説明

液体吐出ヘッドおよびその製造方法

【課題】 信頼性が高く、識別が容易で、液体吐出ヘッドを簡単な構成で提供することを目的の一つとする。
【解決手段】 エネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、吐出口に連通する流路の内壁を備えた光透過性の流路壁部材と、基板の表面と流路壁部材との間に基板と流路壁部材とに接し、流路壁部材の光の屈折率と異なる光の屈折率を有する中間層と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記中間層は、前記吐出口から前記基板に向かう方向に見て、記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第1の角度を成す第1の外端面と、前記流路と対向し、前記表面に対して前記第1の角度より小さい第2の角度を成す第2の外端面と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いる代表例としては、インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式に適用されるインクジェット記録ヘッドを挙げることが出来る。このインクジェット記録ヘッドは、一般に、インク流路と、その流路の一部に設けられた吐出エネルギー発生部と、そこで発生するエネルギーによってインクを吐出するための微細なインク吐出口(「オリフィス」と呼ばれる)と、を備えている。
【0003】
エネルギー発生素子部が設けられた基板と、液体の流路の壁を構成する部材と密着性を高める目的で、ポリエーテルアミド樹脂からなる中間層を介して基板と流路の壁を構成する部材とを接合する手法が特許文献1に開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、インクジェット記録ヘッドの来歴情報に対応させた文字の形状の抜きパターンを、エネルギー発生部を有する基板と液体の流路の壁との間に流路壁にならう形状で設けられた中間層に形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−348290号公報
【特許文献2】特開2009−274266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では流路の形状はますます微細化し、それに形状的に対応した微細な形状の中間層を形成することが必要となる。中間層と流路壁を構成する部材との位置関係上の制約や、流路壁を構成する部材と中間層との接触面積等を考慮すると、中間層の側端面と基板面とがほぼ垂直、あるいはそれに近いような角度となるような形状に中間層が形成されることが好ましい。
【0007】
しかし、特許文献2に記載されているように、インクジェット記録ヘッドに関する情報を表示するための抜きパターンを中間層に形成する場合、中間層の上層の透明度によっては、目視で情報表示部の形状の輪郭が分かりづらく、形状の認定が困難となる可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、流路壁に対応した形状が高精度に形成され、形状を認識することが容易な記号表示部が設けられた層を流路壁と基板との間に備え、信頼性が高く、識別が容易で、液体吐出ヘッドを簡単な構成で提供することを目的の一つとする。また、そのような液体吐出ヘッドを歩留りよく得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、前記吐出口に連通する流路の内壁を備えた光透過性の流路壁部材と、前記基板の表面と前記流路壁部材との間に前記基板と前記流路壁部材とに接し、前記流路壁部材の光の屈折率と異なる光の屈折率を有する中間層と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記中間層は、前記吐出口から前記基板に向かう方向に見て、記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第1の角度を成す第1の外端面と、前記流路と対向し、前記表面に対して前記第1の角度より小さい第2の角度を成す第2の外端面と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【発明の効果】
【0010】
以上により、密着層の流路対応部には基板面に対して成す角が垂直に近い端面が設けられることで、流路壁と基板との接合強度を高くすることができる。また、液体吐出ヘッドに関する情報表示用の部位には、基板面に対して鈍角を成す傾斜面が設けられることで、情報の識別、認定を容易にすることができる。これにより信頼性が高く、対応情報の認知が容易な液体吐出ヘッドを簡単な構成で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの模式的な斜視図である。
【図2】第1の実施形態を説明するための模式図である。
