説明

流量調整弁

【課題】部品点数の削減、組み付け作業性の向上、コスト低減、小型軽量化等を図ることができるとともに、弁体と弁本体との間の摩擦抵抗・摩耗を可及的に低減できて、流体への摩耗粉の混入等が生じないようにできる、コンパクトに纏められた流量調整弁を提供する。
【解決手段】天井部35付き円筒状の弁室14、該弁室14に開口する少なくとも一つの側部ポート11、12及び前記弁室14と同軸に開口する底部ポート13を有する弁本体10と、該弁本体10の前記弁室14に回動可能に挿置されかつ前記側部ポート11、12の開口面積を回転に伴ってに変化させる所定形状の開口部30が周壁部22に設けられた下端開口の円筒状弁体20とを備え、前記弁体20は前記底部ポート13より挿置され、この挿置状態において、前記弁体20の天井部23に突設された回転軸25が前記弁本体10の軸受穴36から突出し、前記回転軸25の前記弁本体10からの突出部に、前記弁体20の回転は許容するが下方への抜けを阻止する弁体係止具40が装着されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量調整弁に係り、例えば、水と湯を混合して所望温度の温水を得るための給湯装置等に使用するのに好適な流量調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の流量調整弁として、従来、例えば、図5に示される如くのものが考えられている。以下、図示例の流量調整弁2について簡単に説明する。
【0003】
給湯装置等の流量調整弁2は、水と湯を混合して所望温度の温水を得るための給湯装置等に使用されるもので、天井部付き円筒状の弁室14を有し、該弁室14の周壁部に開口する側部ポート11、12が設けられるとともに、弁室14と同軸に開口する底部ポート13が設けられた弁本体10’と、該弁本体10’の弁室14内に回動可能に挿置されて回転軸線O回りに回転せしめられる弁体20’と、該弁体20’を回動させる駆動手段としてのステッピングモータ15を備えている。
【0004】
前記側部ポート11、12は、180度の角度間隔をあけて配在されている。
【0005】
前記弁体20’は、下端開口の円筒状とされ、その周壁部22が、前記側部ポート11、12を閉塞するシール面部として機能するようにされ、かつ、この周壁部22に、側部ポート11、12の開口面積を弁体20’の回転に伴って変化させる所定形状(ここでは、両端が半円形の長円形)の開口部30が設けられている(実施形態の弁体20を示す図3も参照)。この開口部30は、弁体20’の回転角度で見て180度分程度開口せしめられている。
【0006】
弁体20’の天井部23の上面中央には、回転軸25が突設されている。この回転軸25の下部には、Oリング29、29が装着される、3段の鍔状部28からなる装着溝が設けられ、その上部には、ステッピングモータのロータ(の軸)と一体回転可能に連結するためのセレーション軸部26及び非円形断面(Dカット形状等)の凸部27が設けられている。
【0007】
一方、前記弁本体10’における弁室14の上部には装着穴15が設けられ、この装着穴15に、弁体20’の天井部23と回転軸25の下部(Oリング29、29が装着されている部分)を回転自在に支持する軸受16が圧入等の手法で固定され、この軸受16上に取付板17を介して前記ステッピングモータ15がボルトナット類で取り付けられている。なお、装着穴15と軸受16との間にもOリング等のシール部材19が装着されている。また、弁本体10’の弁室14の下端には、弁体20’(の下端面)を受け止める弁体受座14aが設けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した従来の流量調整弁2では、次のような改善すべき課題がある。
【0009】
すなわち、流量調整弁2は、弁本体10’に弁体20’を装着穴15を介して上から落とし込むようにして組み付ける構造のため、外部への水漏れを防ぐには装着穴15を塞ぐ部品(軸受16及びシール部材19)が必要となり、加えて、弁本体10’、軸受16、取付板17、及びモータ15間に連結固定箇所が多く存在するので、部品点数が多くなり、組み付け作業性、コスト、軽量化等の点で課題があった。
【0010】
また、弁体20’の下方への抜けを受座14aで阻止する構造となっているので、弁体20’の下端面と弁体受座14aとの摺接によって摩耗が生じやすくなり、その際に生成される摩耗粉が流体(温水)に混入してしまうという問題もある。
【0011】
