液体吐出装置及び液体吐出方法
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、1/h2<4×10−4を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に液滴を吐出する液体吐出装置及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に液滴を吐出するインクジェット記録方式としては、圧電素子の振動によりインク流路を変形させることによりインク液滴を吐出させるピエゾ方式、インク流路内に発熱体を設け、その発熱体を発熱させて気泡を発生させ、気泡によるインク流路内の圧力変化に応じてインク液滴を吐出させるサーマル方式、インク流路内のインクを帯電させてインクの静電吸引力によりインク液滴を吐出させる静電吸引方式が知られている。
【0003】
従来の静電吸引方式のインクジェットプリンタとして、特許文献1,2に記載のものが挙げられる。かかるインクジェットプリンタは、その先端部からインクの吐出を行う複数の凸状インクガイドと、各インクガイドの先端に対向して配設されると共に接地された対向電極と、インクガイドごとにインクに吐出電圧を印加する吐出電極とを備えている。そして、凸状インクガイドは、インクを案内するスリット幅が異なる二種類のものを用意し、これらのものを使い分けることで、二種類の大きさの液滴を吐出可能とすることを特徴とする。
そして、この従来のインクジェットプリンタは、吐出電極にパルス電圧を印加することでインク液滴を吐出し、吐出電極と対向電極間で形成された電界によりインク液滴を対向電極側に導いている。
【特許文献1】特開平8−238774号公報
【特許文献2】特開2000−127410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例には、以下の問題があった。
(1)微小液滴形成の安定性
ノズル径が大きいため、ノズルから吐出される液滴の形状が安定しない。
(2)高印加電圧
微小液滴の吐出のためには、ノズルの吐出口の微細化を図ることが重要因子となってくるが、従来の静電吸引方式の原理では、ノズル径が大きいことにより、ノズル先端部の電界強度が弱く、液滴を吐出するのに必要な電界強度を得るために、高い吐出電圧(例えば2000[V]に近い非常に高い電圧)を印加する必要があった。従って、高い電圧を印加するために、電圧の駆動制御が高価になり、さらに、安全性の面からも問題があった。
(3)吐出応答性
上記の特許文献1,2に開示されたインクジェット装置では、上記(2)と同様の理由により高い吐出電圧の印加により吐出を行うため、メニスカス部の中心に電荷が移動するための電荷の移動時間が吐出応答性に影響し、印字速度の向上において問題となっていた。また、インクに対するパルス電圧を印加することのみによりインク吐出を行うために、そのパルス電圧を印加する電極に高電圧を印加する必要があり、上述した(2)、(3)の問題を助長する傾向にある、という不都合があった。
(4)吐出量の安定性
上記の特許文献1,2に開示された従来のドロップオンデマンド型静電吸引型インクジェット方式では、吐出の制御は印加電圧のON/OFFによって行われる方式、あるいは、ある程度の直流バイアス電圧を印加しておき、それに信号電圧を重ねることによって行われる振幅変調方式が用いられている。しかしながら、吐出休止後、再度吐出開始する際の時間応答性が悪く、また吐出量も不安定になる問題があった。
【0005】
また、上記(1)〜(4)の問題点は、基材及びノズル周辺の電界強度がノズルの先端部から基材までの距離の変化によって影響を受けることによっても生じていた。なお、ノズルの先端部から基材までの距離は、フィードバック制御により或る程度の精度で一定の値に保つことが可能である。しかし、基材表面のうねりや、複数のノズルを配した場合のノズル位置の精度、基材を固定するステージの精度、ノズルを固定するステージの精度などを組み合わせて総合的に高い精度で前記距離を一定の値に保つことは困難である。このため、工業的には、ノズルから基材までの距離の精度が悪くても、上記(1)〜(4)の問題点を改善することが望まれている。
【0006】
本発明の課題は、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができる液体吐出装置及び液体吐出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によれば、本発明の帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、
1/h2<4×10−4
を満たす。
【0008】
以下、ノズル径という場合には、液滴を吐出する先端部におけるノズルの内部直径(ノズルの先端部の内部直径)を示すものとする。なお、ノズル内の液体吐出穴の断面形状は円形に限定されるものではない。例えば、液体吐出穴の断面形状が多角形、星形その他の形状である場合にはその断面形状の外接円が25[μm]以下となることを示すものとする。
以下、ノズル径或いはノズルの先端部の内部直径という場合において、他の数値限定を行っている場合にも同様とする。また、ノズル半径という場合には、このノズル径(ノズルの先端部の内部直径)の1/2の長さを示すものとする。
【0009】
本発明において、「基材」とは吐出された溶液の液滴の着弾を受ける対象物をいい材質的には特に限定されない。従って、例えば、上記構成をインクジェットプリンタに適応した場合には、用紙やシート等の記録媒体が基材に相当し、導電性ペーストを用いて回路の形成を行う場合には、回路が形成されるべきベースが基材に相当することとなる。
【0010】
上記構成にあっては、ノズルの先端部に液滴の受け面が対向するように、ノズル又は基材が配置される。これら相互の位置関係を実現するための配置作業は、ノズルの移動又は基材の移動のいずれにより行っても良い。
また、ノズル内の溶液は吐出を行うために帯電した状態にあることが要求される。そのため、溶液の帯電に必要な電圧印加を行う帯電専用の電極を設けても良い。
そして、ノズル内において溶液が帯電することにより電界が集中し、溶液はノズル先端部側への静電力を受け、ノズル先端部において溶液が盛り上がった状態(凸状メニスカス)が形成される。このとき、ノズルは絶縁破壊強度10[kV/mm]以上の材料で形成されているので、当該先端部からの放電が効果的に抑制され、溶液の電荷のチャージが効果的に行われる。そして、溶液の静電力が凸状メニスカスにおける表面張力を上回ることにより、凸状メニスカスの突出先端部から溶液の液滴が基材の受け面に対して飛翔し、基材の受け面上には溶液のドットが形成される。
【0011】
このように溶液の静電力は、吐出量や臨界電圧を変化させるものであり、基材及びノズルの周辺に作用する電界の強度Etotal[V/m]によって影響を受ける。この電界強度Etotalは、ノズルに集中して生じる集中電界強度Eloc[V/m]と、ノズルと基材との間に生じる非集中電界強度Egap[V/m]とから、例えば以下の式のように表される。
Etotal=Eloc+Egap
また、集中電界強度Elocは、ノズル径R[μm]と、ノズルに印加される電圧V[v]とによって以下の式のように表される。
Eloc=V/kR(但し、kは定数)
また、非集中電界強度Egapは、ノズルから基材までの距離h[μm]と、ノズルに印加される電圧Vとによって以下の式のように表される。
Egap=V/h
以上の式から、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率(微分係数)は、
Etotal’=−V/h2
となる。これにより、1/h2の値が小さい程、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近づくことが分かる。
【0012】
このようにすれば、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]が0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4を満たすので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近い。従って、ノズルの先端部から基材までの距離hの変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0013】
なお、上記構成にあっては、ノズルから基材までの距離hが上記の式を満たすことの他に、ノズルを従来にない超微細径とすることでノズル先端部に電界を集中させて電界強度を高めることに特徴がある。ノズルの小径化に関しては後の記載により詳述する。かかる場合、ノズルの先端部に対向する対向電極がなくとも液滴の吐出を行うことが可能である。例えば、対向電極が存在しない状態で、ノズル先端部に対向させて基材を配置した場合、当該基材が導体である場合には、基材の受け面を基準としてノズル先端部の面対称となる位置に逆極性の鏡像電荷が誘導され、基材が絶縁体である場合には、基材の受け面を基準として基材の誘電率により定まる対称位置に逆極性の映像電荷が誘導される。そして、ノズル先端部に誘起される電荷と鏡像電荷又は映像電荷間での静電力により液滴の飛翔が行われる。
但し、本発明の構成は、対向電極を不要とすることを可能とするが、対向電極を併用しても構わない。対向電極を併用する場合には、当該対向電極の対向面に沿わせた状態で基材を配置すると共に対向電極の対向面がノズルからの液体吐出方向に垂直に配置されることが望ましく、これによりノズル−対向電極間での電界による静電力を飛翔電極の誘導のために併用することも可能となるし、対向電極を接地すれば、帯電した液滴の電荷を空気中への放電に加え、対向電極を介して逃がすことができ、電荷の蓄積を低減する効果も得られるので、むしろ併用することが望ましい構成といえる。
【0014】
また、前記距離hは、
1/h2<2×10−4
を満たすこと好ましい。
【0015】
このようにすれば、前記距離hが1/h2<2×10−4を満たすので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率がより0に近い。従って、基材とノズル先端との間隔の変化に起因する基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を、より小さく抑えることができる。
【0016】
本発明の第2の側面によれば、本発明の帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とは、
1/(1+5R/h)>0.8
を満たす。
【0017】
ここで、距離hの微小変化に対する電界強度Etotal(=Eloc+Egap)の変化率は、電界強度Etotalに対する非集中電界強度Egapの割合が小さい程、つまり電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が大きい程、小さくなる。そして、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合とは、
Eloc/Eloc+Egap={(V/kR)/(V/kR)+(V/h)}
=1/{1+(kR/h)}
で表されるものである。
【0018】
このようにすれば、内部直径R[μm]と、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]とが1/(1+5R/h)>0.8を満たすので、つまり、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が0.8より大きいので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さい。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加することができる。
【0019】
また、前記距離hは500[μm]以下であることが好ましい。
このようにすれば、前記距離hが500[μm]以下であるので、吐出電圧を低くすることができるとともに、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0020】
本発明の第3の側面によれば、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]を、
1/h2<4×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させる。
【0021】
このようにすれば、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]を0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4とした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近くなる。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0022】
また、前記距離hを、
1/h2<2×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、前記距離hを1/h2<2×10−4とした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率がより0に近くなる。従って、基材とノズル先端との間隔の変化に起因する基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を、より小さく抑えることができる。
【0024】
本発明の第4の側面によれば、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とを、
1/(1+5R/h)>0.8
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させる。
【0025】
このようにすれば、内部直径R[μm]と、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]とを1/(1+5R/h)>0.8とした状態で液滴を吐出させることにより、つまり、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合を0.8より大きくした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さくなる。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0026】
また、前記距離hを、500[μm]以下とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することが好ましい。
【0027】
このようにすれば、前記距離hを500[μm]以下とした状態で液滴を吐出させることにより、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0028】
