説明

消臭プラスチック成形品およびその製造方法

【課題】プラスチック成形品の基本的物性及び成形性を損なうことなく、プラスチック成形品に起因する消臭機能を発揮できるようにする。
布の劣化を抑制して経時的に安定した消臭性能を発揮できるようにする。
【解決手段】消臭プラスチック成形品1は、板状のプラスチック成形品本体2の表面に表皮材3が積層されている。表皮材3は、目付重量が50ないし600g/m2 の布4の裏面に鉄系消臭剤5を付着したものであり、その鉄系消臭剤5が付着されている裏面がプラスチック成形品本体2の表面に接合されている。この消臭プラスチック成形品1は鉄系消臭剤5が布4の表面に露出していないので、鉄系消臭剤5が直接空気にさらされないために耐久性が向上し、経時的に安定した消臭性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、消臭プラスチック成形品、特に自動車内装品に使用されるプラスチックを溶融混練した後金型内で成形した成形品に関する。以下に、自動車内装品における消臭の必要性について説明する。
【0003】
自動車が製造された直後は、内装品や接着剤などの揮発性物質が発生し、車室内に所謂新車臭が発生する。この発生成分にはホルムアルデヒド等の好ましくない成分も含まれており、除去することが好ましい。また、自動車の使用開始後においては、経年使用によって、内装品にタバコ臭、ガソリン臭、排気ガス臭などの悪臭がつき易い。
【0004】
これらの悪臭に対する対策として、車室内のVOC(Volatile organic Compound :ホルムアルデヒドやトルエンなど、常温で揮発しやすい有機化合物)を低減する取り組みが行われている。また、その他の悪臭を抑制し車室内の環境改善を目的として自動車業界では自主規格にて臭気評価、臭い試験が行われている。
【0005】
上記のように臭いの問題が注目され、特に改善が求められるものとして接着剤の成分が知られている。発明者はプラスチック成形品に起因する臭いの問題を検討した。プラスチック成形品に起因する臭いの問題は、自動車用内装品の分野で比較的着目されていない技術課題である。
【0006】
プラスチックを溶融混練した後金型内で成形した成形品は、成形品に含まれる成分が大気中に揮発し臭いの成分として官能評価にて感知される場合がある。特に各種添加剤を配合する場合、また、成形材料として再生原料を使用する場合は、臭気発生原因となりやすいことから注意が必要である。
【0007】
成形材料に脱臭剤または消臭剤を配合してブロー成形品を製造することは公知である(例えば特開平5−228988号公報)。しかし、それらの配合剤によってプラスチック成形品の物理的強度の低下、また成形性の低下を招く。また、成形材料に混合した場合、表面に露出した配合成分のみが機能するだけであって、材料に埋設された配合剤はその機能を発揮することができないので、想定した所望の機能を発揮することはできない。
【0008】
また、消臭に関連する自動車内装用基材の分野をみた場合、植物繊維と低融点生分解性樹脂と活性炭化粉末の混合材料からなる自動車内装用基材(特開2003−201659号公報)が公知である。しかし、本発明のようにプラスチックを溶融混練した後金型内で成形した成形品に適用する場合は、成形性の面で適用できない。
【0009】
他方、成形品自体若しくは内装基材に消臭剤を配合するのではなく、それらと積層する表皮材に消臭機能を付与することも、公知である。以下に文献を示す。
【0010】
光触媒と臭いを吸着する吸着剤とを混合して漉き込んだ紙状材を内装材表面に貼付または被せた自動車用脱臭構造(特開2000−175999号公報)、消臭繊維が熱的手段により基材に網目状に固着された消臭構造物(特開昭62−112556号公報)、光触媒機能を有する繊維の布を貼着したプラスチック成形品(特開2004−183116号公報)等がある。
【特許文献1】特開平5−228988号公報
【特許文献2】特開2003−201659号公報
【特許文献3】特開2000−175999号公報
【特許文献4】特開昭62−112556号公報
【特許文献5】特開2004−183116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特開2000−175999号公報において、光触媒は酸化チタンの例示があり、吸着剤はシリカゲルの例示がある。光触媒を使用する場合、光の照射を前提としており、自動車室内に配置される内装品に適用する場合には光が必ずしも照射されるとは限らず、効果を発揮する条件に制約があることは否めない。また、光の照射により樹脂の劣化を伴い、強度劣化、変色などの問題があった。従って、光に依存しない消臭製品が望まれている。また、シリカゲル等の吸着剤は脱臭すべき悪臭成分に全てに幅広く機能を期待することは困難である。
【0012】
