液体吐出ヘッドの製造方法
【課題】被覆樹脂層の厚みの傾斜やばらつきを抑制し、良好な印字が安定して得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、その上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層に流路及び吐出口を形成する工程とを含む。
【解決手段】基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、その上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層に流路及び吐出口を形成する工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関し、より具体的にはインクを被記録媒体に吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式(液体噴射記録方式)に適用されるインクジェット記録ヘッドは、一般に微細な記録液吐出口(以下、オリフィスとも称す)、液流路及び該液流路の一部に設けられる液体吐出エネルギー発生部を複数備えている。近年の記録技術の進展に伴い、インクジェット記録技術には、より高精細・高速な記録が求められている。高精細な記録を満たす一つの方法としてインクジェット記録ヘッドにより吐出されるインク滴の極小化、すなわちインクジェット記録ヘッドの極小オリフィス化が挙げられる。
【0003】
従来、このようなインクジェット記録ヘッドを作製する方法としては、特許文献1記載の次のような工程が知られている。まず、インク吐出圧力発生素子が形成された基板の上に、溶解可能な樹脂にてインク流路パターンを形成する。次いで、エポキシ樹脂と硬化剤とを少なくとも含む被覆樹脂を溶媒に溶解して、これを溶解可能な樹脂層の上にソルベントコートすることによって、溶解可能な樹脂層の上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する。次いで、インク吐出圧力発生素子の上方の前記被覆樹脂層にインク吐出口を形成する。そして、溶解可能な樹脂層を溶出しインク流路を形成する。また、特許文献2記載の次のような工程が知られている。まず、インク吐出圧力発生素子が形成された基板の上に、第1の層として紫外線吸収剤を含む被覆樹脂をコートする。次いで、その上に第2の層として紫外線吸収剤を含まない被覆樹脂をコートする。そして、インク吐出圧力発生素子の上方の前記被覆樹脂層にインク吐出口を形成する。
【特許文献1】特開平6−286149号公報
【特許文献2】米国特許第6902259号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2記載の方法において、第2の層を形成する工程後、基板の中央部分と外周部分とで被覆樹脂層の膜厚差による表面のうねりが生じる場合がある。これは、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第1の層を形成後、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを極性溶媒であるγ−ブチロラクトンに溶解させ、スピンコートにより第2の層を形成した場合にみられる。
【0005】
【化1】
【0006】
通常、スピンコートする際には、図9に示すように、基板であるシリコンウエハ1が基板ホルダー9にセットされ、真空チャック等で固定された状態となっている。そして、スピンナーの塗布ノズル10からシリコンウエハ1の中央部に塗布液11を滴下後、シリコンウエハ1を回転させて、塗布液11をシリコンウエハ1全体に広げ、膜厚分布を均一化する。回転数は必要な膜厚が得られるような回転数に設定する。
【0007】
ところが、第1の層をコート後、第1の層の上にスピンナーの塗布ノズル10から、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む塗布液11が滴下されたシリコンウエハ1の中央部分では、溶剤によって、第1の層が溶解する。一方、シリコンウエハ1の外周部分では、スピンナーの回転時に溶剤と第1の層が僅かにしか接しないため、ほとんど溶解しない。このため、図10に示すように、シリコンウエハ1の中央部分と外周部分では、第1の層3及び第2の層4からなる被覆樹脂層に膜厚差ができるため、表面にうねりが生じる。その後、ダイシングブレードによって切り出し等の工程を経るが、シリコンウエハ1の中央部分から切り出されたチップと外周部分から切り出されたチップでは、被覆樹脂層の膜厚がばらつく。また、図11に示すように、被覆樹脂層の表面が傾斜しているチップもある。このようなインクジェット記録ヘッドで印字を行うと、吐出されるインク滴の吐出方向がばらつき、出力される画像にムラが生じる可能性がある。
【0008】
このように、上述のインクジェット記録ヘッド製造方法では、基板の中央部分にうねりが生じるという技術課題がある。
【0009】
本発明は、前述した課題を解決し、被覆樹脂層の厚みの傾斜やばらつきを抑制し、良好な印字が安定して得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、前記基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、前記第1の層及び前記第2の層からなる被覆樹脂層に前記流路及び前記吐出口を形成する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0011】
