説明

液体吐出ヘッド用基板及びヘッドユニット。

【課題】 第2の絶縁層115は、下層導電層のスルーホール1003の段差部(凹凸部)、すなわち第2の絶縁層115の端部においては第2の絶縁層115の膜厚が平坦な部分に比べ薄くなっている。そのため、サージの大きさによっては第2の絶縁層115が絶縁破壊してしまうという懸念がある
【解決手段】 外部端子101からサージ電圧が進入したときにサージ電流を逃がすために用いられるダイオード103が設けられている液体吐出ヘッド用基板において、上層導電層102は、サージ電圧が印加されたときに互いに電位の異なる状態となる導電層が絶縁層を介して積層されないように設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド用基板及びヘッドユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録装置などに装着可能なヘッドユニットの記録装置との電気的接点にあたるコンタクトパッド(接続端子)は、液体吐出ヘッドを着脱する際に除電処置を行っていないユーザによって触れられる可能性がある。そうすると、端子から静電気放電によるサージ電圧が進入して液体吐出ヘッドの内部素子を破壊する可能性があるため、液体吐出ヘッドは静電気放電対策をとることが求められる。特許文献1には、液体吐出ヘッド用基板に設けられた入力端子に静電保護回路として保護ダイオードを配置した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−072076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体吐出ヘッドに搭載される液体吐出ヘッド用基板は、半導体製造プロセスを用いて製造されており、1枚のウェハーから製造できる個数を増やしてコストダウンを行うためにヘッドの小型化を行うことを目的として、配線が設けられる面積の縮小化が進められている。そのため保護ダイオードにおいても、配線を積層して設けることにより液体吐出ヘッドの面積を削減することが進められている。
【0005】
静電保護回路として保護ダイオードを外部端子に配置した液体吐出ヘッド用基板の回路、配線層の構成の一例を図8に示す。図8(a)は、保護ダイオードのブロック図である。外部と電気的に接続する外部端子101は、インバータ回路301に接続する第1の配線22の端部に設けられている。第1の配線22は、さらに第1の保護ダイオード103を介して第2の配線55と、第2の保護ダイオード104を介して第3の配線66と接続して設けられている。
【0006】
図8(b)は、図8(a)に示すX部分の保護ダイオードを、複数の配線を積層することで小型化して設けた一例を示す上面図である。第1の配線22は、アルミニウムなどの導電性を有する材料からなる第1の下層導電層118と上層導電層102とが積層され、SiOなどから成る第2の絶縁層115に設けられたスルーホール1001を介して接続されることで設けられている。このとき第1の下層導電層118は上層導電層102と同電位となっている。第2の配線55となる第2の下層導電層105は、容量の大きい電源に接続されている電位(端子101から入力する信号に用いられる電位とほぼ同じとすることができる:以下、電源電位とも称する)に接続されている。第3の配線66となる第3の下層導電層106は、基板電位に接続されている。さらに第2の下層導電層105と第3の下層導電層106との下側には、BPSGなどで設けられた絶縁層及び蓄熱層として用いられる第1の絶縁層114とシリコンからなる基板109を酸化させて設けられた熱酸化層113とが設けられている。第1の絶縁層114に設けられた複数のスルーホール1003を介して、第2の下層導電層105と第3の下層導電層106とは、シリコン基板に作りこまれた第1の保護ダイオード103と第2の保護ダイオード104と接続されている。
【0007】
図8(c)は、図8(b)の電源電位に接続されている第1の保護ダイオード103のC−C’切断面図を示したものである。P型の基板109には、n型のウェル領域110と、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112と、熱酸化層113とが設けられ、その上にBPSG等からなる第1の絶縁層114が設けられている。熱酸化層113と第1の絶縁層114とには、スルーホール1003が設けられており、これらの不純物拡散領域112と第1の下層導電層118と、及び不純物拡散領域111と第2の下層導電層105とが接続され、第1の保護ダイオード103が設けられている。
【0008】
図8(d)は、図8(b)の基板電位に接続されている第2の保護ダイオード104のD−D’切断面図を示したものである。P型の基板109には、p型のウェル領域120と、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112と、熱酸化層113とが設けられ、その上にBPSG等からなる第1の絶縁層114が設けられている。熱酸化層113と第1の絶縁層114とには、スルーホール1003が設けられており、これらの不純物拡散領域112と第3の下層導電層106と、及び不純物拡散領域111と第1の下層導電層118とが接続され、第2の保護ダイオード104が設けられている。
