説明

液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 液体吐出ヘッドの製造時に、酸化シリコンの層を供給口を作成する時のエッチングマスクとすると、供給口の端部に酸化シリコンの層が突出して残ってしまう。このような突出部が存在していると、液体吐出ヘッドの実装や組み立て中に折れて吐出口等に詰まり、液体吐出ヘッドの信頼性を低下させてしまう可能性がある。
【解決手段】 酸化シリコン層のマスク13を有するシリコン基板1に、酸化シリコンとシリコンとのエッチング選択比が大きく、酸化シリコン層をエッチングしにくいエッチング液を用いて凹部10aを設ける。次に、酸化シリコンとシリコンとのエッチング選択比が小さいエッチング液を用いて、酸化シリコン層13を除去し、かつ、凹部10aを貫通させて供給口10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性エッチング行うことにより供給口を設ける液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板は、面方位によって水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)液等のアルカリ性水溶液に対する被エッチングレートが異なるため、これを利用した異方性エッチングをシリコン基板に行うことができる。インクジェット記録ヘッドに代表される液体吐出ヘッドの分野では、シリコン基板の面にエッチングされない酸化シリコンの層を設け、これをマスクとしてシリコン基板に異方性エッチングを行い、インク等の液体を供給する供給口を形成している。
【0003】
このような異方性エッチングを用いて液体の供給口を形成する液体吐出ヘッドの製造方法が特許文献に開示されている。
【0004】
特許文献1の製造方法を図5に示す。まずエネルギー発生素子102が設けられたシリコン基板101の面とは反対側の面にエッチングマスクとしての酸化シリコンの層103とその保護層104を設ける(図5(a))。次に、図5(b)に示すように、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)液でシリコン基板に異方性エッチングを行い、供給口106を設ける。このとき、シリコン基板の厚さ方向と垂直な方向にも、シリコン基板はサイドエッチングされるので、結果としてエッチングマスク103の開口を形成していた端部が突起物(バリ)105として残る。この突起物105は液体吐出ヘッドの実装や組み立て中に折れて供給口から吐出口方向への液体の移動経路に侵入することも考えられる。そのため図5(c)に示すように酸化シリコンの層103の突起物105をフッ化水素酸やフッ化アンモニウムの混合液を用いてエッチングして除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−262241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるような、エッチングマスク由来の突起物をフッ化水素酸やフッ化アンモニウムの混合液で除去する方法では、除去性を向上させるために供給口の内部をアッシングするなどの表面処理を行って濡れ性を向上させることが必要である。また、液体吐出ヘッドと支持基板との密着性を確保するために、供給口を設けた後に、酸化シリコンの層やその保護層を除去して、シリコンの面を裏面に露出させることへの要望が高まってきている。しかしながら、上記の工程を実施することは製造負荷の増加を招くことが考えられる。
本発明は上記課題を鑑みてされたものであり、マスクとして用いた酸化シリコンが除去され信頼性が高い液体吐出ヘッド用基板を簡便な工程にて得ることができる液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するためのエネルギー発生素子と、液体を前記エネルギー発生素子に供給するための供給口と、を備えた液体吐出ヘッド用基板の製造方法は、前記エネルギー発生素子が設けられた側の第1の面と、前記供給口に対応した開口を有する酸化シリコンからなる層が設けられた、前記第1の面とは反対側の第2の面と、を備えたシリコン基板を用意する工程と、シリコンに対するエッチングレートより酸化シリコンに対するエッチングレートが小さい第1のエッチング液を用いて、前記層をマスクとして前記開口から前記シリコン基板をエッチングして前記シリコン基板の前記第2の面に凹部を設ける第1のエッチング工程と、前記第1のエッチング液より酸化シリコンに対するエッチングレートが大きい第2のエッチング液を用いて、少なくとも前記層と、前記シリコン基板の、前記凹部と前記第1の面との間の部分と、をエッチングして前記供給口を形成する第2のエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明の製造方法は、酸化シリコンをエッチングしにくい第1のエッチング液を用いてエッチングする工程と、酸化シリコンをエッチングして除去可能な第2のエッチング液を用いてエッチングを行う工程とを行っている。第2のエッチング液では、供給口の形成と酸化シリコンとを同時に除去することができる。また、フッ化水素酸やフッ化アンモニウムの混合液を用いないため、供給口表面の親水化処理を行う必要もない。そのため、本発明の製造方法によると、酸化シリコンを除去するために別途工程を設ける必要が無く、製造工程を簡素化した信頼性の高い液体吐出ヘッド用基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液体吐出ヘッドを搭載可能な供給ユニットの斜視図と液体吐出ヘッドユニットの模式図の一例である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの斜視図及び切断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法を模式的に示した切断面図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法を模式的に示した切断面図である。
