説明

液体吐出装置および液体吐出装置の制御方法

【課題】ドライ状態で製造される液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置において、ノズル材の膨潤に伴って生じるノズルの回復動作の信頼性の低下を抑制する。
【解決手段】液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口を有するノズルに液体が充填されていない状態で搭載されて使用開始時にノズルに液体が充填される液体吐出ヘッドと、トリガ信号の種類に応じた回復モードで吐出口から液体を排出してノズルの回復を行う回復機構とを有する。この液体吐出装置は、少なくとも1つの回復モードに対して設定された、ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を保持する記憶部と、少なくとも1つの回復モードにおいて、ノズルに液体が充填される使用開始時からの時間経過とともに、複数の排出条件のうちの液体の排出力の大きい排出条件で回復機構を動作させる制御部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の吐出不良を解消する回復機構を有する液体吐出装置に関し、特に、ノズル内に液体が充填されていない状態で製造される液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、例えばプリンタのように、インクを吐出して記録媒体に記録を行う記録装置がある。プリンタは、インクを吐出する吐出口を有するノズルを有するインクジェットヘッドを備えたものがある。
【0003】
インクジェットヘッドのノズルからの液滴の吐出不良を解消し、記録媒体に記録される画像の品質を回復するため、回復機構を有するプリンタがある。回復機構としては、ノズルの内部を吸引してノズルから強制的にインクを排出する吸引回復機構や、ノズルの内部のインクを加圧して強制的に吐出口からインクを排出する加圧回復機構がある。回復機構は、複数の異なる動作モードで行われることがある。例えば、吸引回復機構の場合、ノズルの不吐等による記録不良を発見したユーザが、回復指示をすることで行われるマニュアル吸引モードがある。また、プリンタに搭載されたいずれかのインクタンクを交換した際に行われるタンク交換吸引モードもある。さらに、インクジェットヘッドのインク流路を形成する部材を通して外部から当該インク流路へ侵入した空気によって生じた泡を排出するために定期的に行われるタイマー吸引モードもある。
【0004】
特許文献1には、記録用インクとは異なる物流用インクが充填された記録ヘッドを装着した状態で生産工場から出荷されるインクジェット記録装置が記載されている。このインクジェット記録装置の使用者による第1回目の使用時に、回復手段によって、記録ヘッドの回復動作(着荷回復モード)が行われる。着荷回復モードは、その後に行われる回復動作(通常回復モード)における吸引圧よりも高い吸引圧で行われる。着荷回復モードにおける吸引圧を高めることで、インクジェット記録装置の開梱後の使用開始時に、記録ヘッド内の物流用インクから記録用インクへの置換を確実に行うとともに、回復手段内に残存する物流用インクの除去を促進することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、インク流路内が空になったインクジェット記録ヘッドがインクジェット記録装置に装着された状態で梱包されることが記載されている。インクが充填されていない状態、所謂ドライ状態で、インクジェット記録ヘッドを保管および物流させることで、インク流路内の液体の蒸発を抑制する必要がなくなり、その結果、梱包などを簡素なものとすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−283590号公報
【特許文献2】特開2007−050528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェットヘッドのノズルを構成するノズル材料として、エポキシ樹脂のように吸水性材料を用いた場合、水系インクの水分がエポキシ樹脂に吸水されてノズル材が膨潤する。その結果、ノズルの断面積や吐出口の面積が縮小することがある。膨潤は、無制限に続くのではなく、樹脂材料、量、ノズル構造などにより決まり、例えば吐出口の面積の変化を測定することによって実験的に確認することができる。
【0008】
特許文献1に記載されているように、インクジェットヘッドがインクなどを充填した状態で保管および物流される場合、1か月から数か月間の保管および物流中にノズル材が膨潤し終え、ユーザが使用開始するときには吐出口の面積が安定していると考えられる。
