説明

液体を脱気することによる注射溶液の製造方法及び酸化感受性物質の安定化のためのその使用

本発明は化学、特に医薬製造、及びより具体的に脱気、特に液体の脱気、特に同時に不活性ガスを攪拌し、溶液を強い吸引にかけ、そして超音波作用にかけ、そして35℃から60℃の範囲の温度で加熱することからなる水性溶媒の脱気に関する。本発明の方法は、食品又は医薬製品の安定水溶液を産生するため、その酸素含量が4〜0.4mg/lである水性溶媒を得ることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分野、そして特に医薬製造の分野に関する。
【0002】
本発明の対象は、より具体的に、フェノール性物質、より具体的に注射用パラセタモール溶液を含む液体の脱気方法、特に脱酸素方法であり、その酸素含量をかなり低い値、しばしば1mg/l未満にすることを目的とする。
【0003】
本発明の対象は、より具体的に、パラセタモールなどの酸化感受性有機化合物を安定化するためのこのような方法などの使用である。
【背景技術】
【0004】
フェノール性質の特定物質、例えばパラセタモール又はアナログの安定性は、溶媒中に溶液又は懸濁状態で存在する場合に、当該溶媒中に残存する酸素の存在により影響されるということが知られている。
【0005】
水性溶媒中のドブタミン溶液の安定性を保証する可能性は、特にフランス特許2740338号において記載される。当該方法は、それにも関わらず、大量のアスコルビン酸の添加を必要とし、これは、アスコルビン酸又はその誘導体の薬理活性のため、必然的に副作用を導く。
【0006】
アドレナリン、ノルアドレナリン、又はパラセタモールなどのフェノール性分子の溶液について問題点がある。安定性を保証するためにこの点について様々な方法がすでに記載されてきた。したがって、同一出願人の欧州特許EP0858329号は、フェノール性分子の水溶液を安定化する方法であって、このような溶液を脱酸素することからなる方法を記載する。
【0007】
水溶液を脱酸素するために、幾つかの手段が可能である:
水を沸点近くの温度まで加熱すること。加熱は酸素などの溶解していたガスの溶解性を減らす効果を有する。しかしながら、この技術は、ときに不完全であり、そして生産現場で又は大規模で使用することが難しいことがある。
溶液を高吸引下に配置すること。しかしながら、その効力にも関わらず、この方法は、数時間にもなることがある長時間のあいだ吸引を維持することを必要とする。その結果、この方法は、生産の要件として不適当である。
窒素又はアルゴンなどの不活性ガスを通気すること。当該方法は、本出願人の国際特許出願(WO00/07231)に記載される。当該特許出願は、パラセタモール溶液の酸素含量を1mg/ml未満に低減する可能性を記載する。抗酸化剤の存在下ですら、2mg/lほどの濃度でフェノール性分子の再酸化が生じうるという事実のため、低酸素含量は必須である。
【0008】
さらに、当該方法は、不活性ガスをバブリングすることに加え、ひとたびパッケージングされたなら溶液を吸引下に維持することをさらに必要とする。なぜなら、こうして産生された減少は、溶液中に残存する微量酸素の除去を促進するからである。
超音波の使用。当該技術は特に、高速液体クロマトグラフィー用の溶液又は溶媒を脱気するのに使用されるということが知られている。しかしながら、当該技術は、特に水/空気の界面における超音波により引き起こされる振動がガスの再溶解を促進するため、十分に効果的であるということはない。
【0009】
その結果、すでに記載されたどの方法も、全体として満足行くものではなく、そして結果として脱気技術は、特に注射用のパラセタモール溶液については改善する必要性がある。
【発明の開示】
【0010】
当該方法は、本発明の対象である新規方法によって実質的に解決された。フェノール性物質の注射用の水性溶液又は懸濁液を安定化する方法は、相乗効果を得ることにより、以前に記載された脱気方法、つまり、加熱及び/又は高吸引下への配置及び/又は不活性ガスのバブリング及び/又は超音波の使用のうちの少なくとも2つを、同時にかつ特定の手順で組み合わせることを特徴とする。溶媒中の残存ガス、そして特に酸素の含量は、0.4〜4mg/lで変わりうる。こうしてその単純かつ迅速な履行を通して、本方法の効力は、驚くべきことに、低含量の残存ガス、特に酸素をもたらし、これは迅速に得られる。その結果相乗効果が観察され、そして使用された様々な手段の単なる相加効果ではない。
【0011】
本発明に従った方法の別の利点は、任意の体積の溶液に適用することができるという事実、及び酸化感受性物質、例えばパラセタモールなどのフェノール性物質の大量の溶液のバルク製造のために使用される大量のタンクを脱気する適用を発見するという点にある。
【0012】
別の利点は、本発明に記載される方法は、容器への分配後、そして場合により溶液を含む容器に栓をし、そして場合により圧着する前にのみ、行なわれうる。超音波にかける期間がかなり短いことを考慮すると、本発明に記載される方法はかなり迅速かつ簡単に適用することができる。
【0013】
溶液の体積及び脱気される容器の大きさに依存して、超音波発生器のパワーを調節すること、そして適切な超音波振動子(ソノトロード(sonotrode))を用いることが望ましい。
