説明

液体吐出ヘッド、画像形成装置、液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】高密度ヘッドでは圧電柱の傾きやフレキシブル配線基板の配線電極ピッチの誤差が発生すると短絡等の不良が発生する。
【解決手段】圧電部材12には複数の圧電柱112が形成され、FPC15には圧電柱112(駆動柱12A)の電極23に接続される配線電極(パターン)116が設けられ、配線電極116は、接合部分117が、先端部側(圧電柱112の先端側)の圧電柱配列方向における幅W1を圧電柱112の根元部側の幅W2よりも広くし(W1>W2)、根元側から先端側に向かって次第に広がる形状に形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド、画像形成装置、液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機等の画像形成装置として、例えばインク液滴を吐出する液体吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)からなる記録ヘッドを用いた液体吐出記録方式の画像形成装置(インクジェット記録装置)が知られている。この液体吐出記録方式の画像形成装置は、記録ヘッドからインク滴を、搬送される用紙(紙に限定するものではなく、OHPなどを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味であり、被記録媒体あるいは記録媒体、記録紙、記録用紙などとも称される。)に対して吐出して、画像形成(記録、印字、印写、印刷も同義語で使用する。)を行なうものであり、記録ヘッドが主走査方向に移動しながら液滴を吐出して画像を形成するシリアル型画像形成装置と、記録ヘッドが移動しない状態で液滴を吐出して画像を形成するライン型ヘッドを用いるライン型画像形成装置がある。
【0003】
なお、本願において、液体吐出記録方式の「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。また、「インク」とは、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用い、例えば、DNA試料、レジスト、パターン材料、樹脂なども含まれる。また、「画像」とは平面的なものに限らず、立体的に形成されたものに付与された画像、また立体自体を三次元的に造形して形成された像も含まれる。
【0004】
液体吐出ヘッドとしては、例えば液室内の液体であるインクを加圧し圧力を発生するための圧力発生手段としての圧電体、特に圧電層と内部電極を交互に積層した積層型圧電部材に溝加工を施して複数の柱状の圧電素子(圧電柱)を形成した圧電アクチュエータを備え、積層型圧電素子のd33またはd31方向の変位で液室に壁面を形成する弾性変形可能な振動板を変形させ、液室内容積、圧力を変化させて液滴を吐出させるいわゆる圧電型ヘッドが知られている。
【0005】
このような圧電型ヘッドにおいては、圧電柱に駆動信号を印加するために駆動回路との間を各圧電柱に対応する配線電極が形成されたFPCなどのフレキシブル配線基板によって接続している。そのため、圧電柱の配列ピッチを小さくして高密度化を図る場合、圧電柱とフレキシブル配線基板の配線電極との接合信頼性を確保しなければならない。
【0006】
ここで、圧電柱とフレキシブル配線基板の配線電極との接合信頼性を確保するために、接合面積を広くする必要があるが、配列ピッチの高密度化に伴って隣接する圧電柱が細くなり接合面積を広くすることが難しく、また隣接する圧電柱間の間隔も狭くなっているため、隣接圧電柱ないし隣接配線電極間での短絡が問題となる。特に、樹脂材料で形成されるフレキシブル配線基板の配線電極の配列方向における累積ピッチ誤差は加工精度や保管環境によって変動するため、圧電柱と配線電極との接合位置ズレ誤差が発生し、より短絡が発生しやすい状況にある。
【0007】
従来、隣接圧電柱間の短絡を防止するために、圧電柱と配線電極の半田接合部とを千鳥状に配置し、半田がはみ出しても、隣接する電極からの半田のはみ出し同士が接触しないようにすることが知られている(特許文献1)。
【0008】
また、フレキシブルテープの接続部分における導電パターンの導通有効幅を圧電振動子の幅よりも広く設け、圧電振動子の接続部には導電パターンと重合しない非重合領域を設け、導電パターンの接合時に熔けた半田の余剰分を非重合領域に逃がすようにするものも知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−156376号公報
【特許文献2】特開2000−117973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、積層型圧電部材に溝加工を施して圧電柱を形成するとき、高密度に加工を行うと圧電柱の剛性が低下することにより加工負荷で圧電柱が変形し、圧電柱が傾いた状態に加工されやすい。そのため、傾きのある圧電柱と平行に並ぶ配線電極とを接合しなければならない。
【0011】
この場合、特許文献1に開示の構成を適用しても圧電柱に傾きが生じているときには、隣接圧電柱間での短絡が発生してしまうことが判明した。また、特許文献2に開示の構成にあっては実質的なパターン幅(配線電極の幅)が太くなってしまうために高密度配置の圧電柱と配線電極との接合には適用することができない。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、圧電柱の傾きやフレキシブル配線基板の配線電極ピッチの誤差が発生していても、短絡等の不良が発生しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体吐出ヘッドは、
