説明

液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置

【課題】高粘度液体の吐出時に尾曳やミストの発生を抑えて画質劣化を抑制し、且つ液滴の吐出効率の低下を抑制することが可能な液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置を提供する。
【解決手段】ノズルのイナータンスをインク供給路のイナータンスよりも小さく設定し、ノズルは、ノズル開口から圧力発生室側に、開口断面積が当該ノズル中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部を形成し、ノズルストレート部の開口断面積をストレート面積Snとし、ノズルストレート部の長さをストレート長さLnとし、インク供給路の通路断面積を供給路面積Ssとし、インク供給路のリザーバー側接続口から圧力発生室側接続口までの長さを供給路長さLsとし、ストレート長さLnとストレート面積Snとの比(Ln/Sn)を、供給路長さLsと供給路面積Ssとの比(Ls/Ss)の1/2以下に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体吐出ヘッド、及び、この液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関するものであり、特に、より高粘度の液体に対応することが可能な液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから液体を吐出して着弾対象物に着弾させる装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(液体吐出ヘッドの一種。以下、単に記録ヘッドという。)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを吐出させて、記録紙や光ディスクの印刷面等の印刷媒体(着弾対象物の一種)に着弾させることで画像やテキスト等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置や電極形成装置等、各種の製造装置にも液体吐出装置のインクジェット技術が応用されている。
【0003】
上記液体吐出装置は、吐出するときの粘度が8mPa・s以上の液体(以下、高粘度液体)を吐出する用途にも用いられる場合がある。例えば、高粘度のインクは、低粘度のインク(8mPa・s未満)と比較して記録紙上で滲み難いため記録画像の濃度にムラが生じ難く乾燥も早いという利点がある。また、紫外線を照射することで硬化する紫外線硬化型インクや液晶等も高粘度液体の一種である。
【0004】
また、上記液体吐出装置では、記録媒体の所定の範囲をインクで埋める所謂ベタ印刷や文字等のテキスト印刷をより高速化するべく大きいインク滴も吐出することが望まれる一方で、記録画像等の高精細化の要請に応じるべくできるだけ小さいインク滴を吐出することも望まれる。そこで、ノズルの径を小さなインク滴が吐出可能な特定範囲の寸法に限定し、さらにはインク滴の吐出量を特定範囲の吐出量に限定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、記録ヘッドの幾何学的条件を満たして高粘度インクのメニスカスが固有振動しないように設定し、これによりインク滴の微小化を図る旨が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−090223号公報
【特許文献2】特開2005−119296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、液体吐出装置で上記の高粘度液体を吐出する場合、低粘度の液体を吐出する場合と比較して、ノズル内の液体が移動し難くなり、液体の吐出効率が低下し易い。また、液滴を吐出したとしても、吐出された液滴の進行方向後端部分が尾のように伸びる現象(以下、尾曳と称する。)が生じ易い傾向にある。尾曳が生じると、着弾対象物における着弾形状(ドット形状)が乱れる可能性がある。即ち、着弾形状は、画質上またはデバイスの性能上目標とする大きさの円形や楕円形であることが望ましいが、尾の部分が液滴本体の着弾部分に対して突出する状態で着弾すると、着弾形状が円形或いは楕円形ではなく歪んだ形になってしまう問題があった。また、尾の全体又は一部分が液滴本体から分離してミスト(サテライト滴)となった場合には、着弾対象物においてミストが液滴本体とは別の位置に着弾する可能性もある。このような着弾形状の乱れは、例えばプリンターで記録紙に画像を記録したときの画質の劣化の原因となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体の吐出時に尾曳やミストの発生を抑えて画質劣化を抑制し、且つ液滴の吐出効率の低下を抑制することが可能な液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体が吐出される複数のノズルと、各ノズルに連通する圧力発生室と、共通液体室から各圧力発生室へ液体を供給する液体供給路とを備え、圧力発生手段の駆動により圧力発生室内に圧力変動を与えて、圧力発生室に充填された液体をノズル先端のノズル開口から吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記ノズルのイナータンスを液体供給路のイナータンスよりも小さく設定し、
