液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法
【課題】液体吐出ヘッドの小型化および液体のリフィル性能を確保しつつ、吐出エネルギー発生素子を備えた素子基板と、配線基板と、を適確に接続する。
【解決手段】インク流路4と対向する側のヒータボード1の表面上において、ボンディングパッド9の形成位置は、ヒータ2の形成位置よりも低くする。
【解決手段】インク流路4と対向する側のヒータボード1の表面上において、ボンディングパッド9の形成位置は、ヒータ2の形成位置よりも低くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を吐出可能な液体吐出ヘッド、および、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の液体を吐出可能な液体吐出ヘッドとしては、例えば、液体のインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドがある。この記録ヘッドは、圧力エネルギーをインクに与えることにより、そのインクに急峻な体積変化を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって、吐出口からインクを吐出する構成となっている。圧力エネルギーをインクに与えるための吐出エネルギー発生素子としては、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などが用いられる。電気熱変換体を用いた場合には、その発熱によりノズル内のインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、吐出口からインクを吐出することができる。このような記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置は、その記録ヘッドから吐出されたインクを記録媒体に付着させることにより画像を記録する。
【0003】
特許文献1には、図13のように、ベースプレート21に積層されたヒータボード(素子基板)22に、吐出エネルギー発生素子としての電気熱変換体(以下、「ヒータ」という)23を備えた記録ヘッドが記載されている。ヒータボード22には、天板24と流路形成部材25が順次接合されており、ヒータボード22と天板24との間には、複数のノズルを構成する複数のインク流路25が形成されている。流路形成部材25内のインク供給路26を通して供給されるインクは、共通液室27からそれぞれのインク流路25に導入される。ベースプレート21に接合された配線基板28上のボンディングパッド29と、ヒータボード22上のボンディングパッド30と、の間は、ワイヤ31によって電気的に接続されている。
【0004】
ヒータ23の駆動信号は、配線基板28からワイヤ31を通してヒータ23に伝達され、その駆動信号によってヒータ23が発熱する。その発熱によりインク流路25内のインクが発泡し、その発泡エネルギーによって、インク吐出口からインクが吐出される。
【0005】
ヒータボード22上には、絶縁層、発熱抵抗層、金属配線、および保護膜などが積層されており、その電気発熱層によってヒータ23が形成され、その金属配線を通してヒータ23がボンディングパッド30に接続される。ヒータボード22の表面はフラットに形成されており、その表面上に、少なくとも1つの層を介してヒータ23とボンディングパッド30が形成されている。したがって、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、ボンディングパッド30が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にあり、ヒータ23とボンディングパッド30はほぼ同一平面上に位置する。
【0006】
特許文献2には、図14および図15のように、2つのヒータボード22の間にインク流路25を形成し、1つのインク流路25に対して、2つのヒータ23と2つの可動弁32を備えた記録ヘッドが記載されている。図14は、インク流路25部分の断面図であり、図15は、図14のXV−XV線に沿う断面図である。図14は、図15のXIV−XIV線に沿う断面図に相当する。33は、共通液室27を形成するための壁33であり、34は、インク流路25を形成するためのノズル壁34である。図14および図15の例においては、下側のヒータボード22のヒータ23に対して、下側の配線基板28からワイヤ31を通して駆動信号が供給され、上側のヒータボード22のヒータ23に対して、上側の配線基板28からワイヤ31を通して駆動信号が供給される。特許文献2には、上下のヒータボード22上のボンディングパッド30をバンプ電極とし、それらのバンプ電極の間に配線基板を挟むようにして接続する構成が記載されている。
【0007】
上下のヒータ23の発熱によりインク流路25内のインクが発泡し、そのときにおけるインク中の気泡の成長方向は、上下の可動弁32の自由端の変形を伴って、インク吐出口の方向に規制される。この結果、インクの吐出量の増大と、インクのリフィル速度の向上が可能となる。このような記録ヘッドは、種々の記録媒体に画像を記録するために特殊なインクを吐出する記録ヘッドとして好適であり、粘性が高いインクを安定的に吐出することができる。
【0008】
図13の記録ヘッドと同様に、上下のヒータボード22上のそれぞれにおいて、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、ボンディングパッド30が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にある。したがって、ヒータ23とボンディングパッド30はほぼ同一平面上に位置する。特許文献2に記載されているように、上下のヒータボード22上のボンディングパッド30をバンプ電極とし、それらのバンプ電極の間に配線基板を挟むようにして接続した場合も同様である。すなわち、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、バンプ電極が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にあり、ヒータ23とバンプ電極はほぼ同一平面上に位置する。
【0009】
【特許文献1】特開2002−67330号公報
【特許文献2】特開平10−337869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、インクジェット記録装置に対しては、記録速度のさらなる高速化が要求されてきている。このような要求に応えるための記録ヘッドには、吐出エネルギー発生素子へのエネルギーの印加、ノズル内のインクへの圧力伝播、そしてインクの吐出という一連の動作を高速かつ安定的に連続可能であること、つまり高度な吐出周波数応答性が求められる。その対策としては、記録ヘッド内におけるインクの圧力損失を小さくするために、大容量のインク供給室を備えたり、インク流路の断面積を増やすことが考えられる。しかしながら、このような対策を講じた場合には、記録ヘッドの全体寸法が増して、それを備える記録装置の大型化を招くおそれがある。
【0011】
例えば、図13の記録ヘッドにおいて、インクの流路抵抗を小さくするためにインク供給路26の内径を増す場合には、流路形成部材25の堅牢性を維持するために、インク供給路26の周囲の肉厚は大きくすることが望ましい。しかし、流路形成部材25の厚みを増した場合には、記録ヘッドの外形寸法の増加を招くおそれがある。その記録ヘッドの外形寸法の増加を避けるために、流路形成部材25の厚みをベースプレート21側に向かって増した場合には、その厚くした部分25Aがワイヤ31に接近してしまう。ワイヤ31の配線されたときの高さのバラツキ、あるいは記録ヘッドの構成部品の寸法のバラツキによっては、流路形成部材25の部分25Aとワイヤ31とが干渉するおそれがある。したがって、高度な吐出周波数応答性と記録ヘッドの小型化を達成することが難しかった。
【0012】
また、図14および図15の記録ヘッドにおいて、上下のヒータ23の対向間隔が大き過ぎた場合には、インクの発泡エネルギーがインク流路25内にて減衰して、圧力がインク吐出口方向へ伝播しづらくなる。また、上下の可動弁32の対向間隔も大きくなり、それらの可動範囲が増大して、インクのリフィル性能の向上が望めなくなるおそれがある。したがって、上下のヒータ23は近接して配置する必要がある。
【0013】
しかし、このように上下のヒータ23を近接させた場合には、上下のヒータボード22におけるボンディングパッド30も近接してしまう。そのため、それらのパッド30に接続されるワイヤ31同士が接近して、接触するおそれがある。また、特許文献2に記載されているように、上下のヒータボード22上のバンプ電極の間に、配線基板を挟むようにして接続する場合には、それらのバンプ電極と配線基板の厚み分の寸法を上下のヒータボード22の間に確保しなければならない。そのため、上下のヒータ23を近接させることが難しくなる。
