説明

浸漬方法

【課題】プリント配線板等におけるはんだぬれ性を阻害する金属および金属合金上での表面酸化物形成を抑制するための改善された組成物および方法を提供すること。
【解決手段】無機リン酸または有機リン酸、またはこれらの塩と水からなる組成物を金属または金属合金を堆積させたプリント配線板、リードフレーム、接点などの基体に浸漬するなどによって接触させ、これらの基体のリフロー処理後における金属および金属合金上での酸化物形成を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属および金属合金の腐食を抑制するための浸漬方法および組成物を対象とする。より具体的には、本発明は、無機および有機酸を用いる、金属および金属合金の腐食を抑制するための浸漬方法および組成物を対象とする。
【背景技術】
【0002】
金属および金属合金の腐食の防止は、多くの産業において取り組み甲斐のある問題である。金属および金属合金の腐食は、腐食が電子装置における構成要素間の不完全な電気的接触を引き起こすこととなり得る電子材料産業において、特に問題となっている。鉄鋼産業も、腐食の問題に悩まされている。例えば、電気メッキスズおよびスズ合金コーティングが電子機器および他の用途、例えば、ワイヤ、および帯鋼において長年用いられている。電子機器においては、それらは、接点およびコネクタに対する、はんだ付け可能でかつ耐腐食性の表面として用いられている。それらは集積回路(「IC」)製作のリード仕上げにおいても用いられる。加えて、スズおよびスズ合金の簿層は受動部品、例えば、キャパシタおよびトランジスタのための最終工程として適用される。
【0003】
用途は様々であるが、この最終表面仕上げの要件に関し幾つかの共通点が存在する。問題点の1つは、長期間のはんだぬれ性であり、はんだぬれ性は、電気的または機械的接続を損なう欠陥なしに溶融して他の構成要素への良好なはんだ接合を形成する表面仕上げの能力として定義される。はんだ付けは、基本的には、3つの材料:(1)基体、(2)その基体に接着することが望まれる構成要素または他の装置、および(3)はんだ付け材料それ自体、を通常含む接着手順である。はんだ付け材料それ自体は、スズまたはスズ合金である。基体または構成要素/装置は他の金属で作製されていてもよい。
【0004】
良好なはんだぬれ性を決定する因子は数多く存在し、それらのうちの3つの最も重要なものが、表面酸化物形成(腐食)の程度、共析出炭素の量、および金属間化合物形成の程度である。表面酸化物形成は、それが熱力学的に有利であるため、自然に発生する作用である。表面酸化物の形成の速度は、温度および時間に依存する。温度がより高いほど、および露出時間がより長いほど、形成される表面酸化物はより厚くなる。電気メッキされたスズまたはスズ合金のコーティングまたは堆積物においては、表面酸化物形成はそのコーティングまたは堆積物の表面形態にも依存する。例えば、純粋なスズをスズ合金コーティングと比較した場合、スズ合金が形成する表面酸化物は、一般には、他の全ての条件が等しい場合、より少ないか、またはより薄い。
【0005】
共析出炭素は、用いるために選択したメッキ化学によって決定される。光沢仕上げはつや消し仕上げよりも炭素含量がより高い。つや消し仕上げは、通常、光沢仕上げよりも粗く、表面積の増加をもたらし、これは、典型的には、光沢仕上げで形成されるものよりも多い表面酸化物の形成を生じる。
【0006】
金属間化合物形成は、スズまたはスズ合金コーティングと基体との化学反応である。形成の速度は、同じく温度および時間に依存する。より高い温度およびより長い時間は、金属間化合物のより厚い層をもたらす。
【0007】
はんだぬれ性を確保するには、1)表面酸化物または金属間化合物の形成が層全体を消費しないように十分なスズまたはスズ合金の層を堆積させ、および2)スズメッキした表面の高温への長時間の暴露を防止するか、または最小限に留めることが重要である。
【0008】
