説明

液体吐出装置の製造方法

【課題】複数の電極のピッチにばらつきが生じることに起因する吐出特性の悪化を簡単な構成で防止することができる、液体吐出装置の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)流路ユニット16とアクチュエータユニット18とをそれぞれ製造する工程と、(b)複数の第1定電位電極42について搬送方向(一方向)XにおけるピッチP2を測定するとともに、複数の圧力室30について搬送方向(一方向)XにおけるピッチP1を測定する工程と、(c)前記(b)工程で測定した複数の第1定電位電極42のピッチP2と複数の圧力室30のピッチP1とが所定の許容誤差内にあるアクチュエータユニット18と流路ユニット16との組合せを選択する工程と、(d)前記(c)工程で選択した組合せに係るアクチュエータユニット18と流路ユニット16とを接合する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合することにより液体吐出装置を製造する、液体吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合することにより製造される液体吐出装置としては、たとえばインク吐出装置が周知であり、その一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたインク吐出装置は、インクを吐出する複数のノズルと複数のノズルのそれぞれに個別に連通された複数の圧力室とを有する流路ユニットと、複数の圧力室内のインクに吐出圧を選択的に付与する複数の駆動部を有するアクチュエータユニットとを備えている。流路ユニットは、複数のプレートを積層することによって製造されたものであり、流路ユニットには、各プレートに形成された孔または凹部が連通されることによって、複数のノズルおよび複数の圧力室等が形成されている。一方、アクチュエータユニットは、表面に導電材が印刷された複数のセラミックシートを積層した後、その積層体を焼成することによって製造されたものであり、セラミックシートの表面に印刷された導電材によって、定電位電極および個別電極が構成されている。また、定電位電極と個別電極とによって挟まれたセラミックシートの一部を分極処理することによって活性部が構成されており、定電位電極と個別電極との間に印加された駆動電圧によって活性部が駆動され、圧力室内のインクに吐出圧が付与されるようになっている。つまり、定電位電極と個別電極と活性部とによって駆動部が構成されている。そして、インク吐出装置を製造する際には、流路ユニットとアクチュエータユニットとをそれぞれ製造した後に、これらを互いに接合するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−304027号
【特許文献2】特開2004−48985号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のインク吐出装置では、流路ユニットとアクチュエータユニットとを別々に製造し、その後、これらを互いに接合していたので、流路ユニットおよびアクチュエータユニットのそれぞれの製造工程において寸法誤差が生じ易く、インク吐出装置の寸法精度にばらつきが生じるという問題があった。特に、アクチュエータユニットにおいては、焼成時の収縮の影響により複数の電極のピッチ(すなわち電極間の距離)にばらつきが生じ易く、活性部の位置が設計上の適正位置からずれるおそれがあった。そして、活性部の位置がずれた場合には、流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合したときに、圧力室に対する活性部の位置がずれるため、圧力室内のインクに適正な吐出圧を付与することができず、吐出特性(吐出速度等)が悪化するという問題があった。
【0005】
このような問題を解決する手段として、特許文献2には、複数の駆動部の特性を検査し、その検査結果に基づいて駆動電圧を制御することによって、複数の駆動部における吐出特性のばらつきを緩和するようにした技術が開示されている。しかし、この技術では、複数の駆動部の特性を検査するための構成が複雑になるため、製造コストが高くなるという問題があった。