【0014】
本発明の目的は、液体吐出ヘッドの小型化および液体のリフィル性能を確保しつつ、吐出エネルギー発生素子を備えた素子基板と、配線基板と、を適確に接続することができる液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の液体吐出ヘッドは、吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドにおいて、前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置は、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低いことを特徴とする。
【0016】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドの製造方法において、前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置を、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低くするように、前記素子基板の前記表面を成形する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、素子基板の表面上における接続端子の形成位置を、素子基板の表面上における吐出エネルギー発生素子の形成位置よりも低くすることにより、接続端子と配線基板との接続部の周りの空間を広く確保することができる。したがって、最適な液体流路や液体供給路を形成して、液体吐出ヘッドの小型化および液体のリフィル性能を確保しつつ、素子基板と配線基板とを適確に接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの構成例を説明するための分解斜視図である。本例の液体吐出ヘッドは、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド100としての適用例である。
【0019】
セラミックプレート(ベースプレート)103上には、後述するように吐出エネルギー発生素子、インク流路、および共通液室などを備えた吐出エレメント101と、電気配線基板102と、が配置される。流路形成部材104には、吐出エレメント101内の共通液室に接続されるインク供給路と、そのインク供給路に連通しかつインクタンクに接続されるインク供給口が形成されている。インクタンクのインクは、インク供給路を通して共通液室に供給される。
【0020】
図2は、記録ヘッド100を用いるインクジェット記録装置201の構成例を説明するための概略正面図である。本例の記録装置201は、いわゆるフルラインタイプの記録装置であり、搬送部204によって矢印Y方向に連続的に搬送される記録媒体Pに対して、記録位置に移動した記録ヘッド100からインクを吐出することにより、記録媒体P上に画像を記録する。記録媒体Pは給紙部206から給紙され、記録ヘッド100が吐出するインクはインクタンク203から供給される。本例の場合は、6つのインクタンク203から、イエロ(Y)、淡マゼンタ(LM)、マゼンタ(M)、淡シアン(LC)、シアン(C)、およびブラック(K)のインクが6つの記録ヘッド100に供給される。記録ヘッド100は、記録媒体Pの幅方向における記録領域の全域に亘って延在するように、長尺に構成されている。202は、記録ヘッド100に対して回復処理を行うための回復ユニット202、205はオペレーションパネル部である。
【0021】
図3は、記録ヘッド100の要部の斜視図である。
【0022】
セラミックプレート(ベースプレート)103上には、吐出エレメント101のヒータボード(素子基板)1と、配線基板102と、が接合されている。ヒータボード1には、吐出エネルギー発生素子としての電気熱変換体(以下、「ヒータ」という)が複数配置されている。ヒータ2は、例えば、チッ化タンタル等の発熱抵抗層により形成されており、その厚さは0.01〜0.5μm、シート抵抗値は単位正方形当たり10〜300Ωである。ヒータ2には、通電のためのアルミニウム等の金属配線(図示せず)が接続されている。ヒータボード1上には、このような発熱抵抗層や金属配線の他、絶縁層や保護膜などが積層されており、その電気発熱層によってヒータ2が形成され、その金属配線を通して、ヒータ2がボンディングパッド(接続端子)9に接続される。ボンディングパッド9は、ヒータボード1上において、ヒータ2が配列された配列部と反対側の端部に複数形成されている。ヒータ2とボンディングパッド9は、少なくとも1つの層を介してヒータボード1上に形成されている。
【0023】
ヒータ2が形成されるヒータボード1の表面(以下、「ヒータ形成面(素子形成面)」ともいう)と、ボンディングパッド9が形成されるヒータボード1の表面(以下、「パッド形成面(端子形成面)」ともいう)と、はヒータボード1の厚み方向にずれている。つまり、ヒータボード1の表面には段差Hが形成されており、パッド形成面はヒータ形成面よりも低い位置にある。また、それらのパッド形成面とヒータ形成面は、互いに平行な平面に形成されている。パッド形成面は、ヒータ形成面の一部をエッチングすることにより形成される。
【0024】
配線基板102には、複数のボンディングパッド9のそれぞれの対応する複数のボンディングパッド10が形成されている。それらのパッド6,10は、ワイヤ11によって電気的に接続され、そのワイヤ11を通して、配線基板102からの電気信号がヒータ2に伝達される。配線基板102には、ヒータ2への通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)、そのスイッチトランジスタを制御するためのゲート素子等の回路からなる制御ICなどが搭載されている。これにより、記録装置からの駆動信号に応じてヒータ2が駆動される。
【0025】
ヒータボード1上に形成されたノズル壁4に天板16が接合されることにより、複数のヒータ2のそれぞれに対応する複数のインク流路(液体流路)4が形成されている。インク流路4は、ヒータの上方に位置する。インク流路4の一端は吐出口3にて開口し、その他端は共通液室8に連通されている。以下、インク流路4、吐出口3、およびヒータ2を含めて「ノズル」ともいう。ヒータボード1には、吐出口3の縁部に位置する土手6が形成されている。また、それぞれのインク流路4内には可動弁7が配設されており、それらの可動弁7の基端は、ヒータボード1上の弁台座(図示せず)に支持されている。共通液室8とボンディングパッド9の配列部との間には、液室壁14が形成されており、その液室壁14からノズルに向かう空間が、インクタンクから供給されるインクを貯留するための共通液室8となる。本例において、ノズル壁4、土手6、液室壁14は、感光性樹脂により形成される。
【0026】
共通液室8からインク流路4内に供給されたインクは、ヒータ2の発熱により加熱されて、発泡する。その発泡により、可動弁7の自由端の変形を伴って、吐出口3からインクが吐出される。可動弁7は、効率よくインクを吐出させるように、インク中の気泡の成長方向を規制する。
【0027】
図4は、吐出エレメント101と配線基板102との接続部分を説明するための断面図である。図4において、土手6、可動弁7、および液室壁14の図示は省略する。
【0028】
ヒータボード1上に形成されたボンディングパッド9と、配線基板12上に形成されたボンディングパッド10と、は、ワイヤボンディング技術によりワイヤ11を用いて接続される。ヒータボード1には、天板16と、インク供給路12などを形成する流路形成部材104が接合され、それらは精密に位置決めされる。一般に、ワイヤ11の位置は、ボンディングパッド9,10の表面(ワイヤ11の接続面)よりも250μm程度高くなる。ヒータボード1上におけるヒータ形成面とパッド形成面との間には、段差Hが形成されているため、流路形成部材104とワイヤ11との間に充分な隙間を空けることができる。したがって、流路形成部材104とワイヤ11との接触を防止して、それらの接触に起因する電気的不良の発生を回避することができる。
【0029】
流路形成部材104によって形成されるインク供給路(液体供給路)12の断面積を増すことにより、そのインク供給路12におけるインクの圧力損失を減少させることができる。その場合、流路形成部材104の部分104Aの厚みをベースプレート1側に向かって増すことにより、記録ヘッドの外形寸法の増加を避けることができる。このように、ボンディングパッド9の上方に位置する流路形成部材104の部分104Aの厚みを増したとしても、その部分104Aがワイヤ11に接触することはない。したがって、記録ヘッドの外径寸法の増加を避けつつ、インク供給路12の断面積を増すことにより、インクの圧力損失を減少させて、インクのリフィル性能を向上させることができる。つまり、高度な吐出周波数応答性と記録ヘッドの小型化を達成することができる。