【0009】
しかし、特許文献2に記載されているように、ドライ状態で保管および物流されるインクジェット記録ヘッドは、ユーザによる開梱の後にノズル内にインクを充填する動作(着荷吸引)が行われるため、着荷吸引時からノズル材の膨潤が始まる。そのため、膨潤が実質的に停止してノズルの断面積や吐出口の面積が安定化するまでの間は、吐出口などの流抵抗は徐々に大きくなる。
【0010】
流路内に生じた泡の排出には、流抵抗が大きいほど強力な吸引力が必要となるため、ドライ状態で保管および物流されるインクジェットヘッドは、ノズルの膨潤が安定した状態のときに適した条件でノズルの内部が吸引される。この条件は、流抵抗が最も小さいとき、すなわち着荷吸引直後のノズルに対しても、十分な泡排出能力を持つ。しかし、必要以上に強い吸引力で泡を排出することで、多量のインクが廃インクとして排出されてしまうという問題がある。逆に、着荷直後から比較的小さな流抵抗に適した条件で吸引回復動作を続けると、膨潤を終えて流路抵抗が比較的大きな値に達したノズルの回復動作の信頼性が損なわれてしまうという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、ドライ状態で製造される液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置において、ノズル材の膨潤に伴って生じるノズルの回復動作の信頼性の低下を抑制できる液体吐出装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口を有するノズルに液体が充填されていない状態で搭載されて使用開始時に該ノズルに液体が充填される液体吐出ヘッドと、トリガ信号の種類に応じた回復モードで前記吐出口から液体を排出して前記ノズルの回復を行う回復機構とを有する液体吐出装置であって、少なくとも1つの回復モードに対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を保持する記憶部と、前記少なくとも1つの回復モードにおいて、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、前記複数の排出条件のうちの液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させる制御部と、を有する。
【0013】
本発明における液体吐出装置の制御方法は、液体を吐出する吐出口を有するノズルに液体が充填されていない状態で搭載されて使用開始時に該ノズルに液体が充填される液体吐出ヘッドと、トリガ信号の種類に応じた回復モードで前記吐出口から液体を排出して前記ノズルの回復を行う回復機構とを有する液体吐出装置の制御方法であって、前記液体吐出装置が、少なくとも1つの回復モードに対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を予め保持しており、前記少なくとも1つの回復モードにおいて、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、前記複数の排出条件のうちの液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させる工程を有する。
【0014】
また、上記の液体吐出装置の制御方法を実行させるプログラムも本発明に含まれる。なお、「排出力」とは、ノズルから液体を排出する能力を指し、本明細書では同一条件の雰囲気中で同一の状態のノズルから液体を排出したときに排出される液体の量によって規定される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ノズルの膨潤により流抵抗が徐々に大きくなっても、その時の流抵抗に適した条件で回復動作が行われるため、回復動作の信頼性を損なうことがない。また、回復動作で排出される液体が必要以上に多くなることもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態におけるプリンタの構成を示す図である。
【図2】プリンタに搭載されるインクジェットヘッドの斜視図である。
【図3】プリンタに設けられた回復機構の構成を示す概略図である。
【図4】プリンタの制御系の概略を示すブロック図である。
【図5】インクジェットヘッドに形成された吐出口および流路を示す概略図である。
【図6】ノズル材料の膨潤に伴う吐出口の面積の経時的変化を示すグラフである。
【図7】回復機構に備えられたポンプの回転量および回転速度により規定される排出条件の一実施例を示す図である。
【図8】排出条件の時間変化を説明する図である。
