶着部での溶着不良の生じにくい流路形成構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、流路形成構造体を三つ以上の樹脂成形品により構成すると共に、溶着される樹脂成形品の、溶着面に対して垂直方向から視たときの投影面積を、5cm以上300cm以下に抑えることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 第一樹脂成形品と、第二樹脂成形品と、一方の面に前記第一樹脂成形品が振動溶着され、他方の面に前記第二樹脂成形品が振動溶着される第三樹脂成形品と、前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第一流路と、前記第二樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第二流路と、前記第三樹脂成形品に形成され、前記第一流路と前記第二流路とを連結する第三流路とを備え、前記第一樹脂成形品及び前記第二樹脂成形品は、溶着面に対して垂直方向から視たときの投影面積が5cm以上300cm以下である流路形成構造体。
【0012】
(2) 前記第三樹脂成形品は、前記一方の面における前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との溶着面である第一溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第一溶着面に略平行な第一支持面と、前記他方の面における前記第二樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との溶着面である第二溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第二溶着面に略平行な第二支持面と、を備える(1)に記載の流路形成構造体。
【0013】
(3) 前記第一支持面は、前記第一溶着面の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられ、前記第二支持面は、前記第二溶着面の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられる(2)に記載の流路形成構造体。
【0014】
(4) 前記第一樹脂成形品及び/又は前記第二樹脂成形品は、光非透過性樹脂材量からなる(1)から(3)のいずれかに記載の流路形成構造体。
【0015】
(5) 前記樹脂成形品は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂を主成分とする(1)から(4)のいずれかに記載の流路形成構造体。
【0016】
(6) 前記第一樹脂成形品は隔壁部を有し、前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第四流路と、前記第四流路と、前記第二流路とを連結する第五流路と、をさらに備え、前記隔壁部は、前記第一流路と前記第四流路とを仕切るように設けられる(1)から(5)のいずれかに記載の流路形成構造体。
【0017】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の流路形成構造体の製造方法であって、前記第三樹脂成形品の一方の面に前記第一樹脂成形品を配置する第一樹脂成形品配置工程と、前記一方の面に配置された前記第一樹脂成形品を、前記第三樹脂成形品に振動溶着して前記第一流路を形成する第一流路形成工程と、前記第三樹脂成形品の他方の面に前記第二樹脂成形品を配置する第二樹脂成形品配置工程と、前記他方の面に配置された前記第二樹脂成形品を前記第三樹脂成形品に振動溶着して前記第二流路を形成する第二流路形成工程と、を備える流路形成構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、構造が大型化した場合であっても溶着部の溶着不良の生じにくい流路形成接合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の流路形成構造体1を模式的に示した図であり、図1(a)は流路形成構造体1の平面図であり、図1(b)は流路形成構造体1の側面図であり、図1(c)は図1(a)のX−X線断面図である。
【図2】第一樹脂成形品10を示す模式図であり、図2(a)は第一樹脂成形品の斜視図であり、図2(b)は第一樹脂成形品10の底面図である。
【図3】第二樹脂成形品20を示す模式図であり、図3(a)は第二樹脂成形品の斜視図であり、図3(b)は第二樹脂成形品の平面図である。
