説明

浴槽の製造方法

【課題】製品の品質が安定し、後加工性が良好な、耐衝撃性能に優れしかも軽量な浴槽の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂成形品を雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって該雄型の反対側に雌型を配置してセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該セル内に重合性樹脂原料と、ガラスバルーン、水酸化アルミニウム、シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーと、下記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを含有する樹脂混合液を注入し、硬化して補強材層を形成する浴槽の製造方法。


(式中、R1は、HまたはCH3を示し、nは、1または2を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃能力に優れしかも軽量な浴槽の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂製浴槽は、通常、メタクリル樹脂シートを加熱軟化し真空成形によって所望の浴槽形状に成形して製造されるメタクリル樹脂成形品に、裏張りの補強材としてガラス繊維強化プラスチック(以下、FRPという)材料をスプレーガンで吹き付けてまたはハンドレイアップ法によって積層し、この層を脱泡させながら平滑にし、その後硬化させることにより補強材層を形成して製造されている。
【0003】
しかしながら、前記浴槽の製造方法は、作業者によってFRP材料の吹き付けやハンドレイアップ作業、さらには平滑化作業などが行なわれるため、作業環境や生産効率が悪く、生産時に発生する余分なFRP材料の廃棄についても環境面からも問題となっている。また、ガラス繊維の使用が必須であり、コストアップおよび後加工性にも問題がある。一方、生産効率の向上および作業環境の改善を図るための方法として、例えば、真空成形した熱可塑性樹脂成形品と型の間にフィラーを含有した樹脂を充填し重合硬化し一体化させる試みが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、裏張り補強材としてガラス繊維を含まない材料を用いると、補強材層の構成が樹脂(含フィラー)になるため、寸法精度の悪化、強度の低下などの問題が発生することがあり、特に強度の点から、補強材層の増厚化が必要となり、重量が増加してしまうという問題が発生することがあった。
【0005】
樹脂と特定の無機充填材を含有する組成物を重合硬化して得られる人工大理石については、強度向上の試みとして機械的物性に優れかつ安価な人工大理石を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に開示された発明は、機械的強度の向上した人工大理石が対象となっているため、浴槽のような複雑な形状を有する物品の補強材層として使用した場合の効果や、軽量化に対する効果については示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−237854号公報
【特許文献2】特開2004−26556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みなされたものであり、耐衝撃性能が良好で、しかも軽量な浴槽の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は、あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって該雄型の反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、重合性樹脂原料と、ガラスバルーン、水酸化アルミニウム、シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーと、下記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを含有する樹脂混合液を注入し、これを硬化させて補強材層を形成する浴槽の製造方法である。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、HまたはCH3を示し、nは、1または2を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐衝撃性能が良好で、しかも軽量な浴槽を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の浴槽の製造方法は、あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって該雄型の反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、重合性樹脂原料と、ガラスバルーン、水酸化アルミニウム、シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーと、上記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルとを含有する樹脂混合液を注入し、これを硬化させて補強材層を形成する浴槽の製造方法である。