【図9】排出条件の設定変更を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9による吸引回復条件の設定変更によって得られる吸引量の変化を示す図である。
【図11】ポンプの回転量および回転速度により規定される吸引回復条件の別の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下では、液体吐出ヘッドとして液体としてのインクを吐出するインクジェットヘッドを例に挙げ、さらには液体吐出装置としてプリンタを例に挙げて説明する。しかし、本発明は、インク以外の任意の液体を吐出する液体吐出ヘッド、および当該液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置全般に適用できる。
【0018】
図1は、一実施形態におけるプリンタの概略構成を示している。プリンタは、インクを吐出するインクジェットヘッド2が搭載されるキャリッジ1を備えている。インクジェットヘッド2は、記録媒体に向けて液体を吐出し、記録媒体に記録を行う。インクジェットヘッド2には、インクを収容するタンク3が着脱可能に構成されている。図2は、インクジェットヘッド2の斜視図である。インクジェットヘッド2は、液体を吐出する吐出口を有するノズルを備えている。
【0019】
プリンタは、ノズルの内部の液体を強制的に排出して液体の吐出不良を解消する回復機構12を有している。図3は、本実施形態における回復機構12の一例を示している。回復機構12は、チューブポンプ9と、インクジェットヘッド2のフェイス面に当接した状態で吐出口からノズルの内部を吸引するキャップ8とを有する。ここで、フェイス面とは、吐出口が形成されている一面のことをいう。チューブポンプ9とキャップ8とは、内径が1mmの可撓性のチューブ10で接続されている。またチューブポンプ9には、内径3mmおよび肉圧1mmの中空のシリコーンチューブ11が設けられている。ポンプ9の回転速度および回転量(回転角度)を増すと、ポンプ9の排気速度および排気量が増加する。キャップ8がインクジェットヘッド2の吐出口を覆った状態で、ポンプ9を作用させることにより、ノズルの内部からインクを排出することができる。排出されたインクは、チューブ10,11を通って廃インクを収容する廃インク収容手段に収容される。
【0020】
本実施形態の回復機構12は複数の回復モードを有しており、場面に応じて異なる種類の回復モードで回復動作が実行される。例として、ノズルの不吐等による記録不良を発見したユーザが回復指示をすることで行われるマニュアル回復モードや、インクタンクを交換した際に行われるタンク交換回復モードや、定期的に行われるタイマー回復モードなどがある。どの回復モードを実行するかについては、回復処理の開始となるトリガ信号の種類に応じて決定される。
【0021】
図4は、本実施形態のインクジェットプリンタの制御系の概略を示すブロック図である。制御部としてのCPU100は、プリンタの動作の制御処理やデータ処理等を実行する。記憶部としてのROM101はプリンタの動作を規定するプログラムを格納しており、RAM102はそれらの処理を実行するためのワークエリアなどとして用いられる。CPU100は、回復動作のためのPGモータ104をモータドライバ104Aにより制御する。PGモータ104は回復機構12を動作させる。
【0022】
また、CPU100は、キャリッジモータ103をモータドライバ103により制御する機能を有していても良い。キャリッジモータ103は、インクジェットヘッド2が搭載されるキャリッジ1を動作させる。さらにCPUは100、パーソナルコンピュータなどのホスト装置200からの指令に基づいて動作するように構成されていても良い。さらに、CPU100は、ヘッドドライバ2Aを制御し、インクジェットヘッドから液体を吐出するための信号を生成することもできる。
【0023】
本実施形態のインクジェットヘッド2は、シアン(C)、マゼンダ(M)およびイエロー(Y)の液滴を吐出する吐出口が形成された記録素子4を有する。記録素子4は、各インクを収容する液室5を有する。図5は、記録素子4に形成されているインクの流路の形状を示す模式図である。液室5は、3種類のノズル6L,6M,6Sと連通している。それぞれのノズル6L,6M,6Sには、インクを吐出する開口である吐出口7L,7M,7Sが形成されている。液室は一方向に長く延びており、この液室5の片側に、5plの液滴を吐出するノズル6Lおよび吐出口7Lが配置されている。液室5の反対の側に1plの液滴を吐出するノズル6Sおよび吐出口7Sと、2plの液滴を吐出するノズル6Mおよび吐出口7Mとの両方が配置されている。3種類の各ノズル6L,6M,6Sは各々600dpiの配列で、1つの液室5あたり256個設けられている。図5では、ノズルの配置は、液室5に対して非対称になっている。ノズル配列はこれに限らず、どのようなものであっても良い。