1)を達成することは比較的容易であるが、2)を達成することは困難である。スズまたはスズ合金堆積物のメッキの後に続く後処理の温度および時間は、典型的には、組立仕様並びに既存の製造の設計および実行によって決定される。例えば、「ツートン」リードフレーム技術においては、スズまたはスズ合金のメッキの後にパッケージ全体を、175℃もの高さの温度での複数の熱的軌跡を必要とする多くの処理工程(すなわち、そのような処理のための長い期間)にかける。必然的に、より多く、かつより厚い表面酸化物が形成され、これは、言い換えれば、スズまたはスズ合金堆積物のはんだぬれ性を低下させる。現行の処理においては、これらのさらなる工程は、省略すると最終構成要素および組立体が完成しなくなってしまうため、省略することができない。したがって、そのような部品上での表面酸化物形成を防止または最小限に抑える方法を見出すことが望ましい。
【0009】
この表面酸化物の問題に対処する方法の1つは、スズまたはスズ合金堆積物の表面上に絶縁保護コーティングを導入することである。この技術は2つの一般的な範疇にまとめることができる。一方は貴金属コーティングの適用であり、他方は有機コーティングの適用である。第1の範疇は、高価で余分な工程が導入されるため、スズまたはスズ合金堆積物の保護に望ましいものではない。第2の範疇も、堆積させる有機コーティングの非選択的な性質のために、リードフレームまたは電気的構成要素の他の重要な領域に不純物を導入する可能性があるため、望ましいものではない。かかる不純物は、続くリードフレームおよびIC組立工程に弊害をもたらす。
【0010】
Zhangらの米国特許出願公開第2004/0099340号(国際公開第WO2004/050959号)は、堆積物中に微量のリンを組み入れることによって、金属および金属合金の堆積物上の表面酸化物の問題へ対処しようと試みている。Zhangらは、堆積物中へのリンの組み入れが、その堆積物上での表面酸化物の形成を減少させると主張する。リン化合物は金属および金属合金電気メッキ浴に含められ、金属または金属合金と共に共堆積される。好ましいリン源は、次亜リン酸塩、例えば、NaHPOである。かかる方法の不利な点は、浴中への次亜リン酸塩の含有である。浴に添加される成分が多くなるほど、浴中での望ましくない相互作用が多くなるものと思われる。次亜リン酸塩は他の官能性添加物と相互作用し得る、これは堆積物の粒子サイズ、結晶方向、延性、硬度、および導電性を損ない得る。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0099340号明細書
【特許文献1】国際公開第WO2004/050959号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属および金属合金堆積物上の表面酸化物の問題に対処する方法および組成物は存在するものの、金属および金属合金上での表面酸化物形成を抑制するための改善された組成物および方法に対する需要が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
金属および金属合金上での酸化物形成を抑制する量の1種類以上のリン酸またはそれらの塩、および水を含んでなる組成物が提供される。金属および金属合金上での酸化物形成の抑制に加えて、これらの組成物は、引き続くはんだ付けに適する粒子構造を提供する。酸化物形成は、装置の性能を損なう電気装置内の金属構成要素の電気的異常を生じさせる可能性があるため、望ましくない。加えて、当該組成物は、それらが処理する金属および金属合金を汚染することがない。
【0013】
別の態様においては、これらの組成物は、金属または金属合金上での酸化物形成を抑制するのに十分な量の1種類以上の無機リン酸またはそれらの塩、並びに1種類以上の有機リン酸およびそれらの塩、並びに水からなる。
【0014】
さらなる態様において、方法は、金属または金属合金を、それらの金属または金属合金上での酸化物形成を抑制する1種類以上のリン酸またはそれらの塩を含有する組成物と接触させることを含む。
【0015】
さらなる態様において、方法は、1種類以上の金属または金属合金を基体上に堆積させ;該1種類以上の金属または金属合金を、1種類以上のリン酸またはそれらの塩を含有する組成物と接触させ;および該1種類以上の金属または金属合金をリフローすることを含む。この方法は金属および金属合金上での酸化物の形成を抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この実施形態を通して用いられる場合、文脈が明瞭に他の意味を示さない限り、以下の略語は以下の意味を有する:℃=摂氏度;g=グラム;L=リットル;mL=ミリリットル;ASD=アンペア/dm;sec.=秒;μm=ミクロン;min.=分;wt%=重量パーセント;v/v=体積対体積;およびDI=脱イオンされている。「堆積する」および「メッキする」という用語は本明細書を通して交換可能に用いられる。