特に、駆動部が複数の活性部を有する場合には、複数の活性部のそれぞれについて特性を検査する必要があるため、構成がさらに複雑になり、製造コストがさらに高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、複数の圧力室に対応する複数の電極のピッチにばらつきが生じることに起因する吐出特性の悪化を簡単な構成で防止することができる、液体吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置の製造方法は、液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルのそれぞれに個別に連通され、一方向に沿って一定間隔をおいて配列された複数の圧力室とを有し、一面に前記複数の圧力室のそれぞれの開口が設けられた流路ユニットと、前記複数の圧力室のそれぞれの前記開口を閉塞する振動板と、前記振動板を駆動することによって前記複数の圧力室内の液体に吐出圧を選択的に付与する複数の駆動部とを有し、前記流路ユニットの前記一面に接合されるアクチュエータユニットとを備え、前記複数の駆動部のそれぞれは、前記一面側から見たときに前記圧力室に対応して位置する個別電極と、前記一面側から見たときに前記一方向において前記個別電極の中央領域に対応して位置するとともに、前記一方向に直交する方向において前記個別電極の全長に対応して位置する第1定電位電極と、前記一面側から見たときに少なくとも前記個別電極の前記中央領域よりも外側に位置する外側領域に対応して位置する第2定電位電極と、前記個別電極と前記第1定電位電極との間に位置する第1活性部と、前記個別電極と前記第2定電位電極との間に位置する第2活性部とを有して構成される液体吐出装置の製造方法であって、(a)前記流路ユニットと前記アクチュエータユニットとをそれぞれ製造する工程と、(b)前記複数の第1定電位電極について前記一方向におけるピッチを測定するとともに、前記複数の圧力室について前記一方向におけるピッチを測定する工程と、(c)前記(b)工程で測定した前記複数の第1定電位電極のピッチと前記複数の圧力室のピッチとが所定の許容誤差内にある前記アクチュエータユニットと前記流路ユニットとの組合せを選択する工程と、(d)前記(c)工程で選択した組合せに係る前記アクチュエータユニットと前記流路ユニットとを接合する工程とを備える。
【0008】
アクチュエータユニットの駆動部においては、第1定電位電極が一方向において個別電極の中央領域に対応して位置するとともに、当該一方向に直交する方向において個別電極の全長に対応して位置している。そして、個別電極と第1定電位電極との間に位置する第1活性部に印加された駆動電圧によって振動板における中央領域に対応する部分が駆動され、これにより圧力室内の液体に吐出圧が付与される。したがって、複数の駆動部における液体の吐出特性を均質化するためには、複数の駆動部のそれぞれにおいて、個別電極と第1定電位電極とが対向する対向部分が圧力室の中央領域に位置決めされている必要がある。
【0009】
ここで、第1定電位電極は、前記一方向に直交する方向において個別電極の全長に対応して位置しているので、アクチュエータユニットを製造する際に第1定電位電極の位置が当該直交する方向にずれたとしても、前記対向部分の位置が大きく変動することはない。また、第1定電位電極は、前記一方向において個別電極の中央領域に対応して位置しているので、個別電極の位置が前記一方向にずれたとしても、前記対向部分の位置が大きく変動することはない。しかし、第1定電位電極の位置が前記一方向にずれた場合には、前記対向部分の位置が大きく変動する。つまり、アクチュエータユニットを製造する際の前記対向部分の位置決めに関しては、「第1定電位電極の前記一方向における位置ずれ」が大きく影響する。
【0010】
この構成では、前記一方向における複数の第1定電位電極のピッチと、前記一方向における複数の圧力室のピッチとを測定し、これらが所定の許容誤差内にあるアクチュエータユニットと流路ユニットとの組合せを選択するようにしているので、「第1定電位電極の前記一方向における位置ずれ」に起因する「前記対向部分の圧力室に対する位置ずれ」の問題を優先的に解消することができ、他の要素(個別電極等)および他の方向(一方向に対して直交する方向)の位置ずれを特に考慮しなくても、前記対向部分を前記一方向における圧力室の中央領域に位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、複数の圧力室のそれぞれに対応して形成された複数の電極のピッチのばらつきに起因する吐出特性の悪化を簡単な構成で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る液体吐出装置の構成を示す斜視図である。
【図2】流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合した構成を示す示す平面図である。