本発明においては、ノズル径を100[μm]未満、好ましくは20[μm]以下、より好ましくは10[μm]以下とすることにより、電界強度分布が狭くなる。このことにより、電界を集中させることができる。その結果、形成される液滴を微小で且つ形状の安定化したものとすることができると共に、総印加電圧を低減することができる。また、液滴は、ノズルから吐出された直後、電界と電荷の間に働く静電力により加速されるが、ノズルから離れると電界は急激に低下するので、その後は、空気抵抗により減速する。しかしながら、微小液滴でかつ電界が集中した液滴は、対向電極に近づくにつれ、鏡像力により加速される。この空気抵抗による減速と鏡像力による加速とのバランスをとることにより、微小液滴を安定に飛翔させ、着弾精度を向上させることが可能となる。
また、ノズルの内部直径は、8[μm]以下であることが好ましい。ノズルの内部直径を8[μm]以下とすることにより、さらに電界を集中させることが可能となり、さらなる液滴の微小化と、飛翔時に対向電極の距離の変動が電界強度分布に影響することを低減させることができるので、対向電極の位置精度や基材の特性や厚さの液滴形状への影響や着弾精度への影響を低減することができる。
さらに、ノズルの内部直径を4[μm]以下とすることにより、顕著な電界の集中を図ることができ、最大電界強度を高くすることができ、形状の安定な液滴の超微小化と、液滴の初期吐出速度を大きくすることができる。これにより、飛翔安定性が向上することにより、着弾精度をさらに向上させ、吐出応答性を向上することができる。
また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が望ましい。ノズルの内径を0.2[μm]より大きくすることで、液滴の帯電効率を向上させることができるので、液滴の吐出安定性を向上させることができる。
【0029】
さらに、上記各側面において、
(1)ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に吐出電圧印加用の電極を挿入あるいは当該電極として機能するメッキ形成を行うことが好ましい。
(2)上記各側面の構成又は上記(1)の構成において、ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に電極を挿入或いは電極としてのメッキを形成すると共にノズルの外側にも吐出用の電極を設けることが好ましい。
ノズルの外側の吐出用電極は、例えば、ノズルの先端側端面或いは、ノズルの先端部側の側面の全周若しくは一部に設けられる。
(1)及び(2)により、上記各側面による作用効果に加え、吐出力を向上させることができるので、ノズル径をさらに微細化しても、低電圧で液滴を吐出することができる。(3)上記各側面の構成、上記(1)又は(2)の構成において、基材を導電性材料または絶縁性材料により形成することが好ましい。
(4)上記各側面の構成、上記(1)、(2)又は(3)の構成において、吐出電圧印加手段よる吐出電圧Vを、
【数1】
で表される流域において駆動することが好ましい。
ただし、γ:液体の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
ノズル内の溶液に対して上式(1)の範囲の吐出電圧Vの印加が行われる。上式(1)において、吐出電圧Vの上限の基準となる左側の項は、従来におけるノズル−対向電極間での電界による液体吐出を行う場合での限界最低吐出電圧を示す。本発明は、前述したように、ノズルの超微細化による電界集中の効果により、微小液滴の吐出を、従来技術では実現されなかった従来の限界最低吐出電圧よりも低い範囲に吐出電圧Vを設定しても、実現することができる。
また、上式(1)における吐出電圧Vの下限の基準となる右側の項は、ノズル先端部における溶液による表面張力に抗して液滴の吐出を行うための本発明の限界最低吐出電圧を示す。つまり、この限界最低吐出電圧よりも低い電圧を印加しても液滴の吐出は実行されないが、例えば、この限界最低吐出電圧を境界とするこれより高い値を吐出電圧とし、これより低い値の電圧と吐出電圧とを切り替えることで、吐出動作のオンオフの制御を行うことができる。即ち、電圧の高低の切替のみにより吐出動作のオンオフの制御が可能となる。なお、この場合、吐出のオフ状態に切り替える低電圧値は、限界最低吐出電圧に近いことが望ましい。これにより、オンオフの切替における電圧変化幅を狭小化し、応答性の向上を図ることが可能となるからである。
(5)上記各側面の構成、上記(1)、(2)、(3)又は(4)の構成において、印加する吐出電圧が1000V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御を容易とすると共に装置の耐久性の向上及び安全対策の実行により確実性の向上を容易に図ることが可能となる。
(6)上記各側面の構成、上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の構成において、印加する吐出電圧が500V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御をより容易とすると共に装置の耐久性のさらなる向上及び安全対策の実行により確実性のさらなる向上を容易に図ることが可能となる。
(7)上記各側面の構成、上記(1)〜(6)のいずれかの構成において、ノズルと基材との距離が500[μm]以下とすることが、ノズル径を微細にした場合でも高い着弾精度を得ることができるので好ましい。
(8)上記各側面の構成、上記(1)〜(7)のいずれかの構成において、ノズル内の溶液に圧力を印加するように構成することが好ましい。
(9)上記各側面の構成、上記(1)〜(8)いずれかの構成において、単一パルスによって吐出する場合、
【数2】
により決まる時定数τ以上のパルス幅Δtを印加する構成としても良い。ただし、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)とする。
【発明の効果】
【0030】
第1及び第3の側面によれば、基材とノズル先端との間隔の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0031】
また、第2及び第4の側面によれば、基材とノズル先端との間隔の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図1B】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2A】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2B】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3A】ノズル径をφ1[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3B】ノズル径をφ1[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4A】ノズル径をφ8[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4B】ノズル径をφ8[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5A】ノズル径をφ20[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5B】ノズル径をφ20[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6A】ノズル径をφ50[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6B】ノズル径をφ50[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図7】図1〜図6の各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。
【図8】ノズルのノズル径とメニスカス部における最大電界強度との関係を示す線図である。
【図9】ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す線図である。
【図10A】ノズル径とメニスカス部の強電界の領域の関係で表されるグラフである。
【図10B】図10Aにおけるノズル径が微小な範囲での拡大図を示す。
【図11】第一の実施形態たる液体吐出装置のノズルに沿った断面図である。
【図12A】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出を行わない状態を示す図である。
【図12B】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出状態を示す図である。
【図13A】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、溶液室側に丸みを設けた例を示す図である。
【図13B】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、流路内壁面をテーパ周面とした例を示す図である。
【図13C】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、テーパ周面と直線状の流路とを組み合わせた例を示す図である。
【図14】距離hとEgap/Vとの関係を示す図である。
【図15】距離hとEtotal’/Vとの関係を示す図である。
【図16】距離hとEloc/(Eloc+Egap)との関係を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態として、ノズルの電界強度の計算を説明するために示したものである。
【図18】本発明の一例としての液体吐出装置の側面断面図を示したものである。
【図19】本発明の実施の形態の液体吐出装置における距離−電圧の関係による吐出条件を説明した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下の各実施形態で説明する液体吐出装置のノズル径は、25[μm]以下であることが好ましく、さらに好ましくは20[μm]未満、さらに好ましくは10[μm]以下、さらに好ましくは8[μm]以下、さらに好ましくは4[μm]以下とすることが好ましい。また、ノズル径は、0.2[μm]より大きいことが好ましい。以下、ノズル径と電界強度との関係について、図1〜図6を参照しながら説明する。図1〜図6に対応して、ノズル径をφ0.2,0.4,1,8,20[μm]及び参考として従来にて使用されているノズル径φ50[μm]の場合の電界強度分布を示す。
ここで、各図において、ノズル中心位置とは、ノズル先端の液体吐出孔の液体吐出面の中心位置を示す。また、各々の図のAは、ノズルの先端部と対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示し、Bは、ノズルの先端部と対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。なお、印加電圧は、各条件とも200[V]と一定にした。図中の分布線は、電荷強度が1×106[V/m]から1×107[V/m]までの範囲を示している。
図7に、各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。なお、図7中、「ギャップ」とは、ノズルの先端部と対向電極との距離[μm]のことである。
図1〜図6から、ノズル径がφ20[μm](図5)以上だと電界強度分布は広い面積に広がっていることが分かった。また、図7から、ノズルの先端部と対向電極との距離が電界強度に影響していることも分かった。
これらのことから、ノズル径がφ8[μm](図4)以下であると電界強度は集中すると共に、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。従って、ノズル径がφ8[μm]以下であれば、対向電極の位置精度及び基材の材料特性のバラツキや厚さのバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
次に、上記ノズルのノズル径とノズルの先端位置に液面があるとした時の最大電界強度と強電界領域の関係を図8に示す。図8に示すグラフから、ノズル径がφ4[μm]以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、溶液の初期吐出速度を大きくすることができるので、液滴の飛翔安定性が増すと共に、ノズルの先端部での電荷の移動速度が増すために吐出応答性が向上する。
続いて、吐出した液滴における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴に帯電可能な電荷量は、液滴のレイリー分裂(レイリー限界)を考慮した以下の(3)式で示される。
【数3】
ここで、qはレイリー限界を与える電荷量(C)、ε0は真空の誘電率(F/m)、γは溶液の表面張力(N/m)、d0は液滴の直径(m)である。
上記(3)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近いほど、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズルの液体吐出孔で溶液の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
ここで、ノズルのノズル径とノズルの先端部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示すグラフを図9に示す。
図9に示すグラフから、ノズル径がφ0.2[μm]からφ4[μm]の範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、低い吐出電圧でも比較的大きな帯電量を液滴に与えることができ、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
例えば、図10A及び図10Bに示すノズル径とノズルの先端部の強電界(1×106[V/m]以上)の領域をノズルの中心位置からの距離で示したものの値との関係で表されるグラフでは、ノズル径がφ0.2[μm]以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことは、吐出する液滴は、加速するためのエネルギーを十分に受けることができず飛翔安定性が低下することを示す。よって、ノズル径はφ0.2[μm]より大きく設定することが好ましい。
なお、上記図7においては、ノズルの先端部と対向電極とのギャップを2000μm及び100μmであるとして説明したが、着弾精度を考慮すると、ノズルの先端部と基材との距離は500μm以下であることが好ましい。そのため、以下の液体吐出装置の構成を決定するにあたっては、ノズルの先端部と基材との距離を500μm以下とした場合は勿論、100μm以下とした場合についても検討を行っている。
【0034】
[第1の実施形態]
(液体吐出装置の全体構成)
以下、本発明の第1の実施形態である液体吐出装置20について図11及び図12に基づいて説明する。図11は後述するノズル21に沿った液体吐出装置20の断面図であり、図12は溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、図12Aは吐出を行わない状態であり、図12Bは吐出状態を示す。
