説明

流量制御装置及び流量制御装置が組み込まれた水処理装置

【課題】流体の性状や移送経路の劣化や異物の付着により圧損が変動する場合であっても、適正に流量制御可能な流量制御装置、及び、流体制御装置が組み込まれている水処理装置を提供する。
【解決手段】流量制御装置50の第一制御部51は、パラメータ値の一例である膜間差圧と記憶部53が記憶する制御マップMPに基づいて求めた目標弁開度SDで、移送管20を流れる処理水の流量を調整する流量調整弁21を制御する。第二制御部52は、第一制御部51により流量調整弁21が目標弁開度SDに制御されたときに、流量計55で検知した実移送流量PVと目標移送流量SVの偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量PVが許容範囲に収束するように流量調整弁21をインチング制御することで処理水の移送流量を適切に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の移送管に設置した流量調節機構を制御することにより流体の移送流量を目標移送流量に調節する流量制御装置及び流体制御装置が組み込まれている水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚水を嫌気槽、無酸素槽、好気槽、膜分離槽の順に通水し、汚水中の窒素やリン等を、活性汚泥を利用して除去する汚水処理装置では、膜分離槽にろ過膜が浸漬設置された膜分離装置が備えられ、ろ過膜でろ過された処理水は移送管によって膜分離槽の後段に設置された貯水槽へと排水されるように構成されている。なお、好気槽と膜分離槽とを兼用する場合もある。
【0003】
図7に示すように、特許文献1には、被処理水をろ過して処理水を得るためのろ過膜91が浸漬され、その下部に散気管90が配置された膜分離槽92と、電磁弁94が介装され膜分離槽92に被処理水を供給する被処理水供給配管93と、電磁弁96が介装されろ過膜91でろ過された被処理水を系外に取り出す移送管95を備え、膜分離槽92の液位を検知する液面計97(高水位検知部98と低水位検知部99を有する)の値に基づいて電磁弁94,96を開閉制御する膜分離装置が提案されている。
【0004】
膜分離槽92の被処理水の液位が高水位検知部98の位置に達したときに電磁弁94を閉、電磁弁96を開とし、被処理水の膜分離槽92への供給を停止した状態で被処理水のろ過を行ない、膜分離槽92の被処理水の液位が低水位検知部99の位置に達したときに電磁弁94を開、電磁弁96を閉とし、被処理水のろ過を停止した状態で被処理水を膜分離槽92へ供給することにより、膜分離槽92から被処理水の溢水を回避するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−58970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術は、膜分離槽の液面の高さより貯水槽の液面の高さを低くして、処理水を水頭差に基づいて自然移送するサイフォンの原理を用いることにより、処理水をポンプで移送する場合に必要となる動力コストを削減するものであるが、間歇処理となり膜分離槽で被処理水の性状が変動するという不都合がある。
【0007】
そこで、膜分離槽で被処理水の性状を安定させるために、液位計の高水位検知部と低水位検知部による液面の検知により処理水の移送の開始・停止を制御するのではなく、移送管に流量調整弁を備え、流量調整弁の弁開度を制御することで、膜分離装置に流入する被処理液の流量が増減しても液位が高水位と低水位の間に維持されるように移送流量を制御して連続処理する技術が開発されている。
【0008】
例えば、目標移送流量となるように流量調整弁の弁開度を一定値に調整する制御装置を設けるのである。
【0009】
しかし、ろ過膜により活性汚泥等の懸濁粒子を含む被処理水を固液分離する場合、例えば、MLSS濃度が高くなれば流体の粘度が増すなど、被処理水の性状によりろ過性能が大きく変動する。また、ろ過の進行とともに膜面上或いは膜内部に懸濁粒子などが付着し、圧損が高くなり透過速度が減少する。
【0010】
そのため、同じ膜分離槽の液位、同じ流量調整弁の弁開度でも被処理水の状態やろ過膜の状態によって実移送流量が変動し、図8(a)に示すように、流量調整弁の弁開度を閉状態から目標移送流量に対応した弁開度に調整したにもかかわらず、実移送流量が低く、膜分離槽の液位が増加して溢れる虞があった。
【0011】
また、実移送流量が目標移送流量より大きくなり過度な透過速度でろ過を継続した結果、ろ過膜の目詰まりが早まることもあった。
【0012】