【0009】
このような構成において、静電気によるサージがヘッドユニットのコンタクトパッド等から印加された場合、コンタクトパッドから液体吐出ヘッドの端子へサージ電流が流れ込む。さらに端子から上層導電層102から第1の保護ダイオード103を通って第2の下層導電層105へ、又は第2の保護ダイオード104を通って第3の下層導電層106へサージ電流が流れる。これによりインバータ回路301の内部へ、静電気によるサージ電流が流れ込むことを防止でき、スイッチング素子等の絶縁破壊を防止することができる。
【0010】
この際保護ダイオードにおいては、上層導電層102と、第2の下層導電層105と第3の下層導電層106との絶縁性が、第2の絶縁層115によって保たれていることが求められる。つまり第2の絶縁層115の領域Yでは、サージ電圧と同電位の上層導電層102と電源電位の第2の下層導電層105との間の絶縁性と、サージ電圧と同電位の上層導電層102と基板電位の第3の下層導電層106との間の絶縁性と、が確保されている必要がある。
【0011】
しかしながら第2の絶縁層115は、互いに電位の異なる上層導電層102と第2の下層導電層105や第3の下層導電層106とによってはさまれているので、絶縁破壊が生じる恐れがある。特に、下層導電層のスルーホール1003の段差部(凹凸部)、すなわち第1の絶縁層114の端部においては、第2の絶縁層115の膜厚が平坦な部分に比べ薄くなっている。そのため、サージの大きさによっては領域Yの第2の絶縁層115が絶縁破壊してしまうという懸念がある。
【0012】
ここで、特にエネルギー発生素子が発生する熱を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッドでは、熱酸化層113や第1の絶縁層114や第2の絶縁層115等の膜の厚さと液体吐出ヘッドの蓄熱性、放熱性といった吐出特性との間には大きな関係がある。そのため絶縁破壊を十分防止できるほど、第2の絶縁層115の膜厚を厚くすることは、液体吐出ヘッドの吐出特性との両立を考えると現実的に困難である。
【0013】
本発明は上記課題を鑑み、電気回路の内部の絶縁破壊が抑制され、静電気放電に対する電気回路の損傷が抑制された、信頼性の高い液体吐出ヘッド用基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の液体吐出ヘッド用基板は、外部と接続するための外部端子と、該外部端子と接続され、前記外部端子から入力された電流を流すための第1の導電層と、アノード及びカソードを有するダイオードと、前記第1の導電層と前記アノード及び前記カソードのうちの一方とを接続し、前記外部端子からサージ電圧が印加されたときに発生するサージ電流を前記第1の導電層から前記一方に流すための第2の導電層と、前記アノード及び前記カソードのうちの他方に接続され、前記一方から前記他方に流れた前記サージ電流を逃がすための第3の導電層と、を具備し、前記第1の導電層は、絶縁層を介して前記第2の導電層と積層している部分を有し、前記第3の導電層と積層している部分を有さないことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明の液体吐出ヘッド用基板は、静電気放電が印加されたときに互いに電位の異なる状態となる導電層が絶縁層を介して積層されないように設けられている。このように設けることにより電気回路の内部の絶縁破壊が抑制され、静電気放電に対する電気回路の損傷が抑制された、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を用いることができる液体吐出装置及び液体吐出ヘッドユニットの斜視図である。
【図2】本発明を用いることができる液体吐出ヘッドの斜視図及び断面図である。
【図3】本発明を用いることができる液体吐出ヘッドの上面模式図である。
【図4】第1の実施形態に係る静電保護素子の説明図である。
【図5】第2の実施形態に係る静電保護素子の説明図である。
【図6】第3の実施形態に係る静電保護素子の説明図である。
【図7】本発明を用いることができる、静電保護素子のブロック図の一例である。
【図8】従来の静電保護素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0018】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0019】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0020】
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置の一例を示す概略図である。図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピンを有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向にヘッドユニット40が往復移動することができる。
【0021】
