説明

流路構造体

【課題】流体コネクタの接続のためのスペースを小さくすることができる流路構造体を提供する。
【解決手段】基体10内に、断面矩形の流路20を設ける。この流路20に対して、円筒管よりなる流体コネクタ30を、基体10の主面に平行な方向に接続し、外部システムから流体を流路20に導入・導出することにより、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくする。流路20の端部21を、基体10の側面から、基体10の主面に平行な方向に突出した凸部11の内部に形成し、流体コネクタ30を凸部11に接続し、凸部11と流体コネクタ30との接続部分に熱収縮チューブ40を設けることにより、断面形状の異なる流路20と流体コネクタ30とを接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロTAS(Total Analysis System )または燃料電池などに好適な流路構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス基板あるいはプラスチックフィルムなどの基体に形成された微細な流路が、分析装置,化学反応チップまたは生化学実験チップなどとして用いられている。このような流路への流体コネクタ(チューブ)の接続方法としては、例えば、図9に示したように、流路120の出入口121に伸縮性部材122を設け、この伸縮性部材122により、出入口121と流体コネクタ130との隙間Gを埋めるようにしている。また、特許文献1では、流路の開口部の周囲に、他のデバイスと固着可能な粘着性を有する接合部を設けることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−58214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの従来構造では、基体表面に対して垂直な方向にチューブを接続するようにしていたので、基体の垂直方向のスペースが流体コネクタの接続に占有されてしまうこととなり、流体コネクタが接続された基体を平行に積み重ねることができなかった。
【0004】
基体の厚みと、接続する流体コネクタの管径の厚みとをほぼ等しくし、接着剤などで基体の側面に流体コネクタを接続するという方法もあったが、接着の手間がかかることに加えて、流体コネクタの管径(外径)より薄い基板には接続することができなかった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、流体コネクタの接続のためのスペースを小さくすることができる流路構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流路構造体は、基体内に形成された流体の流路と、流路に対して、基体の主面に平行な方向に接続された流体コネクタとを備えたものである。ここにいう「基体の主面」は、基体がガラスやシリコン(Si)などの薄板である場合には平面であるが、必ずしも平面である必要はなく、例えば、基体が可撓性フィルムにより構成されている場合には平面または曲面でありうる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の流路構造体によれば、基体内に形成された流路に対して、基体の主面に平行な方向に流体コネクタを接続するようにしたので、基体の垂直方向のスペースが流体コネクタの接続に占有されてしまうことがなくなる。よって、流体コネクタの接続のためのスペースを小さくすることができ、流体コネクタが接続された基体を平行に積み重ねることができ、集積度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1および図2は、本発明の一実施の形態に係る流路構造体の構成を表したものである。この流路構造体1は、例えば、マイクロTASとして用いられるものであり、基体10内に形成された流体の流路20と、この流路20に接続された流体コネクタ30とを備えている。
【0010】
基体10は、例えば、ガラスあるいはシリコン(Si)等の薄板を切削あるいは張り合わせ、または、プラスチックフィルム等の可撓性フィルムを張り合わせることにより形成されたものである。具体的には、基体10は、図3に示したように、金属またはプラスチック等の薄板10Aを切削加工することにより流路20を形成し、別の薄板または可撓性フィルム10Bを張り合わせたもの、または、図4に示したように、流路20の形状に合わせて切込みを設けた薄板または可撓性フィルム10Cを、他の薄板または可撓性フィルム10B,10Dと張り合わせたものである。そのため、流路20の断面形状は矩形である。なお、流路20は、流体の入口および出口となる2箇所の端部21を有することを除いては、その平面形状は特に限定されない。また、入口側の端部21は、必ずしも一箇所である必要はなく、二箇所以上でもよく、それぞれから異なる流体を流路20に導入できるようにしてもよい。
