説明

浴室の内面部材

【課題】表面の水を瞬時に乾燥させることができ、水が乾くまで待つ必要なく短時間で浴室に入ることが可能になり、また水垢などの汚れが付着し難い浴室の内面部材を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、基材1の表面に塗装して浴室の床材や壁材を形成する。


塗膜2表面の滑水性が高く、水滴を転がらせて表面から瞬時に除去することで、瞬時に乾燥させることができ、また表面を親水性にする場合のように親水基を導入する必要がなく、水垢などの汚れが付着することを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室の床材や壁材として使用される浴室の内面部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユニットバスなど部材をユニット化した浴室において、床材や壁材は主にFRPなどの樹脂で形成されている。このように樹脂で形成された浴室の内面部材、特に床材の上に入浴した際の水滴が残存すると、翌日に浴室に入ると残存した水滴で足の裏が濡れて不快感を感じる。このため、水の乾燥性を速くすることで、入浴の翌日でも靴下を履いたまま浴室に入って、浴槽の掃除をしたり浴槽に湯を張ったりすることができるようにした床材など浴室の内面部材の開発が行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1は、床材の表面を親水性にすることで、表面の水の接触角を20°以下にし、床材の上に残存する水滴を表面積の大きな水膜状にすることによって、乾燥性を向上させるようにしている。しかし特許文献1のものでは床材の表面に水酸基やカルボキシル基を存在させることによって親水性にするようにしており、親水基に水垢などの汚れ成分が化学的に結合して付着し易くなるという問題があった。
【0004】
また特許文献2は、床材の表面に親水性塗料を塗布して、水の接触角を40〜70°に調整し、水の玉ができ難くして水はけ性を向上するようにしている。しかし、水の接触角が40〜70°では、水玉が部分的に残ってしまい、乾燥して乾くまでの時間が数時間以上必要であり、度々浴室内に出入りする必要があるときには、水滴で足の裏が濡れる不快感を感じることになる。しかも親水性塗料には微量でも親水基が含有されるため、上記と同様に水垢などの汚れ成分が付着し易く、汚れが蓄積するなどの問題もあった。
【0005】
また、特許文献3〜5は、上記の特許文献1,2と異なり、床材の表面に凹凸形状を形成することによって水の表面張力を破壊し、擬似的に親水状態にすることで、水の乾燥性が向上するようにしてある。しかしこのものも、床材の上の水を完全に乾燥させるには数時間以上が必要であり、入浴したその日のうちに浴室に入って作業する場合は、水残りがある状態で作業する必要があり、依然として問題は解決されていない。
【特許文献1】特開平2001−90137号公報
【特許文献2】特開平2004−156269号公報
【特許文献3】特開平2002−242410号公報
【特許文献4】特開平2002−54295号公報
【特許文献5】特開平2004−190484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、表面の水を瞬時に乾燥させることができ、水が乾くまで待つ必要なく短時間で浴室に入ることが可能になり、また水垢などの汚れが付着し難い浴室の内面部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る滑水性を有する浴室の表面部材は、式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、基材の表面に塗装して成ることを特徴とするものである。
【0008】
【化1】

【0009】
本発明は、表面を親水性にして水の乾燥性を高めるようにするのではなく、上記のアクリル樹脂組成物で基材の表面を塗装することによって、表面の滑水性を高め、水滴を転がらせて表面から瞬時に除去することで、瞬時に水を乾燥することができるものである。また表面を親水性にする場合のように親水基を導入する必要がなく、水垢などの汚れが付着することを低減することができるものである。
【0010】
また請求項2の発明は、請求項1において、アクリル樹脂は次の式(2)〜(5)から少なくとも一つ選ばれるフッ素含有基を有することを特徴とするものである。
【0011】
【化2】

