説明

浮遊微粒子モニタリング装置

【課題】100nm程度以下の超微粒子の気中個数濃度を、その粒子性状を変化させることなく、或る程度の粒径情報を持って、短時間で簡便に測定できる装置を安価に提供する。
【解決手段】マニホールド2と、マニホールドに個別接続された、異なる分級性能の複数の慣性フィルタ3−5および前記慣性フィルタと同じ流路を持つフィルタ6と、各フィルタそれぞれの流路を切り替える流路切替器8と、流路切替器8に接続されたCPC9と、流路切替器の流路切替制御とCPCの測定データの処理とを行うコンピュータ10とを具備する。コンピュータ10は、流路切替器の流路切替制御で各慣性フィルタをCPCに個別に接続し、且つ、CPCで各測定した場合の慣性フィルタの接続情報から浮遊微粒子の粒径情報とその粒径情報に対応した粒子個数情報とを得ると共に、これらの情報に基づいて、あらかじめ設定された粒径範囲ごとの粒子個数濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気中に浮遊する微粒子(浮遊微粒子)、とりわけ粒径100nm以下のナノ粒子の個数濃度をモニタリングすることに関し、さらに詳細には、半導体製造用のクリーンルームおよびこれに準じる環境など、超高清浄が要求される環境中の浮遊微粒子の個数濃度を管理(モニタリング)することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記モニタリングには、光散乱式粒子計数器(Optical Particle Counter:OPC)が広く一般に用いられている。このOPCは、いわゆるパーティクルカウンタとも称され、測定原理は、気中の浮遊微粒子個々に強い光例えばレーザ光を照射し、個々の浮遊微粒子で散乱されたパルス状散乱光の個数から浮遊微粒子の個数、散乱光強度から粒径を測定し、粒子個数濃度を求めることができるようにしてある装置である。ここで、粒子個数濃度とは、単位体積当りに予め設定した粒径範囲の微粒子の個数で定義される。OPCにおいて、散乱光強度は粒径の減少と共に微弱となるために、検出可能な最小粒径は、100nm程度とされている。
【0003】
一方、電子デバイスの高集積化に伴う微細化の進行により、より高清浄な製造環境とその管理とが要求され、とりわけ、粒径100nm以下のナノ粒子の個数濃度のモニタリングが必要とされてきている。
【0004】
環境中に浮遊するナノ粒子の個数濃度を測定できる装置として、凝縮式粒子計数器(Condensation Particle Counter:CPC)がある。このCPCは、微小な粒径の微粒子を光学的に検出できるように、何等かの蒸気を微粒子周りに凝縮させて見掛け上の粒径を大きく成長させることができるようにした装置である。このCPCは、微粒子の個数は測定できても、モニタリングに必要な微粒子の粒径情報が得られないという課題がある。
【0005】
そこで、CPCと荷電中和器および微分型移動度分析器(DMA)を組み合わせた、走査型移動度粒径測定器(SMPS)では粒径10nm程度から高い粒径分解能を得ることができるが、荷電による粒子性状が変化するという懸念、荷電効率が数%と低い為、一般的なクリーンルームがそうであるように、一般大気や室内環境に比して低粒子濃度環境の測定には比較的長時間を要し、時間分解能が低いこと、装置が複雑で性能維持管理が難しく高価であるなどの問題があった。
【0006】
なお、先行技術文献を下記する。この文献に記載のモニタリング装置においては、マニホールドに、OPC(パーティクルカウンタ)1台と、凝縮核式粒子計数器(Condensation Nucleus Counter:CNC)4台が、それぞれ、接続された構成であり、高価な装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許5072626明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、気中を浮遊する微粒子の気中個数濃度、とりわけ粒径100nm以下のナノ粒子の気中個数濃度を、その粒子性状を変化させることなく、或る程度の粒径情報を持って、短時間で簡便に測定できる装置を安価に提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による浮遊微粒子モニタリング装置は、気中における浮遊微粒子の個数濃度をモニタリングする装置であって、マニホールドと、前記マニホールドに個別に接続され、且つ、分級径が順次に相違する複数の分級フィルタと、前記各分級フィルタそれぞれの流路を切り替える流路切替器と、前記流路切替器に接続された凝縮式粒子計数器(CPC)と、前記流路切替器の流路切替を制御し、且つ、前記CPCの測定データを処理する制御手段と、を具備し、前記制御手段は、前記流路切替器の流路切替制御で前記各分級フィルタそれぞれを前記CPCに個別に接続すると共に、前記分級フィルタの流路切替先情報から得られる浮遊微粒子の粒径情報と、その粒径情報に対応した粒子個数情報とを得ると共に、これらの情報に基づいて、あらかじめ設定された粒径範囲ごとの粒子個数濃度を算出するようにしたことを特徴とする。