【0011】
流体コネクタ30は、外部システム(図示せず)から流路20に流体を導入・導出するためのものであり、流路20の断面形状とは異なる断面形状を有している。例えば、流路20の断面形状は上述したように矩形であるのに対して、流体コネクタ30は、例えばポリオレフィンよりなる円筒管である。
【0012】
流体コネクタ30は、流路20に対して、基体10の主面に平行な方向に接続されている。これにより、この流路構造体1では、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくすることができるようになっている。
【0013】
具体的には、流路20の端部21は、基体10の側面から、基体10の主面に平行な方向に突出した凸部11の内部に形成され、流体コネクタ30は凸部11に接続され、凸部11と流体コネクタ30との接続部分には熱収縮チューブ40が設けられている。熱収縮チューブ40は、断面形状の異なる流路20と流体コネクタ30との接続を可能とするためのものであり、例えばポリオレフィンにより構成されている。また、熱収縮チューブ40を設けることにより、流体コネクタ30の管径(外径)よりも基体10が薄い場合にも、流体コネクタ30を基体10の主面に平行な方向に接続することができるようになり、基体10を極めて薄くすることも可能となる。なお、凸部11は、基体10の主面に平行に突出していればよく、必ずしも基体10の側面に垂直な方向に突出している必要はない。
【0014】
この流路構造体1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0015】
まず、図3に示したように、薄板10Aを切削して流路20を形成し、他の薄板10Bを張り合わせることにより、または、図4に示したように、流路20の形状に合わせて切込みを設けた薄板あるいは可撓性フィルム10Bを他の薄板あるいは可撓性フィルム10B,10Dと張り合わせることにより、内部に流路20を有する基体10を形成する。その際、基体10の側面から、基体10の主面に平行な方向に突出した凸部11を設けて、この凸部11内に流路20の端部21を形成する。
【0016】
次いで、上述した材料よりなる熱収縮チューブ40を用意し、この熱収縮チューブ40の一端を凸部11に通す。続いて、熱収縮チューブ40の凸部11にかかる部分を接着する。この接着は、例えば、接着剤を用いてもよいし、凸部11の表面と熱収縮チューブ40の内側とを熱接着性のある材料により構成してもよい。
【0017】
そののち、上述した材料よりなる流体コネクタ30を用意し、この流体コネクタ30を熱収縮チューブ40の他端に通し、熱収縮チューブ40の流体コネクタ30にかかる部分を接着する。この接着は、例えば、接着剤を用いてもよいし、流体コネクタ30の表面と熱収縮チューブ40の内側とを熱接着性のある材料により構成してもよい。なお、基体10および凸部11が変形可能な材料により構成されている場合、流体コネクタ30を、凸部11内の流路20の端部21に差し込むようにしてもよい。以上により、図1および図2に示した流路構造体1が完成する。
【0018】
この流路構造体1では、外部システム(図示せず)から流体が、流体コネクタ30および入口側の端部21を介して流路20に導入され、流路20内において混合、反応、分離、検出などが行われたのち、出口側の端部21から流体コネクタ30を介して導出される。
【0019】
このように本実施の形態では、流体コネクタ30を、流路20に対して、基体10の主面に平行な方向に接続するようにしたので、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくすることができる。よって、流体コネクタ30を接続した基体10を平行に積み重ねることができ、集積度を向上させることができる。
【0020】
(変形例)
図5は、本発明の変形例に係る流路20の端部21を表したものである。本変形例は、上記実施の形態のように基体10の側面に凸部11を形成することが難しく、流路20の端部21が基体10の側面に平行に形成されている場合に、流体コネクタ30を、補助部品50を間にして流路20に接続し、この補助部品50と流体コネクタ30との間に熱収縮チューブ40を設けるようにしたものである。このようにしても、流体コネクタ30を、流路20に対して、基体10の主面に平行な方向に接続することができ、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくし、集積度を高めることができる。
【0021】