【図4】第三樹脂成形品30を模式的に示す図であり、図4(a)は第三樹脂成形品30の斜視図であり、図4(b)は第三樹脂成形品30の平面図であり、図4(c)は第三樹脂成形品30の底面図である。
【図5】従来の流路形成構造体5を示す模式図であり、図5(a)は従来の流路形成構造体の斜視図であり、図5(b)は図5(a)のY−Y線断面図である。
【図6】図5に示す矩形樹脂成形品50を示す模式図であり、図6(a)は矩形樹脂成形品50の斜視図であり、図6(b)は矩形樹脂成形品50の側面図である。
【図7】第二実施形態の流路形成構造体1Aの模式図であり、図7(a)は流路形成構造体1Aの分解側面図であり、図7(b)は流路形成構造体1Aの側面図であり、図7(c)は流路の流れ方向の側面断面図である。
【図8】第一実施形態、第二実施形態とは、別形態の流路の流れ方向の断面を示す図である。
【図9】第一実施形態、第二実施形態とは、別形態の流路形成構造体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
本発明は、複数の樹脂成形品を溶着してなる流路形成構造体である。図1は、本発明の第一実施形態に係る流路形成構造体1を模式的に示した図であり、(a)は流路形成構造体1の平面図であり、(b)は流路形成構造体1の側面図であり、(c)は図1(b)のX−X線断面図である。
【0022】
図1(a)〜(c)に示すように、第一実施形態の流路形成構造体1は、第一樹脂成形品10と、第二樹脂成形品20と、第三樹脂成形品30と、これら三つの樹脂成形品により形成される流路40と、を備える。この流路形成構造体1は、図1(b)に示すように、第三樹脂成形品30の一方の面である第一面31に第一樹脂成形品10が振動溶着されると共に、第三樹脂成形品30の他方の面である第二面32に第二樹脂成形品20が振動溶着されて構成される。
【0023】
図2は、第一樹脂成形品10を模式的に示す図であり、(a)は第一樹脂成形品の斜視図であり、(b)は第一樹脂成形品10の底面図である。
図2に示すように、第一樹脂成形品10は、略直方体状であり、一の面に形成された溝状の第一凹部11と、この一の面における第一凹部11が形成されていない領域である第一溶着予定端面12とを有する。
【0024】
第一凹部11は、第一樹脂成形品10の長手方向に延び、一端は開放され、他端は閉鎖されている。
第一溶着予定端面12は、振動溶着の際に第三樹脂成形品30と当接する部位である。つまり、溶着予定端面12は、第三樹脂成形品30と溶着する面であり、この溶着する面に対して垂直方向から、第一樹脂成形品10を視たときの投影面積は、5cm以上300cm以下である。
【0025】
図3は、第二樹脂成形品20を模式的に示す図であり、(a)は第二樹脂成形品の斜視図であり、(b)は第二樹脂成形品の平面図である。
図3に示すように、第二樹脂成形品20は、略直方体状であり、一の面に形成された溝状の第二凹部21と、この一の面における第二凹部21が形成されていない領域である第二溶着予定端面22とを有する。
【0026】
第二凹部21は、第一樹脂成形品20の長手方向に延び、一端は開放され、他端は閉鎖されている。
第二溶着予定端面22は、振動溶着の際に第三樹脂成形品30と当接する部位である。つまり、溶着予定端面22は、第三樹脂成形品30と溶着する面であり、この溶着する面に対して垂直方向から、第一樹脂成形品20を視たときの投影面積は、5cm以上300cm以下である。
第二樹脂成形品20の幅W2(一の面における長手方向に直交する方向の長さ)は、図1(a)に示すように、第二樹脂成形品20の幅W1(一の面における長手方向に直交する方向の長さ)よりも広く構成されている。
【0027】
図4は、第三樹脂成形品30を模式的に示す図であり、(a)は第三樹脂成形品30の斜視図であり、(b)は第三樹脂成形品30の平面図であり、(c)は第三樹脂成形品30の底面図である。
図4に示すように、第三樹脂成形品30は板状であり、貫通穴(後述の第三流路43)と、第一支持面321と、第二支持面311と、を備える。
【0028】
貫通穴は、第三樹脂成形品30を厚さ方向に貫通して形成される。
第一支持面321は、図4(c)に示すように、第三樹脂成形品30の第二面32に設けられる。この第一支持面321は、第一面31における第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30との溶着面である第一溶着面312(図4(b)の点線で囲まれた範囲)に対応する位置の少なくとも一部(第一実施形態では第一溶着面312に対応する位置の全域)に、第一溶着面312に略平行に設けられている。ここで、第一溶着面312に対応する位置とは、平面視において第一溶着面312と重なり合う位置を示す。