【図3】第1の実施形態を説明するための模式図である。
【図4】第2の実施形態を説明するための模式図である。
【図5】第2の実施形態を説明するための模式図である。
【図6】第1の実施形態を説明するための模式図である。
【図7】第1の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0013】
なお、本発明に係る液体吐出ヘッド(以下ヘッド)は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。例えば、バイオッチップ作成や電子回路印刷、薬物を噴霧状に吐出するなどの用途としても用いることができる。
【0014】
図1は、液体吐出ヘッドの模式的な斜視図であり、液体吐出ヘッドの一部を切り欠いた状態の図である。これはチップ単位に切断された後の状態のものを示している。本実施形態の液体吐出ヘッドは、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が所定のピッチで2列に並んで形成されたシリコンの基板12を有している。基板12には、共通供給口13が、エネルギー発生素子2の2つの列の間に開口されている。基板12上の、流路の内壁を有する流路壁部材9には、各エネルギー発生素子2の上方に開口する吐出口11と、共通供給口13から各吐出口11に連通する流路14が設けられている。吐出口開口面には撥液材料による撥液処理がされていてもよい。
【0015】
このヘッドは、共通供給口13が形成された面が被記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして共通供給口13を介して流路内に充填されたインクに、エネルギー発生素子2によって発生する圧力を加えることによって、吐出口11からインク等の液滴を吐出させ、紙等の記録媒体に付着させることによって記録を行う。
【0016】
また、図1(b)に示される形態では、流路壁部材9の周囲を囲むように周囲部材101が配されている。周囲部材101は、流路壁部材9が樹脂の硬化物で形成される場合、同硬化物により形成されることが好ましい。例えば、流路壁部材と同等の高さの周囲部材101を設けることにより、ワイピング特性向上が向上されたり、基板の素子面保護が向上したりする等の効果を奏する。
【0017】
液体吐出ヘッドの端部の情報記号領域S(図1(a))、R(図1(b))には、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号状のパターンが設けられている。
【0018】
(第1の実施形態)
図2、図3は本発明の第1の実施形態に係るヘッドを説明するための模式図である。図2(a)は、図1(a)に示されるヘッドの情報記号領域S付近の上部を拡大した図であり、図2(b)は図1(a)、図2(a)のA−A’を通って、基板に垂直に液体吐出ヘッドを切断した場合の切断面を液体吐出ヘッド外側から内側に向かって見た図である。また図2(c)は、図1(a)、図2(a)のB−B’を通って、基板に垂直に液体吐出ヘッドを切断した場合の切断面を液体吐出ヘッド外側から内側に向かって見た状態を示す模式図である。図3(a)は、図1(b)に示されるヘッドの情報刻印領域R付近の上部を拡大した図である。また、図3(b)は、図1(b)、図3(a)のC−C’を通って基板に垂直に液体吐出ヘッドを切断した場合の切断面を液体吐出ヘッド外側から内側に向かって見た状態を示す模式図である。
【0019】
図2(b)に示されるように、基板12は、基材10と、TaSiNなどの発熱抵抗体からなるエネルギー発生素子2を覆うように設けられたSiN、SiCなどの絶縁層、あるいはTaなどの耐キャビテーション層などの表面層4とを有している。表面層4から基板表面が形成されている。その基板表面と流路壁部材9との間には、流路壁部材9と基板表面とに接するように中間層1が設けられている。例示した形態は中間層1が流路14に露出していないが、中間層1が流路14に露出していてもよい。基板表面を形成する表面層4が無機物で流路壁部材9がエポキシ樹脂の硬化物や、ポリイミド等の樹脂である場合には、中間層1がポリイミドや、ポリエーテルアミドであると、表面層4と流路壁部材9との接合性が良好である。この中間層1の外端面の1つである第2の外端面7が基板表面と成す第2の角の第2の角度φは、後述する第1の外端面3と基板表面が成す第1の角の第1の角度θよりも小さい。この第2の外端面7が基板表面と成す第2の角度φは、85度以上100度未満であると流路設計上好ましい。例えば中間層1が流路壁部材9と基板12との接合性の強化に寄与するような材料であって、中間層1の配置領域の端8が決定されているとすると、その中で、基板表面と流路壁部材9との両方との接触面積の総和を大きくできる。第2の角度φが85度以上90度未満である場合、中間層1はオーバーハング形状となる。これは、中間層1の外端面7を成す部分をリフトオフ法により形成したり、中間層1にネガ型感光性樹脂を使用してパターン露光時のフォーカス位置を調整して形成したりすることができる。あるいは、レジストマスクを使用して等方性エッチングを行うことによって形成することもできる。また中間層1の厚さは特に限定されないが、0.5μm以上10μm以下の厚さとすることが好ましく、1μm以上5μm以下とすると層形成が簡単であり、応力が小さいためより好ましい。