【0010】
前記CPCには、凝縮核式粒子計数器(CNC)を含む。CPCは、凝縮核計数器(Condensation Nucleus Counter:CNC)と呼ばれる。なぜなら、検出されている粒子は、液滴形成において凝縮の核を形成するからである。CPCとCNCとの両方は、現在、科学文献および技術文献で使用され、蒸気の凝縮、液滴成長および光学的検出に基づく測定機器を意味する。
【0011】
好ましい態様は、前記マニホールドに光散乱式粒子計数器(OPC)を接続し、前記制御手段は、前記CPCで各測定した場合の前記分級フィルタの流路切替先情報から得られる浮遊微粒子の粒径情報と、その粒径情報に対応した粒子個数情報と、前記測定に同期して前記OPCで各測定した浮遊微粒子の粒子個数濃度の変動の情報とに基づいて、あらかじめ設定された粒径範囲ごとの粒子個数濃度を算出するようにすることである。
【0012】
上記OPCには、レーザー光源が粒子の照射に使用される場合は、レーザー粒子計数器(Laser Particle Counter:LPC)とも呼ばれ、これを含む。
【0013】
好ましい態様は、前記複数の分級フィルタは、分級径が100nm以下で且つ分級径が順次に相違する複数の慣性フィルタの組み合わせを含むことである。この態様では、粒径100nm以下であるナノ粒子をモニタリングすることができる。
【0014】
好ましい態様は、前記複数の分級フィルタは、分級径が100nm以下で且つ分級径が順次に相違する複数の慣性フィルタと、総ての浮遊微粒子を通過させるフィルタとの組み合わせである。この態様では、粒径100nm以下であるナノ粒子と共に総ての浮遊微粒子をモニタリングすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、浮遊微粒子の気中個数濃度、とりわけ粒径100nm以下のナノ粒子の気中個数濃度を、その粒子性状を変化させることなく、或る程度の粒径情報を持って、短時間で簡便に測定できる装置を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る浮遊微粒子モニタリング装置のブロック構成図である。
【図2】図2(a)は、慣性フィルタの断面の一構成例を示す図、図2(b)は慣性フィルタの断面の別構成例を示す図、図2(c)は横軸に粒径、縦軸に捕集効率を示す慣性フィルタの粒子捕集効率特性を示す図である。
【図3】図3は、図1の装置の動作説明に用いる測定シーケンス図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施形態に係る浮遊微粒子モニタリング装置のブロック構成図である。
【図5】図5は、図4の装置の動作説明に用いる測定シーケンス図である。
【図6】図6は、慣性フィルタによる粒子分級の概念図である。
【図7】図7は、一般の繊維層フィルタによる粒子捕集機構の説明に用いる概念図である。
【図8】図8は、図2(b)の慣性フィルタのメッシュ状ろ材表面上に堆積した粒子を示す図である。
【図9】図9は、粒径を横軸に、捕集効率を縦軸にとる慣性フィルタの分級特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る浮遊微粒子モニタリング装置(以下、単に装置という)を説明する。図1を参照して、実施形態の装置20は、サンプリングプローブ1、マニホールド2、複数の慣性フィルタ3〜5、および前記慣性フィルタと同じ流路を持つフィルタ6、パージフィルタ7、流路切替器8、凝縮式粒子計数器(CPC)9、および制御手段としてのコンピュータ10を含む。
【0018】
サンプリングプローブ1は、試料気体(以下、単に試料という)をサンプリングする。
【0019】
マニホールド2は、サンプリングプローブ1に対して配管11を介して接続された試料導入口と、複数の慣性フィルタ3〜5、およびフィルタ6に対して配管12〜15を介して接続された複数の試料導出口とを有する。マニホールド2において、サンプリングプローブ1から配管11を介して試料導入口から試料を取り込むとともに、複数の試料導出口それぞれから配管12〜16を介して、各フィルタ3〜7に試料を排出する。各フィルタ3〜7は、配管17〜21をそれぞれ介して、流路切替器8に接続されている。
【0020】
流路切替器8は、配管22を介して図示略の吸引源に接続され、また、配管23を介してCPC9に接続されていると共に、通信ケーブル25によりコンピュータ10に接続されている。
【0021】