第一支持面321は、少なくとも、第一溶着面312の長手方向又は幅方向の一端側に対応する位置、及び長手方向又は幅方向の他端側に対応する位置に、それぞれ設けられることが好ましい。
【0029】
第二支持面311は、第三樹脂成形品30の第一面31に設けられる。この第二支持面311は、第二面32における第二樹脂成形品20と第三樹脂成形品30との溶着面である第二溶着面322(図4(c)の点線で囲まれた範囲)に対応する位置の少なくとも一部に第二溶着面322に略平行に設けられている。第一実施形態では、第二支持面311は、第二溶着面322に対応する位置の内、第一樹脂成形品10が存在する面を除いた部分に設けられる。つまり、第二支持面311は、第二溶着面322の長手方向の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置、第二溶着面322の幅方向の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられる。なお、本実施形態において、第二支持面311は、第二溶着面322に対応する位置の面積の50%以上を占めるように設けられる。
【0030】
流路40は、図1(c)に示すように、第一流路41と、第二流路42と、第三流路43と、を備える。
第一流路41は、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30との間に形成される。より具体的には、第一流路41は、第一樹脂成形品10の第一凹部11(図2(a)参照)及び第三樹脂成形品30の第一面31に囲まれた空間により形成される。
第二流路42は、第二樹脂成形品20と第三樹脂成形品30との間に形成される。より具体的には、第一流路42は、第二樹脂成形品20の第二凹部21(図3(a)参照)及び第三樹脂成形品30の第二面32に囲まれた空間により形成される。
第三流路43は、第三樹脂成形品30の表裏を貫通するように形成される。
【0031】
次いで、本発明の流路形成構造体1の製造方法について説明する。
第一実施形態の流路形成構造体1の製造方法は、樹脂成形品製造工程と、第一樹脂成形品配置工程と、第一溶着工程と、第二樹脂成形品配置工程と、第二溶着工程と、含んで構成される。
【0032】
樹脂成形品製造工程では、第一凹部11を有する第一樹脂成形品10、第二凹部21を有する第二樹脂成形品20、及び貫通穴を有する第三樹脂成形品30が製造される。第一樹脂成形品10、第二樹脂成形品20及び第三樹脂成形品30は、例えば射出成形により製造される。
【0033】
これらの樹脂成形品を製造するための樹脂材料の種類は、特に限定されない。樹脂材料に含まれる樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂、非晶性熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。従来公知の樹脂の中では、特にポリアリーレンサルファイド系樹脂(特にポリフェニレンサルファイド樹脂)の使用が好ましい。ここで、ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、例えば、特開2009−178967号公報に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂及びポリアリーレンサルファイド樹脂の変性物が挙げられる。また、樹脂材料は、複数の樹脂が含まれる樹脂組成物であってもよい。また、樹脂材料は、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤が添加された樹脂組成物であってもよい。
【0034】
第一樹脂成形品配置工程では、第三樹脂成形品30の第一面31に第一樹脂成形品10が配置される。より具体的には、第一樹脂成形品30は、第一凹部11の閉鎖端側の位置が第三樹脂成形品30の貫通穴の位置に一致するように、かつ、第一溶着予定端面12の位置が第一溶着面312の位置に一致するように配置される。
【0035】
第一溶着工程では、第一面31に配置された第一樹脂成形品10が第三樹脂成形品30の第一面31に振動溶着される。これにより、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30とが接合されて第一流路41が形成される。
【0036】
なお、振動溶着は、具体的には、以下の手順で行う。
