説明

浮体構造物

【課題】安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物を提供する。
【解決手段】浮体構造物1は、水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物であって、水上に浮遊可能に構成された浮体本体部2と、該浮体本体部2に配置された脚部3と、該脚部3を水底BWに接地させる着底手段4と、を有し、着底手段4は、浮体本体部2が浮遊可能な水域で、浮体本体部2を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物に関し、特に、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、洋上風力発電用の浮体構造物として、スパー型、セミサブ型等の浮遊型の浮体構造物が提案されている。かかる浮体構造物に設置される風力発電装置は、例えば、マストとナセルとブレードとから構成される。また、スパー型の浮体構造物は、例えば、円柱形状の浮体物とバラストとから構成され、バラストの重量によって海上に直立した浮体物を係留索で係留したものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、上下の蓋体と、これらの間に連続的に設置された筒形のプレキャストコンクリートブロックとがPC鋼材で接合されてなる中空の下部浮体と、該下部浮体にPC鋼材で接合された、前記プレキャストコンクリートブロックよりも小径なプレキャストコンクリートブロックと上蓋とからなる中空の上部浮体と、前記下部浮体の下面に連結鋼管を介して接合されたバラストタンクとから構成された洋上風力発電用のスパー型浮体構造が記載されている。
【0004】
また、セミサブ型の浮体構造物は、円柱形状の主浮体物と、主浮体物の周囲に配置された円柱形状の複数の副浮体物と、から構成され、各円柱形状が海上に直立するように各浮体物は互いに連結され、係留索で係留される(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
例えば、特許文献2には、軸心が上下方向となる姿勢で立設した柱状のメインフロータ(主浮体物に相当)を備えるとともに、このメインフロータの上端部に発電用風車を搭載し、メインフロータの浮力により発電用風車を洋上に配置するための浮体装置であって、メインフロータの下端部に連結する態様でメインフロータの周囲に複数の基礎部材を配設し、かつ各基礎部材の上端部にそれぞれ係留ラインとフロート部材とを備えて構成した係留フロータ(副浮体物に相当)を傾動可能に支持させた風力発電用浮体装置が記載されている。
【0006】
ところで、特許文献1及び特許文献2に記載されたような浮体構造物では、浮体構造物(風力発電装置等の上部構造物を含む)の設置や保守等の作業を行う際、波浪や風等によって、浮体構造物が揺動し、作業が困難になるという問題があった。そこで、従来は、作業船が、浮体構造物の揺動が少なくなる場所まで曳航してから、浮体構造物の設置や保守等の作業を行っていた(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
例えば、特許文献3の背景技術の欄には、スパー型浮体への洋上風力発電装置の設置方法として、スパー型浮体を横倒しにした状態で設置地点に曳航し、スパー型浮体内にバラスト水を注入して直立させ、アンカーに接続した係留索をスパー型浮体に繋ぎ、支柱、ナセル及びブレードをスパー型浮体に取り付ける方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、連結部材で適宜間隔をもって繋がれた二艘の船体間に円筒状のスパー型浮体を横倒し状態で格納する格納部が形成され、前記連結部材の前部には、回転して直立したスパー型浮体を収納する収納部が切欠形成され、該収納部の両側の船体にはスパー型浮体を固定するワイヤーを巻き取るウインチが設置され、船体には自動位置保持装置が設置された双胴船の船体間における格納部に、円筒状のスパー型浮体を横倒し状態で格納し、前記双胴船をスパー型浮体の設置地点まで曳航して双胴船から複数のアンカーを吊り降ろした後、スパー型浮体を前側を中心に回転させて直立させ、該スパー型浮体に支柱、ナセル及びブレードを取り付けた後、スパー型浮体にアンカーを係留索で接続する洋上風力発電装置の設置方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−248792号公報
【特許文献2】特開2009−85167号公報