そこで、流量を検知して目標流量となるように弁開度をPID制御する制御装置を設けると、移送管を流れる処理水の移送流量と流量調整弁の弁開度に線形性が保てない領域があり、また、被処理水の粘度が変化すると、実移送流量が目標移送流量に到達するまで時間がかかったり、図8(b)に示すように、実移送流量が目標移送流量に収束せずにハンチングを生じることがあった。
【0013】
一方、PID制御に換えて、流量調整弁をインチング制御することで実移送流量を目標移送流量に近づけることも考えられるが、図8(c)に示すように、インチング制御では、目標移送流量までの到達時間が長くかかり、膜分離槽4が溢れたり、インチング回数が増えることによって、流量調整弁の可動部が消耗して取り換えの頻度が増える虞があった。
【0014】
このような問題は、ろ過膜でろ過された処理水を貯水槽へ排水するための流量調整に限るものではなく、性状が変動する流体の移送制御全般に生起する問題である。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、流体の性状や移送経路の劣化や異物の付着により圧損が変動する場合であっても、適正に流量制御可能な流量制御装置、及び、流体制御装置が組み込まれている水処理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明による流量制御装置の特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、流体の移送管に設置した流量調節機構を制御することにより流体の移送流量を目標移送流量に調節する流量制御装置であって、流体または移送経路の状態を示すパラメータ値と関連付けて設定した目標移送流量に対応して、前記流量調節機構の目標制御値を規定する制御マップが記憶された記憶部と、測定器で検知されたパラメータ値と前記制御マップに基づいて求めた目標制御値で前記流量調節機構を制御する第一制御部と、第一制御部により前記流量調節機構が目標制御値に制御されたときに、流量計で検知した実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量が許容範囲に収束するように制御値を調整して前記流量調節機構を制御する第二制御部と、を備えていることを特徴とする点にある。
【0017】
上述の構成によれば、第一制御部は、記憶部が記憶する流体または移送経路の状態を示すパラメータ値と関連付けて設定した目標移送流量に対応して前記流量調節機構の目標制御値を規定する制御マップと、測定器で検知されたパラメータ値に基づいて求めた目標制御値で前記流量調節機構を制御するので、目標移送流量近傍までの到達時間を短縮できる。
【0018】
第二制御部は、流量計で検知した実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱している、つまり、第一制御部が流体または移送経路の状態に応じて流量調整機構を制御しても、実移送流量が目標移送流量に到達しない場合に、実移送流量が許容範囲に収束するように制御値を調整して前記流量調節機構を制御するので、素早く目標移送流量を得ることができる。
【0019】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記第二制御部は、実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量が許容範囲に収束するように前記流量調節機構をインチング制御することを特徴とする点にある。
【0020】
上述の構成によれば、第一制御部により流量調整機構を制御し、目標移送流量近傍まで調整してから、第二制御部により流量調整機構をインチング制御して実移送流量を目標流量に近づけるので、実移送流量が目標移送流量となるまでインチング制御のみを繰り返す場合に比べて、流量調整機構の制御回数を低減できるため、寿命を向上することができる。
【0021】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記第二制御部は、実移送流量が許容範囲に収束すると、そのときの制御値に前記制御マップの目標制御値を更新処理することを特徴とする点にある。
【0022】
上述の構成によれば、流量への影響因子であるパラメータ値に対する実移送流量と流量調整機構の制御値の関係を更新処理することにより、記憶部に記憶される制御マップは、流体または移送経路の状態を示すパラメータ値に対する制御値が最適な値に保たれ、次回の流量調整時に素早く目標移送流量を得ることができる。
【0023】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記流量調節機構が流量調整弁であり、制御値が流量調整弁の弁開度であることを特徴とする点にある。
【0024】