【0013】
本発明で使用する熱可塑性樹脂成形品は、通常、熱可塑性樹脂板を熱成形して製造される。
熱可塑性樹脂成形品の製造に用いる熱可塑性樹脂板としては、例えば、メタクリル樹脂板、ポリスチレン板、ABS樹脂板またはこれらの積層板などを挙げることができる。上記熱可塑性樹脂成形品の製造に用いられる熱成形方法としては、例えば、真空成形、圧空成形、プレス成形等の方法を挙げることができる。真空成形または圧空成形においては、プラグ等による補助成形も行うことができる。
【0014】
熱可塑性樹脂成形品の厚さは、特に制限されないが、薄くなりすぎると、樹脂混合液に含まれる希釈剤等でクラックが発生したり、樹脂混合液が硬化するときの発熱により変形したり、樹脂混合液の注入圧により変形等が生じることがある。この点から、熱可塑性樹脂成形品の厚さは最も薄いところで0.3mm以上、好ましくは0.8mm以上とする。また必要に応じて、印刷を施したり、フィルムをラミネートしたり、さらにはゲルコート樹脂による柄付けを施したりした熱可塑性樹脂板から製造した熱可塑性樹脂成形品を用いてもよいし、熱可塑性樹脂成形品に印刷を施し、フィルムをラミネートし、またはゲルコート樹脂による柄付けを施して用いてもよい。
【0015】
特に、特公平6−70098号公報に開示されているメタクリル樹脂シートは、熱成形加工性および耐溶剤性に優れているので、本発明における熱可塑性樹脂板として好ましく用いることができる。即ち、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチル60質量%以上とアクリル酸エステル40質量%以下との単量体混合物を重合開始剤の存在下で重合させて得られるアクリル樹脂シートであって、あらかじめ単量体全量に対して0.001〜0.50質量%の重合開始剤および0.01〜2.0質量%の連鎖移動剤を添加し、70〜120℃の温度で5〜50%の重合率のシロップを製造し、次いで、その得られたシロップに対して0.02〜1.0質量%の架橋剤および0.01〜0.50質量%の重合開始剤を添加し、鋳型中で、まず40〜90℃の温水中で0.2〜10時間、次いで90〜150℃で0.05〜4時間の熱処理を行う注型重合により、架橋剤により架橋される幹重合体の重合度が固有粘度[η]で0.05〜0.15(l/g)の範囲としたアクリル樹脂シートを熱可塑性樹脂板として使用することが好ましい。
【0016】
本発明における所定の形状とは、製造する浴槽の形状をいう。
本発明で使用する熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型およびその熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって雄型との反対側に配置される雌型としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いたFRP製の型、FRPとレジンコンクリートなどの積層体からなる型、Ni電鋳型(FRP製の型の表面にニッケルをコートしたもの)、アルミ合金などの金属製の型、さらにこれらをリブ構造により補強したものなどを挙げることができる。
【0017】
セル内に注入した樹脂混合液を重合硬化して補強材層を形成した後に、製造した浴槽を雌型から離型するので、樹脂混合液が接する雌型のセル内面に離型剤を塗布し、または、テフロン(登録商標)などの材料をラミネートすることが好ましい。雄型は押さえ具としての機能を要求されるところから、熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状とする必要がある。このような形状とすることにより、熱可塑性樹脂成形品の変形を防止し形状を保持することができる。
【0018】
熱可塑性樹脂成形品と雌型によって構成されるセルの間隔は、樹脂混合液がセル内に完全に充填されたときに、設定された補強材層厚みになるように設定すればよく、注入時のセル間隔が完成された浴槽の補強材層の厚みと一致している必要はない。具体的には、例えば、注入時の樹脂混合液の流動抵抗を少なくするために、注入時のセル間隔は、完成した浴槽の補強材層の厚み+1〜10mmとし、注入直後から充填完了までの間に、所定の厚さを有する補強材層が得られるよう、セル間隔を調整してもよい。また、注入直後から充填完了までのセル間隔は、雄型と雌型の型締め圧力を徐々に上げ、所定の圧力以上の圧力を加えないように制御し、セル内の樹脂混合液の圧力の極端な上昇を抑えることが望ましい。