特開昭62−112556号公報において、消臭構造物の実施例1には、鉄(III)フタロシアニンを含むレーヨン繊維からなる消臭繊維と、ポリプロピレンを鞘成分としポリエチレンを芯成分とする偏芯複合繊維からなる熱溶融繊維とを混合した不織布が記載されている。上記発明にあっては、消臭繊維と熱溶融繊維との混合を必要とするため製造工程が煩雑であるとともに網目状に固着する構造は成形品の製造方法の観点より制約が多く活用性に乏しい。また、上記発明はブロー成形等による成形品と表皮材としての消臭構造物を組み合わせる特定の関係については検討がなされていない。
【0013】
特開2004−183116号公報において、光触媒を使用する際の問題点は、特開2000−175999号の事例と同様の問題点がある。
【0014】
続いて、消脱臭法について説明する。
【0015】
消脱臭法は、(1)マスキング法、中和法、変質法(芳香系)からなる感覚的方法、(2)物理的方法、(3)微生物的方法、(4)化学的方法に大別される。化学的方法においては、化学反応の形態より中和型、縮合型、付加型、酸化型、還元型に分類され、物質の形態より無機系物質と有機系物質に大別される(社団法人 臭気対策研究協会発行「臭気の研究」28巻4号界面平成9年“消脱臭剤の特性と最近の開発動向”参照)。
【0016】
特許第3665970号「鉄(II)化合物を含む脱臭性組成物及び脱臭性樹脂組成物」の明細書には、鉄(II)化合物からなる脱臭性組成物に関し、上記組成物の適用例として、塗料組成物、インク組成物、成形用樹脂組成物が記載されている。上記発明では塗料組成物の記載がある。塗料組成物は水性スラリー液を紙や不織布、織布、繊維製品に含浸させ乾燥することにより消臭製品が得られる。ここで含浸させる背景には色を均一に塗布することを前提としているからであり、当然のことながら塗料組成物は、水酸化マグネシウム等の顔料を成分として含有する。本発明は、実質的に顔料を含んでおらず塗料組成物ではなく、また含浸の手段を使用せず噴霧の手段を使用する。
【0017】
一般的に車室内で使用する消臭スプレーは、界面活性剤や植物性抽出物などを使用した所謂感覚的消臭方法に分類されるものである。少なくとも上記のような(II)化合物を含む脱臭性組成物をプラスチック成形品に応用する開発は進んでいないのが現状である。
【0018】
本発明は、プラスチック成形品の基本的物性及び成形性を損なうことなく、プラスチック成形品に起因する臭気の消臭機能を有する消臭プラスチック成形品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の消臭プラスチック成形品は、熱可塑性樹脂からなるプラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品において、前記表皮材が目付重量が50ないし600g/m2 の布からなり、前記布には2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤が担持されていることを特徴とする。
【0020】
他の消臭プラスチック成形品は、プラスチック成形品の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品において、前記表皮材が目付け重量が50ないし600g/m2 の布からなり、前記布を構成する繊維はSP値が9.5以上であり、かつ繊維表面に顔料を含まない実質的に無色の2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤が担持されており、前記プラスチック成形品はSP値が9.5未満であり、メルトテンションが1gf以上でメルトフローレイトが2g/10分以下の熱可塑性樹脂にて構成されていることを特徴とする。
【0021】
また、前記鉄系消臭剤は、前記布の裏面に沿って付着されており、前記鉄系消臭剤に含有された前記2価の鉄化合物が0.1mmol/m2 以上の割合で付着されているもの、あるいは、前記鉄系消臭剤が前記布の表面に露出していないものとする。
【0022】
本発明の消臭プラスチック成形品の製造方法は、目付重量が50ないし600g/m2 の布の裏面に沿って2価の鉄化合物を含有する水性スラリーからなる鉄系消臭剤を塗布して乾燥させることにより前記布の裏面に鉄系消臭剤を付着させる工程と、前記布をその表面を型開きされた分割型の一方のキャビティ面に対向させて配置したのち、前記分割型を型締めしてプラスチック成形品本体を溶融した熱可塑性樹脂より成形することにより、前記布の裏面と前記プラスチック成形品本体の表面との間に前記鉄系消臭剤が介在された、前記プラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品を製造することを特徴とする。
【0023】
また、他の消臭プラスチック成形品の製造方法は、目付重量が50ないし600g/m2 の布の裏面に沿って2価の鉄化合物を含有する水性スラリーからなる鉄系消臭剤を塗布して乾燥させることにより前記布の裏面に前記鉄系消臭剤を付着させる工程と、前記布をその表面を型開きされた分割型の一方のキャビティ面に対向させて配置したのち熱可塑性樹脂からなる溶融パリソンを配置し、ついで型締めして前記溶融パリソン内に加圧流体を導入してプラスチック成形品本体をブロー成形することによって、前記布の裏面と前記プラスチック成形品本体の表面との間に前記鉄系消臭剤が介在された、前記プラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品を製造する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上述のとおり構成されているので次に記載するような効果を奏する。