【化2】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被覆樹脂層の厚みの傾斜やばらつきを抑制でき、良好な印字が安定して得られる液体吐出ヘッドを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法である。以下、液体吐出ヘッドであるインクジェット記録ヘッドを製造する各工程の実施形態について説明する。
【0014】
まず、基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する。基板としては、例えば、シリコンウエハを用いることができる。基板の上には、電気熱変換素子、圧電素子等のインク吐出圧力発生素子が形成されており、さらにその素子を動作させるための制御信号入力電極が接続されている。基板の上には、SiNやSiO2等の無機絶縁層や、Ta等の耐キャビテーション層が設けられていてもよい。
【0015】
第1の層の形成方法としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液を、基板の上にウェットコートする方法が好ましい。溶剤としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とが溶解し、薄膜コーティング法にあった適度の揮発性等の特性を有することが好ましい。これらの観点から、溶剤としては、γ−ブチロラクトンまたはシクロペンタノンが適している。形成する第1の層の厚さは、5〜30μmとすることが好ましい。なお、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とをドライフィルム化し、そのドライフィルムを基板の上にラミネートすることで第1の層を形成することもできる。
【0016】
式(I)で表されるエポキシ樹脂としては、多官能ノボラック型エポキシ樹脂を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、芳香族ヨウドニウム塩や芳香族スルフォニウム塩などのカチオン重合開始剤を用いることができる。紫外線吸収剤としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂を光重合開始剤で硬化するための感光領域に吸収をもつものであれば良い。例えば、ベンゾフェノン系やサリチル酸系の紫外線吸収剤を用いることができる。
【0017】
各成分の配合量は特に限定されず、所望に応じて適宜決定すればよい。後述するように、第1の層は第2の層を介して露光されるので、第1の層の感度及び厚さ、第2の層の感度及び厚さ、露光量等を考慮して決定すればよい。通常は、式(I)で表されるエポキシ樹脂を100質量部としたとき、光重合開始剤を0.2〜10質量部とすることが好ましい。また、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤との合計に対し、紫外線吸収剤は10質量部を超えない量とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることがより好ましい。紫外線吸収剤の量が10質量部を超えると、第1の層の感度が低下し、流路や吐出口の形成が困難になるおそれがある。塗布液については、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とからなる樹脂組成物1と溶剤の合計100質量部として、樹脂組成物1は20〜80質量部が好ましく、溶剤は20〜80質量部が好ましい。
【0018】
さらに、第1の層には、必要に応じて添加剤などを適宜添加することができる。例えば、基板との更なる密着力を得るために、シランカップリング剤を添加することが挙げられる。
【0019】
次いで、第1の層の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する。
【0020】
第2の層の形成方法としては、ラミネート法により行う。具体的には、まず、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液をPETフィルム等の基材フィルムに塗布し、乾燥してドライフィルム化し、そのドライフィルム側を第1の層の上に押し付け、加温しながら加圧する。その後、基材フィルムを剥離することで、第1の層の上に第2の層を転写することができる。つまり、第2の層を予めドライフィルム化し、第1の層の上にラミネートするため、第1の層と溶剤とが接することはない。そのため、第2の層をスピンコートで形成した際に生じるうねりが抑制される。
【0021】
式(I)で表されるエポキシ樹脂及び光重合開始剤は前述と同様のものを用いることができる。なお、紫外線吸収剤は用いないことが好ましい。各成分の配合量は特に限定されず、所望に応じて適宜決定すればよい。後述するように、第2の層は、第1の層を露光しない強度の光で露光されるので、第1の層の感度及び厚さ、第2の層の感度及び厚さ、露光量等を考慮して決定すればよい。通常は、式(I)で表されるエポキシ樹脂を100質量部としたとき、光重合開始剤を0.2〜10質量部とすることが好ましい。塗布液については、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とからなる樹脂組成物2と溶剤の合計100質量部として、樹脂組成物2は20〜80質量部が好ましく、溶剤は20〜80質量部が好ましい。