【図3】流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合した構成を示すY方向の部分断面図である。
【図4】流路ユニットとアクチュエータユニットとを接合した構成を示すX方向の部分断面図である。
【図5】アクチュエータユニットの各電極の構成を示す図であり、(A)は第2定電位電極の構成を示す部分拡大平面図、(B)は第1定電位電極の構成を示す部分拡大平面図、(C)は個別電極の構成を示す部分拡大平面図である。
【図6】アクチュエータユニットの各電極の位置関係を示す部分拡大平面図である。
【図7】個別電極の位置が適正位置からずれた状態を示す図であり、(A)は個別電極がY方向にずれた状態を示す部分拡大平面図、(B)は個別電極がX方向にずれた状態を示す部分拡大平面図である。
【図8】第1定電位電極の位置が適正位置からずれた状態を示す図であり、(A)は第1定電位電極がY方向にずれた状態を示す部分拡大平面図、(B)は第1定電位電極がX方向にずれた状態を示す部分拡大平面図である。
【図9】電極のずれ量と圧力室における変位体積の比率との関係を示すグラフであり、(A)は個別電極のX方向ずれ量と変位体積の比率との関係を示すグラフ、(B)は第1定電位電極のX方向ずれ量と変位体積の比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態に係る「液体吐出装置の製造方法」について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、本発明を「インク吐出装置」に適用しているが、本発明は、着色液を吐出させる「着色液吐出装置」や、導電液を吐出させる「導電液吐出装置」等のような他の「液体吐出装置」にも適用可能である。本発明を「着色液吐出装置」または「導電液吐出装置」等に適用した場合には、以下の説明で用いる「インク」を「着色液」または「導電液」等に読み替えるものとする。また、以下の説明で用いる「下」とは、インクを吐出する方向を意味し、「上」とは、その反対の方向を意味するものとする。
[インク吐出装置の全体構成]
図1は、インク吐出装置10の構成を示す分解斜視図である。インク吐出装置10は、ブラック(BK)、イエロー(Y)、シアン(C)およびマゼンダ(M)の4色のインクを、ドライバIC12で生成された駆動電圧に基づいて複数のノズル14(図3)から吐出対象物(用紙等)に向けて選択的に吐出するものであり、図1に示すように、流路ユニット16と、アクチュエータユニット18と、配線基板20とを有している。
【0014】
図示していないが、インク吐出装置10は、キャリッジに搭載されて往復移動されながら、搬送装置によって搬送されてくる吐出対象物に向けてノズル14(図3)からインクを吐出するように構成されており、インク吐出装置10の移動方向と吐出対象物の搬送方向とは直交している。そこで、以下の説明では、吐出対象物の搬送方向を「搬送方向X」といい、インク吐出装置10の移動方向(すなわちノズル14の走査方向)を「走査方向Y」という。
<流路ユニット>
流路ユニット16は、図3に示すように、5枚のプレート22a〜22eを積層することによって構成されており、これらのプレート22a〜22eに形成された「凹部」または「貫通孔」が互いに連通されることによって、インクの色ごとに4つのインク流路N1〜N4(図1)が構成されている。つまり、流路ユニット16には、インクを溜めるマニホールド24と、マニホールド24にインクを供給するインク供給口26(図1)と、マニホールド24内のインクを外部に吐出する複数のノズル14と、マニホールド24と複数のノズル14とを連通する複数の個別流路28とがインクの色ごとに構成されている。また、複数の個別流路28のそれぞれには、ノズル14に対して個別に連通する圧力室30が形成されており、圧力室30の上部には、流路ユニット16の一面(本実施形態では上面)16aに開かれた開口30aが形成されている。
【0015】
図5(A)に示すように、複数の圧力室30は、搬送方向X(すなわち「一方向」)に沿って一定間隔をおいて配列されることによって圧力室列Lを成しており、複数の圧力室列Lが走査方向Yに間隔を隔てて互いに平行に配置されている。インク流路N1〜N4(図1)のそれぞれにおいては、互いに近接する2つの圧力室列Lが一対となっており、一対の圧力室列Lにおいては、一方の圧力室列Lの複数のノズル14と他方の圧力室例Lの複数のノズル14とが、走査方向Yの中央部に千鳥状に配置されている。複数の圧力室30のそれぞれの平面視形状(すなわち上側から見たときの形状)は、走査方向Yに延びる長辺を有する略長方形に設計されており、搬送方向Xにおける複数の圧力室30のピッチP1は、圧力室列Lの全長に亘って一定に設計されている。なお、流路ユニット16においては、5枚のプレート22a〜22eを積層する工程において寸法誤差が生じるため、実際に測定したピッチP1と設計上の適正ピッチとは必ずしも一致しない。