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、
前記圧電柱に接合された配線電極が形成されたフレキシブル配線基板と、を備え、
前記フレキシブル配線基板の前記配線電極は前記圧電柱の電極に接合され、
前記配線電極の前記圧電柱との接合部分は、圧電柱配列方向の幅が、前記圧電柱の先端部側から根元部側に向かって狭くなっている
構成とした。
【0014】
ここで、前記圧電柱は圧電柱配列方向に傾斜して形成されている構成とできる。
【0015】
また、前記配線電極の狭まる角度は前記圧電柱の傾き角度よりも小さい構成とできる。
【0016】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、
前記圧電柱に接合された配線電極が形成されたフレキシブル配線基板と、を備え、
前記フレキシブル配線基板の前記配線電極は前記圧電柱の電極に接合され、
前記配線電極の前記圧電柱との接合部分は、菱形形状をなしている
構成とした。
【0017】
これらの本発明に係る液体吐出ヘッドにおいては、前記配線電極の接合部分の前記圧電柱の根元側における圧電柱配列方向の幅は厚みよりも小さい構成とできる。
【0018】
また、前記圧電柱の電極と前記配線電極とは半田で接合され、前記圧電柱と前記配線電極との接合部分の長さは前記圧電柱の長さよりも短く、前記半田が前記圧電柱の電極の先端部まで流れ出している構成とできる。
【0019】
本発明に係る画像形成装置は,本発明に係る液体吐出ヘッドを備えたものである。
【0020】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、前記圧電柱に半田を介してフレキシブル配線基板の配線電極が形成されている液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記半田が予め設けられた配線電極を有するフレキシブル配線基板にレーザを照射して前記半田を溶融させて接合するとき、
前記半田が設けられた領域及び前記圧電柱の電極の先端部までの領域に前記レーザを照射する
構成とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る液体吐出ヘッドによれば、フレキシブル配線基板の配線電極の圧電柱との接合部分は、圧電柱配列方向の幅が、圧電柱の先端部側から根元部側に向かって狭くなっている構成としたので、圧電柱の傾きやフレキシブル配線基板の配線電極ピッチの誤差が発生していても、短絡等の不良が発生しないようにすることができる。
【0022】
本発明に係る液体吐出ヘッドによれば、フレキシブル配線基板の配線電極の圧電柱との接合部分は、菱形形状をなしている構成としたので、圧電柱の傾きやフレキシブル配線基板の配線電極ピッチの誤差が発生していても、短絡等の不良が発生しないようにすることができる。
【0023】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を形成できる。
【0024】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法によれば、フレキシブル配線基板の配線電極の半田が設けられた領域及び圧電柱の電極の先端部までの領域にレーザを照射する構成としたので、半田は全体的にフィレットを形成するように濡れ広がるため、半田ボールを形成することはなく、接合信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す概略分解斜視説明図である。
【図2】同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図である。
【図3】同ヘッドの液室短手方向に沿う一例の断面説明図である。
【図4】同ヘッドの液室短手方向に沿う他の例の断面説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態の説明に供する圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図である。
【図6】同じくFPC接合前の状態を示す拡大平面説明図である。
【図7】同じくFPC接合前の状態を示す拡大平面説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態の圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図である。
【図9】同じくFPC接合前の状態を示す拡大平面説明図である。
【図10】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の説明に供する圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図である。
【図11】本発明に係る画像形成装置の一例の機構部の全体構成を説明する概略構成図である。
【図12】同機構部の要部平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る液体吐出ヘッドの一例について図1ないし図4を参照して説明する。なお、図1は同ヘッドの分解斜視説明図、図2は同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)に沿う断面説明図、図3及び図4は同ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)に沿う異なる例の断面説明図である。