上述の構成によれば、同じ流量調整弁の弁開度でも被処理水の状態によって実移送流量が変動し、流量調整弁の弁開度を目標移送流量に対応した弁開度に調整したにもかかわらず、実移送流量が低いような場合でも、素早く最適な弁開度に制御することができる。
【0025】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記流体が汚水またはその処理水であり、前記パラメータ値が、処理槽液位、MLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度、アンモニア性窒素濃度、リン酸濃度、膜間差圧、曝気風量の少なくとも一つであることを特徴とする点にある。
【0026】
上述の構成によれば、処理槽液位、MLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度、アンモニア性窒素濃度、リン酸濃度、膜間差圧、曝気風量のような、実移送流量に直接または間接的に影響を与える汚水またはその処理水の状態を示す因子や、汚水の処理の程度を示すもの、または、その移送経路の状態を示すものから選ばれる少なくとも一つをパラメータ値として採用し、当該パラメータ値に関連付けた目標移送流量に対応する目標制御値を記憶しておくことで、汚水またはその処理水の粘度の変動によるろ過性能の変動や、移送管内の劣化や異物の付着による圧損の変動に応じた素早い流量調整が可能となる。
【0027】
本発明による汚水を処理する水処理装置の第一特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第五特徴構成を備えた流量制御装置が組み込まれていることを特徴とする点にある。
【0028】
同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記水処理装置は、処理槽内にろ過膜が浸漬設置された膜分離装置であって、前記流量制御装置は、前記ろ過膜によりろ過される処理水の移送流量を制御することを特徴とする点にある。
【0029】
膜分離装置は、処理槽液位が高ければ処理槽から溢れることを防ぐために移送流量を多くする必要がある。膜間差圧が大きくなると処理水の実移送流量が減少し、水頭差が大きくなれば実移送流量は増大する。MLSS濃度が高かったり、温度が低ければ流体の粘度が増し、ろ過性能が低下したり処理水の実移送流量が減少する。
【0030】
硝酸性窒素濃度が極端に大きいときや、アンモニア性窒素濃度が極端に小さいときその他pH、酸化還元電位、電気伝導度、リン酸濃度の変動によっても、活性汚泥の自己解体によって生じる膜ファウリング原因物質の発生量が多くなり、ろ過の進行とともに膜面上或いは膜内部に懸濁粒子などが多量に付着し、圧損が高くなり透過速度が減少して実移送流量が減少する。また、このような現象は、溶存酸素濃度や曝気風量に起因することもある。
【0031】
上述の構成によれば、パラメータ値に関連付けて設定した目標流量に対応する目標制御値で流量調節機構を制御することで、処理水の粘度の変動によりろ過性能が変動したり、移送管内の劣化や異物の付着による圧損の変動に追随した流量調整が行える。さらに、実移送流量が目標流量に到達しない場合に、制御値を調整して流量調整機構を制御することで実移送流量が目標移送流量の許容範囲に収束するように調整できるのである。
【0032】
同第三の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第二特徴構成に加えて、前記膜分離装置は、前記処理槽の内外の水頭差によりろ過液を自然排出する移送管を備え、前記流量制御装置は前記移送管に設置した流量調節機構を制御することを特徴とする点にある。
【0033】
上述の構成によれば、同じ膜分離槽の液位、同じ流量調整機構の制御値でも被処理水の粘度やろ過膜の目詰まり、移送管内の劣化や異物の付着による圧損の変動によって移送管を流れる実移送流量が変動し、流量調整機構の制御値を目標移送流量に対応した目標制御値に調整したにもかかわらず、実移送流量が低いような場合でも、素早く実移送流量を目標移送流量に調整できる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した通り、本発明によれば、流体の性状や移送経路の劣化や異物の付着により圧損が変動する場合であっても、適正に流量制御可能な流量制御装置、及び、流体制御装置が組み込まれている水処理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による汚水処理装置の説明図
【図2】膜分離装置、移送管、気液分離タンク及び貯水槽の説明図
【図3】制御装置の説明図
【図4】記憶部に記憶された制御マップの説明図で、(a)は初回制御の際の説明図、(b)は目標制御値の書き換え後の説明図、(c)は別実施例による制御マップの説明図
