説明

海面変位計測システム

【課題】基準局の位置が地震で変動しても、RTK法による計測データの連続性を保ち、地震による津波を支障なく検出できる海面変位計測システムを提供する。
【解決手段】第1観測局11での計測データと、観測施設20に設置の第1基準局21での計測データとに基づきRTK法で第1観測局11での海面位置の変動を計測する海面変位計測システム1であって、観測施設20に第2観測局22が設置され、観測施設20とは異なる基準施設30に設置された第2基準局32を基準にRTK法で第2観測局22の位置データを計測し、海面位置データから潮位データを抽出する潮位抽出部43と、潮位データから潮位偏差を算出する潮位偏差演算部46と、潮位偏差と第2観測局22の位置データの各変動に基づき第2観測局22の位置の異常を判断する異常判断部59と、異常判断部59での異常時に海面位置データを補正するデータ補正部42とを具備させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面変位計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋観測ブイによる津波・波浪の観測などに、リアルタイム性を確保しつつセンチメートルオーダーの精度で計測し得るリアルタイム・キネマティック(以下、RTKという)法が用いられている。
【0003】
このRTK法は、GPS衛星から発信される測位用電波の搬送波位相を用いて計測するもので、より具体的には、緯度、経度、高さが既知である基準局(受信機である)からのデータを用いて計測対象点(津波・波浪の観測においては、海面に浮遊されたブイに搭載された受信機である)の変位を求めるものである。
【0004】
このRTK法を応用したものとして、観測データに誤差が生じないようにした観測システムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、所望の複数の固定基準点のデータまたは当該固定基準点のデータに基づき生成された仮想基準点のデータを用いて、観測点の位置・変位を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−243833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の観測システムを津波の計測用に適用しても、津波を引き起こす要因となる地震が大規模になると、固定基準点(基準局)データおよび当該固定基準点データに基づき生成された仮想基準点データが変動し、その結果、これらのデータを用いて求められた観測点の位置・変位にも誤差が生じて、津波の検出に支障をきたすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明では、実在する基準局の位置が地震で変動しても、RTK法により計測されるデータの連続性を保つことにより、地震による津波を支障なく検出を行うことができる海面変位計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る海面変位計測システムは、所定海域に係留された観測ブイに搭載された第1観測GPS受信機にて得られた計測データと、地上に設けられた観測施設に設置された第1基準GPS受信機にて得られた計測データとに基づいてリアルタイム・キネマティック法により第1観測GPS受信機における海面位置の変動を計測する海面変位計測システムであって、
上記観測施設に第2観測GPS受信機が設置されて、観測施設とは異なる基準施設に設置された第2基準GPS受信機を基準としてリアルタイム・キネマティック法により当該第2観測GPS受信機の位置データを計測し、
計測された海面位置データから潮位データを抽出する潮位抽出部と、抽出された潮位データと予測される潮位との差である潮位偏差を算出する潮位偏差演算部と、潮位偏差の変動および第2観測GPS受信機の位置データの変動に基づいて第2観測GPS受信機の位置の異常を判断する異常判断部と、異常判断部により異常と判断された際に海面位置データを補正するデータ補正部とを具備させたものである。
【0009】
また、請求項2に係る海面変位計測システムは、請求項1に記載の海面変位計測システムにおいて、異常判断部が、潮位偏差の変動および第2観測GPS受信機の位置データの変動のそれぞれに対して閾値が予め設定されて、第2観測GPS受信機の位置データがこれに対応する閾値を越えて且つ潮位偏差の変動がこれに対応する閾値を超えた場合に異常と判断するものである。
【発明の効果】
【0010】