【0019】
このようにして形成される補強材層の厚みは通常2〜20mmとすることが好ましく、5〜15mmとすることがより好ましい。浴槽の底部は、十分な衝撃強度を有するものとするために10mm以上とすることが好ましい。
【0020】
樹脂混合液は、雌型の注入口からセル内に注入される。熱可塑性樹脂成形品と雌型とはこれらの周辺部においてパッキン等によりシールされ型締めを行って樹脂混合液がセル外に漏れないようにする。
【0021】
樹脂混合液に含まれる重合性樹脂原料としては、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。それらのなかでは、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、酸やアルカリにおいて加水分解し難く、安価で、保存安定性が良いことからイソ系不飽和ポリエステル樹脂が特に好ましい。また、本発明においては、上記樹脂と、上記樹脂と共に重合して硬化させることのできる単量体を希釈剤として含む重合性樹脂原料を用いることが好ましく、本発明においては、このような希釈剤と上記樹脂からなる混合物も重合性樹脂原料に含めるものとする。
【0022】
希釈剤として用いることのできる単量体としてはスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン等の液状の単量体が好ましく、それらのなかでもスチレンがより好ましい。上記希釈剤を含む重合性樹脂原料は、上記樹脂と希釈剤との合計質量に対し、希釈剤を40〜50質量%含有することが好ましく、43〜48質量%含有することが更に好ましい。希釈剤の含有量を40質量%以上とすると、適切な粘度を有する樹脂混合液が容易に得られ、樹脂混合液を速やかにセル内へ注入することができる。また、所望量の無機フィラーを容易に混合することができる。一方、希釈剤の含有量を50質量%以下とすると、セル内で樹脂混合液を硬化した際、収縮が小さくなりクラック等の欠陥のない優れた補強材層を容易に形成することができる。
【0023】
樹脂混合液に含まれる無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、シリカおよびガラスバルーンを用いることができ、これらは単独で使用しても、あるいは2種以上を併用してもよい。これらの中ではガラスバルーンが好ましい。ガラスバルーンは、白色のガラス微小中空球粉体であり、その組成は、ソーダ石灰硼珪酸ガラスであるため、耐候性、耐熱性に優れており、また、中空粒子であるため、断熱性、軽量化にも優れた効果が図れる。
【0024】
ガラスバルーンは、0.3〜0.7g/cm3の範囲の真密度を有するものが好ましい。真密度が0.3g/cm3以上のガラスバルーンを用いると、樹脂混合液と混合した場合に分離し難く機械特性に優れた補強材層を形成することができる。また、真密度が0.7g/cm3以下のガラスバルーンを用いると、形成される補強材層の重量を小さくすることができる。
【0025】
また、樹脂混合液の粘度を好適な範囲のものとすることができるところから、前記無機フィラーは、重合性樹脂原料100質量部に対し、10〜50質量部の範囲で使用することが好ましく、25〜35質量部の範囲で使用することが更に好ましい。前記無機フィラーの使用量を10質量部以上とすると、得られる浴槽の耐衝撃強度が良好となり、前記無機フィラーの使用量を50質量部以下とすると樹脂混合液を速やかに注入することが可能となるため、硬化反応による粘度上昇によって未充填となってしまうことを防ぐことができる。
【0026】
樹脂混合液に含まれる下記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルとしては、(2−ヒドロキシエチル)アクリレートアシッドフォスフェート、(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドフォスフェートを挙げることができる。これらの各々は、下記式(1)におけるnの値が1および2であるものの混合物であってもよい。また、(2−ヒドロキシエチル)アクリレートアシッドフォスフェートと(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドフォスフェートを組み合わせて用いてもよい。これらのなかでは、(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドフォスフェート(下記式(1)におけるnの値が1および2であるものの混合物であってもよい)が好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、R1は、HまたはCH3を示し、nは、1または2を示す。)
【0029】
