説明

液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体充填方法

【課題】 液体吐出部材に接続される複数の流路を有し、それぞれの流路内にフィルタが接続された液体吐出ヘッドにおいて、インク供給特性を維持しつつ、液体吐出部材と液体供給部材との接合部の変形の恐れを低減する。
【解決手段】
液体吐出ヘッドは、液体吐出部材と液体供給部材とを有している。液体供給部材は、第一及び第二のフィルタ、第一及び第二の流路を有している。液体を通す開口が複数設けられた第一のフィルタの外面が、液体吐出ヘッドの使用状態において重力方向に沿い且つ複数の吐出口が配設された配設方向に沿うように、第一のフィルタは配されている。
第二のフィルタ、第一の流路及び第二の流路は、配設方向に垂直な且つ重力方向に平行であって、配設方向に関する第一のフィルタの長さの一端を通る第一の面と、該第一の面に平行であって、配設方向に関する第一のフィルタの長さの他端を通る第二の面と、の間の領域内に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドによって液体を吐出する液体吐出装置及び液体吐出ヘッドに液体を充填する液体充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドとして代表的なインクジェット記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」とも称する)として、記録ヘッドとインクタンク(液体貯留室)との間でインク循環を可能とする2つの流路を有する記録ヘッドが知られている(特許文献1)。特許文献1の図4に記載の記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口にインクを供給する流路内に配置されるフィルタ(215)と、吐出されなかったインクをインクタンクへ導出する流路内に配置されるフィルタ(216)と、を有する構成である。2つのフィルタのうち、インクを供給する流路内に配置されたフィルタ(215)は、フィルタ(216)と比べ、大きい面積を有している。これは、フィルタ(215)による圧力損失を小さくし、記録動作中においてインク供給が行われないインク供給不良が生じる恐れを低減し、インク供給特性を維持するためである。
【0003】
ここで、特許文献1の記録ヘッドは、吐出口が設けられた吐出エレメント(150)(液体吐出部材)と内部にフィルタが設けられたインク貯留室ケース(210)(液体供給部材)とが接合されて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−087373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体吐出部材と、流路とフィルタとを具備する液体供給部材と、を接合することで形成された液体吐出ヘッドにおいて、液体吐出部材の線膨張係数と液体供給部材の線膨張係数とが互いに異なると、この差に起因して接合がなされた両部材の接合部に応力が生じる。この応力によって接合部が変形することがあり、この課題は両部材同士の接合部の面積が大きいほど大きくなる。
【0006】
特に、記録媒体の搬送方向と交差する方向に記録媒体の幅に対応する範囲にわたってインク吐出口が配列されたフルライン型の液体吐出ヘッドは、吐出口が配設された配設方向に関する液体吐出部材の長さが大きい。それ故、特許文献1に記載の液体吐出ヘッドのように、液体供給部材の長さが液体吐出部材の長さと同程度である場合には、両部材同士の接合部の面積が一層大きくなり、接合部が変形する恐れが高くなる。
【0007】
そこで、本発明は、液体吐出部材に接続される複数の流路を有し、それぞれの流路にフィルタが接続された液体吐出ヘッドにおいて、インク供給特性を維持しつつ、液体吐出部材と液体供給部材との接合部の変形の恐れを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーをそれぞれ発生する複数のエネルギー発生素子と、前記複数の吐出口と連通する第一の開口及び第二の開口と、を有する液体吐出部材と、液体を通す開口が複数設けられた外面を有し、該外面が、前記液体吐出部材の使用状態において重力方向に沿い且つ前記複数の吐出口の配設方向に沿うように配された第一のフィルタと、該第一のフィルタが収容された第一の収容室と、前記第一のフィルタの前記外面の面積より小さい面積をもち、液体を通す開口が複数設けられた外面、を有する第二のフィルタと、該第二のフィルタが収容された第二の収容室と、前記第一の開口と前記第一の収容室とを接続し、前記液体吐出部材に液体を導入するための第一の流路と、前記第二の開口と前記第二の収容室とを接続し、前記液体吐出部材から液体を導出するための第二の流路と、を有し、前記液体吐出部材と接合されている液体供給部材と、を具備し、前記第一のフィルタは、前記配設方向に関する前記液体吐出部材の長さより、前記配設方向に関する長さが小さく、前記第二のフィルタ、前記第一の流路及び前記第二の流路は、前記配設方向に垂直且つ重力方向に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの長さの一端を通る第一の面と、該第一の面に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの前記長さの他端を通る第二の面と、の間の領域内に配されていることを特徴とする。
【0009】
この様な本発明では、液体供給部材を構成する主要な部材である第一のフィルタ、第二のフィルタ、第一の流路及び第二の流路と液体吐出部材とについて、次の様な関係を持たせている。すなわち、液体吐出部材より長さが小さい第一のフィルタ、の長さ成分の範囲内に、第二のフィルタ、第一の流路及び第二の流路を配する、というものである。第一のフィルタの長さを液体吐出部材より小さくするので、液体供給部材の長さを小さくすることができ、その結果、液体吐出部材と液体供給部材との接合部の面積を小さくして両部材の接合状態を良好に維持することができる。また、第一のフィルタの面積を確保して、インクの供給特性を十分なものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体吐出部材に接続される複数の流路を有し、それぞれの流路にフィルタが接続された液体吐出ヘッドにおいて、吐出口の配設方向に関する液体供給部材の長さを小さくすることができる。これにより、液体吐出部材と液体供給部材との接合部の面積を小さくして、両部材の接合状態を良好に維持することが可能である。また、フィルタの面積を確保して、インクの供給特性を十分なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用可能な第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す斜視図である。