【0020】
一方、図2(c)に示されるように、中間層1は、基板表面に対して鈍角である第1の角度θ1、θ2、θnを成す第1の外端面3を有する。θ1、θ2、θnはそれぞれ異なる角度であってよい。
【0021】
図2(a)に示されるように、吐出口側から基板に向かう方向に液体吐出ヘッドを見た場合、第1の外端面3は、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号の輪郭の形状を有している。中間層1が設けられず、第1の外端面3に囲まれ、流路壁部材9と接している基板表面は、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号の形状を有している。この流路壁部材9と中間層1とは光の屈折率が異なり、これを利用して中間層1の輪郭形状を認知することが可能である。図3(a)では連続する外端面3は、記号の一例としてそれぞれ数字の「7」、「0」、「7」の輪郭の形状であり、3桁の数字「707」として認識することができる。
【0022】
流路壁部材9側から光透過性の流路壁部材9を透かして中間層1の端部を目視、センサー等で光学的に認知し、中間層1の輪郭を認識することができる。その場合、流路に対向し、第2の角度φを成す第2の外端面7を中間層1の輪郭として認識することは可能である。一方、情報表示に用いられている第1の外端面3の第1の角度θが第2の角度φに比べて大きいので、光学的認知に使用可能な領域を大きく持つことができ、中間層1の輪郭の認識を行いやすい。言い換えると同一の中間層1の中で第2の外端面7が基板表面に対してほぼ垂直であるのに対して、第1の外端面3は傾斜している。傾斜面である第1の外端面3は、ほぼ垂直である場合よりも上方からの光学認知が容易であり、特に目視による認知がしやすい。そのため、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号を簡単に認識できる。第1の角度θは、100度以上115度以下であることが好ましい。100度以上であると光学的認識をより簡単に行うことができ、115度以下であると傾斜部の幅が太すぎず、傾斜部の始点(中間層1の上面)と終点(基板表面と外端面3との境界)を見つけやすい。また、基板表面の第1の外端面3に囲まれ、流路壁部材9と接している部分の形状を記号として認知しようとした場合にも、第1の外端面3が傾斜していると、基板表面と中間層1との境界部分を見つけやすいという利点がある。なお、流路壁部材9はエポキシ樹脂、ポリイミドなどの樹脂の他、シリコンの窒化物、シリコンの酸化物等の無機化合物から形成されていてもよい。また、中間層1はポリイミド、ポリエーテルアミド等の熱可塑性樹脂の他に、シリコンの窒化物、シリコンの酸化物、シリコンの炭化物等の無機化合物から形成されていてもよい。
【0023】
また、図3(a)、図3(b)に示されるように、周囲部材101が設けられている形態では、中間層1の周囲部材101と基板表面との間の部分に第1の外端面3による記号表示部が設けられていてもよい。流路壁部材9下部と周囲部材101下部の両方に記号の輪郭状の第1の外端面3が設けられていてもよい。
【0024】
上述した説明では、図6(a)に示されるように、アラビア数字の「7」という文字形状を中間層1の抜きパターンがなしている形態を説明した。しかし、図6(b)に示されるように、中間層1の残しパターンがアラビア数字の「7」の形状をなしている形態をとってもよい。
【0025】
また文字は数字に限られず、外端面3により「E」、「1」、「1」としてローマ字を混在させる形態、または、ローマ字のみでもよい。さらに、数字はアラビア数字のみではなく、ローマ数字、漢数字でもよい。読み取りは、顕微鏡を使い、倍率、フォーカスを調整して人間が視認してもよいし、機械に認証させることも可能である。人間が視認することは、特別な読み取り装置を必要とせず、また文字形状に多少の形状誤差が生じていてもそれを加味して判断できるという点でこのましい。一方可視光以外の光を用いて、流路壁部材9と中間層1とのコントラストを計測して形状に関する情報を取得することが可能となる装置を使用して、得た情報から数値を認知してもよい。この場合には、流路壁部材9は、計測に用いられる任意の波長の光に対して、測定を妨げないような光吸収、光反射特性を有することが望まれる。
【0026】