【0022】
次いで、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層に流路及び吐出口を形成する。通常は、フォトリソグラフィ法により第1の層及び第2の層のパターニングを行うことで、流路及び吐出口を形成する。第1の層を形成する樹脂組成物1及び第2の層を形成する樹脂組成物2は、ネガ型レジストとして機能するので、現像後に露光領域が残存してインク流路壁となる。
【0023】
第1の層の露光は、第2の層を介して行うことができる。通常は、第1の層において流路となる領域以外を露光する。なお、紫外線吸収剤を含む第1の層は、第2の層より感度が低いので、その点を考慮して露光条件を設定する。例えば、400〜600mJ/cm2で露光することが好ましい。
【0024】
次いで、通常は、第2の層において吐出口となる領域以外を露光する。ただし、この露光により、第1の層の硬化が起きないように露光条件を設定する。例えば、50〜200mJ/cm2で露光することが好ましい。
【0025】
その後、現像液で現像することで、第1の層において露光されなかった領域にインク流路が形成され、第2の層において露光されなかった領域に吐出口が形成されたインクジェット記録ヘッドが得られる。
【0026】
なお、基板の裏面には、必要に応じて、シリコン異方性エッチング等の手法でインク供給口を形成することができる。また、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層を完全に硬化させるために加熱処理をすることもできる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
<実施例1>
まず、図1に示すように、基板としての結晶軸(100)のシリコンウエハ1の上に、インク吐出圧力発生素子としての電熱変換素子2を配置した。電熱変換素子2には、その素子を動作させるための制御信号入力電極が接続されている(不図示)。なお、図2は、図1のA−A面で切断した場合の模式的断面図であり、以下の工程においても同様の模式的断面図により説明する。
【0029】
次いで、図3に示すように、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤をγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液を、基板1の上にウェットコートして、第1の層3を形成した。式(I)で表されるエポキシ樹脂としては、シェルケミカル社製のSU−8(商品名)を用いた。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンを用いた。光重合開始剤としては、ADEKA社製のカチオン重合開始剤SP−170(商品名)を用いた。塗布液の配合比は、式(I)で表されるエポキシ樹脂/紫外線吸収剤/光重合開始剤/溶剤=100/1/2/70(質量比)とした。形成された第1の層3の厚さは、10μmであった。
【0030】
次いで、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とをγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液をPETフィルムに塗布し、乾燥することで、ドライフィルム化した。式(I)で表されるエポキシ樹脂及び光重合開始剤は、第1の層3の形成に用いたものと同じである。塗布液の配合比は、式(I)で表されるエポキシ樹脂/光重合開始剤/溶剤=100/2/70(質量比)とした。そして、図4に示すように、そのドライフィルムを第1の層3の上にラミネートして、第2の層4を形成した。形成された第2の層4の厚さは、10μmであった。
【0031】
次いで、図5に示すように、第1の層3及び第2の層4においてインク流路壁となる領域5を500mJ/cm2で露光して、その領域における第1の層3及び第2の層4を硬化した。さらに、図6に示すように、第2の層4のみにおいてインク流路壁となる領域6を100mJ/cm2で露光して、その領域における第2の層4のみを硬化した。そして、図7に示すように、現像することによって、φ20μmの吐出口7を形成した。なお、第1の層3において露光されなかった領域がインク流路となり、第2の層4において露光されなかった領域が吐出口7となっている。
【0032】
最後に、図8に示すように、基板1をシリコン異方性エッチングによりエッチングして、インク供給口8を形成し、さらに第1の層3及び第2の層4を完全に硬化させるために、200℃で1時間加熱を行うことで、インクジェット記録ヘッドを得た。
【0033】
得られたインクジェット記録ヘッドを用いてテストプリントを行ったところ、いずれも画像の乱れが見受けられない、優れた印字品位を有することが確認された。すなわち、本発明に係る実施例においては、良好な印字が安定して得られる信頼性の高いインクジェット記録ヘッドが得られることが分かる。
【0034】
<比較例1>