【図2】本発明を適用可能な第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す分解斜視図である。
【図3】記録素子基板の構成を説明するための(a)斜視図及び(b)断面図である。
【図4】本発明を適用可能な液体吐出ヘッドに用いられる固定部材の構成を説明するための分解斜視図である。
【図5】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドに適用される液体供給部材を示す分解斜視図である。
【図6】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドに適用される液体供給部材を示す断面図(図2中のB−B断面図)である。
【図7】本発明を適用可能な液体吐出ヘッドが装着された液体吐出装置における印字ユニットを示す斜視図である。
【図8】本発明を適用可能な液体吐出ヘッドを示す断面図(図1中のA−A断面図)である。
【図9】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッド内に液体を充填する方法を説明するための断面図である。
【図10】本発明を適用可能な第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドの別の形態を示す断面図(図1中のA−A断面図)である。
【図11】本発明を適用可能な第二の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す分解斜視図である。
【図12】本発明を適用可能な第二の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す断面図(図1中のA−A断面図)である。
【図13】第二の実施形態に係る液体吐出ヘッド内に液体を充填する方法を説明するための断面図である。
【図14】本発明を適用可能な第三の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す斜視図である。
【図15】第三の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す断面図(図14中のE−E断面図)である。
【図16】本発明を適用可能な記録ヘッドが装着された記録装置におけるインク供給を説明するための斜視図である。
【図17】本発明を適用可能な記録装置における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図18】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドに液体を充填する方法を示すフロー図図である。
【図19】第二の実施形態に係る液体吐出ヘッドに液体を充填する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第一の実施形態)
図面を参照して本発明が好適な液体吐出ヘッドに係る実施形態の基本的構成及び作用を説明する。以降、液体を吐出する液体吐出ヘッドとして代表的なインクジェット記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」とも称する)を例にして説明する。
【0013】
(液体吐出ヘッド)
まず、本発明が好適な記録ヘッドの構成について図1〜図6を用いて説明する。図1、図2は、それぞれ記録ヘッド90の斜視図および分解斜視図である。図3は記録素子基板100の構成を説明するための図、図4は固定部材200の構成を説明する図、図5、図6はインク供給ユニット400の分解斜視図および断面図(図2のB−B断面)である。
【0014】
本発明を適用可能な記録ヘッド90は、図1、図2に示すように、液体吐出基板としての記録素子基板100、固定部材200、電気配線部材300、液体供給部材としてのインク供給ユニット400で構成されている。ここで、記録素子基板100と、記録素子基板100が固定される固定部材200とは、液体吐出部材として機能する。
【0015】
そして、8個の記録素子基板100は、紙等の記録媒体の搬送方向に関して互いに重複する重複領域N(図1参照)を有するように千鳥状に固定部材200上に配置されており、記録ヘッド90全体で6インチ程度の印字幅を有している。さらに、記録素子基板100は電気配線部材300とワイヤーボンディング等の方法で電気的な接続がなされ、その部分は封止材700で封止され保護されている。また、固定部材200の記録素子基板100が配置されている面の裏面には、インク供給ユニット400が接合されている。
【0016】
次に、記録ヘッド90を構成する各部材に関して詳細に説明する。
【0017】
記録素子基板100はインクを吐出するためのデバイスである。図3(a)は、記録素子基板100の斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のD−D断面図である。シリコン基板101には、長溝状のインク供給口102が形成されている。シリコン基板101の表面には、インクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子としての複数の電気熱変換素子103、及び電気熱変換素子103と接続されるアルミニウム等の電気配線(不図示)が成膜技術によって形成されている。また、記録素子基板100の長手方向の両端部には、電気配線部材300と電気的に接続される電極104が形成されている。さらに、シリコン基板101上には、樹脂材料からなる吐出口形成部材105が形成されている。吐出口形成部材105には、複数の電気熱変換素子103に対応する位置に設けられるインクを吐出するための吐出口106と、吐出口106に連通するインク貯蔵室107が、フォトリソグラフィー技術によって形成されている。
【0018】
固定部材200は、記録素子基板100を固定するための部材である。図4に示すように、固定部材200は複数の層から成り、表面に記録素子基板100にインクを供給するための開口部201が形成され、内部に上記開口部にインクを供給する第三の流路としてのインク流路202(202a〜202c)が形成されている。また、後述するインク供給ユニット400と接続される開口203A(第一の開口)及び開口203B(第二の開口)が形成されている。二つの開口203A及び203Bを介して、インク供給ユニット400とインク流路202との間におけるインクの導入及びインクの導出が行われる。複数配設されている吐出口106の配設方向に関する固定部材200の長さは7インチ程度である。