【0024】
特に1pl〜2plのインクを吐出するノズル6S,6Mでは、吐出不良の原因となる泡(気泡)は、ノズル6S,6Mからのインクの流れが変わる箇所、具体的には吐出口7S,7Mの直下に滞留することが多い。このことから、吐出口7S,7Mの面積に起因する流抵抗の変化が、回復動作の信頼性の観点で大きな部分を占めると推定される。
【0025】
インクジェットヘッド2は、ドライ状態で製造され、プリンタのキャリッジ1に搭載される。この状態で、プリンタは梱包および物流される。ユーザが、使用開始時、つまりプリンタを開梱してインクタンク3をインクジェットヘッド2にセットしてプリンタの電源を付けたとき、プリンタは着荷吸引動作を開始する。着荷吸引動作では、回復機構12により、ノズル6S,6M,6Lの内部を強制的に吸引して、液室5やノズル内にインクを充填する。インクは染料と水を主成分とする水系インクであって良い。
【0026】
ノズル6S,6M,6Lおよび吐出口7S,7M,7Lを構成するノズル材は、ビスフェノールAを含む感光性エポキシ樹脂をパターニング後に硬化させたものであって良く、インクが充填された直後からインク吸収して膨潤を始める。ノズル6S,6M,6Lおよび吐出口7S,7M,7Lを構成する材料は、特に限定されるものではないが、ノズルの内部に充填される液体を吸収して膨潤し易い材料であれば、本発明による効果を高く発揮されることができる。
【0027】
図6は、着荷吸引開始時を起点として、インクジェットヘッド2を25℃前後に維持したときの、吐出口7Lの面積の変化を示す。ノズル材の膨潤にともない、吐出口7Lは時間とともに減少する。2pl用の吐出口7M、1pl用の吐出口7Sの面積も定性的には同様に変化する。この結果から、本実施例のインクジェットヘッド2のノズル材は、最初にインクを充填した時から約4週間で膨潤し終え、その後の吐出口の面積はほとんど変化せず、流抵抗も安定することがわかる。
【0028】
本実施形態においては、この膨潤の度合い、または吐出口の面積の減少の度合いに応じて、回復機構12による回復動作の条件を変更する。具体的には、プリンタには、ノズル内を吸引回復するときの液体の排出条件として、図7に示す排出条件A〜Cが用意されている。排出条件A〜Cは、記憶手段としてのROM101に保持されている。排出条件は、回復機構12によるノズルからの液体の排出力を規定している。本実施形態では、排出条件A〜Cは、チューブポンプ9の回転量によって規定されている。図7は、ポンプ9の回転量が一番小さい条件Aを基準(100%)として示している。条件A〜Cは、チューブポンプ9の回転速度は同じだが、チューブポンプ9の回転量が異なる。同一の雰囲気中で同一のノズルから排出された液体の吸引量は、条件A,条件B,条件Cの順で多くなり、すなわち液体の排出力は、条件A,条件B,条件Cの順で強くなると言い換えることができる。
【0029】
1つの特定の回復モード、例えばマニュアル回復モードにおいて、3種類の排出条件A〜Cは、図8に示すように着荷吸引の開始時からの経過時間に応じて選択される。そのために、プリンタは、着荷吸引時からの経過時間を算出する時刻算出手段を有している。排出条件A〜Cの切り替えは、時刻算出手段で算出された時刻に基づき、例えば1週間、2週間、4週間を経過したときに、条件A、条件B、条件Cの順に変更される。つまり、制御部100は、ある時刻に回復動作が開始されたときに、その時刻に対応する排出条件A〜Cで排出動作を行うように、回復機構12を制御する。吐出口7S,7M,7Lの面積の変化とともに流抵抗が増加するため、順次切り替えられる条件A、B、Cは、この順に、より液体の排出力が大きくなっている必要がある。
【0030】
図9は、吸引動作の条件の変更の流れの一例を示すフローチャートである。本実施形態では、製造されたインクジェットヘッド2は、ノズルの内部にインクが充填されていない状態で出荷される。出荷時には、マニュアル回復モードにおける回復動作の条件は、排出条件Aに設定されている。
【0031】
回復動作の指示S1があると、制御部100は、着荷吸引時からの経過時刻を参照し、当該時刻が、吐出口の面積の変化に基づいて予め設定される第1の所定値、図9に示す例では1週間以上であるかどうか判断する(ステップS2)。時刻が第1の所定値未満であれば、回復動作を開始する(ステップS6)。時刻が第1の所定値以上であれば、吐出口の面積の変化に基づいて予め設定される第2の所定値、図9に示す例では4週間以上であるかどうか判断する(ステップS3)。時刻が第2の所定値未満であれば、排出条件Bに設定し(ステップS4)、それから回復動作を開始する。時刻が第2の所定値以上であれば、排出条件Cに設定し(ステップS4)、それから回復動作を開始する。なお、プリンタのROM101は、図9に示す処理をプリンタに実行させるプログラムを保持していることが好ましい。
