説明

液−液抽出あるいは固−液抽出のための装置およびそれを用いた抽出方法

【課題】 様々な液-液抽出あるいは固-液抽出系に対応し、繰り返して抽出を行うことができる装置、キットおよびその使用方法を提供することにより、液-液抽出あるいは固-液抽出の効率化を図る。
【解決手段】 互いに混合せず2層を形成する高密度液体と低密度液体の組み合わせによる液-液交換あるいは固-液交換分配抽出用の装置であって、液-液界面における溶質の交換分配反応を行う空間を有するカラムと、該空間へ両液体を注入するための上部の開口と、一方の液体を排出するための下部の閉栓可能な開口を有し、下部の開口と溶質の交換分配反応を行う空間の間に、装置下部から排出したい液体と親和性が強く、カラムの空間に滞留させたい液体と親和性が弱い多孔性材料を装着したことを特徴とする装置および該装置を用いた液-液交換分配抽出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液-液抽出あるいは固-液抽出のための装置、該装置を用いた抽出方法および物質の検出・測定法並びにそれらに用いるキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに混合しない二液を用いた液-液抽出工程や、固体と該固体を完全に溶解しない液体を用いた固-液抽出工程は、目的とする抽出物質の各液体への溶解性・分配性をもとに分離する工程であり、食品成分の抽出、薬品や色素等の化学物質の合成・精製、環境関連物質の分析等の工程で広く活用されてきた技術である。
これまでに、抽出・精製工程の大規模化、効率化を目的として液相での連続抽出技術等が開発されてきた。例えば、日本ダイオネクス株式会社では、製品「ASE−200」を販売し、メトラー・トレド株式会社では、液-液抽出装置「ALLEXis」を販売している。また、現在でも、液-液抽出のための分液漏斗は、多くの有機合成工程や抽出成分の分離工程等において日常的に用いられている。
【0003】
その一方で、薬物シーズ化合物などの高付加価値化合物のスクリーニング工程においては、微量、かつ多数の試料を迅速に処理する必要があり、抽出処理速度の向上が重要な要素となってきている。
これに対応して、カラムクロマトグラフィー技術の変法とも言える固相抽出法が開発され、様々な場面で活用されてきた。しかしながら、固相抽出法については、抽出の目的化合物ごとの細かいメソッドの開発方法、カラムの吸着容量に対する試料の適切な添加量の設定、回収液が希釈される可能性や、カラムからの有機物の溶出の影響などを考慮する必要がある。このため、現在でも、種々のスクリーニング場面における抽出技術の処理速度向上など効率化へのニーズが高まっている。
【0004】
液-液あるいは固-液抽出の本質は、互いに混じり合わない二相の界面における移動現象である。分析を行いたい物質や分析の妨げとなる物質が第1相である液体や固体に溶解あるいは分散している時、界面によって隔てられた第2相へと界面の境界層拡散によってその物質は移動することが可能である。このときの物質移動は双方向的であり、第1相から第2相への物質移動と第2相から第1相への物質移動が拮抗したとき、各相への物質分配が平衡に達する。また、速やかに平衡に達せさせるため、撹拌などの機械的操作がしばしば行われるが、これは拡散の起こる界面面積の増大と、界面が絶えず更新されることによる二相の境界層を薄くすることを狙った物である。抽出成分の二相における分配の比率が大きければ大きいほど抽出は効率よく行われるが、場合によっては、第2相を交換して何度か抽出を繰り返すこととなる。いずれの場合でも、抽出作業を前後の操作と連続的かつ効率的に行おうとすると、2つの相をいかに効率よく分離しうるかが鍵となる。
【0005】
2つの相が共に液体である場合、これらを効率的に分離するための手段として、分液漏斗が古くから知られており、分析を目的とする実験で今日でもしばしば利用されている。また、固体から液体を抽出するにはソックスレー抽出器がよく知られている。しかし、分液漏斗もソックスレー抽出器もいずれも再利用を前提とした道具であり、その操作は人手に頼る部分が大きいため、分析操作に要するコストや時間の低減を困難としている。
分液漏斗にかわる手段として、試験管中の上層と下層に分離した二層を人手によるピペッティング操作によって集めることもしばしばなされるが、分析の再現性が実験者の手技によって大きく変わってしまうこと、また、大量点数の試料を並列に取り扱うことが困難であることなどが問題である。
【0006】
液-液分配後の2相の分離を効率的に行うために、水を通さず、有機溶媒のみを選択的に透過させる性質をもつ疎水性濾紙や、それを固定したカラムが知られている。しかしながら、このような濾紙においては、親水性基材であるセルロースに撥水性を付与するために用いられている特殊シリコンの一部が使用時に溶出するため、使用上の制約がある。また、カラムについては、液-液抽出時に非極性液体が下層にある場合には可能であるが、逆の場合には底面の疎水性濾紙に非極性液体が接触できないため十分に機能しない。
水より比重が大きい溶媒としては、クロロホルムやジクロロメタンなどが挙げられ、水より比重が小さい溶媒としては、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。また、液-液抽出の場合、回収するのは極性液体か非極性液体か、加えて回収すべき液体が上層にあるのか下層なのかに注意する必要がある。
さらに、液-液分離工程は、液体同士の分離の問題のほかに、両者を効率的に界面交換反応させる方法に関する問題や、繰り返し抽出を行う方法に関する問題を考慮する必要がある。固-液抽出の場合も同様である。既存の濾紙やカラム等の液-液分離装置は、これらの問題には的確に対応しておらず、現在までに、これらの問題を解決し、ハイスループット化を実現するための基礎技術やそれらを応用したカラムや抽出システムは開発されていない。
【0007】
液-液抽出技術開発へのニーズが高い分野としては、例えば、物質の誘導体化による高感度検出・定量分析技術の分野がある。これは、物質に誘導体化試薬を作用させることで、その物質を高感度検出・定量分析に適した部分化学構造によって標識された標識化合物に変換して検出、定量を行う技術である。この目的には、しばしばパイ電子系を有する部分化学構造による標識が行われるが、これは可視・紫外波長領域の光吸収や蛍光特性のほか、質量分析条件におけるイオン化効率の増大などにより、高感度検出・定量分析を狙ったものである。
高感度検出・定量分析を目的とする誘導体化試薬の多くは、分析対象となる物質がもともと持っている特定の官能基を作用点としている。これまでに、作用点となる官能基として、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコール水酸基、チオール基等に注目した誘導体化試薬が数多く開発・販売されている。例えば、カルボニル基を標識する試薬には、“Alexa Fluor 350 Hydrazide、Sodium Salt”、“Fluorescein−5−Thiosemicarbazide”など、カルボキシル基を標識する試薬は、“9−Anthryldiazomethane”、“5−(Aminoacetamido)Fluorescein”など、アミノ基を標識する試薬は、“AMCA―NHS”、“Fluorescamine”など、アルコール水酸基を標識する試薬は“9−Anthroylnitrile”、“Fluorescein−5−Carbonyl Azide、Diacetate”など、そして、チオール基を標識する試薬には、“Alexa Fluoro 350 C5 Maleimide”、“IC3−OSu”など、多くの種類が存在する。
【0008】
しかしながら、この高感度測定技術では、多くの場合、誘導体化後の反応液中に大過剰の未反応の誘導体化試薬やそれに由来する夾雑物が残存している。このような場合、反応液の吸光度あるいは蛍光強度を直接測定しても、バックグラウンドノイズが大きすぎて反応液中に含まれる標識された物質の存在を検出・測定することができない。
従って、多くの場合、誘導体化した物質の検出や定量は、高速液体クロマトグラフィーや電気泳動等の分離分析を組み合わせた分析結果を待たねばならない。このことは、数百、数千またはそれ以上の試料から目的の反応を検出するようなスクリーニングを行う上では、効率化を妨げる問題となる。
【0009】
物質の誘導体化による高感度検出・測定技術の分野の具体例としては、還元糖の検出・測定技術が挙げられる。一般に、糖質は紫外・可視波長領域に明瞭な吸収を有さず、また質量分析時のイオン化効率が低いため、高感度測定や構造決定が困難な化合物として知られる。そのため、蛍光性物質等の標識化合物によって糖の還元末端のカルボニル基を修飾し、感度よく糖分子を検出・測定する方法(特許文献1参照)などが開発されている。