前記ノズルは、ノズル開口から圧力発生室側に、開口断面積が当該ノズル中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部を形成し、
前記ノズルストレート部の開口断面積をストレート面積Snとし、
前記ノズルストレート部の長さをストレート長さLnとし、
前記液体供給路の通路断面積を供給路面積Ssとし、
前記液体供給路の共通液体室側接続口から圧力発生室側接続口までの長さを供給路長さLsとし、
前記ストレート長さLnとストレート面積Snとの比(Ln/Sn)を、供給路長さLsと供給路面積Ssとの比(Ls/Ss)の1/2以下に設定したことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ノズルのイナータンスを液体供給路のイナータンスよりも小さく設定し、ノズルは、ノズル開口から圧力発生室側に、開口断面積が当該ノズル中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部を形成し、ノズルストレート部の開口断面積をストレート面積Snとし、ノズルストレート部の長さをストレート長さLnとし、液体供給路の通路断面積を供給路面積Ssとし、液体供給路の共通液体室側接続口から圧力発生室側接続口までの長さを供給路長さLsとし、ストレート長さLnとストレート面積Snとの比(Ln/Sn)を、供給路長さLsと供給路面積Ssとの比(Ls/Ss)の1/2以下に設定したので、高粘度液体であったとしても、尾曳やミストが発生する不都合を抑制することができ、着弾対象物における液滴の着弾形状をより理想的な状態に近づけることができる。これにより、例えば、インクジェット式記録装置においては、記録紙等の印刷面に画像等を記録した場合に、記録画像を観た者が視覚的に感じる粒状感(画像中に細かい粒が見えるような感覚)を抑制することができ、画質の向上に寄与することが可能となる。また、ノズルの流路抵抗が大きくならずに済み、ノズルからの吐出時に液体の圧力損失が大きくなること、ひいては液体の吐出動作の効率(吐出効率)が極端に低下することを避けることができる。
【0010】
上記構成において、前記ノズルのうちノズルストレート部よりも圧力発生室側には、開口断面積が圧力発生室側へ向かうにつれて次第に拡大するノズルテーパー部をノズルストレート部に連続させて備え、
該ノズルテーパー部の開き角を40度以上に設定することが望ましい。
【0011】
この構成によれば、ノズルテーパー部をノズルストレート部に連続させて備えるので、液体を圧力発生室からノズルストレート部へスムーズに導入することができ、液体の吐出効率の向上を図ることができる。
【0012】
さらに、上記構成において、前記圧力発生室における液体の粘度が8mPa・s以上であることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、圧力発生室における液体の粘度が8mPa・s以上であるので、着弾対象物上において液滴が広がり過ぎる不都合を抑えることができ、液滴の着弾形状を一層理想的な状態に近づけることができる。例えば、インクジェット式記録装置において、記録紙等の印刷面に画像等を記録した場合には、液滴を記録紙上で滲み難くすることができ、記録画像の濃度ムラの発生を抑えることができる。
【0014】
そして、本発明の液体吐出装置は、上記各構成の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】振動子ユニットの構成を説明する斜視図である。
【図4】ノズルの構成を説明する断面図である。
【図5】図2のA−A断面においてリザーバーからノズルまでのインク流路を示す模式図である。
【図6】(a)〜(c)は、インクの吐出状態の良否判断を示した表である。
【図7】(a),(b)は、ノズルの変形例の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1はプリンター1の構成を説明する斜視図である。このプリンター1は、筐体2の内部に、記録ヘッド3(本発明における液体吐出ヘッドの一種)とインクカートリッジ4とが装着されたキャリッジ5と、該キャリッジ5(記録ヘッド3)を記録紙(記録媒体の一種)6の紙幅方向、即ち、主走査方向へ往復移動させるキャリッジ移動機構8と、記録紙6を主走査方向と直交する副走査方向へ搬送する紙送り機構9とを備えて概略構成されている。
【0018】
キャリッジ5は、筐体2内で主走査方向に架設されたガイドロッド10に軸支されており、キャリッジ移動機構8の作動により、ガイドロッド10に沿って主走査方向に移動するように構成されている。また、キャリッジ5の上部にはカートリッジ装着部11が備えられ、該カートリッジ装着部11に対して、記録ヘッド3にインクを供給するインクカートリッジ4を着脱可能としている。さらに、キャリッジ5の下部には記録ヘッド3が記録紙6の上面に対向する状態で装着されている。