【0019】
電気配線部材300は、記録装置1から送られる駆動信号、駆動電力を記録素子基板100に供給する配線部材である。電気配線部材300には、記録素子基板100を組み込むための開口部301、記録素子基板100の電極104に対応する電極端子302、および、記録装置1からの駆動信号と駆動電力を受け取るための外部信号入力端子303が設けられている。
【0020】
インク供給ユニット400は、記録装置1と接続され、固定部材200を介して記録素子基板100にインクを供給する部材である。図5に示すように、筐体としてのフィルタ収容部材401、第一のプレート402、第二のプレート403、第一のフィルタ501、第二のフィルタ502、ジョイントゴム600とで構成されている。フィルタ収容部材401、第一のプレート402、第二のプレート403は樹脂材料で成形されている。第一のフィルタ501及び第二のフィルタ502は、それぞれ、第一の収容室408及び第二の収容室409の壁に熱溶着されている。ジョイントゴム600は、ジョイントゴム収容室405A、405Bに圧入されている。第一のプレート402、第二のプレート403は、接着や超音波溶着などによって、フィルタ収容部材401に接合されている。記録装置1に設けられたインクジョイントパイプが、開口部404A及び404Bを通りジョイントゴム600に挿入されており、記録装置の液体貯留室としてのインクタンク2に貯留されたインクがインク供給ユニット400へ導入、導出される。
【0021】
(液体吐出装置)
次に、本発明を適用可能な記録ヘッドが搭載される記録装置に関して説明する。
【0022】
図7は、記録ヘッド90が適用された記録装置1の一部の概略図であり、記録を行っている様子を示す。記録装置1には、例えば、Bk、C、M、Yの4色のインクに対応した4つの記録ヘッド90が搭載され、各記録ヘッド90の間には紙搬送用ローラ60が配置され、紙搬送用ローラ60によって記録用紙70が搬送される。記録装置1に設けられた制御手段としてのCPU12から記録ヘッド90に送られる駆動信号に基づいて、電気熱変換素子103が駆動されて記録ヘッド90からインクが吐出されることにより、記録用紙70に記録が行われる。
【0023】
図17は、本実施形態における記録装置1内の制御系の概略構成を示す図である。図17を用いて、インク吐出に関するヘッドの制御について説明する。
【0024】
記録装置1は、ホストコンピュータ4から記録すべき画像の記録情報を受信する。記録装置1内に受信された記録情報は、記録装置1内に設けられた入出力インターフェイス11に一時保存されると共に、記録装置1内で処理可能なデータに変換され、記録ヘッド駆動信号の供給手段を兼ねるCPU12に入力される。CPU12は、ROM13に保存されている制御プログラムに基づき、CPU12に入力されたデータをRAM14等の周辺ユニットを用いて処理し、記録用紙に対してインクによるドットを形成するか否かを表す2値化データ(記録データ)に変換する。また、記録ヘッド90に設けられている電気熱変換素子103を駆動するヘッドドライバ17には、前記記録データとCPU12から出力された記録ヘッド駆動データとが入力されており、両データに応じて電気熱変換素子103を駆動し、インクが吐出される。
【0025】
本実施形態は、記録ヘッド90に対してインクを循環可能な構成となっている。そのため、図16に示すように、記録装置1には、記録ヘッド90に供給されるインクを貯めるインクタンク2と、インクタンク2と記録ヘッド90の間に設けられる流路の途中に、インクを循環する循環手段としてのポンプ3が設けられている。なお、本実施形態の記録ヘッド90が適用される記録装置1は、インクタンク2と記録ヘッド90との間に設けられた2つのインク流路5A、5Bのうちの、少なくともいずれか一方にインクを循環するためのポンプ3が設けられていればよい。
【0026】
(液体供給部材)
ここで、記録ヘッド90に用いられるインク供給ユニット400の特徴について、図8を用いて詳細に説明する。
【0027】
インク供給ユニット400には、記録素子基板100及び記録装置1に設けられたインクタンク2を介してインクを循環可能に連通されたインク流路406、及びインク流路407が形成されている。記録装置1の記録動作時において、インク流路406(406A、406B)は、インクタンク2から導入されたインクを、固定部材200に導出する流路である。また、記録動作時において、インク流路407(407A、407B)は、固定部材200側から導入されたインクを、インクタンク2へ導出する流路である。記録動作時には矢印Bの方向にインクが流れる。
【0028】
それぞれの流路の途中には、記録ヘッド90内へのゴミの侵入を防ぐための第一のフィルタ501と第二のフィルタ502が設けられ、それぞれ、第一の収容室408と第二の収容室409内に配される。図6に示すように、各々のフィルタが収容される収容室の内部は、液体を通す開口が複数設けられた各フィルタの外面によって仕切られており、第一の収容室408A、408B、第二の収容室409A、409Bが形成されている。なお、インク供給ユニットに設けられたインク流路406B(第一の流路)は、固定部材200の開口203Aと第一の収容室408Bとを接続している。また、インク流路407B(第二の流路)は、固定部材200の開口203Bと第二の収容室409Bとを接続している。
【0029】
ここで、記録動作時に第一のフィルタ501に対して上流側となる第一の収容室408Aは、第一のフィルタ501より鉛直上向きに高くなっている。このような構成とすることで、記録動作中に気泡が運びこまれた場合にも、浮力によって気泡が上方へ移動するので、フィルタの有効面積、すなわち使用時においてインクが通過するフィルタの面積の減少の恐れを低減することが可能である。
【0030】
インク供給ユニット400は、記録ヘッド90の温度上昇を抑えるために、記録動作中にインクを循環して記録ヘッド90の冷却を行う場合に適するように構成されている。記録動作時に、インクは記録装置1のインクタンク2からインク供給ユニット400内の第一のフィルタ501を通過して、固定部材200に形成されたインク流路202内を流れ、第二のフィルタ502を通過して記録装置1のインクタンクに戻る。
【0031】