【0017】
組成物は1種類以上のリン酸またはそれらの塩、および水を含んでなる。組成物は金属および金属合金の腐食を抑制し、引き続くはんだ付けのため、金属および金属合金の表面上に安定な粒子構造を提供する。かかる腐食は金属および金属合金上に形成される酸化物の形態をしている。典型的にそれは、金属および金属合金の表面上に形成され、変色によって識別可能である。加えて、これらの組成物は、それらが金属および金属合金に適用されるとき、金属および金属合金を汚染することがない。
【0018】
金属および金属合金上での酸化物形成を抑制する任意の好適なリン酸またはそれらの塩およびそれらの混合物を用いることができる。かかるリン酸には、無機リン酸、例えば、リン酸(HPO)、別名オルトリン酸、およびポリリン酸が含まれる。無機リン酸は式:Hn+23n+1(式中、nは1以上の整数である)によって表すことができる。nが2以上の整数であるとき、この式はポリリン酸を表す。無機リン酸がポリリン酸であるとき、典型的には、nは、そのポリリン酸が110〜1,500の原子量単位の平均分子量を有するような整数である。
【0019】
リン酸の塩、例えば、リン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムを用いることができる。これらの塩には、二塩基性リン酸ナトリウム、三塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸カリウムおよび三塩基性リン酸カリウムが含まれる。ポリリン酸の塩も用いることができる。無機リン酸およびそれらの塩の混合物を組成物に含めることもできる。そのような酸は商業的に入手可能であり、または文献に記載される方法に従って作ることができる。
【0020】
無機リン酸およびそれらの塩は金属および金属合金上での酸化物の形成を抑制する量で組成物に含まれる。例えば、無機リン酸およびそれらの塩は0.1gm/L〜1500gm/L、または、例えば、0.5gm/L〜1000gm/L、または、例えば、1gm/L〜500gm/L、または、例えば、10gm/L〜100gm/L、または、例えば、20gm/L〜50gm/Lの量で組成物に含めることができる。
【0021】
無機リン酸に加えて、有機リン酸を用いることもできる。1種類以上の有機リン酸およびそれらの塩を組成物に含めることができる。そのようなリン酸の例には、アルキルリン酸、例えば、(C−C20)アルキルリン酸、ヒドロキシアルキルジホスホリックアシッドおよびそれらの塩、ヒドロキシアルキレンリン酸およびそれらの塩、ヘキサアルキレンジアミノ−テトラ(アルキレン−リン酸)およびそれらの塩、並びにアミノトリス(アルキレン−リン酸)およびそれらの塩、並びにホスホロカルボン酸およびそれらの塩が含まれる。そのようなリン酸は商業的に入手可能であり、または文献に記載される方法に従って作ることができる。
【0022】
好適なアルキルリン酸の例には、n−ヘキシルリン酸、n−テトラデシルリン酸、n−オクチルリン酸、n−デシルリン酸、n−ドデシルリン酸、n−オクタデシルリン酸、n−ヘキサデシルリン酸、メタンジホスホリックアシッド、1,2−エタンジホスホリックアシッド、および1,3−プロパンジホスホリックアシッドが含まれる。好適なヒドロキシアルキルジホスホリックアシッドの例は、ヒドロキシエタンジホスホリックアシッド、ヒドロキシメチルジホスホリックアシッドおよびヒドロキシエチルジホスホリックアシッド(HEDP)である。好適なヒドロキシアルキレンジアミノテトラ(アルキレン−リン酸)の例はヘキサメチレンジアミノ−テトラ(メチレン−リン酸)である。アミノトリス(アルキレン−リン酸)の例はアミノトリス(メチレン−リン酸)である。ホスホロカルボン酸の例には、ホスホロ酢酸、2−ホスホロプロピオン酸、2−ヒドロキシ−ホスホロ酢酸、2−ヒドロキシ−2−メチルホスホロ酢酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルホスホロ酢酸、3−ホスホロ−3−ヒドロキシ酪酸、2−ホスホロエタン−1,2−ジカルボン酸、2−ホスホロ−ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−アミノ−ホスホロ酢酸、2−アミノ−2−メチルホスホロ酢酸、およびホスホロメチルイミノ二酢酸が含まれる。