【0027】
この液体吐出ヘッドは、SUS基板で形成した流路板(流路基板、液室基板などとも称される。)1と、この流路板1の下面に接合した振動板を形成する振動板部材2と、流路板1の上面に接合したノズル板3とを有し、これらによって液滴(液体の滴)を吐出する複数のノズル4がそれぞれノズル連通路5を介して連通する個別流路としての複数の液室(加圧液室、圧力室、加圧室、流路などとも称される。)6、液室6にインクを供給する供給路を兼ねた流体抵抗部7、この流体抵抗部7を介して液室6と連通する連通部8を形成し、連通部8に振動板部材2に形成した供給口9を介して後述するフレーム部材17に形成した共通液室10からインクを供給する。
【0028】
流路板1は、流路板1Aと連通板1Bとを接着して構成している。この流路板1は、SUS基板を、酸性エッチング液を用いてエッチング、あるいは打ち抜き(プレス)などの機械加工することで、連通路5、加圧液室6、流体抵抗部7などの開口をそれぞれ形成している。
【0029】
振動板部材2は、第1層2Aと第2層2Bとで形成されて、第1層2Aで薄肉部を形成し、第1層2A及び第2層2Bで厚肉部を形成している。そして、この振動板部材2は、各液室6に対応してその壁面を形成する第1層2Aで形成された各振動領域(ダイアフラム部)2aを有し、この振動領域2aの中に、面外側(液室6と反対面側)に第1層2A及び第2層2Bの厚肉部で形成された島状凸部2bが設けられ、この島状凸部2bに振動領域2aを変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む本発明に係る圧電アクチュエータ100を配置している。
【0030】
この圧電アクチュエータ100は、ベース部材13上に接着剤接合した複数(ここでは2つとする)の積層型圧電部材12を有し、圧電部材12にはハーフカットダイシングによって溝31を加工して1つの圧電部材12に対して所要数の圧電柱12A、12Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。なお、圧電部材12の圧電柱12A、12Bは、同じものであるが、駆動波形を与えて駆動させる圧電柱を駆動圧電柱12A、駆動波形を与えないで単なる支柱として使用する圧電柱を非駆動圧電柱12Bとして区別している。そして、駆動圧電柱12Aの上端面(接合面)を振動板部材2の島状凸部2bに接合している。
【0031】
ここで、圧電部材12は、圧電材料層21と内部電極22A、22Bとを交互に積層したものであり、内部電極22A、22Bをそれぞれ端面、即ち圧電部材12の振動板部材2に略垂直な側面(積層方向に沿う面)に引き出して、この側面に形成された端面電極(外部電極)23、24に接続し、端面電極(外部電極)23、24間に電圧を印加することで積層方向の変位を生じる。
【0032】
また、圧電部材12には駆動圧電柱12Aに駆動信号を与えるための可撓性を有する給電部材(配線部材)としてのフレキシブル配線基板であるFPC15が接続されている。FPC15には、図示しないが駆動圧電柱12Aに駆動波形(駆動信号)を与えるドライバIC(駆動回路)が搭載され、ホットメルト接着剤16でベース部材13に固定されている。
【0033】
なお、ここでは、上述したように、圧電部材12の圧電柱12A、12Bは、同じものであり、駆動波形を与えて駆動させる圧電柱を駆動圧電柱12A、駆動波形を与えないで単なる支柱として使用する圧電柱を非駆動圧電柱12Bとして、図3に示すように、駆動圧電柱12Aと非駆動圧電柱12Bとを交互に使用するバイピッチ構成としているが、図4に示すように、すべての圧電柱を駆動圧電柱12Aとして使用するノーマルピッチ構成とすることもできる。
【0034】
ノズル板3は、ニッケル(Ni)の金属プレートから形成したもので、エレクトロフォーミング法(電鋳)で製造している。このノズル板3には各液室6に対応して直径10〜35μmのノズル4を形成し、流路板1に接着剤接合している。そして、このノズル板3の液滴吐出側面(吐出方向の表面:吐出面、又は液室6側と反対の面)には撥水層を設けている。
【0035】
さらに、これらの圧電素子12、ベース部材13及びFPC15などで構成されるアクチュエータ部の外周側には、エポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成したフレーム部材17を接合している。そして、このフレーム部材17には前述した共通液室10を形成し、更に共通液室10に外部から記録液を供給するための供給口を形成し、この供給口19は更に図示しないサブタンクやインクカートリッジなどのインク供給源に接続される。
【0036】
このように構成した液体吐出ヘッドにおいては、例えば押し打ち方式で駆動する場合には、図示しない制御部から記録する画像に応じて駆動圧電柱12Aに20〜50Vの駆動パルス電圧を選択的に印加することによって、パルス電圧が印加された駆動圧電柱12Aが変位して振動板部材2の振動領域2aをノズル板3方向に変形させ、液室6の容積(体積)変化によって液室6内のインクを加圧することで、ノズル板3のノズル4から液滴が吐出される。そして、液滴の吐出に伴って液室6内の圧力が低下し、このときの液流れの慣性によって液室6内には若干の負圧が発生する。この状態の下において、圧電柱12Aへの電圧の印加をオフ状態にすることによって、振動板部材2が元の位置に戻って液室6が元の形状になるため、さらに負圧が発生する。このとき、共通液室10から液室6内にインクが充填され、次の駆動パルスの印加に応じて液滴がノズル4から吐出される。
