説明

海上設備向け物質交換塔

【課題】 海上設備としての物質交換塔が傾斜したり、傾斜が絶えず変化したりする状況下でも物質交換プレート上の物質交換層のほぼ全域に液相流が常に安定した液位で分配され、物質交換塔が本来の機能を安定して果たすことを保証できるようにする。
【解決手段】 物質交換層の底面を形成する物質交換プレートとして逆流式物質交換プレート(2)を備えた物質交換塔。交換プレート(2)の表面上に、液相流を水平方向で予め定められた流路に沿って案内するためのガイド堰(5)と、前記流路に沿って流れる液相流の流速を減じるための制動堰(6)とが設けられ、仕切り堰(4)とガイド堰(5)及び制動堰(6)とによって交換プレートの表面が複数の区画(7)に分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1段の物質交換層を備え、該物質交換層の底面を形成する物質交換プレートとして少なくとも1枚の逆流式物質交換プレートを備え、塔内を流下する液相流が該交換プレートの表面上を水平方向に流れ、該交換プレートには塔内の上昇気相流を裏面側から表面側へ通過させるための複数の通気筒が設けられ、各通気筒を通過した気相流が該通気筒の上部開口端に配置されたベルトラップ状フードにより該交換プレートの表面の液相流中に導入されて該液相流中を泡状に上方へ貫流し、該交換プレートの表面上には液相流の向きを水平方向で90°又は180°変えるための仕切り堰が設けられている形式の海上設備向け物質交換塔及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば蒸留による精留プロセス又は洗滌プロセスを行う物質交換塔では、塔内を上昇する気相流が塔内の液相流と直接、向流的に接触され、この接触によって気相流と液相流との間で物質の交換が行われる。本発明で言う物質交換塔とは、このような物質交換を行う1段以上の物質交換層が塔内に水平に配置され、各物質交換層の底面が逆流式物質交換プレートの表面によって形成されている形式の物質交換塔である。このような物質交換プレート自体は、例えば非特許文献1によって公知である。
【非特許文献1】カー・ホッペ及びエム・ミッテルシュトラス著「塔設備プレート寸法決定の原理」テヒニッシェ・フォルトシュリッツベリヒテ誌、第61巻、1967年(K. Hoppe, M. Mittelstrass "Grundlagen der Dimensionierung von Kolonnen-boden", Technische Fortschrittsberichte, Bd. 61 (1967)
【0003】
塔内上方から流下してくる液相流は、流入孔から交換プレートの表面によって形成される物質交換層の底面上に流れ落ち、この底面上を実質的に水平方向に流れてから流出孔を介して下方へ流出する。公知の物質交換プレート上における液相流の液位は、流出孔の手前に配置されている流出堰の高さで決定されるだけである。交換プレートに設けられた複数の通気口を介して塔内下方からの上昇気相流が水平方向に流れる液相流中に流入し、泡状となって液相流中を貫流する。それによって目的の物質交換のための気液直接接触が行われる。
【0004】
ところで、或る特定の用途、例えばプロセスガスの洗滌塔や再生塔の塔頂部側に配置される物質交換層のための交換プレートには、例えば逆洗プロセスにおいてはその表面上に極めて僅かな流量の液体しか流すことができない。この場合、塔内の相応部分には、例えば特許文献1に従来技術として述べられているような逆流式物質交換プレートが設置される。逆流式物質交換プレートでは、流入部と流出部は同一の側に位置し、その間を仕切る仕切り堰が交換プレートの表面上で中央部を横切るように配置されている。この仕切り堰は、流入及び流出側とは反対側の端部で途切れており、従って流入部から流入した液相流は先ず仕切り堰の一方の側面に沿って一方向へ流れ、途切れ部分で流れの向きをほぼ180°強制的に転向されてから仕切り堰の他方の側面に沿って逆方向に流れて流出部へと向かうことになる。即ち、この種の仕切り堰は、塔の内周壁と共に「物質交換層の底面上を流れる液相流の流れの向きを変えるための方向転換手段」として機能する。