【特許文献3】特開2009−13829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載の洋上風力発電装置の設置方法では、スパー型浮体の曳航、回転及び直立を行うことのできる専用の双胴船を建造しなければならず、コストが嵩むという問題があった。また、洋上風力発電装置や浮体の保守等の作業を行う際に、スパー型浮体を回転させて静穏海域まで曳航する必要があり、作業効率が悪いという問題があった。
【0011】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物であって、水上に浮遊可能に構成された浮体本体部と、該浮体本体部に配置された脚部と、該脚部を水底に接地させる着底手段と、を有し、前記着底手段は、前記浮体本体部が浮遊可能な水域で、前記浮体本体部を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている、ことを特徴とする浮体構造物が提供される。
【0013】
前記着底手段は、前記浮体本体部に配置されたバラストタンクと、該バラストタンクの注排水を制御するバラスト制御手段と、を有し、該バラスト制御手段により前記バラストタンクに注水し前記浮体本体部を降下させて前記脚部を水底に接地させるようにしてもよい。
【0014】
前記着底手段は、前記浮体本体部に対して前記脚部を昇降可能に支持する昇降手段と、該昇降手段を制御する昇降制御手段と、を有し、該昇降制御手段により前記昇降手段を駆動させて前記脚部を水底に接地させるようにしてもよい。
【0015】
前記着底手段は、前記浮体本体部に配置されたバラストタンクと、該バラストタンクの注排水を制御するバラスト制御手段と、前記浮体本体部に対して前記脚部を昇降可能に支持する昇降手段と、該昇降手段を制御する昇降制御手段と、を有し、前記バラスト制御手段により前記バラストタンクに注水して前記浮体本体部を降下させるとともに、前記昇降制御手段により前記昇降手段を駆動させて前記脚部を接地させるようにしてもよい。
【0016】
前記脚部は、前記浮体本体部を少なくとも三点支持可能な複数の分岐脚を有してもいてよい。また、前記分岐脚は、個別に前記昇降手段が配置され、前記昇降制御手段により個別に昇降可能に構成されていてもよい。
【0017】
前記浮体本体部は、上部に配置される上部構造物を有し、該上部構造物は、前記浮体本体部の着底状態時に設置又は保守されるようにしてもよい。また、前記浮体本体部は、例えば、スパー型浮体又はセミサブ型浮体である。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明に係る浮体構造物によれば、浮体本体部が浮遊可能な水域で脚部を水底に接地できるように構成したことにより、浮体構造物が浮遊状態に配置される場所において、浮体構造物を着底させることができ、波浪や風の影響を受け難く、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる。特に、本発明は、浮体構造物の上部に風力発電装置等の上部構造物を設置したり、保守したりする場合に効果的である。また、浮体構造物の配置される水域が深い場合には、浮体構造物を着底可能な水域まで曳航すればよく、従来のように静穏領域まで曳航する必要がなく、作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は制御ブロック概略図、(c)は着底状態の正面図、を示している。
【図2】図1に示した浮体構造物の他の運用例を説明するための図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は浮体本体部の平面図、(c)は制御ブロック概略図、(d)は水底が略平坦な場合における着底状態の正面図、(e)は水底が平坦ではない場合における着底状態の正面図、を示している。
【図4】本発明の第三実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は制御ブロック概略図、(c)は半潜水状態の正面図、(d)は水底が平坦ではない場合における着底状態の正面図、を示している。
【図5】本発明の第四実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は図5(a)におけるB−B断面図、(c)は着底状態の正面図、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第一実施形態に係る浮体構造物について、図1及び図2を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は制御ブロック概略図、(c)は着底状態の正面図、を示している。また、図2は、図1に示した浮体構造物の他の運用例を説明するための図である。