従って、記録動作時において記録素子基板100へインクを導入する側に配された第一のフィルタ501は、記録動作中のインクの流れによる圧力損失を小さくするために、大きな面積が必要となる。これは、フィルタ部における圧力損失が大きいと、記録素子基板100へのインク供給不良といった、記録動作への影響が生じる恐れがあるためである。例えば、記録ヘッドの冷却のために必要なインク流量が50〜200cc/min程度であった場合、フィルタ部の圧力損失による記録動作への影響を防ぐために、第一のフィルタ501の面積を1000〜4000mm程度とした。なお、この場合に用いたフィルタの濾過精度は5μmである。また、図8に示すように、複数の吐出口106が配設された配設方向に関する第一のフィルタの長さaは、配設方向に関する固定部材200の長さよりも短くなっている。
【0032】
一方で、記録動作時において記録素子基板100からインクを導出する側に配された第二のフィルタ502における圧力損失は、記録動作には影響を与えないため、面積を小さくすることが可能である。また、第一のフィルタ501を通過するインク量に対し、第二のフィルタ502を通過するインクは記録に用いられた分量が減るために、第二のフィルタ502は第一のフィルタ501より小さくてよい。ポンプ3のポンプ能力を小さくするためには、フィルタの面積を小さくして圧力損失を小さくした方がよいが、記録ヘッド内の気泡を除去するためには、フィルタの面積を小さくして流速を大きくした方がよい。ここでは、両方の観点から、前述の第一のフィルタ501と同じ濾過精度を有するフィルタを用い、第二のフィルタ502の面積を50〜200mm程度とした。
【0033】
次に、本実施形態におけるフィルタ及びインク流路の配置について説明する。
【0034】
本実施形態では、図8に示すように、第一のフィルタ501の外面が記録ヘッド90の使用状態における重力方向に沿い且つ複数の吐出口106の配設方向に沿うように(図中では重力方向に略平行に)、大きな面積を有する第一のフィルタ501を配した。また、図6に示すように、第二のフィルタ502の外面が重力方向に交差するように(図中では重力方向に略垂直に)、フィルタ収容部材401の上面に、相対的に小さな面積の第二のフィルタ502を配した。なお、使用状態の重力方向とは、図8では図の下方向である。
【0035】
また、第一のフィルタ501、第二のフィルタ502、インク流路406B及びインク流路407Bについて、次の様な関係を持たせている。吐出口106の配設方向に垂直且つ重力方向に平行であって、配設方向に関する第一のフィルタ501の長さの一端を通る面を第一の面10とする。第一の面10に平行であって、配設方向に関する第一のフィルタ501の長さの他端を通る面を第二の面20とする。このとき、第二のフィルタ502、インク流路406B及びインク流路407Bを、第一の面10と第二の面20との間の領域内に配する構成となっている(図8参照)。すなわち、固定部材200より長さが小さい第一のフィルタ501の長さaの範囲内に、第二のフィルタ502、インク流路406B及びインク流路407Bを配する、というものである。
【0036】
更に、第一のフィルタ501を、第二のフィルタ502の外面から見た時に、フィルタ収容部材401の短手方向に関する、第二のフィルタ502の長さb内に収まるように配した(図6参照)。
【0037】
よって、本実施形態のインク供給ユニット400は、インク循環のための2つのフィルタを有し、インクの大流量化に伴って面積が大きいフィルタを有する構成であっても、小型化の実現が可能であり、これに伴い、記録ヘッド90の小型化も可能である。
【0038】
特に、面積の大きい第一のフィルタ501を重力方向に沿い且つ複数の吐出口106が配設された配設方向に沿って配している。更に、第二のフィルタ502の外面から見た時に、第一のフィルタ501が第二のフィルタ502の外面の長さb内に収まるように配する構成である。これらの構成によって、記録ヘッド90の短手方向の長さを小さくすることが可能である。短手方向の長さを小型化することで、特に、複数色に対応するために複数の記録ヘッド90を短手方向に並べて配する記録装置1においては、記録ヘッド90間の間隔を小さくして配することができる。これにより、記録装置1の小型化も可能となる。更に、記録ヘッド90に対して記録用紙を平行に保つ領域を狭くできるため、記録用紙の搬送精度の向上、紙ジャムの防止、最終的には高品位の記録が可能となる。
【0039】
また、固定部材200はシリコン基板101に近い線膨張係数を有する材料が選択され、例えばアルミナなどが使用される。一方で、インク供給ユニット400は樹脂で形成されるため、固定部材200の線膨張係数とインク供給ユニット400の線膨張係数とが互いに異なっており、この差に起因して固定部材200とインク供給ユニット400との接合部に応力が生じる。この応力によって接合部が変形することがあり、この課題は両部材同士の接合部の面積が大きいほど大きくなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、面積の大きい第一のフィルタ501を重力方向に沿い且つ複数の吐出口106が配設された配設方向に沿って配している。また、上述したように、第二のフィルタ502、インク流路406B及びインク流路407Bは、固定部材200より長さが小さい第一のフィルタ501の長さaの範囲内に配されている。これにより、複数の吐出口106の配設方向に関するインク供給ユニット400の長さを小さくできるので、配設方向に関する固定部材200とインク供給ユニットの400との接合部の長さを小さくすることができる。このように、フィルタ配置及び流路配置によって、固定部材200とインク供給ユニットとの線膨張係数の差による接合部の変形の恐れを低減することができ、固定部材200とインク供給ユニット400との接合状態を良好に維持することが可能となる。また、両部材の良好な接合状態を維持するために配設方向に関するインク供給ユニット400の長さを小さくしても、第一のフィルタ501の面積を確保してインク供給特性を十分なものとすることができる。
【0041】
なお、吐出口106の配設方向に関するインク供給ユニット400の長さは、配設方向に関する固定部材200の長さに対して1/4〜1/2の範囲内であると更に望ましい。
【0042】
また、本実施形態においては、図8に示すように、インク流路406B及びインク流路407Bの開口部が配されるインク供給ユニット400の面が、固定部材200に接合されている。なお、固定部材200とインク供給ユニット400とは、上述した第一の面10と第二の面20との間の領域内、すなわち、第一のフィルタ501の長さaの範囲内の、少なくとも一部で接合されていればよい。
【0043】
なお、上記の課題を鑑みた場合、第二のフィルタ502は、吐出口106の配設方向に関するインク供給ユニット400の長さを大きくしないように配されていればよい。すなわち、第二のフィルタ502の面が重力方向に沿うように、第二のフィルタ502が配されている構成であってもよい。