上記(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルの添加量は、前記無機フィラー100質量部に対し0.01〜5質量部とすることが好ましい。特に無機フィラーとしてガラスバルーンを使用したときは、ガラスバルーン100質量部に対し0.01〜3質量部とすることが好ましく、0.1〜1質量部とすることがより好ましい。(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを前記無機フィラー100質量部に対し0.01質量部以上添加すると機械的物性を大幅に向上できる。また、(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを5質量部以下とするとコストを削減することができる。
【0030】
本発明においては、20℃〜60℃、好ましくは、30℃〜45℃の液温を有する樹脂混合液をセル内に注入することが好ましい。樹脂混合液の液温を20℃以上とすると、流動性が向上しセル内のエアーが抜け易くなり、硬化後の浴槽に樹脂抜け等の欠陥もなく外観が向上し、型内での硬化が十分に行なわれ、反りなどの発生を防止することができる。また、液温を60℃以下とすると、樹脂混合液中に含まれる揮発成分の揮発を抑制することができる。これにより作業環境の悪化を抑えることができる。樹脂混合液の液温を上記範囲内に調整する方法としては、ジャケット付きの貯槽タンクに樹脂混合液を装入し、ジャケット内に温水を循環等して温度調整する方法が挙げられる。
【0031】
樹脂混合液は、通常、100mPa・s〜3000mPa・sの範囲内の粘度を有する。樹脂混合液の粘度を100mPa・s以上とすると、前記無機フィラーの沈降が遅くなり、配管、貯槽タンクにおける前記無機フィラーの沈降による閉塞や、樹脂混合液の組成変化等を樹脂混合液を攪拌等することにより容易に防止することができる。また、樹脂混合液の粘度を3000mPa・s以下とすると、樹脂混合液の注入時間を短縮し、速やかにセル内に注入することができる。これにより、反応による粘度上昇等によって、セル内への注入が不充分となり、空気溜りや、未充填部分の発生するのを防止することができる。
【0032】
樹脂混合液の粘度の調整方法としては、希釈剤の含有量を調整する方法、前記無機フィラーの使用量を調整する方法等が挙げられる。
【0033】
樹脂混合液には硬化剤を含有させることが好ましい。セル内での硬化を効率よく進めるために、10時間半減期温度が3℃以上異なる2種類以上の硬化剤を組み合わせて使用することが好ましい。特に、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド系(室温硬化系)の硬化剤を2種類以上組み合わせて使用することが好ましい。硬化剤の使用量は、通常、重合性樹脂原料100質量部に対し0.3〜5質量部であることが好ましい。硬化剤の使用量を0.3質量部以上とすると、硬化反応を遅滞なく開始することができる。また硬化剤の使用量を5質量部以下とすると、硬化時間を短縮し、生産効率を向上し、コストを削減することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本実施例において浴槽の評価は、下記1)〜3)の方法によって行った。
【0035】
1)浴槽の外観
得られた浴槽の外観を目視で検査し、下記の基準で評価した。
○ 外観良好;クラック、エアー溜り(未充填)等欠陥がなかった
× 外観不良;クラック、エアー溜り(未充填)等欠陥が見られた
【0036】
2)落錘衝撃強度
浴槽底面部から10cm×10cm×原厚(mm)の試験片を切り取り被験試料とした。200gの鋼球を重錘として用いた以外はJIS K7211に準拠し50%破壊エネルギーを求めた。なお、鋼球は、熱可塑性樹脂側(メタクリル樹脂側)に当てた。
【0037】
3)比重
浴槽底面部から3cm×3cm×原厚(mm)の試験片を切り取り、表面のアクリル樹脂層(熱可塑性樹脂)を取り除いた後、(株)島津製作所製の比重測定装置、SGM−300P(商品名)(測定原理は、JIS Z8807に従ったもの。測定時の水温:23℃)を用い補強材層の比重の測定を行った。
【0038】
[実施例1]
本実施例においては、以下の通り、メタクリル樹脂板を熱成形して製造した熱可塑性樹脂成形品を用いて浴槽を製造した。
まず、厚さ5mmのメタクリル樹脂板(アクリライト(登録商標)PX200、三菱レイヨン(株)製)を用い真空成形機を用いて熱成形し図1に示す形状を有する熱可塑性樹脂成形品1を用意した。この形状は、図1に示したように腰掛け部10及び肘掛け部11を有する。浴槽としては複雑な形状を有するものを製造した。
【0039】