【0021】
本発明の第一実施形態に係る浮体構造物1は、図1に示したように、水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物1であって、水上に浮遊可能に構成された浮体本体部2と、浮体本体部2に配置された脚部3と、脚部3を水底BWに接地させる着底手段4と、を有し、着底手段4は、浮体本体部2が浮遊可能な水域で、浮体本体部2を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている。
【0022】
前記浮体本体部2は、浮体構造物1に対して浮力を与える部分であるとともに、喫水WSに曝される部分である。ここでは、浮体本体部2としてスパー型浮体を図示している。かかるスパー型浮体の浮体本体部2は、水中及び水上で直立可能な中空円筒形状に構成され、係留索21によって係留される。浮体本体部2の上部には、風力発電装置等の所望の上部構造物5が配置される。浮体本体部2の内部には、後述するバラストタンク41が配置されている。かかるバラストタンク41の注排水により、浮体本体部2の浮力が調整できるように構成されている。
【0023】
前記脚部3は、着底状態の浮体本体部2(浮体構造物1)を支える部品である。かかる脚部3は、少なくとも水底BWの表面に接触可能に構成され、先端が差し込まれるような形状を有していてもよい。ここでは、脚部3は、浮体本体部2の下端に配置された平面板により構成されている。平面板の接触面には、浮体本体部2の拘束力を高めるための凹凸や突起が形成されていてもよい。かかる脚部3を浮体本体部2に配置することにより、浮体本体部2(浮体構造物1)を着底させた場合に、波浪や風の影響を受け難く、浮体本体部2(浮体構造物1)を安定した状態(姿勢)に維持することができる。
【0024】
前記着底手段4は、脚部3を水底BWに接地可能に浮体本体部2を浮沈可能にする手段である。かかる着底手段4は、例えば、図1(b)及び図1(c)に示したように、浮体本体部2に配置されたバラストタンク41と、バラストタンク41の注排水を制御するバラスト制御手段42と、を有し、バラスト制御手段42によりバラストタンク41に注水し浮体本体部2を降下させて脚部3を水底BWに接地させるようにしている。なお、脚部3が接地したか否かは、例えば、脚部3の底部に感圧センサを配置するようにすればよい。
【0025】
また、着底手段4は、浮体本体部2内に配置され、バラストタンク41を注排水するポンプ43を有する。バラスト制御手段42は、ポンプ43を制御することによって、バラストタンク41を注排水する。したがって、かかる着底手段4を配置することにより、バラストタンク41に注水することによって浮体本体部2(浮体構造物1)の喫水WSを上げることができ、バラストタンク41から排水することによって浮体本体部2(浮体構造物1)の喫水WSを下げることができる。なお、着底手段4は、有線又は無線により作業船等により遠隔操作されるように構成されていてもよい。
【0026】
上部構造物5は、例えば、風力発電装置51である。風力発電装置51は、例えば、支柱52とナセル53とブレード54とを有する。支柱52は、浮体本体部2の上部に立設され、ナセル53及びブレード54を支持する。ナセル53は、内部に、図示しない発電機を有し、ブレード54の回転によって電力を発生させる。ブレード54は、風力によって回転駆動する。なお、風力発電装置51は、浮体構造物1の上部に設置された上部構造物5の一例であり、風向計や風速計等の風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置、無線通信装置等であってもよい。
【0027】
ここで、上述した第一実施形態に係る浮体構造物1の作用について説明する。浮体本体部2の上部に上部構造物5を設置する場合には、まず、浮体本体部2が浮遊可能な領域に浮体本体部2を曳航する。そして、着底手段4によりバラストタンク41に注水することによって浮体本体部2を直立させ、係留索21で係留し、浮遊状態にする。その後、さらに着底手段4によりバラストタンク41に注水することによって、浮体本体部2を沈降させ、脚部3を水底BWに接地させ、着底状態にする。このとき、上部構造物5を据え付ける浮体本体部2の上部が喫水WSよりも上に露出していてもよいし、水中に没水していてもよい。
【0028】
浮体本体部2が着底した後、図1(c)に示したように、作業船6により風力発電装置51等の上部構造物5を浮体本体部2上に設置する。上部構造物5が風力発電装置51の場合には、浮体本体部2上に支柱52を立設し、支柱52にナセル53及びブレード54を配置し、その他、必要な配線等を施す。したがって、浮体本体部2は、上部に配置される上部構造物5を有し、上部構造物5は、浮体本体部2の着底状態時に設置される。