情報記号領域S、Rに付される情報は、中間層1の上に流路壁部材が設けられる前に、予め決められていた液体吐出ヘッドに関する事項に対応する。一例として来歴情報が挙げられる。液体吐出ヘッドの製造方法としては、8インチ程度のウェハー基板上に流路、吐出口を形成し、それを液体吐出ヘッドのチップ単位に分離して液体吐出ヘッドを得る方法が挙げられる。例えば図7に示されるように、外端面3により画成される文字が、基板12がウェハー15から切り分けられてチップ単位に分割される前に、ウェハー領域内でどの位置にあったかということを数字で番号表示するというものである。ウェハーからの分割は、第1の外端面と、これとは別の第1の外端面との間の位置で行うことができる。
【0027】
それぞれの流路壁部材9をウェハー内のどの位置で形成することになるかという事項は、流路壁部材を形成する前に予め決められていて、上記事項が液体吐出ヘッドに関する情報として文字の形式で保存される。これをそれぞれ分離された液体吐出ヘッドから読み取ることによって、分離後の基板12のウェハー状態での位置を知ることが可能となり、これをもとに製造工程を振り返り、改善することが可能となる。たとえば、流路壁部材9を露光して製造するときのフォトマスクの状態を振り返ることができる。記号は、どのような記号であってもよいが、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号であることが好ましい。液体吐出ヘッドに関する情報は、液体吐出ヘッドの固体を識別するための情報、流路壁部材形成のための露光用マスクの識別情報、製造時の日時、場所に関連する情報や生産個数に関する情報等が挙げられる。上記は流路壁部材を形成する時点では決まっているもので、これらの情報をそれに対応する文字の輪郭形状の外端面3によって文字表示させることができる。
【0028】
以上の説明では、文字形状の第1の外端面3によって、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する情報を文字として液体吐出ヘッドに付与する形態を説明した。しかし、外端面3が輪郭をなす形状は文字形状に限定されず、広く記号(mark)として認識可能な形状とし、その記号と液体吐出ヘッドに関する情報とを対応させることができる。例えば、キーボードの「アットマーク」形状の記号や、トランプの「クローバー」形状の記号の形状の第1の外端面3を設けることができる。上述したように、文字に対して行ったことと同様に、予め分かっている液体吐出ヘッドに関する情報を記号に対応させて、その記号の形状の輪郭をなす第1の外端面3を液体吐出ヘッドに設けることができる。記号は、数学、物理学等の学問の分野、音楽、美術等の芸術の分野のほかに、建築、会計、道路交通、商業等の分野で使用され、その例として、文字の他、符号として使用されるものも挙げられる。また、一般的に事象と関連した記号として認識されて使用されることがない形状であっても、その形状と液体吐出ヘッドに関連する情報との対応関係を定義して、その形状を記号として使用することも可能である。記号と対応する情報によってウェハー内の全ての液体吐出ヘッド単位に関して同じ記号の輪郭形状の第1の外端面3を形成することも、第1の記号、第2の記号、第3の記号、第nの記号というように、記号を異ならせることも可能である。
【0029】
(第2の実施形態)
液体吐出ヘッドの製造方法の一例を第2の実施形態として説明する。
【0030】
図4は、本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の製造方法の一例を示す模式的断面図である。図4(a1〜d1)は、図1(a)のA−A’、図1(b)のF−F’を通り、基板12に垂直に基板を切断した場合の各工程での切断面を表わす模式的切断面図である。図4(a2〜d2)は、図1(a)のB−B’、図1(b)のC−C’を通り、基板12に垂直に基板を切断した場合の各工程での切断面を表わす模式的切断面図である。
【0031】
図4(a1)に示されるように、シリコンの基板12には液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が設けられている。図4(a1)、(a2)に示されるように、シリコン基板12上に基板表面を形成する表面層4、中間層1となる中間材料層1a、中間材料層1aをエッチングするためのエッチングマスクとなるマスク材料層5a、がこの順に積層されている基板12を用意する。
【0032】
次いで、図4(b1)、(b2)に示されるように、マスク材料層5aをパターニングして中間材料層1aを形成するためのエッチングマスク5を形成する。図4(b1)に示されるように、エッチングマスク5の流路となる領域に対向する第4の外端面16が中間材料層1aと成す第4の角度Eは、ほぼ垂直に近い形状である。一方、図4(b2)に示されるように、エッチングマスクの情報記号領域に対応する部分の外端面6が中間材料層1aとなす角度Dは、鈍角である。ここで、角度Eは角度Dより小さい。第4の外端面16は第2の外端面7に、第3の外端面6は第1の外端面3に対応している。第3の外端面6は、マスク材料層5aにポジ型感光性樹脂を使用して、プロキシミティー露光方式におけるマスクと感光性樹脂との間のギャップを利用してマスク材料層5aの上部を回折光によりマスク内側領域まで露光することで形成することができる。また、縮小投影露光方式によって焦点位置を調整することにより、第3の外端面6が基板表面に対して、鈍角Dをなすように形成することができる。