この液体吐出装置20は、帯電可能な溶液の液滴をその先端部から吐出する超微細径のノズル21と、ノズル21の先端部に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴の着弾を受ける基材Kを支持する対向電極23と、ノズル21内の流路22に溶液を供給する溶液供給手段29と、ノズル21内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段25と、吐出電圧印加手段25による吐出電圧の印加を制御する動作制御手段50とを備えている。なお、上記ノズル21と溶液供給手段29の一部の構成と吐出電圧印加手段25の一部の構成は液体吐出ヘッド26として一体的に形成されている。
なお、図11では、説明の便宜上、ノズル21の先端部が上方を向き、ノズル21の上方に対向電極23が配設されている状態で図示されているが、実際上は、ノズル21が水平方向か或いはそれよりも下方、より望ましくは垂直下方に向けた状態で使用される。
【0035】
(溶液)
上記液体吐出装置20による吐出を行う溶液の例としては、無機液体としては、水、COCl2、HBr、HNO3、H3PO4、H2SO4、SOCl2、SO2Cl2、FSO3Hなどが挙げられる。有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、などのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して溶液として用いても良い。
【0036】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを溶液として使用し、吐出を行う場合には、上述した液体に溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO3:Eu、YO3:Euなど、緑色蛍光体として、Zn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al2O3:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl14O23:Eu、BaMgAl10O17:Euなどが挙げられる。上記の目的物質を記録媒体上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースおよびその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂およびその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミン等のアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドンおよびその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイド等のアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白等の天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いても良い。
【0037】
液体吐出装置20をパターンニング方法に使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などが挙げることができる。ここでいうリブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0038】
(ノズル)
上記ノズル21は、後述するノズルプレート26cと一体的に形成されており、当該ノズルプレート26cの平板面上から垂直に立設されている。また、液滴の吐出時においては、ノズル21は、基材Kの受け面(液滴が着弾する面)に対して垂直に向けて使用される。さらに、ノズル21にはその先端部からノズルの中心に沿って貫通するノズル内流路22が形成されている。
【0039】
ノズル21についてさらに詳説する。ノズル21は、その先端部における開口径とノズル内流路22とが均一であって、前述の通り、これらが超微細径で形成されている。具体的な各部の寸法の一例を挙げると、ノズル内流路22の内部直径は、25[μm]以下、さらに20[μm]未満、さらに10[μm]以下、さらに8[μm]以下、さらに4[μm]以下が好ましく、本実施形態ではノズル内流路22の内部直径が1[μm]に設定されている。そして、ノズル21の先端部における外部直径は2[μm]、ノズル21の根元の直径は5[μm]、ノズル21の高さは100[μm]に設定されており、その形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が好ましい。なお、ノズル21の高さは、0[μm]でも構わない。
【0040】
なお、ノズル内流路22の形状は、図11に示すような、内径一定の直線状に形成しなくとも良い。例えば、図13Aに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における断面形状が丸みを帯びて形成されていても良い。また、図13Bに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における内径が吐出側端部における内径と比して大きく設定され、ノズル内流路22の内面がテーパ周面形状に形成されていても良い。さらに、図13Cに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部のみがテーパ周面形状に形成されると共に当該テーパ周面よりも吐出端部側は内径一定の直線状に形成されていても良い。
【0041】
(溶液供給手段)
溶液供給手段29は、液体吐出ヘッド26の内部であってノズル21の根元となる位置に設けられると共にノズル内流路22に連通する溶液室24と、図示しない外部の溶液タンクから溶液室24に溶液を導く供給路27と、溶液室24への溶液の供給圧力を付与する図示しない供給ポンプとを備えている。
上記供給ポンプは、ノズル21の先端部まで溶液を供給し、当該先端部からこぼれ出さない範囲の供給圧力を維持して溶液の供給を行う。
供給ポンプとは、液体吐出ヘッドと供給タンクの配置位置による差圧を利用する場合も含み、別途、溶液供給手段を設けなくとも溶液供給路のみで構成しても良い。ポンプシステムの設計にもよるが、基本的にはスタート時に液体吐出ヘッドに溶液を供給するときに稼動し、液体吐出ヘッドから液体を吐出し、それに応じた溶液の供給は、キャピラリ及び凸状メニスカス形成手段による液体吐出ヘッド内の容積変化及び供給ポンプの各圧力の最適化を図って溶液の供給が実施される。
【0042】
(吐出電圧印加手段)
吐出電圧印加手段25は、液体吐出ヘッド26の内部であって溶液室24とノズル内流路22との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極28と、この吐出電極28に常時,直流のバイアス電圧を印加する直流電源30と、吐出電極28にバイアス電圧に重畳して吐出に要する電位とするパルス電圧を印加する吐出電圧電源31とを備えている。
【0043】
上記吐出電極28は、溶液室24内部において溶液に直接接触し、溶液を帯電させると共に吐出電圧を印加する。
直流電源30によるバイアス電圧は、図12Aに示すように、溶液の吐出が行われない範囲で常時電圧印加を行うことにより、吐出時に印加すべき電圧の幅を予め低減し、これによる吐出時の反応性の向上を図っている。
吐出電圧電源31は、図12Bに示すように、溶液の吐出を行う際にのみパルス電圧をバイアス電圧に重畳させて印加する。このときの重畳電圧Vは次式の条件を満たすようにパルス電圧の値が設定されている。
【数4】
ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
なお、上記条件は理論値であり、実際上は、凸状メニスカスの形成時と非形成時における試験を行い、適宜な電圧値を求めても良い。
本実施形態では、一例として吐出電圧を400[V]とする。
【0044】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド26は、図11において最も下層に位置し、可撓性を有する素材(例えば金属,シリコン、樹脂等)からなる可撓ベース層26aと、この可撓ベース層26aの上面全体に形成される絶縁素材からなる絶縁層26dと、その上に位置する溶液の供給路を形成する流路層26bと、この流路層26bのさらに上に形成されるノズルプレート26cとを備え、流路層26bとノズルプレート26cとの間には前述した吐出電極28が介挿されている。
【0045】
上記可撓ベース層26aは、上述の如く、可撓性を有する素材であれば良く、例えば金属薄板を使用しても良い。このように、可撓性が要求されるのは、可撓ベース層26aの外面であって溶液室24に対応する位置に、後述する凸状メニスカス形成手段40のピエゾ素子41を設け、可撓ベース層26aを撓ませるためである。即ち、ピエゾ素子41に所定電圧を印加して、可撓ベース層26aを上記位置において内側又は外側のいずれにも窪ませることで溶液室24の内部容積を縮小又は増加させ、内圧変化によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスを形成し又は液面を内側に引き込むことを可能とするためである。
【0046】
可撓ベース層26aの上面には絶縁性の高い樹脂を膜状に形成し、絶縁層26dが形成される。かかる、絶縁層26dは、可撓ベース層26aが窪むことを妨げないように十分に薄く形成されるか、より変形が容易な樹脂素材が使用される。
そして、絶縁層26dの上には、溶解可能な樹脂層を形成すると共に供給路27及び溶液室24を形成するための所定のパターンに従う部分のみを残して除去し、当該残存部を除いて除去された部分に絶縁樹脂層を形成する。この絶縁樹脂層が流路層26bとなる。そして、この絶縁樹脂層の上面に面状に広がりをもって導電素材(例えばNiP)のメッキにより吐出電極28を形成し、さらにその上から絶縁性のレジスト樹脂層或いはパリレン層を形成する。このレジスト樹脂層がノズルプレート26cとなるので、この樹脂層はノズル21の高さを考慮した厚みで形成される。そして、この絶縁性のレジスト樹脂層を電子ビーム法やフェムト秒レーザにより露光し、ノズル形状を形成する。ノズル内流路22もレーザ加工により形成される。そして、供給路27及び溶液室24のパターンに従う溶解可能な樹脂層を除去し、これら供給路27及び溶液室24が開通して液体吐出ヘッド26が完成する。
【0047】
なお、ノズルプレート26c及びノズル21の素材は、具体的には、エポキシ、PMMA、フェノール、ソーダガラス、石英ガラス等の絶縁材の他、Siのような半導体、Ni、SUS等のような導体であっても良い。但し、導体によりノズルプレート26c及びノズル21を形成した場合には、少なくともノズル21の先端部における先端部端面、より望ましくは先端部における周面については、絶縁材による被膜を設けることが望ましい。ノズル21を絶縁材から形成し又はその先端部表面に絶縁材被膜を形成することにより、溶液に対する吐出電圧印加時において、ノズル先端部から対向電極23への電流のリークを効果的に抑制することが可能となるからである。
【0048】
(対向電極)
対向電極23は、ノズル21の突出方向に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル21の先端部から基材Kまでの距離h[μm]は、500[μm]以下となっており、更に1/h2<4×10−4、好ましくは1/h2<2×10−4に設定されている。
また、この対向電極23は接地されているため、常時,接地電位を維持している。従って、ノズル21の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
なお、液体吐出装置20は、ノズル21の超微細化による当該ノズル21の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル21と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。また、帯電した液滴の電荷を対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0049】
ここで、基材Kとノズル21との周辺に作用する電界の強度Etotalは、ノズルに集中して生じる集中電界強度Elocと、ノズルと基材との間に生じる非集中電界強度Egapとから、例えば以下の式のように表される。
Etotal=Eloc+Egap
このうち、集中電界強度Elocは、ノズル径R[μm]と、ノズルに印加される電圧V[v]とによって以下の式のように表される。
Eloc=V/kR(但し、kは定数)
また、非集中電界強度Egapは、ノズルから基材までの距離h[μm]と、ノズルに印加される電圧Vとによって、以下の式のように表される。なお、図14にEgap/Vと距離hとの関係を示す。
Egap=V/h
これらの式から、距離hが変化する場合に、距離hの変化に対する電界強度Etotalの変化率(微分係数)は、図15に示すように、Etotal’=−V/h2となる。なお、距離hが変化する原因としては、基材Kの表面のうねりや、液体吐出ヘッド26におけるノズル21の位置精度の劣化、基材Kを固定する対向電極23の位置精度の劣化などがある。
【0050】
(動作制御手段)
動作制御手段50は、実際的にはCPU,ROM,RAM等を含む演算装置を有する構成であり、これらに所定のプログラムが入力されることにより、下記に示す機能的な構成を実現すると共に後述する動作制御を実行する。
上記動作制御手段50は、直流電源30によるバイアス電圧の印加を連続的に行わせると共に、外部からの吐出指令の入力を受けると吐出電圧電源31にパルス電圧の印加を行わせることによってノズル21の先端部から液滴を吐出させる。
【0051】
(液体吐出装置による微小液滴の吐出動作)
図11及び図12により液体吐出装置20の動作説明を行う。
溶液供給手段の供給ポンプによりノズル内流路22には溶液が供給された状態にあり、かかる状態で定常的に直流電源30から吐出電極28にバイアス電圧が印加されている(図12A)。かかる状態で、溶液は帯電すると共に、ノズル21の先端部において溶液による凹状に窪んだメニスカスが形成される(図12A)。
そして、外部から動作制御手段50に吐出指令信号が入力されると、吐出電圧電源31からパルス電圧が吐出電極28に印加される。ノズル21の先端部では集中された電界の電界強度による静電力により溶液がノズル21の先端側に誘導され、外部に突出した凸状メニスカスが形成されると共に、かかる凸状メニスカスの頂点により電界が集中し、ついには溶液の表面張力に抗して微小液滴が対向電極側に吐出される(図12B)。このとき、基材Kの表面のうねりなどに起因してノズル21から基材Kまでの距離h[μm]が変化しても、この距離h[μm]は0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4、好ましくは1/h2<2×10−4を満たすので、上記図15に示すように、距離hの変化に対する上記電界強度Etotalの変化率は0に近くなっている。
【0052】
以上のような液体吐出装置20によれば、基材Kからノズル21の先端部までの距離hの変化に関わらず、基材K及びノズル21の周辺における電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズル21の先端部に高電圧を印加することができる。