【0029】
浮体本体部2への上部構造物5の設置が完了した後、着底手段4によりバラストタンク41を排水することによって、浮体本体部2を上昇させ、図1(a)に示したように、浮体構造物1を浮遊状態にする。
【0030】
上部構造物5を有する浮体構造物1において、上部構造物5の定期メンテナンス等の保守を行う場合には、同様に、着底手段4によりバラストタンク41に注水することによって浮体本体部2を沈降させ、脚部3を水底BWに接地させ、浮体構造物1を着底状態にしてから、保守作業を行うようにすればよい。したがって、浮体本体部2は、上部に配置される上部構造物5を有し、上部構造物5は、浮体本体部2の着底状態時に保守される。
【0031】
なお、浮体本体部2を着底状態にする一例として、上部構造物5の設置又は保守の場合について説明したが、これらに限定されるものではなく、例えば、浮体本体部2の保守時、天候不順時等、必要に応じて任意のタイミングで浮遊状態と着底状態とを切り替えることができる。
【0032】
続いて、上述した浮体構造物1の他の運用例について説明する。図1(a)の浮遊状態及び図1(c)の着底状態は、基本的に浮体構造物1の浮遊場所と着底場所が同じ場所を想定している。すなわち、浮体構造物1が浮遊状態に配置された場所で、浮体構造物1を着底状態に切り替えることができるようにして、浮体構造物1(浮体本体部2)を静穏領域まで曳航させることなく、上部構造物5や浮体本体部2の保守等を行うことができるようにしたものである。
【0033】
しかしながら、浮体構造物1が配置された水域の水深が深く、着底状態で上部構造物5の保守等の作業を行うことが困難な場合もある。そこで、図2に示したように、浮体構造物1の浮遊可能水域であって、浮体構造物1の着底状態で上部構造物5の保守等の作業を行うことができる水深を有する水域まで浮体構造物1を曳船等により曳航するようにしてもよい。浮体構造物1(浮体本体部2)が浮遊可能かつ着底可能な水域は、従来の静穏領域よりも水深が深い場所であり、浮体構造物1(浮体本体部2)の曳航距離を短縮することによって、作業効率を向上させることができる。
【0034】
次に、本発明に係る浮体構造物の他の実施形態について説明する。ここで、図3は、本発明の第二実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は浮体本体部の平面図、(c)は制御ブロック概略図、(d)は水底が略平坦な場合における着底状態の正面図、(e)は水底が平坦ではない場合における着底状態の正面図、を示している。図4は、本発明の第三実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は制御ブロック概略図、(c)は半潜水状態の正面図、(d)は水底が平坦ではない場合における着底状態の正面図、を示している。図5は、本発明の第四実施形態に係る浮体構造物を説明するための図であり、(a)は浮遊状態の正面図、(b)は図5(a)におけるB−B断面図、(c)は着底状態の正面図、を示している。
【0035】
図3に示したように、本発明の第二実施形態に係る浮体構造物101は、水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物101であって、水上に浮遊可能に構成された浮体本体部102と、浮体本体部102に配置された脚部103と、脚部103を水底BWに接地させる着底手段104と、を有し、着底手段104は、浮体本体部102が浮遊可能な水域で、浮体本体部102を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている。
【0036】
前記浮体本体部102は、浮体構造物101に対して浮力を与える部分であるとともに、喫水WSに曝される部分である。ここでは、浮体本体部102としてセミサブ型浮体を図示している。かかるセミサブ型浮体の浮体本体部102は、例えば、図3(a)及び図3(b)に示すように、主中空円筒部121と、主中空円筒部121の周囲に配置された複数の副中空円筒部122と、主中空円筒部121及び副中空円筒部122を連結する複数のブレース123と、を有し、係留索124によって係留される。かかる浮体本体部102の構成は、セミサブ型浮体の一例であり、例えば、副中空円筒部122は三本に限定されるものではない。各副中空円筒部122には、昇降可能な脚部103が配置されている。
【0037】