【0010】
これまでに、還元糖の検出・測定のために、数種類の装置やキットが市販されている。例えば、糖鎖を切り出し、2−ピリジルアミン(PA)により標識誘導体化するための反応装置(宝酒造株式会社「PALSTATION」、「GlycoTAG」など)、4−アミノ安息香酸エチルエステル(ABEE)や4−アミノ安息香酸オクチルエステル(ABOE)により還元糖を修飾し、高速液体クロマトグラフィーにより分離・同定するための試薬キット(生化学工業株式会社「J−オイルABEE糖組成分析キット」、「J−オイルABOE糖鎖標識化キット」など)、水溶性蛍光化合物8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルフォン酸(ANTS)等により糖鎖を蛍光標識し、電気泳動によりバンドを検出・定量する方法(東洋紡績株式会社「FACE Carbohydrate Analysis Kits」や「FACE SE1000 Workstation」)などが市販されている。
しかしながら、その際に混入する大過剰の蛍光性標識誘導体化試薬から分析対象である糖質由来の標識化合物を精製する方法が存在しないことから、ハイスループット化の動きには十分に対応できていないのが現状である。
【0011】
糖質に関する研究は、基礎研究のみならず、医学・薬学研究、食品利用研究、バイオマス利用研究等多岐にわたる研究領域において重要性が高い。医学・薬学研究領域においては、糖鎖の合成や代謝の制御による複雑な生命活動の維持とその崩壊による疾病の発現等が注目されている。
糖鎖生物学研究による知見として、例えば、呈示される糖鎖の構造や糖鎖関連酵素の活性変化が重要な疾病マーカーとなることが知られている。これまでに糖タンパク質、糖脂質等から糖鎖を切り出し、それをマッピングする方法等が開発されてきた。また、このような研究を支える基盤技術としての、糖鎖関連酵素のスクリーニングが精力的に行われてきた。
【0012】
食品利用研究においては、低カロリー甘味料、プレバイオティックス活性を有するオリゴ糖等の食品素材の開発や有用酵素のスクリーニングが精力的に行われている。これらのスクリーニングの結果、酵素変換法や発酵生産法の確立を経て、サイクロデキストリンやエリスリトールなどの新食品素材の大量製造技術の確立に至っている。また、加工食品の物性の改善等を目的とした酵素製剤の開発が行われており、微生物資源からのアミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等のスクリーニングが行われてきた。
【0013】
バイオマス利用研究においては、セルロース、キチン、ヘミセルロース、デンプン等の糖質を効率的に分解するための微生物・酵素のスクリーニングが行われてきた。遺伝子組換え技術による一層強力なセルラーゼの生産や生デンプン分解酵素のスクリーニングなど、実用化を目指した研究が進行している。さらに、エタノール発酵においては、酵母がヘミセルロース由来の五炭糖を代謝できないことから、代謝工学的技術を用いて五炭糖の代謝能を付与してエタノール生成効率を上げるための研究が行われている。その他にも、菌類多糖、海藻多糖、動物性多糖等の有用素材への変換について研究が進んでいる。
このように、糖質研究を支える糖質スクリーニング技術の効率化に対するニーズは極めて大きいものと考えられる。
【0014】
【特許文献1】特開平10−267931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、種々のスクリーニングをハイスループット化するための、液-液抽出あるいは固-液抽出技術の開発が望まれている。
本発明が解決しようとする課題は、主に液-液抽出あるいは固-液抽出を効率化するための装置およびキットの開発であり、様々な液-液抽出あるいは固-液抽出系に対応し、繰り返して抽出を行うことができる装置あるいはキットの開発に関するものである。また、液-液抽出あるいは固-液抽出工程を含むような、標識化合物による物質の誘導体化を行った後のスクリーニング方法に関して、その大幅な効率化を目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、二相の分液操作をより簡便に効率よく行うことができないか、固-液、液-液界面における物質の挙動に着目した。その結果、液-液抽出後の二液のうち一方が、その液とより高い親和性を有する粗面や多孔性材料と顕著な毛管現象を示す場合において、その液体とまじり合わない他方の液体の輸送を制御できることを見出した。
互いにまざりあうことのない2つの液体と、その一方の液体によってぬれる表面をもった多孔質素材の空気中での挙動を考えてみる。まず、素材表面を濡らすことのできる第1の液体が多孔質素材の表面に接触すると、ただちに浸透して細孔を埋め尽くす。細孔を満たしていた空気は、その際に追い出される。このようにして第1の液体が含浸された多孔性素材に第2の液体を接触させても、第2の液体は第1の液体を押しのけて浸透していくことは容易ではない。なぜなら、第1の液体によって多孔質素材の細孔内部表面が濡れて満たされたところへ第2の液体が入っていくことは、第1の液体と第2の液体の界面が複雑に形を変えて面積を増やしながら入っていくことにほかならず、これら二液の界面に働く強い界面張力に打ち勝つため大きなエネルギーが必要なためである。
すでに第1の液体が含浸された多孔質素材の上に第2の液体をのせ、重力によって界面張力に打ち勝とうとしても、多孔質素材の細孔が十分に小さければ、第1の液体を置き換えて細孔へ入っていくことはできない。
一方、同じ状況であっても、第1の液体が既に第1の液体を含浸された多孔性素材に接触すれば、界面は生成せず溶液は一体化するため容易に浸透し、一方向へ重力の働く状況であれば、浸透した第1の液体は多孔質素材中を重力に従って流動し、滴り落ちることとなる。
すなわち、第1の液体と濡れる表面をもつ多孔性材料は、第2の液体を透過させることなく、第1の液体のみを選択的に透過させる用途に用いることができる。
【0017】
本発明者等は、このような現象に着目し本課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、互いに混じり合わない二液の一方と親和性の高い多孔性素材が親和性の低い他方の液体を通過させないことを利用し、液体のカラム下端からの排出や上端からの飛散を適宜抑えた状態で界面交換反応を促進した後に選択的に目的の液体を排出できるような装置やキットにより、スクリーニングをはじめとした、様々な場面における液-液抽出や固-液抽出が大幅に効率化することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、上記課題を解決するための第1の発明は、互いに混合せず2層を形成する高密度液体と低密度液体の組み合わせによる液-液交換あるいは固-液交換分配抽出用の装置であって、液-液界面における溶質の交換分配反応を行う空間を有するカラムと、該空間へ両液体を注入するための上部の開口と、一方の液体を排出するための下部の閉栓可能な開口を有し、下部の開口と溶質の交換分配反応を行う空間の間に、装置下部から排出したい液体と親和性が強く、カラムの空間に滞留させたい液体と親和性が弱い多孔性材料を装着したことを特徴とする装置に関するものである。
【0019】
上記課題を解決するための第2の発明は、装置上部の開口を閉栓する機能を有することを特徴とする上記第1の発明に記載の装置である。
【0020】
上記課題を解決するための第3の発明は、多孔性材料が装置下部の開口手前から溶質の交換分配反応を行うカラムの空間の側面まで連続して装着されていることを特徴とする上記第1の発明に記載の装置である。
【0021】
上記課題を解決するための第4の発明は、装置上部の開口を閉栓する機能を有することを特徴とする上記第3の発明に記載の装置である。
【0022】
上記課題を解決するための第5の発明は、上記第1の発明に記載の装置を用いて液-液交換分配抽出を行うにあたり、装置下部から排出したい液体が装置内部に滞留させたい液体よりも密度が高い場合、装置に装着された多孔性材料に液-液抽出に用いる高密度液体のみを含浸させた後、高密度液体によって低密度液体から液-液分配抽出を行うことを特徴とする液-液交換分配抽出方法である。
【0023】
上記課題を解決するための第6の発明は、液-液分配抽出操作中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、液-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする上記第5の発明に記載の方法である。
【0024】