【0019】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド3は、ケース13と、このケース13内に収納される振動子ユニット14と、ケース13の底面(先端面)に接合される流路ユニット15等を備えている。ケース13は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット14を収納するための収納空部16と、インクをインクカートリッジ4から流路ユニット15へ導入するためのケース流路17が形成されている。振動子ユニット14は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル22とを備えている。なお、圧電振動子20は、図3に示すように、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードで駆動する。
【0020】
流路ユニット15は、流路形成基板25の一方の面にノズルプレート26を、流路形成基板25の他方の面に振動板27をそれぞれ接合して構成されている。また、この流路ユニット15には、リザーバー28(本発明における共通液体室に相当)と、インク供給路29(本発明における液体供給路に相当)と、圧力発生室30と、ノズル32とを設けている。そして、インク供給路29がリザーバー28と圧力発生室30との間を連通し、ケース流路17がリザーバー28とインクカートリッジ4との間を連通して、インクカートリッジ4内のインクがケース流路17からリザーバー28へ導入され、さらには各インク供給路29により圧力発生室30へ供給されるように構成されている。また、圧力発生室30のうち当該圧力発生室30を挟んでインク供給路29とは反対側には、ノズル32が連通され、圧力発生室30内に充填されたインクをノズル32から吐出可能としている。そして、インク供給路29から圧力発生室30を経てノズル32に至る一連のインク流路が、ノズル32の形成数に対応して複数形成されている。
【0021】
ノズルプレート26は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル32が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート26には、ノズル32を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル32によって構成されている。
【0022】
図4はノズル32の断面図である。ノズル32は、図4に示すように、当該ノズル32の先端、言い換えると、ノズルプレート26のうち記録紙6に対向するノズル面26a側に円形状のノズル開口32aを開設し、該ノズル開口32aからインクを吐出する。また、ノズル開口32aから圧力発生室30側には、開口断面積が当該ノズル32中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部34が形成され、ノズルストレート部34よりも圧力発生室30側には、開口断面積が圧力発生室30側へ向かうにつれて次第に拡大するノズルテーパー部35がノズルストレート部34に連続して形成されている。そして、ノズルストレート部34の開き角θは40度以上に設定されている。
【0023】
振動板27は、支持板38の表面に弾性体膜39を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板38とし、この支持板38の表面に樹脂フィルムを弾性体膜39としてラミネートした複合板材を用いて振動板27を作製している。この振動板27には、圧力発生室30の容積を変化させるダイヤフラム部40が設けられている。また、この振動板27には、リザーバー28の一部を封止するコンプライアンス部41が設けられている。
【0024】
ダイヤフラム部40は、エッチング加工等によって支持板38を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部40は、圧電振動子20の自由端部の先端面が接合される島部42と、この島部42を囲う薄肉弾性部43とからなる。コンプライアンス部41は、リザーバー28の開口面に対向する領域の支持板38を、ダイヤフラム部40と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー28に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0025】
島部42には圧電振動子20の先端面が接合されており、圧電振動子20の自由端部を伸縮させることで圧力発生室30の容積を変動させることができる。具体的に説明すると、縦振動モードの圧電振動子20は、充電によって振動子長手方向に収縮し、放電によって振動子長手方向に伸長する。したがって、充電によって振動子電位を上昇させると、島部42が圧電振動子20側に引っ張られ、島部42の周辺の薄肉弾性部43が変形して圧力発生室30が膨張する。また、放電によって振動子電位を下降させると、圧力発生室30が収縮する。そして、圧力発生室30の容積変動に伴って圧力発生室30に充填されたインクに圧力変動が生じ、この圧力変動を利用してインクをノズル32のノズル開口32aから吐出する。