なお、浮体本体部102の上部には、風力発電装置等の所望の上部構造物105が配置されているが、上部構造物105については、第一実施形態の上部構造物5と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0038】
前記脚部103は、着底状態の浮体本体部2(浮体構造物1)を支える部品である。かかる脚部103は、浮体本体部102を少なくとも三点支持可能な複数の分岐脚131を有し、各分岐脚131は副中空円筒部122に配置される。副中空円筒部122には、脚部103を昇降可能に支持する昇降手段141が内蔵されている。かかる昇降手段141は、油圧ジャッキであってもよいし、電動モータ及び歯車機構を利用した動力伝達機構であってもよい。なお、脚部103の下端部は、接触面積を増大させるためにテーパ状に拡径させたり、平板部材を配置したりするようにしてもよいし、水底BWに差し込まれるように尖った形状をしていてもよい。
【0039】
前記着底手段104は、脚部103を水底BWに接地可能に昇降させる手段である。かかる着底手段104は、図3(c)に示したように、浮体本体部102に対して脚部103を昇降可能に支持する昇降手段141と、昇降手段141を制御する昇降制御手段142と、を有し、昇降制御手段142により昇降手段141を駆動させて脚部103を水底BWに接地させるようにしている。なお、脚部103が接地したか否かは、例えば、脚部103の底部に感圧センサを配置するようにすればよい。
【0040】
したがって、かかる着底手段104を配置することにより、脚部103を昇降させることができ、脚部103を降下させることによって浮体本体部102(浮体構造物101)を着底状態にすることができ、脚部103を上昇させることによって浮体本体部102(浮体構造物101)を浮遊状態にすることができる。また、脚部103は複数の分岐脚131により構成され、分岐脚131は、個別に昇降手段141を有し、昇降制御手段142により個別に昇降可能に構成されていることから、水底BWが平坦ではない場合であっても、各分岐脚131の降下深度を個別に調整することにより、浮体本体部102(浮体構造物101)を略水平に維持することができる。なお、着底手段104は、有線又は無線により作業船等により遠隔操作されるように構成されていてもよい。
【0041】
ここで、上述した第二実施形態に係る浮体構造物101の作用について説明する。図3(a)に示したように、浮遊状態にある浮体構造物101に対して、上部構造物105の定期メンテナンス等の保守を施す場合を想定する。この場合、着底手段104により、脚部103を降下させ、図3(d)又は図3(e)に示したように、脚部103を水底BWに接地させる。かかる操作により、浮体構造物101(浮体本体部102)を着底状態に切り替えることができる。その後、作業船等を利用して必要な保守作業を行う。したがって、本実施形態によれば、波浪や風の影響を受け難く、安定した状態で浮体構造物101の設置や保守等の作業を行うことができる。
【0042】
また、かかる第二実施形態の浮体構造物101によれば、脚部103の分岐脚131を個別に昇降させることができるため、図3(d)に示したように、水底BWが平坦な場合は勿論のこと、図3(e)に示したように、水底BWが平坦ではない場合であっても、浮体構造物101を略水平に維持したまま着底状態にすることができる。なお、浮体構造物101が配置された水域が、脚部103が届かないほど深い場合には、図2の運用方法と同様に、脚部103が届く浮遊可能水域まで曳船等により曳航してから浮体構造物101(浮体本体部102)を着底させるようにすればよい。
【0043】
図4に示したように、本発明の第三実施形態に係る浮体構造物201は、水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物201であって、水上に浮遊可能に構成された浮体本体部202と、浮体本体部202に配置された脚部203と、脚部203を水底BWに接地させる着底手段204と、を有し、着底手段204は、浮体本体部202が浮遊可能な水域で、浮体本体部202を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている。
【0044】
前記浮体本体部202は、浮体構造物201に対して浮力を与える部分であるとともに、喫水WSに曝される部分である。ここでは、浮体本体部202としてセミサブ型浮体を図示している。かかるセミサブ型浮体の浮体本体部202は、例えば、図4(a)に示すように、主中空円筒部221と、主中空円筒部221の周囲に配置された複数の副中空円筒部222と、主中空円筒部221及び副中空円筒部222を連結する複数のブレース223と、を有し、係留索224によって係留される。かかる浮体本体部202の構成は、セミサブ型浮体の一例であり、例えば、副中空円筒部222は三本に限定されるものではない。各副中空円筒部222には、昇降可能な脚部203が配置されている。また、主中空円筒部221の内部には、後述するバラストタンク241が配置されており、浮体構造物201(浮体本体部202)の浮力を調整できるように構成されている。