上記課題を解決するための第7の発明は、上記第3の発明に記載の装置を用いて液-液交換分配抽出を行うにあたり、装置下部から排出したい液体が装置内部に滞留させたい液体よりも密度が低い場合、装置に装着された多孔性材料に液-液抽出に用いる低密度液体を含浸させた後、低密度液体によって高密度液体から液-液分配抽出を行うことを特徴とする液-液交換分配抽出方法である。
【0025】
上記課題を解決するための第8の発明は、液-液分配抽出操作中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、液-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする上記第7の発明に記載の方法である。
【0026】
上記課題を解決するための第9の発明は、上記第1の発明に記載の装置を用いて固-液交換分配抽出を行うにあたり、装置空間内に滞留させたい液体を多孔性材料が目詰まりしない固体試料に置きかえて固-液抽出を行うことを特徴とする固-液交換分配抽出方法である。
【0027】
上記課題を解決するための第10の発明は、固-液交換分配抽出中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、固-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする上記第9の発明に記載の方法である。
【0028】
上記課題を解決するための第11の発明は、上記第1または2の発明に記載の装置を並列に複数個連結したことを特徴とする液-液交換分配抽出用の装置である。
【0029】
上記課題を解決するための第12の発明は、上記第3または4の発明に記載の装置を並列に複数個連結したことを特徴とする液-液交換分配抽出用の装置である。
【0030】
上記課題を解決するための第13の発明は、物質へ誘導体化試薬を作用させ標識化合物に変換して反応を行った後、反応混合物に存在する未反応の誘導体化試薬を含む測定妨害物質を液-液抽出によって除去する操作を上記第1〜4の発明と第11〜12の発明のいずれかに記載の装置を用いて行うことを特徴とする標識化合物の精製法である。
【0031】
上記課題を解決するための第14の発明は、上記第13の発明に記載の方法において、物質を標識化合物へ変換する反応を装置内部で行うことを特徴とする物質の誘導体化法である。
【0032】
上記課題を解決するための第15の発明は、上記第13または14の発明に記載の方法において、液-液抽出後の標識化合物を含む液体を装置内部に留めたまま機器分析装置で分析を行う方法である。
【0033】
上記課題を解決するための第16の発明は、紫外・可視吸収特性を付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を分光光度計により行うことを特徴とする上記第15の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0034】
上記課題を解決するための第17の発明は、蛍光発光特性を付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を蛍光分光光度計により行うことを特徴とする上記第15の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0035】
上記課題を解決するための第18の発明は、強いイオン化特性と特徴的なプロダクトイオンを与える特性の両方あるいはいずれかを付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を質量分析計により行うことを特徴とする上記第15の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0036】
上記課題を解決するための第19の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第13の発明に記載した標識化合物の精製法に関するものである。
【0037】
上記課題を解決するための第20の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第14の発明に記載した物質の誘導体化法に関するものである。
【0038】
上記課題を解決するための第21の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第15の発明に記載した分析法に関するものである。
【0039】
上記課題を解決するための第22の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第16の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0040】
上記課題を解決するための第23の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第17の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0041】
上記課題を解決するための第24の発明は、物質が還元糖であることを特徴とする上記第18の発明に記載した検出・定量法に関するものである。
【0042】
上記課題を解決するための第25の発明は、誘導体化試薬が還元的アミノ化反応試薬であることを特徴とする上記第19〜24の発明のいずれかに記載の方法に関するものである。
【0043】
上記課題を解決するための第26の発明は、誘導体化試薬として4−アミノ安息香酸エチルエステルと還元剤を用いることを特徴とする上記第25の発明に記載した方法に関するものである。
【0044】
上記課題を解決するための第27の発明は、上記第1〜4の発明のいずれかに記載のカラムと、該カラムの下端の開口を閉栓する機能を備えた栓、並びにこれらの複数個を連結し組み立てるための器具を有していることを特徴とする液-液交換あるいは固-液交換分配抽出用のハイスループット化キット。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る抽出装置や抽出キットを用いることにより、液-液抽出あるいは固-液抽出工程を効率化し、煩雑だった夾雑物の除去や目的物質の精製を容易に行えるようになることにより、スクリーニングのハイスループット化が可能となる。また、本抽出装置あるいは抽出キットを用いた、物質を誘導体化試薬により標識化合物へ変換し、感度よく物質を検出・測定するための一連の工程が開発されることにより、物質のスクリーニングが簡単に行えるようになる。
したがって、本発明は科学的新知見を求める基礎研究や環境汚染物質の分析等の業務の他にも、日常的にスクリーニングを実施している医薬品産業、農薬・動物薬産業、食品産業、酵素産業、材料産業等におけるスクリーニング作業効率を大幅に改善するものと期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の前半部分、すなわち第1の発明から第12の発明までは、液-液抽出あるいは固-液抽出を効率化するための装置、キットおよびその使用方法に関するものである。本明細書においてキットとは、一部分あるいは全体がディスポーザブルで、マニュアルや常法に従って操作することにより、目的物の分離・検出・分析等を効率的に行うことが可能となっている装置を意味する。
【0047】
液-液抽出は、互いに混合せず2層を形成する高密度液体と低密度液体の2液を組み合わせて行う。ここでいう、高密度液体と低密度液体の定義は相対的なものであり、比重が大きい液体が高密度液体、比重が小さい液体が低密度液体に相当する。一般に、異なる液体は異なる比重を有するため、液-液抽出における2液の組み合わせとしては互いに混合しないということが重要である。液-液抽出に適している例として、高極性液体と低極性液体の組み合わせである水系と有機系の組み合わせをあげることができる。ここでいう水系とは、水または水に溶質が入っている液体を指し、酸やアルカリの他、緩衝液成分などが入っているものも含む。有機系とは、水との混和性が低い有機溶媒、あるいは有機溶媒に溶質が入っているものを意味し、有機溶媒の例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0048】
液-液抽出後は、2液を分離しなくてはならないが、そのために本装置には、装置から排出したい液体と親和性が強く、装置内に残したい液体と親和性が弱い多孔性材料が装着されている。ここでの親和性の強弱は相対的なものである。液体と多孔性材料との親和性は、濡れやすさと浸透しやすさという2つの因子によって影響を受けている。
