説明

浸炭処理装置

【課題】 COガスと水素ガスとを主成分とするキャリアガスと、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスとを浸炭処理室内に供給して、処理材を浸炭処理する場合に、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのを簡単な設備により適切に抑制する。
【解決手段】 COガスと水素ガスとを主成分とするキャリアガスと、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスとを浸炭処理室3内に供給して処理材Aを浸炭処理するにあたり、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスや水素ガスのガス濃度に応じて、水素ガス分離除去装置20により浸炭処理室内に供給する上記のキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスと、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスとを浸炭処理室内に供給して、鋼材部品等の処理材を浸炭処理する浸炭処理装置に関するものである。特に、上記の浸炭処理装置において処理材を浸炭処理するにあたり、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのを、簡単な設備により適切に抑制し、雰囲気ガス中におけるCOガスが適切な濃度で維持されるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から低炭素鋼や低合金鋼等の鋼材部品からなる処理材の強度を高めるため、これらの処理材の表面から炭素を内部に拡散浸透させる浸炭処理が行われている。
【0003】
そして、このように鋼材部品等の処理材を浸炭処理するにあたっては、従来から様々な浸炭処理装置が使用されている。
【0004】
ここで、例えば、図1に示す浸炭処理装置においては、第1扉1aを開けて処理材Aを導入室2内に導き、上記の第1扉1aを閉めて導入室2内の雰囲気を調整した後、このように導入室2内に導かれた処理材Aを、第2扉1bを開けて浸炭処理室3内に導入させ、上記の第2扉1bを閉じるようにしている。
【0005】
次いで、このように浸炭処理室3内に処理材Aを導入させた状態で、この浸炭処理室3内に、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを流量調整弁4aにより流量を調整しながらキャリアガス供給パイプ4を通して導くと共に、プロパンガスやブタンガス等の炭化水素ガスC2n+2を主成分とするエンリッチガスを流量調整弁5aにより流量を調整しながらエンリッチガス供給パイプ5を通して導くようにしている。
【0006】
そして、このようにキャリアガスとエンリッチガスとが供給された浸炭処理室3内において、上記のキャリアガスとエンリッチガスとを攪拌ファン6により攪拌させると共に、浸炭処理室3内に導かれた上記の処理材Aを加熱させて、処理材Aの表面に炭素を付与し、このように処理材Aの表面に付与された炭素を処理材Aの内部に拡散させて浸炭させるようにしている。
【0007】
ここで、上記のキャリアガスとエンリッチガスとが供給された浸炭処理室3内において処理材Aに炭素を付与して浸炭させる場合、一般に、2CO→CO2+(C)、C2n+2+nCO2→2nCO+(n+1)H2の反応が生じて、浸炭処理室3内に水素ガスが発生し、このように発生した水素ガスにより浸炭処理室3内のCOガス濃度が相対的に減少し、カーボンポテンシャルによる浸炭雰囲気の制御に狂いが生じるという問題があった。
【0008】
このため、従来においては、特許文献1等に示されるように、キャリアガス供給パイプ4を通して浸炭処理室3内に過剰のキャリアガスを供給し、浸炭処理室3内において発生した水素ガスを上記のキャリアガスと一緒に、浸炭処理室3と導入室2との間における上記の第2扉1bの隙間等を通して導入室2内に導き、このように導入室2内に導かれたガスを導入室2に設けた排気路2aに導いて燃焼させることが行われている。
【0009】
しかし、このようにCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを過剰に浸炭処理室3内に供給するため、ランニングコストが高くつくと共に、上記のように導入室2内に導かれたガスを排気路2aに導いて燃焼させた場合、CO2ガスが多く発生して環境を害するという問題があった。
【0010】
このため、本出願人は、先の出願である特許文献2において、図2に示すように、浸炭処理室3内における雰囲気ガスをポンプ7aにより浸炭処理室3内から取り出して循環させる循環路7を設けると共に、この循環路7に導かれた雰囲気ガスを冷却させる冷却装置7bと、冷却装置7bにより冷却された雰囲気ガス中に含まれる水素ガスを分離させて取り出す水素ガス分離装置7cを設け、この水素ガス分離装置7cにより雰囲気ガス中に含まれる水素ガスを分離させて取り出し、水素が取り出された後の雰囲気ガスを、上記の循環路7を通して浸炭処理室3内に戻し、浸炭処理室3内のCOガス濃度が相対的に減少するのを防止することを提案した。