【0045】
なお、浮体本体部202の上部には、風力発電装置等の所望の上部構造物205が配置されているが、上部構造物205については、第一実施形態の上部構造物5と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0046】
前記着底手段204は、浮体本体部202を浮沈可能、かつ、脚部203を水底BWに接地可能に昇降させる手段である。すなわち、第三実施形態は、第二実施形態に係る浮体構造物101に対して、バラストタンク241により浮体構造物201(浮体本体部202)を浮沈可能に構成したものである。
【0047】
かかる着底手段204は、例えば、図4(b)に示すように、浮体本体部202(主中空円筒部221)に配置されたバラストタンク241と、バラストタンク241の注排水を制御するバラスト制御手段242と、浮体本体部202に対して脚部203を昇降可能に支持する昇降手段243と、昇降手段243を制御する昇降制御手段244と、を有し、バラスト制御手段242によりバラストタンク241に注水して浮体本体部202を降下させるとともに、昇降制御手段244により昇降手段243を駆動させて脚部203を接地させるようにしている。なお、脚部203が接地したか否かは、例えば、脚部203の底部に感圧センサを配置するようにすればよい。
【0048】
また、着底手段204は、浮体本体部202内に配置され、バラストタンク241を注排水するポンプ245を有する。バラスト制御手段242は、ポンプ245を制御することによって、バラストタンク241を注排水する。したがって、かかる着底手段204を配置することにより、バラストタンク241に注水することによって浮体本体部202(浮体構造物201)の喫水WSを上げることができ、バラストタンク241から排水することによって浮体本体部202(浮体構造物201)の喫水WSを下げることができる。
【0049】
前記脚部203は、第二実施形態に係る浮体構造物101の脚部103と同様に、昇降手段243及び昇降制御手段244を有する。これらの構成については、第二実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、ここでは、バラスト制御手段242と昇降制御手段244とを個別に図示しているが、これらの制御手段を一体化するようにしてもよい。
【0050】
ここで、上述した第三実施形態に係る浮体構造物201の作用について説明する。図4(a)に示したように、浮遊状態にある浮体構造物201に対して、上部構造物205の定期メンテナンス等の保守を施す場合を想定する。まず、図4(c)に示したように、着底手段204により、バラストタンク241に注水することによって浮体本体部202を沈降させる。その後、図4(d)に示したように、着底手段204により、脚部203を降下させ、脚部203を水底BWに接地させる。かかる操作により、浮体構造物201(浮体本体部202)を着底状態に切り替えることができる。その後、作業船等を利用して必要な保守作業を行う。
【0051】
したがって、本実施形態によれば、波浪や風の影響を受け難く、安定した状態で浮体構造物201(上部構造物205を含む)の設置や保守等の作業を行うことができる。特に、浮体構造物201(浮体本体部202)の浮沈と脚部203の昇降とを組み合わせることにより、浮体構造物201(浮体本体部202)の着底可能な水深を深くすることができ、浮体構造物201が深い水域に配置された場合であっても、曳航することなく浮体構造物201の設置や保守等の作業を行うことができ、作業効率を向上させることができる。また、脚部203を個別に昇降させることができるため、水底BWが平坦な場合は勿論のこと、図4(d)に示したように、水底BWが平坦ではない場合であっても、浮体構造物201を略水平に維持したまま着底状態にすることができる。
【0052】
なお、浮体構造物201が配置された水域が脚部203が届かないほど深い場合には、図2の運用方法と同様に、脚部203が届く浮遊可能水域まで曳船等により曳航してから浮体構造物201(浮体本体部202)を着底させるようにすればよい。
【0053】
図5に示した第四実施形態は、第一実施形態の脚部3の構造を変形したものである。他の構造については、第一実施形態と同じ構成であるため、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0054】