【0044】
また、固定部材200の上面に、インク供給ユニット400が接合されていない領域があるので、この領域に記録装置1との電気接続のための部材を配することができる。この場合、複数の記録ヘッド90を設けた場合に、複数の記録ヘッド90の間に電気接続部材を配せずにすむため、電気接続部材によって複数の記録ヘッド90同士の間隔が制約されずにすむ。
【0045】
(液体充填方法)
次に、本実施形態のインク供給ユニット400を有した記録ヘッドにインクを充填する方法(液体充填方法)について説明する。
【0046】
記録ヘッド内にインクを充填すると、2つのフィルタ間に気泡が滞留してフィルタの有効面積を減少させる可能性があるが、この滞留する気泡を除去することは困難であった。
【0047】
そこで、本実施形態は、インク供給ユニットを有した記録ヘッドにおいて、第一のフィルタと第二のフィルタにはさまれたインク流路内(すなわち記録素子基板にインクを供給する流路内)に気泡や泡だまりの発生を抑制するインク充填方法である。まず、インク供給ユニットの第二のフィルタ502側から記録素子基板にインクを導入させインクを循環する第一の工程を行う。その後に、第一のフィルタ501側から記録素子基板にインクを循環する第二の工程を行う。以下、その方法を具体的に説明する。
【0048】
図9は、記録ヘッド90内にインクを充填する際のインク供給ユニット400内のインクと気泡の挙動を示す図である。図9(a−1)(b−1)(c−1)は図2のC−C断面の上部を示し、図9(a−2)(b−2)(c−2)は図2のインク供給ユニット400のB−B断面を示している。 図9(a−1)、(a−2)は第一の工程終了時の様子、図9(b−1)、(b−2)は第二の工程中の様子、そして、図9(c−1)、(c−2)は第二の工程終了後の様子を示している。図9中の矢印は、インクの流れる方向を示しており、図8に示す矢印と対応している。また、図18は、本実施形態における記録ヘッド90にインクを充填する工程を説明するフロー図である。なお、フィルタの大きさや収容室の長さ、形状、インク流路の径などによって図示と異なる位置でメニスカスを形成する場合であっても、本質的な挙動は変わらない。
【0049】
第一の工程において、インクは図8の矢印Aに示す方向に流れる。インクタンク2から導入されるインクは、インク流路407A、第二の収容室409A、第二のフィルタ502、第二の収容室409B、インク流路407Bの順に流れ、固定部材200のインク流路202に導入される。また、第一の工程において、インク流路202から導出されるインクは、インク流路406B、第一の収容室408B、第一のフィルタ501、第一の収容室408A、インク流路406Aを順に通って、インクタンク2へと戻る。
【0050】
このとき、第二のフィルタ502を通過するインクは、フィルタ502の一部のみを通過する。第二の収容室409の長さ、形状やインクの流速によって、導入側のインク流路に最も近い部分だけを通過する場合や、収容室409Aの外壁をインク80がつたい、第二のフィルタ502の外周をインク80が通過する場合がある。いずれの場合も、図9(a−1)に示すように、第二の収容室409A、Bともに気泡81が残る。
【0051】
また、図9(a−2)に示すように、インク流れの上流に位置する第一の収容室408Bの底部にインク80が溜まり、一定圧力を超えた際にメニスカスを破ってフィルタ501の下部をインク80が通過する。インク流れの下流に位置する第一の収容室408A内では液面が上昇するように、フィルタ501を通過したインク80によって第一の収容室408Aは充填される。そのため、第一の工程を行う前に収容室408Aに存在したエアーはインクタンク2内まで運び込まれる。したがって、この時点では第一の収容室408B内に気泡81が残る。
【0052】
次に、第二の工程としてインクの流れを逆転させ、図8の矢印Bの方向にインクを流す。インクタンク2から導入されるインクは、インク流路406A、第一の収容室408A、第一のフィルタ501、第一の収容室408B、インク流路406Bの順に流れ、固定部材200のインク流路202に導入される。また、第二の工程において、インク流路202から導出されるインクは、インク流路407B、第二の収容室409B、第二のフィルタ502、第二の収容室409A、インク流路407Aを順に通って、インクタンク2へ戻る。
【0053】
このとき、第一のフィルタ501をインクが通過する際、図9(b−2)に示すように、収容室408Bの液面の上昇に伴って気泡81が移動し、第一の収容室408Bはインク80で充填される。そして、第一の収容室408Bにあった気泡81は固定部材200内部のインク流路202を通過し、第二の収容室409Bまで移動する。第二の収容室409Bでは液面が上昇し、第二の収容室409B内がインクで充填され、浮力によって気泡81は第二のフィルタ502を通過しインクタンク2内へと運び込まれる。このとき、第二のフィルタ502は面積が小さいほど少ないインク流量で気泡を通過させることが可能であるが、インク循環時の圧力損失が大きくなるので、インクを循環させるポンプ3の性能に応じて適宜最適なフィルタ面積とインク流量を設定すればよい。このようにして、図9(c−1)、(c−2)に示すように、第一の収容室408A、408B、第二の収容室409A、409Bとインク流路内がインクで充填される。
【0054】
また、記録装置1内のインク充填性などの点から最初に第一のフィルタ501側からインクを循環させる場合であっても、インク充填の後に、本実施形態のように、第二のフィルタ502側から記録素子基板100にインクを導入するように、インクを循環させる。その後、第一のフィルタ501側から記録素子基板100にインクを導入するように、インクを循環させることで、同様の結果が得られる。
【0055】
このように、一方のフィルタが使用状態の重力方向に沿って配され、もう一方のフィルタが重力方向に交差して配される構成のインク供給ユニットにおいて、上記のようにインクを流す。これにより、浮力を利用して収容室内の気泡をインクタンク2へ移動させるので、容易に気泡を除去することが可能であり、フィルタの有効面積の減少を抑えることができる。
【0056】
一方で、記録ヘッドの使用状態において、2つのフィルタが共に重力方向に沿って配される場合であると、本実施形態のように流路内のインクを記録動作時と反対方向に循環させたとしても、2つのフィルタ間に滞留した泡を除去することは困難である。図9(a−2)で示したように、インク流路内が空の状態でインクを流した場合、重力方向に沿って配されたフィルタでは、フィルタの底部のみをインクが通過する挙動を示すため、上流の収容室には気泡が残ってしまう。したがって、二つのフィルタを共に鉛直方向に沿って配した構成では、インクを流す方向を変えても、気泡はフィルタ間で往復移動するのみであるため、フィルタの有効面積を減少させる恐れがある。