補助部品50は、流路20の端部21から90°曲がる屈曲流路51が内部に形成されたものであり、図6に示したように、3枚のプラスチックよりなるフィルム52A,52B,52Cを張り合わせたものである。フィルム52Aには、流路20の端部21との接続孔52A1が設けられている。フィルム52Bには、屈曲流路51の形状の切り抜き52B1が設けられている。フィルム52Bの両面には、熱硬化性接着剤(図示せず)が設けられており、フィルム52A〜52Cを重ねて熱をかけて接着することができるようになっている。なお、フィルム52Aの裏面には接着剤を設けておき、接続したい基体10との接着に用いるようにしてもよい。
【0022】
(適用例1)
以下、上記実施の形態に係る流路構造体1の他の適用例を説明する。図4は、この流路構造体1を、燃料電池の燃料流路に適用した例を表したものである。この燃料電池は、いわゆる固体電解質燃料電池(PEFC)であり、燃料電極(アノード)61および酸素電極(カソード)62の間に電解質膜63を有している。燃料電極61の外側には、上記実施の形態に係る流路構造体1が設けられており、この流路構造体1の流路20を介して、燃料であるメタノールが燃料電極61に供給されるようになっている。なお、本適用例では、図3および図4に示した薄板または可撓性フィルム10Bの代わりに燃料電極61が設けられており、流路20内の燃料が燃料電極61に接触することができるようになっている。酸素電極62の外側には、チタン(Ti)板などの外装部材64が設けられている。
【0023】
燃料電極61および酸素電極62は、カーボンクロス等の表面に、白金(Pt)またはルテニウム(Ru)等を含む触媒層を形成し、裏面にチタン(Ti)メッシュ等の集電体を設けたものである。電解質膜63は、例えば、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸系樹脂(デュポン社製「Nafion(登録商標)」)またはその他のプロトン伝導性を有する樹脂膜により構成されている。燃料電極61,酸素電極62および電解質膜63はガスケット(図示せず)により固定されている。
【0024】
この燃料電池は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上述した材料よりなる電解質膜63を、上述した材料よりなる燃料電極61および酸素電極62の間に挟んで熱圧着することにより、電解質膜63に燃料電極61および酸素電極62を接合する。燃料電極61の外側には、上記実施の形態の流路構造体1を設け、酸素電極62の外側には、上述した材料よりなる外装部材64を配置する。以上により、図7に示した燃料電池が完成する。
【0025】
この燃料電池では、燃料電極61に燃料であるメタノールが供給され、反応によりプロトンと電子とを生成する。プロトンは電解質膜63を通って酸素電極62に移動し、電子および酸素と反応して水を生成する。燃料電極61、酸素電極62および燃料電池全体で起こる反応は、化1で表される。これにより、燃料であるメタノールの化学エネルギーが電気エネルギーに変換されて、燃料電池から電流が取り出され、外部回路(図示せず)が駆動される。
【0026】
(化1)
燃料電極61:CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e-
酸素電極62:6H+ +(3/2)O2 +6e- →3H2
燃料電池全体:CH3 OH+(3/2)O2 →CO2 +2H2
【0027】
その際、燃料であるメタノールは、外部の燃料タンク(図示せず)から、流体コネクタ30および入口側の端部21を介して流路20に導入され、流路20内において燃料電極61の触媒層に接触し、化1の第1式による電池反応が行われたのち、出口側の端部21から流体コネクタ30を介して導出される。
【0028】
本適用例1によれば、燃料の供給路として上記実施の形態に係る流路構造体1を設けるようにしたので、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくすることができ、燃料流路を薄型化することができる。よって、燃料電池を薄型化して平行に積み重ねることができ、集積度を向上させることができる。
【0029】
(適用例2)
図8は、上記実施の形態の流路構造体1を適用した他の燃料電池の構成例を表したものである。この燃料電池は、例えば、電解質膜63に代えて、上記実施の形態の流路構造体1を設け、燃料電極61と酸素電極62との間に液状の電解質である電解液(例えば硫酸)を供給するようにしたものである。このことを除いては、本適用例の燃料電池は、上記適用例1と同様に構成されている。なお、燃料流路となる流路構造体1の流体コネクタ30と、電解液流路となる流路構造体1の流体コネクタ30は、図8のように異なる位置に接続されている必要はなく、同じ位置に重ねて接続されていてもよい。
【0030】
この燃料電池は、電解質膜63に代えて上記実施の形態の流路構造体1を設けることを除いては、上記適用例1と同様にして製造することができる。
【0031】