【0023】
他の好適な有機リン酸の例には、メチルアミノビス−メチレンリン酸、ホスホロメチルグリシン、ビス−ホスホロメチルグリシン、1−アミノエチル−1,1−ジホスホリックアシッド、ヘキサメチレンジアミンテトラキス(メチレンリン酸)、ジエチレントリアミンテトラ(メチレンリン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンリン酸)、ビス−ヘキサメチレントリアミンペンタキス(メチレンリン酸)、およびそれらの塩が含まれる。
【0024】
典型的には、アミノトリス(メチレン−リン酸)が有機リン酸、例えば、アミノトリス(メチレン−リン酸)として用いられる。これはDEQUEST(登録商標)2000およびDEQUEST(登録商標)2006(ドイツ、Brenntagから入手可能)として商業的に入手可能である。
【0025】
有機リン酸およびそれらの塩は0.005gm/L〜1gm/L、または、例えば、0.01gm/L〜0.5gm/L、または、例えば、0.1gm/L〜0.25gm/Lの量で組成物に含まれる。
【0026】
任意に、亜リン酸(HPO)を配合物に含めることができる。亜リン酸は0.1g/L〜1g/Lの量で含めることができる。
【0027】
これらの組成物は水性であり、金属および金属合金上での酸化物の形成を抑制するために金属および金属合金に適用される。組成物のpHは1〜6、または、例えば、2〜4である。これらの組成物は、任意の金属および金属合金上に適用することができ、酸化物形成を抑制することができる。かかる金属の例には、スズ、銅、ニッケル、銀およびそれらの合金が含まれる。典型的には、これらの組成物は、スズおよびその合金上での酸化物形成の抑制に用いられる。スズ合金の例には、スズ/鉛、スズ/銅、スズ/銀、スズ/銀/銅、スズ/ニッケル、スズ/ビスマス、およびスズ/金が含まれる。より典型的には、それらはスズおよびスズ/鉛上での酸化物形成を抑制するのに用いられる。最も典型的には、それらはスズ上での酸化物形成を抑制するのに用いられる。
【0028】
これらの組成物は、金属および金属合金に、金属および金属合金が基体上に堆積された後の任意の時期に適用することができる。典型的には、それらは、金属または金属合金をメッキした直後に、後処理工程として適用される。これらの組成物の酸化抑制作用は後処理の数日後まで持続することができ、金属または金属合金がリフローされるときも依然として有効である。したがって、処理された金属または金属合金は保存または輸送することができ、後にリフローすることができ、依然として酸化を抑制することができる。
【0029】
スズはリフローの後に酸化スズ(SnO)を形成することがある。これは、スズ表面が変色するので、リフロー工程後の配置されたスズ上で目立つ。リフロースズの酸素への暴露がより長期であるほど、および温度がより高いほど、変色はより目立つ。典型的には、変色はスズの表面上に黄色がかった色として観察される。酸化がより深刻な場合においては、スズはリフロー後に褐色および紫色に見える場合がある。スズの酸化は、スズがメッキされている電子装置、例えば、プリント配線板およびリードフレームにおいて、乏しい導電性またはショートを生じ得る。加えて、スズまたはスズ合金表面上での酸化の存在は、そのスズまたはスズ合金の引き続くはんだ付け処理を損なわせる。不完全なはんだ付けは、電子装置の作動不良をもたらす、はんだ付けしたパーツの分離を生じる可能性があり得る。これらの組成物は望ましくない酸化を抑制し、スズの表面上に安定な粒子構造をもたらし、かつスズの表面を汚染することがない。
【0030】
これらの組成物は当該技術分野におけ任意の好適な方法によって金属および金属合金に適用することができる。例えば、組成物を金属および金属合金上に噴霧することができ、または金属および金属合金を組成物中に浸漬することができる。典型的には、金属および金属合金は組成物中に浸漬される。一般には、組成物は18℃〜60℃、または、例えば、20℃〜50℃、または、例えば、25℃〜40℃の温度である。
【0031】