また、流量調整弁2では、弁体20’は、弁本体10’と軸受16の2部材でその位置(上下、左右、及び前後方向の位置、回転軸線の位置)が規制されるようになっているため、弁本体10’に対する軸受16の組み付け誤差等により、弁本体10’の中心軸線と軸受16の中心軸線とが位置ずれを生じやすくなり、これに伴い、弁体20’(の回転軸線)に位置ずれや傾きが生じ、その結果、弁体20’と弁本体10’とが偏接触して摩擦抵抗・摩耗が大きくなってしまう等の問題を生じるおそれがあった。かかる位置ずれ(同軸度の確保)に関しては、上記の他、装着穴15と軸受16との間に介装されるOリング等のシール部材19の影響も加わるので、同軸度の確保には抜本的な改策が必要となる。
【0012】
上記に加え、受座14aが必要となるため、その分、弁本体10’が長くなる嫌いがあるとともに、成形金型が複雑なものとなる等の問題もある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、部品点数の削減、組み付け作業性の向上、コスト低減、小型軽量化等を図ることができるとともに、弁体と弁本体との間の摩擦抵抗・摩耗を可及的に低減できて、流体への摩耗粉の混入等が生じないようにできる、コンパクトに纏められた流量調整弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る流量調整弁は、基本的には、天井部付き円筒状の弁室、該弁室の周壁部に開口する少なくとも一つの側部ポート及び前記弁室と同軸に開口する底部ポートを有する弁本体と、前記弁室に回動可能に挿置されかつ前記側部ポートの開口面積を回転に伴って変化させる開口部が周壁部に設けられた下端開口の円筒状弁体とを備え、前記弁体は前記底部ポートより挿置され、この挿置状態において、前記弁体の天井部に突設された回転軸が前記弁本体の軸受穴から突出し、前記回転軸の前記弁本体からの突出部に、前記弁体の回転は許容するが下方への抜けを阻止する弁体係止具が装着されていることを特徴としている。
【0015】
本発明は、例えば、前記側部ポートが2個備わっており、一方に第1流体が、その他方に第2流体が導入され、前記弁体の回転動作により第1流体と第2流体の混合比率が変化し、混合流体が前記底部ポートから流出する混合弁に適用することもできる。
この場合、前記第1流体を湯とし、前記第2流体を水とすることができる。
【0016】
他の好ましい態様では、前記回転軸における前記軸受穴の上側に大径部が形成され、前記回転軸における前記大径部と前記軸受穴との間の部位の外周に、前記弁体係止具が装着される。
【0017】
前記弁体係止具は、好ましくは、概略VないしU字状に折り曲げられた1本の弾性線材からなり、前記回転軸の外周に圧接嵌合せしめられる円弧状部を有する一対の挟持片部と、該一対の挟持片部を連結するとともに、それらが相互に離隔する方向に押し拡げられたとき、それらを元に戻す方向に付勢する折曲ばね部と、を備えたクリップで構成される。
【0018】
別の好ましい態様では、前記回転軸と前記軸受穴との間にOリング等のシール部材が装着される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る流量調整弁は、弁本体に弁体を下側から挿入して組み付ける構造のため、外部への水漏れを防ぐために必要であった装着穴を塞ぐ部品(軸受、シール部材、取付板等)が不要となり、部品点数の削減、組み付け作業性の向上、コスト低減、小型軽量化等を図ることができる。
【0020】
また、弁本体における弁室の天井部に弁体の回転軸が下側から貫挿される軸受穴が形成され、回転軸における軸受穴より上側に、弁体の回転は許容するが下方への抜けを阻止する弁体係止具が装着されるので、従来例では必要であった弁体受座が不要となる。このため、従来例では弁体の下端面と弁体受座とが摺接することにより摩耗粉が弁本体内部に生成されていたが、本発明の流量調整弁では、弁体係止具と弁体あるいは弁本体(の天井部上面)との摺接により摩耗粉が生成されたとしても、弁本体の外部であるので、摩耗粉が流体に混入することはない。
【0021】
さらに、弁体は、弁本体のみ(1部材)でその位置(上下、左右、及び前後方向の位置、回転軸線の位置)が規制されるようになっているため、従来例のように2部材で位置規制を行う場合に比して、弁体(の回転軸線)に位置ずれや傾きが生じにくくなり、その結果、弁体と弁本体との間の摩擦抵抗・摩耗を効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の流量調整弁の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る流量調整弁の一実施形態を示す部分切欠正面図、図2は、図1のモータ部を除くX-X矢視断面図、図3は本実施形態の弁体の斜視図である。図1において、前述した図5に示される流量調整弁2の各部に対応する部分には共通の符号を付して詳細な説明を省略し、以下においては、相異点を重点的に説明する。