【特許文献1】独国特許出願公開第102005044224号明細書
【0005】
このような流れの方向転換は、通常の単一方向流れ方式の物質交換プレートに比べて液体の流速を高め、流れの案内特性、従ってプレートの実効率を向上する。しかしながら、それでもなお特に塔の直径が大きい場合には液相流が交換プレート上を均一に覆って流れることが難しくなる。特許文献1では、交換プレート上に第1の仕切り堰及び該第1の仕切り堰と直接には結合されていない第2の仕切り堰を少なくとも1つ設けることによって液相流の流れの均一性を改善することが提案されている。この第2の仕切り堰は、例えば第1の仕切り堰と平行に間隔を開けて配置され、それによって2回目の流れの方向転換、即ち第1の仕切り堰を間にして液相流の向きが強制的に逆転される。その結果、交換プレート表面上の液相流の分布がより一層均一になり、液相流中での逆流の発生が少なくなり、貫流不良域となる空隙容積部の発生が防止されるので、液相流の流量を少なくしても充分な物質交換効率を確保することができる。従って、例えば逆洗プロセスでは逆洗液の流量を少なくでき、それに応じて逆洗液の準備並びに廃棄処理のためのコストも低減される。
【0006】
以上の説明は物質交換塔を陸上の設備として安定な鉛直姿勢で操業する場合に当てはまることであり、海上設備、例えば航行中又は係留中の船舶の艤装設備として洋上操業で運転する場合には依然として問題がある。即ち、船舶上で支配的であるような洋上操業条件下では、例えば波浪の動きによって物質交換塔の姿勢は鉛直状態から絶えず傾きが変化する状況にある。そのため、交換プレート上の液体は重力に従って傾斜の下方側に集まり、液相流で形成される物質交換層が交換プレート表面上で偏在する状況となる。加えて鉛直姿勢からの傾斜角が変化する際には液相流中に水平方向の加速度が発生し、それによって液相流に押し寄せる波状のスロッシング現象が誘発される。そのような条件下では、特許文献1に開示されている交換プレートでは液相流の不均一分布が絶え間なく発生し、それにより場合によっては物質交換塔の実際の交換機能が失われることもある。これは、塔内を上昇する気相流と向流的に摂食するように塔内を流下する液相流の流量が上昇気相流の流量に対して塔内横断面内で局所的に過小又はゼロになると、そのような局所部では液相流と気相流との間の物質交換が殆ど或いは全く行われずに気相流が上方へ抜けてしまい、液相流は気相流の泡状の通過を受けずに迂回されて流下してしまうからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の基本的な課題は、物質交換層の底面を形成する物質交換プレートとして少なくとも1枚の逆流式物質交換プレートを備えた物質交換塔において、たとえ物質交換塔が鉛直姿勢から傾斜し、或いはその傾斜が絶えず変化するような状況下においても物質交換プレート上の物質交換層のほぼ全域に液相流が常に安定した液位で分配され、それによって物質交換塔が本来の物質交換機能を安定して果たすことを保証できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明によれば、冒頭に述べた形式の物質交換塔において、逆流式物質交換プレートの表面上に、液相流を水平方向で予め定められた流路に沿って案内するための少なくとも1つのガイド堰と、前記流路に沿って流れる液相流の流速を減じるための少なくとも1つの制動堰とを設け、これら仕切り堰とガイド堰及び制動堰とによって前記交換プレートの表面を複数の区画に分割することによって解決される。
【0009】