式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とをγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液を、第1の層の上にスピンコートすることで、第2の層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを作製した。得られたインクジェット記録ヘッドを用いて実施例1と同様にテストプリントを行ったところ、ごく希に印字不良がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】インク吐出圧力発生素子が形成された基板を示す模式的斜視図である。
【図2】図1の基板のA−A切断面を示す模式的断面図である。
【図3】基板の上に第1の層を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図4】第1の層の上に第2の層を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図5】第1の層及び第2の層を露光している状態を示す模式的断面図である。
【図6】第2の層のみを露光している状態を示す模式的断面図である。
【図7】吐出口を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図8】インク供給口を形成して得られるインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【図9】基板の上に塗布液をスピンコートしている状態を示す模式的斜視図である。
【図10】基板の上の被覆樹脂層に膜厚差ができた状態を示す模式的断面図である。
【図11】被覆樹脂層の表面が傾斜しているインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シリコンウエハ
2 電熱変換素子
3 第1の層
4 第2の層
5 領域
6 領域
7 吐出口
8 インク供給口
9 基板ホルダー
10 塗布ノズル
11 塗布液
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関し、より具体的にはインクを被記録媒体に吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式(液体噴射記録方式)に適用されるインクジェット記録ヘッドは、一般に微細な記録液吐出口(以下、オリフィスとも称す)、液流路及び該液流路の一部に設けられる液体吐出エネルギー発生部を複数備えている。近年の記録技術の進展に伴い、インクジェット記録技術には、より高精細・高速な記録が求められている。高精細な記録を満たす一つの方法としてインクジェット記録ヘッドにより吐出されるインク滴の極小化、すなわちインクジェット記録ヘッドの極小オリフィス化が挙げられる。
【0003】
従来、このようなインクジェット記録ヘッドを作製する方法としては、特許文献1記載の次のような工程が知られている。まず、インク吐出圧力発生素子が形成された基板の上に、溶解可能な樹脂にてインク流路パターンを形成する。次いで、エポキシ樹脂と硬化剤とを少なくとも含む被覆樹脂を溶媒に溶解して、これを溶解可能な樹脂層の上にソルベントコートすることによって、溶解可能な樹脂層の上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する。次いで、インク吐出圧力発生素子の上方の前記被覆樹脂層にインク吐出口を形成する。そして、溶解可能な樹脂層を溶出しインク流路を形成する。また、特許文献2記載の次のような工程が知られている。まず、インク吐出圧力発生素子が形成された基板の上に、第1の層として紫外線吸収剤を含む被覆樹脂をコートする。次いで、その上に第2の層として紫外線吸収剤を含まない被覆樹脂をコートする。そして、インク吐出圧力発生素子の上方の前記被覆樹脂層にインク吐出口を形成する。
【特許文献1】特開平6−286149号公報
【特許文献2】米国特許第6902259号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2記載の方法において、第2の層を形成する工程後、基板の中央部分と外周部分とで被覆樹脂層の膜厚差による表面のうねりが生じる場合がある。これは、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第1の層を形成後、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを極性溶媒であるγ−ブチロラクトンに溶解させ、スピンコートにより第2の層を形成した場合にみられる。
【0005】
【化1】
【0006】
通常、スピンコートする際には、図9に示すように、基板であるシリコンウエハ1が基板ホルダー9にセットされ、真空チャック等で固定された状態となっている。そして、スピンナーの塗布ノズル10からシリコンウエハ1の中央部に塗布液11を滴下後、シリコンウエハ1を回転させて、塗布液11をシリコンウエハ1全体に広げ、膜厚分布を均一化する。回転数は必要な膜厚が得られるような回転数に設定する。
【0007】
ところが、第1の層をコート後、第1の層の上にスピンナーの塗布ノズル10から、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む塗布液11が滴下されたシリコンウエハ1の中央部分では、溶剤によって、第1の層が溶解する。一方、シリコンウエハ1の外周部分では、スピンナーの回転時に溶剤と第1の層が僅かにしか接しないため、ほとんど溶解しない。このため、図10に示すように、シリコンウエハ1の中央部分と外周部分では、第1の層3及び第2の層4からなる被覆樹脂層に膜厚差ができるため、表面にうねりが生じる。その後、ダイシングブレードによって切り出し等の工程を経るが、シリコンウエハ1の中央部分から切り出されたチップと外周部分から切り出されたチップでは、被覆樹脂層の膜厚がばらつく。また、図11に示すように、被覆樹脂層の表面が傾斜しているチップもある。このようなインクジェット記録ヘッドで印字を行うと、吐出されるインク滴の吐出方向がばらつき、出力される画像にムラが生じる可能性がある。