【図5】従来の供給口の製造方法を模式的に示した切断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(a)は、液体記録装置に搭載可能な液体供給ユニット40の斜視図である。複数の液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)は、接続端子17と接続するフレキシブルフィルム配線基板43により、液体記録装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。ヘッド41は、支持基板に接合されることで液体供給ユニット40に支持されている。液体供給ユニット40には、タンクホルダ20が設けられており、ここにヘッド41に供給する液体を貯留する液体タンク19を搭載することができる。
【0011】
図1(b)は、ヘッド41が搭載されている様子の一例を模式的に示した図である。ヘッド41は複数種類の液体を吐出することができる第1の液体吐出ヘッド41aのように設けたり、1種類の液体を吐出することができる第2の液体吐出ヘッド41bのように設けることができる。また、図1(b)に示すように1つの液体供給ユニット40に複数の液体吐出ヘッド41を設けることもできる。
【0012】
図2(a)は、このような液体吐出ヘッド41の斜視図を示したものである。液体吐出ヘッド41は、エネルギー発生素子2を備えた液体吐出ヘッド用基板42と、液体吐出ヘッド用基板の上に設けられた流路壁部材7とを有している。流路壁部材7には、エネルギー発生素子2により発生されるエネルギーにより液体を吐出する吐出口9が設けられており、これらが所定のピッチで配列してなる吐出口列が、2列に並んで設けられている。さらに液体吐出ヘッド用基板42には、吐出口から吐出する液体を供給するために用いられる供給口10が、2列の吐出口列の間に位置するように設けられている。また、液体吐出ヘッド用基板42の面(第1の面)には、エネルギー発生素子2を駆動するために用いられる信号や、電源を供給するために用いられる複数の接続端子17が設けられている。
【0013】
図2(b)は、図2(a)のA−A’切断面図を示したものである。エネルギー発生素子2が設けられたシリコンからなる基板1の第1の面に、エネルギー発生素子2を保護し、かつ絶縁性を確保する絶縁層3が設けられることで、液体吐出ヘッド用基板42となっている。
【0014】
流路壁部材7は、エネルギー発生素子2により発生されるエネルギーにより液体を吐出する吐出口9と、吐出口9に連通する流路18の壁18aとを有している。この壁18aを内側にして、流路壁部材7が液体吐出ヘッド用基板42に接することで流路18が設けられている。なお、流路壁部材7と液体吐出ヘッド用基板42との間には、密着性を向上させるための密着向上層5を設けることもできる。
【0015】
液体タンク19から供給される液体が、供給口10を介して流路18に運ばれ、エネルギー発生素子2の発生するエネルギーを利用して、膜沸騰を起こし、吐出口9から被記録媒体に吐出されることで、記録動作が行われる。
【0016】
図2(b)に示すような供給口10の端部に酸化シリコンの突出部がない液体吐出ヘッドを用いることにより、突出部が破損することによって発生する吐出口9の詰まりを防止することができる。
【0017】
なお本明細書内において、「液体記録装置」とは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置等を示しており。液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0018】
また「液体」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0019】
(製造方法)
図3および図4は、図2(a)のA−A’切断面の液体吐出ヘッドの製造方法を示す図である。
【0020】
まず、複数のエネルギー発生素子2と絶縁層3とが設けられた第1の面と、酸化シリコン層11とが設けられた第1の面とは反対側の第2の面と、を有するシリコンからなる基板1aを用意する。絶縁層3は、酸化シリコン(SiO)や窒化シリコン(SiN)を用いることができる。また、酸化シリコン層11は、シリコン基板1aの一部を酸化させて設けたり、スパッタ法を用いて設けることができる。
【0021】
なお、シリコン基板は、面方位によってアルカリ性水溶液に対するエッチングレートが異なり、(100)面より(111)面のエッチングレートが遅いため、異方性エッチングを行うことができる。本発明においては、基板1を貫通する供給口10を設けるために、第2の面の面方位が(100)面となっているシリコン基板を用いる。
【0022】
次に図3(b)に示すように、絶縁層3の上に密着向上層5と、酸化シリコン層11の上にエッチングマスク12とを設ける。これらは、熱可塑性を有する樹脂をフォトリソグラフィ法や、エッチング技術を用いて設けることができる。また、密着向上層5とエッチングマスク12とに異なる材料を用いても良いが、同じ材料で用いることにより製造コストの削減を行うことができる。具体的にはポリエーテルアミド樹脂を用いることで、流路壁部材7と液体吐出ヘッド用基板42との密着性を確保しつつ、エッチングを行うときのマスクとしても用いることができる。