【0014】
本発明に記載される方法の現在好ましい特徴に従って、20〜100kHzで変化する振動数で作動する超音波真動機が使用され、そして当該出力は、容器の体積にしたがって、例えば小さい容器では0〜130ワットのあいだに設定することができる。
【0015】
1〜25mm、例えば100mlの容器用には3mm×45mm又は6mm×60mmのオーダーの直径を有するソノトロード、ソノトロードのサイズに依存して、15〜50W、特に15〜25W又は35〜50Wで変化する出力が、好ましくは使用される。
【0016】
超音波への暴露期間は、10秒〜120秒、そして好ましくは15秒〜60秒で変化することがある。
【0017】
本手順は、好ましくはベーンポンプ(vane pump)などの適切な吸引ポンプを用いて減圧下で行なわれる。最初の又は残存する酸素含量は、酸素含量の値をmg/lの値で与えるClark原理に従って作動する酸素メーターの助けを借りて計測される。スケールは、0点(還元溶液)と、蒸留水の酸素飽和含量とのあいだで、溶媒の温度及び大気圧を考慮に入れて調整される。酸素含量は、温度と圧力の関数としてチャートを用いることにより計算される。溶媒の温度は、1/10度まで電子温度計を用いて計測される。
【0018】
水性でありそして酸化可能な物質を含む溶液又は分散液は、例えば125mlのコンテナ又はガラス容器に分配されて100mlまで入れられる。
【0019】
第一の例では、本発明に従った方法の効力は、本発明に従った脱気技術のため得られる残存酸素濃度を決定するために、酸素感受性活性成分を含まない蒸留水溶液で測定された。
【0020】
第二の例では、本発明に従った方法は、酸化感受性物質、例えばフェノール性物質、例えばアドレナリン、アドレナロン、エフェドリン、エピネフリン、スプレナリン、アドレノクローム、プロパフェノン、ドブタミン、又は水性芳香族物質、例えばフェノチアジン、リボフラビン、テトラヒドロ-10-アミノアクリジン、アンスラシクリン、テトラサイクリン、及びアナログなどの水溶液、及び特にパラセタモールの水溶液を用いて、同じ特徴で行なわれた。後者は、好ましくは、100mlあたり0.5〜10gで、そしてより好ましくは100mlあたり0.5〜2.5gで変化する濃度を有する。
【0021】
本発明に記載される方法により取り除かれる酸素の量は、超音波への暴露期間と、吸引下におかれた期間の一次関数である。当該酸素の量は、超音波出力の一次関数でもある。当該酸素量は、溶媒の温度にも依存する。当該方法の使用後の酸素の残存量は一般的に0.4から0.6mg/lである。
【0022】
例えば窒素、アルゴン、キセノン又は他の希ガスなどの使用される不活性ガスに関わらず、酸素残存量の有意差は観察されない。容器の外からソノトロードを配置することによっても、同じ結果で、当該手順を実行することができる。
【0023】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図する。これらはいかようにも本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0024】
実施例I:吸引と超音波の組み合わせの作用
材料
超音波発生器は、20kHzで作動され、0〜130ワットで調節された。
それぞれ、超音波振動子(ソノトロード)の直径3mm×45mm又は6mm×60mm、出力15〜25W又は35〜50Wであった。3×10-3mbarの最大吸引をデリバリーする2段階の吸引ポンプを用いた。酸素含量をmg/l単位の値を与えるClark原理に従って作動する酸素メーターの助けを借りて、酸素含量を測定した。スケールは、0点(還元溶液)と、蒸留水の酸素飽和含量とのあいだで、溶媒の温度及び大気圧を考慮に入れて調整された。酸素含量は、(温度と圧力の関数として)チャートにより与えられる。
当該装置は、1/10度まで電子温度計を用いて行なわれた。液体は、例えば125mlのガラス容器に分配されて100mlまで入れられた。
【0025】
方法
容器を100mlの蒸留水で満たし、ここで空気を酸素含量の平衡が達成されるまで通気した。弾性栓に作成した穴を通して容器内へとソノトロードを入れた。そして容器を吸引下におくために針を指し、そしてこの目的のために、つぶれることなく吸引に耐えることができるように設計された柔軟性のあるチューブにより吸引ポンプへと繋がれた。全体は、当該容器が外気から密封されていることを保証するように設計されている。吸引のみ、2の異なるソノトロードによりデリバリーされる2パワーでの超音波のみ、及び吸引+超音波の組み合わせが試験された。実験時間は15秒、30秒、そして1分であった。
【0026】
この処理の直ぐ後に、容器内の吸引状態は、アルゴンなどの不活性ガスからなるカバーにより失われた。
【0027】
栓を開けた後に、当該酸素メータープローブが容器内に入れられ、そして計測が行なわれた。
【0028】
このカバーは、酸素の再汚染を避け、そして酸素の正確な計測を保証することが意図された。
【0029】
結果
水温:25.0〜25.1℃
開始時の水の酸素含量:8.35〜8.40mg/l
【0030】
【表1】