【0016】
そして、流路ユニット16の一面16aにアクチュエータユニット18が接合されることによって、複数の圧力室30のそれぞれの開口30aが閉塞されている。
<アクチュエータユニット>
アクチュエータユニット18は、図2、図3および図4に示すように、圧力室30の内部に存在するインクに吐出圧を付与するものであり、振動板32と、振動板32を駆動することによって複数の圧力室30内のインクに吐出圧を選択的に付与する複数の駆動部34とを有している。
【0017】
振動板32は、複数の圧力室30のそれぞれの開口30aを閉塞するとともに、駆動部34により変形されることによって圧力室30に体積変化を生じさせるものであり、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料によって形成されている。ただし、振動板32の材料は、圧電材料に限定されるものではない。
【0018】
複数の駆動部34のそれぞれは、振動板32の上面に一体に形成されたものであり、図3および図4に示すように、下部圧電層36と、上部圧電層38と、第2定電位電極40と、第1定電位電極42と、複数の個別電極44と、第1活性部46と、第2活性部48とを有している。下部圧電層36は、後述する第2活性部48を構成するものであり、上部圧電層38は、後述する第1活性部46および第2活性部48を構成するものであり、これらはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料によって形成されている。第2定電位電極40、第1定電位電極42および複数の個別電極44のそれぞれは、第1活性部46および第2活性部48を所定の態様で駆動するための電界を生じさせるものであり、Ag−Pd等を含む金属材料によって形成されている。
【0019】
第2定電位電極40は、図4に示すように、複数の個別電極44のそれぞれと対向して位置することによって、下部圧電層36および上部圧電層38のそれぞれに構成された第2活性部48に電界を作用させるものであり、図5(A)に示すように、流路ユニット16における一対の圧力室列Lの全体に対応するように、一対の圧力室列Lの幅よりも十分に広い幅を有して搬送方向Xに延びる帯状に形成されている。そして、図示していないが、第2定電位電極40が、下部圧電層36および上部圧電層38を貫通して形成された導電部を介してアクチュエータユニット18の上面に形成された第2表面端子に電気的に接続されている。
【0020】
第1定電位電極42は、図4に示すように、複数の個別電極44のそれぞれと対向して位置することによって、上部圧電層38に構成された第1活性部46に電界を作用させるものであり、流路ユニット16における複数の圧力室30のそれぞれに部分的に対応するように形成されている。第1定電位電極42は、図5(B)に示すように、走査方向Yに延びる長辺を有する平面視略長方形の複数の電極部42aと、複数の電極部42aを一対の圧力室列Lの幅方向(すなわち走査方向Y)両側において電気的に接続する帯状の接続部42bとを有している。複数の電極部42aのそれぞれは、圧力室30の中央領域に対応し、かつ、走査方向Yにおいて圧力室30の全長に対応するように配置されており、これにより圧力室30には、電極部42aとは対向しない領域が中央領域の外側に確保されている。そして、図示していないが、第1定電位電極42の接続部42bが、上部圧電層38を貫通して形成された導電部を介してアクチュエータユニット18の上面に形成された第1表面端子に電気的に接続されている。
【0021】
複数の個別電極44のそれぞれは、図4に示すように、第2定電位電極40および第1定電位電極42のそれぞれと対向して位置することによって、上部圧電層38に構成された第1活性部46と、上部圧電層38および下部圧電層36のそれぞれに連続して構成された第2活性部48とに電界を選択的に作用させるものであり、図5(C)に示すように、複数の圧力室30のそれぞれに個別に対応するように形成されている。個別電極44は、走査方向Yに延びる長辺を有する平面視略長方形の電極部44aと、電極部44aにおけるノズル14側とは反対側の端部から一対の圧力室列Lにおける幅方向(すなわち走査方向Y)の外側に延びて形成された端子部44bとを有している。電極部44aにおける走査方向Yの長さは、圧力室30における走査方向Yの長さとほぼ同じに設計されており、電極部44aにおける搬送方向Xの長さは、圧力室30における搬送方向Xの長さよりもやや長めに設計されている。したがって、圧力室30を平面視したときの面積と、電極部44aを平面視したときの面積とはほぼ同じである。