逆流式物質交換プレートを有する物質交換塔を海上設備として洋上操業条件下で運転する際の諸問題は、主として塔の鉛直姿勢からの傾斜に基づき、物質交換層の底面を形成している物質交換プレート表面上で重力の作用を受けた液相流が偏在することによって引き起こされる。本発明の基本理念は、この物質交換プレート表面上における液相流の偏在を防止し、或いは物質交換プレート表面上の物質交換層全域に亘って常に安定した液位の液相流分布が得られるように液相流の流速を遅延させることにある。これは、本発明に従って単数又は複数のガイド堰と制動堰を仕切り堰と併用し、これらの堰により物質交換プレートの表面を複数の区画に分割することによって達成される。
【0010】
本発明において、液相流を水平方向で予め定められた流路に沿って案内するためのガイド堰は、逆流式物質交換プレート上を水平方向に流れる液相流を該交換プレートの流入部から流出部へ向かって逆流式物質交換プレートに固有の屈曲流路に沿って導く(つまり案内する)ために該交換プレート表面上に立設された壁と理解すべきである。同様に、この流路に沿って流れる液相流の流速を減じるための制動堰は、これ以外の仕切り堰やガイド堰及び物質交換塔の内周壁との共同作用で該交換プレート表面上を流れる液相流の流速又は水平方向の加速度を低下させるために該交換プレート表面上に立設された壁と理解すべきである。これは、例えば液相流の流れに対して横断方向に配置される邪魔板であっても良い。
【0011】
本発明によれば仕切り堰とガイド堰により液相流が単に流入部から流出部へと所定の流路に沿って導かれるだけでなく、物質交換塔の鉛直に対する姿勢安定性が低下することによって誘発されるような前記流路を横断する向きの流れの発生も抑制又は回避される。また本発明によれば仕切り堰とガイド堰及び制動堰とによって逆流式物質交換プレートの表面が複数の区画に分割されており、これら複数の堰により、物質交換塔の鉛直に対する姿勢安定性が低下又は失われた場合にも液相流がこれら区画内に滞留する時間は格別に長くなる。洋上操業時における物質交換塔の傾斜は一般に周期的であってその振幅は艤装船舶又はリグ設備の姿勢安定性の想定範囲内であり、従って相応に設計された各堰の高さ寸法により、物質交換塔の鉛直に対する姿勢安定性が低下又は失われた際に重力の作用に基づいて液相流が区画から自由流出することが阻止されると共に物質交換プレート表面上における液相流の急速な偏流の発生も回避され、その結果、逆流式物質交換プレート表面上の物質交換層全域に亘って常に安定した液位の液相流分布が確保される。
【0012】
本発明において、個々の区画を形成する仕切り壁とガイド壁及び制動壁、更には物質交換塔の内周壁は、相互に直接結合されていることが好ましく、個々の区画がこれらの堰や内周壁によって完全に四周の境界を定められていることが望ましい。区画の四周をこれらの堰や内周壁で完全に囲むことにより、物質交換塔の傾斜によって生じる区画からの液相流の流出は水平方向のいかなる方向についても防止され、交換プレート表面上の物質交換層全域に亘って常に安定した液位の液相流分布が確保される。
【0013】
本発明の好適な実施形態によれば、ガイド堰及び制動堰の下縁の下方に、隣接する区画へ液相流を制限された流量で水平方向に通過させるための連通部が設けられている。これにより、隣接する区画間では液相流がガイド堰及び制動堰によって流量を制限され、且つ少なくともこの連通部の開口高さの液位までは各区画で液相流の流れが常に確保される。即ち、交換プレートからその下段の交換プレートへの液相流の移動を確保し、しかも物質交換塔の鉛直からの傾斜の変化に応じて個々の区画間での液相流の自由な移動を制限するためには、ガイド堰や制動堰は交換プレート表面上の或る高さ位置までの制限された一部分で液相流を通過させるものでなければならない。このため、本発明の好適な一実施形態では、ガイド堰及び制動堰は、それらの下縁が予め定められた高さで交換プレート表面との間に間隙を形成するように配置され、しかも個々の区画を形成する堰同士は相互に直接結合され、ガイド堰及び制動堰の下縁と交換プレート表面との間の間隙によって隣接区画間で液相流を制限された流量で水平方向に流すための連通部が形成されている。これにより液相流は或る区画から隣の区画へとガイド堰又は制動堰の堰上縁よりも下方の連通部を通して制限された流量で流れることができるが、堰上縁を越えるような自由な流れは各堰によって制限される。この場合、通常の操業条件下では各区画内の液面レベルは常にガイド堰又は制動堰の下縁よりもかなり上方に保たれることになる。このようなガイド堰及び制動堰の連通部は、区画内の全幅に亘る間隙以外にも、堰を形成する壁又は板に穿たれた貫通穴又はスリット状凹部など、区画内の一部の幅に亘る連通開口で構成してもよい。