液体側においては、液体を構成する分子の官能基と化学構造に加え、溶解している溶質分子が影響している。また、多孔性材料においては、材料表面に露出の電子親和性、誘起効果の起こしやすさ等の分子レベルの性質に加え、細孔のサイズや形状等の材料表面の物理的な形も影響を与えている。2種類の液体が多孔性材料とどちらがより親和性が高いかどうかは、多孔性材料の表面形状とは関係なく決まるため、細孔をもたない平滑な材料表面と液体との接触角を調べることで容易に判断することができる。すなわち、接触角がより小さくなる液体が、その材料との親和性がより高いということになる。
【0049】
親水性、親油性がはっきりとうたわれている材料を多孔性材料として用い、水系と有機系の組み合わせによる液-液抽出を行えば、抽出目的に応じた装置の構成は容易である。また、ぬれ現象については、理論的な取り扱いは確立していない部分もあるものの、測定、評価法については基礎的知見が蓄積、公開されているため、任意の液体に対して多孔性材料の親和性を制御することが可能である。
一方、固-液抽出は、液-液抽出用に用いることのできる本発明の装置を用いて、目的物質を含む固体または半固体試料から目的物質を液相に抽出した後に固-液分離・除去する工程を行うものである。
【0050】
次に、本発明の後半部分、すなわち前記第13の発明から第26の発明は、上記の前半部分の発明を利用して、物質をスクリーニングする方法およびそのためのキットに関するものである。
【0051】
第1の発明に係る装置の特徴を図1A、Bに示す。装置の材質は、装置内に入れる液体が接触する部分、すなわちカラムについては、可塑剤等の成分が溶け出したり、液漏れ、ひび割れ等により構造体の機能が衰えたりしないものであることが望ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス等が挙げられる。ただし、これらの材質については、各種溶媒や酸・塩基等に対する耐性や強度特性が異なっており、用いる抽出系に応じて材質を選定すべきである。また、液体に対する安定性や機械的強度などの特性の異なる素材を適宜組み合わせて用いてもよい。
さらに、装置の大きさについては制約がないものの、ハイスループットスクリーニングを行う際には、96穴マイクロプレートや384穴マイクロプレートのサイズに対応できる程度の大きさにまで小型化することが望ましい。
【0052】
固相抽出カラムで96穴マイクロプレートサイズに対応したサイズのものが市販されているので、それらの製造プロセスを改良することにより、新たに前記第1の発明に係る装置を製造することが可能となる。その際には、1ミリリットル容以下程度のカラムをもつ装置で抽出を行うことにより、数百マイクロリットルの溶液が回収できると期待され、分光光度計により検出・測定が十分可能な液量を確保できるものと考えられる。
【0053】
第1の発明に記載したカラムの底部に固定すべき細孔を有する材料については、セルロース、ガラス繊維、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、1PS(ワットマン ジャパン株式会社)等が挙げられる。ただし、これらの材質については、各種溶媒や酸・塩基等に対する耐性が異なっており、用いる抽出系に応じて材質を選定すべきである。
適切な細孔の径については、層の厚み、表面の撥水性、撥油性、液体の表面張力、液量や外力など相対的な影響因子により決定されるが、小さければ小さいほど、2液の界面張力が大きく働くため、装置は確実に機能する。
しかしながら、装置内部にとどめたい液体の通過を遮断できる機能が維持される限りにおいては、可能な限り細孔径は大きい方が、細孔に浸透することができる親和性の高い液体を系から排出する工程がスムースに進み、装置全体の処理能力の向上につながるものと期待される。適切な径の細孔を持つ素材は、公知の方法により製造が可能であり、その一部は市販されている。例えば、バリアン社のポリエチレン製フリットは、孔径20マイクロメートルで、ワットマン ジャパン株式会社のPTFE樹脂は孔径が1.0マイクロメートルであるが、双方とも期待する機能を発揮する。
【0054】
前記第1の発明に記載した装置の下端に設けるべき栓については、下端にかぶせる蓋、回転コック構造のもの、空気圧により落下を防ぐための栓等が考えられる。栓は、カラムと一体化したものでも、装置の下部に取り付けるタイプのものでも同様に機能することは明白である。
下部に取り付けるタイプの栓については、例えば、バイオラッド社の2方ポリカーボネートストップコック(ポリカーボネート/ポリプロピレン製)やフィメールルアープラグ(ポリプロピレン製)、あるいはウォーターズ社製のSep−PAKカートリッジアクセサリー・バキュームストップコック(ポリエチレン製)などを利用することができる。
【0055】
第1の発明に記載した装置は、固体試料から、装置下部の多孔性素材と親和性の高い液体を用いて目的物質を抽出あるいは除去する場合、または、装置下部の多孔性素材と親和性の低い低密度液体および親和性の高い高密度液体を用いて目的物を抽出あるいは除去する場合に、穏やかなピペッティングや装置の大きさと比較して極めて少ない液量での振とう、攪拌による液-液界面交換反応を行うときに使用される。
親和性の低い液体として水を用いた場合、より比重の大きい高密度液体としては、クロロホルム、ジクロロメタンや四塩化炭素などが挙げられる。
【0056】
第2の発明に記載した装置は、前記第1の発明に記載した装置の上端に開口を閉栓するための栓を設けたものである。第2の発明の装置は、装置全体を上下反転、振とう、攪拌すること等の混合操作により界面交換反応を促進する際に、液が装置の上端からこぼれないようにするために用いるものである。
【0057】
第3の発明に記載した装置の特徴を図2A、Bに示す。第3の発明に記載した装置は、装置下部の開口手前から連続する多孔性材料が、液-液抽出を行う際に、装置下部から排出すべき液体が装置内部にとどめたい液体よりも低密度のため上層に位置しても直接接触することである。装置下部から排出したい液体は、親和性の高い多孔性材料と接触することにより、その材料中を浸透してカラム下方に導かれ、下端から排出される。
【0058】
また、装置下部の開口手前から連続する多孔性材料の形態であるが、図2A、Bに示す形態以外にも、例えば、図3(1)、(2)、(4)に示すような断面図を示す連続形態が容易に想到される。また、図3(5)に示すように、前記第1の発明に記載した装置を斜めにして、適量の極性液体と非極性液体の組み合わせを加えた場合、前記第3の発明に記載された装置と同様の機能を発揮することは明白である(図3(6))。また、図3(3)は第1の発明であって、第3の発明でないが、第3の発明が意図する同等の機能を有するものである。
【0059】
第3の発明に記載した装置は、装置下部の多孔性素材と親和性の低い高密度液体および親和性の高い低密度液体を用いて目的物を抽出あるいは除去する場合で、穏やかなピペッティングや装置の大きさと比較して極めて少ない液量での振とう、攪拌による液-液界面交換反応を行う場合に使用される。親和性の低い液体として水を用いた場合、より比重の小さい低密度液体としては、ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
第4の発明に記載した装置は、前記第3に記載した装置の上端に栓をもうけたものである。第4の発明の装置は、第2の発明と同じく、装置全体を上下反転、振とう、攪拌すること等の混合操作により界面交換反応を促進する際に、液が装置の上端からこぼれないようにするために用いるものである。
【0060】
前記第1の発明に記載した装置を用いて、第5の発明に記載した方法で液-液抽出と高密度液体の排出操作を行うことができる。抽出に先立ち、必要に応じて装置下部を開栓した後に、装置底部に装着された多孔性材料へ親和性の高い高密度液体を含浸させる工程により、多孔性材料の細孔を埋め尽くし、多孔性素材表面に高密度液体の液面を形成させる。
【0061】
下端から装置内の液が排出されないように下端の栓を閉じたのち、装置上端から、界面交換反応を行うべき低密度および高密度液体の組み合わせを投入する。次いで、振とう、攪拌、ピペッティングなどの混合操作により界面交換反応を促進する。その後、下端の栓を開けると、重力または適宜、吸引、加圧や遠心分離を行うことにより、下端から高密度液体が排出される。低密度液体は、高密度液体との界面張力によって細孔内部へ侵入することができないため、高密度液体の排出操作中には多孔性材料への侵入が遮断され、装置内にとどまる。
【0062】
高密度液体のみが排出された後に、必要に応じて新たな高密度液体を投入し、混合操作と排出を繰り返せば、繰り返し液-液抽出を行うことが可能である。
回収したい目的物質が装置内部の低密度液体にとどまる場合、こうして抽出が十分に行われた後に、装置上部あるいは下部から目的物質を低密度液体の溶液として回収することができる。上部から回収するには、例えばピペットや注射針等により吸い上げて回収すればよく、下部から回収するには、装置の上から加圧して押し出す方法、装置の下を陰圧にする方法、遠心力を利用する方法などにより、下端から排出させればよい。なお、下端から排出させる際には、底部の細孔性材料に保持された少量の非極性液体も一緒に排出される可能性がある。
