説明

浸漬塗工方法及び電子写真装置用ローラ

【課題】 本発明の目的は、上記に鑑みてなされたものであって、導電性部材の表面被覆層を形成する際、表面欠陥の無い被覆層を形成すると共に、極めて簡便に導電性部材表面の被覆層の厚さを浸漬時の上下について均一にコントロールすることができる浸漬塗工方法及び電子写真装置用ローラを提供することである。
【解決手段】本発明は、導電性支持体の外周の弾性層上に塗工膜を形成する浸漬塗工方法において、前記弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間が、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の2倍以下となるように、前記弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間を設定したことを特徴とする浸漬塗工方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンター、ファクシミリ及び複写機等の電子写真方式を採用した画像形成装置における帯電ローラ、現像ローラ等の製造工程で、弾性体であるローラ本体の表面に導電性塗料による塗工膜を形成するのに好適な、浸漬塗工方法及び電子写真装置用ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真プロセスにおける帯電プロセスは、金属ワイヤーに高電圧(直流電圧6〜8kV)を印加して発生するコロナシャワーにより被帯電体である電子写真感光体面を所定の極性・電位に一様帯電させるコロナ帯電器が広く利用されていた。しかし、高圧電源を必要とする、比較的多量のオゾンが発生する等の問題があった。
【0003】
これに対して導電性部材を感光体に接触させながら電圧を印加して、感光体表面を帯電させる接触帯電方式が実用化されている。これは、感光体に、ローラ型、ブレード型、ブラシ型及び磁気ブラシ型等の電荷供給部材としての導電性部材(帯電部材)を接触させ、この接触帯電部材に所定の帯電バイアスを印加して感光体面を所定の極性・電位に一様に帯電させるものである。
【0004】
この帯電方式は、電源の低電圧化とオゾンの発生量が少ないという利点を有している。この中でも特に接触帯電部材として導電性ローラを用いたローラ帯電方式が、帯電の安定性という観点から好ましく用いられている。しかしながら、この帯電方式は出力画像に悪影響を及ぼさないために、ローラ表面に欠陥がない非常に高度な均一性が要求される。
【0005】
また、一成分非磁性現像方式が一般的に採用されるようになり、該方式に必要である現像ローラに関してもローラ表面に欠陥がない非常に高度な均一性が要求される。
【0006】
前記ローラ1は、図1に示すように導電性支持体1aを有し、ゴム等からなる導電性弾性層1b表面に導電性塗料による塗工膜1cを均一にかつ薄く形成されたものである。
【0007】
従来法として、弾性体であるローラ本体の表面に導電性塗料による塗工膜を形成するためには、浸漬塗工法、ロールコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0008】
従来法の浸漬塗工法は、ローラ本体を垂直にして、塗料中に浸漬し、その後ローラ本体を一定速度で引き上げて塗工膜を形成するという方法である(例えば、特許文献1)。
【0009】
しかし、このような従来法の浸漬塗工法は、ローラの円周方向の膜厚精度が高い、塗工によるムラ等のローラ表面の欠陥が発生しにくい、塗工装置の構造が簡便である等の利点があるが、ローラ本体を浸漬する際の上側と下側で塗工膜の厚さに差が発生してしまう。このような塗工時の膜厚の差を修正するためにローラの本体の上下を反転させて更にもう一度浸漬塗工を行う必要があった。また、この方法の場合、塗布に必要のない芯金にまで塗工液が塗布されるため、芯金にキャップを取り付けて芯金部をマスクキングし浸漬塗工を行う必要がある。従って、ローラ本体を反転させて二度浸漬塗工するためには、マスキングキャップの取り付け、取り外しも二度必要となり装置の構造が複雑になってしまうという問題があった。
【0010】
また、ロールコート法は、ローラ本体を水平にして、芯金を中心に回転させながら昇降させる。これにより、ローラ本体が横向きに回転しながら塗料中に浸されることによって、塗工膜を形成するという方法である(例えば、特許文献2)。
【0011】
しかし、また、このようなロールコート法では、塗工終了時ローラ本体が液面から離れる際に、その離れる部分に発生する線状のムラを避けられず、均一な塗工膜を形成することが困難である。
【0012】
また、スプレーコート法は、芯金を中心にして回転しているローラ本体の表面に塗料を噴霧することによって、塗工膜を形成するという方法である(例えば、特許文献3)。
【0013】
しかし、また、スプレーコート法は、基本的に塗料を均一に噴霧することが困難であり、また噴霧する際の塗料のロス分も少なくない。
【0014】
以上のように電子写真技術においては高画質化及びカラー化の要求が高く、上記のような被覆層の僅かな欠陥、例えば導電性部材表面の被覆層の膜厚ムラや、塗工ムラによる表面欠陥等により画像不良が発生する。僅かな被覆層の膜厚ムラや塗工ムラを改善することがこれらの要求を満足するために解決すべき重要な課題となっており、更なるレベルアップが不可欠であった。
【特許文献1】特開昭57-5048号公報
【特許文献2】特開平5-35140号公報