【0014】
本発明による物質交換塔においては、塔内の上昇気相流を逆流式物質交換プレートの裏面側から表面側へ通過させるために該交換プレートの表面に立設された通気筒の上部開口端にはベルトラップ状フードが間隙を介して上から被さるように配置され、通気筒内を通過する上層気相流が前記間隙を介してこれらベルトラップ状フードにより交換プレート表面上の液相流中に導入され、該液相流中を泡状に上方へ貫流する。本発明の好適な実施形態によれば、交換プレートの表面上における通気筒の突出高さ部分と該通気筒の上部開口端に配置されたベルトラップ状フードの寸法は、物質交換塔が鉛直姿勢から傾斜した場合にもベルトラップ状フードの下縁と交換プレートの表面との間隙によって形成される気相流通過スリットが常に交換プレート上の液相流の液面下に維持されるように定められている。この場合、上昇する気相流はベルトラップ状フード付きの通気筒を通して適正に交換プレート上の液相流中に流入し、この液相流を泡状の形態で貫いて上方へと流れて行く。ベルトラップ状フードは、交換プレート表面上に突き出た通気筒のカラー状の突出高さ部分の上部開口端に間隙を開けて上から被さり、それらの間に通気筒内からの上昇気相流の向きを180°下向きに向ける通気流路を形成している。この通気流路の末端は通気筒のカラー状の突出高さ部分の外面とベルトラップ状フードの下縁との間に形成される気相流通過スリットであり、気相流はこのスリットから液相流中に流出する。通気筒のカラー状の突出高さ部分とベルトラップ状フードの寸法は、この気相流通過スリットが常に交換プレート上の液相流の液面よりも下位にあるように定められ、それにより気相流は想定される物質交換塔の鉛直姿勢からの傾斜とは無関係に常に確実に液相流中に流入され、泡状の形態で液相流中を強制的に貫流せしめられることになる。その結果、洋上操業においても気相流と液相流との間の直接的な物質交換が安定して確保される。
【0015】
気相流通過スリットは、交換プレート表面との間に前記連通部としての間隙を形成するガイド堰及び制動堰の各下縁よりも下方に位置していることが好ましい。本発明の好適な一実施形態では、ガイド堰及び制動堰は、その下縁が交換プレートの表面よりも上方の或る所定の高さ位置になるように例えば物質交換塔の内周壁に固定されている。この場合、ガイド堰及び制動堰の下縁よりも下方に気相流通過スリットが位置していることが好ましい。液体はこれらの堰にせき止められつつ堰の下縁と交換プレート表面との間の間隙を介して制限された流量で流れることになる。気相流通過スリットがこれら堰の下縁よりも下方に位置されていることにより、液相流は常にベルトラップ状フードの下縁よりも上位の液面を維持して流れ、従って気相流は常に液面下の液相流中に吐出され、確実に気泡となって液相流中を貫流することになる。加えて、区画内ではベルトラップ状フードを被せた通気筒が液相流に対する消波体の機能を果たし、物質交換筒の傾斜が変化した時にも液相流が波状に押し寄せるスロッシング現象の発生を防止することができる。
【0016】
本発明の別の好適な実施形態によれば、交換プレートの表面上に、塔内上方から流下してくる液相流を受けるための流入区画を形成する流入堰と、塔内下方へ液相流を流下させるための流出区画を形成する流出堰とが設けられ、これら流入堰と流出堰には液相流を制限された流量で通過させる貫通穴又はスリット状凹部が設けられている。この実施形態では、流入堰又は流出堰が液相流を制限された流量で通過させるので、その通過流量制限機能によって全ての区画に液相流全体の常に安定した分配が果たされる。これは、例えば隣接する区画との間に流入堰又は流出堰と制限された開度で連通する貫通穴又はスリットを設けることによって実現される。
