説明

流量算出方法

【課題】種々の条件下(例えば、粘性が比較的高い気体で、一次圧が低く、しかも差圧が小さいような圧力条件下)でも、精度よく流量を算出でき、FF制御等の利点である速応性を活かすことのできる流量算出方法等を提供する。
【解決手段】バルブの開度に応じて予め定められているCv値と、バルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式と、に基づいて当該バルブを流れるガスの流量を算出する流量算出方法において、前記圧力式を、式の形は同一でありながら圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流量制御等に用いられるものであり、例えば固体高分子電解質型燃料電池に用いられる水蒸気の流量制御等に好適に適用することができる流量算出方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cv値とは、弁容量係数と称されるもので、流量調整バルブの容量を表す指標である。このCv値は、バルブを通過する流体の流量を、ある一定の圧力条件下で、バルブ開度毎に実測することで定められる。具体的に説明すると、あるバルブ開度でのCv値は、その前後差圧を一定(1psi)に保って60°Fの水が1分間に流れる量をUSガロンで表した値で示される。例えば、10USgal/minの水が流れれば、Cv値は10ということになる。
【0003】
このCv値は、あるバルブ開度dにしたときの流量を算出する場合に用いられる。例えば、水蒸気の場合、あるバルブ開度dにしたときに当該バルブを流れる水蒸気の流量W[kg/h]は、従来、以下の流量算出式2で求める事ができる。
【数1】


ここで、TSHは水蒸気の過熱度[℃]、Pはバルブ一次圧(入口圧)[kg・cm3abs]、Pはバルブ二次圧(入口圧)[kg・cm3abs]、ΔPは差圧[kg・cm3abs]である。
【0004】
一方、目標となる流量を決めれば、前記流量算出式の逆関数によってバルブの開度を定めることができる。つまり、フィードフォワード(以下FFともいう)方式あるいはオープンループ方式でバルブの流量制御をする場合は、圧力条件を測定しておいて、それと既知のCv値とから前記流量算出式を利用することで、目標流量となるようにバルブ開度を設定することができる。
【0005】
このようなFF方式等は、速応性に富むため、うまく利用する事で、流体の流量制御を高速に行うことができる。
【0006】
ところが、例えば、固体高分子電解質型燃料電池での、原料ガス(アノードガス、カソードガス)に混合される水蒸気を流量制御する場合などのように、粘性が比較的高い流体で、少流量かつ差圧が小さいような圧力条件下では、上述した従来の流量算出式で求めた算出流量と実際の流量との間に誤差が生じるという不具合を有している。
【0007】
こういったことから、前述した燃料電池への水蒸気供給といった用途においては、精度の点から、実流量等を測定して(前述の固体高分子電解質型燃料電池では、露点を測定して)バルブ開度にフィードバックをかけるというフィードバック(以下FBともいう)方式を主体として用いているのが実情である(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上述したFF方式等と比較して応答性に劣るという不利な点が生じるのは否めない。
【0008】
その他に、予め、圧力条件等を種々変えながらバルブ開度毎にどれくらいの流体が流れるかを試験して検量線を作成し、実際の使用にあたっては、その検量線を利用してバルブ開度を算出するようにして、無理やりFF制御することも考えられる。しかしながら、バルブごとに検量線を作成しなければならないうえ、変化させる圧力条件等のパラメータが多く、検量線を作成するには多大な時間と労力とを必要とするため、これは実用に耐え得るものではない。
【特許文献1】特開2004−220868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の不具合に鑑みてなされたものであって、その主たる目的とするところは、種々の条件下(例えば、粘性が比較的高い気体で、一次圧が低く、しかも差圧が小さいような圧力条件下)でも、精度よく流量を算出でき、FF制御等の利点である速応性を活かすことのできる流量算出方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明にかかる流量算出方法は、バルブの開度に応じて予め定められているCv値と、バルブの前後圧や差圧等の圧力値を含んだ圧力式と、に基づいて当該バルブを流れる流体の流量を算出する流量算出方法であって、前記圧力式が、式の形は同一で圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変化するように定められているものであることを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、Cv値のみならず、圧力式そのものも、バルブ開度に応じて変化するように設定できるので、従来に比べ、圧力条件や流体条件の広い範囲に亘って、実際に流れる流量と誤差の非常に少ない流量を算出することができる。