【0008】
このように、上述のインクジェット記録ヘッド製造方法では、基板の中央部分にうねりが生じるという技術課題がある。
【0009】
本発明は、前述した課題を解決し、被覆樹脂層の厚みの傾斜やばらつきを抑制し、良好な印字が安定して得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、前記基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、前記第1の層の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、前記第1の層及び前記第2の層からなる被覆樹脂層に前記流路及び前記吐出口を形成する工程とを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【0011】
【化2】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被覆樹脂層の厚みの傾斜やばらつきを抑制でき、良好な印字が安定して得られる液体吐出ヘッドを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法である。以下、液体吐出ヘッドであるインクジェット記録ヘッドを製造する各工程の実施形態について説明する。
【0014】
まず、基板の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する。基板としては、例えば、シリコンウエハを用いることができる。基板の上には、電気熱変換素子、圧電素子等のインク吐出圧力発生素子が形成されており、さらにその素子を動作させるための制御信号入力電極が接続されている。基板の上には、SiNやSiO2等の無機絶縁層や、Ta等の耐キャビテーション層が設けられていてもよい。
【0015】
第1の層の形成方法としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液を、基板の上にウェットコートする方法が好ましい。溶剤としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とが溶解し、薄膜コーティング法にあった適度の揮発性等の特性を有することが好ましい。これらの観点から、溶剤としては、γ−ブチロラクトンまたはシクロペンタノンが適している。形成する第1の層の厚さは、5〜30μmとすることが好ましい。なお、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とをドライフィルム化し、そのドライフィルムを基板の上にラミネートすることで第1の層を形成することもできる。
【0016】
式(I)で表されるエポキシ樹脂としては、多官能ノボラック型エポキシ樹脂を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、芳香族ヨウドニウム塩や芳香族スルフォニウム塩などのカチオン重合開始剤を用いることができる。紫外線吸収剤としては、式(I)で表されるエポキシ樹脂を光重合開始剤で硬化するための感光領域に吸収をもつものであれば良い。例えば、ベンゾフェノン系やサリチル酸系の紫外線吸収剤を用いることができる。
【0017】
各成分の配合量は特に限定されず、所望に応じて適宜決定すればよい。後述するように、第1の層は第2の層を介して露光されるので、第1の層の感度及び厚さ、第2の層の感度及び厚さ、露光量等を考慮して決定すればよい。通常は、式(I)で表されるエポキシ樹脂を100質量部としたとき、光重合開始剤を0.2〜10質量部とすることが好ましい。また、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤との合計に対し、紫外線吸収剤は10質量部を超えない量とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることがより好ましい。紫外線吸収剤の量が10質量部を超えると、第1の層の感度が低下し、流路や吐出口の形成が困難になるおそれがある。塗布液については、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とからなる樹脂組成物1と溶剤の合計100質量部として、樹脂組成物1は20〜80質量部が好ましく、溶剤は20〜80質量部が好ましい。
【0018】
さらに、第1の層には、必要に応じて添加剤などを適宜添加することができる。例えば、基板との更なる密着力を得るために、シランカップリング剤を添加することが挙げられる。
【0019】
次いで、第1の層の上に、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する。
【0020】