慣性フィルタ3は、粒子分級径が50nmのフィルタであり、慣性フィルタ4は、粒子分級径が75nmのフィルタであり、慣性フィルタ5は、粒子分級径が100nmのフィルタである。
【0022】
フィルタ6は、全ての粒径の浮遊微粒子を通過させる空のフィルタである。このフィルタ6は、前記慣性フィルタ3〜5を使って測定されたデータと、このフィルタ6を使って得られたデータとの比較を行うために、あえて、これらの慣性フィルタと同じ流路を持ち、全ての粒径の浮遊微粒子を通過させるフィルタ(いわゆる全粒子を通過させるだけの空フィルタ)を設置している。
【0023】
このような慣性フィルタ3〜5は、気中の浮遊微粒子を粒子慣性効果により捕集すると共にろ過速度が大きくなる程、より小さな粒径の浮遊微粒子を捕集することができるフィルタである。
【0024】
これら慣性フィルタを図2(a)〜(c)を参照して説明する。
【0025】
図2(a)(b)は慣性フィルタ3〜5それぞれの構成各例を示し、図2(c)は慣性フィルタの粒子捕集効率特性を、横軸を粒径で、また、縦軸を粒子捕集効率で示す図である。まず図2(a)に示す慣性フィルタは、中央に貫通孔30を備えた円柱形のフィルタサポート31と、この貫通孔30内に充填された非圧縮性繊維32とを含む。貫通孔30は、図中矢印で示すように、気流上流側から気流下流側に向けて漸次内径が縮径する縮径貫通孔30aと、この縮径貫通孔30aに連成され内径が一定の定径貫通孔30bとを含む。非圧縮性繊維32はこの定径貫通孔30bに充填される。この非圧縮性繊維32は、高速気流が通過しても体積変化が殆どない非圧縮性の繊維として好ましくは金属繊維、より好ましくはSUS(ステンレス)繊維が緻密に絡まった状態で充填されている。金属繊維としてはSUS繊維に限定するものではなく、アルミ繊維、銅繊維、その他の金属繊維から選ばれる1種以上の金属繊維でもよい。また、非圧縮性で高速気流が通過しても体積変化が殆どない繊維であれば、金属繊維に限定しない。
【0026】
上記構成の慣性フィルタの縮径貫通孔30aは気流下流側方向へ直径が漸次に小径になっていくので、気流は縮径貫通孔30a内で徐々に加速した後、定径貫通孔30b内を一定速度で通過し、この通過の際に非圧縮性繊維32により浮遊微粒子を捕集することができる。
【0027】
図2(b)に示す慣性フィルタは、矢印で示す気流通過方向に内径が縮径する貫通孔33を有する流量調整ノズル34と、粒子分級用シート35とを有する。流量調整ノズル34は、貫通孔33の形態により流速を調整することで分級径を変える機能を有する。粒子分級用シート35は、流量調整ノズル34よりも気流通過下流側に配置されかつ粒子慣性効果により浮遊微粒子を捕集するための複数の粒子分級穴を一様な配列態様で有すると共に流量調整ノズル34の貫通孔33の下流側開口33aよりも大きいシート面積を有しかつ該下流側開口33a全面を塞ぐ様に設けられている。流量調整ノズル34は、貫通孔の縮径率が相違したり、あるいは貫通孔の数が相違したりする他の流量調整ノズルと組み替えることで分級径や流量の調整を可能としている。この慣性フィルタは、特願2010−148870で本願出願人の出願に係るものである。
【0028】
慣性フィルタは、捕集効率が50%での粒径が粒子分級径(カットオフ径)となり、例えば前記の慣性フィルタ3では、粒子分級径を50nmとすることができ、慣性フィルタ4では、75nmとすることができ、同様に慣性フィルタ5は粒子分級径を100nmとすることができる。いづれにせよ、分級径が順次に相違する複数の慣性フィルタ(3〜5)が流路切替器8に接続されていることが重要である。
【0029】
そして、図2(a)の慣性フィルタの場合、例えば非圧縮性繊維の充填密度の調整をすることで、上記のように50nm、75nm、100nmの分級径を決めることができ、図2(b)の慣性フィルタの場合、例えば流量調整ノズル34における貫通孔33の縮径率や貫通孔33の数を変化させて流速や流量を制御することで、50nm、75nm、100nmの分級径を決めることができる。図2(c)には、一例として分級径が50nm、75nm、100nmとなる慣性フィルタ3〜5のフィルタ特性F1〜F3を示す。(図2(c)では、慣性フィルタ3に対応するフィルタ特性をF3、同様に慣性フィルタ4がF2、慣性フィルタ5がF1として示す。)
パージフィルタ7は、配管23やCPC9に残留する微粒子を除去し元の状態へ戻すために用いるものであり、通常、モニタリングの最中には使用しないフィルタである。
【0030】
流路切替器8は、通信ケーブル25を介してコンピュータ10により流路切替が制御されるようになっており、慣性フィルタ3〜5、フィルタ6、及びパージフィルタ7それぞれの配管17〜21を、配管23を介してCPC9に切り替え接続する。
【0031】