【0025】
プラスチック成形品の基本的物性及び成形性を損なうことなく、プラスチック成形品に起因する臭気の消臭機能を有し、鉄系消臭剤の耐離脱性に優れ、かつ長期にわたり消臭機能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施の形態による消臭プラスチック成形品の模式斜視図である。
【0028】
消臭プラスチック成形品1は、熱可塑性樹脂からなるプラスチック成形品本体2の表面に表皮材3が積層されている。表皮材3は、目付重量が50ないし600g/m2 の布4からなり、布4の裏面に2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤5を付着したものであり、その鉄系消臭剤5が付着されている裏面をプラスチック成形品本体2の表面に対向させて接合されている。
【0029】
図2は、消臭プラスチック成形品の製造方法の一実施の形態を示し、(a)は型開きされた分割型間に表皮材とパリソンを配置した状態を示す説明図、(b)は型締めした分割型によってパリソンを挟持した状態を示す説明図である。
【0030】
(1)図2の(a)に示すように、型開きした一方の分割型11および他方の分割型12との間に布4をその表面を一方の分割型11のキャビティ面11aに対向させて配置する。
【0031】
(2)上記(1)の工程ののち、押出機の押出ヘッド10より溶融したパリソン13を押し出して布4の裏面と他方の分割型12との間に配置する。
【0032】
(3)上記(2)の工程ののち、型締めを行い一方の分割型11および他方の分割型12のピンチオフ部11b、12bの間でパリソン13を挟持する。
【0033】
(4)上記(3)の工程ののち、パリソン13内へ図示しない吹込手段を介して加圧流体を導入し、加圧流体の内圧によってパリソン13をキャビティ面11aに配置された布4と他方の分割型12のキャビティ面12aにならう形状に膨張させる。
【0034】
(5)上記(4)の工程ののち、冷却したのち型開きを行って消臭プラスチック成形品を取り出す。
【0035】
本発明は、2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤(鉄系消臭組成物)を布の裏面とプラスチック成形品本体の表面との間に介在させ、鉄系消臭剤が布の表面に実質的に露出しないものとすることにより、継続的に安定した消臭性能を発揮することができる消臭プラスチック成形品を得るものである。
【0036】
表皮材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維からなる布であり、織物、編み物、不織布などから選択することができる。特に、消臭プラスチック成形品の用途が自動車用内装材の場合は、紫外線を遮断しかつ通気性を良好とする観点から目付重量が50〜600g/m2 の不織布が好ましい。目付重量が50g/m2 より小さいと成形品本体外面の凹凸が、微細なものまで表面に反映されるため外観が損なわれる可能性が高くなり、逆に600g/m2 より大きいと立体形状再現性に劣り、所望の立体形状の表皮付成形品を得ることができない。
【0037】
繊維に鉄系消臭剤を担持させる方法は、表面付着、含浸、溶融混練等の手段を用いることができ、特に限定されるのもではないが、消臭の活性を高めるため、好ましくは樹脂エマルジョンをバインダーとして含む水性スラリー液と用いスプレードライ、ディッピング、塗付等で繊維表面に付着させる方法を用いる。この場合、好ましくはポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン等のSP値9.5以上の繊維を用いる。
【0038】
SP値とは溶解度パラメーターであり凝集エネルギー密度(cal/cm3 )の平方根として求められる。
【0039】
SP値9.5以上の繊維を用いることにより、消臭剤組成物の繊維への付着性が良好となり製品の耐久性を高めることができる。
【0040】
プラスチック成形品本体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のSP値が9.5未満の樹脂を用いることが好ましい。SP値が9.5未満の樹脂の樹脂を用いることにより、成形品本体の吸湿性を抑え耐久性を高めることができる。
【0041】
ブロー成形の場合、熱可塑性樹脂はメルトテンションが1gf以上でメルトフローレイトが2g/10分以下であることが好ましい。メルトテンションが1gf未満あるいはメルトフローレイトが2g/10分を超えるとパリソンのドローダウンが大きく、安定して成形体を得ることが難しい。