【図5】制御装置による制御を説明するフローチャート
【図6】(a)は、実移送流量と目標移送流量の説明図、(b)はインチング制御による流量変動の説明図
【図7】従来の膜分離装置の説明図
【図8】従来の移送流量制御の説明図で、(a)はオペレータによる移送流量制御の説明図、(b)はPID制御による移送流量制御の説明図、(c)はインチング制御による移送流量制御の説明図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明による流量制御装置及び流量制御装置が組み込まれた汚水を処理する水処理装置を汚水処理装置に適用した場合の実施形態を説明する。
【0037】
図1に示すように、汚水処理装置100は、未処理の被処理水である原水を流入させる嫌気槽1と、嫌気槽1の下流側に隣接した無酸素槽2と、無酸素槽2の下流側に隣接した好気槽3と、好気槽3の下流側に隣接した膜分離槽4が、それぞれ隔壁で分離されて構成されている。
【0038】
嫌気槽1では、嫌気条件下で微生物により嫌気処理され、原水に含まれるBOD成分が微生物に取り込まれるとともに、リン化合物が加水分解されて正リン酸としてりリンが液中に放出される。
【0039】
無酸素槽2では、嫌気槽1から流入した被処理水が無酸素条件下で微生物により無酸素処理され、硝酸イオン及び亜硝酸イオンの窒素ガスへの還元処理、つまり脱窒処理が行なわれる。
【0040】
無酸素槽2には、流体つまり、被処理水の状態を示すパラメータ値であるMLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度等を検知する測定器58が備えられている。
【0041】
好気槽3には、底部に散気装置5が設置され、無酸素槽2から流入した被処理水に含まれるし尿等が由来のアンモニウムイオンが、好気条件下で微生物により酸化され、亜硝酸や硝酸に変換される硝化処理が行なわれ、さらに、被処理水中の正リン酸が汚泥に取り込まれ、ポリリン酸として蓄積される好気性処理が行なわれる。
【0042】
膜分離槽4には、好気槽3から流入した被処理水を固液分離する水処理装置の一例としての膜分離装置6が浸漬設置され、膜分離槽4の状態である液位PLを検知する測定器としての液位計57、及び、被処理水の状態を示すMLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、リン酸濃度等を検知する測定器54、下部に余剰汚泥を排出する余剰汚泥排出管路11が備えられている。
【0043】
膜分離槽4は被処理水を貯え、ろ過膜を被処理水に浸漬することができれば特に制限されるものではなく、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽等が好ましく用いられる。
【0044】
膜分離装置6は、ろ過膜6aにより被処理水から活性汚泥等の固形物が分離された処理水を、移送管20により貯水槽12に移送するように構成されている。貯水槽12には、貯水槽12内の液位を検知する液位計14が備えられている。
【0045】
膜分離装置6の下部には、膜分離装置6の膜表面を洗浄する散気装置7が配設されている。散気装置7は、制御装置40により制御される図示しないブロワから供給される空気により、被処理水に膜面に対して平行な流速を付与し、膜表面に蓄積した汚れ物質を剥離させるとともに、膜分離槽4内の被処理水が含有する活性汚泥に酸素を供給する。これにより膜分離槽4内は好気条件となり、活性汚泥によって被処理水の硝化処理が行なわれる。
【0046】
さらに、汚水処理装置100は、膜分離槽4内の被処理水を好気槽3へ循環させる第一の循環路8と、膜分離槽4内の被処理水を無酸素槽2へ循環させる第二の循環路9と、無酸素槽2内の被処理水を嫌気槽1へ循環させる第三の循環路10を備え、それぞれの排水ポンプにより被処理水を圧送するように構成されている。
【0047】
各処理槽1,2,3で生物処理された被処理水は、隔壁の下部に形成された開口部を介して下流側に移送され、或いは、隔壁をオーバーフローして下流側に移送される。
【0048】
膜分離装置6について説明する。
図2に示すように、膜分離装置6はろ過膜6aによりろ過した処理水を後段に設置した貯水槽12に移送する移送管20を備えている。なお、図2では第一の循環路8、第二の循環路9の図示は省略する。
【0049】
膜分離装置6に用いられるろ過膜6aとして、限外ろ過膜、精密ろ過膜等が採用される。膜の形態は、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが採用される。
【0050】
移送管20は、移送管20を流れる処理水の流量を調整する流量調節機構としての流量調整弁21と、流量を検知する流量計55と、移送管20内の圧力を検知する測定器としての圧力計56とを備えている。