金属および金属合金を酸化物抑制組成物に暴露する時間は変化し得る。典型的には、それに続く任意の処理工程の前に、金属および金属合金を組成物と少なくとも5秒間接触させる。より典型的には、金属および金属合金を組成物と5秒〜60秒、または、例えば、10秒〜30秒接触させる。その後、任意に、金属および金属合金を水ですすいで過剰の酸化物抑制組成物を除去してもよい。
【0032】
この処理およびすすぎ工程に続いてリフロー処理を行うことができる。任意の好適なリフロー処理を用いることができる。リフローは、加熱により、または気相リフロー、レーザーリフロー、プラズマ、オーブン溶融、並びに金属および金属合金を通して電流を流すことにより、または金属および金属合金をそれらの液化温度を上回って加熱する任意の他の方法によるものであり得る。
【0033】
組成物は任意の好適な金属堆積処理、例えば、電解金属堆積または無電解金属堆積で用いることができる。組成物は、電解でまたは無電解で堆積した金属により作製される任意の物品の製造において用いられる金属および金属合金の酸化の抑制に用いることができる。そのような物品の例には、プリント配線板、コネクタ、受動部品、ウェハ上のバンプおよびリードフレームが含まれる。
【0034】
一態様において、基体、例えば、プリント配線板、コネクタまたはリードフレームを、任意に、メタライゼーションに先立って洗浄してもよい。メタライゼーション技術分野において許容可能である任意の好適な洗浄処理を用いることができる。典型的には、基体を好適な溶液中で超音波洗浄する。かかる洗浄溶液は、ケイ酸塩化合物、アルカリ金属炭酸塩並びに他の成分、例えば、アルカリ金属水酸化物、グリコールエーテルおよび1種類以上のキレート剤を含むことができる。
【0035】
任意に、洗浄工程に続いて、基体を好適な酸、例えば、鉱酸で活性化することができる。そのような酸の一例は硫酸である。しかしながら、他の鉱酸を用いることもできる。これらの酸は当該技術分野においてよく知られている通常の濃度で用いられる。
【0036】
次に、基体を金属、例えば、スズ、銅、ニッケル、銀もしくはそれらの合金でメッキすることができ、または、例えば、スズをニッケル上に、もしくはスズを銅上にメッキすることができる。任意の好適な金属または金属合金メッキ浴を用いることができる。例えば、典型的なスズメッキ浴は、1種類以上の水溶性スズ塩、例えば、硫酸スズ、アルキルスルホン酸スズ、例えば、スルホン酸スズ、アルカノールスルホン酸スズ、およびハロゲン化スズ、例えば、塩化スズを含むことができる。浴は、電気伝導性マトリックスを提供するため、電解質、例えば、硫酸、アルキルスルホン酸塩、アルカノールスルホン酸塩およびハロゲン化物塩を含んでいてもよい。界面活性剤並びに他の通常の添加物を含ませて所望のスズ層をもたらすこともできる。これらの成分の量は慣習的であって当該技術分野においてよく知られており、文献から得ることができる。米国特許第5,174,887号および米国特許第5,871,631号が好適なスズ電気メッキ浴を開示する。米国特許4,880,507号および米国特許第4,994,155号は適切なスズ/鉛メッキ浴を開示する。
【0037】
好適な銅電気分解浴は、1種類以上の水溶性銅塩、例えば、硫酸銅五水和物、浴中に導電性をもたらす硫酸マトリックス、塩化ナトリウムもしくは塩化水素からの塩素イオン、レベリング剤、坦体、光沢剤および他の添加物、例えば、所望の銅金属層をもたらす表面活性剤を含むことができる。かかる成分の量は慣習的であり、当該技術分野および文献においてよく知られている。米国特許第6,652,731号が電気分解析出に適切な銅金属電解液を開示する。
【0038】
任意の好適なニッケル浴を用いることができる。ニッケル浴は、1種類以上の水溶性ニッケル塩、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル六水和物、およびスルファミン酸ニッケル四水和物を含むことができる。1種類以上の酸、例えば、ホウ酸およびアスコルビン酸を含めることができる。加えて、1種類以上の通常の添加物を含めて所望のニッケル層を提供することができる。これらの成分の量は慣例的であって当該技術分野においてよく知られており、または文献から得ることができる。適切なニッケル電気メッキ溶液の一例が米国特許第6,858,122号に開示されている。
【0039】