【特許文献3】特開昭60-48333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って本発明の目的は、上記に鑑みてなされたものであって、導電性部材の表面被覆層を形成する際、表面欠陥の無い被覆層を形成すると共に、極めて簡便に導電性部材表面の被覆層の厚さを浸漬時の上下について均一にコントロールすることができる浸漬塗工方法及び電子写真装置用ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、導電性支持体の外周の弾性層上に塗工膜を形成する浸漬塗工方法において、前記弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間が、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の2倍以下となるように、前記弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間を設定したことを特徴とする浸漬塗工方法鉛直により達成される。
【0017】
また、前記塗工膜が、前記弾性層を少なくとも1回以上塗工液に浸漬し、かつ、前記弾性層の上昇速度を徐々に遅くして引き上げて形成したものであることを特徴とする上記浸漬塗工方法により達成される。
【0018】
また、導電性支持体の外周の弾性層上に塗工膜を形成した電子写真装置用ローラにおいて、前記塗工膜の膜厚差が前記ローラの長手方向間で、2μm以下としたことを特徴とする上記浸漬塗工方法により形成された電子写真装置用ローラにより達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導電性部材の表面被覆層を形成する際、表面欠陥の無い被覆層を形成すると共に、極めて簡便に導電性部材表面の被覆層の厚さを浸漬時の上下について均一にコントロールすることができる浸漬塗工が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
従来の浸漬塗工方法において、ローラ本体を浸漬する際の上側と下側で塗工膜の厚さに差が発生してしまう。このようなローラ上下での膜厚の差があるとローラ上下での表面粗さの差や画像の濃度ムラの発生等、様々な問題が発生する。また、このような塗工時の膜厚の差を修正するためにローラの本体の上下を反転させて更にもう一度浸漬塗工を行う方法もあるが、この浸漬塗工方法の場合、塗布に必要のない芯金にまで塗工液が塗布されるため、芯金にキャップを取り付けて芯金部をマスクキングし浸漬塗工を行う必要がある。従って、ローラ本体を反転させて二度浸漬塗工するためには、マスキングキャップの取り付け、取り外しも二度必要となり装置の構造が複雑になってしまう問題が発生する。
【0022】
上記の問題を解決するため、我々が検討を進めた結果、浸漬塗工時にローラ上下で発生してしまう膜厚の差は、塗工された塗工液が垂れ下がり塗工膜の厚さに差ができるためでなく、塗工液の弾性層の外周面に対するなじみ方(濡れ性)の違いによるものであることが明らかになった。つまり、浸漬時に下になる部分は、上になる部分よりも先に塗工液に入り、後から出るために、塗工液中に浸漬している時間が長くなるため、より塗工液とのなじみが良くなりそのため、弾性層の外周面に被覆される塗工液が増加し、塗工膜が上側より下側の方が厚くなることによる。
【0023】
本発明の浸漬塗工方法によれば、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間が、弾性層が完全に浸漬した状態での停止時間の2倍以下となるように、弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間を設定することにより、塗工液の弾性層の外周面に対するなじみ方(濡れ性)の違いの差が小さくなり一度の浸漬により均一な厚さの塗工膜の形成が可能となる。それに対し、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間が、弾性層が完全に浸漬した状態での停止時間の2倍より長い場合、塗工液の弾性層の外周面に対するなじみ方(濡れ性)の違いの差が大きくなり一度の浸漬により均一な厚さの塗工膜の形成が不可能となる。このときの降下速度は特に限定されるものではないが、50mm/sec以下であることが好ましい。これは、降下速度が速すぎると塗工時の泡かみや塗工液表面が揺れる事による塗工ムラの発生を引き起こし易くなるからである。また、このときの弾性層が完全に浸漬した状態での停止時間も特に限定されるものではないが製造タクトや基層の膨潤等の影響を考慮して常識の範囲であるとする。さらには、停止時間は60sec以内が好ましい。
【0024】
また、引き上げ時に徐々に遅く引き上げて塗工膜を形成することにより、更に均一な塗工膜の形成が可能となる。これは、引き上げ時も、下になる部分は、上になる部分よりも長い時間塗工液中に浸漬していることになり、そのため、より塗工液とのなじみが良くなり、弾性層の外周面に被覆される塗工液が増加し、塗工膜が上側より下側の方が厚くなることになるのであるが、引き上げ時に徐々に遅く引き上げて塗工膜を形成することにより、塗工液の弾性層への塗布量を制御できるため、さらに均一な塗工膜の形成が可能となる。つまり、引き上げ速度が速いほど塗工液の塗布量は増加し塗工膜は厚くなり、引き上げ速度が遅いほど塗工液の塗布量は減少し塗工膜が薄くなることによる。この効果により、引き上げ時の弾性層上下での浸漬時間の差は、結果的に相殺され、ローラ上下での膜厚の差は引き上げ時には発生しない。このときの引き上げ速度は、製造タクトや装置性能において常識の範囲であるとする。さらには、初期速度5〜20mm/sec、最終速度は2〜4mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させることが好ましい。