【0012】
さらにこの流量算出方法を利用すれば、逆に目標流量となるバルブ開度をより精度よく算出することができるので、従来、流量制御における精度の点からFF制御が難しいとされていた条件下(例えば少流量、低差圧)でも、FF制御の適用が可能になり、その特徴である応答性のよさを活かすことができるようになる。
【0013】
また、前記圧力式を定めるには、予め試験をして実際に流れる流量の測定結果を必要とするが、圧力式の形そのものは決まっており、その式に含まれる設定係数を定めるだけなので、測定点数も多くは不要であるなど、その試験にかかる時間や労力が実用性を超えて無理なものになることもない。ここで、圧力式とは、バルブを流れる流体の圧力を変数とする関数式のことであり、圧力式の形が同一とは、圧力を表す符号とその余の設定係数を表す符号とで表現される数式の形が同一であると言う意味である。
【0014】
ところで、前記設定係数が多すぎると、これらを定める手間が大きくなるし、逆に少なすぎると算出流量に誤差が生じるおそれがでてくるので、設定係数は、前記圧力式に2つ程度含まれているのが好ましい。
【0015】
本願発明者が実験を重ね、鋭意検討した結果導き出した具体的な圧力式とは、以下の(式1)で表される項を含むものである。そして、この(式1)中、aとbとがバルブ開度に応じて変化する設定係数である。また、Pはバルブの一次圧、Pはバルブの二次圧、ΔPは差圧(P−P)である。
【0016】
a{ΔP(P+P)}・・・(式1)
【0017】
この流量算出方法を装置に適用した態様は、以下のようなものである。すなわち、バルブの開度に応じて予め定められているCv値を記憶しているCv値記憶部と、バルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式を記憶している圧力式記憶部と、それらCv値及び圧力式から当該バルブに流れるべき流体の流量を算出する流量算出部とを備え、前記圧力式記憶部で記憶されている圧力式が、式の形は同一でありながら圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わることを特徴とする流量算出装置である(請求項4)。
【0018】
また、この流量算出方法は、前述したようにバルブ開度設定方法(請求項5)や流量制御装置(請求項6)にも利用できる。
【0019】
このような本発明の効果が特に顕著になる具体的適用分野としては、燃料電池用のアノードガス又はカソードガスに混合させる水蒸気の流量制御分野を挙げることができる。特に燃料電池評価システムでは、蒸気一次圧を上げると、そのラインの保温温度を上昇させなければならないが、そうすると部品の耐熱温度や、蒸気混合後のガス過熱温度が高くなるため、蒸気一次圧を必要以上に上げられないという制約がある。しかも種々の評価試験を行う上で、燃料電池の背圧との関係で差圧を小さく抑えて小流量にしたり、背圧のかかった状態で低露点すなわち少蒸気流量にしたり、流量変更時に露点が一定値で安定するように蒸気流量を変更したりする必要があり、このような場合、蒸気流量を応答性よくしたいといった要求があるところ、そのような要求に対して、本発明を適用すれば、無理なく応えることができ、その効果が非常に有用なものとなる。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明によれば、比較的簡単な測定試験をして圧力式を定めておくだけで、種々の条件下(例えば、粘性が比較的高い流体で、少流量、低差圧の圧力条件下)でも、バルブ開度に応じた流量を精度よく算出できるようになる。またその逆で、上述した種々の条件下でも、目標流量となるようなバルブ開度を精度よく算出できるので、バルブによる流量FF制御の適用範囲を大幅に広げることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、固体高分子型燃料電池1への原料ガス供給システム100を示している。この原料ガス供給システム100は、燃料電池1の通常運転に用いられるほか、燃料電池1の性能試験・耐久試験等の評価システムとしても応用可能なものであり、燃料電池に水素を含むアノードガス(燃料ガス)AG及び酸素を含むカソードガス(酸化ガス)CG(以下総称して原料ガスと言うこともある)を送り込むための配管及びその流量や温度、湿度等をコントロールするための種々の機器からなる。