【0051】
移送管20は、一端がろ過膜のろ過液側に配置され、他端は膜分離槽4の後段であって、その液面が常に膜分離槽4の液面より低く設定された貯水槽12に開放されている。
【0052】
さらに、移送管20は、流量調整弁21と貯水槽12の間であって、膜分離槽4の液面より常に高くなる位置に気液分離タンク22を備えている。
【0053】
よって、本実施形態の場合、膜分離槽4、ろ過膜6a、移送管20、貯水槽12が流体である被処理水の移送経路となる。
【0054】
流量調整弁21は、流量制御装置50により制御され、移送管20内を流れる処理水の移送流量を調整し、膜分離槽4の液位が最高水位HWLと最低水位LWLとの間で変化するように構成されている。ろ過膜6aは常に最低水位LWLより下に浸漬されるように配置される。
【0055】
流量制御弁21は、バタフライ弁、ボール弁等、移送管を流れる流体の流量を調整できる公知の弁機構から適宜選択して用いることができる。
【0056】
気液分離タンク22は、気液分離タンク22内の気体を排出するための真空ポンプ23及び気液分離タンク22を大気開放するための電磁弁24と、通電時は閉、停電時は開となりサイフォンブレーカとして働く電磁弁25と、気液分離タンク内の液位を検知する液位計26を備えている。真空ポンプ23は制御装置40に組み込まれたポンプ制御部41により制御される。
【0057】
気液分離タンク22に備えられた真空ポンプ23により気液分離タンク22内の空気を外部に排出することで、気液分離タンク22内は負圧になり、処理水は移送管20を通って気液分離タンク22内に貯留される。
【0058】
気液分離タンク22内のサイフォン用最低水位SLWL以上に処理水が貯留された状態、つまり移送管20内に処理水が満たされると、移送管20の一端側の膜分離槽4の液面PLと、他端側の貯水槽12の液面LLWLとの水頭差に応じた水頭圧力差が生じ、この水頭圧力差によりサイフォンの原理で膜分離装置6のろ過膜により被処理水がろ過され、ろ過されたろ過膜の内側の処理水が移送管20を通って貯水槽12へと移送される。
【0059】
このように、一度処理水が移送管20を流れだすと、処理水を移送するための動力は必要とせず経済的である。なお、貯水槽12に貯水された処理水は、排水管13により適宜排水される。
【0060】
なお、上述した液位計57、液位計14、液位計26は、電極式、静電容量式、フロート式、超音波式、圧力式等液位を計測できる公知の液位計から適宜選択して用いることができる。液位計57、液位計14に関しては、膜分離槽4及び貯水槽12の水頭差を算出する観点から連続式の液位計が好ましい。
【0061】
図3に示すように、制御装置40は、ポンプ制御部41と流量制御装置50を備えている。
【0062】
ポンプ制御部41は、電磁弁24を開放して真空ポンプ23を起動して気液分離タンク22内に処理水を貯留し、液位計26が高水位SHWLを検出すると、真空ポンプ23を停止し電磁弁24を遮断するように構成されている。
【0063】
流量制御装置50には、第一制御部51、第二制御部52、記憶部53等が備えられ、移送管20に設置した流量調整弁21の制御値である弁開度を制御することにより移送管20を流れる流量を調節するように構成されている。
【0064】
記憶部53には、被処理水または移送経路である膜分離槽4、ろ過膜6a、移送管20の状態を示すパラメータ値と関連付けて設定した目標移送流量に対応して、流量調節弁21の目標制御値である目標弁開度を規定する制御マップMPが記憶されている。
【0065】
第一制御部51は、液位計57、液位計14、測定器54、圧力計56で検知されたパラメータ値と制御マップMPに基づいて求めた目標弁開度で流量調節弁21を制御する。
【0066】
第二制御部52は、第一制御部51により流量調節弁21が目標弁開度に制御されたときに、流量計55で検知した実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量が許容範囲に収束するように制御値である弁開度を調整して流量調節弁21を制御する。
【0067】
被処理水の状態を示すパラメータ値とは、MLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度、アンモニア性窒素濃度、リン酸濃度、曝気風量であり、実移送流量に直接または間接的に影響を与える汚水またはその処理水の状態を示す因子や、汚水の処理の程度を示すものであり、当該パラメータの変動により、活性汚泥の自己分解による膜ファウリングの原因物質の発生等により、流体の粘度が変動するものである。
【0068】
