説明

海藻食品

【課題】海藻由来の風味を有し、その風味を損なうことなく、長期保存可能なように加工された海藻食品を提供することを課題とした。
【解決するための手段】海藻食品に有機酸又は有機酸塩を添加することによって、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海藻由来の風味を有し、その風味を損なうことなく、長期保存可能なように加工された海藻食品に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻は、各種のビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含有する健康志向に合致する食品素材である。優れた栄養価と風味を有するため、出汁、煮物、佃煮、汁物の具材、健康食品など、幅広い食品に使用されている。更に、簡易に使用できる海藻エキスの需要も伸びている。
【0003】
しかし、海藻は特有の磯臭い匂いを有し、長期保存時に不快臭に変質するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、海藻を低温条件下、アルコール性溶媒で抽出した後、溶媒を除去することにより、青臭さ、生臭さのない海藻エキスを得る製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、カリウム、グルタミン酸、糖アルコールを特定のバランスにて配合して得られた混合物に、昆布よりアルコールあるいは含水アルコールを用いて抽出した昆布フレーバー組成物を配合することによる、昆布の香り、風味および昆布だしの呈味を強く有する昆布エキス調味料の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開2007−37475号公報
【特許文献2】特開2002−142711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海藻は特有の磯臭い匂いを有し、長期保存時に不快臭に変質するという問題があり、海藻食品の商品価値を長期に保つことは困難であった。
【0007】
前述の、海藻を低温条件下、アルコール性溶媒で抽出した後、溶媒を除去する方法、又は、カリウム、グルタミン酸、糖アルコールを特定のバランスにて配合して得られた混合物に昆布フレーバー組成物を配合する方法は、製造直後の青臭さ・生臭さを抑える効果はあるが、長期保存時の不快臭を抑える効果はみられないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明者は、上記のような従来の海藻食品の問題を解決するために、海藻の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存可能な海藻食品を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、海藻の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存可能な海藻食品を提供することを目的として鋭意試験検討を行った結果、海藻食品に有機酸又は有機酸塩を添加することによって、従来の海藻食品の問題を解決できることを察知するに至り、課題を解決するための手段として次の各態様を提供した。
【0010】
そこでまず、海藻食品に有機酸又は有機酸塩を添加することを、本課題を解決するための第1の態様とした。
【0011】
さらに、第1の態様において、海藻食品に有機酸又は有機酸塩を0.1〜10重量%添加することを、本課題を解決するための第2の態様とした。
【0012】
さらに又、第1又は2の態様において、海藻食品に添加する有機酸又は有機酸塩がL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩であることを、本課題を解決するための第3の態様とした。
【0013】
さらに又、第1乃至3のいずれかの態様において、海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液であることを、本課題を解決するための第4の態様とした。
【0014】
さらに又、第4の態様において、海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液を粉末化した海藻抽出物粉末であることを、本課題を解決するための第5の態様とした。
【0015】
さらに又、第1乃至5のいずれかの態様において、海藻が、褐藻類、紅藻類、緑藻類のいずれかであることを、本課題を解決するための第6の態様とした。
【0016】
さらに又、第1乃至5のいずれかの態様において、海藻が昆布であることを、本課題を解決するための第7の態様とした。
【0017】
最後に、第1乃至7のいずれかの態様における海藻食品を含有する食品又は飲料を、本課題を解決するための第8の態様とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明者が、海藻の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存可能な海藻食品を提供することを目的として鋭意検討を行い、課題を解決するために提供した本発明の効果は次の通りである。
【0019】
まず、有機酸又は有機酸塩が添加されている海藻食品としたことにより、海藻の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存を可能にした。
【0020】
さらに、添加する有機酸又は有機酸塩が0.1〜10重量%であることにより、有機酸又は有機酸塩が海藻本来の風味を阻害することなく、海藻の風味を損なうことなく長期保存を可能にした。有機酸又は有機酸塩の添加量が0.1重量%未満ではその効果が小さく、10重量%より多いと有機酸又は有機酸塩自体が海藻本来の風味を阻害する。
【0021】
さらに、添加する有機酸又は有機酸塩がL−アルコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩であることにより、有機酸又は有機酸塩が海藻本来の風味を阻害することなく、海藻の風味を損なうことなく長期保存を可能にした。
【0022】
さらに、海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液であることにより、海藻の風味を損なうことなく長期保存する効果がより顕著となった。海藻を溶媒にて抽出した場合、抽出時に加熱することによる加熱臭が生じるが、有機酸又は有機酸塩を添加することで、加熱臭を感じなくなるという効果ももたらされた。
【0023】
さらに、海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液を粉末化した海藻抽出物粉末であることにより、海藻の風味を損なうことなく長期保存する効果がさらに顕著となった。海藻抽出液を粉末化する際に劣化臭が生じるが、有機酸を添加することで、劣化臭を感じなくなるという効果ももたらされた。
【0024】
さらに、海藻食品が、褐藻類、紅藻類、緑藻類のいずれかであることにより、広く利用されている多くの種類の海藻に関しても、特有の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存を可能にする効果が顕著となった。
【0025】
さらに、海藻食品が、昆布であることにより、最も広い地域で大量に利用されている昆布について、昆布独特の風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存を可能にした。
【0026】
最後に、本発明により得られた、海藻の豊かな風味を有し、その風味を損なうことなく長期保存可能な海草食品を含有する食品又は飲料を提供することにより、新しい食品の創生や伝統的で豊かな食生活の維持に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例に過ぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0028】
まず、本発明で用いられる海藻とは、特に限定されるものではないが、ウミトラノオ、昆布、ヒジキ、ヒバマタ、ホンダワラ、モズク、ラッパモク、ワカメなどの褐藻類、アサクサノリ、テングサなどの紅藻類、アオサ、アオノリ、カサノリ、サボテングサ、フサイワヅタ、ミルなどの緑藻類などが挙げられる。また、とりわけ、海藻が昆布である場合は、幅広い食品等に利用可能な海藻食品を得ることができる。
【0029】
海藻食品とは、海藻を含有する食品であり、海藻をそのまま使用してもよいし、公知の方法で加工したものでもよい。一例として、乾燥した海藻を粉砕機などで粉末化した海藻粉末や、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液などがあげられる。また、海藻食品は、海藻のみでもよいし、調味料やその他の食品素材を添加してもよい。海藻を抽出した海藻抽出液は、公知の方法で、清澄化、濃縮、粉末化などの工程を経てもよい。粉末化する場合は、粉末化前に、澱粉、化工澱粉、デキストリン、オリゴ糖、環状デキストリンなどの粉末化基材を添加してもよいし、添加しなくてもよい。海藻を抽出する場合、有機酸又は有機酸塩を添加する時期は特に限定するものではなく、抽出時に添加してもよいし、抽出後、粉末化工程後に添加してもよい。
【0030】
有機酸又は有機酸塩としては、一例として、L−アスコルビン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸及び、それらの塩などが利用できる。有機酸の塩とは、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等があげられる。有機酸又は有機酸塩としては、特に限定するものではないが、それらの中でもL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩が極めて好適に利用できる。
【0031】
有機酸又は有機酸塩の添加量は特に限定するものではないが、海藻食品中に0.1〜10重量%添加することが好ましい。有機酸の添加量が0.1重量%未満では、その効果が小さい。一方、10重量%より多いと有機酸又は有機酸塩の影響が大きくなり、海藻本来の風味を阻害する可能性がある。
【実施例】
【0032】
以下、試験例及び実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[試験例1]
95℃の熱水1000gに表1に示す量のL−アスコルビン酸ナトリウム及び昆布100gを添加して90℃にて60分間抽出を行った後、固液分離を行った。得られた抽出液にデキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)300gを混合溶解した後、熱風温度150℃にて噴霧乾燥を行い、約310gの粉末昆布エキスを得た。得られた粉末昆布エキス各40gをアルミ袋に密封し、冷凍及び40℃の恒温槽にて4週間保存した。冷凍及び40℃で4週間保存した粉末昆布エキス各10gを500mlの温湯に溶解し、10人のパネラーにて風味確認した結果を表1に示した。別途試験を行い、冷凍保存品は、製造直後と風味差がないことを確認した。
【0034】
【表1】