また、前記距離hが500[μm]以下であるので、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0053】
また、吐出の有無にかかわらず、溶液に対しては直流電源30により常に一定の電圧を印加することとなるので、溶液に対する印加電圧を変化させて吐出を行う場合と比較して、吐出の際の応答性の向上及び液量の安定化を図ることが可能となる。
【0054】
さらに、上記液体吐出装置20は、従来にない微細径のノズル21により液滴の吐出を行うので、ノズル内流路22内で帯電した状態の溶液により電界が集中され、電界強度が高められる。このため、従来のように電界の集中化が行われない構造のノズル(例えば内径100[μm])では吐出に要する電圧が高くなり過ぎて事実上吐出不可能とされていた微細径でのノズルによる溶液の吐出を従来よりも低電圧で行うことを可能としている。
そして、微細径であるがために、ノズルコンダクタンスの低さによりノズル内流路22における溶液の流動が制限されることから、その単位時間あたりの吐出流量を低減する制御を容易に行うことができると共に、パルス幅を狭めることなく十分に小さな液滴径(上記各条件によれば0.8[μm])による溶液の吐出を実現している。
さらに、吐出される液滴は帯電されているので、微小の液滴であっても蒸気圧が低減され、蒸発を抑制することから液滴の質量の損失を低減し、飛翔の安定化を図り、液滴の着弾精度の低下を防止する。
【0055】
なお、ノズル21にエレクトロウェッティング効果を得るために、ノズル21の外周に電極を設けるか、また或いは、ノズル内流路22の内面に電極を設け、その上から絶縁膜で被覆しても良い。そして、この電極に電圧を印加することで、吐出電極28により電圧が印加されている溶液に対して、エレクトロウェッティング効果によりノズル内流路22の内面のぬれ性を高めることができ、ノズル内流路22への溶液の供給を円滑に行うことができ、良好に吐出を行うと共に、吐出の応答性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、吐出電圧印加手段25ではバイアス電圧を常時印加すると共にパルス電圧をトリガーとして液滴の吐出を行っているが、吐出に要する振幅で常時交流又は連続する矩形波を印加すると共にその周波数の高低を切り替えることで吐出を行う構成としても良い。液滴の吐出を行うためには溶液の帯電が必須であり、溶液の帯電する速度を上回る周波数で吐出電圧を印加していても吐出が行われず、溶液の帯電が十分に図れる周波数に替えると吐出が行われる。従って、吐出を行わないときには吐出可能な周波数より大きな周波数で吐出電圧を印加し、吐出を行う場合にのみ吐出可能な周波数帯域まで周波数を低減させる制御を行うことで、溶液の吐出を制御することが可能となる。かかる場合、溶液に印加される電位自体に変化はないので、より時間応答性を向上させると共に、これにより液滴の着弾精度を向上させることが可能となる。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態である液体吐出装置20Aについて図11に基づいて説明する。なお、本実施形態の説明において、第1の実施形態の液体吐出装置20と同一の構成については同符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0058】
本第2の実施の形態における液体吐出装置20Aは、ノズル21の先端部の内部直径R[μm]と、ノズル21の先端部から基材Kまでの距離hとが1/(1+5R/h)>0.8を満たすようになっている。
ここで、距離hの微小変化に対する電界強度Etotal(=Eloc+Egap)の変化率は、図16に示すように、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が大きい程、小さくなる。但し、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合とは、
Eloc/Eloc+Egap(V/kR)/{(V/kR)+(V/h)}
=1/{1+(kR/h)}
(但し、k:定数)
で表されるものである。
【0059】
以上のような液体吐出装置20によれば、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が0.8より大きいので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さい。従って、基材Kからノズル21の先端部までの距離hの変化に関わらず、基材K及びノズル21の周辺における電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズル21の先端部に高電圧を印加することができる。
【0060】
[液体吐出装置の理論説明]
以下に、本発明による液体吐出の理論説明及びこれに基づく基本例の説明を行う。なお、以下に説明する理論及び基本例におけるノズルの構造、各部の素材及び吐出液体の特性、ノズル周囲に付加する構成、吐出動作に関する制御条件等全ての内容は、可能な限り上述した各実施形態中に適用しても良いことはいうまでもない。
【0061】
(印加電圧低下および微少液滴量の安定吐出実現の方策)
従前は以下の条件式により定まる範囲を超えて液滴の吐出は不可能と考えられていた。
【数5】
λCは静電吸引力によりノズル先端部からの液滴の吐出を可能とするための溶液液面における成長波長(m)であり、λC=2πγh2/ε0V2で求められる。
【数6】
【数7】
本発明では、静電吸引型インクジェット方式において果たすノズルの役割を再考察し、従来吐出不可能として試みられていなかった領域において、マクスウェル力などを利用することで、微小液滴を形成することができる。
このような駆動電圧低下および微少量吐出実現の方策のための吐出条件等を近似的に表す式を導出したので以下に述べる。
以下の説明は、上記各本発明の実施形態で説明した液体吐出装置に適用可能である。
いま、内径dのノズルに導電性溶液を注入し、基材としての無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図17に示す。このとき、ノズル先端部に誘起される電荷は、ノズル先端の半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【数8】
ここで、Q:ノズル先端部に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、ε:基材の誘電率(F/m)、h:ノズル−基材間距離(m)、d:ノズル内部の直径(m)、V:ノズルに印加する総電圧(V)である。α:ノズル形状などに依存する比例定数で、1〜1.5程度の値を取り、特にd<<hのときほぼ1程度となる。
【0062】
また、基材としての基板が導体基板の場合、電荷Qによる電位を打ち消すための逆電荷が表面付近に誘起され、それらの電荷分布により、基板内の対称位置に反対の符号を持つ鏡像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。また、基板が絶縁体の場合は、基板表面で分極により逆電荷が表面側に誘起され、誘電率によって定まる対称位置に同様に反対符号の映像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。
ところで、ノズル先端部に於ける凸状メニスカスの先端部の集中電界強度Eloc[V/m]は、凸状メニスカス先端部の曲率半径をR[m]と仮定すると、
【数9】
で与えられる。ここでk:比例定数で、ノズル形状などにより異なるが、1.5〜8.5程度の値をとり、多くの場合5程度と考えられる。(P.J.Birdseye and D.A.Smith,Surface Science,23(1970)198−210)。
今簡単のため、d/2=Rとする。これは、ノズル先端部に表面張力で導電性溶液がノズルの半径と同じ半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
ノズル先端の液体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力は、ノズル先端部の液面積をS[m2]とすると、
【数10】
(7)、(8)、(9)式よりα=1とおいて、
【数11】
と表される。
【0063】
一方、ノズル先端部に於ける液体の表面張力をPsとすると、
【数12】
ここで、γ:表面張力(N/m)、である。静電的な力により流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回る条件なので、
【数13】
となる。十分に小さいノズル直径dをもちいることで、静電的な圧力が、表面張力を上回らせる事が可能である。この関係式より、Vとdの関係を求めると、
【数14】
が吐出の最低電圧を与える。すなわち、式(6)および式(13)より、
【数15】
が、本発明の動作電圧となる。
【0064】
ある内径dのノズルに対し、吐出限界電圧Vcの依存性を前述した図9に示す。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出開始電圧は、ノズル径の減少に伴い低下する事が明らかになった。
従来の電界に対する考え方、すなわちノズルに印加する電圧と対向電極間の距離によって定義される電界のみを考慮した場合では、微細ノズルになるに従い、吐出に必要な電圧は増加する。一方、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出電圧の低下が可能となる。
【0065】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における液体(溶液)の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【数16】
ここで、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)である。溶液の比誘電率を10、導電率を10−6S/mを仮定すると、τ=1.854×10−5secとなる。あるいは、臨界周波数をfc[Hz]とすると、
【数17】
となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10kHz程度となる。このとき、ノズル半径2μm、電圧500V弱の場合、ノズル内流量Gは10−13m3/sと見積もることができるが、上記の例の液体の場合、10kHzでの吐出が可能なので、1周期での最小吐出量は10fl(フェムトリットル、1fl:10−15l)程度を達成できる。
【0066】
なお、各上記本実施の形態においては、図17に示したようにノズル先端部に於ける電界の集中効果と、対向基板に誘起される鏡像力の作用を特徴とする。このため、先行技術のように基板または基板支持体を導電性にすることや、これら基板または基板支持体への電圧の印加は必ずしも必要はない。すなわち、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることが可能である。
また、上記各実施形態において電極への印加電圧はプラス、マイナスのどちらでも良い。
さらに、ノズルと基材との距離は、500[μm]以下に保つことにより、溶液の吐出を容易にすることができる。また、図示しないが、ノズル位置検出によるフィードバック制御を行い、ノズルを基材に対し一定に保つようにすることが望ましい。
また、基材を、導電性または絶縁性の基材ホルダーに裁置して保持するようにしても良い。
【0067】
図18は、本発明の他の基本例の一例としての液体吐出装置のノズル部分の側面断面図を示したものである。ノズル21の側面部には電極15が設けられており、ノズル内溶液3との間に制御された電圧が印加される。この電極15の目的は、Electrowetting効果を制御するための電極である。十分な電場がノズルを構成する絶縁体にかかる場合この電極がなくともElectrowetting効果は起こると期待される。しかし、本基本例では、より積極的にこの電極を用いて制御することで、吐出制御の役割も果たすようにしたものである。ノズル21を絶縁体で構成し、先端部におけるノズルの管厚が1μm、ノズル内径が2μm、印加電圧が300Vの場合、約30気圧のElectrowetting効果になる。この圧力は、吐出のためには、不十分であるが溶液のノズル先端部への供給の点からは意味があり、この制御電極により吐出の制御が可能と考えられる。
【0068】
前述した図9は、本発明における吐出開始電圧のノズル径依存性を示したものである。液体吐出装置として、図11に示すものを用いた。微細ノズルになるに従い吐出開始電圧が低下し、従来より低電圧で吐出可能なことが明らかになった。
【0069】
上記各実施形態において、液体吐出の条件は、ノズル−基材間距離(h)、印加電圧の振幅(V)、印加電圧振動数(f)のそれぞれの関数になり、それぞれにある一定の条件を満たすことが吐出条件として必要になる。逆にどれか一つの条件を満たさない場合他のパラメーターを変更する必要がある。
【0070】
この様子を図19を用いて説明する。
まず吐出のためには、それ以上の電界でないと吐出しないというある一定の臨界電界Ecが存在する。この臨界電界は、ノズル径、溶液の表面張力、粘性などによって変わってくる値で、Ec以下での吐出は困難である。臨界電界Ec以上すなわち吐出可能電界強度において、ノズル−基材間距離(h)と印加電圧の振幅(V)の間には、おおむね比例の関係が生じ、ノズル−基材間距離を縮めた場合、臨界印加電圧Vを小さくする事が出来る。
逆に、ノズル−基材間距離hを極端に離し、印加電圧Vを大きくした場合、仮に同じ電界強度を保ったとしても、コロナ放電による作用などによって、流体液滴の破裂すなわちバーストが生じてしまう。
【実施例1】
【0071】
<第1の実施の形態の実施例>
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例においては、上記第1の実施の形態の液体吐出装置20として、以下の表1に示すように、ノズル21の先端部から基材Kまでの距離hが150,85,55[μm]であるもの、つまり1/h2の値が4.4×10−5、1.4×10−4、3.3×10−4のものを形成した(実施例1〜3参照)。また、対照として、前記距離hが30[μm]であるもの、つまり1/h2の値が1.1×10−3のものを形成した(比較例1参照)。なお、これら実施例1〜3及び比較例1における距離hの値を計測したところ、液体吐出装置の機械的精度と、基板Kの表面のうねり等とによって±5[μm]の誤差が生じていた。
また、これら実施例1〜3及び比較例1において、溶液には「銀ナノペースト」(商品名:ハリマ化成株式会社製)を用いた。また、ノズル21として、先端部の内部直径が1[μm]であるガラス製のノズルを用いた。また、吐出電圧電源31による矩形パルス電圧は350[V]とした。更に、基材Kとして、ガラス板を用いた。
【0072】
【表1】
【0073】
これら実施例1〜3及び比較例1の液体吐出装置によって溶液を1000滴吐出し、基材Kの表面に着弾したドットの径、つまり着弾径を計測した。これら着弾径のバラツキの変動率(=標準偏差/平均値)を求めたところ、上記表1のようになった。なお、着弾径の計測は、ドットの画像を画像処理した後、画像中のドットの外径を計測することにより行った。ドット画像の撮影には、キーエンス社製のレーザー顕微鏡を用いた。