まず、第一樹脂成形品10を第三樹脂成形品30の第一面31上に配置されるように、第一樹脂成形品10及び第三樹脂成形品30を治具で固定する。ここで、第一樹脂成形品10については、第一樹脂成形品10の上面(第一溶着予定端面12と反対側に位置する面)全体を治具で抑える。また、第三樹脂成形品30については、第一支持面321(図4(c)に網掛線で示した範囲)を治具で抑える。
ついで、従来公知の振動溶着装置を用いて、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30とが振動により、当接面で擦れ合うようにして、当接面に熱を与える。この熱により、第一樹脂成形品10及び第三樹脂成形品30の当接面付近を溶融させる。そして、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30とを突き当てるようにして、当接面に圧力を加えて、これらの溶融部分を潰しながら、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30とを振動溶着する。
【0037】
第二樹脂成形品配置工程では、第三樹脂成形品30の第二面32に第二樹脂成形品20が配置される。より具体的には、第二樹脂成形品20は、第二凹部21の閉鎖端側の位置が第三樹脂成形品30の貫通穴の位置に一致するように、かつ、第二溶着予定端面22の位置が第二溶着面322の位置に一致するように配置される。
【0038】
第二溶着工程では、第三樹脂成形品30の第二面32に配置された第二樹脂成形品20が第三樹脂成形品30に振動溶着される。これにより、第二樹脂成形品20と第三樹脂成形品30とが接合されて第二流路42が形成される。
【0039】
第二樹脂成形品20と第三樹脂成形品30との振動溶着では、まず、第二樹脂成形品20を第三樹脂成形品30の第二面32の下に配置されるように、第二樹脂成形品20及び第三樹脂成形品30を治具で固定する。ここで、第二樹脂成形品20については、第二樹脂成形品20の下面(第二溶着予定端面22と反対側に位置する面)全体を治具で抑える。また、第三樹脂成形品30については、第二支持面311(図4(b)に網掛線で示した範囲)を治具で抑える。以降については、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30との振動溶着と同様の方法で、当接面に熱を与え加圧することで行う。
【0040】
本発明の流路形成構造体によれば、以下の効果が奏される。
先ず、従来の流路形成構造体の問題点について説明する。図5は、従来の流路形成構造体5を模式的に示す図であり、(a)は従来の流路形成構造体の斜視図であり、(b)は(a)のY−Y線断面図である。図5に示すように、従来の流路形成構造体5は、矩形樹脂成形品50と板状樹脂成形品60とからなる。図5に示すように、従来の流路形成構造体5は、板状樹脂成形品60の一方の面に矩形樹脂成形品50を配置して、振動溶着してなる。振動溶着の結果、図5(b)に示すように、従来の流路形成接合体5の内部には流路70が形成される。
【0041】
図6は、矩形樹脂成形品50を模式的に示す図であり、(a)は矩形樹脂成形品50の斜視図であり、(b)は矩形樹脂成形品50の側面図である。図6に示すように、矩形樹脂成形品50は、溝状の凹部51と溶着予定端面52とを備える。
矩形樹脂成形品50は、溶着面に対して垂直方向から矩形樹脂成形品50を視たときの投影面積が300cmを超えると反りが大きくなる。反りとは図6(b)に示すような、弓なり状の変形である。反り量Δzを、図6(b)に示すように、矩形樹脂成形品50を溶着予定端面52が水平面と接するように配置したときに、水平面からのズレの量として定義する。反りが大きくなる、とは、反り量Δzがおよそ1mmを超えることを指す。
【0042】
反り量Δzがおよそ1mmを超えると、溶着予定端面52と板状樹脂成形品60の一方の面との当接面での、振動溶着時における擦れ合いが不十分になりやすい。当接面での擦れ合いが不十分になると、当接面付近での矩形樹脂成形品50及び板状樹脂成形品60の溶融が不十分になり又は溶融ムラが生じ、溶着部に隙間ができる等の溶着不良が生じる。溶着不良が生じると、流路を通過する流体の漏れにつながる。
このため、従来の方法では、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積が300cmを超えてしまうような、長い又は大きい流路が形成された流路形成構造体の製造は困難である。
【0043】