風味評価
5:好ましい、1:好ましくないとして5段階で評価し、10人の平均点を表記した 。
冷凍品と40℃保存品との風味差
A:差が非常に小さい、B:差が小さい、C:差が大きい、の3段階で評価し、最も 多かった評価を表記した。
【0035】
表1に示すように、冷凍品の風味評価としては、粉末昆布エキス中のL−アスコルビン酸ナトリウム添加量が0.3〜8.8gの▲3▼〜▲6▼は、風味評価が高かった。粉末昆布エキス中のL−アスコルビン酸ナトリウム添加量が11.4gである▲7▼は、金属様の風味がし、風味評価が低かった。粉末昆布エキス中にL−アスコルビン酸ナトリウムを添加していない▲1▼及び粉末昆布エキス中にL−アスコルビン酸ナトリウムを0.06g添加した▲2▼は、加熱臭を有し、風味評価がやや低かった。
冷凍品と40℃保存品との風味差としては、粉末昆布エキス中にL−アスコルビン酸ナトリウムを添加していない▲1▼及び粉末昆布エキス中にL−アスコルビン酸ナトリウムを0.06g添加した▲2▼は、風味差が大きかった。
【0036】
[試験例2]
試験例1で得られた、抽出時にL−アスコルビン酸ナトリウムを添加していない試験例▲1▼の粉末昆布エキス100gに、L−アスコルビン酸ナトリウム3gを粉末混合したものを、試験例1と同様に冷凍及び40℃保存し、風味確認した。冷凍、4週間保存品の風味評価は4.5、40℃、4週間保存品の風味評価は4.0、冷凍保存品と40℃保存品の風味差はAで、粉末昆布エキスにL−アスコルビン酸ナトリウム量を粉末混合したものでも、抽出時に添加するものと同等の効果が得られることがわかる。
【0037】
[実施例1]
昆布の結束物を約10cmに切断した後、直火温風乾燥機で40〜60℃の温風で水分が10%以下になるまで乾燥させた。乾燥させた昆布を回転式粉砕機で約8mm角のチップとした後、更にジェットミルを用いて100メッシュ以下の微粉末とした。得られた昆布微粉末100gに、L−アスコルビン酸1gを粉末混合したところ、長期間保存時の風味変化が少なく、良好な風味を有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸又は有機酸塩が添加されていることを特徴とする海藻食品。
【請求項2】
有機酸又は有機酸塩が0.1〜10重量%添加されていることを特徴とする請求項1記載の海藻食品。
【請求項3】
有機酸又は有機酸塩がL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の海藻食品。
【請求項4】
海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の海藻食品。
【請求項5】
海藻食品が、海藻を溶媒にて抽出した海藻抽出液を粉末化した海藻抽出物粉末であることを特徴とする請求項4に記載の海藻食品。
【請求項6】
海藻が褐藻類、紅藻類、緑藻類のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の海藻食品。
【請求項7】
海藻が昆布であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の海藻食品。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の海藻食品を含有する食品又は飲料。

【公開番号】特開2009−297014(P2009−297014A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182027(P2008−182027)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】