【0057】
なお、本発明のインク供給ユニットの構成は、上で説明した図8に示したインク供給ユニットの形状やフィルタ形状、フィルタ室の形状、インク流路の形状に限定されるものではなく、適用する記録ヘッドの仕様に応じて任意に決めてよい。
【0058】
例えば、図10に示すように、インク流によって収容室の内部の気泡が排出しやすいように第一の収容室408や第二の収容室409が重力方向に傾きを持った壁面を有していてもよい。このとき、気泡をインクタンク2へ移動する工程である第二の工程のインクの流れ方向(矢印B)に気泡を移動させやすいように、壁面を傾かせることが特に好ましい。
【0059】
また、インク流路406Aや407Aが、第一のプレート402側や、フィルタ収容部材401及び第一のプレート402の両方に形成される構成であってもよい。
【0060】
(第二の実施形態)
図11、図12には、第二の実施形態として、第一の実施形態で説明した構成に加え、第一の収容室408Aと連通するインク流路411(第五の流路)を設けた構成を示す。また、図19に、本実施形態における記録ヘッド90にインクを充填する工程を説明するフロー図を示す。インク流路411は主に記録ヘッド90へのインク充填時に使用する流路である。本実施形態は第一の実施形態とはインクの充填方法が異なるので、この点について説明する。
【0061】
インク流路411は、一部はフィルタ収容部材401に形成されており、他の部分は第一のプレート402及び樹脂材料で成形された第三のプレート410とで形成されている。第一のプレートの上面にはインク流路411の一部となる溝が形成されおり、第一のプレート402と第三のプレート410とを接着や溶着などによって接合することで、インク流路411の一部が形成されている。インク流路411はインク流路406、407と同様に、ジョイントゴム収容室405C内のジョイントゴム600に挿入された、記録装置1のインクジョイントパイプと接続されることで、記録装置のインクタンク2と連通している。
【0062】
図12に示すように、インク流路411と第一の収容室408Aとの接続部は、第一のインク流路406Aと第一の収容室408Aの接続部、およびインク流路406Bと第一の収容室408Bの接続部よりも高い位置に設けられている。インク流路411を設けることで、インクの充填性を更に向上させることが可能であり、詳細を以下に示す。
【0063】
例えば、物流中に記録素子基板の吐出口を保湿するために、記録ヘッド内に物流用のインクを入れておき、記録ヘッドを記録装置に装着した際に内部の物流用インクを排出して空の状態としてから記録用インクを充填して使用する場合がある。このとき、フィルタの表面は物流用インクで濡れている状態である。このような状態で第一の実施形態に示したインク充填方法を適用すると、エアーとインクが混在してフィルタを通過することになり、インクの流れ方向に関するフィルタの下流側には極めて小さな泡が大量に発生する。固定部材内部のインク流路202の形状や表面性状によっては、この微小泡がインク流路の壁面に付着してしまう恐れがある。この場合、微小な泡を除去するためには、記録用インクの充填時に大流量のインクを長時間流し続けることとなる。また、この微小な泡がインク流路202内に残った場合、記録動作時に吐出口106へと微小泡が移動し、所望の吐出口106からインクを吐出することができずに画像劣化を引き起こす可能性もある。
【0064】
本実施形態の構成では、このような使用環境においてもインクの充填時における微小泡の発生を低減することが可能である。以下にインクの充填方法の手順を説明する。
【0065】
図13(a)〜(f)は、記録ヘッド90内にインクを充填する際のインク供給ユニット400内のインクと気泡の挙動を示したものである。図中に示す矢印はインクの流れ方向を示している。図13(a)〜(d)は、図2のB−B断面に対応する図11のインク供給ユニット400の断面図を示し、図13(e)、(f)は、図2のC−C断面に対応する図11のインク供給ユニット400の上部を示す図である。
【0066】
第一の工程として、インク流路406A(第四の流路)からインク流路411へとインクを流し、第一の収容室408A内をインクで満たす。図13(a)に示すように、第一のインク流路406Aからインクが供給され、第一の収容室408A内の液面が上昇し、内部のエアーがインク流路411へと運ばれ、図13(b)のように、第一の収容室408Aはインク80で満たされる。エアーはインク流路411からインクタンク2へと運ばれて除去される。インク流路411と第一の収容室408Aとの接続部が、インク流路406Aと第一の収容室408Aの接続部よりも高い位置にあるために、浮力を利用して容易にエアーを排出することが可能である。
【0067】
第一の工程を行う際、第一の収容室408Aの内圧が高まるとインク80が第一のフィルタ501を通過し、微小な泡が発生する可能性がある。そのため、第一の工程時には、インク流路411の側からの吸引のみでインクを流すことが望ましい。このとき、吸引による圧力は、インク流路202の側から第一の収容室408A内にエアーが入り込まない条件とすることが望ましい。また、インク流路411側から吸引し、且つインク流路406A側から加圧を行う場合には、インク流路411側からの吸引による圧力の方が大きくなる条件でインクを流すことが好ましい。
【0068】
次に、第二の工程として、インクを第一のフィルタ501から導入し、固定部材内部のインク流路202を通過させ、第二のフィルタ502から導出する(図12の矢印Bの方向のインク流れ)。この際、インク流路411と連通する記録装置1内のインク流路部で弁を閉じるなどしてインク流路411側にはインクが流れないようにしておく。なお、第一の工程で気泡81が記録装置のインクタンク2へと送り込まれるのを待たずに、第二の工程に移っても良い。図13(c)に示すように、最も圧力が高くなるフィルタ下部をインク80が通過する。第一の工程により、第一のフィルタ501の上流側がインクで満たされているために、エアーとインクが混在してフィルタを通過することがなく、微小泡が発生しにくい。
【0069】
以下、インクと気泡の挙動は第一の実施形態の第二の工程で説明したものと同様であり、図13(d)〜(f)のようにして、記録ヘッド90内に、インクが充填される。
【0070】
以上説明したように、本発明の第二の実施形態によれば、インクの充填時のインク流路内における微小泡の発生の低減させることが可能である。また、第一の実施形態で記した、記録動作時と反対方向にインクを流すという工程を行わずに、気泡の発生を低減することができるので、インクの充填を容易に行うことができる。