紙押え板5002は、キャリッジHCの移動方向に亘って記録紙Pをプラテン5000に対して押圧する。フォトセンサ5007,5008は、キャリッジHCのレバー5006を検知領域で検知することによって、モータ5013の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知素子である。ヘッドユニット40の前面を気密に覆うキャップ5022は、支持部材5016に支持されている。また、このキャップ5022内を吸引する吸引部材5015は、キャップ内開口5023を介してヘッドユニット40の吸引回復を行うことができる。クリーニングブレード5017及びこのクリーニングブレード5017を前後方向に移動可能にする部材5019は、本体支持板5018に支持されている。
【0022】
図1(b)は、液体吐出ヘッド41を備え、液体記録装置(吐出装置)に着脱可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)は、接続端子7と接続するフレキシブルフィルム配線基板43により、液体記録装置と接続し、電気的に導通するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、支持基板に接合されることでヘッドユニット40に支持されされている。ここでヘッドユニット40は、インクタンク42と一体化したヘッド41の一例を示しているが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0023】
コンタクトパッド44が、液体記録装置と接続されることで、液体記録装置からヘッドへ、液体を吐出するためのデータ信号や、電圧が供給される。このようなコンタクトパッド44は、ヘッドユニット40の外面に設けられていることが多いため、ユーザーが液体記録装置にヘッドユニット40を着脱する際に誤って触れてしまい、サージが発生する可能性がある。
【0024】
図2(a)は、本発明を用いることができる液体吐出ヘッド41の斜視図である。本発明の液体吐出ヘッド41は、エネルギー発生素子45を備えた液体吐出ヘッド用基板50と、液体吐出ヘッド用基板50に接して設けられた流路部材46とを有している。液体吐出ヘッド用基板50には、液体を供給するための供給口49が液体吐出ヘッド用基板50を貫通して設けられており、供給口49に沿って、供給口49の両側に複数のエネルギー発生素子45が配列されている。さらに液体吐出ヘッド用基板50の端部には、エネルギー発生素子45を駆動するために用いられる電気的信号や電力を供給するため複数の端子101が設けられている。
【0025】
流路部材46は、エネルギー発生素子6により発生するエネルギーを用いて液体を吐出することができる吐出口47を、其々のエネルギー発生素子6に対向する位置に有している。流路部材46はさらに、吐出口47と供給口49とを連通する流路48となる凹部48aを有しており、液体吐出ヘッド用基板50と接することで流路48が設けられている。
【0026】
図3(a)は、液体吐出ヘッドの電気回路のレイアウトを示す図である。供給口49の両側に設けられている領域91には、それぞれエネルギー発生素子45の列と、エネルギー発生素子45の駆動制御(ON/OFFを制御)するためのスイッチング素子452と、AND回路と、が設けられている。MOSトランジスタ(450、451)等で設けられているAND回路には、記録データ信号を一時的に保持するシフトレジスタ93や、エネルギー発生素子45のブロックを選択するブロック選択信号を送るデコーダ94とからの信号が入力される。AND回路は、記録データ信号やブロック選択信号を論理和し、スイッチング素子452がエネルギー発生素子45を駆動制御するための信号を出力する。ここでは、エネルギー発生素子45を駆動制御するために用いられる記録データ信号、ブロック選択信号、クロック信号、ラッチ信号、及びヒートイネーブル信号をロジック信号と呼ぶこととする。
【0027】
端子101(外部端子)から入力されるロジック信号は、バッファ回路等として用いられ複数のインバータ回路からなる入力回路95へと送られ、さらにシフトレジスタ93やデコーダ94へ送られる。ロジック信号を入力するために用いられる入力電圧としては、約3.3V程度という比較的低電圧が用いられている。
【0028】
このようなロジック信号を入力する端子101から、静電気放電などで高電圧のサージ電圧が進入すると、絶縁層が絶縁破壊される可能性が高い。そのため、内部回路を静電気放電による絶縁破壊を防止するために、本発明の特徴部である静電保護回路(保護ダイオード)が設けられている。
【0029】
なお、ロジック信号のみならず、温度センサの端子やエネルギー発生素子の断線等を判断する検出端子等の、比較的低電圧で駆動する他の機能素子用の端子も静電気放電が起きると絶縁破壊される可能性が高いため静電保護回路を設けることが好ましい。
【0030】
また、端子101にはエネルギー発生素子45を駆動するための駆動電位(例えば24V程度)を供給する端子等も設けられている。このような端子は、駆動電位に堪えうるように絶縁層が設けられているため絶縁破壊が生じる可能性が低いため静電保護回路を設けなくても良い。