【0026】
次に、上記プリンター1において、光硬化型インク等の高粘度インク(高粘度液体の一種)を吐出するための構成について説明する。上記プリンター1で高粘度インクを吐出する場合、低粘度インクを吐出する場合と比較してインクがノズル32内を移動し難くなり、ノズル開口32aから吐出され難い傾向にある。また、圧力発生室30に圧力変動が生じたときに、圧力発生室30内のインクがノズル32側よりもインク供給路29側へ流動してしまう(言い換えるとインクがインク供給路29へ逆流し易い)と、インクをノズル32から効率よく吐出させることができない。このため、ノズル32のイナータンスMnは、インク供給路29のイナータンスMsよりも小さく設定される(Mn<Ms)。イナータンスとは、流路におけるインクの移動し易さを示し、単位断面積あたりのインクの質量である。インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(1)で近似して表すことができる。
イナータンスM=(密度ρ×長さL)/断面積S ・・・ (1)
【0027】
また、インクがノズル32内を移動する際に受ける抵抗力やインク供給路29内を移動する(逆流する)際に受ける抵抗力のバランスによっても、高粘度インクの吐出状態の良否が影響される。この点に鑑み、発明者は、ノズル32の寸法とインク供給路29の寸法との関係が高粘度インクの吐出状態に及ぼす影響を検討した。具体的に説明すると、まずノズル32については、図4に示すように、ノズルストレート部34の開口断面積(ノズル32の最小開口断面積)をストレート面積Snとし、ノズルストレート部34の長さをストレート長さLnとした。また、インク供給路29については、図5に示すように、インク供給路29の通路断面積を供給路面積Ssとし、インク供給路29のリザーバー側接続口29a(本発明における共通液体室側接続口に相当)から圧力発生室側接続口29bまでの長さを供給路長さLsとした。そして、ストレート面積Sn、ストレート長さLn、供給路長さLsを変化させたとき、ノズル開口32aからのインクの吐出状態がどのようになるかを調べた。なお、圧力発生室30におけるインクの粘度を8mPa・s以上に設定し、また、インク供給路29を深さd=80μm、幅w=60μmの矩形状断面に設定した。
【0028】
図6は、ノズルストレート部34の各寸法(ノズル開口32aの開口径、ストレート長さLn)およびインク供給路29の供給路長さLsを変化させ、このときのインクの吐出状態の良否判断を示した表である。この表においては、「○」は記録紙6の印刷面における着弾形状が許容形状である場合、且つ吐出効率が良好(予め設定した許容範囲内)である場合を示す。なお、許容形状には、インク滴の着弾形状が真円に近く最も理想な形状の他、尾曳やサテライト滴の発生により楕円形状や達磨形状になったとしても、記録画像の画質上問題がない程度で歪が収まっている場合を含む。また、「△」は、吐出効率が良好であったとしても、尾曳が長く発生し、記録画像の画質に悪影響を及ぼす虞がある場合を示す。さらに、「×」は、インク滴の着弾形状の良否に拘らず、吐出効率が不良である場合を示す。
【0029】
図6に示すように、ノズルストレート部34のストレート長さLnを最も短い15μmとした場合には、ノズル開口32aの開口径(言い換えるとストレート面積Sn)の大小および供給路長さLsの長短に拘らず、「○」となるインク滴の吐出結果を得た。これは、インクがノズルストレート部34から受ける抵抗力の影響が、インク供給路29から受ける抵抗力の影響よりも小さく抑えられ、これにより、8mPa・s以上の高粘度インクであったとしても、ノズルストレート部34内を移動し易くなっているためであると考えられる。一方、ノズルストレート部34のストレート長さLnを最も長い30μmとした場合には、ノズル開口32aの開口径(ストレート面積Sn)の大小および供給路長さLsの長短に拘らず、「△」あるいは「×」となるインク滴の吐出結果になり、良好なインク滴の吐出状態を得ることができなかった。
【0030】
そして、図6に示す吐出状態の良否判断に基づいて検討した結果、ストレート長さLnとストレート面積Snとの比(Ln/Sn)を、供給路長さLsと供給路面積Ssとの比(Ls/Ss)の1/2以下に設定すれば、「○」となる吐出結果を得られることが判った。すなわち、次式(2)および(3)
Mn<Ms ・・・・・・・・・・・・・ (2)
Ln/Sn≦(Ls/Ss)/2 ・・・ (3)
を満たせば、高粘度インクであったとしても、尾曳やミストが発生する不都合を抑制することができ、記録紙6におけるインク液滴の着弾形状をより理想的な状態に近づけることができる。これにより、記録紙6の印刷面に記録された記録画像を観た者が視覚的に感じる粒状感(画像中に細かい粒が見えるような感覚)を抑制することができ、画質の向上に寄与することが可能となる。また、ノズル32の流路抵抗が大きくならずに済み、ノズル32からの吐出時にインクの圧力損失が大きくなること、ひいてはインクの吐出動作の効率(吐出効率)が極端に低下することを避けることができる。