【0011】
しかし、特許文献2に示されるようにした場合、上記のように浸炭処理室3内における雰囲気ガスを循環路7を通して循環させるためのポンプ7aや、雰囲気ガスを水素ガス分離装置7cに導く前に雰囲気ガスを冷却させるための冷却装置7bが必要になると共に、冷却されて水素が取り出された後の雰囲気ガスを浸炭処理室3内に戻す場合に、この雰囲気ガスを加熱させる必要が生じ、設備コストやランニングコストが高くつくという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−214255号公報
【特許文献2】特開2009−179816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスと、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスとを浸炭処理室内に供給して、鋼材部品等の処理材を浸炭処理する浸炭処理装置における上記のような様々な問題を解決することを課題とするものである。
【0014】
すなわち、この発明は、上記のような浸炭処理装置において、浸炭処理室内に供給するキャリアガスの量を減少させて、キャリアガスの燃焼に伴うCO2ガスの発生を抑制させるにあたり、設備コストやランニングコストが高くつくことなく、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのを、簡単な設備により適切に抑制し、雰囲気ガス中におけるCOガスが適切な濃度で維持されるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明においては、上記のような課題を解決するため、処理材を浸炭処理させる浸炭処理室と、この浸炭処理室内にCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスを供給するエンリッチガス供給手段とを備えた浸炭処理装置において、上記のキャリアガス供給手段に、キャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する水素ガス分離除去装置を設けると共に、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度に応じて、上記の水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御するようにした。
【0016】
このように、キャリアガス供給手段に、キャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する水素ガス分離除去装置を設けると共に、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度に応じて、上記の水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御すると、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのが抑制され、雰囲気ガス中におけるCOガスが適切な濃度で維持されるようになる。
【0017】
ここで、上記の水素ガス分離除去装置において、キャリアガスから水素ガスを分離させるのに、例えば、水素ガスを選択的に透過させる水素透過フィルタを用いることができる。
【0018】
また、上記のようにキャリアガス供給手段に、キャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する水素ガス分離除去装置を設け、このキャリアガス供給手段から浸炭処理室内にキャリアガスを供給させるにあたっては、キャリアガスをそのまま浸炭処理室に導く第1供給路と、キャリアガスを水素ガス分離除去装置を通して浸炭処理室に導く第2供給路とを設けるようにすることができる。
【0019】
そして、上記のように浸炭処理室内における雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度に応じて、上記の水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御するにあたっては、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度を検出するガス濃度検出装置を設け、このガス濃度検出装置によって検出されたガス濃度に基づき、水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御装置によって制御させることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