【0042】
本発明の成形体は上述したブロー成形に限らず、シートブロー成形、射出成形などの他の公知の熱可塑性樹脂を溶融させて金型内で成形する方法によって成形することができる。
【0043】
例えば射出成形の場合は、型開きした一方の分割型のキャビティ面に裏面に鉄系消臭剤を付着させた布をその表面を対向させて配置したのち型締めを行い、ついでキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出・充填してプラスチック成形品本体を射出成形すると同時に前記布を貼着させて積層する。
【0044】
鉄系消臭剤は、2価の鉄化合物およびキレート剤などからなり、好ましくはさらに多孔性物質とバインダーおよび水を含有する水性スラリーとして用いられる。
【0045】
2価の鉄化合物としては、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、臭化第1鉄、ヨウ化第1鉄等の鉄(II)の無機酸塩の他、没食子酸第1鉄、リンゴ酸第1鉄、フマル酸第1鉄等の鉄(II)の有機酸塩等が挙げられる。
【0046】
キレート剤としては、イオンに対してキレート化能を有するものであれば任意のものを用いることができる。このようなものとしては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン等のポリアミノカルボン酸又はその水溶性塩;エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)等のポリアミノリン酸又はその水溶性塩;クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸又はその水溶性塩、アルキルジホスホン酸又はその水溶性塩等が挙げられる。これらのキレート剤は、単独又は混合物の形で用いることができる。本発明においては、特に、EDTAやイミノ二酢酸等のポリアミノカルボン酸及びそれらの水溶性塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)の使用が好適である。キレート剤は鉄系消臭剤に含まれる二価の鉄イオンと反応し安定化する。
【0047】
多孔物質としては、ゼオライト、白土、活性白土、ケイソウ土、モンモリロナイト、セピオライト、カオリン、ベントナイト、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム等が挙げられる。多孔物質は2価の鉄イオンを含む有効成分を吸着して安定化すると共に、吸着剤として悪臭物質を捕捉する。
【0048】
本発明の水性スラリー液のpHは、好ましくは6〜10、より好ましくは7〜9である。pH6未満の水性スラリーを用いるとアセトアルデヒドの消臭性能が低くなる。pH9を超えると水性スラリーは二価の鉄イオンの安定性が低下する。
【0049】
バインダーとしては従来の水性塗料に用いられている樹脂を用いることができる。このような樹脂としては、例えば、アクリル系エマルジョン、スチレンーブタジエン系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョンが挙げられる。
【0050】
本発明の鉄系消臭剤は、含有された2価の鉄化合物が0.1mmol/m2 以上の割合で付着されていることが好ましい。含有された2価の鉄化合物が0.1mmol/m2 を未満であると消臭効果が低くなる。
【0051】
臭気ガスの除去率は、消臭プラスチック成形品のニーズ、コスト等を考慮して水性スラリーからなる鉄系消臭剤の水希釈倍率を変化させることによって調製することができる。
【0052】
なお、他の実施の形態による消臭プラスチック成形品は、目付け重量が50ないし600g/m2 の布を構成する繊維はSP値が9.5以上であり、かつ繊維表面に顔料を含まない実質的に無色の2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤が担持されており、プラスチック成形品はSP値が9.5未満であり、メルトテンションが1gf以上でメルトフローレイトが2g/10分以下の熱可塑性樹脂にて構成されていることを特徴とする。
【実施例1】
【0053】
(消臭剤の調製)
水100部に対し、硫酸第1鉄・7水塩(FeSO4 ・7H2 O)10部と、キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(EDTA−2Na)10部を溶解させた後、ゼオライト20部と、分散剤としての非イオン性界面活性(レオドール、花王社製)1部を添加し、均一に撹拌混合し、次いで硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム及びpH調節剤として炭酸水素ナトリウムを適量添加して、pH約8の水性スラリーを調製し、消臭剤液Aとした。この消臭剤液A80部に対して水性アクリル樹脂エマルジョン(固形分20wt%)20部を加えた後、この混合液を水でさらに5倍に希釈し、鉄系消臭剤スラリーBとした。