【0031】
また、ノズル32のうちノズルストレート部34よりも圧力発生室30側にはノズルテーパー部35を備え、該ノズルテーパー部35の開き角θを40度以上に設定したので、インクを圧力発生室30からノズルストレート部34へスムーズに導入することができ、インクの吐出効率の向上を図ることができる。さらに、圧力発生室30におけるインクの粘度を8mPa・s以上とすれば、記録紙6上においてインク滴が広がり過ぎる不都合を抑えることができ、インク滴の着弾形状を一層理想的な状態に近づけることができる。そして、インク滴を記録紙6上で滲み難くすることができ、記録画像の濃度ムラの発生を抑えることができる。
【0032】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。例えば、本発明は、上記実施形態で例示した高粘度インクには限らず、液晶や電極材などの高粘度液体を吐出する場合にも好適である。
【0033】
さらに、上記実施形態では、ノズルテーパー部35を備えたノズル32を一例として説明したが、これには限られない。要は、ノズルのうちノズル開口32aから圧力発生室30側に、開口断面積がノズル中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部34を備えていれば、どのようなノズルであってもよい。例えば、図7(a)に示すように、ノズル32のうちノズルストレート部34よりも圧力発生室30側に、開口断面積がノズルストレート部34よりも広い円筒状のノズル導入部45を設けてもよい。また、図7(b)に示すように、ノズル32が筒状のノズルストレート部34のみで構成されていてもよい。このとき、ノズル32の全長がストレート長さLnとなり、ノズル32の開口断面積がストレート面積Snとなる。
【0034】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。
【0035】
そして、本発明は、圧力発生室に充填された液体をノズル先端のノズル開口から吐出可能な液体吐出装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレー製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等の他の機器にも適用することができる。そして、ディスプレー製造装置では、色材吐出ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を吐出する。また、電極製造装置では、電極材吐出ヘッドから液状の電極材料を吐出する。チップ製造装置では、生体有機物吐出ヘッドから生体有機物の溶液を吐出する。
【符号の説明】
【0036】
1…プリンター,3…記録ヘッド,20…圧電振動子,28…リザーバー,29…インク供給路,30…圧力発生室,32…ノズル,32a…ノズル開口,34…ノズルストレート部,35…ノズルテーパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出される複数のノズルと、各ノズルに連通する圧力発生室と、共通液体室から各圧力発生室へ液体を供給する液体供給路とを備え、圧力発生手段の駆動により圧力発生室内に圧力変動を与えて、圧力発生室に充填された液体をノズル先端のノズル開口から吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記ノズルのイナータンスを液体供給路のイナータンスよりも小さく設定し、
前記ノズルは、ノズル開口から圧力発生室側に、開口断面積が当該ノズル中の他の箇所よりも狭く設定された筒状のノズルストレート部を形成し、
前記ノズルストレート部の開口断面積をストレート面積Snとし、
前記ノズルストレート部の長さをストレート長さLnとし、
前記液体供給路の通路断面積を供給路面積Ssとし、
前記液体供給路の共通液体室側接続口から圧力発生室側接続口までの長さを供給路長さLsとし、
前記ストレート長さLnとストレート面積Snとの比(Ln/Sn)を、供給路長さLsと供給路面積Ssとの比(Ls/Ss)の1/2以下に設定したことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルのうちノズルストレート部よりも圧力発生室側には、開口断面積が圧力発生室側へ向かうにつれて次第に拡大するノズルテーパー部をノズルストレート部に連続させて備え、
該ノズルテーパー部の開き角を40度以上に設定したことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力発生室における液体の粘度が8mPa・s以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−73245(P2011−73245A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226337(P2009−226337)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】