CPC9は、吸引源を内蔵しており、流路切替器8を介して慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6から入力されてくる浮遊微粒子の粒径および個数濃度を測定する。CPC9は、通信ケーブル24を介してコンピュータ10に接続されており、通信ケーブル24を介してコンピュータ10に測定データを出力する。コンピュータ10は、通信ケーブル24を介して入力されてくるCPC9の測定データに基づいて浮遊微粒子の粒径および個数濃度を算出する。
【0032】
なお、CPC9としては、例えばTSI社製がある。
【0033】
次に、図3を参照して実施形態の装置によるモニタリングを説明する。図3は装置20による前記モニタリングのための測定シーケンスを示す。図3で示すように、測定シーケンスは、手順1〜14からなり、手順1,3,5,7,9,11,13は、配管23やCPC9の内部経路に残留する前手順の試料を本手順で導入された試料へ置換するためのアイドル手順であり、測定を開始できる環境にするまでの待ち時間といえる。手順2,4,6,8,10,12,14は上記アイドル手順に続いて行われる10秒周期の測定手順である。手順2は測定1回目、手順4は測定2回目、手順6は測定3回目、手順8は測定4回目、手順10は測定5回目、手順12は測定6回目、手順14は測定7回目となる。この測定シーケンスを繰り返す場合は、手順1〜14の次の測定シーケンスは、手順13,14が手順1,2と同様なため、手順3〜14である。
【0034】
手順1で、内部経路の試料置換のため5秒間、CPC9がアイドリングされる。このアイドリングでは、流路切替器8による流路切替先がフィルタ6とされ試料はCPC9に導入されるが、CPC9による粒子数測定は行われない。
【0035】
手順2で、測定1回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先はフィルタ6を保持したまま、このフィルタ6により総浮遊微粒子がCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C1)。
【0036】
手順3で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ3とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0037】
手順4で、測定2回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ3を保持したまま、この慣性フィルタ3により粒径50nm以下の浮遊微粒子が通過(分級)されて、CPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C2)。
【0038】
手順5で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先がフィルタ6とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0039】
手順6で、測定3回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先はフィルタ6を保持したまま、このフィルタ6により総浮遊微粒子がCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C3)。
【0040】
手順7で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ4とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0041】
手順8で、測定4回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ4を保持したまま、この慣性フィルタ4により粒径75nm以下の浮遊微粒子が分級されて、CPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C4)。
【0042】
手順9で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先がフィルタ6とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0043】
手順10で、測定5回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先はフィルタ6を保持したまま、このフィルタ6により総浮遊微粒子がCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C5)。
【0044】
手順11で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ5とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0045】