【0063】
前記第2の発明に記載した装置を用いて、第6の発明に記載した方法で液-液抽出と高密度液体の排出操作を行うことができる。第6の発明の操作は、第5の発明の操作に加えて装置上部からの液体の投入時に装置上部の開口を開栓し、界面交換反応を促進するための混合操作中に該開口を閉栓することを特徴とする。これにより、装置上部からの液体の流出を防止して、上下反転などの操作による混合操作を行うことが可能となる。
【0064】
前記第3の発明に記載した装置を用いて、第7の発明に記載した方法で、液-液抽出と低密度液体の排出操作を行うことができる。抽出に先立ち、必要に応じて装置下部の開口を開栓した後に、底部の開口から交換分配反応を行う空間側面へ連続する多孔性材料へ、この多孔性材料と親和性の高い高密度液体を含浸させる工程により、多孔性材料の細孔を低密度液体で埋め尽くし、多孔性素材表面に低密度液体の液膜を形成させる。
【0065】
下端から装置内の液体が排出されないように下端の栓を閉じたのち、装置上端から、界面交換反応を行うべき低密度液体および高密度液体の組み合わせを投入する。次いで、振とう、攪拌、ピペッティングなどの混合操作により界面交換反応を促進する。その後、下端の栓を開けて、重力または適宜、吸引、加圧や遠心分離を行うことにより、下端から低密度液体が排出される。高密度液体は、低密度液体との界面張力によって細孔内部へ侵入することができないため、低密度液体の排出操作中には多孔性材料への侵入が遮断され装置内にとどまる。
【0066】
低密度液体のみが排出された後に、必要に応じて新たな低密度液体を投入し、混合操作と排出を繰り返せば、繰り返し液-液抽出を行うことが可能である。
また、回収したい目的物質が装置内部の高密度液体にとどまる場合、こうして抽出が十分に行われた後に、装置上部あるいは下部から目的物質を低密度液体の溶液として回収することができる。上部から回収するには、例えばピペットや注射針等により吸い上げて回収すればよく、下部から回収するには、装置の上から加圧して押し出す方法、装置の下を陰圧にする方法、遠心力を利用する方法などにより、下端から排出させればよい。なお、下端から排出させる際には、底部の細孔性材料に保持された少量の非極性液体も一緒に排出される可能性がある。
【0067】
前記第4の発明に記載した装置を用いて、第8の発明に記載した方法で液-液抽出と低密度液体の排出操作を行うことができる。第8の発明の操作は、第7の発明の操作に加えて装置上部からの液体の投入時に装置上部の開口を開栓し、界面交換反応を促進するための混合操作中に該開口を閉栓することを特徴とする。これにより、装置上部からの液体の流出を防止して、上下反転などの操作による混合操作が可能となる。
【0068】
前記第1の発明に記載の装置を用いて、第9の発明に記載した方法で、固-液抽出と液体の排出操作を行うことができる。第9の発明の操作は、装置空間内に滞留させたい液体を多孔性材料が目詰まりしない固体試料に置き換えて使用することを特徴とする。固体試料はとしては、植物切片、プラスチック片、食品などを用いることができ、微粉化して目詰まりを起こすなどによって抽出操作後の液体の排出を妨げなければ特に限定されない。また、抽出に用いる液体は、多孔性材料の細孔と親和性があれば特に限定されない。
下端から装置内の液が排出されないように下端の栓を閉じたのち、装置上端から、界面交換反応を行うべき固体および液体の組み合わせを投入する。次いで、振とう、攪拌、ピペッティングなどの混合操作により界面交換反応を促進する。その後、下端の栓を開け、重力または適宜、吸引、加圧や遠心分離を行うことにより、下端から高密度液体が排出される。固体は細孔内部へ侵入することができないため、液体の排出操作中には多孔性材料への侵入が遮断され装置内にとどまる。
液体のみが排出された後に、必要に応じて新たな液体を投入し、混合操作と排出を繰り返せば、繰り返し固-液抽出を行うことが可能である。
回収したい目的物質が装置内部の固体にとどまる場合、こうして抽出が十分に行われた後に、装置上部から目的物質を含む固体を回収することができる。
【0069】
前記第2の発明に記載した装置を用いて、第10の発明に記載した方法で固-液抽出と高密度液体の排出操作を行うことができる。第10の発明の操作は、第9の発明の操作に加えて装置上部からの固体と液体の投入時に装置上部の開口を開栓し、界面交換反応を促進するための混合操作中に該開口を閉栓することを特徴とする。これにより、上下反転などの操作による混合操作が可能となる。
【0070】
第1、第2の発明の装置は、複数個連結することにより、第11の発明の装置および第27の発明のキットを構成し、該装置およびキットを用いて第5、第6の発明や第9、第10の発明による抽出操作を短時間に多数の試料について行うことができ、液-液抽出あるいは固-液抽出のためのハイスループット化を達成することができる。
また、第3、第4の発明の装置につても、複数個連結することにより、第12の発明の装置および第27の発明のキットを構成し、該装置およびキットを用い第7、第8の発明による抽出操作を短時間に多数の試料について行うことができ、液-液抽出のためのハイスループット化を達成することができる。
【0071】
ハイスループット化に向けて、96穴マイクロプレート等のサイズに合ったような大きさの装置に設計したり、カラムの下端や上端に設ける栓を複数個の装置について連動させるようにしたり、下端や上端の栓とカラムを別々に製造し、1回の抽出工程ごとにカラム部分のみを捨てて、下端や上端の栓を複数回使用できるように設計したりすることができる(図4A、B、C)。
また、第1の発明、第2の発明、第3の発明、第4の発明、第11の発明、第12の発明に記載した装置および第27の発明のキットの複数種類の構成部品に互換性をもたせて規格を統一することは、本発明に係る装置のキット化を図ることを可能とし、大きなメリットとなり、機械化やオートメーション化に馴染みやすい。
【0072】
前記第13の発明は、第1の発明、第2の発明、第3の発明あるいは第4の発明のいずれかに記載した装置を用いて、過剰の誘導体化試薬等の測定妨害物質を液-液抽出して分離・除去することを特徴とする標識化合物の精製法である。
この場合、過剰の誘導体化試薬等と、標識された目的物である標識化合物との分離を行う際に、両者の互いに混合しない2種類の液体に対する分配比の差を利用できることが条件となる。誘導体化試薬の多くは、可視・紫外波長領域における吸収あるいは蛍光を示したり、イオン性であったり、電子受容能/供与能が著しく高まることにより、目的物質を誘導体化した際に高い検出感度をもつことを意図している。具体的には複素環・芳香環構造などの疎水性の部分化学構造を有していることが多いため、有機溶媒等の低極性液体への溶解性が高く、水と有機溶媒との液-液分配において、分配比が有機溶媒側へ大きく偏っているものが多い。
誘導体化試薬を作用させる分析対象の目的物質が高い親水性を示す場合には、誘導体化反応後の生成物である標識化合物は誘導体化試薬よりも親水性が高く、水と有機溶媒との液-液分配において、誘導体化試薬よりも分配比が水側へ偏ることになる。このような分析対象物質の例は、糖質、アミノ酸、有機酸、アミン、脂質、タンパク質、抗生物質をはじめとする二次代謝物等などである。
【0073】
また、誘導体化試薬としては、これまでに分析対象となる物質がもつカルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコール水酸基やチオール基等と反応し、分析機器の検出感度が向上する部分構造によって標識するための試薬が多数販売されているので、誘導体化反応は公知の技術を用いて行うことが可能である。
【0074】
ここでは、糖質の蛍光試薬による検出・測定技術を例として挙げる。糖質の還元末端のカルボニル基を標識する方法は数多く知られており、殆どは、アミノ基を有する蛍光化合物とシッフ塩基を形成させた後に、還元剤によりこれを還元する方法により、安定な蛍光誘導体に変換する方法を特徴とする。
これまでに、PA、ABEE、ABOE、ANTS等、多くの誘導体化試薬が報告され、キット化されてきた。しかしながら、これらの反応では、大過剰の誘導体化試薬を反応系に加える必要がある。これまでの分析法やキットでは、誘導体化後の標識化合物を大過剰の未反応の誘導体化試薬等から分離するためには、液-液抽出を繰り返す必要があり、多くの容器とピペットを使用する工程として、煩雑で手間がかかる作業となっていた。