【0031】
取り除かれた酸素量は、超音波と吸引の両方にかけられた期間の一次関数であった。当該酸素量は、超音波の出力の一次関数でもあった。
【0032】
例として、30秒の処理では、吸引のみは、0.75mg/lの酸素を取り除き、低出力超音波は1.6mg/lの酸素を取り除く一方、当該2つの手順は6mg/mlの酸素を取り除き、これらの2つの方法を単に足した場合と比べて2倍超であった。
【0033】
実施例II:吸引、超音波、及び加熱の組み合わせ
材料と方法
これらは、前述の実施例の材料と方法と同一であるが、水温を変化させた。40℃、45℃、又は50℃の温度で平衡化した後に計測を行なった。
【0034】
結果
開始時点の水温:21.5〜21.6℃
開始時点の水中の酸素含量:8.7〜8.9mg/l
【0035】
【表2】

【0036】
加熱の効果は明らかに示された。
1g/100mlのパラセタモール水溶液の場合、吸引を適用する一方で、超音波流を35〜45Wの出力で適用した。
【0037】
15秒後に、酸素含量は1.3mg/lであり、そして30秒後に溶液中の酸素含量は0.6mg/lであったということが試験により示された。
【0038】
【表3】

【0039】
同様の試験を、他の濃度(2g又は5g/100ml)のパラセタモール溶液に行い、とてもよく似た結果を得た。ドーパミン又はノルアドレナリン溶液についても同じことが言えた。
【0040】
実施例3:不活性ガスのバブリングと超音波の組み合わせ
材料は、前述の試験の材料と同一である。
【0041】
直径20mmのマイクロバブリング装置を備えたアルゴンボトルを容器内に導入した。
ガス流速:約2l/分。
【0042】
方法
容器に蒸留水100mlを入れ、その中に、酸素含量の平衡が得られるまで空気をバブリングした。ソノトロードを容器、並びに焼結装置を備えたチューブに導入した。当該システムは密封されておらず、過剰アルゴン及び溶解したガスが逃げることを可能にした。
【0043】
アルゴンのみをバブリングする効果、及びバブリング+35〜45Wの超音波の組み合わせの効果が試験された。実験時間は15秒、30秒、及び1分であった。
【0044】
処理時間のすぐ後に、酸素計量プローブを容器内に入れ、そして計測を行なった。
【0045】
結果
水温:21.3〜21.4℃
開始時の水の酸素含量:8.50〜8.80mg/l
【0046】
【表4】