移送経路である膜分離槽4、ろ過膜6a、移送管20、貯水槽12の状態を示すパラメータ値とは、膜分離槽4の液位、貯水槽12の液位、膜間差圧であり、当該パラメータ値の変動により、ろ過膜の透過速度や移送管20を流れる圧損が変動するものである。
【0069】
なお、膜間差圧は、圧力計56の設置される移送管20と膜分離槽4の液位PLの高低差、及び、圧力計56が検知した移送管20内の圧力から求められる。
【0070】
以下、パラメータ値として膜分離槽4の液位を採用した場合について説明する。膜分離槽4の液位が変動すると、膜分離槽4の液面と他端側の貯水槽12の液面LLWLとの水頭差が変動し、水頭圧力差が変動するため、ろ過膜6aの透過速度や移送管20を流れる圧損が変動するからである。
【0071】
記憶部53は、図4(a)に示すように、膜分離槽4内の液位PLと関連付けて設定した目標移送流量SVに対応して、流量調整弁21の目標弁開度SDを規定する制御マップMPを記憶している。
【0072】
第一制御部51は、液位計57で検知された液位PLと制御マップMPに基づいて求めた目標弁開度SDで流量調整弁21を制御する。例えば、膜分離槽4内の液位PLがα以上でβより小さい範囲にあるときは、目標移送流量SV2を達成するために流量調節弁21の弁開度は目標弁開度SD2に調整される。
【0073】
図6(a)に示すように、流量調整弁21が目標弁開度SD2に制御されると移送管20を流れる流量は目標移送流量SV2となるはずである。しかし、同じ膜分離槽4の液位PL、同じ流量調整弁21の目標弁開度SD2でも被処理水の
状態により、活性汚泥の自己分解による膜ファウリングの原因物質が発生し、ろ過膜6aが目詰まりして透過速度が減少したり、移送管20の劣化や異物の付着により圧損が増大して、実移送流量PVが減少し、目標移送流量SV2に満たないことがある。
【0074】
このような場合に、第二制御部52は、第一制御部51により流量調整弁21が目標弁開度SD2に制御されたときに、流量計55で検知した実移送流量PVと目標移送流量SV2の偏差が許容範囲を逸脱していると、図6(b)に示すように、実移送流量PVが許容範囲に収束するように流量調整弁21をインチング制御することで処理水の移送流量を適切に制御するのである。
【0075】
第二制御部52は、実移送流量PVが許容範囲に収束すると、そのときの弁開度PDで制御マップMPの目標弁開度を更新処理する。よって、図4(b)に示すように、以後の流量調整において膜分離槽4内の液位PLがα以上でβより小さい範囲にあるとき、目標移送流量SV2で排水するために流量調節弁21の弁開度は目標弁開度PDで制御される。
【0076】
更新処理された目標弁開度PDは、膜分離槽4内の被処理水の直近の状態を反映しているので、次にこの目標制御値PDに制御したとき、精度よく目標移送流量SV2に調整することができるのである。
【0077】
移送管20による膜分離槽4内の処理水の移送は必ずしも連続して行う必要はなく、流量調整弁21を適宜開閉して間欠的に行ってもよい。例えば、流量調整弁21を13分間開いて処理水の移送を行ない、2分間閉じて処理水の移送を中断するように制御してもよい。この場合、制御マップの更新処理は、流量調整弁21が開いている13分の間に行ってもよいし、流量調整弁21が閉じている2分の間に行ってもよい。
【0078】
以上のように構成された流量制御装置50による移送流量の制御について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0079】
まず、移送管20による処理水の移送が開始されると、液位計57によって膜分離槽内4内の液位PLが第一制御部51に入力される。(SA1)。次に、第一制御部51は、液位PLと、記憶部53が記憶した液位PLと関連付けて設定された目標移送流量SVに対応する流量調整弁21の目標弁開度SDに基づいて、流量調整弁21の弁開度を制御する(SA2)。
【0080】
流量計55により流量調整弁21の弁開度が目標弁開度SDに制御されたときの実移送流量PVが検知されると(SA3)、第二制御部52は実移送流量PVと目標移送流量SVとの偏差を算出し、前記偏差が許容範囲内であるかどうかを判断する(SA4)。
【0081】
第二制御部52は、前記偏差が許容範囲を逸脱していると(SA4でNO)、実移送流量PVが許容範囲に収束するように流量調節弁21をインチング制御し(SA5)、そのときの弁開度PDに制御マップMPの目標弁開度SDが更新処理される(SA6)。つまり、次回の流量調整弁21の制御時には、液位PLのときに目標移送流量SVを得るために、目標弁開度PDで制御される。
【0082】
以上の制御が流量制御装置50で所定時間経過毎に繰り返され(SA7)、制御マップMPに記憶された液位PLに関連付けて設定した目標移送流量に対応した目標弁開度は常に最適に保たれる。