【0054】
ポリエステル繊維を用いニードルパンチ法にて製造した目付重量400g/cm2 の不織布の裏面側に鉄系消臭剤スラリーBを水で3倍に希釈した溶液を、不織布に対して90g/mの割合でスプレーで付着させた後、100℃で15分乾燥させた。その後、不織布を分割型にセットして、メルトテンションが3.5gfでメルトフローレイトが0.5g/10分であるポリプロピレン樹脂を用いてブロー成形を行い、消臭プラスチック成形品を得た。消臭プラスチック成形品から(縦)12.5cm×(横)16cmを切取り、試料B1を得た。鉄系消臭剤の付着量は含有された2価の鉄化合物が1.1mmol/m2 であった。同様の操作で鉄系消臭剤の量を変えて、含有された2価の付着量が0.4mmol/m2 の試料B2、同じく9.0mmol/m2 の試料B3を作製した。
【0055】
(消臭性能評価)
ガスサンプリングバルブ、10w蛍光灯用ホルダー及び小型ファンを設置した。17.5Lの密閉容器を用いた。面積scm2 の試料を入れ、15〜20volppmの臭気ガスを張込み、検知管によりガス濃度を測定しこの値を初期濃度avolppmとする。所定時間後にガス濃度を測定しbvolppmとする。aとbより次の式で除去率cを求める。
除去率(%)=(a−b)/a×100
【0056】
次に試料をいれずに同様の操作を行い、1volppm以上のガス濃度の減少がある場合はこの値を除去量(a−b)より差引いて補正を行った。200cm2 の試料を用いた場合、試料の負荷率(JIS A 1901 参照)は0.88m3 /m2 である。
【0057】
光触媒試料を測定する場合は、波長300nm〜400nm、紫外線の放射照度を1W/m2 または0.2W/m2 とした。前者は10wケミカルランプ1本を用い、後者は白色蛍光灯2本を用い、蛍光灯から試料までの距離をそれぞれ調整して所定の放射照度とした。
【0058】
臭気成分としてアセトアルデヒドを用い一時間後の除去率から、これらの試料の消臭性能を評価した。また、試料B1について、同様にしてホルムアルデヒド除去率を求めた。
【0059】
結果を表1に示した。試料B2については0.2時間でアセトアルデヒド濃度が検知管の検出限界以下となったので除去率はこの値以上であるとした。
【0060】
(比較例1)
消臭剤として光触媒ビストレーターC(日本曹達製、酸化チタン含有量1〜3wt%)を50g/m2の割合で不織布に付着させ、実施例1と同様工程にて試料C1を作製した。
【0061】
次に、光触媒酸化チタンのシリカゾル(石原産業製 STS−01、固形分30wt%)10gとコロイダイカルシリカ(固形分10wt%)30g及び水110gを撹拌混合し、光触媒液Dを調製した。光触媒液Dを50g/m2の割合で不織布に付着させた以外は実施例1と同様の工程にて試料D1を作製した。D1の酸化チタン担持量は12.5mmol/m2 であった。
【0062】
次にC1及びD1について、アセトアルデヒドを用いて消臭性能を評価した。これらの光触媒試料については、所定強度の紫外線照射下で評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、本発明の試料は、アセトアルデヒド及びホルムアルデヒドに対して優れた消臭性能をした。また、光触媒と比較して、紫外線照射なしでも消臭性能を発揮し、消臭性能も著しく優れていることが確認した。
【実施例2】
【0065】
ポリエステル繊維を用いニードルパンチ法にて製造した目付重量400g/cm2 の不織布の表面に、鉄系消臭剤スラリーBを30g/m2 の割合でのスプレーで付着し乾燥させて試料E1を作製した。この不織布を金型のキャビティ面に配置し、次に、メルトテンションが2.5gfでメルトフローレイトが0.7g/10分であるポリプロピレン樹脂を用いてブロー成形を行い、プラスチック製パネルを得た。プラスチック製パネルより不織布が貼合された12.5cm×16cm樹脂シートを切出し、試料F1を得た。
【0066】
E1と同様にして、同量の鉄系消臭剤スラリーBを同じ不織布の裏面に付着させた試料E2を作製した。次に鉄系消臭液スラリーBを水で二倍に希釈し、これを同じ不織布に含浸した後乾燥し、試料E3を作製した。試料E2とE3を用い、試料E1と同様にして試料F2及びF3を作製した。これらの試料の消臭剤付着量は、含有された2価の鉄化合物が1.1mmol/m2 であった。試料F1〜F3に25W/m2 の紫外線に6日間(13メガジュール)暴露した。各試料について暴露前後のアセトアルデヒドの除去率を室内光下で測定し、結果を表2に示した。
【0067】
(耐光性評価)
15Wケミカルランプ2本を用い、波長300nm〜400nmの放射照度が平均25W/m2 となるよう試料の位置を調整し、紫外線を所定時間照射し、外観及び消臭性能を評価した。
【0068】
【表2】

【0069】
表2より、鉄系消臭剤を布の表面に塗布した場合、消臭性能の低下が見られるが、含浸させた試料では低下が少なく、裏面に塗布した場合は殆ど低下がなく耐光性が優れる。なお、いずれの試料も照射前後で試料表面の外観や色の変化はなく、耐光性に問題はなかった。