第四実施形態における脚部3は、図5(a)及び図5(b)に示したように、浮体本体部2を少なくとも三点支持可能な複数の分岐脚31を有する。ここでは、浮体本体部2の周囲に配置された三本の分岐脚31を図示している。分岐脚31は、図5(b)に示したように、固定部材32により浮体本体部2に接続されており、各分岐脚31はブレース33により連結されている。また、ここでは、分岐脚31の下端と浮体本体部2の下端とを略同一平面に配置されるように、脚部3を配置している。したがって、図示した第四実施形態では、脚部3と浮体本体部2とにより、四点支持されるようになっている。かかる構成により、図5(c)に示した着底状態における浮体構造物1の安定性をより高めることができる。さらに、分岐脚31は、アクチュエータ等により、個別に伸縮可能に構成されていてもよい。脚部3を伸縮可能に構成することにより、浮体本体部2の姿勢をセンサ等で監視しながら、浮体本体部2を略水平に維持させることができる。
【0055】
本発明は上述した実施形態に限定されず、スパー型及びセミサブ型以外のバージ型、テンションレグ型等の他の浮遊型の浮体構造物にも適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1,101,201 浮体構造物
2,102,202 浮体本体部
3,103,203 脚部
4,104,204 着底手段
5,105,205 上部構造物
31,131 分岐脚
41,241 バラストタンク
42,242 バラスト制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に浮遊する浮遊型の浮体構造物であって、
水上に浮遊可能に構成された浮体本体部と、
該浮体本体部に配置された脚部と、
該脚部を水底に接地させる着底手段と、を有し、
前記着底手段は、前記浮体本体部が浮遊可能な水域で、前記浮体本体部を浮遊状態と着底状態とに切替可能に構成されている、
ことを特徴とする浮体構造物。
【請求項2】
前記着底手段は、前記浮体本体部に配置されたバラストタンクと、該バラストタンクの注排水を制御するバラスト制御手段と、を有し、該バラスト制御手段により前記バラストタンクに注水し前記浮体本体部を降下させて前記脚部を水底に接地させるようにした、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。
【請求項3】
前記着底手段は、前記浮体本体部に対して前記脚部を昇降可能に支持する昇降手段と、該昇降手段を制御する昇降制御手段と、を有し、該昇降制御手段により前記昇降手段を駆動させて前記脚部を水底に接地させるようにした、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。
【請求項4】
前記着底手段は、前記浮体本体部に配置されたバラストタンクと、該バラストタンクの注排水を制御するバラスト制御手段と、前記浮体本体部に対して前記脚部を昇降可能に支持する昇降手段と、該昇降手段を制御する昇降制御手段と、を有し、前記バラスト制御手段により前記バラストタンクに注水して前記浮体本体部を降下させるとともに、前記昇降制御手段により前記昇降手段を駆動させて前記脚部を接地させるようにした、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。
【請求項5】
前記脚部は、前記浮体本体部を少なくとも三点支持可能な複数の分岐脚を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。
【請求項6】
前記分岐脚は、個別に前記昇降手段が配置され、前記昇降制御手段により個別に昇降可能に構成されている、ことを特徴とする請求項5に記載の浮体構造物。
【請求項7】
前記浮体本体部は、上部に配置される上部構造物を有し、該上部構造物は、前記浮体本体部の着底状態時に設置又は保守される、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。
【請求項8】
前記浮体本体部は、スパー型浮体又はセミサブ型浮体である、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−45981(P2012−45981A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187182(P2010−187182)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】