【0030】
図5(a)〜(f)および図6(a)〜(f)は、吐出エレメント101の製造方法の一例を説明するための図である。図6(a)は、ヒータ2の中心を通ってヒータ形成面に垂直な図5(a)のVI−VI線に沿う断面図であり、図6(b)〜(f)のそれぞれも同様である。図5(a)は、図6(a)のV−V線に沿う断面図に相当し、図5(b)〜(f)のそれぞれも同様である。
【0031】
まず、図5(a),図6(a)に示すように、シリコンウェハに画成されるヒータボード1におけるパッド形成位置をエッチング加工して、そのパッド形成位置とヒータ形成位置との間に段差Hを形成する。すなわち、シリコンウェハの表面全体にレジスト膜を形成した後、フォトマスクを介して露光し、パッド形成位置およびその周囲におけるシリコンウェハの表面のみを露出させる。それから、その露出したシリコンウェハの表面をエッチングして掘り込むことにより、そのシリコンウェハに画成されるヒータボード1に、段差Hを形成する。
【0032】
その後、シリコンウェハに対して熱酸化法、CVD法、あるいはスパッタリング法等により成膜し、チッ化タンタル等からなる発熱抵抗層、およびアルミ等の金属配線などを積層してヒータ2を形成すると共に、ボンディングパッド9を形成する。これにより、ヒータボード1が完成する。
【0033】
次に、紫外線感光樹脂フィルムとの密着性の向上を目的として、ヒータボード1の表面を洗浄し、さらにヒータボード1の表面を紫外線−オゾン等によって改質する。その後、その改質したヒータボード1の表面上に、例えば、シランカップリング剤をエチルアルコールで1重量%に希釈した液をスピンコートする。次に、ヒータボード1の表面を洗浄してから、図5(b),図6(b)のように、ヒータボード1上に紫外線感光樹脂フィルム15をラミネートする。そして、その紫外線感光樹脂フィルム15上に、フォトマスクを介して矢印方向から紫外線を照射する。これにより、図5(c),図6(c)のように土手6などを形成する。
【0034】
その後、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線を照射することにより、図5(d),図6(d)のようにノズル壁5と液室壁14などを形成する。土手6やノズル壁5等は、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液によって現像され、露光部分として硬化することにより形成される。未露光部分は融解される。
【0035】
その後、図5(e),図6(e)のように、可動弁7を設置して固定する。それから、図5(f),図6(f)のように、予め感光性樹脂フィルムをラミネートしておいた天板16をノズル壁5上に接合する。その後、200度程度のキュアを経て、吐出エレメント101が完成する。
【0036】
(第2の実施形態)
図7から図12は、本発明の第2の実施形態を説明するための図である。
【0037】
図7は、本実施形態における記録ヘッドの要部の斜視図、図8は、インク流路4部分の断面図、図9は、図8のIX−IX線に沿う断面図である。図8は、図9のVIII−VIII線に沿う断面図に相当する。本実施形態における吐出エレメントは、前述した第1の実施形態における吐出エレメント101と同様の構成のものを2つ上下対称的に組み合わせた構成となっている。つまり、吐出エレメント101と同様の構成のものが2つ対向配備されている。そのため、2つのヒータボード1の間にインク流路4が形成され、1つのインク流4に対して、2つのヒータ2と2つの可動弁7が備えられる。図7から図8において、前述した第1の実施形態における記録ヘッドと同様の部分には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0038】
本例において、上下のヒータボード1のそれぞれには、前述した実施形態と同様に、ヒータ形成面とパッド形成面との間に段差Hが形成されている。そのため、インクのリフィル性能を向上させるために上下のヒータ2を近接して配置した場合に、上下のワイヤ11同士の接触を防止することができる。しかも、共通液室8を含むインク供給路の断面積を大きく設定して、インクのリフィル性能をさらに向上させることができる。したがって、高度な吐出周波数応答性を達成することができる。また、このような構成の記録ヘッドは、種々の記録媒体に画像を記録するために特殊なインクを吐出する記録ヘッドとして好適であり、粘性が高いインクを安定的に吐出することができる。
【0039】
図10(a)から(f)は、本例の記録ヘッドにおけるインクの吐出過程を説明するための図である。これらの図は図8と同様の断面であり、ノズルの断面は、吐出口3の中心線Lに対して上下対称となっている。
【0040】
図10(a)は、ヒータ2が通電されていない通電前の状態であり、吐出口3付近のインクは、メニスカス13を形成してインク流路4内に保持されている。ヒータ2に通電して発熱させることにより、図10(b),(c)のようにインク流路4内のインクが発泡し、可動弁7は、その気泡の発生によって生じるインクの圧力の伝播方向を吐出口3の方向に導くように変位する。図10(b)は発泡開始時の状態を示し、図10(c)は最大発泡時の状態を示す。インク流路4内のインクは、発泡によって生じた圧力により吐出口3から押し出され、気泡の成長に伴ってインクの液柱を形成する。
【0041】
ヒータ2によるインクの加熱が終了することにより、図10(d),(e)のように気泡が収縮する。図10(d)は、気泡が収縮する消泡開始時の状態を示し、図10(e)は消泡時の状態を示す。このような気泡の収縮に伴い、吐出口3付近のインクはインク流路4内に引き込まれる。インクの液柱の先端部分にはインクの吐出方向への慣性力が働いているため、その液柱の先端部分は、インク流路4内のインクから切り離される。その切り離された液柱は、インクの表面張力によって主滴Iaと副滴(サテライト)Ibを形成し、それらは記録媒体に向けて飛翔する。それらのインク滴が記録媒体上に着弾することにより、画像が記録される。図10(f)は、インク滴の吐出後の状態を示す。
【0042】
このようなヒータ2への通電、インク流路4内のインクへの圧力伝播、インクの吐出という一連の動作は、画像の記録動作中において高速かつ安定して行われなければならない。そのため、ヒータ2の発熱がインクに効率的に伝達されるように、上下のヒータ2は近接させる必要がある。一方、高速記録時には、図10(e)のようにインクが吐出した後に、図10(f)のようにインク流路4内に即時にインクがリフィルされなければならない。そのため、インク供給路におけるインクの流路抵抗は小さくする必要がある。
【0043】
本例の記録ヘッドにおいては、前述したように、ヒータボード1に段差Hが形成されて、上下のヒータボード1上におけるボンディングパッド9の対向間隔が大きく設定されている。そのため、上下のヒータ2を近接させた場合にも、共通液室8を含むインク供給路の断面積を大きくして、インクの流路抵抗を小さくすることができる。これにより、高度な吐出周波数応答性を達成することができる。本例の場合、上下のヒータボード1上におけるボンディングパッド9の対向間隔は、それらのヒータボード1上におけるヒータ2の対向間隔よりも大きい。
【0044】
図11(a)〜(h)および図12(a)〜(h)は、本実施形態における吐出エレメントの製造方法の一例を説明するための図である。図12(a)は、ヒータ2の中心を通ってヒータ形成面に垂直な図11(a)のXII−XII線に沿う断面図であり、図12(b)〜(h)のそれぞれも同様である。図11(a)は、図12(a)のXI−XI線に沿う断面図に相当し、図12(b)〜(h)のそれぞれも同様である。
【0045】
本実施形態における吐出エレメントは、前述した第1の実施形態における吐出エレメント101と同様の構成のものを2つ上下対称的に組み合わせた構成となっている。以下においては、吐出エレメント101と同様の構成の下側のものを「下側チップC1」といい、また、吐出エレメント101と同様の構成の上側のものを「上側チップC2」という。図11(a)〜(f)および図12(a)〜(f)の工程はチップC1,C2に共通であり、また図11(g)および図11(g)は下側チップC1のみの工程である。
【0046】
まず、図11(a),図12(a)に示すように、シリコンウェハに画成されるヒータボード1におけるパッド形成位置をエッチング加工して、そのパッド形成位置とヒータ形成位置との間に段差Hを形成する。すなわち、シリコンウェハの表面全体にレジスト膜を形成した後、フォトマスクを介して露光し、パッド形成位置およびその周囲におけるシリコンウェハの表面のみを露出させる。それから、その露出したシリコンウェハの表面をエッチングして掘り込むことにより、そのシリコンウェハに画成されるヒータボード1に、段差Hを形成する。
【0047】