【0031】
図2(b)は、このような液体吐出ヘッド41のエネルギー発生素子45及びスイッチング素子452が設けられた領域91の断面図の一例を示している。P型導電体を含有するシリコン基板109は、基板109の一部を熱酸化させて設けた熱酸化層113を有している。さらに第1の絶縁層114と、下層導電層(第1の導電層)と、第2の絶縁層115と、発熱抵抗層116と、上層導電層(第2の導電層)と、保護層117がこの順に積層して設けられている。下層導電層や上層導電層としては、アルミニウムなどの導電性を有する材料を用いることができる。第1の絶縁層114は、BPSG(ボロンとリンが添加された酸化シリコン)等のシリコンを含有する絶縁性の材料を用いて設けることができる。第2の絶縁層115は酸化シリコン(SiO)や窒化シリコン(SiN)等のシリコンを含有する絶縁性の材料を用いて設けることができる。さらに発熱抵抗層116は、TaSiNなどの高抵抗材料を用いて設けることができる。
【0032】
上層導電層の一部分は、発熱抵抗層116の上の一部が除去されており、一対の個別配線202として用いられている。一対の個別配線202と発熱抵抗層116は、SiNやSiO2などからなる保護層117によって被覆され、液体から保護されている。一対の個別配線202の隙間の部分が、液体を吐出するために用いられるエネルギー発生素子45として用いられる。個別配線202の一方が電源電位を供給する電極202aとして用いられ、個別配線202のもう一方が基板電位と接続する電極202bとして用いられる。この一対の個別配線202の間に電流を流すことにより、エネルギー発生素子45が熱エネルギーを発生し、液体が膜沸騰を起こして気泡を生じ、この気泡の圧力で液体を吐出口47から押し出すことで記録動作が行われる。なお気泡が消泡する際に、キャビテーションが発生して保護層117にダメージを与える可能性があるため、保護層117の上にTaなどからなる耐キャビテーション層128を設けることもできる。また、液体吐出ヘッド41において、基板109の上に設けられた熱酸化層113や第1の絶縁層114や第2の絶縁層115等は、吐出動作を安定に行うことができるように、熱の蓄熱性や放熱性すなわち膜厚が調整されて設けられている。
【0033】
次に、N−MOSトランジスタからなるスイッチング素子452と、AND回路を構成するP−MOSトランジスタ450や、N−MOSトランジスタ451が設けた断面構造部分を説明する。基板109の内部には、一般的なイオン注入技術を用いて不純物導入及び拡散によりN型のウェル領域402と、P型のウェル領域403とが設けられている。P−MOSトランジスタ450及びN−MOSトランジスタ451は、其々ゲート絶縁層408と、poly−Siによるゲート配線415並びにn+型又はp+型の不純物が導入されたソース領域405及びドレイン領域406等で構成されている。また、スイッチング素子452となるN−MOSトランジスタは、P型のウェル領域403の上にドレイン領域411、ソース領域412及びゲート配線413等を設けることで構成されている。この隣接するMOSトランジスタの間には、熱酸化層113からなる酸化膜分離領域453が形成され素子分離されている。
【0034】
下層導電層の一部分(第1の導電層A)で設けられた配線417は、第1の絶縁層114に設けられたスルーホール(貫通部)を介して、MOSトランジスタと接続している。さらに、配線417は、第2の絶縁層115に設けられたスルーホール(貫通部)を介して、第2の絶縁層115の上に位置し、上層導電層の一部分である個別配線202と接続している。
【0035】
基板109の面に垂直な方向に関して、領域91の第2の絶縁層115の上側には、端子101と、複数のエネルギー発生素子45に接続する個別配線202とを接続し、基板電位に接続したり電源電位を供給する共通配線222が設けられている(図3(b))。このように、下層導電層と、個別配線202や共通配線222を構成する上層導電層とを、基板109の面に垂直な方向に関して、積層して設けることにより液体吐出ヘッド用基板の面積を削減している。
【0036】
以下、このような液体吐出ヘッド用基板に用いられる静電保護回路の構成とその動作について、説明する。なお、本実施形態においては、電源電位が基板電位より高い電位の場合の例を用いて説明を行う。
【0037】
(第1の実施形態)
図4(a)は、静電気サージが印加された時に発生するサージ電流を、容量の大きい電源に接続されている電位(以下、電源電位とも称する)に接続している配線に逃がすことのできる第1の保護ダイオード103が設けられた液体吐出ヘッドのブロック図である。本実施形態において電源電位としては、端子101から入力する信号に用いられる電位とほぼ同じ電位を供給することができる電源に接続されており、例えば3.3Vの電位を用いることができる。外部との電気的接続を行う端子101(外部端子)と、入力回路95などに設けられているインバータ回路301とを接続する第1の配線22に、第1の保護ダイオード103のアノード(一方)が接続されている。第1の保護ダイオード103のカソード(他方)は、下層導電層からなる電源電位に接続する第2の配線55に接続されている。
【0038】