【0032】
図10は着荷吸引後1週間、2週間、4週間経過したインクジェットヘッド2にて、排出条件を変えてマニュアル回復モードで回復動作を行った際に実際に排出される液体の排出量(吸引量)の変化を示す。図10では、着荷吸引直後の、排出条件Aによる吸引量を基準(100%)として示されている。本実施例によれば、吸引量の変化は、図中の点a、点b、点c、点d、点eを順次つなぐものになり、図中の矢印の順に経時変化する。ゆえに着荷吸引から4週間目までを1つの排出条件Cに固定した場合に比べ、吸引量の変化は小さく、本実施例の方法では排出されるインクの量が少ないことがわかる。また、排出条件Aに固定したとすると、流抵抗が増す4週間目では、1回の排出動作でインクの不吐不良が改善しないことがあった。これは、回復機構12の液体の排出力が不十分だったためと考えられる。本実施形態の制御方法では、吐出不良が解消できなくなる前に、液体の排出力が強い排出条件に設定変更するため、ノズルの回復動作の信頼性の低下を抑制できる。このように、回復信頼性を保ちつつ、排出されるインクの量を低減することができる。
【0033】
排出条件A〜Cは、図8に示す条件に限られず、様々設定可能である。図11は、排出条件A〜Cの別の例を示している。図11に示すように、回転速度と回転量の両方を大きくする排出条件を用いてもよい。図11は、着荷時から一週間後までのポンプの回転量および回転速度を基準(100%)として排出条件の一例を示している。回復機構12による液体の排出力は、回復機構12がポンプであれば、ポンプの回転量および回転速度に基づいて決定され、回転量および回転速度が大きいほど大きい。これらの条件は、ノズル材の膨潤にともなう吐出口の流抵抗の変化に応じて適宜設定されることが好ましい。また、図7,図11に示すものに限らず、排出条件は、時間経過とともに液体の排出力が大きくなるように決められていれば良い。また、上述した例では、着荷時から4週間目までの動作設定の切り替えを2回行う例について説明したが、動作設定の切り替えは1回でも良く、3回以上であっても良い。
【0034】
記憶部としてのROM101は、記憶部は、ノズル材の膨潤の度合いに応じた排出力となるように時間帯毎に予め定められた排出条件と当該時間帯とを割り当てたテーブルを保持していることが好ましい。これにより、CPU100は、図9に示すフローチャートに基づいて、回復動作を開始する時刻を含む時間帯に割り当てられた排出条件で回復機構を動作させることができる。ドライ状態で製造したノズルにインクを充填させて、時間とともに吐出口の面積が変化する様子を予め測定しておくことによって、このようなテーブルを予め作成することができる。なお、上記のテーブルは、吐出口の面積の測定だけでなく、膨潤の度合いを測定できる物理量を測定することによって作成しても良い。
【0035】
上記実施例では、ノズルの内部の吸引によって回復動作を行う例について説明した。これに限らず、本発明は、インク加圧方式のインクジェットヘッドに対して、吐出口の面積の変化に応じてノズル内の液体を加圧する際の加圧条件を変更することにより、容易に適用可能である。つまり、時間の経過とともに液体を強制的に排出するときの排出力が大きくなるように加圧条件(排出条件)を設定し、当該加圧条件で回復動作を行えばよい。なお、インク加圧方式の一例として、ノズルを構成する部材の一部に圧電素子を用いて電気信号によってインクを押しだす方式がある。
【0036】
上記例では、マニュアル回復モードについて説明したが、上述した排出条件A〜Cの変更は、少なくとも1つのある特定の回復モードで行えば良い。回復モードごとに、図9に示すような処理を実行して排出条件を変更することがより好ましい。なお、マニュアル回復モードでは、その時刻で規定される排出条件でポンプ吸引動作を1回行い、タンク交換吸引モードでは、その時刻で規定される排出条件でポンプ吸引動作を2回行う等、回復モードに応じて回復の動作は異なっていて良い。
【0037】