【0022】
このような第2定電位電極40、第1定電位電極42および複数の個別電極44のそれぞれを流路ユニット16の一面16a側から見たときには、図6に示した部分拡大平面図から分かるように、個別電極44(斜線で示す部分)が圧力室30(二点鎖線で描いた部分)に対応して位置しており、第1定電位電極42(破線で描いた部分)がX方向において個別電極の中央領域(一点鎖線で描いた部分)Sに対応して位置するとともに、Y方向において個別電極44の全長に対応して位置している。また、第2定電位電極40(破線で描いた部分)が少なくとも個別電極44の中央領域Sよりも搬送方向Xの外側に位置する外側領域Gに対応して位置している。
【0023】
そして、図4に示すように、個別電極44と第1定電位電極42との間に位置する上部圧電層38の一部が、第1定電位電極42から個別電極44に向かって上向きに分極されており、当該一部が第1活性部46となっている。また、個別電極44と第2定電位電極40との間に位置する下部圧電層36および上部圧電層38のそれぞれの一部のうち第1定電位電極42と対向する部分を除いた部分が、個別電極44から第2定電位電極40に向かって下向きに分極されており、当該部分が第2活性部48となっている。さらに、第1定電位電極42と第2定電位電極40との間に位置する下部圧電層36の一部は、第1定電位電極42から第2定電位電極40に向かって下向きに分極されている。
<配線基板>
配線基板20(図1)は、ポリイミド樹脂等のような可撓性を有する合成樹脂材料からなるシート状の基板本体と、基板本体の一方の表面に搭載されたドライバIC12(図1)と、アクチュエータユニット18の第1定電位電極42を所定電位(たとえば20V)に電気的に接続する第1定電位配線と、アクチュエータユニット18の第2定電位電極40をグランド電位(0V)に電気的に接続する第2定電位配線と、アクチュエータユニット18の複数の個別電極44とドライバIC12の駆動用出力端子とを電気的に接続する複数の駆動用配線とを有している。そして、ドライバIC12によって、第1定電位電極42が常に所定電位(たとえば20V)に保持されるとともに、第2定電位電極40が常にグランド電位(0V)に保持され、さらに、複数の個別電極44のそれぞれがグランド電位(0V)と所定電位(たとえば20V)との間で切り替えられる。
[インク吐出装置の動作]
インク吐出動作を実行する前の待機状態では、第1定電位電極42の電位が所定電位(たとえば20V)に保持されるとともに、第2定電位電極40がグランド電位(0V)に保持され、複数の個別電極44のそれぞれがグランド電位(0V)に保持される。この状態では、個別電極44と第1定電位電極42との間に電位差が生じるため、第1活性部46には、その分極方向と同じ上向きの電界が発生し、第1活性部46は水平方向に収縮する。これにより上部圧電層38、下部圧電層36および振動板32の圧力室30と対向する部分が全体として圧力室30に向かって凸となるように変形し、振動板32が変形していない場合と比較して圧力室30の体積が小さくなる。
【0024】
ノズル14からインクを吐出させる際には、個別電極44の電位が、一旦、所定電位(たとえば20V)に切り替えられた後、グランド電位(0V)に戻される。個別電極44の電位が所定電位(たとえば20V)に切り替えられると、個別電極44が第1定電位電極42と同電位になるとともに、第2定電位電極40よりも高電位になるため、収縮されていた第1活性部46が元に戻る。また、個別電極44と第2定電位電極40との間に電位差が生じるため、第2活性部48には、その分極方向と同じ下向きの電界が発生し、第2活性部48は水平方向に収縮する。これにより上部圧電層38、下部圧電層36および振動板32が全体として圧力室30と反対側に凸となるように変形し、圧力室30の体積が増加する。その後、個別電極44の電位がグランド電位(0V)に戻されると、上部圧電層38、下部圧電層36および振動板32の圧力室30と対向する部分は再び圧力室30に向かって凸となるように変形し、圧力室30の体積が小さくなる。これにより、圧力室30の内部に存在するインクに吐出圧が付与され、ノズル14からインクが吐出される。
【0025】