【0074】
表1から分かるように、1/h2の値が4×10−4以下である実施例1〜3では、着弾径の変動率が5%より小さく、良好な結果が得られた。更に、1/h2の値が2×10−4以下である実施例1,2では、着弾径の変動率が2%以下であり、より良好な結果が得られた。一方、1/h2の値が4×10−4より大きい比較例1では、着弾径の変動率が10%であり、良好ではない結果となった。
以上から、1/h2の値を4×10−4以下、好ましくは2×10−4以下とすることにより、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、その結果、ドットの形状をより均一化できることがわかる。
【実施例2】
【0075】
<第2の実施の形態の実施例>
本実施例においては、上記第2の実施の形態の液体吐出装置20として、以下の表2に示すように、前記距離h[μm]とノズルの直径R[μm]との組合せ(h,R)が(230,2.5)、(130,2.5)、(80,2.5)、(230,6)、(130,6)、(240,9)であるもの、つまり1/(1+5R/h)の値が0.95,0.91,0.86,0.88,0.81,0.84であるものを形成した(実施例4〜9参照)。また、対照として、前記距離hとノズルの直径Rとの組合せ(h,R)が(30,2.5)、(80,6)、(30,6)、(140,9)、(80,9)、(30,9)であるもの、つまり1/(1+5R/h)の値が0.71,0.73,0.50,0.76,0.64,0.40であるものを形成した(比較例2〜7参照)。なお、これら実施例4〜9及び比較例2〜7における距離hの値を計測したところ、液体吐出装置の機械的精度と、基板Kの表面のうねり等とによって±5[μm]の誤差が生じていた。
また、これら実施例4〜9及び比較例2〜7において、溶液には「銀ナノペースト」(商品名:ハリマ化成株式会社製)を用いた。また、ノズル21として、ガラス製のノズルを用いた。また、吐出電圧電源31による矩形パルス電圧は350[V]とした。更に、基材Kとして、ガラス板を用いた。
【0076】
【表2】
【0077】
これら実施例4〜9及び比較例2〜7の液体吐出装置によって溶液を1000滴吐出し、基材Kの表面における着弾径を計測した。これら着弾径のバラツキの変動率(=標準偏差/平均値)を求めたところ、上記表2のようになった。
【0078】
表2から分かるように、1/(1+5R/h)の値が0.8より大きい実施例4〜9では、着弾径の変動率が5%より小さく、良好な結果が得られた。一方、1/(1+5R/h)の値が0.8以下である比較例2〜7では、着弾径の変動率が5%以上であり、良好ではない結果となった。
以上から、1/(1+5R/h)の値を0.8より大きくすることにより、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、その結果、ドットの形状を均一化できることがわかる。
【0079】
また、表2からは、ノズルの先端部の内部直径が小さいほど、距離hの変化に起因する着弾径の変動率が小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明に係る液体吐出装置及び液体吐出方法は、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制するのに有用であり、特に、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加するのに適している。
【符号の説明】
【0081】
20 液体吐出装置
21 ノズル
25 吐出電圧印加手段
26 液体吐出ヘッド
K 基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に液滴を吐出する液体吐出装置及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に液滴を吐出するインクジェット記録方式としては、圧電素子の振動によりインク流路を変形させることによりインク液滴を吐出させるピエゾ方式、インク流路内に発熱体を設け、その発熱体を発熱させて気泡を発生させ、気泡によるインク流路内の圧力変化に応じてインク液滴を吐出させるサーマル方式、インク流路内のインクを帯電させてインクの静電吸引力によりインク液滴を吐出させる静電吸引方式が知られている。
【0003】
従来の静電吸引方式のインクジェットプリンタとして、特許文献1,2に記載のものが挙げられる。かかるインクジェットプリンタは、その先端部からインクの吐出を行う複数の凸状インクガイドと、各インクガイドの先端に対向して配設されると共に接地された対向電極と、インクガイドごとにインクに吐出電圧を印加する吐出電極とを備えている。そして、凸状インクガイドは、インクを案内するスリット幅が異なる二種類のものを用意し、これらのものを使い分けることで、二種類の大きさの液滴を吐出可能とすることを特徴とする。
そして、この従来のインクジェットプリンタは、吐出電極にパルス電圧を印加することでインク液滴を吐出し、吐出電極と対向電極間で形成された電界によりインク液滴を対向電極側に導いている。
【特許文献1】特開平8−238774号公報
【特許文献2】特開2000−127410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例には、以下の問題があった。
(1)微小液滴形成の安定性
ノズル径が大きいため、ノズルから吐出される液滴の形状が安定しない。
(2)高印加電圧
微小液滴の吐出のためには、ノズルの吐出口の微細化を図ることが重要因子となってくるが、従来の静電吸引方式の原理では、ノズル径が大きいことにより、ノズル先端部の電界強度が弱く、液滴を吐出するのに必要な電界強度を得るために、高い吐出電圧(例えば2000[V]に近い非常に高い電圧)を印加する必要があった。従って、高い電圧を印加するために、電圧の駆動制御が高価になり、さらに、安全性の面からも問題があった。
(3)吐出応答性
上記の特許文献1,2に開示されたインクジェット装置では、上記(2)と同様の理由により高い吐出電圧の印加により吐出を行うため、メニスカス部の中心に電荷が移動するための電荷の移動時間が吐出応答性に影響し、印字速度の向上において問題となっていた。また、インクに対するパルス電圧を印加することのみによりインク吐出を行うために、そのパルス電圧を印加する電極に高電圧を印加する必要があり、上述した(2)、(3)の問題を助長する傾向にある、という不都合があった。
(4)吐出量の安定性
上記の特許文献1,2に開示された従来のドロップオンデマンド型静電吸引型インクジェット方式では、吐出の制御は印加電圧のON/OFFによって行われる方式、あるいは、ある程度の直流バイアス電圧を印加しておき、それに信号電圧を重ねることによって行われる振幅変調方式が用いられている。しかしながら、吐出休止後、再度吐出開始する際の時間応答性が悪く、また吐出量も不安定になる問題があった。
【0005】
また、上記(1)〜(4)の問題点は、基材及びノズル周辺の電界強度がノズルの先端部から基材までの距離の変化によって影響を受けることによっても生じていた。なお、ノズルの先端部から基材までの距離は、フィードバック制御により或る程度の精度で一定の値に保つことが可能である。しかし、基材表面のうねりや、複数のノズルを配した場合のノズル位置の精度、基材を固定するステージの精度、ノズルを固定するステージの精度などを組み合わせて総合的に高い精度で前記距離を一定の値に保つことは困難である。このため、工業的には、ノズルから基材までの距離の精度が悪くても、上記(1)〜(4)の問題点を改善することが望まれている。
【0006】
本発明の課題は、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができる液体吐出装置及び液体吐出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によれば、本発明の帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、
1/h2<4×10−4
を満たす。
【0008】
以下、ノズル径という場合には、液滴を吐出する先端部におけるノズルの内部直径(ノズルの先端部の内部直径)を示すものとする。なお、ノズル内の液体吐出穴の断面形状は円形に限定されるものではない。例えば、液体吐出穴の断面形状が多角形、星形その他の形状である場合にはその断面形状の外接円が25[μm]以下となることを示すものとする。
以下、ノズル径或いはノズルの先端部の内部直径という場合において、他の数値限定を行っている場合にも同様とする。また、ノズル半径という場合には、このノズル径(ノズルの先端部の内部直径)の1/2の長さを示すものとする。
【0009】
本発明において、「基材」とは吐出された溶液の液滴の着弾を受ける対象物をいい材質的には特に限定されない。従って、例えば、上記構成をインクジェットプリンタに適応した場合には、用紙やシート等の記録媒体が基材に相当し、導電性ペーストを用いて回路の形成を行う場合には、回路が形成されるべきベースが基材に相当することとなる。
【0010】
上記構成にあっては、ノズルの先端部に液滴の受け面が対向するように、ノズル又は基材が配置される。これら相互の位置関係を実現するための配置作業は、ノズルの移動又は基材の移動のいずれにより行っても良い。
また、ノズル内の溶液は吐出を行うために帯電した状態にあることが要求される。そのため、溶液の帯電に必要な電圧印加を行う帯電専用の電極を設けても良い。
そして、ノズル内において溶液が帯電することにより電界が集中し、溶液はノズル先端部側への静電力を受け、ノズル先端部において溶液が盛り上がった状態(凸状メニスカス)が形成される。このとき、ノズルは絶縁破壊強度10[kV/mm]以上の材料で形成されているので、当該先端部からの放電が効果的に抑制され、溶液の電荷のチャージが効果的に行われる。そして、溶液の静電力が凸状メニスカスにおける表面張力を上回ることにより、凸状メニスカスの突出先端部から溶液の液滴が基材の受け面に対して飛翔し、基材の受け面上には溶液のドットが形成される。
【0011】
このように溶液の静電力は、吐出量や臨界電圧を変化させるものであり、基材及びノズルの周辺に作用する電界の強度Etotal[V/m]によって影響を受ける。この電界強度Etotalは、ノズルに集中して生じる集中電界強度Eloc[V/m]と、ノズルと基材との間に生じる非集中電界強度Egap[V/m]とから、例えば以下の式のように表される。
Etotal=Eloc+Egap
また、集中電界強度Elocは、ノズル径R[μm]と、ノズルに印加される電圧V[v]とによって以下の式のように表される。
Eloc=V/kR(但し、kは定数)
また、非集中電界強度Egapは、ノズルから基材までの距離h[μm]と、ノズルに印加される電圧Vとによって以下の式のように表される。
Egap=V/h
以上の式から、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率(微分係数)は、
Etotal’=−V/h2
となる。これにより、1/h2の値が小さい程、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近づくことが分かる。
【0012】
このようにすれば、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]が0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4を満たすので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近い。従って、ノズルの先端部から基材までの距離hの変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0013】
なお、上記構成にあっては、ノズルから基材までの距離hが上記の式を満たすことの他に、ノズルを従来にない超微細径とすることでノズル先端部に電界を集中させて電界強度を高めることに特徴がある。ノズルの小径化に関しては後の記載により詳述する。かかる場合、ノズルの先端部に対向する対向電極がなくとも液滴の吐出を行うことが可能である。例えば、対向電極が存在しない状態で、ノズル先端部に対向させて基材を配置した場合、当該基材が導体である場合には、基材の受け面を基準としてノズル先端部の面対称となる位置に逆極性の鏡像電荷が誘導され、基材が絶縁体である場合には、基材の受け面を基準として基材の誘電率により定まる対称位置に逆極性の映像電荷が誘導される。そして、ノズル先端部に誘起される電荷と鏡像電荷又は映像電荷間での静電力により液滴の飛翔が行われる。
但し、本発明の構成は、対向電極を不要とすることを可能とするが、対向電極を併用しても構わない。対向電極を併用する場合には、当該対向電極の対向面に沿わせた状態で基材を配置すると共に対向電極の対向面がノズルからの液体吐出方向に垂直に配置されることが望ましく、これによりノズル−対向電極間での電界による静電力を飛翔電極の誘導のために併用することも可能となるし、対向電極を接地すれば、帯電した液滴の電荷を空気中への放電に加え、対向電極を介して逃がすことができ、電荷の蓄積を低減する効果も得られるので、むしろ併用することが望ましい構成といえる。
【0014】
また、前記距離hは、
1/h2<2×10−4
を満たすこと好ましい。
【0015】
このようにすれば、前記距離hが1/h2<2×10−4を満たすので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率がより0に近い。従って、基材とノズル先端との間隔の変化に起因する基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を、より小さく抑えることができる。
【0016】
本発明の第2の側面によれば、本発明の帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とは、
1/(1+5R/h)>0.8
を満たす。
【0017】
ここで、距離hの微小変化に対する電界強度Etotal(=Eloc+Egap)の変化率は、電界強度Etotalに対する非集中電界強度Egapの割合が小さい程、つまり電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が大きい程、小さくなる。そして、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合とは、
Eloc/Eloc+Egap={(V/kR)/(V/kR)+(V/h)}
=1/{1+(kR/h)}
で表されるものである。
【0018】
このようにすれば、内部直径R[μm]と、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]とが1/(1+5R/h)>0.8を満たすので、つまり、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が0.8より大きいので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さい。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加することができる。