【0012】
この発明によれば、アクリル樹脂に含有されるフッ素含有基によって表面に撥水性を付与することができ、水滴を転がらせて表面から除去する効果を高く得ることができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、アクリル樹脂組成物中に、ジメチルシリコーンオイルを含有することを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、ジメチルシリコーンオイルの含有によって、滑水性を向上させることができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、アクリル樹脂組成物の塗装塗膜は、水の前進接触角と後退接触角の差が0〜15°の範囲内であることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、床材など浴室の内面部材の傾斜が小さく転落角が小さい場合でも、高い滑水性を得ることができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、アクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてイソシアネート樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、低温でアクリル樹脂を硬化させることができ、床材や壁材を形成する基材の材質が制限されることなく、アクリル樹脂組成物を塗装することができるものである。
【0019】
また請求項6の発明は、請求項5において、アクリル樹脂に対するイソシアネート樹脂の含有比率を、アクリル樹脂の水酸基に対するイソシアネート樹脂のNCO基の当量比が0.5〜1.5の範囲になるように設定することを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、アクリル樹脂の硬化性が良好であり、硬度が高く、また汚れの付着が少ない塗膜を形成することができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面の滑水性が高く、水滴を転がらせて表面から瞬時に除去することで、瞬時に表面を乾燥させることができ、水が乾くまで待つ必要なく短時間で浴室に入ることが可能になるものであり、また表面を親水性にする場合のように親水基を導入する必要がなく、水垢などの汚れが付着し難いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0023】
本発明のアクリル樹脂組成物において用いるアクリル樹脂は、樹脂の分子骨格に上記の式(1)で表されるジメチルシリコン基が側鎖として結合した分子構造を有するものである。このジメチルシリコン基は撥水基として作用するものであり、撥水基としてはパーフロロオレフィンなどのフッ素含有基や脂肪族炭化水素基なども使用できるが、本発明ではジメチルシリコン基が特に好ましい。ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂の塗膜に対する水の接触角は100°程度で、フッ素含有基を有するものよりも低いが、ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂の塗膜は水の滑り性が高い表面を形成することができるものである。
【0024】
ジメチルシリコン基の長さは、長いほうが滑水性の良好な塗膜を形成することができるが、長すぎると塗膜が柔らかくなる傾向がある。逆にジメチルシリコン基の長さが短いと、塗膜の硬度は高くなるが、滑水性は悪くなる。このため、ジメチルシリコン基の長さは式(1)においてn=1〜200のものが好ましい。また、アクリル樹脂中のジメチルシリコン基の含有率が高いと、滑水性の良好な塗膜を形成することができるが、塗膜が柔らかくなる傾向がある。逆にジメチルシリコン基の含有率が低いと、塗膜の硬度は高くなるが、滑水性は悪くなる。このため、アクリル樹脂(側鎖含む)中のジメチルシリコン基の含有率は、1〜70質量%であることが必要である。
【0025】
アクリル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が20000〜500000のものが好適に用いられる。より好ましくは50000〜300000であり、更に好ましくは150000〜250000である。アクリル樹脂の分子量が高すぎると、溶剤や架橋剤との相溶性が悪くなる傾向があり、アクリル樹脂の分子量が低すぎると、得られる塗膜の物性が低下する傾向がある。またアクリル樹脂の水酸基価は40〜200mgKOH/gの範囲が好ましく、更に好ましくは60〜150mgKOH/gの範囲である。水酸基価が低すぎると、得られる塗膜の架橋密度が低下して、硬度が低い塗膜になる傾向がある。逆に水酸基価が高すぎると、硬い塗膜が得られるが、アクリル樹脂と溶剤との相溶性が低下し、樹脂安定性が劣ることになる傾向がある。
【0026】
アクリル樹脂組成物のアクリル樹脂を硬化させる硬化剤としては、イソシアネート樹脂を用いるのが好ましい。浴室の床材や壁材の基材はFRPやアクリル樹脂などで形成されることが多く、高温をかけることができないことが多いが、硬化剤としてイソシアネート樹脂を用いることによって、低温で硬化させることができ、また耐薬品性や耐水性に優れた塗膜を形成することができるものである。
【0027】
イソシアネート樹脂としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート、リジントリイソシアネートなどの基本モノマーをプレポリマー化したものを使用することができ、架橋構造としてはイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット体などの構造のものを使用することができる。アクリル樹脂に対するイソシアネート樹脂の含有比率は、アクリル樹脂の水酸基価に対するイソシアネート樹脂のNCO基の当量比が0.5〜1.5の範囲になるように設定するのが好ましい。当量比がこの範囲より低くなると、反応性が乏しくなって塗膜の硬度が低くなり、傷や汚れが付着し易くなる。逆に当量比がこの範囲を超えて高くなると、遊離のイソシアネート基に水垢などが結合して、汚れが付着し易くなったり、滑水性が低下したりするおそれがある。