手順12で、測定6回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ5を保持したまま、この慣性フィルタ5により粒径100nm以下の浮遊微粒子が分級されてCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C6)。
【0046】
手順13で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、流路切替器8による流路切替先がフィルタ6とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0047】
手順14で、測定7回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先はフィルタ6を保持したまま、このフィルタ6により総浮遊微粒子がCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C7)。
【0048】
こうした測定シーケンスの1サイクルの完了後に、コンピュータ11はCPC9の測定データにより粒径分布等を以下の算出ステップにより算出する。尚、前記各手順で測定された値はいづれも粒子の個数値であるが、各手順における試料の流量は測定できていることから、それらの数値を使って、以下の各ステップでは粒子個数を粒子個数濃度(単位体積当たりの粒子個数)として表すこともある。
【0049】
算出ステップ(1)
CPC9の前記測定1,3,5,7回の測定値である総浮遊微粒子数(以下、総粒子数という)の測定値C1,C3,C5,C7の平均値Ct-aveを求める。
【0050】
算出ステップ(2)
CPC9の前記測定2,4,6回の測定値Ci(i=2,4,6)の前後の総粒子数測定値C(i-1)、C(i+1)の平均値C(i-1)-(i+1)と、前記平均値Ct-aveとにより、各測定値Ci(i=2,4,6)に対する個数濃度の変動補正レートRi(i=2,4,6)を算出する。
【0051】
ここで、C(i-1)-(i+1)=(C(i-1)+C(i+1))/2
i(i=2,4,6)=C(i-1)-(i+1)/Ct-ave
算出ステップ(3)
CPC9の前記測定2,4,6回の測定値Ci(i=2,4,6)に呼応する濃度変動補正レートRi(i=2,4,6)を乗じて濃度経時変化を補正したC´i=Ci・Riを求める。
【0052】
算出ステップ(4)
CPC9の補正後の各測定値から各粒径範囲の粒子個数濃度C´2、C´4−C´2(C´4とC´2の差を表す。以下も同様)、C´6−C´4、Ct-ave−C6´を得る。ここで、C´2は、粒径範囲がCPC9の検出下限〜50nmにおける粒子個数濃度であり、C´4−C´2は、粒径範囲が50〜75nmにおける粒子個数濃度であり、C´6−C´4は、粒径範囲が75〜100nmにおける粒子個数濃度であり、Ct-ave−C´6は、粒径が100nm以上の粒子個数濃度である。
【0053】
以上の実施形態の装置20を用いたモニタリングにおいては慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6を用いたので、コンピュータ10は、CPC9それ自体の測定データからは粒径情報が得られなくても、慣性フィルタ3〜5、およびフィルタ6が流路切替器8により流路を切替えられるタイミングと、CPC9からの測定データが出力されるタイミングとの情報から、粒径情報と、粒子数情報とを関連付けすることができ、これにより、100nm程度以下の浮遊微粒子であるナノ粒子の気中個数濃度を、その粒子性状を変化させることなく、或る程度の粒径情報を持って、短時間で簡便に測定できるようになると共に、従来のように高価なCPC9を複数台ではなく、1台だけ使用することにより、従来よりも装置を安価に提供することができる。
【0054】
(他の実施形態)
次に、図4および図5を参照して他の実施形態の装置を説明する。図4は、この実施形態の装置21のブロック構成であり、図5はこの装置21による浮遊微粒子のモニタリングのための測定シーケンス図である。この実施形態では、前述した実施形態の装置20のCPC9に加えて、光散乱式粒子計数器(OPC)27を使用している。OPC27は、配管26を介してマニホールド2に接続されていると共に、通信ケーブル28を介してコンピュータ10に接続されており、通信ケーブル28を介してコンピュータ10に測定データを出力する。
【0055】
なお、OPC27としては、例えばTSI社製がある。
【0056】