【0047】
アルゴンのバブリングの影響は顕著である。
【0048】
実施例IV:バブリング、超音波及び加熱の組み合わせ
材料と方法
試験方法は、前述の試験の方法と同一であるが、水の温度を変化させた。40℃〜45℃及び50℃に加熱した水の温度を平衡にした後に、計測を行なった。
【0049】
結果
開始時点の水温:20.2〜20.4℃
開始時点の水の酸素含量:8.80〜9.10mg/l
【0050】
【表5】

【0051】
当該方法の効率は、溶液がガス流に維持された場合にさらに増加した。
アルゴン又は窒素のバブリングにより得られる残存酸素含量において有意差は観察されなかった。
【0052】
本発明は、医薬投与形態、特に注射の中身の溶液、活性成分としてパラセタモールなどのフェノール構造を有する治療物質の製造における本発明の使用を発見した。本発明に従った方法は、脂肪エマルジョン、カロテノイドの分散液、又はリン脂質の溶液などの酸素により悪化され得る食品の水溶液又は分散液の製造にも役立つ。
【0053】
こうして得られた溶液又は懸濁液は、密封栓のされたすぐに使用可能なポーチ又は容器に分配される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素感受性フェノール性物質の水性溶液又は分散液を脱気する方法であって、0.4〜4mg/lのオーダーのガス、特に酸素、の残存含量を得るために、当該液体を超音波作用と、吸引及びマイクロバブリングから選ばれる少なくとも1の作用の両方にかけられる、前記方法。
【請求項2】
30〜60℃のオーダーの温度へと加熱する追加の処理が、前記液体に行なわれる処理と組合わされる、請求項1に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項3】
前記加熱が、40〜50℃で行なわれる、請求項1又は請求項2に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項4】
前記マイクロバブリングが、その除去が開始されるガスとは異なるガスをバブリングすることにより行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項5】
前記バブリングするガスが、アルゴン又は窒素である、請求項4に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項6】
ソノトロード(超音波振動子)が、0〜130Wで変化する出力をデリバリーする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項7】
前記ソノトロードによりデリバリーされる出力が、15〜50W、具体的に15〜25W又は35〜50Wで変化する、請求項6に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項8】
前記超音波発生器の振動数が20〜100kHzで変化する、請求項1又は2に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項9】
超音波への暴露期間が、容器及び前記ソノトロードの表面のサイズに従って、10秒〜120秒で変化する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の脱気方法。
【請求項10】
超音波への暴露期間が30秒〜1分で変化する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項11】
水性溶媒中の酸素の残存含量が、超音波、加熱、及び/又は不活性ガスのバブリングへの暴露期間に従って、0.4〜4mg/lで変化する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項12】
前記方法が0.4〜1.0mg/lの溶媒の完全な脱酸素を可能にする効果を有することを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の水性溶液又は分散液の脱気方法。
【請求項13】
0.4〜4mg/lで変化する酸素の残存含量のみを含む酸化感受性フェノール性有機物質の水性溶液又は分散液の製造への、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項14】
フェノール性化合物を含む酸化感受性食品又は医薬品の安定水性溶液又は分散液の製造への、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項15】
0.5〜10g/100mlの活性成分を含むパラセタモールの安定水溶液の製造への、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法の適用。

【公表番号】特表2009−518367(P2009−518367A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543865(P2008−543865)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002654
【国際公開番号】WO2007/065999
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508167689)
【Fターム(参考)】