金属は、メッキする金属または金属合金に応じて、任意の好適な温度および電流密度で堆積させることができる。一般には、浴温度は15℃〜40℃、または、例えば、25℃〜30℃の範囲をとる。電流密度は、典型的には、1ASD〜35ASD、または、例えば、5ASD〜30ASD、または、例えば、10ASD〜20ASDである。しかしながら、スズ、銅、ニッケルまたはそれらの合金のメッキに用いられる任意の通常の電流密度を用いることができる。好適な電流密度は文献に開示されている。
【0040】
金属または金属合金を基体上に堆積させた後、それらを上述の酸化物抑制組成物を用いるメタライゼーション後処理に処する。次いで、処理された金属または金属合金を上述の方法のうちの1つによってリフローすることができる。リフローの後、金属または金属合金メッキ基体を望む通りにさらに処理することができる。
【実施例】
【0041】
実施例1(比較)
12個の真鍮コネクタを、65℃で30秒間、ケイ酸塩含有洗浄組成物である100g/LのRONACLEAN(商標)GP−300LF(SE)(Rohm and Haas Electronic Materials L.L.C.、米国マサチューセッツ州マールボロから入手)を含有する洗浄溶液中で超音波洗浄した。
【0042】
洗浄後、各々の真鍮コネクタを洗浄溶液から取り出し、工業グレードの硫酸で活性化した。それらの真鍮コネクタを100mL/Lの工業グレード硫酸に室温で10秒間浸漬した。その後、各々の真鍮コネクタをニッケルメッキした。
【0043】
これら12個の真鍮コネクタを、整流器と、陽極として機能する不溶性電極とに、電通させて接合した。真鍮コネクタは陰極として機能した。陽極および12個の真鍮コネクタを電気分解ニッケルメッキ溶液に入れて回路を完成させた。ニッケルメッキ溶液は、700mL/Lのスルファミン酸ニッケル溶液(180g/L)および8g/Lの塩化ニッケル濃縮液(500g/L)を含んで115g/L〜135g/Lのニッケルイオンを含有する電気メッキ溶液をもたらす水溶液であった。
【0044】
真鍮コネクタは、ニッケルの1μm層でメッキされた。電気メッキは55℃、10ASDの電流密度で120秒間行った。次に、ニッケルメッキされた真鍮コネクタをニッケル電解液から取り出し、水ですすいだ後、スズでメッキした。
【0045】
ニッケルメッキした真鍮コネクタの各々を次いでスズ電解液に入れ、整流器と、陽極として機能する不溶性電極とに電通させて接合した。ニッケルメッキした真鍮コネクタは陰極として機能した。スズ電解液は、メタンスルホン酸スズからの60gm/Lのスズイオンおよびマトリックスとしての150mL/Lの70%メタンスルホン酸を含んでいた。スズ浴の温度は、スズ堆積の間、15℃であった。
【0046】
スズ堆積中の電流密度は10ASDであった。スズメッキは30秒間行い、2μmのスズ層が各真鍮コネクタのニッケル層上に堆積した。スズ層の外見は平滑かつ光沢であった。
【0047】
浸漬酸性酸化物抑制剤組成物の原液を、1200gmの工業グレード(85%)リン酸および100gmのアミノトリス(メチレン−リン酸)を水中で混合して、1リットル水溶液を作製することによって調製した。次に、スズメッキ後処理に用いられる20%v/v水性浸漬酸性組成物をこの保存溶液から作製した。
【0048】
対照の後処理組成物も調製した。これは、40%水酸化ナトリウム、30%炭酸ナトリウム、20%メタ珪酸ナトリウムおよび10%トリポリリン酸ナトリウムを含んでいた。これらの固体物質を、10g/L溶液を作製するのに十分な水と混合した。
【0049】
スズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタのうちの9個を20%v/v酸化物抑制剤組成物に50℃で5秒間浸漬した。次に、それらを取り出し、水ですすいだ後、100℃で熱風乾燥した。次いで、9個のスズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタの各々をリフローした。
【0050】
3個のスズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタをSikama Falcon(商標)8500伝導性/対流式オーブンに入れ、それらのスズ層をリフローした。温度プロフィールは125℃−180℃−240℃−260℃−240℃、次いで室温への冷却であった。各々のコネクタは各温度帯に30秒間留めた。リフローの後、これらのコネクタを酸化について検査した。0〜5の視覚的な基準を用いた。視認可能な酸化が観察されない場合、そのコネクタは0と評定し;深刻な変色が存在する場合、そのコネクタには5を与えた。コネクタのうちの1個はいかなる変色もなかった(0)。1個には僅かな黄色があった(1)。1個には、リフローしたスズ層の明瞭な黄色化が目立つ、深刻な変色があった(4)。