【0028】
上記のジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂、イソシアネート樹脂などの硬化剤、さらに後述の成分などを配合してアクリル樹脂組成物を調製することができるものである。そして基材1の表面にこのアクリル樹脂組成物を塗布して硬化させることによって、基材1の表面にアクリル樹脂の塗膜2を形成し、床材や壁材として使用される浴室用の内面部材Aを得ることができるものである。このように基材1の表面の塗膜2をジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂で形成することによって、浴室用内面部材Aを滑水性が高い表面に形成することができるものである。
【0029】
ここで、既述の特許文献1,2のように親水性表面に形成する場合、図1(b)に示すように、浴室用内面部材Aの表面の水Wは、濡れ広がって蒸発面積が大きくなり、乾き易くなるが、完全に乾くまでには相当の時間が必要であり、また水が塗れ広がるために水に吸着される汚染物が蓄積し易く、親水基との結合によって水垢なども付着し易い。
【0030】
一方、本発明の浴室用内面部材Aのように滑水性の高い表面に形成すると、図1(a)に示すように、浴室用内面部材Aの表面の水Wは、緩やかな傾斜でも転がって移動し、浴室用内面部材Aの表面から水を除去することができ、浴室用内面部材Aの表面に水が殆ど残らないようにすることができる。例えば、浴室の床材は水勾配が形成されているので、滑水性の高い表面の水は転がって排水溝に流入し、床材の表面から比較的短時間で水を除去して、表面に水が残らないようにすることができるものであり、短時間で床材の表面を乾燥させることができるものである。また浴室の壁材は垂直に立設されているので、滑水性の高い表面の水は流下し、壁材の表面から水を除去して、表面に水が残らないようにすることができるものであり、短時間で壁材の表面を乾燥させることができるものである。従って、翌日まで待たなくとも入浴した直後でも、浴室内に靴下で出入りすることが可能になるものである。また表面の水は短時間で除去されるので、汚染物が水に吸着されて蓄積するようなこともないものであり、しかも親水基は殆ど存在しないために、水垢などが付着し難く、仮に付着しても簡単に拭き取って除去することができるものである。
【0031】
上記のような表面の高い滑水性は、アクリル樹脂の骨格に結合したジメチルシリコン基が基材1の表面に塗膜2を形成する際に最表面に移行し、表面にジメチルシリコン基が傾斜配向することによって得られるものである。このジメチルシリコン基はアクリル樹脂の骨格に化学的に結合しているので、磨耗や熱水などが繰り返して作用しても容易に脱落せず、いつまでも高い滑水性を維持することができるものである。
【0032】
ここで、上記のように塗膜2の表面が高い滑水性を示すためには、塗膜2の表面に対する水の前進・後退接触角の差が0〜15°の範囲内あることが好ましい。一般に傾斜する斜面に水滴を滴下すると、図2に示すように水滴Wは表面が湾曲した形状となって滑り落ち、進行方向の前側の水滴の接触角が前進角(前進接触角)θa、後側の水滴の接触角が後退角(後退接触角)θrとなる。そして水滴が転落を始める傾斜角度である転落角αが小さいほど、滑水性は良好である。このように転落角αを小さくするためには、前進接触角θaと後退接触角θrの差が0〜15°の範囲内にあることが好ましい。通常、傾斜面にある水滴は一定の重力の影響を受けているので、前進の接触角θaのほうが後退の接触角θrより大きい。後退接触角θrが小さいということは、水滴と塗膜2の接触界面で付着力があるということであり、後退接触角θrがなるべく大きく、後退接触角θrが前進接触角θaと近いほど、水滴は滑落し易く、転落角αが小さくなって滑水性が高くなる。このために、前進接触角θaと後退接触角θrの差が0〜15°の範囲内にあれば、高い滑水性を示すものであり、前進接触角θaと後退接触角θrの差が15°を超える場合には、表面の水滴を瞬時に転がらせて排出して短時間で乾燥させることが難しくなる。
【0033】
本発明において、ジメチルシリコン基を有するアクリル樹脂には、その樹脂骨格中にフッ素含有基を含有させることができる。フッ素含有基としては、上記の式(2)〜(5)のものが挙げられるものであり、アクリル樹脂の合成時にアクリル樹脂骨格に結合させることができる。このようにアクリル樹脂にフッ素含有基を含有させることによって、塗膜2の表面の撥水性を高めることができるものであり、塗膜2の表面の水をはじいて、水滴の一部が表面に残留するようなことがない状態で転がして排出することができ、表面を瞬時に乾燥させることができるものである。そしてフッ素含有基はアクリル樹脂に結合しているので、撥水性の耐久性を高く得ることができるものである。
【0034】
フッ素含有基の含有量は、アクリル樹脂(側鎖を含む)中、1〜70質量%の範囲に調整するのが好ましい。フッ素含有基の量が多くなればなるほど、得られる塗膜2の撥水性能の持続性は向上していき、また熱水などの耐熱性も向上する。特に浴室では熱水などが頻繁に作用するので、耐熱性に優れるようにフッ素含有基の含有量を調整することが好ましいが、フッ素含有基の含有量が多くなると、アクリル樹脂の溶剤や他の樹脂との相溶性は低下していく傾向になる。このため、フッ素含有基の含有量は上記のように1〜70質量%の範囲に調整するのが好ましい。
【0035】
本発明において、上記のアクリル樹脂組成物には、ジメチルシリコーンオイルを含有することができる。このようにジメチルシリコーンオイルを含有することによって、表層にシリコン基をより緻密に配列することができ、塗膜2の滑水性を一層向上することができるものである。ジメチルシリコーンオイルには、他の化合物と化学反応をする反応基を有する反応性のものと、反応基が封鎖された非反応性のものがあり、いずれも好適に使用することができるが、反応性のジメチルシリコーンオイルのほうが、塗膜2から容易に脱落せず、効果を持続させることができるためにより好ましい。ジメチルシリコーンオイルの基本構造としては、次に示すものがあり、反応性の有機官能基の結合構造の違いから、両末端型、片末端型、側鎖型、側鎖両末端型に大別される。
【0036】
【化3】