その後、シリコンウェハに対して熱酸化法、CVD法、あるいはスパッタリング法等により成膜し、チッ化タンタル等からなる発熱抵抗層、およびアルミ等の金属配線などを積層してヒータ2を形成すると共に、ボンディングパッド9を形成する。これにより、ヒータボード1が完成する。
【0048】
次に、紫外線感光樹脂フィルムとの密着性の向上を目的として、ヒータボード1の表面を洗浄し、さらにヒータボード1の表面を紫外線−オゾン等によって改質する。その後、その改質したヒータボード1の表面上に、例えば、シランカップリング剤をエチルアルコールで1重量%に希釈した液をスピンコートする。次に、ヒータボード1の表面を洗浄してから、図11(b),図12(b)のように、ヒータボード1上に紫外線感光樹脂フィルム15をラミネートする。そして、その紫外線感光樹脂フィルム15上に、フォトマスクを介して矢印方向から紫外線を照射する。これにより、図11(c),図12(c)のように、ノズル壁5や土手6の下層部分などを形成する。
【0049】
その後、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線を照射することにより、図11(d),図12(d)のようにノズル壁5や土手6などを形成する。ノズル壁5や土手6等は、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液によって現像され、露光部分として硬化することにより形成される。未露光部分は融解される。
【0050】
その後、図11(e),図12(e)のように、可動弁7を設置して固定する。それから、図11(f),図12(f)のように、液室壁14を形成する。以上の工程により上側チップC2が完成し、下側チップC1は、さらに図11(g),図12(g)の工程を経ることにより完成する。
【0051】
図11(g),図12(g)の工程においては、下側チップC1におけるノズル壁5の上に、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線照射を行う。そして、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液により現像し、ノズル壁5の上層部を露光して硬化させ、未露光部分は融解させる。この結果、下側チップC1のノズル壁5が土手6の最上面よりも高く形成され、それらの間に段差hが形成される。
【0052】
このように、図11(g),図12(g)までの工程を経て作成された下側チップC1と、図11(f),図12(f)までの工程を経て作成された上側チップC2と、は、図11(h),図12(h)のように接合される。まず、下側チップC1のノズル壁5の上面に紫外線感光樹脂フィルムをラミネートする。その後、下側チップC1のヒータ2の中心と、上側チップC2のヒータ2の中心と、を一致させるように、それらのチップC1,C2を精密に位置決めして接合する。そして、それらを加熱することにより、紫外線感光樹脂フィルムを硬化させて、チップC1,C2を接着させる。
【0053】
このようにして、下側チップC1における段差hの部分を吐出口3として、本実施形態における記録ヘッドの吐出エレメントが完成する。
【0054】
(他の実施形態)
ヒータボード側と配線基板側のボンディングパッドの接続方法は、ワイヤを介しての方法のみに限定されない。例えば、ヒータボード側のパッドに形成されたバンプ電極に、TABのリード部を直接接合させる形態など、種々の接続方法を採用することができる。
【0055】
また、ヒータボードにおけるヒータ形成面とパッド形成面との間の段差Hを形成するための方法は、本例のようなエッチングを用いる方法のみに限定されない。例えば、機械的な切削手段にて段差Hを形成してもよい。また、パッド形成面の位置は、ヒータ形成面の位置よりもヒータボードの厚み方向において低ければよく、このような条件を満たすように、ヒータボードの表面が成形できればよい。
【0056】
また本発明は、インクを吐出する記録ヘッドの他、種々の液体を吐出する液体吐出ヘッドとして広く適用可能であり、そのような液体吐出ヘッドは、インクジェット記録装置以外の種々の液体吐出装置に用いることができる。また、液体流路内の液体を吐出させるための吐出エネルギー発生素子は、電気熱変換体(ヒータ)のみに特定されず、ピエゾ素子などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態における記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1の記録ヘッドを適用可能な記録装置の概略正面図である。
【図3】図1の記録ヘッドにおける吐出エレメントの一部切欠き斜視図である。
【図4】図3の吐出エレメントと配線基板との接続部分の断面図である。
【図5】(a)から(f)は、図3の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図6】(a)から(f)は、図3の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の記録ヘッドにおける吐出エレメントの一部切欠き斜視図である。
【図8】図7の吐出エレメントと配線基板との接続部分の断面図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿う断面図である。
【図10】(a)から(f)は、本発明の第2の実施形態の記録ヘッドによるインクの吐出過程の説明図である。
【図11】(a)から(h)は、図7の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図12】(a)から(h)は、図7の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図13】従来の記録ヘッドの一例の要部を説明するための断面図である。
【図14】従来の記録ヘッドの他の例の要部を説明するための断面図である。
【図15】図14のXV−XV線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ヒータボード(素子基板)
2 ヒータ(吐出エネルギー発生素子)
3 吐出口
4 インク流路(液体流路)
8 共通液室
9,10 ボンディングパッド(接続端子)
11 ワイヤ
12 インク供給路(液体供給路)
100 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
101 吐出エレメント
102 配線基板
103 ベースプレート(セラミックプレート)
104 流路形成部材
H 段差
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を吐出可能な液体吐出ヘッド、および、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の液体を吐出可能な液体吐出ヘッドとしては、例えば、液体のインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドがある。この記録ヘッドは、圧力エネルギーをインクに与えることにより、そのインクに急峻な体積変化を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって、吐出口からインクを吐出する構成となっている。圧力エネルギーをインクに与えるための吐出エネルギー発生素子としては、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などが用いられる。電気熱変換体を用いた場合には、その発熱によりノズル内のインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、吐出口からインクを吐出することができる。このような記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置は、その記録ヘッドから吐出されたインクを記録媒体に付着させることにより画像を記録する。
【0003】
特許文献1には、図13のように、ベースプレート21に積層されたヒータボード(素子基板)22に、吐出エネルギー発生素子としての電気熱変換体(以下、「ヒータ」という)23を備えた記録ヘッドが記載されている。ヒータボード22には、天板24と流路形成部材25が順次接合されており、ヒータボード22と天板24との間には、複数のノズルを構成する複数のインク流路25が形成されている。流路形成部材25内のインク供給路26を通して供給されるインクは、共通液室27からそれぞれのインク流路25に導入される。ベースプレート21に接合された配線基板28上のボンディングパッド29と、ヒータボード22上のボンディングパッド30と、の間は、ワイヤ31によって電気的に接続されている。
【0004】
ヒータ23の駆動信号は、配線基板28からワイヤ31を通してヒータ23に伝達され、その駆動信号によってヒータ23が発熱する。その発熱によりインク流路25内のインクが発泡し、その発泡エネルギーによって、インク吐出口からインクが吐出される。