【0033】
図5は、このとき、図4(b2)で示されるエッチングマスク5を、その上方から基板12に向かって見た場合のエッチングマスクの状態を示している。エッチングマスク5の上面を基板12に向かう方向に見て、液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第3の角度を成す第3の外端面6に囲まれるように、中間材料層1aが露出している。液体吐出ヘッドの1小片単位ごとに、異なる記号を設定することも可能である。このときにはウェハー全面一括露光方式の露光機を用いてそれぞれ異なる記号の輪郭形状の外端面をエッチングマスク5に形成する。
【0034】
次いで、図4(c1)、(c2)に示されるように、エッチングマスク5を使用して中間層1をエッチングするこれにより、第1の外端面3と、第2の外端面7と、を有する中間層1が基板表面上に形成される。
【0035】
次いで、図4(d1)、(d2)に示されるようにマスク5を除去する。
【0036】
その後、適宜流路壁部材9を中間層1上に形成し、図2(b)に示されるような流路部と、図2(c)または図3(b)に示されるような情報記号領域を形成する。
【0037】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0038】
(実施例1)
まず、エネルギー発生素子2(材質:TaSiN)とドライバーやロジック回路(不図示)が複数個配置され、SiNからなる表面層4が設けられた略円盤ウェハー状のシリコン基板12を用意した。そして表面層4上にポリエーテルアミド樹脂(HIMAL(商品名):日立化成社製)をスピンコートにて2μm厚に塗布し、オーブン炉にて100℃/30min+250℃/60minベークし、中間材料層1aを形成した。そして、中間材料層1a上に東京応化社製IP5700をスピンコートにより5μm厚で塗布し、90℃でベークしてマスク材料層5aを形成した(図4(a1)、(a2))。
【0039】
次いで、マスク5の、中間層1の流路壁部材9に対応する部位を形成するための部分をまず形成した。i線ステッパー(キヤノン製)を用いてマスク材料層5aを、1つのマスクを連続的に使用して1つの液体吐出ヘッド単位に毎に露光した。
【0040】
次いで、マスク5の、中間層1の情報記号領域に対応する部位を形成するための部分をまず形成した。投影露光装置でフォトマスクと一対一になるように、マスク材料層5aを露光した。この時フォトマスクとシリコン基板12間の露光Gapは60μmとした。
【0041】
次いで、マスク材料層5aを現像液(NMD−3(商品名):東京応化社製)にて現像して、第4の外端面16と第3の外端面6とを備えたマスク5を形成した。第4の角度Eは約90度、第3の角度Dは約110度であった(図4(b1)、(b2))。第3の外端面6はウェハー内での液体吐出ヘッド単位の位置と対応させた数字の輪郭の形状となるように形成した。その1つは、数字の「10」とした。次いで、マスク5を利用して中間材料層1aをRIE方式にてドライエッチングし、リムーバー(1112A(商品名):ローム社製)によってレジストを除去して中間層1を形成した(図4(c1)、(c2))。第1の角度θは約110度、第2の角度φは約90度であった。第1の外端面3はウェハー内での液体吐出ヘッド単位の位置と対応させた数字の輪郭の形状となるように形成した。
【0042】
次いで、中間層1が形成された基板12の表面に流路14の型となるポジ型感光性樹脂(ODUR(商品名):東京応化社製)をスピンコートにより14μm厚で塗布し、露光、現像を行って流路の型を形成した。その上に、流路壁部材9となるための、以下の組成物をスピンコートして25μmの被覆層(不図示)を、第1、第2の外端面部を含み中間層1を全体的に覆うように形成した。
エポキシ樹脂:EHPE−3150(ダイセル化学(株)製) 100質量部
光カチオン重合開始剤:SP−172(旭電化工業(株)製) 6質量部
キシレン 100質量部
その被覆層をi線ステッパーにて露光し、キシレン60質量%とメチルイソブチルケトン40質量%の混合液で現像を行い、オーブン炉にて140℃/60minにて硬化させて吐出口11を形成した。次に、シリコン基板12に異方性エッチングにて供給口(不図示)を形成した。
【0043】
次いで、乳酸メチルで流路の型を除去して流路14を形成した(図2(a)。
【0044】
最後に略円盤形状の基板12をダイシングして分割することにより、チップ状の液体吐出ヘッドを複数得た。
【0045】
得られた液体吐出ヘッドの1つについて、吐出口面側から基板方向に流路壁部材9を透かして、情報記号領域を顕微鏡により観察したところ、第1の外端面3が数字の「10」の輪郭状であることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