【0037】
Rの有機官能基としては、エポキシ基、カルビノール基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、ポリエーテル基、メルカプト基、フェノール基などを挙げることができるが、水酸基やカルビノール基やシラノール基などが、架橋剤のイソシアネート樹脂と反応するためにより好ましい。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
表1の配合量に従って、式(1)で表されるジメチルシリコン基とフッ素含有基を含有するアクリル樹脂(富士化成工業株式会社製「ZX−022H」:固形分46質量%、水酸基価120)と、水酸基含有ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「170DX」と、希釈剤として酢酸ブチルを配合した溶液を調製した。次にこの溶液にイソシアネート樹脂としてヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体(住化バイエルウレタン株式会社製「スミジュールHT」:固形分75質量%、NCO含量13質量%)を添加し、アクリル樹脂組成物を調製した。
【0040】
このアクリル樹脂組成物を、不飽和ポリエステルを用いたFRP製の浴室床材の表面にエアースプレーによって乾燥厚みが3μmになるように塗布し、80℃×30分の条件で乾燥・硬化させることによって、塗膜を形成した。
【0041】
(実施例2)
ジメチルシリコーンオイルの配合量を実施例1より少なくした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0042】
(実施例3)
ジメチルシリコーンオイルの配合量を実施例1より多くした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0043】
(実施例4)
アクリル樹脂の水酸基に対するNCO基の当量比が0.8になるように、イソシアネート樹脂の配合量を実施例1より少なくした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0044】
(実施例5)
アクリル樹脂の水酸基に対するNCO基の当量比が1.2になるように、イソシアネート樹脂の配合量を実施例1より多くした表1の配合量に従ってアクリル樹脂組成物を調製し、このアクリル樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0045】
(実施例6)
実施例1で調製したアクリル樹脂組成物を、アクリル樹脂製の浴室床材の表面に、実施例1と同様にして塗装した。
【0046】
(比較例1)
表1の配合量に従って、ジメチルシリコン基を含有しないアクリル樹脂(三菱レイヨン株式会社製アクリルポリオール「LR−199」:固形分55質量%、水酸基価80)に、希釈剤としてキシレンを添加し、さらにイソシアネート樹脂としてヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体(上記の「スミジュールHT」)を添加し、アクリル樹脂組成物を調製した。そしてこのアクリル樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0047】
(比較例2)
ジメチルシリコン基の代わりにパーフロロオレフィン基を結合したフッ素アクリル樹脂塗料(フロロテクノロジー株式会社製「5030」:固形分6質量%)を、FRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0048】
(比較例3)
市販のフッ素樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「フルオネートK−704」:固形分60質量%)に、架橋剤としてヘキサメチレンイソシアネートのイソシアネート樹脂(日本ポリウレタン株式会社製「コロネートHX」、固形分100質量%)と、溶剤として酢酸ブチルとキシレンを表1の配合量で配合し、撥水・撥油性フッ素樹脂組成物を調製した。そしてこの撥水・撥油性フッ素樹脂組成物をFRP製の浴室床材の表面に実施例1と同様にして塗装した。
【0049】
上記のように実施例1〜6及び比較例1〜3で得た塗装床材について、塗膜硬度、塗膜の密着性、耐汚染性、前進接触角、後退接触角、残水性を試験して評価した。試験方法は以下の通りであり、結果を表1に示した。尚、市販の浴室床材(松下電工(株)製)についても同様に試験して評価し、比較例4として表1に示した。
【0050】
(1)塗膜硬度
JISK5600−5−4に従う鉛筆法により、塗膜の硬度を測定した。
【0051】
(2)密着性
試験片を沸騰水に浸漬し、引き上げた後に塗膜を24時間乾燥させ、JISK−5600−5−6に従う付着性評価方法に従い、塗膜の密着性を評価した。
【0052】
(3)耐汚染性(耐水垢性)
100ppmにシリカ濃度を調整した水道水を塗装面に滴下し、60℃で乾燥して水分を蒸発させ、水垢を付着させるようにした、この操作を20回繰り返したあと、水垢の除去性を試験し、次の判定基準で評価した。
【0053】
○: ウエスで拭き取ったあと、水垢が残らずに外観が良好
△: ウエスで一部は拭き取ることができるが、水垢の跡が残る
×: ウエスで拭き取っても水垢の跡が残ったままで除去不能。
【0054】
(4)前進・後退接触角の測定
協和界面科学株式会社製の動的接触角測定装置を用いて、前進接触角と後退接触角を測定した。またこの前進接触角と後退接触角の値から前進・後退接触角の差を求めた。
【0055】
(5)残水性
試験片を1°の傾斜角をつけて配置し、試験片の全面に1Lの水をシャワーして塗布し、初期の残水性と6時間経過後の残水性を、次の判定基準で評価した。
1.初期残水性
○: 水の塗布直後の残水が全くない
△: 水の塗布直後の残水量が10〜100mg/m
×: 水の塗布直後の残水量が100mg/m以上
2.6時間後の残水性
○: 6時間経過後の残水が全くない
△: 6時間経過後も水がまばらに残り、残水量が10〜100mg/m
×: 6時間経過後も水がかなり残り、残水量が100mg/m以上
【0056】
【表1】