【0023】
最初に、燃料電池1から簡単に説明しておく。図1に示す燃料電池1は、上述したように固体高分子型のもので、内部の図示は省略するが、イオン導電性を有する固体高分子膜と、その固体高分子膜を両側から挟み込む2枚の平行平板電極であるアノード(燃料極[負極])及びカソード(空気極[正極])と、それら電極に前記アノードガスAG及びカソードガスCGをそれぞれ接触させるための燃料極流路及び空気極流路とを備えたセルによって構成される。
【0024】
前記燃料極流路及び空気極流路には導入ポート11、12が設けられており、これら導入ポート11、12には、アノードガス供給ラインL1及びカソードガス供給ラインL2(以下、「ガス供給ラインL」と総称する場合もある)が接続してある。
【0025】
これら各ガス供給ラインL1、L2には、その基端に接続した図示しないボンベ等から、アノードガスAG及びカソードガスCGがドライ状態で送り込まれてくる。各ドライガスAG、CGの流量は、マスフローコントローラ21、22によってそれぞれ所定流量に制御される。
【0026】
また、前記固体高分子膜には、水分を補給する必要があるため、この実施形態では、各ガス供給ラインL1、L2に途中から水蒸気(以下、蒸気とも言う)を添加する加湿システムWSを設けている。なお以下の説明中、ドライ状態のガスと水蒸気が添加されてウェット状態となったガスとの区別が必要なときは、添え字にD及びWをそれぞれ付す。
【0027】
しかして、本発明に係る流量算出方法等は、この加湿システムWSに適用している。この加湿システムWSは、図1、図2に示すように、1つの蒸気発生源3と、その蒸気発生源3で発生した水蒸気を、前記アノードガス供給ラインL1及びカソードガス供給ラインL2にそれぞれ供給する一対の蒸気供給ラインSL1、SL2と、前記各蒸気供給ラインSL1、SL2の蒸気流量をそれぞれ調節する蒸気流量調節手段41、42と、アノードガスAG及びカソードガスCGがそれぞれ予め定めた露点となるように各蒸気流量手段41、42を独立して制御する制御装置5とを備えている。
【0028】
各部を説明すると、蒸気発生源3は、水を貯蔵した密閉タンク31と、その水を加熱するヒータ32とを備えたものであり、この水をヒータ32で加熱することにより蒸気を生成し、密閉タンク31の空間部分が、少なくとも背圧以上の蒸気(気相の水)で充満されるように構成している。そしてこの蒸気を外部に送出するために、密閉タンク31の空間部分には蒸気導出ポート3aが設けてある。
【0029】
各蒸気供給ラインSL1、SL2は、それらの各基端部が共通の一本の配管になっていて、その基端部が途中から2分岐する態様をとるものである。そして、前記基端部が前記蒸気導出ポート3aに接続されており、分岐した各終端がそれぞれカソードガス供給ラインL1及びアノードガス供給ラインL2の途中に設けた合流部J1、J2に接続されている(以下、ガス供給ラインL1、L2における合流部J1、J2より下流側を、合流ラインL1b、L2bと言うこともある。)
【0030】
蒸気流量調節手段41、42は、外部から信号によってそのバルブ開度をコントロールし、その内部流路を流れる流体流量を調節可能なリモート操作式の電磁バルブである。なお。この蒸気流量調節手段41、42には、温度調節機構T1、T2が取り付けてあり、温度を検知してその温度が予め定めた一定値となるようにローカルにFB制御を行っている。また、この蒸気流量調節手段41、42の上流及び下流にはそれぞれ圧力センサPS1、PS21、PS22が設けてあり、蒸気流量調節手段41、42の一次圧(上流側流体圧力)及び二次圧(下流側流体圧力)を検知できるように構成している。一次圧を検知する一次圧センサPS1は、例えば前記蒸気供給ラインSL1、SL2の分岐部Sに設けてあり、各蒸気流量調節手段41、42の一次圧をこの単一の一次圧センサPS1で共通に検知する。二次圧を検知する二次圧センサPS21、PS22は、各ガス供給ラインL1、L2における合流部J1、J2より下流側(燃料電池の各ガス導入ポート11、12近傍)に設けてある。なお、二次圧センサPS21、PS22は表示部を有しており、燃料電池の各ガス導入ポートにおける圧力モニタとしての役割も果たす。
【0031】