これにより、端子101から電源電位よりも高い電位の静電気放電によるサージが印加されても、サージ電流は端子101から第1の保護ダイオード103を介して(アノードからカソードへ)第2の配線55へと流れる。従ってインバータ回路301が破壊されることを防止することができる。
【0039】
図4(b)は、図4(a)のX部分の上面図である。図4(c)は、図4(b)のA−A切断面図を示している。基板109の上には、第2の絶縁層115を介して下層導電層と上層導電層とが積層して設けられている。P型のシリコン基板109の表面内部には、n型のウェル領域110と、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112とからなる第1の保護ダイオード103が設けられている。さらに、熱酸化層113がn型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112との間に設けられ、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112とを素子分離している。さらにその上にBPSG等からなる第1の絶縁層114が設けられている。
【0040】
第1の絶縁層114には第1のスルーホール1003b(第1の貫通部)が設けられており、p+の不純物拡散領域112と下層導電層の一部である第1の下層導電層118(第2の導電層)とが接続されている。さらに第1の絶縁層114の第2のスルーホール1003a(第2の貫通部)では、n+の不純物拡散領域111と下層導電層の他の一部である第2の下層導電層105(第3の導電層)とが接続されている。このように、第1の保護ダイオードの不純物領域と其々接続するように、一対の下層導電層(第2の導電層と第3の導電層)が設けられている。
【0041】
上層導電層102(第1の導電層)は、外部と電気的に接続する端子101と接続されている。SiOなどから成る第2の絶縁層115には、スルーホール1001が設けられており、第1の下層導電層118と上層導電層102とがスルーホール1001を介して同電位となるように接続しており、第1の配線22が設けられている。また、第2の配線55となる第2の下層導電層105は、電源電位に接続されている。
【0042】
スルーホール1003が設けられている領域では、図4(c)に示すように熱酸化層113と第1の絶縁層114とにスルーホールが設けられているため、他の領域に比べて第2の絶縁層115の段差が大きく、高い電位差がかかったときに絶縁破壊する懸念がある。
【0043】
このとき第1の下層導電層118は、第2の絶縁層115に設けられたスルーホール1001で上層導電層102と接続されており、上層導電層102と第1の下層導電層118とはサージが印加されたとしても同電位である。そのため、第1の下層導電層118(第2の導電層)と上層導電層102(第1の導電層)とは、第2の絶縁層115を介して積層されているが、第2の絶縁層115が絶縁破壊する可能性は低い。一方第2のスルーホール1003aにおいて、第2の絶縁層115の上に上層導電層102を設けるとすると、サージ電圧となる上層導電層102と、電源電位に接続する第2の下層導電層105との間に大きな電位差が生じる。そのため第2のスルーホール1003aの上側に上層導電層102の貫通部107を設け、第2の下層導電層105(第3の導電層)と上層導電層102(第1の導電層)とが第2の絶縁層115を介して積層している部分がないように設けている。このように設けることで、比較的第2の絶縁層115の膜厚が薄くなる第2のスルーホール1003a付近で大きな電位差が生じないようにすることで、第2の絶縁層115の絶縁破壊を防止することができる。
【0044】
具体的には、基板の面に平行な方向に関して、上層導電層102の貫通部107と第1の絶縁層114の端部との距離Zは、少なくとも2μm以上離れているように設けることが好ましい。2μm以上離すことにより、第2のスルーホール1003a部分の第2の絶縁層115が絶縁破壊することをより確実に防止することができる。
【0045】
これにより、静電気放電が起きたときにインバータ回路301及び第2の絶縁層115が絶縁破壊されることがない、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
図5(a)は、静電気サージが印加されたときに、サージ電流を基板電位に接続する配線に逃がすことのできる第2の保護ダイオード104を設けた液体吐出ヘッドのブロック図である。外部との電気的接続を行う端子101と、入力回路95などに設けられているインバータ回路301とを接続する第1の配線22に、第2の保護ダイオード104のカソード(一方)が接続されている。第2の保護ダイオード104のアノード(他方)は、基板電位に接続する第3の配線66に接続されている。
【0047】
これにより、端子101から基板電位よりも低い電位の静電気放電によるサージが印加されても、サージ電流は端子101から第2の保護ダイオード104を介して第3の配線66へと流れる。すなわち第2の保護ダイオード104のカソードからアノードへ流れ、さらに第3の配線66へと流れる。従ってインバータ回路301が破壊されることを防止できる。
