説明

海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材

【課題】海洋表面環境の悪化を抑止しつつ、平均比重が1以下の海洋プランクトン増殖用鉄含有部材を安価に提供する。
【解決手段】フロートとしての球状部材12のほぼ全外表面を包む外殻層13を形成する。この外殻層13は、鉄又は鉄化合物(たとえばFeO)を含有しており、鉄イオンを海水に放出する。外殻層13は、フロートとしての球状部材12を波浪や紫外線から保護するとともに鉄供給源として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋へ鉄を散布するための浮遊鉄供給部材に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
大洋に鉄を補給することにより有機物の形で二酸化炭素を大洋中に投入鉄重量の1万倍程度の二酸化炭素を海洋表層にキープできる可能性がある。この現象は、マーチンにより初めて提唱されたアイデアであり、鉄系材料を大洋(海を含む)特に鉄飢餓海域に散布することにより光合成プランクトンを増殖させる。鉄含有部材としては、2価鉄イオンを放出する材料が望ましいとされている。
長期にわたって鉄イオンまたは鉄化合物(鉄キレートを含む)を放出する鉄含有部材をきわめて広大な大洋全体に均一に散布するために、比較的小さな形状をもち、かつ、平均比重が1以下の鉄含有部材を無数に製造する必要があることは明らかである。鉄の比重が大きいことを考えると、この鉄含有部材の比重を1以下とするために、鉄含有部材をフロート部材に固定することが考えられる。フロート部材が鉄含有部材を兼ねることもできる。
【0003】
たとえば、特許文献1は、FeOを含むガラス材料に独立気泡を設けて比重を低減することを記載している。また、特許文献2は、ガラスバブル又はセラミックバブル又はプラスチック発泡部材(Plastic Form)に鉄部材をたとえば接着により固定することを記載している。
しかしながら、大洋の気候環境は非常に厳しく、たとえば嵐が生じると大洋表面に浮遊する鉄含有部材は強力な波から力を受ける。また、大洋表面に浮遊する鉄含有部材には、種々のイオンを含む海水と強い紫外線とが作用するため、強力な酸化力が働く。その結果、フロート部材としてのガラスバブルやセラミックバブルやプラスチック発泡体には次の問題が生じることが考えられる。
【0004】
まず、独立気泡を含むガラスバブルやセラミックバブルは波の強い力により破壊される可能性がある。独立気泡の径を小さくすることにより鉄含有部材を発泡体構造とすれば、一個の気泡を包むガラス又はセラミックの壁部に掛かるストレスは軽減される。しかし、この方法は、独立気泡の容積に比較してこの独立気泡を包むガラス又はセラミックの壁部の平均厚さを相対的に増大させるので、このガラス又はセラミックの発泡体に固定できる鉄成分重量又はこの発泡体が含むことができる鉄成分重量が減る。大量の鉄含有部材の輸送および散布を考慮すると、鉄含有部材における鉄成分重量比率の低下は問題となる。その他、鉄を含むガラスバブルやセラミックバブルの製造コストは、小さくなく、大きな熱エネルギーを消費するという問題もある。
【0005】
次に、フロート部材として安価なプラスチック発泡体に鉄含有部材を接着する場合、上記した大洋の強力な酸化環境や波浪ストレスにより、プラスチック発泡体の劣化や破損が問題となる。また、プラスチック発泡体と鉄含有部材とを接着する接着材料の接着性の劣化が問題となる。更に、鉄含有部材の鉄が消費された後、プラスチック材料が海洋環境を悪化させるという問題も考慮されねばならない。
【0006】
(発明の目的)
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、海洋表面環境の悪化を抑止しつつ、平均比重が1以下の海洋プランクトン増殖用鉄含有部材を安価に提供することをその第1の目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】USP6199317
【特許文献1】USP2002/0023593
【発明の概要】
【0008】
上記目的を達成する3つの独立発明が以下に説明される。これらの発明は、海洋への鉄供給用の鉄材料を含有する鉄含有部材とを、前記鉄含有部材と一体に結合される浮力発生用のフロート部材とを有し、平均比重が海水比重よりも小さい海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材に適用される。
【0009】
第1発明は、前記鉄含有部材が1乃至20重量%の炭素を含む鉄材からなることをその特徴としている。このような高炭素含有鉄部材は、一般に鋳物用鉄又は銑鉄として知られている。
炭素、特に好適には黒鉛は、金よりも高い電位をもつため、互いに接触する炭素および鉄は海水を電解液とする海水電池を形成する。言い換えれば鉄がガルバニック腐食される。海水に溶解した鉄はClイオンと錯体を形成することが知られている。つまり、多量の炭素を含む安価な鉄材料は海水へのガルバニック溶出により安価な鉄イオン供給部材を構成することができる。