【0019】
また、前記距離hは500[μm]以下であることが好ましい。
このようにすれば、前記距離hが500[μm]以下であるので、吐出電圧を低くすることができるとともに、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0020】
本発明の第3の側面によれば、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]を、
1/h2<4×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させる。
【0021】
このようにすれば、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]を0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4とした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が0に近くなる。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0022】
また、前記距離hを、
1/h2<2×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、前記距離hを1/h2<2×10−4とした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率がより0に近くなる。従って、基材とノズル先端との間隔の変化に起因する基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を、より小さく抑えることができる。
【0024】
本発明の第4の側面によれば、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とを、
1/(1+5R/h)>0.8
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させる。
【0025】
このようにすれば、内部直径R[μm]と、ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]とを1/(1+5R/h)>0.8とした状態で液滴を吐出させることにより、つまり、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合を0.8より大きくした状態とすることにより、液滴の吐出の際における距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さくなる。従って、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0026】
また、前記距離hを、500[μm]以下とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することが好ましい。
【0027】
このようにすれば、前記距離hを500[μm]以下とした状態で液滴を吐出させることにより、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0028】
本発明においては、ノズル径を100[μm]未満、好ましくは20[μm]以下、より好ましくは10[μm]以下とすることにより、電界強度分布が狭くなる。このことにより、電界を集中させることができる。その結果、形成される液滴を微小で且つ形状の安定化したものとすることができると共に、総印加電圧を低減することができる。また、液滴は、ノズルから吐出された直後、電界と電荷の間に働く静電力により加速されるが、ノズルから離れると電界は急激に低下するので、その後は、空気抵抗により減速する。しかしながら、微小液滴でかつ電界が集中した液滴は、対向電極に近づくにつれ、鏡像力により加速される。この空気抵抗による減速と鏡像力による加速とのバランスをとることにより、微小液滴を安定に飛翔させ、着弾精度を向上させることが可能となる。
また、ノズルの内部直径は、8[μm]以下であることが好ましい。ノズルの内部直径を8[μm]以下とすることにより、さらに電界を集中させることが可能となり、さらなる液滴の微小化と、飛翔時に対向電極の距離の変動が電界強度分布に影響することを低減させることができるので、対向電極の位置精度や基材の特性や厚さの液滴形状への影響や着弾精度への影響を低減することができる。
さらに、ノズルの内部直径を4[μm]以下とすることにより、顕著な電界の集中を図ることができ、最大電界強度を高くすることができ、形状の安定な液滴の超微小化と、液滴の初期吐出速度を大きくすることができる。これにより、飛翔安定性が向上することにより、着弾精度をさらに向上させ、吐出応答性を向上することができる。
また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が望ましい。ノズルの内径を0.2[μm]より大きくすることで、液滴の帯電効率を向上させることができるので、液滴の吐出安定性を向上させることができる。
【0029】
さらに、上記各側面において、
(1)ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に吐出電圧印加用の電極を挿入あるいは当該電極として機能するメッキ形成を行うことが好ましい。
(2)上記各側面の構成又は上記(1)の構成において、ノズルを電気絶縁材で形成し、ノズル内に電極を挿入或いは電極としてのメッキを形成すると共にノズルの外側にも吐出用の電極を設けることが好ましい。
ノズルの外側の吐出用電極は、例えば、ノズルの先端側端面或いは、ノズルの先端部側の側面の全周若しくは一部に設けられる。
(1)及び(2)により、上記各側面による作用効果に加え、吐出力を向上させることができるので、ノズル径をさらに微細化しても、低電圧で液滴を吐出することができる。(3)上記各側面の構成、上記(1)又は(2)の構成において、基材を導電性材料または絶縁性材料により形成することが好ましい。
(4)上記各側面の構成、上記(1)、(2)又は(3)の構成において、吐出電圧印加手段よる吐出電圧Vを、
【数1】
で表される流域において駆動することが好ましい。
ただし、γ:液体の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
ノズル内の溶液に対して上式(1)の範囲の吐出電圧Vの印加が行われる。上式(1)において、吐出電圧Vの上限の基準となる左側の項は、従来におけるノズル−対向電極間での電界による液体吐出を行う場合での限界最低吐出電圧を示す。本発明は、前述したように、ノズルの超微細化による電界集中の効果により、微小液滴の吐出を、従来技術では実現されなかった従来の限界最低吐出電圧よりも低い範囲に吐出電圧Vを設定しても、実現することができる。
また、上式(1)における吐出電圧Vの下限の基準となる右側の項は、ノズル先端部における溶液による表面張力に抗して液滴の吐出を行うための本発明の限界最低吐出電圧を示す。つまり、この限界最低吐出電圧よりも低い電圧を印加しても液滴の吐出は実行されないが、例えば、この限界最低吐出電圧を境界とするこれより高い値を吐出電圧とし、これより低い値の電圧と吐出電圧とを切り替えることで、吐出動作のオンオフの制御を行うことができる。即ち、電圧の高低の切替のみにより吐出動作のオンオフの制御が可能となる。なお、この場合、吐出のオフ状態に切り替える低電圧値は、限界最低吐出電圧に近いことが望ましい。これにより、オンオフの切替における電圧変化幅を狭小化し、応答性の向上を図ることが可能となるからである。
(5)上記各側面の構成、上記(1)、(2)、(3)又は(4)の構成において、印加する吐出電圧が1000V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御を容易とすると共に装置の耐久性の向上及び安全対策の実行により確実性の向上を容易に図ることが可能となる。
(6)上記各側面の構成、上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の構成において、印加する吐出電圧が500V以下であることが好ましい。
吐出電圧の上限値をこのように設定することにより、吐出制御をより容易とすると共に装置の耐久性のさらなる向上及び安全対策の実行により確実性のさらなる向上を容易に図ることが可能となる。
(7)上記各側面の構成、上記(1)〜(6)のいずれかの構成において、ノズルと基材との距離が500[μm]以下とすることが、ノズル径を微細にした場合でも高い着弾精度を得ることができるので好ましい。
(8)上記各側面の構成、上記(1)〜(7)のいずれかの構成において、ノズル内の溶液に圧力を印加するように構成することが好ましい。
(9)上記各側面の構成、上記(1)〜(8)いずれかの構成において、単一パルスによって吐出する場合、
【数2】
により決まる時定数τ以上のパルス幅Δtを印加する構成としても良い。ただし、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)とする。
【発明の効果】
【0030】
第1及び第3の側面によれば、基材とノズル先端との間隔の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端に高電圧を印加することができる。
【0031】
また、第2及び第4の側面によれば、基材とノズル先端との間隔の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図1B】ノズル径をφ0.2[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2A】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図2B】ノズル径をφ0.4[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3A】ノズル径をφ1[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図3B】ノズル径をφ1[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4A】ノズル径をφ8[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図4B】ノズル径をφ8[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5A】ノズル径をφ20[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図5B】ノズル径をφ20[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6A】ノズル径をφ50[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図6B】ノズル径をφ50[μm]とした場合に、ノズルと対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。
【図7】図1〜図6の各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。
【図8】ノズルのノズル径とメニスカス部における最大電界強度との関係を示す線図である。
【図9】ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す線図である。
【図10A】ノズル径とメニスカス部の強電界の領域の関係で表されるグラフである。
【図10B】図10Aにおけるノズル径が微小な範囲での拡大図を示す。
【図11】第一の実施形態たる液体吐出装置のノズルに沿った断面図である。
【図12A】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出を行わない状態を示す図である。
【図12B】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出状態を示す図である。
【図13A】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、溶液室側に丸みを設けた例を示す図である。
【図13B】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、流路内壁面をテーパ周面とした例を示す図である。
【図13C】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた斜視図であり、テーパ周面と直線状の流路とを組み合わせた例を示す図である。
【図14】距離hとEgap/Vとの関係を示す図である。
【図15】距離hとEtotal’/Vとの関係を示す図である。
【図16】距離hとEloc/(Eloc+Egap)との関係を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態として、ノズルの電界強度の計算を説明するために示したものである。
【図18】本発明の一例としての液体吐出装置の側面断面図を示したものである。
【図19】本発明の実施の形態の液体吐出装置における距離−電圧の関係による吐出条件を説明した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下の各実施形態で説明する液体吐出装置のノズル径は、25[μm]以下であることが好ましく、さらに好ましくは20[μm]未満、さらに好ましくは10[μm]以下、さらに好ましくは8[μm]以下、さらに好ましくは4[μm]以下とすることが好ましい。また、ノズル径は、0.2[μm]より大きいことが好ましい。以下、ノズル径と電界強度との関係について、図1〜図6を参照しながら説明する。図1〜図6に対応して、ノズル径をφ0.2,0.4,1,8,20[μm]及び参考として従来にて使用されているノズル径φ50[μm]の場合の電界強度分布を示す。
ここで、各図において、ノズル中心位置とは、ノズル先端の液体吐出孔の液体吐出面の中心位置を示す。また、各々の図のAは、ノズルの先端部と対向電極との距離が2000[μm]に設定されたときの電界強度分布を示し、Bは、ノズルの先端部と対向電極との距離が100[μm]に設定されたときの電界強度分布を示す。なお、印加電圧は、各条件とも200[V]と一定にした。図中の分布線は、電荷強度が1×106[V/m]から1×107[V/m]までの範囲を示している。
図7に、各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。なお、図7中、「ギャップ」とは、ノズルの先端部と対向電極との距離[μm]のことである。
図1〜図6から、ノズル径がφ20[μm](図5)以上だと電界強度分布は広い面積に広がっていることが分かった。また、図7から、ノズルの先端部と対向電極との距離が電界強度に影響していることも分かった。
これらのことから、ノズル径がφ8[μm](図4)以下であると電界強度は集中すると共に、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。従って、ノズル径がφ8[μm]以下であれば、対向電極の位置精度及び基材の材料特性のバラツキや厚さのバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