【0005】
ヒータボード22上には、絶縁層、発熱抵抗層、金属配線、および保護膜などが積層されており、その電気発熱層によってヒータ23が形成され、その金属配線を通してヒータ23がボンディングパッド30に接続される。ヒータボード22の表面はフラットに形成されており、その表面上に、少なくとも1つの層を介してヒータ23とボンディングパッド30が形成されている。したがって、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、ボンディングパッド30が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にあり、ヒータ23とボンディングパッド30はほぼ同一平面上に位置する。
【0006】
特許文献2には、図14および図15のように、2つのヒータボード22の間にインク流路25を形成し、1つのインク流路25に対して、2つのヒータ23と2つの可動弁32を備えた記録ヘッドが記載されている。図14は、インク流路25部分の断面図であり、図15は、図14のXV−XV線に沿う断面図である。図14は、図15のXIV−XIV線に沿う断面図に相当する。33は、共通液室27を形成するための壁33であり、34は、インク流路25を形成するためのノズル壁34である。図14および図15の例においては、下側のヒータボード22のヒータ23に対して、下側の配線基板28からワイヤ31を通して駆動信号が供給され、上側のヒータボード22のヒータ23に対して、上側の配線基板28からワイヤ31を通して駆動信号が供給される。特許文献2には、上下のヒータボード22上のボンディングパッド30をバンプ電極とし、それらのバンプ電極の間に配線基板を挟むようにして接続する構成が記載されている。
【0007】
上下のヒータ23の発熱によりインク流路25内のインクが発泡し、そのときにおけるインク中の気泡の成長方向は、上下の可動弁32の自由端の変形を伴って、インク吐出口の方向に規制される。この結果、インクの吐出量の増大と、インクのリフィル速度の向上が可能となる。このような記録ヘッドは、種々の記録媒体に画像を記録するために特殊なインクを吐出する記録ヘッドとして好適であり、粘性が高いインクを安定的に吐出することができる。
【0008】
図13の記録ヘッドと同様に、上下のヒータボード22上のそれぞれにおいて、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、ボンディングパッド30が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にある。したがって、ヒータ23とボンディングパッド30はほぼ同一平面上に位置する。特許文献2に記載されているように、上下のヒータボード22上のボンディングパッド30をバンプ電極とし、それらのバンプ電極の間に配線基板を挟むようにして接続した場合も同様である。すなわち、ヒータ23が形成されるヒータボード22の表面と、バンプ電極が形成されるヒータボード22の表面と、は同一平面上にあり、ヒータ23とバンプ電極はほぼ同一平面上に位置する。
【0009】
【特許文献1】特開2002−67330号公報
【特許文献2】特開平10−337869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、インクジェット記録装置に対しては、記録速度のさらなる高速化が要求されてきている。このような要求に応えるための記録ヘッドには、吐出エネルギー発生素子へのエネルギーの印加、ノズル内のインクへの圧力伝播、そしてインクの吐出という一連の動作を高速かつ安定的に連続可能であること、つまり高度な吐出周波数応答性が求められる。その対策としては、記録ヘッド内におけるインクの圧力損失を小さくするために、大容量のインク供給室を備えたり、インク流路の断面積を増やすことが考えられる。しかしながら、このような対策を講じた場合には、記録ヘッドの全体寸法が増して、それを備える記録装置の大型化を招くおそれがある。
【0011】
例えば、図13の記録ヘッドにおいて、インクの流路抵抗を小さくするためにインク供給路26の内径を増す場合には、流路形成部材25の堅牢性を維持するために、インク供給路26の周囲の肉厚は大きくすることが望ましい。しかし、流路形成部材25の厚みを増した場合には、記録ヘッドの外形寸法の増加を招くおそれがある。その記録ヘッドの外形寸法の増加を避けるために、流路形成部材25の厚みをベースプレート21側に向かって増した場合には、その厚くした部分25Aがワイヤ31に接近してしまう。ワイヤ31の配線されたときの高さのバラツキ、あるいは記録ヘッドの構成部品の寸法のバラツキによっては、流路形成部材25の部分25Aとワイヤ31とが干渉するおそれがある。したがって、高度な吐出周波数応答性と記録ヘッドの小型化を達成することが難しかった。
【0012】
また、図14および図15の記録ヘッドにおいて、上下のヒータ23の対向間隔が大き過ぎた場合には、インクの発泡エネルギーがインク流路25内にて減衰して、圧力がインク吐出口方向へ伝播しづらくなる。また、上下の可動弁32の対向間隔も大きくなり、それらの可動範囲が増大して、インクのリフィル性能の向上が望めなくなるおそれがある。したがって、上下のヒータ23は近接して配置する必要がある。
【0013】
しかし、このように上下のヒータ23を近接させた場合には、上下のヒータボード22におけるボンディングパッド30も近接してしまう。そのため、それらのパッド30に接続されるワイヤ31同士が接近して、接触するおそれがある。また、特許文献2に記載されているように、上下のヒータボード22上のバンプ電極の間に、配線基板を挟むようにして接続する場合には、それらのバンプ電極と配線基板の厚み分の寸法を上下のヒータボード22の間に確保しなければならない。そのため、上下のヒータ23を近接させることが難しくなる。
【0014】
本発明の目的は、液体吐出ヘッドの小型化および液体のリフィル性能を確保しつつ、吐出エネルギー発生素子を備えた素子基板と、配線基板と、を適確に接続することができる液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の液体吐出ヘッドは、吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドにおいて、前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置は、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低いことを特徴とする。
【0016】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドの製造方法において、前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置を、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低くするように、前記素子基板の前記表面を成形する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、素子基板の表面上における接続端子の形成位置を、素子基板の表面上における吐出エネルギー発生素子の形成位置よりも低くすることにより、接続端子と配線基板との接続部の周りの空間を広く確保することができる。したがって、最適な液体流路や液体供給路を形成して、液体吐出ヘッドの小型化および液体のリフィル性能を確保しつつ、素子基板と配線基板とを適確に接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの構成例を説明するための分解斜視図である。本例の液体吐出ヘッドは、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド100としての適用例である。
【0019】
セラミックプレート(ベースプレート)103上には、後述するように吐出エネルギー発生素子、インク流路、および共通液室などを備えた吐出エレメント101と、電気配線基板102と、が配置される。流路形成部材104には、吐出エレメント101内の共通液室に接続されるインク供給路と、そのインク供給路に連通しかつインクタンクに接続されるインク供給口が形成されている。インクタンクのインクは、インク供給路を通して共通液室に供給される。
【0020】
図2は、記録ヘッド100を用いるインクジェット記録装置201の構成例を説明するための概略正面図である。本例の記録装置201は、いわゆるフルラインタイプの記録装置であり、搬送部204によって矢印Y方向に連続的に搬送される記録媒体Pに対して、記録位置に移動した記録ヘッド100からインクを吐出することにより、記録媒体P上に画像を記録する。記録媒体Pは給紙部206から給紙され、記録ヘッド100が吐出するインクはインクタンク203から供給される。本例の場合は、6つのインクタンク203から、イエロ(Y)、淡マゼンタ(LM)、マゼンタ(M)、淡シアン(LC)、シアン(C)、およびブラック(K)のインクが6つの記録ヘッド100に供給される。記録ヘッド100は、記録媒体Pの幅方向における記録領域の全域に亘って延在するように、長尺に構成されている。202は、記録ヘッド100に対して回復処理を行うための回復ユニット202、205はオペレーションパネル部である。