これに対して、本発明の流路形成構造体1は、第三樹脂成形品30の第一面31に形成される第一流路41と、第二面32に形成される第二流路42とを、第三樹脂成形品30の第一面31と第二面32とを貫通する第三流路43で連結し流路40とする。その結果、本発明では、大きい又は長い流路を形成するに当たって、大きな2つの樹脂成形品を振動溶着する必要が無くなる。つまり、本発明によれば、三つの樹脂成形品を振動溶着して流路形成構造体1を構成することで、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積を300mm以下に抑えつつ、大きい又は長い流路が形成できる。したがって、本発明の流路形成構造体1は、振動溶着時に上記のような溶着不良が起こりにくい。特に、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積を250mm以下に調整することで、溶着不良の問題をさらに抑えやすくなる。
【0044】
第三樹脂成形品30は、第一面31における第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30との溶着面である第一溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第一溶着面に略平行な第一支持面321を、第二面32に有する。溶着面に略平行な第一支持面321を治具で保持しながら、振動溶着を行うことで、振動溶着時に溶着面に対して均一に圧力を加えやすくなる。均一に圧力を加えながら溶着面を擦り合わせて、溶着面に熱を加えることで、溶着面付近を均一に溶融させやすくなり、溶着ムラ等の溶着不良の問題をさらに抑えることができる。
【0045】
第三樹脂成形品30は、第二面32における第二樹脂成形品20と第三樹脂成形品30との溶着面である第二溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第二溶着面に略平行な第二支持面311を、第一面31に有する。第二支持面311は、第一支持面321と同様の効果を奏する。つまり、第三樹脂成形品30と第二樹脂成形品20との溶着不良の問題をさらに抑えることができる。
【0046】
第二樹脂成形品20の幅W2(一の面における長手方向に直交する方向の長さ)は、第二樹脂成形品20の幅W1(一の面における長手方向に直交する方向の長さ)よりも広く構成されている。
このため、第一支持面321は、第一溶着面312の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられる。このため、振動溶着時に第一溶着面の両端に対応する位置を治具で保持できる。その結果、振動溶着時に均一な圧力を溶着面にさらに加えやすくなり、第一樹脂成形品10と第三樹脂成形品30との溶着不良の問題を充分に抑えることができる。
【0047】
第二支持面311は、第二溶着面322の長手方向の一端側に対応する位置及び長手方向の他端側に対応する位置にそれぞれ設けられる。このように第二支持面311が設けられることで、第二支持面311は、上記第一支持面321と同様の効果を奏する。つまり、第三樹脂成形品30と第二樹脂成形品20との溶着不良の問題を充分に抑えることができる。
特に、上記のような支持面が、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積の50%以上を占めるように設けることで、振動溶着時に樹脂成形品をさらに保持しやすくなり、溶着不良の問題がさらに生じにくくなる。
【0048】
流路形成構造体の製造方法としては、一般的に、振動溶着法、レーザー溶着法、熱板溶着法、電磁誘導加熱溶着法、ダイ・スライド・インジェクション(DSI)が採用される。本発明のような流路形成構造体を製造するのに適した成形方法は、振動溶着法、レーザー溶着法である。樹脂成形品が光非透過性樹脂材料からなる場合、レーザー溶着法を採用することができない。
したがって、従来の方法では、光非透過性樹脂材料からなる樹脂成形品であり、長い又は大きい流路が形成された流路形成構造体を製造することは極めて困難であったが、本発明によれば、光非透過性樹脂材料からなる樹脂成形品を用いても、溶着不良のほとんど生じない流路形成構造体になる。光非透過性樹脂材料としては、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の樹脂を主成分として含む樹脂材料や着色された樹脂材料が挙げられる。
【0049】
樹脂材料に主成分として含まれる樹脂としては、各樹脂成形品は剛性に非常に優れる等の理由から、ポリアリーレンサルファイド系樹脂(特にポリフェニレンサルファイド樹脂)の使用が特に好ましいが、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂等の他の樹脂を主成分としても、本発明を好ましく実施することができる。