また、インクを吐出させる動作において、個別電極44の電位がグランド電位(0V)から所定電位(たとえば20V)に切り替えられたときには、第1活性部46が収縮前の状態にまで伸長するとともに、第2活性部48が収縮するため、第1活性部46の伸長が第2活性部48の収縮に吸収される。一方、個別電極44の電位が所定電位(たとえば20V)からグランド電位(0V)に戻されたときには、第1活性部46が収縮するとともに、第2活性部48が収縮前の状態にまで伸長するため、第1活性部46の収縮が第2活性部48の伸長によって吸収される。これにより、下部圧電層36および上部圧電層38の圧力室30と対向する部分の変形が、他の圧力室30における吐出動作に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
[インク吐出装置の製造方法]
インク吐出装置を製造する際には、(a)流路ユニット16とアクチュエータユニット18とをそれぞれ製造する「ユニット製造工程」と、(b)複数の第1定電位電極42について搬送方向X(すなわち「一方向」)におけるピッチP2(図5(B))を測定するとともに、複数の圧力室30について搬送方向XにおけるピッチP1(図5(A))を測定する「ピッチ測定工程」と、(c)複数の第1定電位電極42のピッチP2と複数の圧力室30のピッチP1とが所定の許容誤差内にあるアクチュエータユニット18と流路ユニット16との組合せを選択する「組合せ工程」と、(d)選択した組合せに係るアクチュエータユニット18と流路ユニット16とを接合する「接合工程」とをこの順に実行する。
【0026】
<ユニット製造工程>
「ユニット製造工程」において、流路ユニット16を製造する際には、5枚のプレート22a〜22e(図3)を互いに位置決めして接合する。一方、アクチュエータユニット18を製造する際には、振動板32、下部圧電層36および上部圧電層38のそれぞれ(図3)に対応するセラミックグリーンシートの表面に、第2定電位電極40、第1定電位電極42および複数の個別電極44のそれぞれ(図3)に対応する導電性ペーストを印刷し、その後、これらのセラミックグリーンシートを重ねて焼成する。この「ユニット製造工程」では、部材間を接合する際に寸法誤差が生じるが、特に、アクチュエータユニット18においては、複数の電極間の位置関係を高精度に定める必要があることから、インクの吐出特性(吐出速度等)に与える寸法誤差の影響は大きくなる。
【0027】
なお、「ユニット製造工程」では、流路ユニット16およびアクチュエータユニット18のそれぞれを1つずつ製造してもよいし、これらを複数ずつ製造してもよい。また、これらのいずれか一方を1つだけ製造し、他方を複数製造してもよい。
【0028】
<ピッチ測定工程>
「ピッチ測定工程」では、インクの吐出特性に大きく影響する「複数の第1定電位電極42の搬送方向XにおけるピッチP2(図5(B))」を測定するとともに、当該ピッチP2に対応する「複数の圧力室30の搬送方向XにおけるピッチP1(図5(A))」を測定する。以下に、「複数の第1定電位電極42の搬送方向XにおけるピッチP2」がインクの吐出特性に大きく影響する理由について詳細に説明する。
【0029】
アクチュエータユニット18の駆動部34においては、図6に示すように、第1定電位電極42が搬送方向X(すなわち「一方向」)において個別電極44の中央領域Sに対応して位置するとともに、走査方向Yにおいて個別電極44の全長に対応して位置している。そして、個別電極44と第1定電位電極42との間に位置する第1活性部46(図4)に印加された駆動電圧によって振動板32における中央領域S(図6)に対応する部分が変形され、これにより圧力室30内の液体に吐出圧が付与される。したがって、複数の駆動部34におけるインクの吐出特性を均質化するためには、複数の駆動部34のそれぞれにおいて、個別電極44と第1定電位電極42とが対向する部分(以下、「対向部分」という。)R(図6)が圧力室30の中央領域に正確に位置決めされている必要があり、対向部分Rが圧力室30の中央領域から大きくずれた場合には、圧力室30の「変位体積の比率」が小さくなるため、吐出特性が悪化する。ここで、「変位体積の比率」とは、吐出動作において圧力室30の体積が適正に変位したときの変位体積を適正変位体積としたときに、当該適正変位体積に対してどの程度に変位されるかを示すものであり、変位体積の比率(%)が小さくなると、圧力室30内のインクに十分な吐出圧を付与することができなくなるため、吐出速度が低下し、吐出特性が悪化する。
【0030】
図6に示した駆動部34において、対向部分Rの位置に影響を与える要因について検討すると、まず、第2定電位電極40は、第1活性部46の駆動に直接寄与するものではないため、また、一対の圧力室列Lの幅よりも十分に広い幅を有して搬送方向Xに延びて形成されているため(図5(A))、その位置ずれが吐出特性に影響を与えることはない。したがって、対向部分Rの位置決めにおいて第2定電位電極40の位置ずれを考慮する必要はない。