【0057】
表1にみられるように、ジメチルシリコン基を結合したアクリル樹脂の塗膜を形成した各実施例の床材は、初期残水性も6時間後の残水性も良好であり、水滴の残りが殆どなく、また水垢などの付着もなく良好な耐汚染性を示すものであった。
【0058】
これに対して、ジメチルシリコン基を有しないアクリル樹脂の塗膜を形成した比較例1のものは、前進・後退接触角の差が15°以上であり、初期残水性も6時間後の残水性も劣り、耐汚染性も劣るものであった。またパーフロロオレフィン基を有する撥水性のアクリル樹脂の塗膜を形成した比較例2のものは、耐汚染性は良好であるが、前進・後退接触角の差が15°以上であり、初期残水性も6時間後の残水性も劣るものであった。また市販のフッ素樹脂の塗膜を形成した比較例3のものは、前進・後退接触角の差が15°以上であり、初期残水性も6時間後の残水性も劣り、耐汚染性もやや低下するものであった。さらに市販の床材は、6時間後の残水性は良好であるが、初期残水性が劣り、耐汚染性もやや劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は滑水性の表面での水の挙動を説明する概略図、(b)は親水性の表面での水の挙動を説明する概略図である。
【図2】前進接触角、後退接触角、転落角を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基材
2 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジメチルシリコン基を1〜70質量%の含有率で有するアクリル樹脂の組成物を、基材の表面に塗装して成ることを特徴とする、滑水性を有する浴室の内面部材。
【化1】

【請求項2】
アクリル樹脂は次の式(2)〜(5)から少なくとも一つ選ばれるフッ素含有基を有することを特徴とする請求項1に記載の浴室の内面部材。
【化2】

【請求項3】
アクリル樹脂組成物中に、ジメチルシリコーンオイルを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の浴室の内面部材。
【請求項4】
アクリル樹脂組成物の塗装塗膜は、水の前進接触角と後退接触角の差が0〜15°の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浴室の内面部材。
【請求項5】
アクリル樹脂組成物中に、アクリル樹脂の架橋剤としてイソシアネート樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の浴室の内面部材。
【請求項6】
アクリル樹脂に対するイソシアネート樹脂の含有比率を、アクリル樹脂の水酸基に対するイソシアネート樹脂のNCO基の当量比が0.5〜1.5の範囲になるように設定することを特徴とする請求項5に記載の浴室の内面部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−184487(P2008−184487A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17061(P2007−17061)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】