また、除くべき誘導体化試薬が大過剰であるため、これを固相抽出で除こうとすると、大きな保持容量を必要とするため現実的でない上に、同じ部分化学構造をもつことが多い誘導体化試薬と標識化合物に保持力の差を得にくいという問題から、固相抽出の適用は困難である。そのため、未だ実用に耐える方法は知られていない。例えば、生化学工業の「ABEE糖組成分析キット」では、反応後に水200マイクロリットルとクロロホルム200マイクロリットルを加えて、激しく攪拌して遠心分離した後、水層を高速液体クロマトグラフィー分析に供することにより、誘導体の検出・測定を行う方法を示している。
【0075】
このように、液-液抽出を1回行った後、液体クロマトグラフィーにより分析を行うという方法にならざるを得ない理由としては、大過剰のABEEは、水だけを入れると、析出して、水層を回収する際に、微粒子として混入する可能性があることから、クロロホルム等の有機溶媒を加えて溶解させる必要があることが一因と考えられる。
液-液抽出を繰り返せば、標識物質であるABEEはクロロホルム層に移行し、水層中の糖由来のABEE標識化合物の純度が徐々に高まる。水層の可視・紫外波長領域の吸収あるいは蛍光を直接分析することによって糖誘導体の存在が検出・測定できる程度に、標識化合物を除くことができれば、物質の生成を調べるためのスクリーニングは大幅に効率化する。
【0076】
第13および第14に係る本発明の方法は、市販の固相抽出カラム等による標識化合物の高度な精製を行う際の前処理工程として用いることも可能となる。その際には、装置の多孔性材料として、細孔内部にいたる表面が種々の選択性をもつ固相を装着することにより、液-液抽出による前処理と、その後の固相抽出カラムによる高度精製を行うための装置を構築することも可能である。
このときの固相としては、逆相(オクタデシル(C18),オクチル(C8)、フェニル基等)、シリカゲル、アミノプロピル、強陽イオン交換相、弱陽イオン交換相、強陰イオン交換相、弱陰イオン交換相などを用いることができる。さらに、スクリーニングの結果を受けて、物質の構造情報を詳細に得るべき試料のみを選抜した後に、適宜、液体クロマトグラフィー・質量分析計(LC/MS,LC/MSMSなど)などを用いることにより、迅速に構造解析や定量を行うことができる。
【0077】
本発明は、いずれも公知の分析対象物質、誘導体化試薬、分析手法を適切に組み合わせることで、交換分配反応を行わせるカラムの空間で物質の誘導体化反応、液-液抽出反応を行った後、機器分析装置での検出、定量分析を行うことができる。このようなスクリーニングからその後の物質同定・定量における効率的な液-液抽出へのニーズに対し、的確、かつシームレスに対応することが可能である。
【0078】
このように、液-液抽出法の効率化は、物質を生成あるいは分解する反応の検出・測定法に直結する。例えば、還元糖の検出・測定法は、還元糖の生成あるいは分解を特徴とする糖質関連反応の検出・測定にも活用することができる。従って、環境中の微生物や食品中から有用酵素を探索する場合、前記第19〜26の発明に記載した検出・測定法を用いてその反応物を検出・測定することを特徴とするスクリーニングキットを構築できる。
また、外来遺伝子断片をベクターに入れてライブラリー化し、これを微生物中で発現させて各遺伝子がコードするタンパク質を発現させて、目的とする活性をもつ酵素をコードする遺伝子をスクリーニングする場合にも、第19〜26の発明に記載した検出・測定法を用いてその反応物を検出・測定することを特徴とするスクリーニングキットを構築できる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
プラスチックカラム(1ミリリットル リザーバー、ポリプロピレン製、内径5.7ミリメートル、外径7.6ミリメートル、長さ57ミリメートル、底部にポリエチレンフリット(孔径20マイクロメートル、厚さ1.5ミリメートルを2枚)を固定したもの)、あるいはこのカラムに適宜、該カラム上部からセルロース濾紙(東洋濾紙、5A)を3層、あるいはガラス濾紙(ワットマン ジャパン株式会社、GF/C)を5層重ねて詰めたものを用意した。
次いで、その上部から水1ミリリットルを加え、これをプラスチックシリンジおよびアダプターを用いて加圧して全量を除いた後、表1の(1)に示す液体500マイクロリットルを上部から加えて、適宜、シリンジおよびアダプターを用いて加圧して液体を下端から排出し、水面が底部材料の上端にかかる程度のところで加圧を止め、下端開口部に栓(バイオラド社のフィメールルアープラグ)を付けた。
その後、上端から、表1の(2)に示す液体1.00ミリリットルを加えて、下端の栓を外して下端開口部を開放した後、静置し、1分後および10分後に自然流下による液面の低下を測定した。下端の栓を外す前の液面の高さとの比を百分率で示し、3本の装置について測定を行い、平均値および標準偏差を示した(表1)。
【0081】
【表1】

【0082】
実験の結果、セルロース濾紙あるいはガラス濾紙を配置して、水で前処理することにより、試験した殆どの有機溶媒を9割以上ブロックすることが明らかとなった。また、用いたポリエチレンフリットは、有機溶媒で前処理することにより、水を100%ブロックしたが、水で前処理した際には、有機溶媒を十分にはブロックせず、10分後には全量が排出された。
【0083】
(実施例2)
プラスチックカラム(6ミリリットル リザーバー、ポリプロピレン製、内径13ミリメートル、外径15ミリメートル、長さ79ミリメートル、底部にそれぞれPTFE多孔質フィルター(孔径1.0マイクロメートル)あるいは1PSを固定したもの)の下端に閉栓(バイオラド社、フィメールルアープラグ)をした後、表2の(1)に示す液体の組み合わせをカラムの上端から加えて、数秒間ボルテックスミキサーにより攪拌した後に下端を開栓し、実施例1と同様の方法で、1分後および5分後の液体の流下を観察した。
その結果、水は排出されず、有機溶媒は表2のとおり迅速に排出された。
【0084】
【表2】

【0085】
(実施例3)
実施例2と同様に、プラスチックカラム(6ミリリットル リザーバー、ポリプロピレン製、内径13ミリメートル、外径15ミリメートル、長さ79ミリメートル、底部にそれぞれPTFE多孔質フィルター(孔径1.0マイクロメートル)あるいは1PSを固定したもの)の下端に閉栓(バイオラド社、フィメールルアープラグ)をして、表3の(1)に示す溶媒の組み合わせをカラムの上端から加えた。次いで、数秒間ボルテックスミキサーにより攪拌してから5秒ほど装置を直立させて静置した後に、装置を斜め45度に傾け、底部材料に酢酸エチル層が接触するようにした後に、下端を開栓して、1分後および5分後の液体の流下を観察した。水位の測定は1秒程度の間、装置を直立させて行い、直ちに角度を45度に戻した。
その結果、水は排出されず、表3に示すとおり、有機溶媒は迅速に排出された。
【0086】
【表3】

【0087】
(実施例4)
プラスチックカラム(1ミリリットル リザーバー、ポリプロピレン製、内径5.7ミリメートル、外径7.6ミリメートル、長さ57ミリメートル、底部にポリエチレン多孔質フィルター(孔径20マイクロメートル、厚さ1.5ミリメートルを2枚)を固定したもの)に、同じ材質のポリエチレン多孔質フィルターの中央に直径1.5ミリメートル程度の穴を開けたものを7枚、装置上部から入れて底部のポリエチレン多孔質フィルターおよび上部から入れた7枚の多孔質フィルターが接触するように重層した。
これにヘキサン1ミリリットルを加えて、シリンジおよびアダプターを用いて装置上部から加圧して液体を排出した後、下端に取り付けた栓(バイオラッド社、フィメールルアープラグ)を閉めて、上部から水10マイクロリットルを加え、さらにヘキサンを500マイクロリットル加えて、上部にポリプロピレン製の栓(ポリプロピレン製チップを改良して作製した栓)をした後、上下反転を5回繰り返した。
その後、装置の上端の栓、装置の下端の栓の順に開けて、下端から排出される液を回収した。カラム内のヘキサンが300マイクロリットル以上減少した時点で下端を閉栓し、さらに500マイクロリットルのヘキサンを上部から追加した後、上端の栓を閉じて、上下反転を行った。上下反転の際には、ヘキサン中に水滴が観察された。また、その後、上端の栓および下端の栓を順番に開き、下端から排出される液を回収した。800マイクロリットル回収した液を目視および水の添加により調べた結果、回収液は有機層(ヘキサン)より構成されており、水の排出は確認されなかった。
【0088】
(実施例5)
プラスチックカラム(1ミリリットルリザーバー、ポリプロピレン製、内径5.7ミリメートル、外径7.6ミリメートル、長さ57ミリメートル、底部にポリエチレン多孔質フィルター(孔径20マイクロメートル、厚さ1.5ミリメートルを2枚)を固定したもの)に、セルロース濾紙(東洋濾紙、5A)をカラム内径に合うように円状に切ったものを2枚重ねて底部のフィルターに接触するように配置した。