【0037】
なお、液体吐出ヘッドは、上記の押し打ち以外にも、引き打ち方式(振動板部材2を引いた状態から開放して復元力で加圧する方式)、引き−押し打ち方式(振動板部材2を中間位置で保持しておき、この位置から引いた後、押出す方式)などの方式で駆動することもできる。
【0038】
次に、本発明の第1実施形態について図5ないし図7を参照して説明する。なお、図5は圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図、図5は同じくFPC接合前の状態を示す拡大平面説明図、図7はFPCの配線電極の接合部分の拡大説明図である。また、FPCは配線電極以外を透過状態で示す(以下同じ)。
【0039】
前述したように、圧電アクチュエータ100は、SUS430などのベース部材13上に2本の圧電部材12、12が並列に並べられてアクリル系の嫌気性接着剤で接合固定されている。圧電部材12には、溝113によって複数の圧電柱112(駆動柱12A、12Bの総称として用いる。)が形成されている。
【0040】
ここで、圧電部材12の複数の圧電柱112は、圧電柱配列方向(ノズル配列方向)に傾斜して(傾けて)形成されている。各圧電柱112は、溝113の深さ方向(圧電柱の高さ方向)において根元(溝113の底部側)から先端まで一定の角度で傾いている。
【0041】
なお、具体的には、圧電柱112の寸法は、例えば、600dpi相当で、圧電柱配列方向の幅が約23μm、高さが約350μm、また、加工溝113の幅は約19μmである。また、圧電柱112の傾き量(圧電柱112の根元と先端との圧電柱配列方向のずれ量)は10μm程度である。
【0042】
一方、フレキシブル配線基板としてのFPC15は、ポリイミドなどの基材115に圧電柱112(駆動柱12A)の電極23に接続される配線電極(パターン)116が設けられている。このFPC15の配線電極116は、接合部分117が、先端部側(圧電柱112の先端側)の圧電柱配列方向における幅W1を圧電柱112の根元部側の幅W2よりも広くし(W1>W2)、根元側から先端側に向かって次第に広がる形状に形成している。
【0043】
具体的には、銅電極である配線電極116の厚み8μmとし、先端側(幅広部)を20μm、根元部(幅狭部)の幅を10μmとした。そして、この配線電極116の圧電柱112との接合部分には、半田(Sn/Bi)118を膜厚を約5μmでメッキしている。このとき、半田118をめっきした状態では、配線電極116の幅広部の幅は約30μm、根元部の幅は約20μmとなる
【0044】
ここで、FPC15の配線電極116の圧電柱配列方向における累積ピッチ誤差は最大で10μmであり、接合時にはFPC15の中心を出して左右に振り分けることで、位置ズレ誤差は5μmとなる。
【0045】
そして、圧電部材12の圧電柱112の電極23に対するFPC15の配線電極116の重なり長さを約200μmとして、FPC15の配線電極116の先端部側(幅広部)を基準として位置合わせを行い、半導体レーザによる加熱手段で半田118を溶融して圧電柱112の電極23と配線電極116とを接合している。
【0046】
このとき、FPC15の裏面からのレーザ照射により、FPC15の基材115となるポリイミドはほとんど加熱することなく、銅電極部(配線電極116)を加熱し、半田118を溶融することができ、FPC115の配線電極116の累積ピッチの伸びをほとんど発生させることなく接合でき、微細ピッチでの半田接合が可能となる。
【0047】
そして、FPC15の配線電極116は、接合部分117の先端部側の幅よりも根元側の幅を狭くしているので、FPC15が傾いて接合されても、隣接する圧電柱112との間で短絡を生じることが防止される。また、圧電柱112が傾いて形成されている場合でも、相対的にFPC15の配線電極116が傾いた状態となるので、隣接する圧電柱112との間で短絡を生じることが防止される。
【0048】
図5を用いて説明すると、FPC15の配線電極116が先端部側の幅で根元側まで形成されている従来の構成では、配線電極116の根元側が隣接する非駆動圧電柱12Bと接触してしまい、非駆動圧電柱12Bにまで駆動信号が印加されてしまうことになる。これに対し、図5のような構成とすることで、根元側で隣接する圧電柱に接触することを防止できる。また、先端部側は幅広に構成されているため、駆動圧電柱12Aと配線電極116との接合面積も十分に確保でき、接合信頼性も確保できる。
【0049】
なお、ここでは圧電柱が傾いて形成された実施形態で説明しているが、圧電柱の形態はこれに限るものではない。通常の垂直に形成された圧電柱の場合であっても、前述のようにFPCを接合する際の圧電柱とFPCの配線電極との平行度の許容幅が大きくなり、接続信頼性を向上し製造コストを低減できる。
【0050】
また、前述したように、圧電部材12を2列に配置した場合、ダイシング時の圧電柱112の傾き方向は同じであるため、圧電柱112に対するFPC15の接合面から見ると、各圧電部材12の圧電柱112の傾き方向は逆方向になる。
【0051】