次に、図2(A)に示すように、雄型2として、熱可塑性樹脂成形品1の内表面形状とほぼ同形状の型を用いた。雄型2は、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とするFRP製の型である。図2(A)、(B)に示すように、雄型2に熱可塑性樹脂成形品1を被せ、アルミ合金製の雌型3を、熱可塑性樹脂成形品1の底面(図では上向き)に対し、10.7mm(重合収縮率0.7%見込む)間隔をあけて被せた。なお、雄型2、雌型3共に、型内部に温水循環用の配管を埋め込んで温調した。
【0040】
次に、熱可塑性樹脂成形品1と雌型3の周囲を、弾性体のシールパッキン4によりシールして、適当な型締め機を利用して上下から加圧し、密閉し、セル6を形成した。雌型3に設けた注入口5は直径8mmで、図2(B)に示したように配置したセルを、雄型2と雌型3の間隔を型締め機により狭めつつ、注入口5より樹脂混合液7を注入した。その際の型の温度は、雄型90℃、雌型60℃に設定した。
【0041】
樹脂混合液7の調整は以下のようにして行った。イソ系不飽和ポリエステル樹脂(商品名:ユピカ4542P、日本ユピカ(株)製)55質量部とスチレン45質量部を混合して調製した重合性樹脂原料100質量部に、ガラスバルーン(商品名:グラスバブルズ S60、真密度0.6g/cm3、住友3M(株)製)30質量部、下記式(2)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステル(商品名:JPA−514:城北化学工業(株)製n=1とn=2のモル比1:1の混合物)を0.17質量部混合して樹脂混合液を得た。
【0042】
【化3】

【0043】
次いでこの樹脂混合液をジャケット付きの貯槽タンクに移液し、温水を循環させることによって32℃に保温した。この樹脂混合液の粘度(32℃)は、280mPa・sであった。
【0044】
硬化剤として、パーメックNR(商品名;メチルエチルケトンパーオキサイド純度55%、10時間半減期温度111℃、日本油脂(株)製)と、パーキュアーAH(商品名;アセチルアセトンパーオキサイド純度34%、10時間半減期温度106℃程度、日本油脂(株)製)の2種の硬化剤を質量比1対1で混合して硬化剤混合物を準備した。
【0045】
注入直前に上記樹脂混合液と上記硬化剤混合物とを、樹脂混合液に含まれる重合性樹脂原料100質量部に対し硬化剤混合物2質量部の割合となるように供給し、スタティックミキサーで混合し、セル6内に注入した。硬化剤混合物を含む樹脂混合液の注入に伴い、セル6内に存在した空気は排気口8より排気された。このようにセル内に充填した樹脂混合液を重合硬化させて補強材層を形成した。その後脱型して、浴槽を得た。
【0046】
複雑な形状であるにもかかわらず、セル内に未充填領域を残すことなく充填しておりエアー溜りなど無く、この浴槽の外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強材層ではないため、浴槽下部における脚の取り付け部の面出しや、補修部分の研磨などの後加工が容易であり、後加工時の作業環境も改善できた。原料処方と評価結果とを表1に示す。
【0047】
[実施例2]
浴槽底面の厚みを14mmに調整するため、雌型3と熱可塑性樹脂成形品1との間隔を15mm(重合収縮率0.7%見込む)とした以外は実施例1と同様にして浴槽を製造し、評価した。複雑な形状であるにもかかわらず、セル内に未充填領域を残すことなく充填しており外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強層ではないため、後加工が容易であり、加工時の作業環境も改善できた。原料処方と評価結果とを表1に示す。
【0048】
[実施例3]
(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルの混合量を10質量部とした以外は実施例1と同様にして、浴槽を製造し、評価した。複雑な形状であるにもかかわらず、セル内未充填領域を残すことなく充填しており、この浴槽の外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強材層ではないため、後加工が容易であり、加工時の作業環境も改善できた。原料処方と評価結果とを表1に示す。
【0049】
[実施例4]
無機フィラーとして水酸化アルミニウム(商品名:BW−33、日本軽金属(株)製)150質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、浴槽を製造し、評価した。この浴槽の外観、衝撃特性は良好であった。評価結果を表2に示す。
【0050】
[実施例5]
無機フィラーとしてシリカ(商品名:G−300、東ソー(株)製)10質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、浴槽を製造し、評価した。この浴槽の外観、衝撃特性は良好であった。評価結果を表2に示す。
【0051】
[比較例1]