【0017】
本発明による物質交換塔は、航行中又は係留中の船舶の艤装設備として洋上操業で運転する場合に特に有利である。この場合、艤装設備の物質交換塔の仕切り堰を艤装船舶の縦通長手軸に合致する向きに沿わせておくことが好ましい。このように物質交換塔を洋上操業で運転する場合、交換プレート表面上での液相流の流れは、船舶がピッチングを起こしたときはその縦通長手軸方向に伝搬する波を生じるが、これは液相流の主な流れ方向に層比較的長周期の波であるので仕切り堰と交差する方向の制限堰で充分に抑制できる。これに対して、船舶がローリングを起こしたときには交換プレート表面上での液相流の主な流れ方向を横断する方向に伝搬する比較的短周期の波が生じるが、この場合は更に仕切り堰とガイド堰による抑制効果が加わり、従って船舶が受ける波浪の影響で交換プレート表面上の液相流に誘起される横断流を有効に回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特に海上設備、例えば航行中又は係留中の船舶の艤装設備として洋上操業で運転する場合においても、物質交換塔が鉛直姿勢から傾斜したり、或いはその傾斜が絶えず変化するような状況下になっても物質交換プレート上の物質交換層のほぼ全域に液相流が常に安定した液位で分配され、液相流に押し寄せる波状のスロッシング現象が誘発されることもなく、不利な条件下においても物質交換塔の本来の物質交換機能を安定して果たすことが保証されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の特徴と利点を更に明確にするために、本発明の好適な実施形態を添付図面と共に詳述すれば以下の通りである。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による物質交換塔の或る物質交換層部分における横断面を上から俯瞰した模式断面図であり、円筒状の容器からなる物質交換塔はその周壁1によって示されている。物質交換塔の周壁1には所定の高さ位置で物質交換プレート2が水平に固定され、その表面によって物質交換層の底面が形成されている。交換プレート2の表面上には、塔内上方から流下してくる液相流を受けるための流入区画13を形成する流入堰15と、塔内下方へ液相流を流下させるための流出区画14を形成する流出堰16とが設けられ、これらの堰は交換プレート2の表面及び物質交換塔の周壁1に固定結合されている。この物質交換プレート2は逆流式物質交換プレートとして構成されており、その表面上に形成された流入区画13と流出区画14は同一の側(図面上で左側)に位置し、これら区画の間を仕切る仕切り堰4が交換プレート表面上で中央部を横切るように配置されている。この仕切り堰4は、その下縁が交換プレート2の表面に固定結合されていると共に流入区画及び流出区画側の一方の側縁が物質交換塔の周壁1に固定結合され、流入区画及び流出区画側とは反対側(図面上で右側)の側縁は途中で途切れて周壁1との間に充分な流路幅を確保している。塔内を上方から流下してくる液相流は流入区画13で受け止められ、該流入区画13から図中の一点鎖線の矢印で示すように該交換プレート2の表面上を水平方向に流れ、交換プレートの他側に設けられている流出区画14の開口を通じて塔内下方へと流出して行く。この場合、流入区画13に流入した液相流は先ず仕切り堰4の一方の側面に沿って一方向(図中で右方向)へ流れ、仕切り堰4の途切れ部分で流れの向きをほぼ180°転向されてから仕切り堰4の他方の側面に沿って逆方向に流れて流出区画14へと向かう。流出区画14の開口から下方へ流下する液相流は下段の交換プレートに落ちるが、この下段の交換プレートにおける流入区画と流出区画の配置は図示の配置を図面上で上限反転した形態となる。交換プレート2には、下方から塔内を上昇してくる気相流を交換プレートの裏面側から表面側へ通過させるための複数の通気筒3が分散配置されており、各通気筒3を通過した気相流がこれら通気筒3の上部開口端に間隙を介してそれぞれ配置されたベルトラップ状フード11(図2参照)により該交換プレート2の表面上の液相流中に導入されて該液相流中を泡状の形態で上方へと貫流する。