上記実施形態のFPCでは、先端部側を根元部側に対して左右均等に幅を広くしているので、圧電柱112の傾き方向の異なる接合面に対しても、同じFPCで接合しても隣接する圧電柱とFPCの配線電極の根元部のギャップを確保することができ、短絡が発生することがない。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について図8及び図9を参照して説明する。なお、図8は圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図、図9は同じくFPC接合前の状態を示す拡大平面説明図である。
ここでは、FPC15の配線電極116の接合部分117を菱形形状に形成している。
【0053】
FPC15の配線電極116の接合部分117を菱形形状とすることで、FPC15の外形カット時の誤差に対してFPC115の配線電極116の接合部分117の幅広部117aを固定できるとともに、圧電柱112との位置合わせを行う位置を固定できることから、接合部分117間の短絡を防止することができる。
【0054】
すなわち、第1実施形態においては、先端部側に配線電極116が広がった構造であるため、FPC15を外形カットしてリールから切り出す際に先端部側の切り出し位置の誤差により幅広部の幅が若干変動してしまう。この配線電極の幅の変動は圧電柱112間の短絡発生の原因となることからできるだけ少なくすることが好ましく、第2の実施形態をとることで、幅広部117aの幅を固定して形成することができる。
【0055】
この場合、FPC15の配線電極116の接合部分117に幅広部117aを形成していることから、半田接合するときの接合面積を十分に確保することができ、接合信頼性も確保できる。
【0056】
具体的には、銅電極である配線電極116の接合部分117の幅広部117aを20μm、根元部の幅を6μmとした。そして、この配線電極116の圧電柱112との接合部分117には、半田(Sn/Bi)118(前記第1実施形態参照)を、膜厚を約5μmでメッキしている。このとき、半田118をめっきした状態では、配線電極116の接合部分117の幅広部117aの幅は約30μm、根元部の幅は約16μmとなる。
【0057】
ここで、FPC15の配線電極116の幅が広がる部分の傾きは圧電柱112の傾きより鋭角になっていることが好ましい。これによりFPC15と圧電柱112との位置合わせ時の傾きが発生しても、FPC115の接合部分117の根元部での隣接する圧電柱112との短絡の発生を防止することができる。具体的には、圧電部材12の加工溝113の深さ350μmに対して圧電柱112が10μm傾いた状態に対して、上記構成で幅広部から根元部までの重なり長さを200μm程度として接合すればよい。
【0058】
また、配線電極116の厚み8μmに対して根元幅を6μmと狭くしていることから、半田めっき形状としては半円状に近い形状となる。また図9に示すように、FPC15の配線電極116の断面形状は台形形状とすることで、圧電柱112に接するFPC配線電極116のTop面116bは電極幅を小さくできて圧電柱112に対する位置合わせ時に隣接する圧電柱112に接触することを防止できて、短絡を防止することができる。一方、Bottom面116aの電極幅が広いため、溶融した半田が流れてこのBottom面116aの幅で接合面積を確保できることから、接合信頼性を確保することができる。
【0059】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法について図10を参照して説明する。なお、図10は同製造方法の説明に供する圧電部材とFPCとの接合部分の正面説明図である。
圧電柱112が傾いた状態で、FPC15の接合部分117の重なり幅を大きくすると、FPC15の配線電極116が隣接する圧電柱112と短絡しやすくなる。一方、圧電柱112に対しては接合信頼性を向上するために接合長さ(面積)を広くする必要がある。
【0060】
ここで、圧電柱112の個別電極23の長さを約350μmとして、FPC15の配線電極116と圧電柱112の個別電極23との重なり量(圧電柱112の立上り方向の長さ)を200μmとしている。そして、接合用の半田118はFPC15の配線電極116の接合部分117にめっきで形成している。
【0061】
このFPC15の接合部分117の全面に基材115であるポリイミド面からレーザ照射することにより、半田118を溶融させることができるので、レーザ照射をFPC15と重なっていない圧電柱112の個別電極23面にも照射し加熱することで、半田118が濡れ広がり(半田118aで示す)、圧電柱112に対する半田118の接合面積を大きくすることができる。
【0062】
このとき、レーザ照射は非常に短時間であるため、圧電柱112の個別電極23表面は加熱されるが、圧電柱112内部まで加熱されることはなく、圧電柱112の分極特性を破壊することはない。
【0063】
一般的なレーザ照射による接合では加熱時間が非常に短時間のため、照射部近傍のみの半田118が溶融する。半田118がめっきされたFPC15の接合部分117の先端部分のみを加熱すると、根元部の半田118は溶融せず、先端部の溶融した半田118が表面張力で根元部に半田ボールを形成することがあり、隣接する圧電柱112や配線電極116との短絡を引き起こす可能性がある。
【0064】
これに対し、上記製造方法によれば、FPC15の接合部分117の全面にレーザ照射することから、半田118は全体的にフィレットを形成するように濡れ広がる(半田118aで示す)ため、半田ボールを形成することはなく、接合信頼性を向上することもできる。
【0065】