【0031】
個別電極44は、第1活性部46の駆動に直接寄与するが、上述のように、電極部44aにおける走査方向Yの長さは、圧力室30における走査方向Yの長さとほぼ同じに設計されており、電極部44aにおける搬送方向Xの長さは、圧力室30における搬送方向Xの長さよりもやや長めに設計されているので(図5(C))、個別電極44が走査方向Yに位置ずれした場合(図7(A))でも、或いは、搬送方向Xに位置ずれした場合(図7(B))でも、対向部分Rの位置が変動することはない。したがって、対向部分Rの位置決めにおいて個別電極44の位置ずれを考慮する必要はない。図9(A)は、個別電極44が搬送方向Xに位置ずれした場合における「変位体積の比率」の変化を示したグラフであるが、このグラフからも当該位置ずれが「変位体積の比率」に影響しないことは明白である。なお、図7および図8では、個別電極44および第1定電位電極42のそれぞれを斜線で示しており、これらの斜線が格子状に重なる部分に対向部分Rが位置している。また、図7および図8中の二点鎖線は、位置ずれ前の位置を示したものである。
【0032】
第1定電位電極42は、第1活性部46の駆動に直接寄与するが、上述のように、複数の電極部42aのそれぞれは、圧力室30の中央領域に対応し、かつ、走査方向Yにおいて圧力室30の全長に対応するように配置されているので(図5(B))、第1定電位電極42が走査方向Yに位置ずれした場合には、図8(A)に示すように、対向部分Rの位置が変動することはない。したがって、対向部分Rの位置決めにおいて第1定電位電極42の走査方向Yへの位置ずれを考慮する必要はない。しかし、第1定電位電極42の電極部42aは、搬送方向Xにおいて圧力室30の中央領域にのみ対応して配置されているで(図5(B))、第1定電位電極42が搬送方向Xに位置ずれした場合には、図8(B)に示すように、対向部分Rの位置が大きく変動し、その変動幅が大きい場合には、圧力室30の「変位体積の比率」が小さくなって吐出特性が悪化する。図9(B)は、第1定電位電極42が搬送方向Xに位置ずれした場合における「変位体積の比率」の変化を示したグラフであるが、このグラフからも当該位置ずれが「変位体積の比率」に大きく影響していることは明白である。
【0033】
以上より、対向部分Rの位置決めにおいては、「第1定電位電極42の搬送方向Xへの位置ずれ」だけを考慮すればよいことが分かる。そこで、「ピッチ測定工程」では、当該位置ずれが反映される「複数の第1定電位電極42の搬送方向XにおけるピッチP2」を測定し、当該ピッチP2に基づいて以下の「組合せ工程」を行うようにしている。なお、上述の「ユニット製造工程」において流路ユニット16およびアクチュエータユニット18の少なくとも一方を複数製造する場合には、それらの全てについてピッチP1およびピッチP2を測定することになる。
【0034】
<組合せ工程>
「組合せ工程」では、「ピッチ測定工程」で測定した第1定電位電極42間のピッチP2および圧力室30間のピッチP1を分析し、これらが所定の許容誤差内にあるアクチュエータユニット18と流路ユニット16との組合せを選択する。本実施形態では、対向部分Rの位置精度に大きく影響する「第1定電位電極42の搬送方向Xにおける位置ずれ」が反映された「複数の第1定電位電極42のピッチP2」を基準にして、アクチュエータユニット18と流路ユニット16との組合せを選択するようにしているので、「組合せ工程」において、他の要素(個別電極44等)および他の方向(走査方向Y等)の位置ずれを考慮する必要はない。
【0035】
なお、「ユニット製造工程」において複数のアクチュエータユニット18を製造する場合には、「ピッチ測定工程」で測定した第1定電位電極42間のピッチP2に基づいて、流路ユニット30に組み合わせるアクチュエータユニット18を複数のアクチュエータユニット18の中から選択するようにしてもよい。また、「ユニット製造工程」において流路ユニット16およびアクチュエータユニット18の両方を複数製造する場合には、それらの全てについてピッチP1およびピッチP2を分析し、「ピッチの値(すなわち距離)」や「ピッチのばらつきの程度」等に基づいてそれらをランク分けし、同じランクに属するアクチュエータユニット18と流路ユニット16との組合せを選択するようにしてもよい。
【0036】
<接合工程>