第2の層の形成方法としては、ラミネート法により行う。具体的には、まず、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液をPETフィルム等の基材フィルムに塗布し、乾燥してドライフィルム化し、そのドライフィルム側を第1の層の上に押し付け、加温しながら加圧する。その後、基材フィルムを剥離することで、第1の層の上に第2の層を転写することができる。つまり、第2の層を予めドライフィルム化し、第1の層の上にラミネートするため、第1の層と溶剤とが接することはない。そのため、第2の層をスピンコートで形成した際に生じるうねりが抑制される。
【0021】
式(I)で表されるエポキシ樹脂及び光重合開始剤は前述と同様のものを用いることができる。なお、紫外線吸収剤は用いないことが好ましい。各成分の配合量は特に限定されず、所望に応じて適宜決定すればよい。後述するように、第2の層は、第1の層を露光しない強度の光で露光されるので、第1の層の感度及び厚さ、第2の層の感度及び厚さ、露光量等を考慮して決定すればよい。通常は、式(I)で表されるエポキシ樹脂を100質量部としたとき、光重合開始剤を0.2〜10質量部とすることが好ましい。塗布液については、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とからなる樹脂組成物2と溶剤の合計100質量部として、樹脂組成物2は20〜80質量部が好ましく、溶剤は20〜80質量部が好ましい。
【0022】
次いで、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層に流路及び吐出口を形成する。通常は、フォトリソグラフィ法により第1の層及び第2の層のパターニングを行うことで、流路及び吐出口を形成する。第1の層を形成する樹脂組成物1及び第2の層を形成する樹脂組成物2は、ネガ型レジストとして機能するので、現像後に露光領域が残存してインク流路壁となる。
【0023】
第1の層の露光は、第2の層を介して行うことができる。通常は、第1の層において流路となる領域以外を露光する。なお、紫外線吸収剤を含む第1の層は、第2の層より感度が低いので、その点を考慮して露光条件を設定する。例えば、400〜600mJ/cm2で露光することが好ましい。
【0024】
次いで、通常は、第2の層において吐出口となる領域以外を露光する。ただし、この露光により、第1の層の硬化が起きないように露光条件を設定する。例えば、50〜200mJ/cm2で露光することが好ましい。
【0025】
その後、現像液で現像することで、第1の層において露光されなかった領域にインク流路が形成され、第2の層において露光されなかった領域に吐出口が形成されたインクジェット記録ヘッドが得られる。
【0026】
なお、基板の裏面には、必要に応じて、シリコン異方性エッチング等の手法でインク供給口を形成することができる。また、第1の層及び第2の層からなる被覆樹脂層を完全に硬化させるために加熱処理をすることもできる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
<実施例1>
まず、図1に示すように、基板としての結晶軸(100)のシリコンウエハ1の上に、インク吐出圧力発生素子としての電熱変換素子2を配置した。電熱変換素子2には、その素子を動作させるための制御信号入力電極が接続されている(不図示)。なお、図2は、図1のA−A面で切断した場合の模式的断面図であり、以下の工程においても同様の模式的断面図により説明する。
【0029】
次いで、図3に示すように、式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤をγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液を、基板1の上にウェットコートして、第1の層3を形成した。式(I)で表されるエポキシ樹脂としては、シェルケミカル社製のSU−8(商品名)を用いた。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンを用いた。光重合開始剤としては、ADEKA社製のカチオン重合開始剤SP−170(商品名)を用いた。塗布液の配合比は、式(I)で表されるエポキシ樹脂/紫外線吸収剤/光重合開始剤/溶剤=100/1/2/70(質量比)とした。形成された第1の層3の厚さは、10μmであった。
【0030】
次いで、式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とをγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液をPETフィルムに塗布し、乾燥することで、ドライフィルム化した。式(I)で表されるエポキシ樹脂及び光重合開始剤は、第1の層3の形成に用いたものと同じである。塗布液の配合比は、式(I)で表されるエポキシ樹脂/光重合開始剤/溶剤=100/2/70(質量比)とした。そして、図4に示すように、そのドライフィルムを第1の層3の上にラミネートして、第2の層4を形成した。形成された第2の層4の厚さは、10μmであった。
【0031】
次いで、図5に示すように、第1の層3及び第2の層4においてインク流路壁となる領域5を500mJ/cm2で露光して、その領域における第1の層3及び第2の層4を硬化した。さらに、図6に示すように、第2の層4のみにおいてインク流路壁となる領域6を100mJ/cm2で露光して、その領域における第2の層4のみを硬化した。そして、図7に示すように、現像することによって、φ20μmの吐出口7を形成した。なお、第1の層3において露光されなかった領域がインク流路となり、第2の層4において露光されなかった領域が吐出口7となっている。