制御装置5は、汎用乃至専用のコンピュータを利用したものであり、図2に示すように、内部バス501、CPU502、メモリ503、I/Oチャネル504、A/Dコンバータ505等を備えている。そしてメモリ503に予め記憶させた所定プログラムにしたがって前記CPU502や周辺機器が動作することにより、図3に示すように、データ受信部51、蒸気圧制御部52、ガス流量設定部53、露点設定部54、ガス流量制御部55、蒸気流量制御部56等としての機能を発揮するように構成している。
【0032】
これら各部を図3を参照して説明すると、データ受信部51は、種々のデータを受信するものである。ここでは、環境パラメータに係るデータの一部、すなわち、前記一次圧センサPS1及び二次圧センサPS21、PS22から出力されてくる各蒸気流量調節手段41、42の一次圧データ及び二次圧データ、蒸気流量調節手段41、42に取り付けた温度計T3、T4(図3に示し、図1では省略)からの温度データを少なくとも受信する。なお、この他の環境パラメータとしては、後述する各ガスの流量設定値があり、これら環境パラメータに係るデータは、メモリ503の所定領域に設定した環境パラメータデータ格納部(図示しない)に格納される。
【0033】
蒸気圧制御部52は、前記蒸気発生源3での蒸気圧でもある前記一次圧と、予め定めた目標蒸気圧とを比較し、前記一次圧を目標蒸気圧に近づけるべく蒸気発生源3のヒータ32をFB制御するものである。より具体的には、前記環境パラメータデータ格納部から一次圧データを取得し、その値が目標蒸気圧より低ければ、ヒータ32の出力を上げ、高ければヒータ32の出力を下げる。目標蒸気圧はある一つの値である必要はなく、範囲を有していてもよい。
【0034】
ガス流量設定部53は、オペレータからの入力や他のコンピュータからの信号等に基づいて、蒸気混合前の各ガスAG、CGの目標流量をそれぞれ設定し、その値を示す設定流量データを、メモリ503の所定領域に設けた設定データ格納部(図示じない)に格納するものである。
【0035】
露点設定部54は、オペレータからの入力や他のコンピュータからの信号等に基づいて、各ガスの目標露点をそれぞれ設定し、その値を示す設定露点データを、前記設定データ格納部に格納するものである。
【0036】
ガス流量制御部55は、マスフローコントローラ21、22に対して、前記各設定流量データを指令信号としてそれぞれ出力するものである。マスフローコントローラ21、22は、その指令信号を受け取って、内部でローカルにFB制御を行い、当該マスフローコントローラ21、22を流れる各ガスAG、CGの流量がその流量設定値となるように自身でバルブ開度を調整する。
【0037】
蒸気流量制御部56は、特許請求の範囲における流量制御装置に相当するもので、蒸気混合後のアノードガスAG及びカソードガス、CGそれぞれの露点を、それぞれの設定露点(前記設定露点データの値)にすべく、前記各蒸気流量調節手段41、42を各個独立に制御して、流体たる蒸気の流量をコントロールするものである。
【0038】
この実施形態での蒸気流量制御部56は、基本的には、露点計M1、M2からの測定露点と前記設定露点との偏差に応じて、PIDなどの手法により、各蒸気流量調節手段41、42をそれぞれ制御するFB制御を主体として行っている。しかし、前記偏差が急激に大きくなって所定範囲を超えたとき(例えば設定露点を変更されたときや原料ガス流量が大きく変化したときなど)や、露点計M1、M2の故障などによりFB制御しても偏差が縮まらないとき、外乱などで前記設定露点ら測定露点に変動を与えるような物理量(ガス流量、温度等)が変化し、前記偏差が所定範囲を超えると予測できるようなときなどに、前記環境パラメータ等に基づいて、FB制御の一部又は全部をFF制御に切り替えるようにしている。
【0039】
そこで、このFF制御についての蒸気流量制御部56の動作を、図4を参照しつつ以下に詳述する。以下では一方の蒸気流量調節手段41に対しての動作を述べているが、他方の蒸気流量調節手段42にも同様な制御が行われる
【0040】
まず、設定露点(設定露点データの値)、ドライ状態の原料ガス圧力(二次圧データの値)及びドライ状態の原料ガス流量(設定流量データの値)から、前記設定露点となるべき水分重量流量(kg/h)を算出する。
【0041】
より詳細には、水分含有量(%)を設定露点及びドライガス圧力から算出した後(ステップS1)、水分流量(L/min)をドライガス流量(NL/min)及び前記水分含有量(%)から算出し、最終的にその水分流量(L/min)から水分重量流量(kg/h)を算出する(ステップS2)。
【0042】
次に、その水分重量流量(kg/h)となるバルブ開度を算出する(ステップS3、図示しないバルブ開度算出部の動作に相当)。