「接合工程」では、「組合せ工程」で選択した組合せに係るアクチュエータユニット18と流路ユニット16とを対向させ、アクチュエータユニット18および流路ユニット16のそれぞれに光を透過させることによって、これらの両方に設けられたマーカー(印刷された標示等)の位置を確認し、一方のマーカーと他方のマーカーとが重なるようにアクチュエータユニット18と流路ユニット16とを接触させる。このとき、アクチュエータユニット18および流路ユニット16の少なくとも一方の表面に接着剤を塗布しておき、当該接着剤により両者を接合する。なお、「接合工程」における「位置決め」および「接合」の具体的な方法は、本実施形態に限定されるものではなく、従来から存在する方法を適宜選択して用いることができる。また、アクチュエータユニット18と配線基板20とを接合する方法も、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
E… 側部領域
S… 中央領域
G… 外側領域
L… 圧力室列
R… 対向部分
P1,P2… ピッチ
X… 搬送方向
Y… 走査方向
10… インク吐出装置(液体吐出装置)
12… ドライバIC
14… ノズル
16… 流路ユニット
16a… 一面
18… アクチュエータユニット
20… 配線基板
30… 圧力室
30a… 開口
32… 振動板
34… 駆動部
36… 下部圧電層
38… 上部圧電層
40… 第2定電位電極
42… 第1定電位電極
44… 個別電極
46… 第1活性部
48… 第2活性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルのそれぞれに個別に連通され、一方向に沿って一定間隔をおいて配列された複数の圧力室とを有し、一面に前記複数の圧力室のそれぞれの開口が設けられた流路ユニットと、
前記複数の圧力室のそれぞれの前記開口を閉塞する振動板と、前記振動板を駆動することによって前記複数の圧力室内の液体に吐出圧を選択的に付与する複数の駆動部とを有し、前記流路ユニットの前記一面に接合されるアクチュエータユニットとを備え、
前記複数の駆動部のそれぞれは、前記一面側から見たときに前記圧力室に対応して位置する個別電極と、前記一面側から見たときに前記一方向において前記個別電極の中央領域に対応して位置するとともに、前記一方向に直交する方向において前記個別電極の全長に対応して位置する第1定電位電極と、前記一面側から見たときに少なくとも前記個別電極の前記中央領域よりも外側に位置する外側領域に対応して位置する第2定電位電極と、前記個別電極と前記第1定電位電極との間に位置する第1活性部と、前記個別電極と前記第2定電位電極との間に位置する第2活性部とを有して構成される液体吐出装置の製造方法であって、
(a)前記流路ユニットと前記アクチュエータユニットとをそれぞれ製造する工程と、
(b)前記複数の第1定電位電極について前記一方向におけるピッチを測定するとともに、前記複数の圧力室について前記一方向におけるピッチを測定する工程と、
(c)前記(b)工程で測定した前記複数の第1定電位電極のピッチと前記複数の圧力室のピッチとが所定の許容誤差内にある前記アクチュエータユニットと前記流路ユニットとの組合せを選択する工程と、
(d)前記(c)工程で選択した組合せに係る前記アクチュエータユニットと前記流路ユニットとを接合する工程とを備える、液体吐出装置の製造方法。
【請求項2】
前記一方向に対して直交する方向における前記複数の第1定電位電極のピッチおよび前記一方向に対して直交する方向における前記複数の圧力室のピッチは、前記(b)工程において測定せず、前記(c)工程において考慮しない、請求項1に記載の液体吐出装置の製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程では、複数の前記アクチュエータユニットを製造し、
前記(b)工程では、前記複数のアクチュエータユニットのそれぞれについて、前記一方向における前記複数の第1定電位電極のピッチを測定し、
前記(c)工程では、前記(b)工程で測定した前記複数の第1定電位電極のピッチに基づいて、前記流路ユニットに組み合わせる前記アクチュエータユニットを前記複数のアクチュエータユニットの中から選択する、請求項1または2に記載の液体吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−228423(P2010−228423A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81404(P2009−81404)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】