【0025】
このとき、ローラの上下間の塗工膜の膜厚差は、2μm以下とする事が出来、精細な性状を要求される電子写真装置用ローラとしては適正なものを得る事ができる。
【0026】
本発明の浸漬塗工方法で作製可能な電子写真装置用ローラについて以下に述べる。
【0027】
例えば、導電性部材(電子写真装置用ローラ)は図2に示すようにローラ形状であり、導電性支持体2aと被覆層として、その外周に一体に形成された弾性層2bから構成されている。
【0028】
本発明の浸漬塗工方法で作製可能な他の導電性部材の構成を図3に示す。図3に示すように導電性部材は、被覆層が弾性層2bと表層2cからなる2層であってもよいし、弾性層2b及び抵抗層2dと表面層2cからなる3層及び、抵抗層2dと表面層2cの間に第2の抵抗層2eを設けた、4層以上を導電性支持体2a上に形成した構成としてもよい。
【0029】
本発明に用いられる導電性支持体2aは、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム及びニッケル等の金属材料の丸棒を用いることができる。更に、これらの金属表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わないが、導電性を損なわないことが必要である。
【0030】
弾性層2bの導電性は、ゴム等の弾性材料中にカーボンブラック、グラファイト及び導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤及びアルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を適宜添加することにより1010Ωcm未満に調整されるのが好ましい。弾性層2bの具体的弾性材料としては、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)及びクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等も挙げられる。
【0031】
直流電圧のみ印加して、被帯電体の帯電処理を行う帯電部材においては、帯電均一性を達成するために、特に中抵抗の極性ゴム(例えば、エピクロルヒドリンゴム、NBR、CR及びウレタンゴム等)やポリウレタン樹脂を弾性材料として用いるのが好ましい。これらの極性ゴムやポリウレタン樹脂は、ゴムや樹脂中の水分や不純物がキャリアとなり、僅かではあるが導電性を持つと考えられ、これらの導電機構はイオン伝導であると考えられる。但し、これらの極性ゴムやポリウレタン樹脂に導電剤を全く添加しないで弾性層を作製し、得られた帯電部材は低温低湿環境(L/L)において、抵抗値が高くなり1010Ωcm以上となってしまうものもあるため帯電部材に高電圧を印加しなければならなくなる。
【0032】
そこで、L/L環境で帯電部材の抵抗値が1010Ωcm未満になるように、前述した電子導電機構を有する導電剤やイオン導電機構を有する導電剤を適宜添加して調整するのが好ましい。イオン導電機構を有する導電剤のほうが抵抗調整しやすく製法上好ましい。しかしながら、イオン導電機構を有する導電剤は抵抗値を低くする効果が小さく、特にL/L環境でその効果が小さい。そのため、イオン導電機構を有する導電剤の添加と併せて電子導電機構を有する導電剤を補助的に添加して抵抗調整を行ってもよい。
【0033】
また、弾性層2bはこれらの弾性材料を発泡成型した発泡体であってもよい。
【0034】
抵抗層2d(e)は、弾性層に接した位置に形成されるため弾性層中に含有される軟化油や可塑剤等の帯電部材表面へのブリードアウトを防止する目的で設けたり、帯電部材全体の電気抵抗を調整する目的で設ける。
【0035】
被覆層が複数層(抵抗層、表面層)であるときに、本発明に用いる抵抗層2d(e)を構成する材料としては、例えば、エピクロルヒドリンゴム、NBR、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、エチレン酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー及び塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。これらの材料は、単独又は2種類以上を混合してもよく、共重合体であってもよい。
【0036】
本発明に用いる抵抗層2d(e)は、導電性もしくは半導電性を有している必要がある。導電性、半導電性の発現のためには、各種電子伝導機構を有する導電剤(導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)あるいはイオン導電剤(アルカリ金属塩及びアンモニウム塩)を適宜用いることができる。この場合、所望の電気抵抗を得るためには、前記各種導電剤を2種以上併用してもよい。本発明の抵抗層2d(e)には、表面処理された無機微粒子及び導電剤を含有することが特に好ましく、表面層が抵抗層を兼ねる場合にも、表面処理された無機微粒子及び導電剤であることが好ましい。
【0037】
また、被覆層が複数層(抵抗層、表面層)であるときの表面層2cは、帯電部材の表面を構成し、被帯電体である感光体と接触するため感光体を汚染してしまう材料構成であってはならない。