【0043】
このバルブ開度算出には、以下の流量算出式3を利用している。
【数2】

【0044】
この流量算出式は、水蒸気の重量流量W[kg/h]を、バルブの開度に応じて予め定められているCv値と、蒸気流量調節手段41の前後圧や差圧等を含んだ圧力式との積から算出する流量算出方法を表したものである。
【0045】
Cv(d)は、いわゆるCv値のことであり、その定義に基づいて実験され求められる。このデータは、例えば予めバルブメーカ等から提供されるものであり、ここでは、メモリの所定領域に設定したCv値記憶部D1に記憶させてある。Cv値はバルブ開度d毎に定められており、バルブ開度dの関数Cv(d)と表すことができる(図5参照)。
【0046】
一方、圧力式とは、以下の式4のことである。
【数3】

【0047】
この圧力式はメモリの所定領域に設定した圧力式記憶部D2に記憶させてある。その圧力式に含まれるα(又はα’、以下省略する)とβ(又はβ’、以下省略する)はそれぞれバルブ開度に応じて変わる変数であって、α(d)、β(d)と表現することもできる(図6参照)。この関数α(d)、β(d)は、この加湿システムでの圧力条件や温度の類似した環境下で予め実験し、その結果から最小二乗法などを利用して定めたものである。
【0048】
なお、TSHは水蒸気の加熱度[℃]、Pはバルブ一次圧(入口圧)[kg・cm3abs]、Pはバルブ二次圧(入口圧)[kg・cm3abs]、ΔPは差圧[kg・cm3abs]である。
【0049】
説明を元に戻して、目標流量Wからバルブ開度を求める方法であるが、前記算出式によれば、TSH、P、P、ΔPは、測定により既知であり、Cv、α、βが、開度dの関数として表される。したがって、結局Wは、開度dのみの関数に帰着できる。そこで、ここでは、例えばこの関数の逆関数を求め、その逆関数に、目標流量Wを代入することで、開度dを算出するようにしている。
【0050】
開度dの算出方法は他にもあって、逆関数を使うことなく、前記流量算出式をそのまま用いてもよい。その場合は、流量算出式の値が目標流量Wに近づくように、例えば、開度dを少しずつ変化させて探索するという方法が考えられる。
【0051】
このようにしてバルブ開度dが算出されると、そのバルブ開度dとなるようなバルブ開度指令信号を蒸気流量調節手段41、42に出力する(ステップS4)。
【0052】
したがって、このように構成によれば、Cv値のみならず、圧力式そのものも、バルブ開度に応じて変化するように設定されているので、燃料電池用加湿システムのように、粘性が比較的高い気体である水蒸気で、一次圧が低く、しかも差圧が小さいような圧力条件下であっても、算出した蒸気流量と実際に流れる蒸気流量と誤差を非常に小さくすることができる。
【0053】
またこのように、目標流量となるバルブ開度をより精度よく算出することができるので、精度の点からFF制御が難しいとされていた燃料電池用加湿システムにおいても、主体的にFF制御を用いることが可能になり、その特徴である応答性のよさを活かしながらも、安定した露点制御が可能になる。
【0054】
また、前記圧力式を定めるには、予め試験をして実際に流れる流量の測定結果を必要とするが、圧力式の形そのものは決まっており、設定係数を定めるだけなので、測定点数も多くは不要であるなど、その試験にかかる時間や労力が実用性を超えて無理なものになることもない。
【0055】
この実施形態特有の付加的な効果を述べておくと、蒸気発生源3は共通化されてコンパクト化が可能でありながら、燃料電池1へ供給するアノードガスAG及びカソードガスCGに、それぞれ独立して所望の露点となるような蒸気が供給できる、という点が挙げられる。例えば、アノードガスAG及びカソードガスCGの流量が異なっている場合、設定露点等の他の条件が同じであれば、その各ガスAG、CGの流量比に応じた比率で蒸気が供給されることになる。
【0056】
したがって、各ガス供給ラインL1、L2間での干渉が生じにくく、この点からも、安定な露点制御が可能になる。特にこの実施形態では、蒸気発生源3の圧力(一次圧)をローカルに制御してできるだけ一定圧に保つように構成しているため、安定性がより向上する。
【0057】
また、制御安定性が高いことから、低露点でガス流量が少ない場合でも、所望露点のガスAG、CGを安定して供給することができる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。例えば、蒸気流量の算出式においては、Cv(d)を用いず、Cv(d)とα(又はα’)との積を一体にした関数C(d)(又はC’(d))と考えて、その設定のための試験を行うようにしてもよい。
