説明

液体吐出ヘッド

【課題】 吐出口プレートの平坦性を確保したうえで、溝から溢れ出したインク溜まりが吐出口付近に及ぶことによる着弾位置のずれや不吐が発生し難い液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドにおいて、吐出口プレート2には流路7を取り囲む溝3が形成されている。溝3は、吐出口プレート2の吐出口6が配された面側に設けられた開口部3bと、基板1上に設けられた底面3aとを有する。開口部3bの吐出口6に近い側の縁部と該縁部に隣接する吐出口6との距離が、底面3aの、溝3が形成される方向と直交する方向に関する中心と前記縁部に隣接する吐出口6との距離よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインク等の液体を吐出させて記録媒体に記録を行うための液体吐出ヘッドに関し、特にインクジェット記録を行う液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの中で、液体吐出エネルギー発生素子が形成された基板に対して垂直方向に液滴が吐出する、所謂サイドシューター型液体吐出ヘッドは、基板と、基板上のエネルギー発生素子体と対応する吐出口が設けられた吐出口プレートと、両者の間に形成される流路によって構成されている。こうした液体吐出ヘッドにおいて小液滴記録を安定的に行うために、液体吐出エネルギー発生素子と吐出口プレートの表面との間の距離を一定とすることを可能とした液体吐出ヘッドの製造方法が特許文献1および特許文献2に開示されている。この製造方法は、液体吐出エネルギー発生素子が配置された基板の上に、溶解可能な樹脂により、液体流路となるパターンと、土台となるパターンとを形成し、この土台によって、吐出口プレートとなる被覆樹脂層を平坦に形成した後、流路上の被覆樹脂層に形成した吐出口および土台上の被覆樹脂層に形成した開口部から、流路および土台部の樹脂を除去するものである。このような手法は、小液滴記録を安定的に行うために非常に有用な手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−157150号公報
【特許文献2】特開平11−138817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、液体吐出ヘッドで記録を行うと、主たるインク滴に付随して、主たるインク滴より遅れて飛翔する微小なインク滴が発生する場合がある。また、さらに主たるインク滴の被記録媒体への着弾の際にインクが跳ね返る現象により、微小なインク滴が発生する場合もある。これらの微小なインク滴はインクミストと呼ばれており、キャリッジ移動および吐出する液滴自身による気流によって、吐出口プレート表面(以下、フェイス面と称す)に付着する。
【0005】
前述の特許文献1および特許文献2に開示された液体吐出ヘッドにおいては、土台および土台除去のための開口部により吐出口を取り囲む形の溝が形成されている。インクミストがこの溝部に付着すると、溝内で大きなインク溜まりとなり、これがフェイス面に溢れ出す場合がある。この、溝から溢れでたインク溜まりが吐出口付近に付着すると、インクの着弾位置が所望の位置からずれる、または、インクが吐出口内に入り込むことによりインクが吐出されない等の影響が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、吐出口プレートの平坦性を確保したうえで、インク溜まりが吐出口付近に及ぶことによる着弾位置のずれや不吐が発生し難い液体吐出ヘッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液体を供給するための供給口と、前記供給口に沿って設けられる、液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、を備える基板と、前記エネルギー発生素子に対応した、液体を吐出する吐出口を備える吐出口プレートと、前記吐出口プレートの内部に形成される流路と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口プレートには前記流路を取り囲む溝が形成されており、前記溝は、前記吐出口プレートの前記吐出口が配された面側に設けられた開口部と、前記基板上に設けられた底面と、を有し、前記開口部の前記吐出口に近い側の縁部と該縁部に隣接する前記吐出口との距離が、前記底面の、前記溝が形成される方向と直交する方向に関する中心と前記縁部に隣接する吐出口との距離よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出口プレートの平坦性を確保したうえで、溝から溢れ出したインク溜まりが吐出口におよぶことによる着弾位置のずれや不吐の発生を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態および第2の実施形態の上面図および断面図
【図2】本発明の第1の実施形態の工程図
【図3】本発明の第1の実施形態の説明図
【図4】本発明の第1の実施形態における他の形態を示す上面図
【図5】本発明の第2の実施形態の工程図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態を示す。図1(a)には記録ヘッドの上面図を、図1(b1)に図1(a)のA部を拡大した模式的上面図を、図1(b2)には図1(b1)のB−B断面図を示す。図において、1は基板、2は吐出口プレート、3は溝、3aは溝の底面、3bは溝の開口部、6は吐出口である。