なお、上述した液体吐出ヘッドとこの液体吐出ヘッドに液体を供給するタンクを一体化することでヘッド一体型液体カートリッジ(カートリッジ一体型ヘッド)を得ることができる。
【0066】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドを備える本発明に係る画像形成装置の一例について図11及び図12を参照して説明する。なお、図11は同装置の機構部の全体構成を説明する概略構成図、図12は同機構部の要部平面説明図である。
この画像形成装置はシリアル型画像形成装置であり、左右の側板221A、221Bに横架したガイド部材である主従のガイドロッド231、232でキャリッジ233を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0067】
このキャリッジ233には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための本発明に係る液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド234を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0068】
記録ヘッド234は、それぞれ2つのノズル列を有する液体吐出ヘッド234a、234bを1つのベース部材に取り付けて構成したもので、一方のヘッド234aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を、他方のヘッド234bの一方のノズル列はマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。なお、ここでは2ヘッド構成で4色の液滴を吐出する構成としているが、各色毎の液体吐出ヘッドを備えることもできる。
【0069】
また、キャリッジ233には、記録ヘッド234のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのサブタンク235a、235b(区別しないときは「サブタンク235」という。)を搭載している。このサブタンク235には各色の供給チューブ236を介して、供給ユニット224によって各色のインクカートリッジ210から各色のインクが補充供給される。
【0070】
一方、給紙トレイ202の用紙積載部(圧板)241上に積載した用紙242を給紙するための給紙部として、用紙積載部241から用紙242を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)243及び給紙コロ243に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド244を備え、この分離パッド244は給紙コロ243側に付勢されている。
【0071】
そして、この給紙部から給紙された用紙242を記録ヘッド234の下方側に送り込むために、用紙242を案内するガイド部材245と、カウンタローラ246と、搬送ガイド部材247と、先端加圧コロ249を有する押さえ部材248とを備えるとともに、給送された用紙242を静電吸着して記録ヘッド234に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト251を備えている。
【0072】
この搬送ベルト251は、無端状ベルトであり、搬送ローラ252とテンションローラ253との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト251の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ256を備えている。この帯電ローラ256は、搬送ベルト251の表層に接触し、搬送ベルト251の回動に従動して回転するように配置されている。この搬送ベルト251は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ252が回転駆動されることによってベルト搬送方向に周回移動する。
【0073】
さらに、記録ヘッド234で記録された用紙242を排紙するための排紙部として、搬送ベルト251から用紙242を分離するための分離爪261と、排紙ローラ262及び排紙コロ263とを備え、排紙ローラ262の下方に排紙トレイ203を備えている。
【0074】
また、装置本体の背面部には両面ユニット271が着脱自在に装着されている。この両面ユニット271は搬送ベルト251の逆方向回転で戻される用紙242を取り込んで反転させて再度カウンタローラ246と搬送ベルト251との間に給紙する。また、この両面ユニット271の上面は手差しトレイ272としている。
【0075】
さらに、キャリッジ233の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド234のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構281を配置している。この維持回復機構281には、記録ヘッド234の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)282a、282b(区別しないときは「キャップ282」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード283と、増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け284などを備えている。
【0076】