【0050】
本発明の流路形成構造体1の製造方法によれば、第三樹脂成形品30の第一面31と第一樹脂成形品10との間に形成した第一流路41と、第三樹脂成形品30の第二面32と第二樹脂成形品20との間に形成した第二流路42とを、第三樹脂成形品30の第一面31と第二面32とを貫くように形成された第三流路43で繋ぐことで、長い又は大きい流路を持つ流路形成構造体を、溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積を一定以下に抑えつつ製造することができる。溶着面に対して垂直方向から樹脂成形品を視たときの投影面積が一定以下に抑えられるため、溶着不良の問題が生じにくい。
【0051】
次に、本発明の流路形成構造体の第二実施形態につき、図7を参照しながら説明する。図7は第二実施形態の流路形成構造体1Aを模式的に示した図であり、(a)は流路形成構造体1Aの分解側面図であり、(b)は流路形成構造体1Aの側面図であり、(c)は流路の流れ方向の側面断面図である。なお、第二実施形態以降の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0052】
第二実施形態の流路形成構造体1Aは、主として、第一樹脂成形品10Aが隔壁部13A、溝状の第三凹部14Aを有する構成、第二樹脂成形品20Aの溝状の第二凹部21Aは両端が閉鎖される構成、溝状の第三凹部14Aと第三樹脂成形品30Aとで形成される第四流路44A、第四流路44Aと第二流路42Aとを連結する第五流路45Aを備える構成において第一実施形態と異なる。
【0053】
上記のように、第一樹脂成形品10A、第二樹脂成形品20Aの形状が異なる結果、第三樹脂成形品30Aにおける、第一溶着面、第二溶着面、第一支持面、第二支持面等の位置も異なるが、上記第一実施形態で説明した方法と同様の方法でこれらの位置を決めることができる。
【0054】
第二実施形態の流路形成構造体1Aは、第一実施形態の流路形成構造体1と同様の方法で製造することができる。
【0055】
第二実施形態の流路形成構造体1Aによれば、上述した第一実施形態の流路形成構造体1の効果を奏する他、以下効果を奏する。
【0056】
隔壁部13Aを設けることで、第一樹脂成形品10Aと第三樹脂成形品30Aとの間に、2つの流路(第一流路41Aと第四流路44A)を形成することができる。このように樹脂成形品間に2流路形成すると、樹脂成形品間に1流路しか形成せずに同様の流路形成構造体を製造する場合と比較して、流路間の距離を狭めることができる。つまり、本実施形態においては、第一流路41Aの位置と第四流路44Aの位置とを近づけることができる。その結果、流路形成構造体をより小型化することができる。
【0057】
以上、本発明の流路形成構造体及びその製造方法の好ましい各実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されることなく、種々の形態で実施することができる。
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、直方体状の樹脂成形品に溝状の凹部を形成したが、板状の樹脂成形品に溝状の凹部を形成してもよく、また、直方体状の樹脂成形品、板状の樹脂成形品のいずれにも溝状の凹部を形成してもよい。即ち、図8に示すように、流路の流体が流れる方向の断面図は、図8(a)、(b)のいずれであってもよい。
【0058】
また、第一実施形態及び第二実施形態では、直方体状の樹脂成形品と板状の樹脂成形品との間に形成される各流路及び板状の樹脂成形品の第一面と第二面とを貫通する流路は、直線状であるが、折曲がる流路を形成するようにしてもよい。
【0059】
また、第一実施形態及び第二実施形態において、流路の内部に開閉可能な遮断弁を設けてもよい。第二実施形態の流路形成構造体1Aに開閉可能な遮断弁23Aを設ける場合を例に、図9を用いて説明する。図9(a)に示すように開閉可能な遮断弁23Aを設けることで、流路を流れる流体の流れを自由に止めることができる。
また、樹脂成形品に開閉可能な蓋部を設け、蓋部を開いたときに形成される開口と流路とが連結されるようにしてもよい。蓋部を設け、ホース等を蓋部に接続することで、流路に流れる流体を外部へ排出したり、流路に流れる流体に他の流体を合流させたりすることができる。