プリンタに用いられるインクタンクは、どのような構成であっても良いが、負圧発生部材収容室とインク収容室とが併設された併設型のインクタンク(特許第2951818号参照)を使用することも考えられる。負圧発生部材収容室は、インクを吸収保持する負圧発生部材を収容し、大気と連通する大気連通穴と、インクジェットヘッドのノズルと連通する開口部と、を有する。負圧発生部材収容室とインク収容室とは隣接しており、底部の連通部において連通している。負圧発生部材収容室とインク収容室とは、この連通部を除いて、仕切壁によって仕切られている。インク収容室は、この連通部以外では密閉されている。インク収容室内のインクは、負圧発生部材収容室および負圧発生部材収容室の開口部を通って、インクジェットヘッドのノズルに達する。
【0038】
このような併設型のインクタンクは、特に低温環境下では、インクがインクタンクからインクジェットヘッドのノズルに供給されなくなる所謂「インク切れ」を生じることがある(特開2005−349730参照)。その原因の1つは、インクの増粘により流抵抗が増したインクを多量に強い排出力で吸引することで、負圧発生部材の内部に空気の通路(エアパス)が形成されることである。したがって、着荷吸引動作の直後に、低温環境下で強い吸引動作、例えば図7や図11に示す条件定Cで回復動作を行うと、併設型のインクタンクから過剰なインクが排出されてインク切れを起こす虞がある。
【0039】
この問題に対応するため、回復機構12の排出条件A〜Cは、吐出口の面積の変化に応じて制御し、インクタンクから過剰な吸引が行われないように制御することが好ましい。図10の点cおよび点eに示すように、排出条件が切り替わるタイミングでインクの吸引量は一時的に増大するが、このときにも吸引量(排出量)が、エアパスが形成されないように予め設定された所定の値以下になるように制御されることが好ましい。これにより、吸引量が最大になる点cにおいても、インク切れが生じないように回復動作を実行することができる。
【0040】
図9で示す排出条件の設定の代わりに、以下のような手順で排出条件を設定しても良い。T(0)、T(1)、T(2)…、T(i)…、は着荷吸引時の時刻T(0)から、各々予め定めた一定時間を経過した時刻とする。ただし、iは整数である。M(i)は、時刻T(i)における排出力を規定する排出条件とする。そして、予め、実験によりT(i)とM(i)の値を割り当てたテーブルを作成しておく。
【0041】
具体的には、予め、回復モードごとに目標とすべきインクの目標排出量を決めておく。例えば、マニュアル回復モードでは、着荷吸引時の時刻T(0)に相当する吐出口の面積でマニュアル回復動作を行ったときにインクの排出量が目標排出量になるように排出条件M(0)を設定しておく。
【0042】
次の時刻T(1)にて、前回の排出条件M(0)やこれよりも排出力の高い排出条件にて回復動作を実行してノズルからの液体の排出量を測定する。ノズル材として膨潤する材料が用いられ、流通時にドライ状態のインクジェットヘッドであれば、流抵抗の増加により液体の排出量は、ノズル内にインクが充填された時より低下する。そこで、ポンプ9の回転速度もしくは回転量を増加させ、回復機構12による液体の排出力を増大させて、ほぼ目標排出量が得られる排出条件を探す。なお、インクの排出量が、例えば目標排出量の±0.5%以内に収まれば、目標排出量が得られたものと認定できる。これにより得られた排出条件をM(1)に設定する。
【0043】
上記の作業を、一定時間の経過毎に繰り返す。時刻T(i+1)にて、前回の時刻T(i)での排出条件M(i)で液体を排出したときに前回の時刻T(i)とほぼ同じ排出量が得られたならば、前回の時刻T(i)において膨潤による流抵抗が安定した時刻とみなせる。したがって、これ以降の時刻におけるテーブルを作成する必要はない。このようにして、時間帯と排出条件とを割り当てたテーブルが予め設定される。
【0044】
ユーザがプリンタを使用開始したときには、制御部100は、各々の排出量を測定した時刻T(1)、T(2)、…T(i)で、目標吸引量が得られた各々の排出条件M(1)、M(2)、…M(i)とするように回復機構12の動作を制御する。
【0045】
この方法は、ノズルの膨潤の度合、例えば吐出口の面積の変化を直接測定できないインクジェットヘッドを備えたプリンタに対して好適に適用できる。そのようなインクジェットヘッドとしては、例えば、エポキシ樹脂などの吸水する樹脂をパターニングしたノズル材に、ポリイミドなどの実質的に吸水しない材料からなるオリフィスプレートが接合された構成のものが考えられる。オリフィスプレートとは、吐出口が形成される一面を構成するものであり、オリフィスプレートが給水しない材料であると、吐出口の面積がほとんど変化しない。この場合であっても、各々の時刻において、上記のように実際に液体を排出させて排出条件を設定しておくことにより、時間帯ごとに適当な排出条件を割り当てることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 プリンタ
2 インクジェットヘッド