明における浸炭処理装置においては、上記のように浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度に応じて、上記の水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御し、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのを抑制して、雰囲気ガス中におけるCOガスが適切な濃度で維持されるようにしたため、従来のように浸炭処理時に発生した水素ガスを浸炭処理室内から排出させるために、過剰のキャリアガスを浸炭処理室内に供給する必要がなくなり、ランニングコストが低減されると共に、排気路に導いて燃焼させる水素ガスを含む雰囲気ガスの量を大幅に少なくすることができ、CO2ガスが多く発生して環境を害するということも抑制される。
【0021】
また、この発明における浸炭処理装置においては、キャリアガス供給手段によって浸炭処理室内にCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを供給するにあたり、上記のようにキャリアガス中における水素ガスを水素ガス分離除去装置によりキャリアガスから分離させて除去し、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのを抑制するようにしたため、前記の特許文献2に示されるように、浸炭処理室内における雰囲気ガスを循環路を通して循環させるためのポンプや、雰囲気ガスを水素ガス分離装置に導く前に雰囲気ガスを冷却させるための冷却装置等を設ける必要がなくなると共に、冷却されて水素が取り出された後の雰囲気ガスを浸炭処理室内に戻す場合に、この雰囲気ガスを加熱させる必要もなくなる。
【0022】
この結果、この発明における浸炭処理装置においては、浸炭処理室内に供給するキャリアガスの量を減少させて、キャリアガスの燃焼に伴うCO2ガスの発生を抑制させることによって、設備コストやランニングコストが高くつくことなく、簡単な設備により、浸炭処理室内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのが適切に抑制されて、雰囲気ガス中におけるCOガスが適切な濃度で維持され、処理材に対して適切な浸炭処理が簡単に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】処理材を浸炭処理するのに使用する従来例の第1の浸炭処理装置を示した概略説明図である。
【図2】処理材を浸炭処理するのに使用する従来例の第2の浸炭処理装置を示した概略説明図である。
【図3】この発明の一実施形態に係る浸炭処理装置において、処理材を導入室内に導入させる前の状態を示した概略説明図である。
【図4】同実施形態に係る浸炭処理装置において、処理材を導入室内に導入させた状態を示した概略説明図である。
【図5】同実施形態に係る浸炭処理装置において、処理材を浸炭処理室内に導入させて浸炭処理を行うにあたり、第1供給路を通してキャリアガスをそのまま浸炭処理室内に導く状態を示した概略説明図である。
【図6】同実施形態に係る浸炭処理装置において、処理材を浸炭処理室内に導入させて浸炭処理を行うにあたり、水素ガス分離除去装置により水素ガスが分離させて除去されたキャリアガスを、第2供給路を通して浸炭処理室内に導く状態を示した概略説明図である。
【図7】上記の実施形態に係る浸炭処理装置において、水素ガス分離装置に用いた水素透過フィルタの概略斜視図である。
【図8】上記の実施形態に係る浸炭処理装置に用いた水素ガス分離装置の概略断面図である。
【図9】上記の実施形態に係る浸炭処理装置の変更例を示し、水素ガス分離除去装置に設けられた流量調整弁により、キャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する量を制御して、浸炭処理室内に導くキャリアガスにおける水素ガス濃度を変更させる例を示した概略説明図である。
【図10】上記の実施形態に係る浸炭処理装置の第2の変更例を示し、導入室や浸炭処理室内における雰囲気ガスを除去する排気管や真空ポンプ等を設けずに、導入室に排気路を設けた状態を示した概略説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態に係る浸炭処理装置を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、この発明に係る浸炭処理装置は下記の実施形態に示したものに限定されず、発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
【0025】
この実施形態における浸炭処理装置においては、図3〜図6に示すように、浸炭処理室3内にCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段10として、キャリアガス供給装置11からキャリアガスを浸炭処理室3内に導くキャリアガス供給パイプ12を設けている。