【0021】
図3は、記録ヘッド100の要部の斜視図である。
【0022】
セラミックプレート(ベースプレート)103上には、吐出エレメント101のヒータボード(素子基板)1と、配線基板102と、が接合されている。ヒータボード1には、吐出エネルギー発生素子としての電気熱変換体(以下、「ヒータ」という)が複数配置されている。ヒータ2は、例えば、チッ化タンタル等の発熱抵抗層により形成されており、その厚さは0.01〜0.5μm、シート抵抗値は単位正方形当たり10〜300Ωである。ヒータ2には、通電のためのアルミニウム等の金属配線(図示せず)が接続されている。ヒータボード1上には、このような発熱抵抗層や金属配線の他、絶縁層や保護膜などが積層されており、その電気発熱層によってヒータ2が形成され、その金属配線を通して、ヒータ2がボンディングパッド(接続端子)9に接続される。ボンディングパッド9は、ヒータボード1上において、ヒータ2が配列された配列部と反対側の端部に複数形成されている。ヒータ2とボンディングパッド9は、少なくとも1つの層を介してヒータボード1上に形成されている。
【0023】
ヒータ2が形成されるヒータボード1の表面(以下、「ヒータ形成面(素子形成面)」ともいう)と、ボンディングパッド9が形成されるヒータボード1の表面(以下、「パッド形成面(端子形成面)」ともいう)と、はヒータボード1の厚み方向にずれている。つまり、ヒータボード1の表面には段差Hが形成されており、パッド形成面はヒータ形成面よりも低い位置にある。また、それらのパッド形成面とヒータ形成面は、互いに平行な平面に形成されている。パッド形成面は、ヒータ形成面の一部をエッチングすることにより形成される。
【0024】
配線基板102には、複数のボンディングパッド9のそれぞれの対応する複数のボンディングパッド10が形成されている。それらのパッド6,10は、ワイヤ11によって電気的に接続され、そのワイヤ11を通して、配線基板102からの電気信号がヒータ2に伝達される。配線基板102には、ヒータ2への通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)、そのスイッチトランジスタを制御するためのゲート素子等の回路からなる制御ICなどが搭載されている。これにより、記録装置からの駆動信号に応じてヒータ2が駆動される。
【0025】
ヒータボード1上に形成されたノズル壁4に天板16が接合されることにより、複数のヒータ2のそれぞれに対応する複数のインク流路(液体流路)4が形成されている。インク流路4は、ヒータの上方に位置する。インク流路4の一端は吐出口3にて開口し、その他端は共通液室8に連通されている。以下、インク流路4、吐出口3、およびヒータ2を含めて「ノズル」ともいう。ヒータボード1には、吐出口3の縁部に位置する土手6が形成されている。また、それぞれのインク流路4内には可動弁7が配設されており、それらの可動弁7の基端は、ヒータボード1上の弁台座(図示せず)に支持されている。共通液室8とボンディングパッド9の配列部との間には、液室壁14が形成されており、その液室壁14からノズルに向かう空間が、インクタンクから供給されるインクを貯留するための共通液室8となる。本例において、ノズル壁4、土手6、液室壁14は、感光性樹脂により形成される。
【0026】
共通液室8からインク流路4内に供給されたインクは、ヒータ2の発熱により加熱されて、発泡する。その発泡により、可動弁7の自由端の変形を伴って、吐出口3からインクが吐出される。可動弁7は、効率よくインクを吐出させるように、インク中の気泡の成長方向を規制する。
【0027】
図4は、吐出エレメント101と配線基板102との接続部分を説明するための断面図である。図4において、土手6、可動弁7、および液室壁14の図示は省略する。
【0028】
ヒータボード1上に形成されたボンディングパッド9と、配線基板12上に形成されたボンディングパッド10と、は、ワイヤボンディング技術によりワイヤ11を用いて接続される。ヒータボード1には、天板16と、インク供給路12などを形成する流路形成部材104が接合され、それらは精密に位置決めされる。一般に、ワイヤ11の位置は、ボンディングパッド9,10の表面(ワイヤ11の接続面)よりも250μm程度高くなる。ヒータボード1上におけるヒータ形成面とパッド形成面との間には、段差Hが形成されているため、流路形成部材104とワイヤ11との間に充分な隙間を空けることができる。したがって、流路形成部材104とワイヤ11との接触を防止して、それらの接触に起因する電気的不良の発生を回避することができる。
【0029】
流路形成部材104によって形成されるインク供給路(液体供給路)12の断面積を増すことにより、そのインク供給路12におけるインクの圧力損失を減少させることができる。その場合、流路形成部材104の部分104Aの厚みをベースプレート1側に向かって増すことにより、記録ヘッドの外形寸法の増加を避けることができる。このように、ボンディングパッド9の上方に位置する流路形成部材104の部分104Aの厚みを増したとしても、その部分104Aがワイヤ11に接触することはない。したがって、記録ヘッドの外径寸法の増加を避けつつ、インク供給路12の断面積を増すことにより、インクの圧力損失を減少させて、インクのリフィル性能を向上させることができる。つまり、高度な吐出周波数応答性と記録ヘッドの小型化を達成することができる。
【0030】
図5(a)〜(f)および図6(a)〜(f)は、吐出エレメント101の製造方法の一例を説明するための図である。図6(a)は、ヒータ2の中心を通ってヒータ形成面に垂直な図5(a)のVI−VI線に沿う断面図であり、図6(b)〜(f)のそれぞれも同様である。図5(a)は、図6(a)のV−V線に沿う断面図に相当し、図5(b)〜(f)のそれぞれも同様である。
【0031】
まず、図5(a),図6(a)に示すように、シリコンウェハに画成されるヒータボード1におけるパッド形成位置をエッチング加工して、そのパッド形成位置とヒータ形成位置との間に段差Hを形成する。すなわち、シリコンウェハの表面全体にレジスト膜を形成した後、フォトマスクを介して露光し、パッド形成位置およびその周囲におけるシリコンウェハの表面のみを露出させる。それから、その露出したシリコンウェハの表面をエッチングして掘り込むことにより、そのシリコンウェハに画成されるヒータボード1に、段差Hを形成する。
【0032】
その後、シリコンウェハに対して熱酸化法、CVD法、あるいはスパッタリング法等により成膜し、チッ化タンタル等からなる発熱抵抗層、およびアルミ等の金属配線などを積層してヒータ2を形成すると共に、ボンディングパッド9を形成する。これにより、ヒータボード1が完成する。
【0033】
次に、紫外線感光樹脂フィルムとの密着性の向上を目的として、ヒータボード1の表面を洗浄し、さらにヒータボード1の表面を紫外線−オゾン等によって改質する。その後、その改質したヒータボード1の表面上に、例えば、シランカップリング剤をエチルアルコールで1重量%に希釈した液をスピンコートする。次に、ヒータボード1の表面を洗浄してから、図5(b),図6(b)のように、ヒータボード1上に紫外線感光樹脂フィルム15をラミネートする。そして、その紫外線感光樹脂フィルム15上に、フォトマスクを介して矢印方向から紫外線を照射する。これにより、図5(c),図6(c)のように土手6などを形成する。
【0034】
その後、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線を照射することにより、図5(d),図6(d)のようにノズル壁5と液室壁14などを形成する。土手6やノズル壁5等は、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液によって現像され、露光部分として硬化することにより形成される。未露光部分は融解される。
【0035】
その後、図5(e),図6(e)のように、可動弁7を設置して固定する。それから、図5(f),図6(f)のように、予め感光性樹脂フィルムをラミネートしておいた天板16をノズル壁5上に接合する。その後、200度程度のキュアを経て、吐出エレメント101が完成する。
【0036】
(第2の実施形態)
図7から図12は、本発明の第2の実施形態を説明するための図である。
【0037】