【0023】
次に、図3(c)に示すように、溶解可能な感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法等を用いて塗布し、さらにフォトリソグラフィ法を用いて、流路18を設ける位置となる絶縁層3の上に型材6を形成する。型材6の材料としては、型材6の上に設ける流路壁部材7に用いられる材料に含有される溶媒に膨潤することが少なく、かつ、後から容易に溶解することが可能である材料であればよい。具体的には感光性を有するポリメチルイソプロペニルケトンを用いることができる。
【0024】
次に、密着向上層5と型材6との上に、流路壁部材7となる感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法等により設け、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングして複数の吐出口9を形成する(図3(d))。感光性樹脂材料としては、液体によって膨潤することが少なく、絶縁層3との密着性、外的な衝撃に対する強度、及び吐出口9を高精度に設けることのできる感光性を有していることが必要である。具体的には、感光性を有するエポキシ樹脂を用いることができる。また、流路壁部材7の上には、撥水材をドライフィルムのラミネート等を用いて設けることもできる。
【0025】
次に、図4(a)に示すように、装置搬送等のキズを防止することができ、かつシリコン基板1aの異方性エッチングを行う際に使用する強アルカリ溶液から流路壁部材7を保護するために、流路壁部材7の上に保護部材8を設ける。保護部材8の材料には、耐エッチング性を有し、供給口10を設けた後に除去可能な材料を用いることができ、具体的には環化イソプレンなどの環化ゴムを用いることができる。溶媒としては、保護部材8を溶解できるキシレン等の有機溶剤を用いることができる。
【0026】
次に、フッ酸又はフッ化アンモニウムを用いるウエットエッチング法や、RIEによるドライエッチング法を用いて、エッチングマスク12の開口部に位置する酸化シリコン層11を除去し、供給口10を設ける領域が開口したマスク層13を設ける。その後、図4(b)に示すようにエッチングマスク12を除去する。
【0027】
次に、図4(c)に示すように供給口10の一部を設けるために、供給口10に対応する位置に開口を有するマスク層13を用いて第1のエッチング液でエッチングを行い、シリコン基板1の第2の面に凹部10aを設ける(第1のエッチング工程)。第1のエッチング液は、シリコン基板のエッチングレートより、酸化シリコンのエッチングレートが遅い液、すなわちシリコンと酸化シリコンのエッチング選択比が大きい液を用いる。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム液(TMAH)や、エチレンジアミン・ピロカテコール水(EPW)や、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を用いることができる。
【0028】
次に、第1のエッチング液よりも、酸化シリコンのエッチングレートが早い、すなわちシリコンと酸化シリコンのエッチング選択比が小さい液を用いて第2のエッチングを行う。これにより酸化シリコンのマスク層13と、シリコン基板の凹部10aと第1の面との間の部分と、をエッチングし、第1の面にまで貫通させて供給口10となる貫通孔を設ける(第2のエッチング工程)(図4(d))。具体的には、第2のエッチング液として水酸化カリウム水溶液(KOH)を用いることができる。酸化シリコンのマスク層13の膜厚は、第2のエッチング液で供給口10が貫通するのにかかる時間より早くエッチングされる厚さとすることで、マスク層13は第2のエッチング工程において除去される。これに伴いマスク層13の突出部13aも除去されるため、別途突出部13aやマスク層13を除去する工程を設ける必要が無く、供給口10の形成と突出部13aの除去を同時に行うことができ製造工程を短縮し簡素化することができる。
【0029】
また供給口10の形成中にマスク層13が除去されるため、シリコン基板1aの第2の面もエッチングされ、厚み(X)は厚み(X’)となる。液体吐出ヘッド41は、図1(b)に示すように第1の液体吐出ヘッド41aと第2の液体吐出ヘッド41bというように複数の液体吐出ヘッドを組み合わせて用いる場合がある。このような場合には、被記録媒体と吐出口9との距離をほぼ一致させる必要があり、複数の液体吐出ヘッドにおいて図2(b)に示す厚み(Y)を一致させることが必要である。流路壁部材7の厚さは吐出する液滴の量に影響するため厚さを変更することは困難であるため、基板1の厚み(X’)で調整することが必要である。本発明によれば、第1のエッチング工程と第2のエッチング工程との時間を調整することで、厚み(X’)を自在に調整することができる。そのため複数の液体吐出ヘッドを組み合わせて用いる場合に本発明を用いることで、別途基板1を薄くする工程を設ける必要が無く、製造工程を短縮し簡素化することができる。
【0030】
次に、ウエットエッチング法などを用いて絶縁層3の供給口10の部分を除去し、液体吐出ヘッド用基板42完成させる。さらに溶媒としてキシレンを用いて保護部材8を除去し、さらに流路壁部材7の上からUV露光した後、乳酸メチルに浸漬することで型材6を除去し、供給口10と流路18と吐出口9とを連通させることができる。
【0031】
以上のような製造方法を用いることにより、図2(b)に示すような液体吐出ヘッド41設けることができる。
【0032】