上記海面変位計測システムによると、基準局の位置が地震で変動しても、RTK法により計測されるデータは、基準局の変動に応じた海面水位の変動分を補正データとして適切に補正されるので、RTK法により計測されるデータの連続性を保つことができる。したがって、地震による津波が到来し、且つ基準局の位置が変動した場合でも、支障なく津波の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る海面変位計測システムの概略構成を示す模式図である。
【図2】同海面変位計測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】同海面変位計測システムにおいてRTK法により計測されたデータの補正を説明するフローチャートである。
【図4】同海面変位計測システムの潮位抽出部にて用いられるローパスフィルタの特性図で、(a)はインパルス応答、(b)は振幅応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例1に係る海面変位計測システムを図面に基づき説明する。
本発明の実施例1に係る海面変位計測システムは、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を利用して、リアルタイム性を確保しつつセンチメートルオーダーの精度で計測し得るリアルタイム・キネマティック(RTK)法により、沖合いの海面変位を計測するものである。沖合いの海面変位を計測する目的は、沖合いで地震による津波の到来を検知し、早期に警報を発して被害を未然に防ぐためである。
【0013】
このRTK法を簡単に説明すると、位置が既知である基準局からのデータを用いて観測局の位置を計測する相対測位方式で、詳しくは動的干渉測位方式である。このRTK法は、GPS衛星からの搬送波の位相を計測することで、高精度な計測を行うことができる。
【0014】
まず、海面変位計測システムの全体構成について説明する。
この海面変位計測システムは、図1に示すように、所定海域に係留された海洋観測ブイ10に搭載された第1観測GPS受信機(以下、第1観測局11という)および地上に設けられた観測施設20に設置された第1基準GPS受信機(以下、第1基準局21という)にて得られた計測データに基づいて所定海域での海面変位を計測し、また当該観測施設20に設置された他の第2観測GPS受信機(以下、第2観測局22という)および当該観測施設20から離れた位置(地上)での基準施設30に設置された第2基準GPS受信機(以下、第2基準局32という)にて得られた計測データに基づいて第2観測局22の位置を計測するものである。
【0015】
すなわち、この海面変位計測システム1は、海洋観測ブイ10に搭載された第1観測局11と、当該海洋観測ブイ10近辺の海岸に設けられた観測施設20に設置されて第1観測局11の位置を計測するための基準となる第1基準局21と、この観測施設20に設置された第2観測局22と、この観測施設20から離れた位置に設けられた基準施設30に設置されて第2観測局22の位置を計測するための基準となる第2基準局32とから構成される。なお、基準施設30は、観測施設20が地震などにより地盤が隆起または沈降した場合でも、基準施設30の位置が変動しないような場所に、例えば異なる岩盤上に配置されている。
【0016】
また、これらの第1観測局11の位置データ(海面位置データ)および第2観測局22の位置データ(基準局位置データ)は、観測施設20内に設置された解析サーバ40に送信されて入力される。
【0017】
上記解析サーバ40は、図2に示すように、海面位置データが入力される海面位置データ入力部41と、補正データ出力部(後述する)52により当該海面位置データが補正されるデータ補正部42と、データ補正部42の海面位置データを有限インパルス応答(FIR)型のローパスフィルタ(インパルス応答と振幅応答を図4に示す)で平滑化して潮位データを抽出する潮位抽出部43と、潮位抽出部43で抽出された潮位データを順次記憶するハードディスク(データベース部)44と、ハードディスク44に記憶された過去の潮位データに基づいて予測される潮位(以下、予測潮位という)を算出する予測潮位演算部45と、潮位抽出部43で抽出された潮位データと予測潮位演算部45で算出された予測潮位との差である潮位偏差を算出する潮位偏差演算部46と、この潮位偏差の1計測ステップあたりの差である潮位偏差変動を算出する潮位偏差変動演算部47と、データ補正部42の海面位置データと潮位抽出部43で抽出された潮位データとの差である波浪データを算出する波浪抽出部48とが具備される。
【0018】
ここで、上記予測潮位演算部45において予測潮位を算出する式を説明しておく。
地球上の或る点(λ、φ)における潮位ηは、一般に、下記式(1)により表される。
【0019】
【数1】