図7は、本実施形態における記録ヘッドの要部の斜視図、図8は、インク流路4部分の断面図、図9は、図8のIX−IX線に沿う断面図である。図8は、図9のVIII−VIII線に沿う断面図に相当する。本実施形態における吐出エレメントは、前述した第1の実施形態における吐出エレメント101と同様の構成のものを2つ上下対称的に組み合わせた構成となっている。つまり、吐出エレメント101と同様の構成のものが2つ対向配備されている。そのため、2つのヒータボード1の間にインク流路4が形成され、1つのインク流4に対して、2つのヒータ2と2つの可動弁7が備えられる。図7から図8において、前述した第1の実施形態における記録ヘッドと同様の部分には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0038】
本例において、上下のヒータボード1のそれぞれには、前述した実施形態と同様に、ヒータ形成面とパッド形成面との間に段差Hが形成されている。そのため、インクのリフィル性能を向上させるために上下のヒータ2を近接して配置した場合に、上下のワイヤ11同士の接触を防止することができる。しかも、共通液室8を含むインク供給路の断面積を大きく設定して、インクのリフィル性能をさらに向上させることができる。したがって、高度な吐出周波数応答性を達成することができる。また、このような構成の記録ヘッドは、種々の記録媒体に画像を記録するために特殊なインクを吐出する記録ヘッドとして好適であり、粘性が高いインクを安定的に吐出することができる。
【0039】
図10(a)から(f)は、本例の記録ヘッドにおけるインクの吐出過程を説明するための図である。これらの図は図8と同様の断面であり、ノズルの断面は、吐出口3の中心線Lに対して上下対称となっている。
【0040】
図10(a)は、ヒータ2が通電されていない通電前の状態であり、吐出口3付近のインクは、メニスカス13を形成してインク流路4内に保持されている。ヒータ2に通電して発熱させることにより、図10(b),(c)のようにインク流路4内のインクが発泡し、可動弁7は、その気泡の発生によって生じるインクの圧力の伝播方向を吐出口3の方向に導くように変位する。図10(b)は発泡開始時の状態を示し、図10(c)は最大発泡時の状態を示す。インク流路4内のインクは、発泡によって生じた圧力により吐出口3から押し出され、気泡の成長に伴ってインクの液柱を形成する。
【0041】
ヒータ2によるインクの加熱が終了することにより、図10(d),(e)のように気泡が収縮する。図10(d)は、気泡が収縮する消泡開始時の状態を示し、図10(e)は消泡時の状態を示す。このような気泡の収縮に伴い、吐出口3付近のインクはインク流路4内に引き込まれる。インクの液柱の先端部分にはインクの吐出方向への慣性力が働いているため、その液柱の先端部分は、インク流路4内のインクから切り離される。その切り離された液柱は、インクの表面張力によって主滴Iaと副滴(サテライト)Ibを形成し、それらは記録媒体に向けて飛翔する。それらのインク滴が記録媒体上に着弾することにより、画像が記録される。図10(f)は、インク滴の吐出後の状態を示す。
【0042】
このようなヒータ2への通電、インク流路4内のインクへの圧力伝播、インクの吐出という一連の動作は、画像の記録動作中において高速かつ安定して行われなければならない。そのため、ヒータ2の発熱がインクに効率的に伝達されるように、上下のヒータ2は近接させる必要がある。一方、高速記録時には、図10(e)のようにインクが吐出した後に、図10(f)のようにインク流路4内に即時にインクがリフィルされなければならない。そのため、インク供給路におけるインクの流路抵抗は小さくする必要がある。
【0043】
本例の記録ヘッドにおいては、前述したように、ヒータボード1に段差Hが形成されて、上下のヒータボード1上におけるボンディングパッド9の対向間隔が大きく設定されている。そのため、上下のヒータ2を近接させた場合にも、共通液室8を含むインク供給路の断面積を大きくして、インクの流路抵抗を小さくすることができる。これにより、高度な吐出周波数応答性を達成することができる。本例の場合、上下のヒータボード1上におけるボンディングパッド9の対向間隔は、それらのヒータボード1上におけるヒータ2の対向間隔よりも大きい。
【0044】
図11(a)〜(h)および図12(a)〜(h)は、本実施形態における吐出エレメントの製造方法の一例を説明するための図である。図12(a)は、ヒータ2の中心を通ってヒータ形成面に垂直な図11(a)のXII−XII線に沿う断面図であり、図12(b)〜(h)のそれぞれも同様である。図11(a)は、図12(a)のXI−XI線に沿う断面図に相当し、図12(b)〜(h)のそれぞれも同様である。
【0045】
本実施形態における吐出エレメントは、前述した第1の実施形態における吐出エレメント101と同様の構成のものを2つ上下対称的に組み合わせた構成となっている。以下においては、吐出エレメント101と同様の構成の下側のものを「下側チップC1」といい、また、吐出エレメント101と同様の構成の上側のものを「上側チップC2」という。図11(a)〜(f)および図12(a)〜(f)の工程はチップC1,C2に共通であり、また図11(g)および図11(g)は下側チップC1のみの工程である。
【0046】
まず、図11(a),図12(a)に示すように、シリコンウェハに画成されるヒータボード1におけるパッド形成位置をエッチング加工して、そのパッド形成位置とヒータ形成位置との間に段差Hを形成する。すなわち、シリコンウェハの表面全体にレジスト膜を形成した後、フォトマスクを介して露光し、パッド形成位置およびその周囲におけるシリコンウェハの表面のみを露出させる。それから、その露出したシリコンウェハの表面をエッチングして掘り込むことにより、そのシリコンウェハに画成されるヒータボード1に、段差Hを形成する。
【0047】
その後、シリコンウェハに対して熱酸化法、CVD法、あるいはスパッタリング法等により成膜し、チッ化タンタル等からなる発熱抵抗層、およびアルミ等の金属配線などを積層してヒータ2を形成すると共に、ボンディングパッド9を形成する。これにより、ヒータボード1が完成する。
【0048】
次に、紫外線感光樹脂フィルムとの密着性の向上を目的として、ヒータボード1の表面を洗浄し、さらにヒータボード1の表面を紫外線−オゾン等によって改質する。その後、その改質したヒータボード1の表面上に、例えば、シランカップリング剤をエチルアルコールで1重量%に希釈した液をスピンコートする。次に、ヒータボード1の表面を洗浄してから、図11(b),図12(b)のように、ヒータボード1上に紫外線感光樹脂フィルム15をラミネートする。そして、その紫外線感光樹脂フィルム15上に、フォトマスクを介して矢印方向から紫外線を照射する。これにより、図11(c),図12(c)のように、ノズル壁5や土手6の下層部分などを形成する。
【0049】
その後、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線を照射することにより、図11(d),図12(d)のようにノズル壁5や土手6などを形成する。ノズル壁5や土手6等は、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液によって現像され、露光部分として硬化することにより形成される。未露光部分は融解される。
【0050】
その後、図11(e),図12(e)のように、可動弁7を設置して固定する。それから、図11(f),図12(f)のように、液室壁14を形成する。以上の工程により上側チップC2が完成し、下側チップC1は、さらに図11(g),図12(g)の工程を経ることにより完成する。
【0051】
図11(g),図12(g)の工程においては、下側チップC1におけるノズル壁5の上に、さらに紫外線感光樹脂フィルムをラミネートしてから紫外線照射を行う。そして、キシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液により現像し、ノズル壁5の上層部を露光して硬化させ、未露光部分は融解させる。この結果、下側チップC1のノズル壁5が土手6の最上面よりも高く形成され、それらの間に段差hが形成される。
【0052】
このように、図11(g),図12(g)までの工程を経て作成された下側チップC1と、図11(f),図12(f)までの工程を経て作成された上側チップC2と、は、図11(h),図12(h)のように接合される。まず、下側チップC1のノズル壁5の上面に紫外線感光樹脂フィルムをラミネートする。その後、下側チップC1のヒータ2の中心と、上側チップC2のヒータ2の中心と、を一致させるように、それらのチップC1,C2を精密に位置決めして接合する。そして、それらを加熱することにより、紫外線感光樹脂フィルムを硬化させて、チップC1,C2を接着させる。
【0053】
このようにして、下側チップC1における段差hの部分を吐出口3として、本実施形態における記録ヘッドの吐出エレメントが完成する。
【0054】
(他の実施形態)
ヒータボード側と配線基板側のボンディングパッドの接続方法は、ワイヤを介しての方法のみに限定されない。例えば、ヒータボード側のパッドに形成されたバンプ電極に、TABのリード部を直接接合させる形態など、種々の接続方法を採用することができる。