以下、実施例において第1のエッチング工程と第2のエッチング工程について具体的に説明する。
【0033】
(実施例1)
本実施例において、基板1aは厚み(X)が625μmのシリコン基板を用いた。シリコン基板の第2の面には、酸化シリコンのマスク層13が0.7μm設けられている。第1のエッチング液として濃度22wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)液を用い、第2のエッチング液として濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて供給口10を設けた。
【0034】
濃度22wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)液のシリコンの(100)面のエッチングレートは、約30μm/時間であり、マスク層13に用いる酸化シリコンのエッチングレートは約0.011μm/時間である。また、濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液のシリコンの(100)面のエッチングレートは、約90μm/時間であり、マスク層13に用いる酸化シリコンのエッチングレートは約1.7μm/時間である。
【0035】
まず、図4(c)に示すように、第1のエッチング液(TMAH)で1030分エッチングを行い深さ約515μmの凹部10aを設ける第1のエッチング工程を行い、純水を用いたリンスを行いTMAHを洗い流した。このとき、TMAHの酸化シリコンのエッチングレートは遅いため、マスク層13は約0.19μmしかエッチングされず、残っている。
【0036】
次に、図4(d)に示すように、第2のエッチング液(KOH)で74分第2のエッチング工程を行い、第1の面まで基板1をエッチングし供給口10を完成させた。このとき、酸化シリコンのマスク層13は、約18分の時点で除去されるため、残りの約56分は基板1がエッチングされ、厚さ(X’)は約541μmとなる。
【0037】
マスク層13は、第2のエッチング工程を行うことで除去され、これに伴いマスク層13の突出部13aも除去された。そのため突出部13aやマスク層13を除去する工程をさらに設ける必要が無く、製造工程を短縮し簡素化することができた。
【0038】
なお、本実施例においては基板1の厚さ(X’)は約541μmとなったが、第1のエッチング工程の時間と第2のエッチング工程の時間とを適宜調整することで制御することができる。例えば第1のエッチング工程を1200分行い、第2のエッチング工程を17分行うことで基板1の厚さ(X’)を厚さ(X)とほぼ同じとすることができる。
【0039】
(実施例2)
本実施例において、基板1aは厚み(X)が625μmのシリコン基板を用いた。シリコン基板の第2の面には、酸化シリコンのマスク層13が0.7μm設けられている。第1のエッチング液にはエチレンジアミン:ピロカテコール:水=750ml:120g:100mlの組成比率のEPWを、第2のエッチング液として濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて供給口10を設けた。
【0040】
このような組成のEPWのシリコンの(100)面のエッチングレートは、約45μm/時間であり、酸化シリコンのエッチングレートは約0.012/時間である。また、濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液のシリコンの(100)面のエッチングレートは、約90μm/時間であり、マスク層13に用いる酸化シリコンのエッチングレートは約1.7μm/時間である。
【0041】
まず、図4(c)に示すように、第1のエッチング液(EPW)で700分エッチングを行い深さ約525μmの凹部10aを設ける第1のエッチング工程を行い、純水を用いたリンスを行いEPWを洗い流した。このとき、EPWの酸化シリコンのエッチングレートは遅いため、マスク層13は約0.14μmしかエッチングされず、残っている。
【0042】
次に、図4(d)に示すように、第2のエッチング(KOH)液で67分第2のエッチング工程を行い、第1の面まで基板1をエッチングし供給口10を完成させた。このとき、酸化シリコンのマスク層13は、約20分の時点で除去されるため、残りの約47分は基板1がエッチングされ、厚さ(X’)は約555μmとなった。
【0043】
マスク層13は、第2のエッチング工程を行うことで除去され、これに伴いマスク層13の突出部13aも除去された。そのため突出部13aやマスク層13を除去する工程をさらに設ける必要が無く、製造工程を短縮し簡素化することができた。
【0044】
なお、本実施例においては基板1の厚さ(X’)は約555μmとなったが、第1のエッチング工程の時間と第2のエッチング工程の時間とを適宜調整することで制御することができる。例えば第1のエッチング工程を796分行い、第2のエッチング工程を19分行うことで基板1の厚さ(X’)を厚さ(X)とほぼ同じとすることができる。
【0045】
(実施例3)
本実施例において、基板1aは厚み(X)が625μmのシリコン基板を用いた。シリコン基板の第2の面には、酸化シリコンのマスク層13が0.7μm設けられている。第1のエッチング液として5mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用い、第2のエッチング液として濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて供給口10を設けた。
【0046】