【0051】
3個のスズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタをSikama Falcon(商標)8500伝導性/対流式オーブンに入れた。それらを2回リフローしたことを除いて、第1組のコネクタと同じ温度プロフィールおよび滞留時間を用いてリフローした。次に、これら3個のコネクタを室温に冷却し、それらのスズ表面を酸化の現われついて観察した。コネクタのうちの1個は、いかなるもの視認可能なスズの酸化もなかった(0)。1個には深刻なスズの酸化があり(4)、1個は僅かな黄色を示した(1)。
【0052】
浸漬酸性組成物で処理した残りの3個のスズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタは、最初の6個と同じ伝導性/対流式オーブンに入れたが、上記温度プロフィールおよび滞留時間を用いて3回リフローした。リフロー後に3個すべてをオーブンから取り出し、室温に冷却した。コネクタのうちの1個には、いかなる表面酸化の視認可能な兆候もなかった(0)。1個は変色を示し(4)、1個は顕著ではあるが深刻ではない変色を示した(2)。
【0053】
残りの3個のコネクタは上述の対照処理溶液に浸漬した。各々のコネクタは50℃の温度で溶液中に5秒間留めた。それらを処理溶液から取り出した後、水ですすぎ、100℃で熱風乾燥した。1個は、オーブンおよび上述の滞留時間を伴う温度プロフィールを用いて、1回リフローした。上述の温度プロフィールおよび滞留時間を用いて、第2のものは2回リフローし、第3のものは3回リフローした。
【0054】
各々の対照コネクタをリフローサイクルの後にオーブンから取り出し、室温に冷却した。各コネクタの視認観察は深刻な変色を示した(4)。
【0055】
酸性浸漬組成物で処理したスズおよびニッケルメッキ真鍮コネクタの幾つかは変色を示したが、スズ酸化のいかなる視認可能な徴候もまったくないものが依然として3個存在していた。加えて、3個のコネクタは僅かな変色を示し、さらに、深刻な変色を示したものは3個のみであった。これに対し、対照の処理溶液で処理した3個の対照コネクタはすべて深刻な変色を示した。したがって、無機リン酸および有機リン酸を含有する浸漬酸性組成物は、スズ酸化の防止において対照を上回る改善を示した。
【0056】
実施例2
16個の真鍮コネクタを65℃で30秒間、ケイ酸塩含有洗浄組成物である100g/LのRONACLEAN(商標)CP−100S(Rohm and Haas Electronic Materials L.L.C.、米国マサチューセッツ州マールボロから入手)を含有する洗浄溶液中で超音波洗浄した。
【0057】
洗浄後、各々の真鍮コネクタを洗浄溶液から取り出し、工業グレードの硫酸で活性化した。次に、それらの真鍮コネクタを100mL/Lの工業グレード硫酸に室温で10秒間浸漬した。その後、各々の真鍮コネクタをニッケルメッキした。
【0058】
これら16個の真鍮コネクタを、整流器と、陽極として機能する不溶性電極とに電通させて接合した。真鍮コネクタは陰極として機能した。陽極および16個の真鍮コネクタを電解ニッケルメッキ溶液に入れて回路を完成させた。ニッケルメッキ溶液は、700mL/Lのスルファミン酸ニッケル溶液(180g/L)および8g/Lの塩化ニッケル濃縮液(500g/L)を含んで115g/L〜135g/Lのニッケルイオンを含有する電気メッキ溶液をもたらす水溶液であった。
【0059】
真鍮コネクタは、ニッケルの1μm層でメッキされた。電気メッキは55℃、10ASDの電流密度で120秒間行った。次に、ニッケルメッキされた真鍮コネクタをニッケル電解液から取り出し、水ですすいだ後、スズでメッキした。
【0060】
ニッケルメッキした真鍮コネクタの各々を次にスズ電解液浴に入れ、整流器と、陽極として機能する不溶性電極とに電通させて接合した。ニッケルメッキした真鍮コネクタは、陰極として機能した。スズ電解液浴は、メタンスルホン酸スズからの60gm/Lのスズイオンおよびマトリックスとしての150mL/Lの70%メタンスルホン酸を含んでいた。16個すべてのコネクタを、スズを用いて15℃でメッキした。