【0026】
そして、このキャリアガス供給パイプ12を、キャリアガスをそのまま浸炭処理室3に導く第1供給路12aと、キャリアガス中における水素を分離させて除去する水素ガス分離除去装置20を通してキャリアガスを浸炭処理室3に導く第2供給路12bとに分離させている。
【0027】
また、この第1供給路12aに第1流量調整弁13aを設け、この第1流量調整弁13aによりキャリアガスをそのまま浸炭処理室3に導く流量を調整するようにし、また第2供給路12bに第2流量調整弁13bを設け、この第2流量調整弁13bにより水素ガス分離除去装置20によって水素ガスが分離させて除去されたキャリアガスを浸炭処理室3に導く流量を調整するようにしている。
【0028】
また、上記の水素ガス分離除去装置20においては、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスから水素ガスを水素ガス分離装置21によって分離させ、このように分離された水素ガスを、流量調整弁22aが設けられた水素ガス案内管22を通して吸引装置23により吸引して排出させるようにしている。
【0029】
そして、上記のように第1流量調整弁13aによりキャリアガスをそのまま浸炭処理室3に導く流量を調整し、また第2流量調整弁13bにより水素ガス分離除去装置20によって水素が分離させて除去されたキャリアガスを浸炭処理室3に導く流量を調整するにあたっては、浸炭処理室3内にガス濃度検出装置14を設け、このガス濃度検出装置14により浸炭処理室3内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度を検出し、この結果を制御装置15に出力し、この制御装置15により上記の第1流量調整弁13aと第2流量調整弁13bと流量調整弁22aとを制御するようにしている。
【0030】
ここで、上記の水素ガス分離装置21として、この実施形態においては、図7に示すように、水素ガスを選択的に透過させる中空糸を用いて筒状に形成した水素透過フィルタ21aを使用し、図8(a),(b)に示すように、水素ガス分離装置21内に複数の通気穴21bが設けられた一対の保持板21cを所要間隔を介して設けると共に、この一対の保持板21c間に上記の筒状になった水素透過フィルタ21aをそれぞれ通気穴21bと連通するようにして複数設けている。
【0031】
そして、上記の第2供給路12bを通してこの水素ガス分離装置21内に導かれたCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを、筒状に形成された水素透過フィルタ21aの内部に導くと共に、上記の吸引装置23により水素透過フィルタ21aの内部に導かれたキャリアガスを水素透過フィルタ21aの周囲から吸引し、キャリアガス中に含まれる水素ガスを選択的に水素透過フィルタ21aを透過させて水素ガス案内管22に導き、この水素ガス案内管22を通して上記の水素ガスを排出させるようにしている。なお、このように水素ガス案内管22を通して排出させる水素ガスについては、これを燃焼させたり、水素ガス原料として用いたりすることができる。また、上記の水素ガス中にはCOガス等の含有量が非常に少なくなっているため、これを燃焼させた場合には、殆ど水が生じるだけであり、CO2ガス等が発生するのが防止される。
【0032】
また、この実施形態においては、浸炭処理室3内にプロパンガスやブタンガス等の炭化水素ガスC2n+2を主成分とするエンリッチガスを供給するエンリッチガス供給手段30として、エンリッチガス供給装置31から上記のエンリッチガスを浸炭処理室3内に導くエンリッチガス供給パイプ32を設けると共に、このエンリッチガス供給パイプ32に流量調整弁33を設け、この流量調整弁33によりエンリッチガス供給パイプ32を通して浸炭処理室3内に導くエンリッチガスの流量を調整するようにしている。
【0033】
そして、この実施形態における浸炭処理装置において、処理材Aを浸炭処理するにあたっては、図3に示すように、第1扉1a及び第2扉1bを閉じた状態で、浸炭処理室3に接続された排気管42bにおける開閉弁41bを開けて、この浸炭処理室3内における雰囲気ガスを真空ポンプ40により吸引して、この浸炭処理室3内を真空に近い状態にし、その後、図4に示すように、上記の第1扉1aを開けて処理材Aを導入室2内に導入させた後、この第1扉1aを閉じるようにする。
【0034】
また、このように処理材Aを導入室2内に導いた後、導入室2に接続された排気管42aにおける開閉弁41aを開け、この導入室2内における雰囲気ガスを上記の真空ポンプ40により吸引して、この導入室2内を真空に近い状態にし、この状態で、第2扉1bを開けて、導入室2内に導かれた上記の処理材Aを浸炭処理室3内に導入し、上記の第2扉1bを閉じた後、上記の浸炭処理室3に接続された排気管42bにおける開閉弁41bを閉じるようにする。