続いて、同濾紙を切り取り、二重に折って高さ2.6センチメートルの円筒状にし、下部数ミリメートルに切れ目を入れて内側に折ったものを、上からカラムの中に入れて、底部セルロース濾紙に接触するようにした。さらに、先に入れた円筒状の濾紙の内径に合うように円状に切った同じ濾紙を2枚、カラム上部から入れて、円筒状の濾紙を安定化させるとともに、底部濾紙と側部円筒濾紙との接触を強化した。これに1ミリリットルの水を加えて、シリンジおよびアダプターを用いて装置上部から加圧して液を排出した後、下端に栓(バイオラッド社、フィメールルアープラグ)を閉めて、上部からクロロホルム200マイクロリットルおよび水400マイクロリットルを加えて、上部からピペットを差し込み、液を出し入れして混合した。
【0089】
その後、下端の栓を開き、下端から排出される液を回収した。水が300マイクロリットル溶出された時点で、下端を閉め、400マイクロリットルの水を加えた後、再度ピペッティングを行った後、下端を開き、下端から排出される液を回収するという作業を二回繰り返した。回収液が800マイクロリットルになった時点で回収液の組成を目視およびクロロホルムの添加により確認した結果、回収液は水であり、クロロホルムの排出は確認されなかった。
【0090】
(実施例6)
1.5ミリリットル容ねじ蓋付きプラスチックチューブに水を10.0マイクロリットル入れた後、予め40℃程度に暖めて内容物を溶解しておいたABEE反応試薬(生化学「ABEE糖組成分析キット」)を40.0マイクロリットルずつ加えて、蓋を閉めて数秒ボルテックスミキサーにより攪拌した後、80℃のヒートブロック中で30分間反応させた。
プラスチックカラム(1ミリリットルリザーバー、ポリプロピレン製、内径5.7ミリメートル、外径7.6ミリメートル、長さ57ミリメートル、底部にポリエチレン多孔質フィルター(孔径20マイクロメートル、厚さ1.5ミリメートルを2枚)を固定したもの)に対して、ジクロロメタンを500マイクロリットル流した後、下端をバイオラッドの栓(フィメールルアープラグ)で閉じた。その後、反応混合物に150マイクロリットルの水を加えて希釈して、抽出用の500マイクロリットルのジクロロメタンとともに投入し、ボルテックスミキサーにより数秒攪拌した後に、下端を開けて、自然流下によりジクロロメタンを排出させた。
【0091】
続いて、上部から200マイクロのジクロロメタンを加えて、底部のポリエチレンフィルターを洗浄し、その後、下端の栓を閉じて、ジクロロメタンを500マイクロリットル加えた後、ボルテックスミキサーにより数秒攪拌し、下端の栓を開けて自然流下によりジクロロメタンを排出する作業を行った。この工程を所定回繰り返した(工程の少ない順に試料をA(0回)、B(1回)、C(2回)およびD(3回)とする)後、カラム上部を傾けて水層を回収し、そのうち10.0マイクロリットルを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。
【0092】
分析データにおけるABEEのピーク面積から、ABEEの濃度を概算する際には、下記の検量線および換算係数を用いて計算した。
【0093】
検量線
(ABEEの濃度(マイクロモル濃度)) = 0.118× (蛍光検出器のピーク面積) −1.53
【0094】
換算係数
(UV検出器におけるピーク面積)=(蛍光検出器におけるピーク面積) × 3.90 × 10−3
【0095】
その結果、試料A、B、CおよびDのABEE濃度は、A=2.91ミリモル濃度(残存率100%とする)、B=103マイクロモル濃度(試料Aと比較した場合の残存率 3.54%)、C=9.67マイクロモル濃度(試料Aと比較した場合の残存率 3.32×10−1%)、D=1.07マイクロモル濃度(試料Aと比較した際の残存率 3.68×10−2%)となった。
【0096】
HPLC装置・条件
装置:カラム:株式会社資生堂製 CAPCELL PAK C18 (UG120Å、5
マイクロメートル、カラムサイズ:1.0ミリメートルφ×250ミリメートル)
ポンプ:東ソー株式会社製PX−8020
ポンプコントローラ:東ソー株式会社製 CCPM−II
デガッサ:東ソー株式会社製 SD−8022
カラムオーブン:東ソー株式会社製 CO−8020
紫外・可視光検出器:東ソー株式会社 UV−8020
蛍光検出器:東ソー株式会社製 FS−8020
解析:ADInstruments社製 PowerChrom v2.0.7
【0097】
条件:カラム温度 45℃
流量 1ミリリットル/分
溶離液A:0.02% トリフルオロ酢酸水溶液
溶離液B:アセトニトリル
グラジェント条件
0分 B濃度 18%
5分 B濃度 20%
5.01分 B濃度 50%
10分 B濃度 50%
10.01分 B濃度 18%
20分 B濃度 18%
【0098】
検出:UV(305ナノメートル)
蛍光(励起 305ナノメートル、蛍光 360ナノメートル)
【0099】
(実施例7)
グルコースを0,200,400,600および800マイクロモル濃度の水溶液として、各10.0マイクロリットルずつ用意し、別々の1.5ミリリットル容ねじ蓋付きプラスチックチューブに入れた。その後、予め40℃程度に温めて内容物を溶解しておいたABEE反応試薬(生化学「ABEE糖組成分析キット」)を40.0マイクロリットルずつ加えて、蓋を閉めて数秒ボルテックスミキサーにより攪拌して、80℃のヒートブロック中で30分間反応させた。
プラスチックカラム(1ミリリットルリザーバー、ポリプロピレン製、内径5.7ミリメートル、外径7.6ミリメートル、長さ57ミリメートル、底部にポリエチレン多孔質フィルター(孔径20マイクロメートル、厚さ1.5ミリメートルを2枚)を固定したもの)に対して、クロロホルムを200マイクロリットル流した後、下端を栓(バイオラド社、フィメールルアープラグ)で閉じた。次いで、反応混合物に100マイクロリットルの水を加えて希釈して、抽出用の500マイクロリットルのクロロホルムとともに投入し、ボルテックスミキサーにより数秒攪拌した後に、下端を開けて、自然流下によりクロロホルムを排出した。続いて、上部から200マイクロのクロロホルムを加えて、底部のポリエチレンフィルターを洗浄した。その後、下端の栓を閉じて、クロロホルムを500マイクロリットル加えた後、ボルテックスミキサーにより数秒攪拌し、下端を開けて自然流下によりクロロホルムを排出する作業を行った。
【0100】
この工程を3回繰り返した後、カラム上部を傾けて水層を回収し、9倍量のアセトニトリルを加えた後に固相抽出の試料とした。固相抽出カラム(バリアン社製「ボンドエルートNH2アミノプロピル(カラムサイズ50ミリグラム/1ミリリットル)」)を1ミリリットルのアセトニトリルで洗浄した後に、試料を添加し、適宜、上部からシリンジとアダプターを用いて加圧しながらカラムを通過させた。続いて、カラムを1ミリリットルの90%アセトニトリルで洗浄した後に、1.00ミリリットルの水でABEE化グルコース誘導体を溶出させた。これを紫外・可視分光光度計(ベックマン社製、DU−600、セル長1.00センチメートル)を用いて305ナノメートルの吸光度を測定し、検量線を作成した。
【0101】
その結果、下記の検量線(1)が得られ、標識化合物の検出・測定が可能であることが示された。また、同じ試料を水で4倍に希釈し、蛍光分光光度計(株式会社島津製作所製、RF−5300PC)を用いて励起波長305ナノメートル、蛍光波長360ナノメートルで分析した結果、検量線(2)が得られ、蛍光分光光度計による検出・測定が可能であることが示された。
【0102】
検量線(1)
(原液中のABEE化グルコースのマイクロモル濃度)
=2.17 × 104 ×(305ナノメートルにおける吸光度)−439
【0103】
検量線(2)
(原液中のABEE化グルコースのマイクロモル濃度)=77.9 ×(蛍光強度)−4.86
【0104】
(実施例8)
市販セルラーゼ製剤中に混入する別の酵素活性(キシラナーゼ活性)を探索するため、市販セルラーゼ製剤(明治製菓製、「メイセラーゼP−1」)10.0ミリグラムを500マイクロリットルの水に溶解し、酵素液とした。そのうちの10.0マイクロリットルを、反応用ストック390マイクロリットルに加えて反応液とした。
反応液は、20ミリモル濃度(最終濃度)の酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、1.00%(最終濃度)のキシラン(Birchwood Xylan(Sigma社製))および10.0マイクロリットルの酵素液を含む。
ボルテックスミキサーにより反応液を混合した後、37℃で1時間反応を行った。また、コントロールは、酵素液を入れる前に37℃で1時間静置した後に、氷冷し、酵素液10.0マイクロリットルを加えたものを用いた。それぞれを限外濾過(ミリポア社製、ウルトラフリー−MC、10,000NMWL Filter Unit、4,700×g、4℃、20分間)し、その濾液を回収した。