図5を参照して、CPC9とOPC27とを用いた実施形態の装置21による浮遊微粒子の測定を説明する。測定シーケンスは、手順1〜8からなり、1サイクルの測定時間は、60秒である。手順1,3,5,7は、配管23やCPC9の内部経路に残留する前手順の試料を本手順で導入された試料へ置換するためのアイドル手順であり、測定を開始できる環境にするまでの待ち時間といえる。手順2,4,6,8は上記アイドル手順に続いて行われる10秒周期の測定手順である。手順2は測定1回目、手順4は測定2回目、手順6は測定3回目、手順8は測定4回目となる。これらの測定を行うためのCPC9とOPC27の測定はコンピュータ10により同期がとられている。
【0057】
最初、手順1で、内部経路の試料置換のため5秒間、OPC27とCPC9がアイドリングされる。同時に、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ3とされ試料はCPC9に導入されるが、CPC9による粒子数測定は行われない。
【0058】
手順2で、測定1回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ3を保持したまま、この慣性フィルタ3により粒径50nm以下の浮遊微粒子が分級されてCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C1)。同じタイミングで、10秒間、OPC10により測定1回目として浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号O1)。
【0059】
手順3で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、OPC27とCPC9がアイドリングされる。同時に、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ4とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0060】
手順4で、測定2回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ4を保持したまま、この慣性フィルタ4により粒径75nm以下の浮遊微粒子が分級され、CPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C2)。同じタイミングで、10秒間、OPC10により測定2回目として浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号O2)。
【0061】
手順5で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、OPC27とCPC9がアイドリングされる。同時に、流路切替器8による流路切替先が慣性フィルタ5とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0062】
手順6で、測定3回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先は慣性フィルタ5を保持したまま、この慣性フィルタ5により粒径100nm以下の浮遊微粒子が分級され、CPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C3)。同じタイミングで、10秒間、OPC10により測定3回目として浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号O3)。
【0063】
手順7で、手順1と同様に、試料置換のため5秒間、OPC27とCPC9がアイドリングされる。同時に、流路切替器8による流路切替先がフィルタ6とされ、CPC9がアイドリングされる。
【0064】
手順8で、測定4回目として、10秒間、流路切替器8による流路切替先はフィルタ6を保持したまま、このフィルタ6により総浮遊微粒子がCPC9に取り込まれ、取り込まれた浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号C4)。同じタイミングで、10秒間、OPC27により測定4回目として浮遊微粒子の個数が計数される(測定値記号O4)。
【0065】
こうした測定シーケンスの1サイクルの完了後に、コンピュータ10はCPC9、OPC27の計数データから粒子個数濃度を以下の算出ステップにより算出する。
【0066】
算出ステップ(5)
OPC27の前記測定1回目から4回目までの測定値をO1〜O4とし、それら4回分の測定値O1〜O4の平均値をOaveとし、測定平均値Oaveに対する各測定値O1〜O4の割合をR1〜R4とし、その割合R1〜R4、つまり総粒子個数濃度(単位体積当たりの総粒子個数)の変動を見る。測定平均値Oave=(O1+O2+O3+O4)/4であり、割合R1=O1/Oaveであり、割合R2=O2/Oaveであり、割合R3=O3/Oaveであり、割合R4=O4/Oaveである。