【0048】
図5(b)は、図5(a)のX部分の上面図である。図5(c)は、図5(b)のB−B切断面図を示している。基板109の上には、第2の絶縁層115を介して下層導電層と上層導電層とが積層して設けられている。P型のシリコン基板109の表面内部には、p型のウェル領域120と、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112とからなる第2の保護ダイオード104が設けられている。さらに、熱酸化層113がn型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112との間に設けられ、n型(n+)の不純物拡散領域111と、p型(p+)の不純物拡散領域112とを素子分離している。さらにその上にBPSG(B(ボロン)とP(リン)が添加された酸化シリコン)等からなる第1の絶縁層114が設けられている。
【0049】
第1の絶縁層114には第1のスルーホール1003b(第1の貫通部)が設けられており、n+の不純物拡散領域111と下層導電層の一部である第1の下層導電層118(第2の導電層)とが接続されている。さらに第1の絶縁層114の第2のスルーホール1003a(第2の貫通部)では、p+の不純物拡散領域112と下層導電層の他の一部である第2の下層導電層106(第3の導電層)とが接続されている。このように、第2の保護ダイオードの不純物領域と其々接続するように、一対の下層導電層(第2の導電層と第3の導電層)が設けられている。
【0050】
上層導電層102(第1の導電層)は、外部と電気的に接続する端子101と接続されている。SiOなどから成る第2の絶縁層115には、スルーホール1001が設けられており、第1の下層導電層118と上層導電層102とがスルーホール1001を介して同電位となるように接続しており、第1の配線22が設けられている。また、第3の配線66となる第2の下層導電層106は、基板電位に接続されている。
【0051】
スルーホール1003が設けられている領域では、図5(c)からわかるように熱酸化層113と第1の絶縁層114とにスルーホールが設けられており、他の領域に比べて第2の絶縁層115の段差が大きく、高い電位差がかかったときに絶縁破壊する懸念がある。
【0052】
このとき第1の下層導電層118は、第2の絶縁層115に設けられたスルーホール1001で上層導電層102と接続されており、上層導電層102と第1の下層導電層118とはサージが印加されたとしても同電位である。そのため、第1の下層導電層118(第2の導電層)と上層導電層102(第2の導電層)とは、第2の絶縁層115を介して積層されているが、第2の絶縁層115が絶縁破壊する可能性は低い。一方第2のスルーホール1003aにおいて、第2の絶縁層115の上に上層導電層102を設けるとすると、サージ電圧となる上層導電層102と、電源電位に接続する第2の下層導電層106との間に大きな電位差が生じる。そのため第2のスルーホール1003aの上側に上層導電層102の貫通部107を設け、第2の下層導電層106(第3の導電層)と上層導電層102(第1の導電層)とが第2の絶縁層115を介して積層している部分がないように設けている。このように設けることで、比較的第2の絶縁層115の膜厚が薄くなる第2のスルーホール1003a付近で大きな電位差が生じないようにすることで第2の絶縁層115の絶縁破壊を防止することができる。
【0053】
具体的には、基板の面に平行な方向に関して、上層導電層102の端部と第1の絶縁層114のスルーホールとの距離Zは、少なくとも2μm以上離れているように設けることが好ましい。2μm以上離すことにより、第2のスルーホール1003a部分の第2の絶縁層115が絶縁破壊することを防止することができる。
【0054】
これにより、静電気放電が起きたときにインバータ回路301及び第2の絶縁層115が絶縁破壊されることがない、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
図6(a)は、サージ電流を電源電位に逃がすことのできる第1の実施形態で示した第1の保護ダイオード103と、サージ電流を基板電位に逃がすことのできる第2の実施形態で示した第2の保護ダイオード104と、を設けた液体吐出ヘッドのブロック図である。
【0056】
端子101とインバータ回路301とを接続する第1の配線22に、電源電位に接続する第1の保護ダイオード103のアノードと、基板電位に接続する第2の保護ダイオード104のカソードが接続されている。第1の保護ダイオード103のカソードは、下層導電層からなる電源電位に接続する第2の配線55に接続されており、第2の保護ダイオード104のアノードは、下層配線層からなる基板電位に接続する第3の配線66に接続されている。
【0057】
これにより、端子101から電源電位よりも高い電位の静電気放電によるサージ電圧が進入した場合には、サージ電流は第1の保護ダイオード103を介して第2の配線55へと流れる。さらに、端子101から基板電位よりも低い電位の静電気放電によるサージが印加された場合には、サージ電流は端子101から第2の保護ダイオード104を介して第3の配線66へと流れる。従って、端子101からどのような静電気放電によるサージが印加されても、インバータ回路301が破壊されることを防止できる。