【0071】
また、本構成によれば、記録装置内のインク流路を含む、記録動作時のインクの流れ方向に関する第一のフィルタ501の上流側のインク流路の気泡を除去することも可能である。長時間記録装置を使用しているうちに、インクに溶存していたエアーが気泡化するなどして、インク流路内に気泡が残ったり、気泡が第一の収容室408Aに送り込まれる。気泡が一定量以上溜まるとフィルタの有効面積が小さくなり、圧力損失が大きくなることでインク供給不良を起こす可能性もある。したがって、一定使用時間毎、あるいは記録動作を行っていない間などに第一の工程と同様にインク流路411を使用することで、容易に、且つ素早く、第一のフィルタ501の上流のインク流路の気泡を除去することが可能である。
【0072】
なお、インク流路411を第一の収容室408Aと連通する構成を説明したが、インク流路411が第二の収容室409Aと連通する構成であっても良い。この場合のインク充填方法は、まず、インク流路407Aからインク流路411へとインクを流して第二の収容室409A内をインクで満たす。その後、第一の実施形態で示した工程(図9参照)を経ることで、インク充填時において、インク流路内の微小泡の発生を低減することができる。
【0073】
なお、本実施形態においては、インクタンク2と記録ヘッド90との間に設けられた2つインク流路5A及び5Bのうち、記録素子基板100にインクを供給するインク流路406Aと接続されるインク流路5Aの途中にポンプ3が設けられている(図16参照)。
【0074】
(第三の実施形態)
図14には固定部材200に配する記録素子基板100の数を増やし、更に印字幅の大きい記録ヘッドに適した実施形態を示す。図15は、図14のE−E断面図を示す。図14の18個の記録素子基板を用い、全体で13インチ程度の印字幅を有している。
【0075】
このように印字幅が大きくなった場合には、インク流量は更に増えることになるため、フィルタの面積を更に大きくする必要があり、インク供給ユニットが大型化してしまう恐れがある。そこで、本実施形態では、上述の実施形態で示したインク供給ユニット400を、吐出口106の配設方向に関する記録ヘッド90両端に一つずつ配し、2つのインク循環流路を持った記録ヘッド90とした。固定部材200の内部には、一方のインク供給ユニット400Aのインク流路406B及び407Bと連通する流路204と、もう一方のインク供給ユニット400Bのインク流路406及び407Bと連通する流路205が形成されている。これにより、上述の実施形態における効果を有し、且つインク供給ユニット400の小型化を実現することができる。
【0076】
なお、本発明が好適であるフルライン型の記録ヘッドの形態を用いて説明を行ったが、本発明はこれに限ることなく、複数のフィルタを有する記録ヘッドに対して任意に適用が可能である。
【符号の説明】
【0077】
90 インクジェット記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
103 電気熱変換素子(エネルギー発生素子)
106 吐出口
200 固定部材
203A 第一の開口
203B 第二の開口
400 インク供給ユニット(液体供給部材)
406B インク流路(第一の流路)
407B インク流路(第二の流路)
408A、408B 第一の収容室
409A、409B 第二の収容室
501 第一のフィルタ
502 第二のフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーをそれぞれ発生する複数のエネルギー発生素子と、前記複数の吐出口と連通する第一の開口及び第二の開口と、を有する液体吐出部材と、
液体を通す開口が複数設けられた外面を有し、該外面が、前記液体吐出部材の使用状態において重力方向に沿い且つ前記複数の吐出口の配設方向に沿うように配された第一のフィルタと、該第一のフィルタが収容された第一の収容室と、前記第一のフィルタの前記外面の面積より小さい面積をもち、液体を通す開口が複数設けられた外面、を有する第二のフィルタと、該第二のフィルタが収容された第二の収容室と、前記第一の開口と前記第一の収容室とを接続し、前記液体吐出部材に液体を導入するための第一の流路と、前記第二の開口と前記第二の収容室とを接続し、前記液体吐出部材から液体を導出するための第二の流路と、を有し、前記液体吐出部材と接合されている液体供給部材と、
を具備し、
前記第一のフィルタは、前記配設方向に関する前記液体吐出部材の長さより、前記配設方向に関する長さが小さく、
前記第二のフィルタ、前記第一の流路及び前記第二の流路は、前記配設方向に垂直且つ重力方向に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの長さの一端を通る第一の面と、該第一の面に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの前記長さの他端を通る第二の面と、の間の領域内に配されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体吐出部材と前記液体供給部材とが接合された部分の、前記配設方向に関する長さは、前記配設方向に関する前記液体吐出部材の前記長さと比べて小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第一の流路と前記第二の流路とは、前記液体吐出部材を介して液体を貯留する液体貯留室の液体を循環可能となる様に、前記液体吐出部材に接続されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第二のフィルタの前記外面が重力方向に交差するように、前記第二のフィルタが配されていることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第一の収容室は、前記第一のフィルタによって内部を二つの部分に分けられており、重力方向に関して、前記二つの部分のうちの、記録動作時における液体の流れる方向に関する上流側の部分の高さは、前記第一のフィルタの高さよりも高いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
重力方向に関して、前記第二のフィルタの前記外面に重なるように、前記第一のフィルタが配されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第一の流路は、前記第一の収容室の、重力方向に関する上方に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液体吐出部材は、前記複数の吐出口と、前記複数のエネルギー発生素子と、を有する液体吐出基板と、該液体吐出基板が固定される固定部材とを有しており、