【0067】
ここで、O1〜O4は、各手順2,4,6,8それぞれの測定時間におけるOPC27により測定された浮遊微粒子の総個数である。
【0068】
算出ステップ(6)
CPC9の前記測定1回目から4回目までの測定値である粒子個数濃度をC1〜C4とし、それぞれC1〜C4に対応する前記R1〜R4を乗じて濃度経時変化を補正した値をそれぞれC´1〜C´4とする。ここで、CPC9は、浮遊微粒子の個数を測定できるが、浮遊微粒子のモニタリングに必要な浮遊微粒子の粒径情報が得られないが、慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6を流路切替器8で切り替えているので、測定値C1については慣性フィルタ3によるものであるから、総粒子のうち粒径50nm以下の粒子数である。また、測定値C2は慣性フィルタ4によるものであるから、総粒子のうち粒径75nm以下の粒子数である。測定値C3は慣性フィルタ5によるものであるから、総粒子のうち粒径100nm以下の粒子数である。測定値C4はフィルタ6によるものであるから、総粒子数である。
【0069】
したがって、CPC9それ自体では浮遊微粒子の粒径情報が得られなくても、流路切替器8により流路切替を行なって慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6それぞれで粒径情報を得ることができる。ここで、コンピュータ10は、流路切替器8を制御しているので、前記測定1回目から4回目までの測定値C1〜C4から粒径情報を得ることができる。
【0070】
算出ステップ(7)
次に、CPC9の補正後の各測定値C´1〜C´4から各粒径範囲の粒子個数濃度C´1、C´2−C´1(C´2とC´1の差を表す。以下も同様)、C´3−C´2、C´4−C´3を得る。ここで、C´1は、粒径範囲がCPC9の検出下限〜50nmにおける粒子個数濃度であり、C´2−C´1は、粒径範囲が50〜75nmにおける粒子個数濃度であり、C´3−C´2は、粒径範囲が75〜100nmにおける粒子個数濃度であり、C´4−C´3は、粒径が100nm以上の粒子個数濃度である。
【0071】
以上の実施形態の装置21を用いたモニタリングにおいては、装置20と同様に、慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6を用いたので、コンピュータ10は、CPC9それ自体の測定データからは粒径情報が得られなくても、慣性フィルタ3〜5、及びフィルタ6が流路切替器8により流路切替されるタイミングと、CPC9からの測定データが出力されるタイミングとの情報から、粒径情報と、粒子数情報とを関連付けすることができる。そして、この装置21では、OPC27の測定データを用いるので、装置20よりも測定シーケンスが簡略化される。
【0072】
なお、実施形態で使用する慣性フィルタについて、以下に説明する。まずは、一般的な繊維層を使ったフィルタ(以下、繊維層フィルタという)で、エアロゾルを捕集する際の機構を図7を使って説明する。この図は、一般の繊維層フィルタによる粒子捕集機構を概念的に示している。矢印は気流の方向を示す。図の中央には、繊維層フィルタを構成する非圧縮性繊維の断面が表示されており、その周囲を多種の粒径を持つエアロゾル粒子が流れている。一般的な繊維層フィルタによるエアロゾル粒子の捕集では、図に示すように拡散、慣性、さえぎりが捕集機構として作用し、それぞれの捕集効率は粒子径およびろ過速度に依存する。慣性は粒子径が大きくてろ過速度が大きいほど支配的な捕集機構となり、慣性捕集の尺度は次式(1)で定義されるストークス(Stokes)数である。一方、ブラウン拡散は粒子径が小さく、ろ過速度が遅いほど支配的な捕集機構となり、拡散捕集の尺度は次式(2)で定義されるペクレ(Peclet)数である。ストークス数が大きいほど慣性が支配的な捕集機構となり、ペクレ数が小さいほどブラウン拡散が支配的な捕集機構となる。この概念図から、“篩(ふるい)”とは異なる機構で粒子が捕集されていることが概念的に理解される。
【0073】
【数1】

【0074】
【数2】

【0075】
Cc : カニンガムのすべり補正定数
dp : 粒子径(空気動力学径)
df : 捕集繊維の繊維径
D : 粒子の拡散係数
ρp : 粒子の密度
u0 : ろ過速度
μ : 流体の粘度