次に、上記ノズルのノズル径とノズルの先端位置に液面があるとした時の最大電界強度と強電界領域の関係を図8に示す。図8に示すグラフから、ノズル径がφ4[μm]以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、溶液の初期吐出速度を大きくすることができるので、液滴の飛翔安定性が増すと共に、ノズルの先端部での電荷の移動速度が増すために吐出応答性が向上する。
続いて、吐出した液滴における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴に帯電可能な電荷量は、液滴のレイリー分裂(レイリー限界)を考慮した以下の(3)式で示される。
【数3】
ここで、qはレイリー限界を与える電荷量(C)、ε0は真空の誘電率(F/m)、γは溶液の表面張力(N/m)、d0は液滴の直径(m)である。
上記(3)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近いほど、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズルの液体吐出孔で溶液の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
ここで、ノズルのノズル径とノズルの先端部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示すグラフを図9に示す。
図9に示すグラフから、ノズル径がφ0.2[μm]からφ4[μm]の範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、低い吐出電圧でも比較的大きな帯電量を液滴に与えることができ、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
例えば、図10A及び図10Bに示すノズル径とノズルの先端部の強電界(1×106[V/m]以上)の領域をノズルの中心位置からの距離で示したものの値との関係で表されるグラフでは、ノズル径がφ0.2[μm]以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことは、吐出する液滴は、加速するためのエネルギーを十分に受けることができず飛翔安定性が低下することを示す。よって、ノズル径はφ0.2[μm]より大きく設定することが好ましい。
なお、上記図7においては、ノズルの先端部と対向電極とのギャップを2000μm及び100μmであるとして説明したが、着弾精度を考慮すると、ノズルの先端部と基材との距離は500μm以下であることが好ましい。そのため、以下の液体吐出装置の構成を決定するにあたっては、ノズルの先端部と基材との距離を500μm以下とした場合は勿論、100μm以下とした場合についても検討を行っている。
【0034】
[第1の実施形態]
(液体吐出装置の全体構成)
以下、本発明の第1の実施形態である液体吐出装置20について図11及び図12に基づいて説明する。図11は後述するノズル21に沿った液体吐出装置20の断面図であり、図12は溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、図12Aは吐出を行わない状態であり、図12Bは吐出状態を示す。
この液体吐出装置20は、帯電可能な溶液の液滴をその先端部から吐出する超微細径のノズル21と、ノズル21の先端部に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴の着弾を受ける基材Kを支持する対向電極23と、ノズル21内の流路22に溶液を供給する溶液供給手段29と、ノズル21内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段25と、吐出電圧印加手段25による吐出電圧の印加を制御する動作制御手段50とを備えている。なお、上記ノズル21と溶液供給手段29の一部の構成と吐出電圧印加手段25の一部の構成は液体吐出ヘッド26として一体的に形成されている。
なお、図11では、説明の便宜上、ノズル21の先端部が上方を向き、ノズル21の上方に対向電極23が配設されている状態で図示されているが、実際上は、ノズル21が水平方向か或いはそれよりも下方、より望ましくは垂直下方に向けた状態で使用される。
【0035】
(溶液)
上記液体吐出装置20による吐出を行う溶液の例としては、無機液体としては、水、COCl2、HBr、HNO3、H3PO4、H2SO4、SOCl2、SO2Cl2、FSO3Hなどが挙げられる。有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、などのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して溶液として用いても良い。
【0036】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを溶液として使用し、吐出を行う場合には、上述した液体に溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO3:Eu、YO3:Euなど、緑色蛍光体として、Zn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al2O3:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl14O23:Eu、BaMgAl10O17:Euなどが挙げられる。上記の目的物質を記録媒体上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースおよびその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂およびその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミン等のアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドンおよびその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイド等のアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白等の天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いても良い。
【0037】
液体吐出装置20をパターンニング方法に使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などが挙げることができる。ここでいうリブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0038】
(ノズル)
上記ノズル21は、後述するノズルプレート26cと一体的に形成されており、当該ノズルプレート26cの平板面上から垂直に立設されている。また、液滴の吐出時においては、ノズル21は、基材Kの受け面(液滴が着弾する面)に対して垂直に向けて使用される。さらに、ノズル21にはその先端部からノズルの中心に沿って貫通するノズル内流路22が形成されている。
【0039】
ノズル21についてさらに詳説する。ノズル21は、その先端部における開口径とノズル内流路22とが均一であって、前述の通り、これらが超微細径で形成されている。具体的な各部の寸法の一例を挙げると、ノズル内流路22の内部直径は、25[μm]以下、さらに20[μm]未満、さらに10[μm]以下、さらに8[μm]以下、さらに4[μm]以下が好ましく、本実施形態ではノズル内流路22の内部直径が1[μm]に設定されている。そして、ノズル21の先端部における外部直径は2[μm]、ノズル21の根元の直径は5[μm]、ノズル21の高さは100[μm]に設定されており、その形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が好ましい。なお、ノズル21の高さは、0[μm]でも構わない。
【0040】
なお、ノズル内流路22の形状は、図11に示すような、内径一定の直線状に形成しなくとも良い。例えば、図13Aに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における断面形状が丸みを帯びて形成されていても良い。また、図13Bに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における内径が吐出側端部における内径と比して大きく設定され、ノズル内流路22の内面がテーパ周面形状に形成されていても良い。さらに、図13Cに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部のみがテーパ周面形状に形成されると共に当該テーパ周面よりも吐出端部側は内径一定の直線状に形成されていても良い。
【0041】
(溶液供給手段)
溶液供給手段29は、液体吐出ヘッド26の内部であってノズル21の根元となる位置に設けられると共にノズル内流路22に連通する溶液室24と、図示しない外部の溶液タンクから溶液室24に溶液を導く供給路27と、溶液室24への溶液の供給圧力を付与する図示しない供給ポンプとを備えている。
上記供給ポンプは、ノズル21の先端部まで溶液を供給し、当該先端部からこぼれ出さない範囲の供給圧力を維持して溶液の供給を行う。
供給ポンプとは、液体吐出ヘッドと供給タンクの配置位置による差圧を利用する場合も含み、別途、溶液供給手段を設けなくとも溶液供給路のみで構成しても良い。ポンプシステムの設計にもよるが、基本的にはスタート時に液体吐出ヘッドに溶液を供給するときに稼動し、液体吐出ヘッドから液体を吐出し、それに応じた溶液の供給は、キャピラリ及び凸状メニスカス形成手段による液体吐出ヘッド内の容積変化及び供給ポンプの各圧力の最適化を図って溶液の供給が実施される。
【0042】
(吐出電圧印加手段)
吐出電圧印加手段25は、液体吐出ヘッド26の内部であって溶液室24とノズル内流路22との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極28と、この吐出電極28に常時,直流のバイアス電圧を印加する直流電源30と、吐出電極28にバイアス電圧に重畳して吐出に要する電位とするパルス電圧を印加する吐出電圧電源31とを備えている。
【0043】
上記吐出電極28は、溶液室24内部において溶液に直接接触し、溶液を帯電させると共に吐出電圧を印加する。
直流電源30によるバイアス電圧は、図12Aに示すように、溶液の吐出が行われない範囲で常時電圧印加を行うことにより、吐出時に印加すべき電圧の幅を予め低減し、これによる吐出時の反応性の向上を図っている。
吐出電圧電源31は、図12Bに示すように、溶液の吐出を行う際にのみパルス電圧をバイアス電圧に重畳させて印加する。このときの重畳電圧Vは次式の条件を満たすようにパルス電圧の値が設定されている。
【数4】
ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
なお、上記条件は理論値であり、実際上は、凸状メニスカスの形成時と非形成時における試験を行い、適宜な電圧値を求めても良い。
本実施形態では、一例として吐出電圧を400[V]とする。
【0044】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド26は、図11において最も下層に位置し、可撓性を有する素材(例えば金属,シリコン、樹脂等)からなる可撓ベース層26aと、この可撓ベース層26aの上面全体に形成される絶縁素材からなる絶縁層26dと、その上に位置する溶液の供給路を形成する流路層26bと、この流路層26bのさらに上に形成されるノズルプレート26cとを備え、流路層26bとノズルプレート26cとの間には前述した吐出電極28が介挿されている。
【0045】
上記可撓ベース層26aは、上述の如く、可撓性を有する素材であれば良く、例えば金属薄板を使用しても良い。このように、可撓性が要求されるのは、可撓ベース層26aの外面であって溶液室24に対応する位置に、後述する凸状メニスカス形成手段40のピエゾ素子41を設け、可撓ベース層26aを撓ませるためである。即ち、ピエゾ素子41に所定電圧を印加して、可撓ベース層26aを上記位置において内側又は外側のいずれにも窪ませることで溶液室24の内部容積を縮小又は増加させ、内圧変化によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスを形成し又は液面を内側に引き込むことを可能とするためである。
【0046】
可撓ベース層26aの上面には絶縁性の高い樹脂を膜状に形成し、絶縁層26dが形成される。かかる、絶縁層26dは、可撓ベース層26aが窪むことを妨げないように十分に薄く形成されるか、より変形が容易な樹脂素材が使用される。
そして、絶縁層26dの上には、溶解可能な樹脂層を形成すると共に供給路27及び溶液室24を形成するための所定のパターンに従う部分のみを残して除去し、当該残存部を除いて除去された部分に絶縁樹脂層を形成する。この絶縁樹脂層が流路層26bとなる。そして、この絶縁樹脂層の上面に面状に広がりをもって導電素材(例えばNiP)のメッキにより吐出電極28を形成し、さらにその上から絶縁性のレジスト樹脂層或いはパリレン層を形成する。このレジスト樹脂層がノズルプレート26cとなるので、この樹脂層はノズル21の高さを考慮した厚みで形成される。そして、この絶縁性のレジスト樹脂層を電子ビーム法やフェムト秒レーザにより露光し、ノズル形状を形成する。ノズル内流路22もレーザ加工により形成される。そして、供給路27及び溶液室24のパターンに従う溶解可能な樹脂層を除去し、これら供給路27及び溶液室24が開通して液体吐出ヘッド26が完成する。
【0047】
なお、ノズルプレート26c及びノズル21の素材は、具体的には、エポキシ、PMMA、フェノール、ソーダガラス、石英ガラス等の絶縁材の他、Siのような半導体、Ni、SUS等のような導体であっても良い。但し、導体によりノズルプレート26c及びノズル21を形成した場合には、少なくともノズル21の先端部における先端部端面、より望ましくは先端部における周面については、絶縁材による被膜を設けることが望ましい。ノズル21を絶縁材から形成し又はその先端部表面に絶縁材被膜を形成することにより、溶液に対する吐出電圧印加時において、ノズル先端部から対向電極23への電流のリークを効果的に抑制することが可能となるからである。
【0048】
(対向電極)
対向電極23は、ノズル21の突出方向に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル21の先端部から基材Kまでの距離h[μm]は、500[μm]以下となっており、更に1/h2<4×10−4、好ましくは1/h2<2×10−4に設定されている。
また、この対向電極23は接地されているため、常時,接地電位を維持している。従って、ノズル21の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