【実施例3】
【0070】
鉄系消臭剤スラリーBを前述のPETシートに塗布し、試料B4を得、付着性試験を行った。その結果、分類0で付着性に問題はなかった。
【0071】
またB4について、25W/m2 の紫外線に6日間暴露した後、外観観察及び付着性試験を行い、耐光性を評価した。
【0072】
その結果、外観に変化はなく、付着性も分類0で問題はなかった。
【0073】
(付着性評価)
厚さ0.2mmで5cm×5cmのPETシートに鉄系消臭剤スラリーを塗布、加熱乾燥して作製した試料を用い、JIS K5600−5−6による基盤目テストにより付着性試験を行った。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る消臭プラスチック成形品の模式斜視図である。
【図2】本発明に係る消臭プラスチック成形品の製造方法の一実施の形態を示し、(a)は型開きされた分割型間に表皮材とパリソンを配置した状態を示す説明図、(b)は型締めした分割型によってパリソンを挟持した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1 消臭プラスチック成形品
2 プラスチック成形品本体
3 表皮材
4 布
5 鉄系消臭剤
10 押出ヘッド
11 一方の分割型
11a、12a キャビティ面
11b、12b ピンチオフ部
12 他方の分割型
13 パリソン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるプラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品において、
前記表皮材が目付重量が50ないし600g/m2 の布からなり、該布には2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤が担持されていることを特徴とする消臭プラスチック成形品。
【請求項2】
プラスチック成形品の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品において、
前記表皮材が目付け重量が50ないし600g/m2 の布からなり、前記布を構成する繊維はSP値が9.5以上であり、かつ繊維表面に顔料を含まない実質的に無色の2価の鉄化合物を含有する鉄系消臭剤が担持されており、前記プラスチック成形品はSP値が9.5未満であり、メルトテンションが1gf以上でメルトフローレイトが2g/10分以下の熱可塑性樹脂にて構成されていることを特徴とする消臭プラスチック成形品。
【請求項3】
前記鉄系消臭剤は、前記布の裏面に沿って付着されており、前記鉄系消臭剤に含有された前記2価の鉄化合物が0.1mmol/m2 以上の割合で付着されていることを特徴とする請求項1または2記載の消臭プラスチック成形品。
【請求項4】
前記鉄系消臭剤が前記布の表面に露出していないことを特徴とする請求項1または2記載の消臭プラスチック成形品。
【請求項5】
目付重量が50ないし600g/m2 の布の裏面に沿って2価の鉄化合物を含有する水性スラリーからなる鉄系消臭剤を塗布して乾燥させることにより前記布の裏面に鉄系消臭剤を付着させる工程と、
前記布をその表面を型開きされた分割型の一方のキャビティ面に対向させて配置したのち、前記分割型を型締めしてプラスチック成形品本体を溶融した熱可塑性樹脂より成形することにより、前記布の裏面と前記プラスチック成形品本体の表面との間に前記鉄系消臭剤が介在された、前記プラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品を製造することを特徴とする消臭プラスチック成形品の製造方法。
【請求項6】
目付重量が50ないし600g/m2 の布の裏面に沿って2価の鉄化合物を含有する水性スラリーからなる鉄系消臭剤を塗布して乾燥させることにより前記布の裏面に鉄系消臭剤を付着させる工程と、
前記布をその表面を型開きされた分割型の一方のキャビティ面に対向させて配置したのち熱可塑性樹脂からなる溶融パリソンを配置し、ついで型締めして前記溶融パリソン内に加圧流体を導入してプラスチック成形品本体をブロー成形することによって、前記布の裏面と前記プラスチック成形品本体の表面との間に前記鉄系消臭剤が介在された、前記プラスチック成形品本体の表面に表皮材が積層された消臭プラスチック成形品を製造することを特徴とする消臭プラスチック成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−36926(P2008−36926A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212895(P2006−212895)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【出願人】(595149221)南姜エフニカ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】