【0024】
本実施形態の流量調整弁1は、水と湯の混合比率を調整して所望の温度の温水を得るための混合弁であって、弁本体10、弁体20、及びステッピングモータ15を有し、弁本体10に弁体20を下側から挿入して組み付ける構造となっている。弁本体10には、比較的厚めの天井部35付き円筒状の弁室14、この弁室14の周壁部に180度の角度間隔をあけて開口する側部ポート11、12、及び弁室14と同軸に開口する底部ポート13が設けられている。
【0025】
また、弁本体10の上部(天井部35)における平面視で側部ポート11、12とは90度回転した位置には、図2、図4(B)、(C)に示される如くに、モータ15を弁本体10に取り付けるための取付台座45、45が上方及び左右に張り出すように突設されている。
【0026】
弁体20は、図3に示される如くに、下端開口の円筒状とされ、弁本体10の弁室14に回動可能に挿置され、その天井部23が弁本体10の天井部35の下面に対接せしめられている。弁体20の周壁部22には、側部ポート11及び側部ポート12の開口面積を回転に伴って変化させる所定形状(ここでは、両端が半円形の長円形)の開口部30が設けられている。前記開口部30は、弁体20の回転角度で見て180度分程度開口せしめられている。
【0027】
弁体20の天井部23上には回転軸25が突設され、弁本体10における天井部35に弁体20の回転軸25が下側から貫挿される軸受穴36が形成されている。前記回転軸25の下部には、Oリング29、29が装着される、3段の鍔状部28からなる装着溝が設けられ、その上部には、ステッピングモータのロータ(の軸)と一体回転可能に連結するためのセレーション軸部26及び非円形断面(Dカット形状等)の凸部27が設けられている。
【0028】
加えて、回転軸25における前記セレーション軸部26の下端と前記鍔状部28の最上段のものとの間(前記軸受穴36の上端面より若干上方)の部位には鍔状部28と同径の大径部37が形成され、この大径部37と鍔状部28の最上段のものとの間の部位(装着部38)の外周に、弁体20の回転は許容するが下方への抜けを阻止する弁体係止具としてのクリップ40が装着されている。
【0029】
クリップ40は、図4(A)に示される如くに、概略VないしU字状に折り曲げられた1本の弾性線材からなり、外側に開く先端案内部41a、前記回転軸25の装着部38の外周に圧接嵌合せしめられる円弧状部41bを有する一対の挟持片部41、41と、該一対の挟持片部41、41を連結するとともに、それらが相互に離隔する方向に押し拡げられたとき、それらを元に戻す方向に付勢する折曲ばね部42と、からなっている。このようなクリップ40は、汎用品を用いることができるため、部品コストを安価にすることができる。
【0030】
このクリップ40は、図4(B)に示される如くに、弁体20の回転軸25を軸受穴36に下側から貫挿した後、回転軸25の装着部38に側部ポート11側から先端案内部41a、41aを前にして円弧状部41b、41bが前記装着部38に外嵌されるまで押し込み、しかる後、図4(C)に示される如くに、反時計回りに90度回転させる。これにより、クリップ40は天井部35の上面35a上に載置され、弁体20全体がクリップ40により前記大径部37で、回転は許容するが下方への抜けを阻止された状態で係止される。
【0031】
このように、本実施形態の流量調整弁1は、クリップ40を使用して、弁本体10に弁体20を下側から挿入して組み付ける構造のため、外部への水漏れを防ぐために従来例では必要であった装着穴を塞ぐ部品(軸受16、シール部材19、取付板17等)が不要となり、部品点数の削減、組み付け作業性の向上、コスト低減、小型軽量化等を図ることができる。
【0032】
また、弁本体10における弁室14の天井部35に弁体20の回転軸25が下側から貫挿される軸受穴36が形成され、回転軸25における軸受穴36より上側に、弁体20の回転は許容するが下方への抜けを阻止するクリップ40が装着されるので、従来例では必要であった弁体受座14aが不要となる。このため、従来例では弁体20の下端面と弁体受座14aとが摺接することにより摩耗粉が弁本体10内部に生成されていたが、本実施形態の流量調整弁1では、クリップ40と弁体20(あるいは弁本体10の天井部35の上面35a)との摺接により摩耗粉が生成されたとしても、弁本体10の外部であるので、摩耗粉が温水に混入することはない。
【0033】