【0012】
基板1は、シリコン半導体基板などに半導体製造技術を用いて形成されるものであり、本実施形態においては、略矩形状を有し、中央部に長手方向に伸びる貫通孔として形成される供給口9が設けられている。この供給口9の両側に沿って、複数のエネルギー発生素子4が設けられている。このエネルギー発生素子4は、供給口9を介して供給された液体を加熱し、発泡することにより、対応する吐出口6から液滴を吐出させるためのものである。
【0013】
次に、図2に第1の実施形態の記録ヘッドの製造工程を示す。図2(a1)に上面図、図2(a2)に、図2(a1)のC−C断面図を示す。
【0014】
図示のように、配線(不図示)を形成した基板1上にポジレジストなどからなる流路形成部材5と土台8を積層し、フォトリソ工程を用いて流路7および溝3の形状を形成する。次に、図2(b1)及び図2(b2)に示すように、流路形成部材5と土台8の上に、吐出口プレート2となるノズル材を積層し、フォトリソ工程を用いて吐出口6および溝の開口部3bを形成する。土台8は、ノズル材を積層する際に、供給口から遠い側のノズル材の高さが低くならないように(だれないように)、その厚さを均一に塗布するという効果を有する。前記ノズル材は、インクなどと接触するため、耐インク性のある樹脂、好ましくはネガ型の光硬化性エポキシ樹脂などがよい。
【0015】
その後、図2(c1)及び図2(c2)に示すように、異方性エッチングなどの手法を用いて供給口9を形成し、図2(d1)及び図2(d2)に示すように溶剤などを用いて流路形成部材5と土台8を除去して、流路7と溝3を形成し、記録ヘッドを作成する。このようにして作成した記録ヘッドを、電気的に電気配線テープと接続し、インク供給部材に接着剤および封止材を用いて接合して液体吐出ヘッドを作製する。
【0016】
以下、本発明の特徴部分である溝部の、第1の実施形態における構成について詳細に述べる。
【0017】
前述のとおり、土台8は、ノズル材を積層する際、吐出口付近において、供給口から遠い側のノズル材がだれて厚さが不均一になることを防止するものであり、流路7を取り囲むように形成される。ノズル材を積層した後、土台8は吐出口プレート2に形成された開口部3bから除去され、流路7を取り囲む溝3が形成される。
【0018】
流路7と土台8との最短距離は、ノズル材を均一に積層するために十分な近さである150μmとし、土台8の幅は100μmとした。本実施形態においては、溝の開口部3b全体を土台8の領域内に収めたため、土台8の幅が溝の底面3aの幅となる。よって溝の底面3aの幅は土台8の幅と等しく100μmである。
【0019】
一方、土台8を除去するために設けられる溝の開口部3bは、液体吐出ヘッド使用時に溝3に溜まったインクが溢れ出す出口となる。溝3から溢れたインクの吐出への影響を抑えるため、溝の開口部3bは、吐出口6から可能な限り遠くに設けることが望ましい。そこで、本発明では、溝の開口部3bの吐出口に近い側の縁部と縁部に隣接する吐出口6との距離が、溝の底面3aの、溝3が形成される方向と直交する方向に関する中心と吐出口6との距離よりも大きくなるようにする。ここでは、溝の開口部3bの幅は20μmとし、溝の開口部3bの吐出口に近い側の縁部は、溝の底面3aの中心から25μm外側に位置している。
【0020】
溝の開口部3bの幅と位置は、以下のように決定した。溝の開口部3bの幅を極端に狭くした場合、付着ミストが溝の開口部3bでメニスカスをはり、溝3がインクで埋まっていない状態でもインクが溢れ出す可能性がある。図3に示すように、溝3は、基板1上に溝の底面3aを有し、土台8の上面に相当する位置に、底面3aに沿って形成された壁面を有する。付着ミストが溝の開口部3b付近に留まらずに溝3内部にスムーズに引き込まれるためには、溝の底面3aから、溝の底面3aに沿って形成された壁面までの距離hに対し、溝の開口部3bの幅wを大きくとることが望ましい。そこで、本実施形態においては、溝の底面3aから、溝の底面3aに沿って形成された壁面までの距離h、つまりは土台8の高さhを15μmとし、溝の開口部3bの幅wを20μmとした。
【0021】
また、土台8の側面と溝の開口部3bの壁面が近すぎる場合、アライメントずれにより、溝の開口部3bの壁面が土台8の側面と重なる場合がある。この場合、フォトリソ工程で露光を行う際に、溝の開口部3bと土台8との境界において光の方向や反射が変化し、溝3がマスク通りに形成されない可能性がある。よって、アライメント精度を考慮しても溝の開口部3bが土台8の領域内に形成されるよう、溝の開口部3bの壁面は土台8の側面より5μm以上内側とした。これらの条件を満たしたうえで、溝の開口部3bが吐出口6からもっとも遠くなるように、溝の開口部3bの吐出口に近い側の縁部と溝の底面3aの中心との距離を25μmとした。
【0022】
従来どおり、溝の開口部3bと溝の底面3aとの中心が一致する位置に設けられている構成と比較した場合、第1の実施形態の方が、溝の開口部3bの吐出口側縁部と隣接する吐出口との距離が35μm長くなる。よって溝3からインク溜まりが溢れた場合にも吐出口に影響が及ぶ可能性を低く抑えることが可能である。
【0023】
また、本実施形態においては、土台8の断面形状は長方形型となっているが、これに限るものではない。吐出口プレートの平坦性を確保できる形状であればよく、台形状や、幅の異なる2つ以上の長方形が重なった段差状の断面形状をとることもできる。
【0024】