【0083】
上述の実施形態では、制御マップMPに記憶するパラメータ値として液位PLを採用した場合について説明したが、パラメータ値は液位PLに限らず、測定器54で検知されるMLSS濃度、温度、電気伝導度や、圧力計56で検知される膜間差圧、散気装置7のブロワの制御値により求まる曝気風量から選ばれる1つまたは何れかの組み合わせであってもよい。
【0084】
例えば、パラメータ値として膜間差圧と関連付けて目標移送流量に対応する目標弁開度を規定して、ろ過膜6aの膜間差圧に応じて目標移送流量に対応する目標弁開度を設定してもよいし、図4(c)に示すように、液位PLと膜間差圧MLの組み合わせで目標弁開度を規定すると、より目標移送流量への到達時間を短縮することができる。
【0085】
さらに、パラメータ値は槽内の好気性処理の指標にもなる溶存酸素濃度、酸化還元電位、硝酸性窒素濃度、pH、アンモニア性窒素濃度、リン酸濃度等を採用することもできる。
【0086】
酸化還元電位が高い場合には処理水が溶存酸素濃度の高い酸化状態にあると判定でき、硝酸性窒素濃度が高い場合にも高溶存酸素濃度により硝化反応が著しい状態であると判定でき、活性汚泥の自己分解による膜ファウリングの原因物質が発生しているために、ろ過膜が目詰まりして透過速度が減少したり、移送管の劣化や異物の付着により圧損が増大して、移送管20を流れる被処理水の実移移送流量が目標移送流量に満たない場合がある。
【0087】
膜分離槽内の好気性処理の指標にもなるpH、アンモニア性窒素濃度等を採用した場合は、pH値が小さくなり、或いはアンモニア性窒素濃度が低くなると、高溶存酸素濃度の下で硝化反応が進行していると判定でき、活性汚泥の自己分解による膜ファウリングの原因物質が発生しているために、ろ過膜が目詰まりして透過速度が減少したり、移送管の劣化や異物の付着により圧損が増大して、移送管20を流れる被処理水の実移移送流量が目標移送流量に満たない場合がある。
【0088】
よって、実移送流量に直接または間接的に影響を与える汚水またはその処理水の状態を示す因子や、汚水の処理の程度を示すものをパラメータ値として採用し、第一制御部51は記憶部53が記憶する当該パラメータ値と関連付けて設定した目標移送流量SVに対応して、流量調節弁21の目標弁開度を規定する制御マップMPと、測定器54で検知されたパラメータ値に基づいて求めた目標弁開度SDで流量調節弁21を制御するので、目標移送流量SV近傍までの到達時間を短縮できる。
【0089】
上述した実施形態では、流量調整機構として流量調整弁21を採用した構成について説明したが、流量調整機構は流量調整弁に限らず、流体を圧送または吸引するポンプであってもよい。ポンプの回転数が同じであっても、流体または移送経路の状態によって移送管を流れる流量が変動する場合に好適に用いることができる。その場合、インバータ回路によりポンプの電動機の回転数を制御値として制御し移送流量を調整すればよい。
【0090】
さらに、流量調整機構は膜分離装置6の移送管に用いる場合に限らず、図1に示すような、膜分離槽4内の被処理水を好気槽3へ循環させる第一の循環路8、膜分離槽4内の被処理水を無酸素槽2へ循環させる第二の循環路9、無酸素槽2内の被処理水を嫌気槽1へ循環させる第三の循環路10、余剰汚泥排出管路11等に適用でき、この場合、循環路8,9,10,余剰汚泥排出管路11及び各ポンプが移送経路となり、循環路8,9,10,余剰汚泥排出管路11が備える各ポンプが流量調整機構となる。
【0091】
例えば、第一の循環路8に流量調整機構を適用する場合、記憶部53には、例えば、パラメータ値として測定器54で検知したMLSS濃度と関連付けて設定した目標移送流量に対応して排水ポンプの目標回転数が記憶された制御マップを備えておく。第一制御部51で、MLSS濃度に基づいて目標移送流量を求め、ポンプを目標回転数で制御する。
【0092】
MLSS濃度が高く、活性汚泥の粘度が大きくなっていたり、循環路8の劣化や異物の付着により圧損が大きくなっている場合は、被処理水は循環路8を流れにくくなり、実移移送流量が目標移送流量に満たないことになる。
【0093】
実移移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱しているときは、第二制御部52でポンプの回転数を上げて移送流量を増やし、目標移送流量を得ることができる。
【0094】
さらに、パラメータ値は槽内の温度とすることも可能であり、また、酸化還元電位、硝酸性窒素濃度、pH、アンモニア性窒素濃度、電気伝導度、溶存酸素濃度を組み合わせることも可能である。
【0095】