さらに、弁体20は、弁本体10のみ(1部材)でその位置(上下、左右、及び前後方向の位置、回転軸線の位置)が規制されるようになっているため、従来例のように2部材で位置規制を行う場合に比して、弁体20(の回転軸線O)に位置ずれや傾きが生じにくくなり、その結果、弁体20と弁本体10との間の摩擦抵抗・摩耗を効果的に低減できる。
【0034】
なお、上記実施形態においては、弁本体10や弁体20は合成樹脂製(例えば、POMやPPS等)としているが、これらを金属製としてもよい。一般に、合成樹脂製のものは金属製のものより摺動性に優れる。
【0035】
また、上記実施形態においては、湯と水を混合する比率を調整して所望の温度の温水を得るようにした流量調整弁に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、水や湯以外の複数種類の流体を混合する流量調整弁にも適用可能である。
【0036】
また、上記実施形態では、弁室の周壁部に2個の側部ポートを設け、弁室と同軸に開口する底部ポートを設けたアングル弁に本発明を適用した場合について説明したが、弁室の周壁部に1個の側部ポートを設け、弁室と同軸に開口する底部ポートを設けたアングル弁にも適用可能である。
【0037】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る流量調整弁の一実施形態を示す部分切欠正面図。
【図2】図1に示される流量調整弁におけるモータ部を除くX-X矢視断面図。
【図3】図1に示される流量調整弁の弁体を示す斜視図。
【図4】図1に示される流量調整弁に使用される弁体係止具としてのクリップとその取り付け方の説明に供される図であり、(A)はクリップの平面図、(B)はクリップ取付中の流量調整弁の平面図、(C)クリップ取付完了後の流量調整弁の平面図。
【図5】従来例の流量調整弁を示す部分切欠正面図。
【符号の説明】
【0039】
1 流量調整弁
10 弁本体
11 側部ポート
12 側部ポート
13 底部ポート
14 弁室
15 ステッピングモータ
20 弁体
22 周壁
30 開口部
35 天井部
36 軸受穴
37 大径部
38 装着部
40 クリップ(弁体係止具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部付き円筒状の弁室、該弁室の周壁部に開口する少なくとも一つの側部ポート及び前記弁室と同軸に開口する底部ポートを有する弁本体と、前記弁室に回動可能に挿置されかつ前記側部ポートの開口面積を回転に伴って変化させる開口部が周壁部に設けられた下端開口の円筒状弁体とを備え、
前記弁体は前記底部ポートより挿置され、この挿置状態において、前記弁体の天井部に突設された回転軸が前記弁本体の軸受穴から突出し、
前記回転軸の前記弁本体からの突出部に、前記弁体の回転は許容するが下方への抜けを阻止する弁体係止具が装着されていることを特徴とする流量調整弁。
【請求項2】
前記側部ポートが2個備わっており、一方に第1流体が、その他方に第2流体が導入され、前記弁体の回転動作により第1流体と第2流体の混合比率が変化し、混合流体が前記底部ポートから流出することを特徴とする請求項1に記載の流量調整弁。
【請求項3】
前記第1流体が湯であり、前記第2流体が水であることを特徴とする請求項2に記載の流量調整弁。
【請求項4】
前記回転軸における前記軸受穴の上側に大径部が形成され、前記回転軸における前記大径部と前記軸受穴との間の部位の外周に、前記弁体係止具が装着されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の流量調整弁。
【請求項5】
前記弁体係止具は、概略VないしU字状に折り曲げられた1本の弾性線材からなり、前記回転軸の外周に圧接嵌合せしめられる円弧状部を有する一対の挟持片部と、該一対の挟持片部を連結するとともに、それらが相互に離隔する方向に押し拡げられたとき、それらを元に戻す方向に付勢する折曲ばね部と、を備えたクリップで構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の流量調整弁。
【請求項6】
前記回転軸と前記軸受穴との間にOリング等のシール部材が装着されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の流量調整弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−228764(P2009−228764A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74179(P2008−74179)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】