【0055】
また、ヒータボードにおけるヒータ形成面とパッド形成面との間の段差Hを形成するための方法は、本例のようなエッチングを用いる方法のみに限定されない。例えば、機械的な切削手段にて段差Hを形成してもよい。また、パッド形成面の位置は、ヒータ形成面の位置よりもヒータボードの厚み方向において低ければよく、このような条件を満たすように、ヒータボードの表面が成形できればよい。
【0056】
また本発明は、インクを吐出する記録ヘッドの他、種々の液体を吐出する液体吐出ヘッドとして広く適用可能であり、そのような液体吐出ヘッドは、インクジェット記録装置以外の種々の液体吐出装置に用いることができる。また、液体流路内の液体を吐出させるための吐出エネルギー発生素子は、電気熱変換体(ヒータ)のみに特定されず、ピエゾ素子などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態における記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1の記録ヘッドを適用可能な記録装置の概略正面図である。
【図3】図1の記録ヘッドにおける吐出エレメントの一部切欠き斜視図である。
【図4】図3の吐出エレメントと配線基板との接続部分の断面図である。
【図5】(a)から(f)は、図3の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図6】(a)から(f)は、図3の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の記録ヘッドにおける吐出エレメントの一部切欠き斜視図である。
【図8】図7の吐出エレメントと配線基板との接続部分の断面図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿う断面図である。
【図10】(a)から(f)は、本発明の第2の実施形態の記録ヘッドによるインクの吐出過程の説明図である。
【図11】(a)から(h)は、図7の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図12】(a)から(h)は、図7の吐出エレメントの製造方法の一例の説明するための断面図である。
【図13】従来の記録ヘッドの一例の要部を説明するための断面図である。
【図14】従来の記録ヘッドの他の例の要部を説明するための断面図である。
【図15】図14のXV−XV線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ヒータボード(素子基板)
2 ヒータ(吐出エネルギー発生素子)
3 吐出口
4 インク流路(液体流路)
8 共通液室
9,10 ボンディングパッド(接続端子)
11 ワイヤ
12 インク供給路(液体供給路)
100 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
101 吐出エレメント
102 配線基板
103 ベースプレート(セラミックプレート)
104 流路形成部材
H 段差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドにおいて、
前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置は、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低い
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記端子形成面は、前記素子基板の前記表面のエッチングにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体流路は、前記素子形成面の上方に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記端子形成面の上方に、前記液体流路に連通する液体供給路を形成するための流路形成部材が位置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記素子基板の2つを対向配備することにより、それらの間に前記吐出口と前記液体流路とが形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記2つの素子基板のそれぞれに形成される前記接続端子の対向間隔は、前記2つの素子基板のそれぞれに形成される前記吐出エネルギー発生素子の対向間隔よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記接続端子と前記配線基板とはワイヤボンディングにより接続されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記接続端子はバンプ電極であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置を、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低くするように、前記素子基板の前記表面を成形する工程を含む
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記素子基板の前記表面をエッチングによって成形することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項1】
吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドにおいて、
前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置は、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低い
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記端子形成面は、前記素子基板の前記表面のエッチングにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体流路は、前記素子形成面の上方に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記端子形成面の上方に、前記液体流路に連通する液体供給路を形成するための流路形成部材が位置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記素子基板の2つを対向配備することにより、それらの間に前記吐出口と前記液体流路とが形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記2つの素子基板のそれぞれに形成される前記接続端子の対向間隔は、前記2つの素子基板のそれぞれに形成される前記吐出エネルギー発生素子の対向間隔よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記接続端子と前記配線基板とはワイヤボンディングにより接続されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記接続端子はバンプ電極であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
吐出口に連通する液体流路と対向する素子基板の表面上に、前記液体流路内の液体を前記吐出口から吐出させるためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子と、前記吐出エネルギー発生素子に電気的に接続される接続端子と、が形成され、前記接続端子に配線基板が電気的に接続される液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記接続端子が形成される前記表面上の端子形成面の位置を、前記吐出エネルギー発生素子が形成される前記表面上の素子形成面の位置よりも、前記素子基板の厚み方向において低くするように、前記素子基板の前記表面を成形する工程を含む
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記素子基板の前記表面をエッチングによって成形することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−90494(P2009−90494A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261205(P2007−261205)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
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