6 ノズル
7 吐出口
9 チューブポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有するノズルに液体が充填されていない状態で搭載されて使用開始時に該ノズルに液体が充填される液体吐出ヘッドと、トリガ信号の種類に応じた回復モードで前記吐出口から液体を排出して前記ノズルの回復を行う回復機構とを有する液体吐出装置であって、
少なくとも1つの回復モードに対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を保持する記憶部と、
前記少なくとも1つの回復モードにおいて、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、前記複数の排出条件のうちの液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させる制御部と、を有する液体吐出装置。
【請求項2】
前記記憶部は、複数の前記回復モードの各々に対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を保持しており、
前記制御部は、前記複数の回復モードの各々に対して、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させるように制御する、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記ノズルを構成するノズル材が、該ノズルの内部に充填される液体を吸収して膨潤する材料からなる、請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記ノズル材の膨潤の度合いに応じた排出力となるように、予め所定の時間帯と前記排出条件とを割り当てたテーブルを保持しており、
前記制御部は、回復動作を開始する時刻を含む時間帯に割り当てられた前記排出条件で前記回復機構を動作させる、請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
液体を吐出する吐出口を有するノズルに液体が充填されていない状態で搭載されて使用開始時に該ノズルに液体が充填される液体吐出ヘッドと、トリガ信号の種類に応じた回復モードで前記吐出口から液体を排出して前記ノズルの回復を行う回復機構とを有する液体吐出装置の制御方法であって、
前記液体吐出装置が、少なくとも1つの回復モードに対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を予め保持しており、
前記少なくとも1つの回復モードにおいて、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、前記複数の排出条件のうちの液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させる工程を有する液体吐出装置の制御方法。
【請求項6】
前記液体吐出装置が、複数の前記回復モードの各々に対して設定された、前記ノズルからの液体の排出力が異なる複数の排出条件を保持しており、
前記複数の回復モードの各々に対して、前記ノズルに液体が充填される前記使用開始時からの時間経過とともに、液体の排出力の大きい排出条件で前記回復機構を動作させるように制御する工程を有する、請求項5に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項7】
前記ノズルを構成するノズル材が、該ノズルの内部に充填される液体を吸収して膨潤する材料からなる、請求項5または6に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項8】
前記液体吐出装置は、前記ノズル材の膨潤の度合いに応じた排出力となるように、予め所定の時間帯と前記排出条件とを割り当てたテーブルを保持しており、
回復動作を開始する時刻を含む時間帯に割り当てられた前記排出条件で前記回復機構を動作させる工程を有する、請求項7に記載の液体吐出装置の制御方法。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の液体吐出装置の制御方法を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−218397(P2012−218397A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89216(P2011−89216)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】