【0105】
このうち10.0マイクロリットルを用いて、実施例7の方法に準じてABEE化および精製を行い、305ナノメートルの吸光度を分析した結果、コントロールは0.183、反応させた試料は0.371であった。このことから、ABEEにより誘導体化されうる還元糖の遊離が示唆された。また、試料を1.6倍に水で希釈し、蛍光分光光度計(株式会社島津製作所製、RF−5300PC)を用いて励起波長305ナノメートル、蛍光波長360ナノメートルで分析した結果、コントロールの値は23.1、反応させた試料の値は305を示した。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】Aは液-液抽出あるいは固-液抽出用の装置の概念図を、Bは装置に設ける栓の態様の説明図を示す。
【図2】Aは液-液抽出用の装置の概念図を、Bは装置に設ける栓の態様の説明図を示す。
【図3】液-液抽出用の装置の底部およびカラム高さ方向に固定された細孔をもつ材料の配置の概念(断面図)を示す。図中の(1)、(2)、(3)および(4)の全てについて、液-液抽出の際に上部に位置する液体が該材料に接触する特徴を有するものになっている。(6)は、互いに混合せず2層を形成する高密度液体と低密度液体の組み合わせを(5)に加えた際の概念図を示す。
【図4】A、B、Cは液-液抽出あるいは固-液抽出用の装置のハイスループット化への対応を示す。
【符号の説明】
【0107】
1:カラム(界面交換分配反応を行う空間)
2:液体を注入するための装置上部の開口
3:下部の閉栓可能な開口
4a:装置下部から排出したい液体と親和性の高い多孔性材料
4b:装置下部から排出したい液体と親和性の高い、装置下部から連続する多孔性材料の層
5:装置上部の開口および装置下部の開口を閉栓するための栓
6:装置下部の開口を閉栓するための回転式栓
7:上層の液
8:下層の液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに混合せず2層を形成する高密度液体と低密度液体の組み合わせによる液-液交換あるいは固-液交換分配抽出用の装置であって、液-液界面における溶質の交換分配反応を行う空間を有するカラムと、該空間へ両液体を注入するための上部の開口と、一方の液体を排出するための下部の閉栓可能な開口を有し、下部の開口と溶質の交換分配反応を行う空間の間に、装置下部から排出したい液体と親和性が強く、カラムの空間に滞留させたい液体と親和性が弱い多孔性材料を装着したことを特徴とする装置。
【請求項2】
装置上部の開口を閉栓する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
多孔性材料が装置下部の開口手前から溶質の交換分配反応を行うカラムの空間の側面まで連続して装着されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
装置上部の開口を閉栓する機能を有することを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置を用いて液-液交換分配抽出を行うにあたり、装置下部から排出したい液体が装置内部に滞留させたい液体よりも密度が高い場合、装置に装着された多孔性材料に液-液抽出に用いる高密度液体のみを含浸させた後、高密度液体によって低密度液体から液-液分配抽出を行うことを特徴とする液-液交換分配抽出方法。
【請求項6】
液-液分配抽出操作中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、液-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項3に記載の装置を用いて液-液交換分配抽出を行うにあたり、装置下部から排出したい液体が装置内部に滞留させたい液体よりも密度が低い場合、装置に装着された多孔性材料に液-液抽出に用いる低密度液体を含浸させた後、低密度液体によって高密度液体から液-液分配抽出を行うことを特徴とする液-液交換分配抽出方法。
【請求項8】
液-液分配抽出操作中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、液-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の装置を用いて固-液交換分配抽出を行うにあたり、装置空間内に滞留させたい液体を多孔性材料が目詰まりしない固体試料に置きかえて固-液抽出を行うことを特徴とする固-液交換分配抽出方法。
【請求項10】
固-液交換分配抽出中に装置上部の開口を閉栓して行うことにより、固-液分配抽出操作中に装置上部からの液体の流出を防止することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の装置を並列に複数個連結したことを特徴とする液-液交換分配抽出用の装置。
【請求項12】
請求項3または4に記載の装置を並列に複数個連結したことを特徴とする液-液交換分配抽出用の装置。
【請求項13】
物質へ誘導体化試薬を作用させ標識化合物に変換して反応を行った後、反応混合物に存在する未反応の誘導体化試薬を含む測定妨害物質を液-液抽出によって除去する操作を請求項1〜4と請求項11〜12のいずれかに記載の装置を用いて行うことを特徴とする標識化合物の精製法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、物質を標識化合物へ変換する反応を装置内部で行うことを特徴とする物質の誘導体化法。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載の方法において、液-液抽出後の標識化合物を含む液体を装置内部に留めたまま機器分析装置で分析を行う方法。
【請求項16】
紫外・可視吸収特性を付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を分光光度計により行うことを特徴とする請求項15に記載の検出・定量法。
【請求項17】
蛍光発光特性を付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を蛍光分光光度計により行うことを特徴とする請求項15に記載の検出・定量法。
【請求項18】
強いイオン化特性と特徴的なプロダクトイオンを与える特性の両方あるいはいずれかを付与することを特徴とする誘導体化試薬を用い、標識化合物の検出・定量を質量分析計により行うことを特徴とする請求項15に記載の検出・定量法。
【請求項19】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項13に記載の標識化合物の精製法。
【請求項20】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項14に記載の物質の誘導体化法。
【請求項21】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項15に記載の分析方法。
【請求項22】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項16に記載の検出・定量法。
【請求項23】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項17に記載の検出・定量法。
【請求項24】
物質が還元糖であることを特徴とする請求項18に記載の検出・定量法。
【請求項25】
誘導体化試薬が還元的アミノ化反応試薬であることを特徴とする請求項19〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
誘導体化試薬として4−アミノ安息香酸エチルエステルと還元剤を用いることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1〜4のいずれかに記載のカラムと、該カラムの下端の開口を閉栓する機能を備えた栓、並びにこれらの複数個を連結し組み立てるための器具を有していることを特徴とする液-液交換あるいは固-液交換分配抽出用のハイスループット化キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−38130(P2007−38130A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224916(P2005−224916)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】