該固定部材は、前記第一の開口及び前記第二の開口と接続される第三の流路を有し、前記第一の開口及び前記第二の開口は、前記第三の流路を介して前記複数の吐出口と連通していることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記液体供給部材は、前記第一のフィルタ、前記第二のフィルタ、前記第一の流路及び前記第二の流路を収容するための筐体を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第一の収容室は、前記第一のフィルタによって内部を仕切られることで、二つの部分に分けられており、該二つの部分のうち、前記第一の流路が接続されていない部分に、液体を貯留する液体貯留室と連通する第四の流路及び前記液体貯留室と連通する第五の流路が接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第五の流路は、前記液体吐出ヘッドに液体を充填する際に使用されることを特徴とする請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記第一の収容室と前記第五の流路とが接続される接続部は、前記第一の収容室と前記第四の流路とが接続される接続部よりも、重力方向に関する上方に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドと、
前記第二のフィルタから前記第二の開口に向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材への液体の導入と、前記第一の開口から前記第一のフィルタに向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材からの液体の導出と、を行い、その後に、前記第一のフィルタから前記第一の開口に向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材への液体の導入と、前記第二の開口から前記第二のフィルタに向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材からの液体の導出と、を行う様に制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項14】
複数配設された、液体を吐出する吐出口と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーをそれぞれ発生する複数のエネルギー発生素子と、前記複数の吐出口と連通する第一の開口及び第二の開口と、を有する液体吐出部材と、
液体を通す開口が複数設けられた外面を有し、前記液体吐出部材の使用状態において重力方向に沿い且つ前記複数の吐出口が配設された配設方向に沿うように前記外面が配された第一のフィルタと、該第一のフィルタが収容された第一の収容室と、前記第一のフィルタの前記外面の面積より小さい面積をもち、液体を通す開口が複数設けられた外面、を有する第二のフィルタと、該第二のフィルタが収容された第二の収容室と、前記第一の開口と前記第一の収容室とを接続する第一の流路と、前記第二の開口と前記第二の収容室とを接続する第二の流路と、を有し、前記液体吐出部材と接合されている液体供給部材と、
前記液体供給部材を介して前記液体吐出部材に供給するための液体を貯留する液体貯留室と、
前記第一の流路と前記液体吐出部材と前記第二の流路とを通して、前記液体貯留室の液体を循環させるための循環手段と、
を具備する液体吐出装置であって、
前記第一のフィルタは、前記配設方向に関する前記液体吐出部材の長さより、前記配設方向に関する長さが小さく、
前記第二のフィルタ、前記第一の流路及び前記第二の流路は、前記配設方向に垂直且つ重力方向に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの長さの一端を通る第一の面と、該第一の面に平行であって、前記配設方向に関する前記第一のフィルタの前記長さの他端を通る第二の面と、の間の領域内に配されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項15】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドに液体を充填する液体充填方法であって、
前記第二のフィルタから前記第二の開口に向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材への液体の導入と、前記第一の開口から前記第一のフィルタに向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材からの液体の導出と、を行う第一の工程と、
該第一の工程の後に、前記第一のフィルタから前記第一の開口に向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材への液体の導入と、前記第二の開口から前記第二のフィルタに向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材からの液体の導出と、を行う第二の工程と、
を有することを特徴とする液体充填方法。
【請求項16】
請求項10乃至請求項12のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドに液体を充填する液体充填方法であって、
前記第四の流路から前記第五の流路に向かって液体を流すことで、前記二つの部分のうちの、前記第一の流路が接続されていない部分に液体を充填する工程と、
前記充填する工程の後に、前記第一のフィルタから前記第一の開口に向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材への液体の導入と、前記第二の開口から前記第二のフィルタに向かって液体を流すことによる前記液体吐出部材からの液体の導出と、を行う工程と、
を有することを特徴とする液体充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−240520(P2011−240520A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112364(P2010−112364)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】