更に交換プレート2の表面から離れた上方には、流入区画13からの液相流を水平方向で図中の一点鎖線の矢印で示す方向に沿った折り返し状の屈曲流路に沿って流出区画14へと案内するための複数のガイド堰5と、この屈曲流路に沿って流れる液相流の流速を途中で減じるための複数の制動堰6とが設けられ、流入堰15から流出堰16までの仕切り堰4で仕切られた屈曲流路の領域における交換プレート2の表面上がガイド堰5と制動堰6によって複数の区画7に分割されている。これらのガイド堰5及び制動堰6は、相互に、また物質交換塔の周壁1又は仕切り堰4或いは流入堰15及び流出堰16に対して邂逅又は交差部分で固定結合されている。このように、交換プレート2の表面上を各堰によって複数の区画に分割したことにより、物質交換塔が鉛直姿勢から傾くことによって誘発される区画7からの液相流の流出は特にガイド堰5と制動堰6によって効果的に抑制され、従って物質交換塔が鉛直姿勢から傾斜しても、交換プレート2の表面上における前記屈曲流路のほぼ全域に亘って液相流をほぼ均一な量で確実に分布させた状態を維持し続けることができる。
【0021】
図2は、図1中のA−A’線に沿った部分のガイド堰5及び制動堰6と通気筒3の配置の様子を側面からみた模式断面図である。図示の実施形態によるガイド堰5及び制動堰6には、これらの堰の下縁の下方に、隣接する区画へ液相流を制限された流量で水平方向に通過させるための連通部が設けられている。即ち、ガイド堰5と制動堰6は、交換プレート2の表面との間に前記連通部としての間隙を形成している。ガイド堰5と制動堰6は、交換プレート2の表面から高さhの位置に下縁が位置するように物質交換塔の周壁1に固定されている。交換プレート2の表面上における通気筒3の突出高さ部分10と該通気筒の上部開口端に配置されたベルトラップ状フード11の寸法は、物質交換塔が鉛直姿勢から傾斜した場合にもベルトラップ状フード11の下縁と交換プレート2の表面との間隙によって形成される気相流通過スリット12が常に交換プレート上の液相流の液面下に維持されるように定められている。この場合、下段から上昇してくる気相流は交換プレート2の裏面側に開口する通気筒3内に流入し、通気筒3内を通過して上部開口端に被せられたベルトラップ状フード11内で180°方向転換され、通気筒3のカラー状の突出高さ部分10の外周面とベルトラップ状フード11の内面との間の通気流路を下向きに通過し、ベルトラップ状フード11の下縁部に形成されている気相流通過スリット12から交換プレート2の表面上にある液相流中に吐出され、該液相流中を気泡となって上方へ貫流する間に気相流と液相流との間で物質交換を生起する。図示の実施形態において、気相流通過スリット12は、交換プレート表面との間に前記連通部としての間隙を形成するガイド堰5及び制動堰6の各下縁の高さ位置hよりも下方に開口している。
【0022】
図3のa図とb図に流入堰15と流出堰16の一実施形態を示す。流入堰15には、流入区画13に該流入堰を介して隣接する全ての区画7に対して液相流を制限された流量で水平方向に通過させる貫通穴8が設けられ、流出堰16には、流出区画14に該流出堰を介して隣接する全ての区画7から流出区画14へ液相流を制限された流量で水平方向に通過させるスリット状凹部9が設けられている。尚、図示の実施形態において、貫通穴8及びスリット状凹部9は前記屈曲流路内における液相流の液面レベルを或る液位以上に保つためにガイド堰5の下縁よりも上方に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による物質交換塔の或る物質交換層部分における横断面を上から俯瞰した模式断面図である。
【図2】図1中のA−A’線に沿った部分の制動堰と通気筒の配置の様子を側面からみた模式断面図である。