但し、(1)式中、iは分潮の番号、A(λ、φ)は振幅、ωは角周波数(2π=/Ti: Tは分潮の周期)、θ(λ、φ)は位相(遅角)を示す。
【0020】
=A(λ、φ)・cosθ(λ、φ),b=A(λ、φ)・sinθ(λ、φ)とすると、上記(1)式は下記(2)式のように表される。
【0021】
【数2】

ところで、分潮の周波数ωは既知であり、したがって上記(2)式の左辺に過去の実測海面位置データを代入し最小二乗法を用いることにより、aおよびbを求めれば、下記(3)式により振幅および位相を求めることができる。
【0022】
【数3】

この(3)式で求められたA(λ、φ)およびθ(λ、φ)を用いれば、予測潮位を算出することができる。
【0023】
また、上記解析サーバ40は、基準局位置データが入力される基準局位置データ入力部51と、基準局位置データの1計測ステップあたりの差である基準局位置データ変動を算出する基準局位置データ変動演算部57と、算出された潮位偏差変動および基準局位置データ変動に基づいて第2観測局22の位置の異常(海面位置データを正確に計測できない程度に第1基準局21の位置が変動したか)を判断する異常判断部59と、異常判断部59により異常と判断された際に潮位偏差変動を補正データとしてデータ補正部42へ送信する補正データ出力部52とから構成される。この潮位偏差変動は第1基準局21の位置の変動分であるから、補正データとして用いられることで、適切な補正が行われる。また、上記異常判断部59では、潮位偏差変動および基準局位置データ変動のそれぞれに対して閾値が予め設定されており、潮位偏差変動がこれに対応する閾値を越えて且つ、基準局位置データ変動がこれに対応する閾値を超えた場合に、異常判断部59において異常、すなわち、海面位置データを正確に計測できない程度に第1基準局21の位置が変動したと判断される。ここで、基準局位置データに対応する閾値は、第2観測局22(観測施設20)の地盤が津波の原因となる地震などにより隆起または沈降したと判断できる程度の値とし、また潮位偏差変動に対応する閾値は、上記地盤の隆起または沈降により潮位偏差の算出に異常があると判断できる程度の値とする。すなわち、これらの値はいずれも計測誤差の範囲を超えるものである。なお、第2観測局22(観測施設20)の位置が変動しても、第2基準局32(基準施設30)は影響を受けない程度に十分に離れているので、RTK法により正確に第2観測局22の位置変動を計測できる。
【0024】
また、上記解析サーバ40には、解析サーバ40で算出された海面位置データ、波浪データ、潮位データおよび潮位偏差を表示するデータ表示装置49が具備されている。
さらに、図示しないが、上記潮位偏差演算部46にて算出された潮位偏差に基づいて津波を検出する津波検出部も具備されている。
【0025】
この構成において、海面位置データは、観測施設20での第1基準局21を基準として、海洋観測ブイ10に搭載された第1観測局11にて得られた計測データにより、RTK法で計測され、解析サーバ40へ送られる。また、基準局位置データは、基準施設30に設置された第2基準局32を基準として、観測施設20に設置された第2観測局22にて得られた計測データにより、RTK法で計測され、同様にして解析サーバ40へ送られる。
【0026】
解析サーバ40では、図2および図3に示すように、海面位置データが海面位置データ入力部41に入力されて、データ補正部42へ送られる。データ補正部42において、海面位置データは、異常判断部59で異常と判断された際に補正データ出力部52により補正されるが、異常と判断されなければ、補正が行われない。この海面位置データは、潮位抽出部43において、ローパスフィルタで短周期成分、すなわち波浪成分が除去され、潮位データが抽出されるとともに、ハードディスク44に順次記憶されていく。そして、予測潮位演算部45では、ハードディスク44に記憶された過去の潮位データに基づいて、予測潮位が算出される。
【0027】
そして、潮位偏差演算部46では、潮位抽出部43から潮位データが入力されるとともに、予測潮位演算部45から予測潮位が入力され、この潮位データから予測潮位を減じて潮位偏差が算出される。また、潮位偏差変動演算部47では、潮位偏差演算部46の潮位偏差が入力され、現在における潮位偏差から1計測ステップ前の潮位偏差を減じて潮位偏差変動が算出される。
【0028】
一方、RTK法で計測された第2観測局22の位置データ、すなわち基準局位置データは、解析サーバ40の基準局位置データ入力部51に入力される。そして、基準局位置データ変動演算部57では、基準局位置データが入力され、現在における基準局位置データから1計測ステップ前の基準局位置データを減じて基準局位置データ変動が算出される。