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液のシリコンの(100)面のエッチングレートは、約120μm/時間であり、酸化シリコンのエッチングレートは0.048μm/時間である。また、濃度38wt%の水酸化カリウム(KOH)水溶液のシリコンの(100)面のエッチングレートは、約90μm/時間であり、マスク層13に用いる酸化シリコンのエッチングレートは約1.7μm/時間である。
【0047】
まず、図4(c)に示すように、第1のエッチング液(NaOH液)で250分エッチングを行い深さ約500μmの凹部10aを設ける第1のエッチング工程を行い、純水を用いたリンスを行いNaOHを洗い流した。このとき、NaOHの酸化シリコンのエッチングレートは遅いため、マスク層13は約0.2μmしかエッチングされず、残っている。
【0048】
次に、図4(d)に示すように、第2のエッチング液(KOH)で84分第2のエッチング工程を行い、第1の面まで基板1をエッチングし供給口10を完成させた。このとき、酸化シリコンのマスク層13は、約18分の時点で除去されるため、残りの約66分は基板1がエッチングされ、厚さ(X’)は約525μmとなった。
【0049】
マスク層13は、第2のエッチング工程を行うことで除去され、これに伴いマスク層13の突出部13aも除去された。そのため突出部13aやマスク層13を除去する工程をさらに設ける必要が無く、製造工程を短縮し簡素化することができた。
【0050】
なお、本実施例においては基板1の厚さ(X’)は約525μmとなったが、第1のエッチング工程の時間と第2のエッチング工程の時間とを適宜調整することで制御することができる。例えば第1のエッチング工程を300分行い、第2のエッチング工程を17分行うことで基板1の厚さ(X’)を厚さ(X)とほぼ同じとすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 保護層
6 型材
7 流路壁部材
8 保護部材
9 吐出口
10 供給口
11 酸化シリコン層
13 マスク層
41 液体吐出ヘッド
42 液体吐出ヘッド用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するためのエネルギー発生素子と、液体を前記エネルギー発生素子に供給するための供給口と、を備えた液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記エネルギー発生素子が設けられた側の第1の面と、前記供給口に対応した開口を有する酸化シリコンからなる層が設けられた、前記第1の面とは反対側の第2の面と、を備えたシリコン基板を用意する工程と、
シリコンに対するエッチングレートより酸化シリコンに対するエッチングレートが小さい第1のエッチング液を用いて、前記層をマスクとして前記開口から前記シリコン基板をエッチングして前記シリコン基板の前記第2の面に凹部を設ける第1のエッチング工程と、
前記第1のエッチング液より酸化シリコンに対するエッチングレートが大きい第2のエッチング液を用いて、少なくとも前記層と、前記シリコン基板の、前記凹部と前記第1の面との間の部分と、をエッチングして前記供給口を形成する第2のエッチング工程と、
を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1のエッチング液は、水酸化テトラメチルアンモニウム液、エチレンジアミン・ピロカテコール水及び、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかの1つであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2のエッチング液は、水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2のエッチング工程では、前記層を除去した後、前記第2の面の側から前記シリコン基板をエッチングすることで、前記基板の厚さを小さくすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生するためのエネルギー発生素子と、液体を前記エネルギー発生素子に供給するための供給口と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記エネルギー発生素子が設けられた側の第1の面と、前記供給口に対応した開口を有する酸化シリコンからなる層が設けられた、前記第1の面とは反対側の第2の面と、を備えたシリコン基板を用意する工程と、
シリコンに対するエッチングレートより酸化シリコンに対するエッチングレートが小さい第1のエッチング液を用いて、前記層をマスクとして、前記開口から前記シリコン基板をエッチングして前記シリコン基板の前記第2の面に凹部を設ける第1のエッチング工程と、
前記第1のエッチング液より酸化シリコンに対するエッチングレートが大きい第2のエッチング液を用いて、少なくとも前記層と、前記シリコン基板の、前記凹部と前記第1の面との間の部分と、をエッチングして前記供給口を形成する第2のエッチング工程と、
前記吐出口と連通する液体の流路の壁を有し、該壁を内側にして、前記基板の前記第1の面の側に接することで、前記流路を形成する流路壁部材を設ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−148296(P2011−148296A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264124(P2010−264124)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】