【0038】
本発明の特性を発揮させるための表面層2cの結着樹脂材料としては、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)及びオレフィン−エチレン・ブチレン・オレフィン共重合体(CEBC)等が挙げられる。本発明における表面層の材料としては、特にはフッ素樹脂、アクリル樹脂及びシリコーン樹脂等の滑り性や離型性に優れたものが好ましい。
【0039】
また、これらの結着樹脂に、グラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑剤、あるいはフッ素系界面活性剤、ワックス又はシリコーンオイル等を添加してもよい。
【0040】
表面層には、各種導電剤(導電性カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉及び金属酸化物である導電性酸化錫や導電性酸化チタン等)を適宜用いる。本発明においては、所望の電気抵抗を得るためには、前記各種導電剤を2種以上併用してもよい。導電剤の粒径は平均粒径で1.0μm以下であることが好ましい。平均粒径が1.0μmを超えると感光ドラム上にピンホールが存在した場合、ピンホールリークが発生し易くなるため好ましくない。また、導電剤粒子の比重が重い場合は平均粒径が1.0μmを超えると塗料分散安定性が悪くなり、塗料中で沈降し易いので好ましくない。
【0041】
ここでいう平均粒径とは、10万倍の透過電子顕微鏡像から任意の一次粒子400個の粒子径を実測し、個数平均径を算出したものである。粒子径としては、粒子の長軸を測定し、長軸/短軸比が2以上の場合にはその平均値をもって測定値とし、これらの値から算出する。
【0042】
また、導電剤と結着樹脂の割合は質量比で0.1:1.0〜2.0〜1.0であることが好ましい。導電剤が0.1に満たないと導電剤を含有させたことによる効果を得にくくなり、2.0を超えると表面層の機械的強度が低下し、層がもろくなったり、硬度がアップし、柔軟性がなくなり易い。
【0043】
本発明の被覆層に含有される無機微粒子としては、絶縁性無機微粒子が好ましく、例えば、酸化物、複酸化物、金属酸化物、金属、炭素、炭素化合物、フラーレン、ホウ素化合物、炭化物、窒化物、セラミックス及びカルコゲン化合物が挙げられる。本発明においては、前記各種無機微粒子を2種以上併用してもよい。また体積抵抗率が1×1010Ωcm以上の絶縁性無機微粒子を用いることが好ましい。
【0044】
導電剤の表面は、チタンカップリング剤あるいはアルコキシシランカップリング剤等のカップリング剤及びフルオロアルキルアルコキシシランカップリング剤などのカップリング剤(珪素、チタン、アルミニウム、ジルコニウムなど中心金属は特に選ばない)、またはオイル、ワニス、有機化合物等で処理されていてもよい。
【0045】
(表面層の塗工について)
表面層2cの作成方法としては、前記した各材料を1成分以上の有機溶剤中に添加し塗工液を作成する。この塗工液の粘度は1〜250mPasの範囲内にあることが好ましいが、粘度により膜厚が変化するため、特には5〜25mPasであることが好ましく、このとき得られる表面層2cの厚みは10〜30μmが好ましい。
【0046】
本発明に用いることのできる有機溶剤としては、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンのケトン類、キシレン、トルエンなどの芳香族類、n-酢酸ブチル、酢酸エチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、テトラヒドロピランなどのエーテル類が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0047】
塗工液の作成において粉砕工程を加える場合はボールミル、サンドミル、振動ミルなどを用いる。
【0048】
塗工にあたり、下部の芯金露出部には公知のマスキングキャップが利用可能である。
【0049】
塗工方法としては、本発明の塗工方法を使用する。弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間は、塗工液の粘度、塗工時の温湿度、狙いの被覆層の厚さ等に応じて本発明の関係を満足させる範囲で設定できる。また、引き上げ時の初速度も同様に、塗工液の粘度、塗工時の温湿度、狙いの被覆層の厚さ等に応じて調節することにより、被覆層の厚さを変化させることができる。
【0050】
次に、上記のような塗工方法で作成したウェット状態の被覆層2cを乾燥機に移す。乾燥機では、所定時間乾燥して溶剤成分を蒸発させることにより、被覆層2cが形成される。
【0051】
帯電部材以外の、現像剤担持部材等の被接触物を電気的にコントロールする導電性部材において、被覆層を形成する場合も、同様の考え方が適用されうる。また、さらには、従来技術で上述したAC帯電よりも使用可能条件が厳しいと考えられるDC帯電の帯電ローラに対して、適合するものであり、AC帯電への使用可能性が高いのはいうまでもない。
【実施例】
【0052】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は質量部を示す。
【0053】
(実施例1)
下記の要領で本発明の帯電部材としての帯電ローラを作成した。
【0054】
エピクロルヒドリンゴム 100部
四級アンモニウム塩 2部
炭酸カルシウム 45部
酸化亜鉛 5部
脂肪族ポリエステル系可塑剤 8部