【0029】
また、異常判断部59では、基準局位置データ変動および潮位偏差変動が入力される。そして、基準局位置データ変動および潮位偏差変動に対応する各閾値が予め適切に設定されており、基準局位置データ変動が対応する閾値を越え且つ潮位偏差変動が対応する閾値を超えると、異常判断部59において異常、すなわち、海面位置データを正確に計測できない程度に第1基準局21の位置が変動したと判断される。一方、補正データ出力部52では、潮位偏差変動が入力されており、異常判断部59で異常と判断された際に、当該潮位偏差変動を補正データとしてデータ補正部42に入力させ、海面位置データに加算させて補正する。
【0030】
なお、波浪抽出部48では、データ補正部42から海面位置データが入力されるとともに、潮位抽出部43から潮位データが入力され、この海面位置データから潮位データを減じて波浪データが算出される。そして、データ表示装置49では、データ補正部42での海面位置データ、波浪抽出部48での波浪データ、潮位抽出部43での潮位データおよび潮位偏差演算部46での潮位偏差が表示される。
【0031】
このように、観測施設20(第1基準局21)の位置が変動しても、RTK法により計測される海面位置データはデータ補正部42にて補正されるので、観測施設20(第1基準局21)の位置が地震で変動しても、海面位置データの連続性を保つことにより、正確に海面位置データを計測することができる。したがって、地震による津波が到来し、且つ第1基準局21の位置が変動した場合でも、支障なく津波の検出を行うことができる。
【0032】
ところで、上記実施例1においては、観測施設20に設置された第1基準局21および第2観測局22を、それぞれ別個のGPS受信機として説明したが、1基のGPS受信機を、第1基準局21および第2観測局22として用いてもよい。
【0033】
また、観測施設20において、第1基準局21を基準として第2観測局22の位置をRTK法で計測するようにしてもよい。この場合は、第1基準局21と第2観測局22の相対ベクトルを計測し、この相対ベクトルが変動すれば、異常判断部59にて異常と判断されないようにする。これにより、第2観測局22が故障することにより基準局位置データが大きく変動しても、データ補正部42で不適切な補正が行われることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 海面変位計測システム
10 海洋観測ブイ
11 第1観測局
20 観測施設
21 第1基準局
22 第2観測局
30 基準施設
32 第2基準局
40 解析サーバ
41 海面位置データ入力部
42 データ補正部
47 潮位偏差変動演算部
51 基準局位置データ入力部
52 補正データ出力部
57 基準局位置データ変動演算部
59 異常判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定海域に係留された観測ブイに搭載された第1観測GPS受信機にて得られた計測データと、地上に設けられた観測施設に設置された第1基準GPS受信機にて得られた計測データとに基づいてリアルタイム・キネマティック法により第1観測GPS受信機における海面位置の変動を計測する海面変位計測システムであって、
上記観測施設に第2観測GPS受信機が設置されて、観測施設とは異なる基準施設に設置された第2基準GPS受信機を基準としてリアルタイム・キネマティック法により当該第2観測GPS受信機の位置データを計測し、
計測された海面位置データから潮位データを抽出する潮位抽出部と、抽出された潮位データと予測される潮位との差である潮位偏差を算出する潮位偏差演算部と、潮位偏差の変動および第2観測GPS受信機の位置データの変動に基づいて第2観測GPS受信機の位置の異常を判断する異常判断部と、異常判断部により異常と判断された際に海面位置データを補正するデータ補正部とを具備させたことを特徴とする海面変位計測システム。
【請求項2】
異常判断部が、
潮位偏差の変動および第2観測GPS受信機の位置データの変動のそれぞれに対して閾値が予め設定されて、第2観測GPS受信機の位置データがこれに対応する閾値を越えて且つ潮位偏差の変動がこれに対応する閾値を超えた場合に異常と判断すること
を特徴とする請求項1に記載の海面変位計測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−145139(P2011−145139A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5378(P2010−5378)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】