【0010】
好適態様において、前記鉄含有部材は、3乃至10重量%の黒鉛を含む鋳鉄材料により構成される。これにより、ガルバニック析出により鉄イオンを良好に海洋に供給することができる。
【0011】
第2発明は、前記フロートが、ガラス又はセラミック材料又はプラスチック材料からなる発泡体又はバルーン又はキャビティからなり、前記鉄含有部材は、前記フロートの外表面に密着して前記フロートの外表面を覆うことをその特徴としている。鉄含有部材としては鉄板(鋼板を含む)を採用することができる。鉄含有部材としては、バインダで結合された鉄粉(鋼粉を含む)層を採用することができる。バインダとしては、プラスチック又は無機セメントなどの水硬反応材料により形成された無機材料層を採用することができる。
【0012】
本発明によれば、ガラスバルーンやセラミックバルーンの集合体からなるフロートが鉄溶出源としての鉄含有部材により覆われるので、フロートの強度向上によりフロートが波浪により破壊されたり分散するのを良好に防止することができる。
フロートをプラスチック発泡体により構成する場合、生分解性プラスチックなどの分解容易なプラスチックが環境的観点から好ましい。しかし、このプラスチック発泡体は、鉄含有部材が溶出する以前には安定状態を維持する必要がある。本発明によれば、鉄含有部材がプラスチック発泡体を覆うので、紫外線や波浪によりプラスチック発泡体が分解したり破損したりするのを良好に抑止することができる。
好適態様において、前記フロートは、フライアッシュバルーン、シラスバルーン(日本名)および発泡プラスチックのうちの一つからなる。これにより、安価にフロートを形成することができる。
【0013】
第3発明は、前記フロート部材が、スチール又はアイアンにより形成される板状又は殻状の部材により形成されて前記鉄含有部材を兼ねる密閉缶体を有することをその特徴としている。すなわち、この発明のフロート部材は、鉄溶出源としての鉄含有部材を兼ねる。これにより、海洋に浮遊して海洋に鉄を散布するの浮遊鉄供給部材を安価に製造することができる。一例において、鉄溶出源としての鉄含有部材を兼ねるフロート部材は、缶詰用のスチール缶からなる。
【0014】
好適態様において、前記密閉缶体は、複数の前記板状又は殻状の部材を巻き締め又は溶接又は接着により一体化して形成されている。これにより、鉄溶出源としての鉄含有部材を兼ねるフロート部材からなる海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材を安価に製造することができる。
好適態様において、多数の独立気泡を有して前記密閉缶体内に内蔵されたガラス又はセラミック又はプラスチックからなる発泡体乃至バルーンを有する。このようにすれば、密閉缶体に孔があいた後も海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材を海面に保持することができる。
【0015】
好適態様において、前記密閉缶体は、1乃至20重量%の炭素を含む鉄材からなる。これにより、鉄材表面に露出する炭素好適には黒鉛と鉄とによるガルバニック電池効果を利用して鉄イオンを海洋に溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材の模式断面図である。
【図2】実施例2の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
実施形態1の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材を図1に示す。図1は、浮遊鉄供給部材の模式断面図である。
1は、本発明で言う浮遊鉄供給部材をなす鉄ボールである。この鉄ボール1は、2つの鋳鉄製の半球部材11、11と、発泡プラスチックからなる球状部材12とからなる。2つの半球部材11、11は球状部材12の表面に接着されている。更に、互いに対面する半球部材11、11の輪状端面同士も接着されている。鉄ボール1の比重は、海水比重よりわずかに小さくされている。半球部材11、11をなす鋳鉄材料は4乃至10%の黒鉛を含んでいる。
【0018】
黒鉛は鉄よりも高い電位をもつため、ガルバニック海水電池作用により、半球部材11、11の鉄は海水に放出される。黒鉛とその周辺の鉄との平均距離が短いため、電流が流れる回路の電気抵抗は非常に小さくなる。また、発泡体である球状部材12は、堅牢な鉄ボール1によりほぼ覆われているため、強い波浪や紫外線から保護される。表面積を増大するため、球状部材12の径は小さい方がよい。
【0019】
(変形態様)