ステアリン酸亜鉛 1部
カーボンブラック 5部
【0055】
以上の材料を50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、原料コンパウンドを調整した。このコンパウンドに原料ゴムのエピクロルヒドリンゴム100部に対し加硫剤としての硫黄1部、加硫促進剤としてのノクセラーDM 1部及びノクセラーTS 0.5部を加え、20℃に冷却した2本ロール機にて10分間混練した。得られたコンパウンドをφ6mm、長さ252.5mmのステンレス製支持体の周囲にローラ状になるように押出成型機にて成型し、加熱加硫成型した後、ゴムの両端部を突っ切り、外径φ8.5mmになるように研磨処理して長さ230.0mm弾性層を得た。このときのクラウン量(中央部と中央部から90mmはなれた位置の外径の差)は110μmとした。
【0056】
上記弾性層の上に以下に示すような表層面を被覆形成した。表面層2cの材料として、
アクリルポリオール溶液(有効成分70質量%、希釈溶剤とし
てキシレン30質量%を含有) 100部
イソシアネートA(IPDI)(有効成分60質量%、希釈溶剤と
してn-酢酸ブチルを15質量%、キシレン25質量%を含有) 40部
イソシアネートB(HDI)(有効成分80質量%、希釈剤とし
て酢酸エチル20%を含有) 30部
カーボンブラック 30部
表面処理酸化チタン 25部
ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂粒子 50部
メチルイソブチルケトン 400部
変性ジメチルシリコーンオイル 0.08部
をミキサーを用いて撹拌し混合溶液を作成した。ついで、その混合溶液を循環式のビーズミル分散機を用いて分散処理(処理速度500ml/min)を行い、浸漬塗工用塗料を作成した。なお、この塗液の粘度は8.0mPasであった。
【0057】
次に、図4に示すようにステンレス製支持体2aを前記塗工液の表面に対して鉛直状態に保持して、塗工液中に浸漬した。このとき、降下速度は15mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間は10secとした。このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の1.53倍であった。なお、このときの引き上げ速度は、初期速度20mm/sec、最終速度は2mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。この際、図4に示すように下方のステンレス製支持体2aにポリアセタール製のマスキング用キャップ4aを被せ、下部の芯金に塗工液が付着することを防止した。
【0058】
10分間の風乾をした後、下方のステンレス製支持体2aに被せたポリアセタール製のマスキング用キャップ4aを取り外し、熱風乾燥機にて80℃で1時間乾燥させた後、更に160℃で1時間乾燥させ、表層面を被覆形成したローラ形状の帯電部材を得た。
【0059】
<塗工膜の膜厚測定>
次に、以上のようにして得られた帯電部材の浸漬時上端部(弾性層上端から25mmの位置)、前記帯電部材の中央部、前記帯電部材の浸漬時下端部(弾性層下端から25mmの位置)、それぞれの位置における被覆層の厚さを測定し、その結果を表1に示す。膜厚の測定方法としては、実際にナイフ等を使用して、塗工膜の断面が観察できるように切り出し、その後SEMを使用し膜厚を測定した。
【0060】
<帯電ローラに直流電圧のみを印加したときの連続複数枚数画像出し耐久試験>
以上のようにして得られた帯電部材をプリンターに装着し、温度23℃、湿度55%雰囲気下において、連続複数枚数画像出し耐久試験を行った。初期と15000枚においてモノカラーハーフトーン印刷を行った。得られた画像を目視にて観察して評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
表中のA、B、C、D、Eは、浸漬塗工時に発生する膜厚の上下差に起因する画像白ポチもしくは画像濃度ムラの発生について画像品質を5段階にランク分けしたものである。なお、Aを画像白ポチもしくは画像濃度ムラが全くないレベルとし、Bまでを良しとした。C、Dは、製品としては見劣りする画像問題部を多少とも有するものであるため、NGとした。更にEは画像白ポチもしくは画像濃度ムラが目立つため、不良レベルとした。
【0062】
(実施例2)
実施例1において、降下速度は30mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を8secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0063】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の0.96倍であった。
【0064】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、降下速度は50mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を8secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0066】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の0.58倍であった。
【0067】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0068】