【0035】
そして、このように浸炭処理室3内に処理材Aを導入させて開閉弁41bを閉じた状態で、この浸炭処理室3内において上記の処理材Aを加熱させるようにする。
【0036】
また、図5に示すように、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを上記のキャリアガス供給装置11から第1供給路12aに設けられた第1流量調整弁13aにより調整しながら浸炭処理室3内に導くと共に、プロパンガスやブタンガス等の炭化水素ガスC2n+2を主成分とするエンリッチガスを上記のエンリッチガス供給装置31からエンリッチガス供給パイプ32に設けられた流量調整弁33により流量を調整しながら浸炭処理室3内に導くようにする。
【0037】
次いで、このように浸炭処理室3内に供給されたキャリアガスとエンリッチガスとを攪拌ファン6により浸炭処理室3内において攪拌させると共に、上記のように浸炭処理室3内において処理材Aを加熱させて、この処理材Aの表面に炭素を付与し、このように処理材Aの表面に付与された炭素を処理材Aの内部に拡散させて浸炭させる。なお、このようにして処理材Aを浸炭処理した場合、前記の反応が生じて、浸炭処理室3内において水素ガスが発生し、浸炭処理室3内の雰囲気ガス中における水素ガス濃度が高くなる一方、COガス濃度が相対的に減少する。
【0038】
このように浸炭処理室3内の雰囲気ガス中における水素ガス濃度が増加してCOガス濃度が所定濃度以下に低下した場合には、これを上記のガス濃度検出装置14により検出して上記の制御装置15に出力し、図6に示すように、この制御装置15により、上記の第1流量調整弁13aを閉じる一方、上記の第2流量調整弁13bを開き、COガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを第2供給路12bに導くようにする。
【0039】
そして、この第2供給路12bに設けられた上記の水素ガス分離除去装置20において、キャリアガスから水素ガスを水素ガス分離装置21によって分離させると共に、上記の制御装置15により流量調整弁22aを調整して、このように分離された水素ガスを吸引装置23により吸引して水素ガス案内管22を通して除去させる量を調整する一方、このように水素ガスが除去されたキャリアガスを浸炭処理室3内に導くようにする。
【0040】
このようにすると、浸炭処理室3内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのが適切に抑制されて、COガス濃度が所定の適切な濃度に維持され、処理材Aが適切に浸炭処理されるようになる。
【0041】
なお、この実施形態においては、浸炭処理を行う当初にCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを、第1供給路12aを通して浸炭処理室3内に導くようにしたが、浸炭開始当初に浸炭反応により水素ガスが多く発生するため、浸炭開始の初期段階或いは浸炭開始前から、上記の第2供給路12bを通して水素ガスが除去されたキャリアガスを浸炭処理室3内に導くようにすることもできる。
【0042】
また、この実施形態においては、キャリアガス供給装置11からキャリアガスを浸炭処理室3内に導くキャリアガス供給パイプ12を、キャリアガスをそのまま浸炭処理室3に導く第1供給路12aと、キャリアガス中における水素を分離させて除去する水素ガス分離除去装置20を通してキャリアガスを浸炭処理室3に導く第2供給路12bとに分離させ、第1供給路12aに設けられた第1流量調整弁13aと第2供給路12bに設けられた第2流量調整弁13bとを、制御装置15により制御して、浸炭処理室3内に導くキャリアガスの状態を切り換えるようにしたが、上記の水素ガス分離除去装置20によってキャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する量を制御して、浸炭処理室3内に導くキャリアガスにおける水素ガス濃度を変更させることも可能である。
【0043】
例えば、図9に示すように、キャリアガス供給装置11から分岐することなく、全量のキャリアガスを浸炭処理室3内に導くキャリアガス供給パイプ12に水素ガス分離除去装置20を設け、この水素ガス分離除去装置20において、水素ガス分離装置21によって分離された水素ガスを、吸引装置23により吸引して流量調整弁22aが設けられた水素ガス案内管22を通して排出させるにあたり、この流量調整弁22aを上記の制御装置15により制御し、水素ガス案内管22を通して排出させる水素ガスの量を調整し、これにより浸炭処理室3内に導くキャリアガスにおける水素ガス濃度を変更させるようにすることもできる。
【0044】