【0032】
最後に、図8に示すように、基板1をシリコン異方性エッチングによりエッチングして、インク供給口8を形成し、さらに第1の層3及び第2の層4を完全に硬化させるために、200℃で1時間加熱を行うことで、インクジェット記録ヘッドを得た。
【0033】
得られたインクジェット記録ヘッドを用いてテストプリントを行ったところ、いずれも画像の乱れが見受けられない、優れた印字品位を有することが確認された。すなわち、本発明に係る実施例においては、良好な印字が安定して得られる信頼性の高いインクジェット記録ヘッドが得られることが分かる。
【0034】
<比較例1>
式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とをγ−ブチロラクトンに溶かした塗布液を、第1の層の上にスピンコートすることで、第2の層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを作製した。得られたインクジェット記録ヘッドを用いて実施例1と同様にテストプリントを行ったところ、ごく希に印字不良がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】インク吐出圧力発生素子が形成された基板を示す模式的斜視図である。
【図2】図1の基板のA−A切断面を示す模式的断面図である。
【図3】基板の上に第1の層を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図4】第1の層の上に第2の層を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図5】第1の層及び第2の層を露光している状態を示す模式的断面図である。
【図6】第2の層のみを露光している状態を示す模式的断面図である。
【図7】吐出口を形成した状態を示す模式的断面図である。
【図8】インク供給口を形成して得られるインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【図9】基板の上に塗布液をスピンコートしている状態を示す模式的斜視図である。
【図10】基板の上の被覆樹脂層に膜厚差ができた状態を示す模式的断面図である。
【図11】被覆樹脂層の表面が傾斜しているインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シリコンウエハ
2 電熱変換素子
3 第1の層
4 第2の層
5 領域
6 領域
7 吐出口
8 インク供給口
9 基板ホルダー
10 塗布ノズル
11 塗布液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記基板の上に、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、
前記第1の層の上に、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、
前記第1の層及び前記第2の層からなる被覆樹脂層に前記流路及び前記吐出口を形成する工程と
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記式(I)で表されるエポキシ樹脂と前記紫外線吸収剤と前記光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液を、前記基板の上にウェットコートすることで、前記第1の層を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記溶剤が、γ−ブチロラクトンまたはシクロペンタノンであることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項1】
基板の上に、液体の流路及び液体を吐出する吐出口が形成された被覆樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記基板の上に、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と紫外線吸収剤と光重合開始剤とを含む第1の層を形成する工程と、
前記第1の層の上に、下記式(I)で表されるエポキシ樹脂と光重合開始剤とを含む第2の層をラミネートにより形成する工程と、
前記第1の層及び前記第2の層からなる被覆樹脂層に前記流路及び前記吐出口を形成する工程と
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記式(I)で表されるエポキシ樹脂と前記紫外線吸収剤と前記光重合開始剤とを溶剤に溶かした塗布液を、前記基板の上にウェットコートすることで、前記第1の層を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記溶剤が、γ−ブチロラクトンまたはシクロペンタノンであることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−172871(P2009−172871A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13802(P2008−13802)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]