この燃料電池では、上記適用例1と同様にして化1による電池反応が行われる。その際、燃料は、上記適用例と同様にして流路構造体1の流路20を介して燃料電極61に供給される。また、電解液は、外部の電解液タンク(図示せず)から、流体コネクタ30および入口側の端部21を介して流路20に導入され、反応で生じた二酸化炭素などと共に、出口側の端部21から流体コネクタ30を介して導出される。なお、燃料電極61を通り抜けてきた燃料も、酸素電極62に到達する前に電解液と共に除去され、クロスオーバーが抑制される。
【0032】
このように本適用例2によれば、燃料の供給路に加えて、更に電解液の供給路としても上記実施の形態に係る流路構造体1を設けるようにしたので、流体コネクタ30の接続のためのスペースを小さくすることができ、燃料電極61と酸素電極62との間隔を狭くすることができる。よって、燃料電池を薄型化して平行に積み重ねることができ、集積度を向上させることができる。
【0033】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、上記実施の形態において説明した各構成要素の材料および厚み、接着方法などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の接着方法としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る流路構造体の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した流路構造体の構成を表す平面図である。
【図3】図1および図2に示した流路構造体を分解した構成の一例を表す斜視図である。
【図4】図1および図2に示した流路構造体を分解した構成の他の例を表す斜視図である。
【図5】本発明の変形例に係る流路構造体の構成を表す断面図である。
【図6】図3に示した補助部品の構成を表す分解斜視図である。
【図7】図1および図2に示した流路構造体により燃料流路を構成した燃料電池の構成を表す断面図である。
【図8】図1および図2に示した流路構造体により燃料流路および電解液流路を構成した燃料電池の構成を表す断面図である。
【図9】従来の流路への流体コネクタの接続方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0035】
1…流路構造体、10…基体、11…凸部、20…流路、21…端部、30…流体コネクタ、40…熱収縮チューブ、50…補助部品、51…屈曲流路、61…燃料電極、62…酸素電極、63…電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体内に形成された流体の流路と、
前記流路に対して、前記基体の主面に平行な方向に接続された流体コネクタと
を備えたことを特徴とする流路構造体。
【請求項2】
前記基体は、薄板を切削あるいは張り合わせ、または可撓性フィルムを張り合わせることにより形成されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の流路構造体。
【請求項3】
前記流体コネクタは、前記流路の断面形状とは異なる断面形状を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の流路構造体。
【請求項4】
前記流路の断面形状は矩形であり、前記流体コネクタは円筒管である
ことを特徴とする請求項3記載の流路構造体。
【請求項5】
前記流路の端部は、前記基体の側面から前記基体の主面に平行な方向に突出した凸部の内部に形成され、
前記流体コネクタは前記凸部に接続され、
前記凸部と前記流体コネクタとの接続部分に熱収縮チューブが設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項6】
前記流路の端部は、前記基体の側面に平行に形成されると共に、前記流路の端部から90°曲がる屈曲流路を内部に有する補助部品に接続され、
前記流体コネクタは、前記補助部品に接続され、
前記補助部品と前記流体コネクタとの接続部分に熱収縮チューブが設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項7】
前記基体はマイクロトータルアナリシスシステムである
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項8】
前記基体は燃料電池である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の流路構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−63429(P2009−63429A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231562(P2007−231562)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】