一般の微粒子フィルタの捕集効率を粒子径に対してプロットすると、図6中の(a)に示すように下に凸の曲線となり、最大透過粒子径と呼ばれる最も捕集されにくい(捕集効率が低い)粒子径が存在する。この最大透過粒子径を境に、それより大きい粒子径では、慣性捕集が支配的な捕集機構となって、粒子径が大きくなるにつれ捕集効率が高くなる。一方、最大透過粒子径より小さい粒子径では、拡散捕集が支配的な捕集機構となって粒子径が小さくなるにつれ捕集効率が高くなる。ここで、ろ過速度u0を大きくしていくと、式(1)、(2)で定義されるストークス数、ペクレ数はともに大きくなり、小さな粒子に対しても慣性捕集が促進され、拡散捕集は抑制される。すると、前記(a)で描かれていた捕集効率を示すカーブは、ろ過速度の増加に伴い、点線で示すカーブになり、さらにろ過速度を大きくすると、ついには図6中の(b)に示すように、粒子径の大きなところでは捕集効率が急激に高くなり、また粒子径の小さなところでは急激に低くなるカーブを描くことになる。この、ろ過速度を増加させることで、慣性捕集を促進し、拡散捕集を抑制した状態でエアロゾルをろ過するフィルタを慣性フィルタと呼び、理想的にはグラフ(b)で示される捕集効率を示すフィルタである。ただし、粒子径がサブミクロンより大きくなると、粒子の運動エネルギーが大きくなる為、粒子が捕集繊維に慣性衝突しても跳ね返りが起こって捕集されにくくなる。
【0076】
以上から慣性フィルタは、高速でエアロゾルをろ過することにより、サブミクロン以下の微粒子の慣性捕集の促進と拡散捕集の抑制を同時に実現し、ある粒子径以上の粒子はほぼ完全に捕集し、それ以下の粒子はほぼ完全に透過させることができるローパスフィルタであり、ナノ粒子を対象とした分級器(ナノ粒子分級器)に成り得ると言える。また、慣性フィルタは図9に示すように、ろ過速度u0が大きくなる程、より小さな粒径の粒子を捕集する特徴を有する。
【0077】
図2(a)及び図2(b)に示した慣性フィルタの構成例では、図2(a)の慣性フィルタの貫通孔、図2(b)の慣性フィルタの粒子分級用シートに比較的高速(数十m/sec)で気流を通過させることで、ナノ粒子を慣性分級することができる。
【0078】
図8に示す写真は、図2(b)の慣性フィルタの粒子分級用シートのメッシュ状ろ材表面に粒子が捕集されて堆積している状態を示している。この写真で示す慣性フィルタの粒子分級用シートのメッシュ仕様は、繊維径10μm、ピッチ83μm、目開き73μmである。この写真から、メッシュ目開きよりも粒径が小さい微粒子がメッシュ状ろ材表面で捕集されて堆積しており、図6及び図7の概念と一致していることが判る。
【符号の説明】
【0079】
20,21 装置
1 サンプリングプローブー
2 マニホールド
3−6 慣性フィルタ
7 パージフィルタ
8 流路切替器
9 凝縮式粒子計数器(CPC)
10 コンピュータ
27 光散乱式粒子計数器(OPC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気中における浮遊微粒子の個数濃度をモニタリングする装置であって、マニホールドと、前記マニホールドに個別に接続され、且つ、分級径が順次に相違する複数の分級フィルタと、前記各分級フィルタそれぞれの流路を切り替える流路切替器と、前記流路切替器に接続された凝縮式粒子計数器(CPC)と、前記流路切替器の流路切替を制御し、且つ、前記CPCの測定データを処理する制御手段と、を具備し、前記制御手段は、前記流路切替器の流路切替制御で前記各分級フィルタそれぞれを前記CPCに個別に接続すると共に、前記分級フィルタの流路切替先情報から得られる浮遊微粒子の粒径情報と、その粒径情報に対応した粒子個数情報とを得ると共に、これらの情報に基づいて、あらかじめ設定された粒径範囲ごとの粒子個数濃度を算出するようにしたことを特徴とする浮遊微粒子モニタリング装置。
【請求項2】
前記マニホールドに光散乱式粒子計数器(OPC)を接続し、前記制御手段は、前記CPCで各測定した場合の前記分級フィルタの流路切替先情報から得られる浮遊微粒子の粒径情報と、その粒径情報に対応した粒子個数情報と、前記測定に同期して前記OPCで各測定した浮遊微粒子の粒子個数濃度の変動の情報とに基づいて、あらかじめ設定された粒径範囲ごとの粒子個数濃度を算出する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の分級フィルタは、分級径が100nm以下で且つ分級径が順次に相違する複数の慣性フィルタの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の分級フィルタは、分級径が100nm以下で且つ分級径が順次に相違する複数の慣性フィルタと、総ての浮遊微粒子を通過させるフィルタとの組み合わせである、請求項1または2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255743(P2012−255743A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130001(P2011−130001)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】