(実施例4)
実施例1において、降下速度は15mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を8secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0069】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の1.91倍であった。
【0070】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、降下速度は15mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を2secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0072】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の7.65倍であった。
【0073】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0074】
(比較例2)
実施例1において、降下速度は30mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を2secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0075】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の3.85倍であった。
【0076】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0077】
(比較例3)
実施例1において、降下速度は15mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間を6secにする以外、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。
【0078】
このとき、弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間は、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の2.55倍であった。
【0079】
この帯電部材について実施例1と同様にして、塗工膜の厚さの測定、画像耐久試験を行い、その結果を表1、2に示した。
【0080】
この場合、膜厚の上下差を2μm越えるものは、不具合の発生が多くなる傾向があることから、NGとしている。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
1.注 画像評価基準
Aを画像白ポチもしくは画像濃度ムラが全くないレベルとし、Bまでを良しとした。C、Dは、製品としては見劣りする画像問題部を多少とも有するものであるため、NGとした。更にEは画像白ポチもしくは画像濃度ムラが目立つため、不良レベルとした。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】一般的な塗工系の導電性部材の概略図である。
【図2】本発明の浸漬塗工方法で作製可能な導電性部材の層構成を示す概略図である。
【図3】本発明の浸漬塗工方法で作製可能な別の導電性部材の層構成を示す概略図である。
【図4】本発明の浸漬塗工方法においての製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 帯電ローラ
1a 導電性支持体
1b 弾性層
1c 塗工膜
2a 導電性支持体
2b 弾性層
2c 表層
2d 第1の抵抗層
2e 第2の抵抗層
4a マスキング用キャップ
7 塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体の外周の弾性層上に塗工膜を形成する浸漬塗工方法において、前記弾性層の最下端部が塗工液に対して鉛直方向に浸漬し始めてから完全に浸漬するまでに要する時間が、前記弾性層が塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間の2倍以下となるように、前記弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間を設定したことを特徴とする浸漬塗工方法。
【請求項2】
前記塗工膜が、前記弾性層を少なくとも1回以上塗工液に浸漬し、かつ、前記弾性層の上昇速度を徐々に遅くして引き上げて形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の浸漬塗工方法。
【請求項3】
導電性支持体の外周の弾性層上に塗工膜を形成した電子写真装置用ローラにおいて、前記塗工膜の膜厚差が前記ローラの長手方向間で、2μm以下としたことを特徴とする請求項1または2に記載の浸漬塗工方法により形成された電子写真装置用ローラ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−88059(P2006−88059A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277569(P2004−277569)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】