また、本実施形態においては、溝の開口部3bの縁部形状は直線としたが、これに限るものではない。溝の開口部3bの縁部に凹凸を持たせることで、縁部に加わる応力を緩和し、基板と吐出口プレートが剥離する現象を抑える場合がある。しかし、縁部の凹凸が鋸歯状のように角ばったものであると、付着したミストが角部でメニスカスを張って留まり、溝3からインクが溢れやすくなる可能性がある。よって図4に示した第1の実施形態の他の形態では、溝の開口部3bの縁部を、角部を有さない曲線状とした。縁部の凹凸を曲線にすることで、インクミストが局所的に溜まって溢れる現象を抑制しつつ、縁部に加わる応力を緩和することが可能である。
【0025】
(第2の実施形態)
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。
【0026】
記録ヘッドの基本構成、製造工程などについては第1の実施形態と同様であるため説明を省略し、本発明の特徴部分である溝部の、第2の実施形態における構成を説明する。
【0027】
本実施形態を図1(c1)および図1(c2)に、本実施形態における製造工程を図5に示す。
【0028】
本実施形態においては、溝の開口部3bの一部が、土台8の外側に位置するよう形成されている。このとき溝の開口部3bが土台8の外側にはみ出た分だけ、溝の底面3aの幅が土台8の幅よりも大きくなる。この場合も、溝の開口部3bの吐出口に近い側の縁部と縁部に近接する吐出口6との距離が、溝の底面3aの、溝3が形成される方向と直交する方向に関する中心と縁部に隣接する吐出口6との距離よりも大きくなるよう、溝の開口部3bを配置する。
【0029】
第1の実施形態と同様に、土台8と流路7との最短距離は150μm、土台8の幅は100μmとしている。
【0030】
溝の開口部3bの幅は第1の実施形態と同様、20μmである。第1の実施形態と同様にアライメント精度を考慮し溝の開口部3bが、確実に土台8の領域に含まれるように、溝の開口部3bを土台8と5μm重なる位置に設けた。
【0031】
このとき、溝の底面3aの幅は115μmとなる。また溝の開口部3bの吐出口に近い側の縁部は、溝の底面3aの中心から37.5μm外側に設けられる。
【0032】
溝の開口部3bと土台8との中心が一致する構成と比較した場合、本実施形態の方が、溝の開口部3bの吐出口側縁部と隣接する吐出口との距離が55μm長くなり、溝3からインク溜まりが溢れた場合にも吐出口6に影響が及ぶ可能性を低く抑えることが可能である。
【0033】
本実施形態は、溝の開口部3bの一部のみが土台8と重なるようにするため、より溝の開口部3bを吐出口6から離すことが可能である。また、第1の実施形態と異なり、吐出口6と遠い側の壁面に段差が生じない。よって溝の開口部3bにおいてインクがメニスカスを張りにくくなる。これにより、溝3に進入したインクミストを壁面の段差に留まらせることなく、内部にて保持することができ、溝3をインクミストの保持のために有効に活用できる。
【0034】
本実施形態においては、溝の開口部3bの縁部形状は直線としたが、第1の実施形態の他の形態と同様に、溜まったミストの移動を妨げる角部を有さない形状であれば、溝の開口部3bの縁部形状は直線でなくても構わない。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 吐出口プレート
3 溝
3a 溝の底面
3b 溝の開口部
4 エネルギー発生素子
6 吐出口
7 流路
9 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を供給するための供給口と、前記供給口に沿って設けられる、液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、を備える基板と、
前記エネルギー発生素子に対応した、液体を吐出する吐出口を備える吐出口プレートと、
前記吐出口プレートの内部に形成される流路と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記吐出口プレートには前記流路を取り囲む溝が形成されており、
前記溝は、前記吐出口プレートの前記吐出口が配された面側に設けられた開口部と、前記基板上に設けられた底面と、を有し、
前記開口部の前記吐出口に近い側の縁部と該縁部に隣接する前記吐出口との距離が、前記底面の、前記溝が形成される方向と直交する方向に関する中心と前記縁部に隣接する吐出口との距離よりも大きいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記溝の、前記開口部から前記底面に延びる壁面のうち、前記隣接する吐出口から遠い側の壁面に段差がないことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記溝は前記底面に沿って形成された壁面を有し、該壁面と前記底面との距離よりも、前記開口部の幅は大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記開口部の縁部は直線状であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記開口部の縁部は曲線により形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−173381(P2011−173381A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40597(P2010−40597)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】