【0061】
スズ浴中のコネクタのうちの8個は10ASDの電流密度でスズメッキし、コネクタのうちの8個は15ASDの電流密度でスズメッキした。スズメッキは各々の浴において30秒間行い、各真鍮コネクタのニッケル層上に2μmの光沢スズ層を形成した。スズメッキの後、スズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタをそれらそれぞれの浴から取り出し、水ですすいだ後、室温で空気乾燥させた。
【0062】
浸漬酸性酸化物抑制剤の保存溶液を、1200gmの工業グレード(85%)リン酸および100gmのアミノトリス(メチレン−リン酸)を水中で混合して、1リットル水溶液を作製することによって調製した。この保存溶液から、スズおよびニッケルメッキした真鍮コネクタを処理するため、5%v/v、10%v/v、20%v/vおよび30%v/vの希釈溶液を作製した。
【0063】
希釈浸漬酸化物抑制組成物の各々を、10ASDでスズメッキした1個のコネクタ20℃、および15ASDでの1個のコネクタ20℃、並びに他の対を50℃で処理するために用いた。各々のスズおよびニッケルメッキしたコネクタを組成物に5秒間浸漬した。その後、それらを取り出し、100℃で熱風乾燥した。
【0064】
その後、処理したコネクタの各々を、スズ層のリフローのため、Sikama Falcon(商標)8500伝導性/対流式オーブンに入れた。温度プロフィールは125℃−180℃−240℃−260℃−240℃、次いで室温に下げ戻すものであった。コネクタは、各々の温度帯に30秒間滞留させた。リフローの後、スズ酸化物形成についてコネクタを視覚的に検査した。
【0065】
各々のコネクタの視認検査はコネクタのいずれにも深刻な変色がないことを示した。15ASDでスズを用いてメッキした8個のコネクタのうちの4個に僅かな変色が観察された。これに対し、10ASDでスズを用いてメッキしたコネクタは2個が僅かな変色を示した。したがって、これらの浸漬酸性酸化物抑制組成物は、リフロー後のスズメッキ基体上でのスズ酸化物の形成を抑制する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および金属合金上での酸化物形成を抑制する量の1種類以上のリン酸またはそれらの塩から本質的になる組成物。
【請求項2】
1種類以上のリン酸が、無機リン酸または有機リン酸を含む、請求項1の組成物。
【請求項3】
有機リン酸が、アルキルリン酸、ヒドロキシアルキルジホスホリックアシッド、ヒドロキシアルキレンリン酸、ヘキサアルキレンジアミノ−テトラ(アルキレン−リン酸)、アミノトリス(アルキレン−リン酸)、またはホスホロカルボン酸を含む、請求項2の組成物。
【請求項4】
1種類以上の無機リン酸またはそれらの塩、1種類以上の有機リン酸またはそれらの塩、および水からなる組成物。
【請求項5】
金属または金属合金を、金属および金属合金の酸化を抑制する1種類以上のリン酸またはそれらの塩を含有する組成物と接触させることを含む方法。
【請求項6】
a)1種類以上の金属または金属合金を基体上に堆積させること;
b)前記1種類以上の金属または金属合金を、1種類以上のリン酸またはそれらの塩を含有する組成物と接触させること;および
c)前記1種類以上の金属または金属合金をリフローすること、
を含む方法。
【請求項7】
1種類以上の金属または金属合金を基体上に電解で堆積させる、請求項6の方法。
【請求項8】
金属がスズであるか、または金属合金がスズ合金である、請求項6の方法。
【請求項9】
基体がプリント配線板、リードフレームまたはコネクタである請求項6の方法。

【公開番号】特開2006−307343(P2006−307343A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−115320(P2006−115320)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(596156668)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (31)
【住所又は居所原語表記】455 Forest Street,Marlborough,MA 01752 U.S.A
【Fターム(参考)】