第三の循環路10に流量調整機構を適用する場合は、記憶部53に測定器58で検知したパラメータ値であるMLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度から選ばれる1つまたは何れかの組み合わせと関連付けて目標移送流量と目標制御値を設定することで、上述と同様に制御することができる。
【0096】
さらに、本発明による流量制御装置は、汚水処理装置の被処理水の移送管に用いる場合に限らず、河川水、湖沼水、凝集処理後水、生物処理水、工業用水、各種排水等を移送する移送管に用いることもできる。
【0097】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0098】
1:嫌気槽
2:無酸素槽
3:好気槽
4:膜分離槽
5:余剰汚泥排出管
6:膜分離装置(水処理装置)
6a:ろ過膜
7:散気装置
8:第一の循環路
9:第二の循環路
10:第三の循環路
11:余剰汚泥排出管路
12:貯水槽
13:排水管
14:液位計
20:移送管
21:流量調整弁(流量調節機構)
22:気液分離タンク
23:真空ポンプ
24:電磁弁
25:電磁弁
26:液位計
40:制御装置
41:ポンプ制御部
50:流量制御装置
51:第一制御部
52:第二制御部
53:記憶部
54:測定器
55:流量計
56:圧力計
57:液位計
58:測定器
100:汚水処理装置
PL:液位(パラメータ値)
ML:膜間差圧(パラメータ値)
MP:制御マップ
SV:目標移送流量
PV:実移送流量
SD:目標弁開度(目標制御値)
PD:弁開度(制御値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の移送管に設置した流量調節機構を制御することにより流体の移送流量を目標移送流量に調節する流量制御装置であって、
流体または移送経路の状態を示すパラメータ値と関連付けて設定した目標移送流量に対応して、前記流量調節機構の目標制御値を規定する制御マップが記憶された記憶部と、
測定器で検知されたパラメータ値と前記制御マップに基づいて求めた目標制御値で前記流量調節機構を制御する第一制御部と、
第一制御部により前記流量調節機構が目標制御値に制御されたときに、流量計で検知した実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量が許容範囲に収束するように制御値を調整して前記流量調節機構を制御する第二制御部と、
を備えていることを特徴とする流量制御装置。
【請求項2】
前記第二制御部は、実移送流量と目標移送流量の偏差が許容範囲を逸脱していると、実移送流量が許容範囲に収束するように前記流量調節機構をインチング制御することを特徴とする請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記第二制御部は、実移送流量が許容範囲に収束すると、そのときの制御値に前記制御マップの目標制御値を更新処理することを特徴とする請求項1または2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記流量調節機構が流量調整弁であり、制御値が流量調整弁の弁開度であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記流体が汚水またはその処理水であり、
前記パラメータ値が、処理槽液位、MLSS濃度、温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、溶存酸素濃度、硝酸性窒素濃度、アンモニア性窒素濃度、リン酸濃度、膜間差圧、曝気風量の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記汚水を処理する水処理装置であって、
請求項5に記載の流量制御装置が組み込まれていることを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
前記水処理装置は、処理槽内にろ過膜が浸漬設置された膜分離装置であって、
前記流量制御装置は、前記ろ過膜によりろ過される処理水の移送流量を制御することを特徴とする請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記膜分離装置は、前記処理槽の内外の水頭差によりろ過液を自然排出する移送管を備え、前記流量制御装置は前記移送管に設置した流量調節機構を制御することを特徴とする請求項7に記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196843(P2010−196843A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44166(P2009−44166)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】