【図3】a図は流入堰の一実施形態を示す部分側面図、b図は流出堰の一実施形態を示す部分側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1段の物質交換層を備えた物質交換塔(1)であって、前記物質交換層の底面を形成する物質交換プレートとして少なくとも1枚の逆流式物質交換プレート(2)を備え、塔内を流下する液相流が該交換プレートの表面上を水平方向に流れ、該交換プレートには塔内の上昇気相流を裏面側から表面側へ通過させるための複数の通気筒(3)が設けられ、各通気筒を通過した気相流が該通気筒の上部開口端に間隙を介して配置されたベルトラップ状フードにより該交換プレートの表面の液相流中に導入されて該液相流中を泡状に上方へ貫流し、該交換プレートの表面上には液相流の向きを水平方向で90°又は180°変えるための仕切り堰(4)が設けられているものにおいて、
前記交換プレート(2)の表面上に、液相流を水平方向で予め定められた流路に沿って案内するための少なくとも1つのガイド堰(5)と、前記流路に沿って流れる液相流の流速を減じるための少なくとも1つの制動堰(6)とが設けられ、仕切り堰(4)とガイド堰(5)及び制動堰(6)とによって前記交換プレートの表面が複数の区画(7)に分割されていることを特徴とする物質交換塔。
【請求項2】
個々の区画(7)を形成する仕切り堰(4)とガイド堰(5)と制動堰(6)が相互に直接結合されていることを特徴とする請求項1に記載の物質交換塔。
【請求項3】
ガイド堰(5)及び制動堰(6)の下縁の下方に、隣接する区画へ液相流を制限された流量で水平方向に通過させるための連通部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の物質交換塔。
【請求項4】
前記交換プレート(2)の表面上における前記通気筒の突出高さ部分(10)と該通気筒の上部開口端に配置されたベルトラップ状フード(11)の寸法が、物質交換塔(1)が鉛直姿勢から傾斜した場合にもベルトラップ状フード(11)の下縁と交換プレート(2)の表面との間隙によって形成される気相流通過スリット(12)が常に交換プレート(2)上の液相流の液面よりも下位に維持されるように定められていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の物質交換塔。
【請求項5】
前記気相流通過スリット(12)が、前記交換プレートの表面との間に前記連通部を形成するガイド堰(5)及び制動堰(6)の各下縁よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の物質交換塔。
【請求項6】
前記交換プレート(2)の表面上に、塔内上方から流下してくる液相流を受けるための流入区画を形成する流入堰(15)と、塔内下方へ液相流を流下させるための流出区画を形成する流出堰(16)とが設けられ、これら流入堰と流出堰に液相流を制限された流量で通過させる貫通穴又はスリット状凹部(8,9)が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質交換塔。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質交換塔を航行中又は係留中の船舶の艤装設備として洋上操業で運転することを特徴とする物質交換塔の運転方法。
【請求項8】
艤装設備の物質交換塔(1)の仕切り堰(4)を艤装船舶の縦通長手軸に合致する向きに沿わせておくことを特徴とする請求項7に記載の物質交換塔の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−34676(P2009−34676A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200759(P2008−200759)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Leopoldstrasse 252,80807 Munich,Germany
【Fターム(参考)】