また、上記の実施形態の浸炭処理装置においては、導入室2や浸炭処理室3内における雰囲気ガスを除去するにあたり、上記のように導入室2と浸炭処理室3とに、それぞれ開閉弁41a,41bが設けられた排気管42a,42bを接続させ、上記の開閉弁41a,41bのよる開閉を制御して、真空ポンプ40により導入室2内及び浸炭処理室3内おける雰囲気ガスを除去させるようにしたが、導入室2や浸炭処理室3内における雰囲気ガスを除去する構成はこのようなものに限定されない。
【0045】
例えば、上記の排気管42a,42bや真空ポンプ40等を設けずに、図10に示すように、導入室2に排気路2aを設けるようにすることができる。
【0046】
そして、処理材Aを導入室2や浸炭処理室3に導入させる際に、キャリアガス供給装置11からキャリアガス供給パイプ12を通してキャリアガスを、浸炭処理室3や、この浸炭処理室3から第2扉1bの隙間や通気口(図示せず)を通して導入室2に導き、過剰のキャリアガスを上記の排気路2aを通して排出させるようにし、また図10に示すように、浸炭処理時の浸炭処理室3内における水素ガスを含む雰囲気ガスを、浸炭処理室3から第2扉1bの隙間や通気口(図示せず)を通して導入室2に導き、この雰囲気ガスを導入室2に設けた排気路2aに導いて燃焼させるようにすることができる。
【0047】
なお、このように浸炭処理時の浸炭処理室3内における水素ガスを含む雰囲気ガスを、浸炭処理室3から導入室2に設けた排気路2aに導いて燃焼させる場合においても、上記のように浸炭処理室3内の雰囲気ガス中における水素ガスの濃度が上昇するのが適切に抑制されているため、従来に比べて、キャリアガス供給装置11からキャリアガス供給パイプ12を通して供給するキャリアガスの量を大幅に減少させることができ、排気路に導いて燃焼させる水素ガスを含む雰囲気ガスの量が大幅に減少し、従来のように、CO2ガスが多く発生して環境を害するということも抑制される。
【符号の説明】
【0048】
A 処理材
1a 第1扉
1b 第2扉
2 導入室
2a 排気路
3 浸炭処理室
6 攪拌ファン
10 キャリアガス供給手段
11 キャリアガス供給装置
12 キャリアガス供給パイプ
12a 第1供給路
12b 第2供給路
13 流量調整弁
13a 第1流量調整弁
13b 第2流量調整弁
14 ガス濃度検出装置
15 制御装置
20 水素ガス分離除去装置
21 水素ガス分離装置
21a 水素透過フィルタ
21b 通気穴
21c 保持板
22 水素ガス案内管
22a 流量調整弁
23 吸引装置
30 エンリッチガス供給手段
31 エンリッチガス供給装置
32 エンリッチガス供給パイプ
33 流量調整弁
40 真空ポンプ
41a,41b 開閉弁
42a,42b 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理材を浸炭処理させる浸炭処理室と、この浸炭処理室内にCOガスと水素ガスとを主成分として含むキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、炭化水素ガスを主成分とするエンリッチガスを供給するエンリッチガス供給手段とを備えた浸炭処理装置において、上記のキャリアガス供給手段に、キャリアガス中における水素ガスを分離させて除去する水素ガス分離除去装置を設けると共に、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度に応じて、上記の水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御することを特徴とする浸炭処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載した浸炭処理装置において、上記の水素ガス分離除去装置に、水素ガスを選択的に透過させる水素透過フィルタを用いたことを特徴とする浸炭処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した浸炭処理装置において、上記のキャリアガス供給手段に、キャリアガスをそのまま浸炭処理室に導く第1供給路と、キャリアガスを水素ガス分離除去装置を通して浸炭処理室に導く第2供給路とを設けたことを特徴とする浸炭処理装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載した浸炭処理装置において、浸炭処理室内の雰囲気ガス中におけるCOガスと水素ガスとから選択される少なくとも一方のガス濃度を検出するガス濃度検出装置と、このガス濃度検出装置によって検出されたガス濃度に基づき、水素ガス分離除去装置によってキャリアガスから分離させて除去する水素ガスの量を制御する制御装置とを設けたことを特徴とする浸炭処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−193393(P2012−193393A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56057(P2011−56057)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【Fターム(参考)】