【0059】
すなわち、以下の流量算出式5で、試験によって、C(d)(又はC’(d))とβ(又はβ’)を定めるようにしてもよい。この場合、Cv値記憶部は不要となる。
【数4】

【0060】
さらに、本発明は蒸気のみに限られず、比較的粘性の高い気体や液体に適用して、前記実施形態同様の作用効果を奏し得るものである。特にバルブの一次圧、差圧が小さく、少流量といった条件下では、その効果がより顕著となる。
【0061】
蒸気流量調節手段を複数並列に設け、流量調節レンジを大きくとれるようにするなどしてもよい。
【0062】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態を示す模式的な回路図。
【図2】同実施形態における制御装置の機器構成図。
【図3】同実施形態における制御装置の機能構成図。
【図4】同要部の作用説明部。
【図5】同実施形態におけるCv−開度特性を示すグラフ。
【図6】同実施形態におけるα−開度特性、β−開度特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0064】
1・・・燃料電池
41、42・・・バルブ(蒸気流量調節手段)
D1・・・Cv値記憶部
D2・・・圧力式記憶部
56・・・ガス流量制御装置(蒸気流量制御部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの開度に応じて予め定められているCv値と、バルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式と、に基づいて当該バルブを流れる流体の流量を算出する流量算出方法であって、
前記圧力式が、式の形は同一でありながら圧力を表す変数を除いた設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わるものであることを特徴とする流量算出方法。
【請求項2】
前記圧力式が、少なくとも2つの設定係数を有している請求項1記載の流量算出方法。
【請求項3】
前記圧力式が、以下の(式1)で表される項を含み、その設定係数であるaとbとがバルブ開度に応じて変化するようにしている請求項1又は2記載の流量算出方法。
a{ΔP(P+P)}・・・(式1)
ここで、Pはバルブの一次圧、Pはバルブの二次圧、ΔPは差圧(P−P)である。
【請求項4】
バルブの開度に応じて予め定められているCv値を記憶しているCv値記憶部と、バルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式を記憶している圧力式記憶部と、それらCv値及び圧力式から当該バルブに流れるべき流体の流量を算出する流量算出部とを備え、前記圧力式記憶部で記憶されている圧力式が、式の形は同一でありながら圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わるものであることを特徴とする流量算出装置。
【請求項5】
バルブの開度に応じて予め定められているCv値とバルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式とに基づいて算出される算出流量が、流体の目標流量となるようなバルブ開度を設定するバルブ開度設定方法であって、前記圧力式が式の形は同一でありながら圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わるものであることを特徴とするバルブ開度設定方法。
【請求項6】
バルブ開度に応じて予め定められているCv値を記憶しているCv値記憶部と、バルブの前後圧や差圧等を含んだ圧力式を記憶している圧力式記憶部と、それらCv値及び圧力式から算出される算出流量が、流体の目標流量となるようなバルブ開度を算出するバルブ開度算出部とを備え、前記圧力式記憶部で記憶されている圧力式が、式の形は同一でありながら圧力値を除く設定係数の一部又は全部がバルブの開度に応じて変わるものであることを特徴とする流量制御装置。
【請求項7】
燃料電池用のアノードガス又はカソードガスに混合させる水蒸気の流量制御に用いられる請求項6記載の流量制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−76255(P2008−76255A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256418(P2006−256418)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】