中間層1を形成するための中間材料層1aを実施例1で使用したポリエーテルアミド樹脂からポリイミド樹脂に変更した。それ以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。実施例1と同様に情報記号領域を観察したところ、第1の外端面3が数字の「10」の輪郭状であることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
1 中間層
3 第1の外端面
4 表面層
5 マスク
6 第3の外端面
7 第2の外端面
9 流路壁部材
11 吐出口
12 基板
14 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、前記吐出口に連通する流路の内壁を備えた光透過性の流路壁部材と、前記基板の表面と前記流路壁部材との間に前記基板と前記流路壁部材とに接し、前記流路壁部材の光の屈折率と異なる光の屈折率を有する中間層と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記中間層は、前記吐出口から前記基板に向かう方向に見て、記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第1の角度を成す第1の外端面と、前記流路と対向し、前記表面に対して前記第1の角度より小さい第2の角度を成す第2の外端面と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記流路壁部材はエポキシ樹脂の硬化物からなり、前記中間層は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記流路壁部材と前記中間層とが無機化合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の角度は100度以上115度以下であり、前記第2の角度は85度以上100度未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記基板の前記第1の外端面に囲まれた領域が前記記号の形状を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1の外端面を備えた前記中間層が前記記号の形状を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記記号が液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、前記吐出口に連通する流路の内壁を備えた光透過性の流路壁部材と、前記基板の表面と前記流路壁部材との間に前記基板と前記流路壁部材とに接し、前記流路壁部材の光の屈折率と異なる光の屈折率を有する中間層と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記表面上に前記中間層となるための中間材料層と、前記中間材料層をエッチングするために利用されるマスクとなるためのマスク材料層と、がこの順に設けられた前記基板を用意する工程と、
前記マスクの上面から前記基板に向かう方向に見て、記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第3の角度を成す第3の外端面と、前記流路となる領域に対向し、前記表面に対して前記第3の角度より小さい第4の角度を成す第4の外端面と、を備えた前記マスクを前記マスク材料層から形成する工程と、
前記マスクを用いて前記中間材料層をエッチングして、記号の輪郭の形状を有し、前記表面に対して鈍角である第1の角度を成す第1の外端面と、前記流路と対向し、前記表面に対して前記第1の角度より小さい第2の角度を成す第2の外端面と、を有する前記中間層を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
第1の記号の輪郭の形状を有する前記第1の外端面と、前記第1の記号と輪郭の形状が異なる第2の記号の輪郭の形状を有する前記第1の外端面と、を前記中間層にそれぞれ形成し、前記第1の記号の輪郭の形状を有する前記第1の外端面と、前記第2の記号の輪郭の形状を有する前記第1の外端面との間の位置で前記基板を分割することを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記記号が液体吐出ヘッドに関する情報に対応する記号である請求項8または9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−45931(P2012−45931A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161434(P2011−161434)
【出願日】平成23年7月23日(2011.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】