(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを用いなかった以外は実施例1と同様にして、浴槽を製造し、評価した。複雑な形状であるにもかかわらず、セル内未充填領域を残すことなく充填しており、この浴槽の外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強材層ではないため、後加工が容易であり、加工時の作業環境も改善できた。原料処方と評価結果とを表1に示す。表1に示されているように、実施例1の浴槽に比較して衝撃性能が劣っていた。
【0052】
[比較例2]
無機フィラーを、ガラスバルーン(商品名:グラスバブルズ S60、真密度0.6g/cm3、住友3M(株)製)30質量部に替えて炭酸カルシウム150質量部とし、樹脂混合液の液温を35℃とした以外は比較例1と同様にして浴槽を製造し、評価した。樹脂混合液の粘度(35℃)は、1000mPa・sであった。
複雑な形状であるにもかかわらず、セル内に未充填領域を残すことなく充填しておりエアー溜りなど無く、この浴槽の外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強材層ではないため、浴槽下部における脚の取り付け部の面出しや、補修部分の研磨などの後加工が容易であり、加工時の作業環境も改善できた。しかしながら、表1に示されているように、衝撃強度は実施例の浴槽に比較して低かった。
原料処方と評価結果とを表1に示した。また、強化材層の比重は大きく軽量化は図れなかった。
【0053】
[比較例3]
樹脂混合液の液温を40℃とし、浴槽底面の厚みを14mmに調整するため、雌型3と熱可塑性樹脂成形品1との間隙を15mmとした以外は比較例2と同様にして浴槽を製造し、評価した。樹脂混合液の粘度(40℃)は、900mPa・sであった。
複雑な形状であるにもかかわらず、セル内に未充填領域を残すことなく充填しておりエアー溜りなど無く、この浴槽の外観は良好であった。また、ガラス繊維を使用した補強材層ではないため、浴槽下部における脚の取り付け部の面出しや、補修部分の研磨などの後加工が容易であり、加工時の作業環境も改善できた。原料処方と評価結果とを表1に示す。落錘衝撃強度試験の結果は良好であったが、強化材層の比重が大きく軽量化は図れなかった。
【0054】
[比較例4]
(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを用いなかった以外は実施例4と同様にして、浴槽を製造し、評価した。この浴槽の外観は良好であったが、衝撃特性は劣っていた。評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例5]
(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを用いなかった以外は実施例5と同様にして、浴槽を製造し、評価した。この浴槽の外観は良好であったが、衝撃特性は劣っていた。評価結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の浴槽の製造方法は、後加工性が良く、品質が安定しており、耐衝撃能力に優れしかも軽量な浴槽の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】熱可塑性樹脂成形品の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の浴槽の製造方法の実施形態の一例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 熱可塑性樹脂成形品
2 雄型
3 雌型
4 シールパッキン
5 注入口
6 セル
7 樹脂混合液
8 エアー抜き
10 腰掛け部
11 肘掛け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって該雄型の反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、重合性樹脂原料と、ガラスバルーン、水酸化アルミニウム、シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーと、下記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシ基を含むリン酸エステルを含有する樹脂混合液を注入し、これを硬化させて補強材層を形成する浴槽の製造方法。
【化1】


(式中、R1は、HまたはCH3を示し、nは、1または2を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−315374(P2006−315374A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142893(P2005−142893)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】