【0058】
図6(b)は、図6(b)は、図6(a)のX部分の上面図である。図6(c)は、図6(b)のA−A切断面図を示している。図6(d)は、図6(b)のB−B切断面図を示している。第1の保護ダイオード103の構成は、第1の実施形態と同様であり、第2の保護ダイオード104の構成は、第2の実施形態に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0059】
なお、図7(a)に示すように、第1の保護ダイオード103と第2の保護ダイオード104とが設けられた部分と、インバータ回路301との間に抵抗体601を設けることで、保護ダイオードで吸収しきれないサージの電位を下げることもできる。抵抗体601は、多結晶シリコンや金属の化合物などからなる薄膜抵抗、或いは半導体に不純物を導入して形成された拡散抵抗などで形成することができる。
【0060】
さらに、図7(b)及び図7(c)に示すように、第1の保護ダイオード103と第2の保護ダイオード104を複数設けたり、抵抗体601を複数設けることもできる。これにより、静電気放電によるサージによる絶縁破壊をさらに確実に防止することができる。
【0061】
第1の実施形態から第3の実施形態においては、電源電位が基板電位より高い電位の場合の例を用いて説明を行った。しかし、電源電位が基板電位より低い場合には、図7(d)に示すように基板電位側に第1の保護ダイオードを設け、電源電位側に第2の保護ダイオードを設け、同様の効果を得ることができる。この際、端子101とインバータ回路301とを接続する上層導電層102に、電源電位に接続されている第2の保護ダイオード104のカソードと、基板電位に接続されている第1の保護ダイオード104のアノードが接続されている。これにより静電気放電が基板電位よりも高い電位であれば、サージ電流は第1の保護ダイオード103へ流れる。一方静電気放電が電源電位よりも低い電位であれば、サージ電流は第2の保護ダイオード104へと流れる。これにより、静電気放電が起きたとしてもインバータ回路301が絶縁破壊されることを防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部と接続するための外部端子と、
該外部端子と接続され、前記外部端子から入力された電流を流すための第1の導電層と、
アノード及びカソードを有するダイオードと、
前記第1の導電層と前記アノード及び前記カソードのうちの一方とを接続し、前記外部端子からサージ電圧が印加されたときに発生するサージ電流を前記第1の導電層から前記一方に流すための第2の導電層と、
前記アノード及び前記カソードのうちの他方に接続され、前記一方から前記他方に流れた前記サージ電流を逃がすための第3の導電層と、
を具備し、
前記第1の導電層は、絶縁層を介して前記第2の導電層と積層している部分を有し、前記第3の導電層と積層している部分を有さないことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記第3の導電層は、電源電位又は基板電位に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記外部端子は、液体を吐出するためのエネルギーを発生するために用いられるエネルギー発生素子の駆動制御を行うためのロジック信号の入力に用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記ダイオードは、基板の面に設けられており、
前記面の上側には、前記第2の導電層と前記絶縁層と前記第1の導電層とが、この順に積層して設けられており、
前記第3の導電層は前記面と前記絶縁層との間に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかいに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記絶縁層は、シリコンを含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項6】
前記第1の導電層と前記第2の導電層と前記第3の導電層は、アルミニウムからなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板と、該液体吐出ヘッド用基板の前記外部端子と導通するコンタクトパッドとを備え、
吐出装置に着脱可能であることを特徴とするヘッドユニット。
【請求項8】
前記コンタクトパッドはヘッドユニットの外面に設けられていることを特徴とする請求項7に記載のヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−183786(P2011−183786A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54719(P2010−54719)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】