また、キャリッジ233の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け288を配置し、この空吐出受け288には記録ヘッド234のノズル列方向に沿った開口部289などを備えている。
【0077】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙トレイ202から用紙242が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙242はガイド245で案内され、搬送ベルト251とカウンタローラ246との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド237で案内されて先端加圧コロ249で搬送ベルト251に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0078】
このとき、帯電ローラ256に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト251が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト251上に用紙242が給送されると、用紙242が搬送ベルト251に吸着され、搬送ベルト251の周回移動によって用紙242が副走査方向に搬送される。
【0079】
そこで、キャリッジ233を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド234を駆動することにより、停止している用紙242にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙242を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙242の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙242を排紙トレイ203に排紙する。
【0080】
このように、この画像形成装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を形成することができる。
【0081】
なお、上記実施形態では本発明をシリアル型画像形成装置に適用した例で説明したが、ライン型画像形成装置にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 流路板(流路基板)
2 振動板部材
3 ノズル板
4 ノズル
6 液室
10 共通液室
12 圧電部材
12A 駆動圧電柱
12B 非駆動圧電柱
112 圧電柱
13 ベース部材
15 FPC(フレキシブル配線基板)
23 電極
115 基材
116 配線電極
117 接合部分
118 半田
233 キャリッジ
234a、234b 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、
前記圧電柱に接合された配線電極が形成されたフレキシブル配線基板と、を備え、
前記フレキシブル配線基板の前記配線電極は前記圧電柱の電極に接合され、
前記配線電極の前記圧電柱の電極との接合部分は、圧電柱配列方向の幅が、前記圧電柱の先端部側から根元部側に向かって狭くなっている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧電柱は圧電柱配列方向に傾斜して形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記配線電極の狭まる角度は前記圧電柱の傾き角度よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、
前記圧電柱に接合された配線電極が形成されたフレキシブル配線基板と、を備え、
前記フレキシブル配線基板の前記配線電極は前記圧電柱の電極に接合され、
前記配線電極の前記圧電柱との接合部分は、菱形形状をなしている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記配線電極の接合部分の前記圧電柱の根元側における圧電柱配列方向の幅は厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記圧電柱と前記配線電極とは半田で接合され、前記圧電柱と前記配線電極との接合部分の長さは前記圧電柱の長さよりも短く、前記半田が前記圧電柱の電極の先端部まで流れ出していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
複数の圧電柱が形成された圧電部材と、前記圧電柱に半田を介してフレキシブル配線基板の配線電極が形成されている液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記半田が予め設けられた配線電極を有するフレキシブル配線基板にレーザを照射して前記半田を溶融させて接合するとき、
前記半田が設けられた領域及び前記圧電柱の電極の先端部までの領域に前記レーザを照射する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−192711(P2012−192711A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60225(P2011−60225)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】