球状部材12を省略して、単なるキャビティとしてもよい。球状部材12を構成する鋳鉄の代わりに、鋼を採用してもよい。球状部材12の表面にガルバニック海水電池作用を促進する銅粉や銅板を密着させてもよい。球状部材12を構成する発泡体として、シラスバルーンやフライアッシュバルーンなどのガラスバルーンやセラミックバルーンを半球部材11、11内に充填してもよい。この場合、多数のガラスバルーンやセラミックバルーンを加熱したり、接着剤を用いて球状に一体化することが好適である。接着剤としては、樹脂接着剤の他、無機接着剤、糊などを採用することができる。
【0020】
(実施形態2)
実施形態2の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材を図2に示す。図2は、浮遊鉄供給部材の模式断面図である。
1は、本発明で言う浮遊鉄供給部材をなす鉄ボールである。この鉄ボール1は、2つのスチール板製の半球部材11、11と、発泡プラスチックからなる球状部材12と、2つの半球部材11、11の外表面に接着された鉄粉を含む外殻層13とからなる。
鋼板製の2つの半球部材11、11の輪状端面はスポット溶接により、溶接されている。半球部材11、11の内部には実施例1と同じ材料からなる球状部材12が収容されている。球状部材12の表面は半球部材11、11の内表面に接着されている。
【0021】
外殻層13は、鉄粉と炭素粉とバインダとの混合物である。バインダとしては、樹脂接着剤、糊、セメントなどの水硬材料を採用することができる。炭素としては、木炭粉、石炭粉を採用することができる。互いに接触する炭素粉と鉄粉とはガルバニック海水電池を構成し、鉄粉は鉄イオンとして海水に溶出する。炭素粉の代わりに銅粉など鉄よりも電位が高い金属材料を用いてもよい。鉄粉の代わりに鉄片を用いてもよい。
鉄供給源である外殻層13は、内部のキャビティ又は球状部材12を機械的に保護する半球部材11、11を更に腐食および衝撃から保護する。外殻層13が消費された後、薄い半球部材11、11が鉄供給源として動作する。
【0022】
(変形態様)
半球部材11、11を省略して、外殻層13により球状部材12を包んでもよい。半球部材11、11は、缶詰の缶のように巻き締めにより一体化されてもよい。上記実施例の浮遊鉄供給部材を大洋に散布する代わりに、養殖漁場などにおいて、網などにより固定して使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋への鉄供給用の鉄材料を含有する鉄含有部材とを、前記鉄含有部材と一体に結合される浮力発生用のフロート部材とを有し、平均比重が海水比重よりも小さい海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材において、
前記鉄含有部材は、1乃至20重量%の炭素を含む鉄材からなることを特徴とする海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材。
【請求項2】
海洋への鉄供給用の鉄材料を含有する鉄含有部材とを、前記鉄含有部材と一体に結合される浮力発生用のフロート部材とを有し、平均比重が海水比重よりも小さい海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材において、
前記フロートは、ガラス又はセラミック材料又はプラスチック材料からなる発泡体又はバルーン又はキャビティからなり、
前記鉄含有部材は、前記フロートの外表面に密着して前記フロートの外表面を覆う外殻層からなることを特徴とする海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材。
【請求項3】
海洋への鉄供給用の鉄材料を含有する鉄含有部材とを、前記鉄含有部材と一体に結合される浮力発生用のフロート部材とを有し、平均比重が海水比重よりも小さい海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材において、
前記フロート部材は、スチール又はアイアンにより形成される板状又は殻状の部材により形成されて前記鉄含有部材を兼ねる密閉缶体を有することを特徴とする海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材。
【請求項4】
前記密閉缶体は、複数の前記板状又は殻状の部材を巻き締め又は溶接又は接着により一体化して形成されている請求項3記載の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材。
【請求項5】
前記密閉缶体は、1乃至20重量%の炭素を含む鉄材からなる請求項5記載の海洋鉄散布用の浮遊鉄供給部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−179194(P2010−179194A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22318(P2009−22318)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(507348676)有限会社 スリ−アイ (35)
【Fターム(参考)】