特に、図9(b)、(c)に示すように、第二流路に遮断弁23Aを設けるとともに、第二樹脂成形品に二つの開閉可能な蓋部24Aを設けることで、流路の流れのパターンを変えることができる。具体的に説明すると、図9(b)、(c)に示すように、開閉可能な蓋部24Aは、遮断弁23Aで分割される第二流路内の2つの空間にそれぞれ連結するように設けられる。例えば、遮断弁23Aを閉じ、蓋部24Aを開くことで、図9(b)に示すような2つの連通した流路を、流路形成構造体に形成することができる。また、遮断弁23Aを開け、蓋部24Aを閉じることで、図9(c)に示すような1つの連通した流路を流路形成構造体に形成することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 流路形成構造体
10 第一樹脂成形品
11 溝状の第一凹部
12 第一溶着予定端面
20 第二樹脂成形品
21 溝状の第二凹部
22 第二溶着予定端面
30 第三樹脂成形品
31 第一面
311 第二支持面
32 第二面
321 第一支持面
40 連通流路
41 第一流路
42 第二流路
43 第三流路
44 第四流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一樹脂成形品と、
第二樹脂成形品と、
一方の面に前記第一樹脂成形品が振動溶着され、他方の面に前記第二樹脂成形品が振動溶着される第三樹脂成形品と、
前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第一流路と、
前記第二樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第二流路と、
前記第三樹脂成形品に形成され、前記第一流路と前記第二流路とを連結する第三流路とを備え、
前記第一樹脂成形品及び前記第二樹脂成形品は、溶着面に対して垂直方向から視たときの投影面積が5cm以上300cm以下である流路形成構造体。
【請求項2】
前記第三樹脂成形品は、前記一方の面における前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との溶着面である第一溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第一溶着面に略平行な第一支持面と、
前記他方の面における前記第二樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との溶着面である第二溶着面に対応する位置の少なくとも一部に設けられ、該第二溶着面に略平行な第二支持面と、を備える請求項1に記載の流路形成構造体。
【請求項3】
前記第一支持面は、前記第一溶着面の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられ、
前記第二支持面は、前記第二溶着面の一端側に対応する位置及び他端側に対応する位置にそれぞれ設けられる請求項2に記載の流路形成構造体。
【請求項4】
前記第一樹脂成形品及び/又は前記第三樹脂成形品は、光非透過性樹脂材量からなる請求項1から3のいずれかに記載の流路形成構造体。
【請求項5】
前記樹脂成形品は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂を主成分とする請求項1から4のいずれかに記載の流路形成構造体。
【請求項6】
前記第一樹脂成形品は隔壁部を有し、
前記第一樹脂成形品と前記第三樹脂成形品との間に形成される第四流路と、
前記第四流路と、前記第二流路とを連結する第五流路と、をさらに備え、
前記隔壁部は、前記第一流路と前記第四流路とを仕切るように設けられる請求項1から5のいずれかに記載の流路形成構造体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の流路形成構造体の製造方法であって、
前記第三樹脂成形品の一方の面に前記第一樹脂成形品を配置する第一樹脂成形品配置工程と、
前記一方の面に配置された前記第一樹脂成形品を、前記第三樹脂成形品に振動溶着して前記第一流路を形成する第一流路形成工程と、
前記第三樹脂成形品の他方の面に前記第二樹脂成形品を配置する第二樹脂成形品配置工程と、
前記他方の面に配置された前記第二樹脂成形品を前記第三樹脂成形品に振動溶着して前記第二流路を形成する第二流路形成工程と、を備える流路形成構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−57652(P2012−57652A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198872(P2010−198872)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】