なお、液体吐出装置20は、ノズル21の超微細化による当該ノズル21の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル21と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。また、帯電した液滴の電荷を対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0049】
ここで、基材Kとノズル21との周辺に作用する電界の強度Etotalは、ノズルに集中して生じる集中電界強度Elocと、ノズルと基材との間に生じる非集中電界強度Egapとから、例えば以下の式のように表される。
Etotal=Eloc+Egap
このうち、集中電界強度Elocは、ノズル径R[μm]と、ノズルに印加される電圧V[v]とによって以下の式のように表される。
Eloc=V/kR(但し、kは定数)
また、非集中電界強度Egapは、ノズルから基材までの距離h[μm]と、ノズルに印加される電圧Vとによって、以下の式のように表される。なお、図14にEgap/Vと距離hとの関係を示す。
Egap=V/h
これらの式から、距離hが変化する場合に、距離hの変化に対する電界強度Etotalの変化率(微分係数)は、図15に示すように、Etotal’=−V/h2となる。なお、距離hが変化する原因としては、基材Kの表面のうねりや、液体吐出ヘッド26におけるノズル21の位置精度の劣化、基材Kを固定する対向電極23の位置精度の劣化などがある。
【0050】
(動作制御手段)
動作制御手段50は、実際的にはCPU,ROM,RAM等を含む演算装置を有する構成であり、これらに所定のプログラムが入力されることにより、下記に示す機能的な構成を実現すると共に後述する動作制御を実行する。
上記動作制御手段50は、直流電源30によるバイアス電圧の印加を連続的に行わせると共に、外部からの吐出指令の入力を受けると吐出電圧電源31にパルス電圧の印加を行わせることによってノズル21の先端部から液滴を吐出させる。
【0051】
(液体吐出装置による微小液滴の吐出動作)
図11及び図12により液体吐出装置20の動作説明を行う。
溶液供給手段の供給ポンプによりノズル内流路22には溶液が供給された状態にあり、かかる状態で定常的に直流電源30から吐出電極28にバイアス電圧が印加されている(図12A)。かかる状態で、溶液は帯電すると共に、ノズル21の先端部において溶液による凹状に窪んだメニスカスが形成される(図12A)。
そして、外部から動作制御手段50に吐出指令信号が入力されると、吐出電圧電源31からパルス電圧が吐出電極28に印加される。ノズル21の先端部では集中された電界の電界強度による静電力により溶液がノズル21の先端側に誘導され、外部に突出した凸状メニスカスが形成されると共に、かかる凸状メニスカスの頂点により電界が集中し、ついには溶液の表面張力に抗して微小液滴が対向電極側に吐出される(図12B)。このとき、基材Kの表面のうねりなどに起因してノズル21から基材Kまでの距離h[μm]が変化しても、この距離h[μm]は0<1/h2(=−Etotal’/V)<4×10−4、好ましくは1/h2<2×10−4を満たすので、上記図15に示すように、距離hの変化に対する上記電界強度Etotalの変化率は0に近くなっている。
【0052】
以上のような液体吐出装置20によれば、基材Kからノズル21の先端部までの距離hの変化に関わらず、基材K及びノズル21の周辺における電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズル21の先端部に高電圧を印加することができる。
また、前記距離hが500[μm]以下であるので、吐出された液滴の着弾精度を高めることができる。
【0053】
また、吐出の有無にかかわらず、溶液に対しては直流電源30により常に一定の電圧を印加することとなるので、溶液に対する印加電圧を変化させて吐出を行う場合と比較して、吐出の際の応答性の向上及び液量の安定化を図ることが可能となる。
【0054】
さらに、上記液体吐出装置20は、従来にない微細径のノズル21により液滴の吐出を行うので、ノズル内流路22内で帯電した状態の溶液により電界が集中され、電界強度が高められる。このため、従来のように電界の集中化が行われない構造のノズル(例えば内径100[μm])では吐出に要する電圧が高くなり過ぎて事実上吐出不可能とされていた微細径でのノズルによる溶液の吐出を従来よりも低電圧で行うことを可能としている。
そして、微細径であるがために、ノズルコンダクタンスの低さによりノズル内流路22における溶液の流動が制限されることから、その単位時間あたりの吐出流量を低減する制御を容易に行うことができると共に、パルス幅を狭めることなく十分に小さな液滴径(上記各条件によれば0.8[μm])による溶液の吐出を実現している。
さらに、吐出される液滴は帯電されているので、微小の液滴であっても蒸気圧が低減され、蒸発を抑制することから液滴の質量の損失を低減し、飛翔の安定化を図り、液滴の着弾精度の低下を防止する。
【0055】
なお、ノズル21にエレクトロウェッティング効果を得るために、ノズル21の外周に電極を設けるか、また或いは、ノズル内流路22の内面に電極を設け、その上から絶縁膜で被覆しても良い。そして、この電極に電圧を印加することで、吐出電極28により電圧が印加されている溶液に対して、エレクトロウェッティング効果によりノズル内流路22の内面のぬれ性を高めることができ、ノズル内流路22への溶液の供給を円滑に行うことができ、良好に吐出を行うと共に、吐出の応答性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、吐出電圧印加手段25ではバイアス電圧を常時印加すると共にパルス電圧をトリガーとして液滴の吐出を行っているが、吐出に要する振幅で常時交流又は連続する矩形波を印加すると共にその周波数の高低を切り替えることで吐出を行う構成としても良い。液滴の吐出を行うためには溶液の帯電が必須であり、溶液の帯電する速度を上回る周波数で吐出電圧を印加していても吐出が行われず、溶液の帯電が十分に図れる周波数に替えると吐出が行われる。従って、吐出を行わないときには吐出可能な周波数より大きな周波数で吐出電圧を印加し、吐出を行う場合にのみ吐出可能な周波数帯域まで周波数を低減させる制御を行うことで、溶液の吐出を制御することが可能となる。かかる場合、溶液に印加される電位自体に変化はないので、より時間応答性を向上させると共に、これにより液滴の着弾精度を向上させることが可能となる。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態である液体吐出装置20Aについて図11に基づいて説明する。なお、本実施形態の説明において、第1の実施形態の液体吐出装置20と同一の構成については同符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0058】
本第2の実施の形態における液体吐出装置20Aは、ノズル21の先端部の内部直径R[μm]と、ノズル21の先端部から基材Kまでの距離hとが1/(1+5R/h)>0.8を満たすようになっている。
ここで、距離hの微小変化に対する電界強度Etotal(=Eloc+Egap)の変化率は、図16に示すように、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が大きい程、小さくなる。但し、電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合とは、
Eloc/Eloc+Egap(V/kR)/{(V/kR)+(V/h)}
=1/{1+(kR/h)}
(但し、k:定数)
で表されるものである。
【0059】
以上のような液体吐出装置20によれば、定数k=5としたときの電界強度Etotalに対する集中電界強度Elocの割合が0.8より大きいので、距離hの微小変化に対する電界強度Etotalの変化率が小さい。従って、基材Kからノズル21の先端部までの距離hの変化に関わらず、基材K及びノズル21の周辺における電界強度Etotalの変化を抑制することができるため、従来と比較して、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズル21の先端部に高電圧を印加することができる。
【0060】
[液体吐出装置の理論説明]
以下に、本発明による液体吐出の理論説明及びこれに基づく基本例の説明を行う。なお、以下に説明する理論及び基本例におけるノズルの構造、各部の素材及び吐出液体の特性、ノズル周囲に付加する構成、吐出動作に関する制御条件等全ての内容は、可能な限り上述した各実施形態中に適用しても良いことはいうまでもない。
【0061】
(印加電圧低下および微少液滴量の安定吐出実現の方策)
従前は以下の条件式により定まる範囲を超えて液滴の吐出は不可能と考えられていた。
【数5】
λCは静電吸引力によりノズル先端部からの液滴の吐出を可能とするための溶液液面における成長波長(m)であり、λC=2πγh2/ε0V2で求められる。
【数6】
【数7】
本発明では、静電吸引型インクジェット方式において果たすノズルの役割を再考察し、従来吐出不可能として試みられていなかった領域において、マクスウェル力などを利用することで、微小液滴を形成することができる。
このような駆動電圧低下および微少量吐出実現の方策のための吐出条件等を近似的に表す式を導出したので以下に述べる。
以下の説明は、上記各本発明の実施形態で説明した液体吐出装置に適用可能である。
いま、内径dのノズルに導電性溶液を注入し、基材としての無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図17に示す。このとき、ノズル先端部に誘起される電荷は、ノズル先端の半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【数8】
ここで、Q:ノズル先端部に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、ε:基材の誘電率(F/m)、h:ノズル−基材間距離(m)、d:ノズル内部の直径(m)、V:ノズルに印加する総電圧(V)である。α:ノズル形状などに依存する比例定数で、1〜1.5程度の値を取り、特にd<<hのときほぼ1程度となる。
【0062】
また、基材としての基板が導体基板の場合、電荷Qによる電位を打ち消すための逆電荷が表面付近に誘起され、それらの電荷分布により、基板内の対称位置に反対の符号を持つ鏡像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。また、基板が絶縁体の場合は、基板表面で分極により逆電荷が表面側に誘起され、誘電率によって定まる対称位置に同様に反対符号の映像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。
ところで、ノズル先端部に於ける凸状メニスカスの先端部の集中電界強度Eloc[V/m]は、凸状メニスカス先端部の曲率半径をR[m]と仮定すると、
【数9】
で与えられる。ここでk:比例定数で、ノズル形状などにより異なるが、1.5〜8.5程度の値をとり、多くの場合5程度と考えられる。(P.J.Birdseye and D.A.Smith,Surface Science,23(1970)198−210)。
今簡単のため、d/2=Rとする。これは、ノズル先端部に表面張力で導電性溶液がノズルの半径と同じ半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
ノズル先端の液体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力は、ノズル先端部の液面積をS[m2]とすると、
【数10】
(7)、(8)、(9)式よりα=1とおいて、
【数11】
と表される。
【0063】
一方、ノズル先端部に於ける液体の表面張力をPsとすると、
【数12】
ここで、γ:表面張力(N/m)、である。静電的な力により流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回る条件なので、
【数13】
となる。十分に小さいノズル直径dをもちいることで、静電的な圧力が、表面張力を上回らせる事が可能である。この関係式より、Vとdの関係を求めると、
【数14】
が吐出の最低電圧を与える。すなわち、式(6)および式(13)より、
【数15】
が、本発明の動作電圧となる。
【0064】
ある内径dのノズルに対し、吐出限界電圧Vcの依存性を前述した図9に示す。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出開始電圧は、ノズル径の減少に伴い低下する事が明らかになった。
従来の電界に対する考え方、すなわちノズルに印加する電圧と対向電極間の距離によって定義される電界のみを考慮した場合では、微細ノズルになるに従い、吐出に必要な電圧は増加する。一方、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出電圧の低下が可能となる。
【0065】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における液体(溶液)の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【数16】
ここで、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)である。溶液の比誘電率を10、導電率を10−6S/mを仮定すると、τ=1.854×10−5secとなる。あるいは、臨界周波数をfc[Hz]とすると、
【数17】
となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10kHz程度となる。このとき、ノズル半径2μm、電圧500V弱の場合、ノズル内流量Gは10−13m3/sと見積もることができるが、上記の例の液体の場合、10kHzでの吐出が可能なので、1周期での最小吐出量は10fl(フェムトリットル、1fl:10−15l)程度を達成できる。
【0066】
なお、各上記本実施の形態においては、図17に示したようにノズル先端部に於ける電界の集中効果と、対向基板に誘起される鏡像力の作用を特徴とする。このため、先行技術のように基板または基板支持体を導電性にすることや、これら基板または基板支持体への電圧の印加は必ずしも必要はない。すなわち、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることが可能である。
また、上記各実施形態において電極への印加電圧はプラス、マイナスのどちらでも良い。
さらに、ノズルと基材との距離は、500[μm]以下に保つことにより、溶液の吐出を容易にすることができる。また、図示しないが、ノズル位置検出によるフィードバック制御を行い、ノズルを基材に対し一定に保つようにすることが望ましい。
また、基材を、導電性または絶縁性の基材ホルダーに裁置して保持するようにしても良い。
【0067】
図18は、本発明の他の基本例の一例としての液体吐出装置のノズル部分の側面断面図を示したものである。ノズル21の側面部には電極15が設けられており、ノズル内溶液3との間に制御された電圧が印加される。この電極15の目的は、Electrowetting効果を制御するための電極である。十分な電場がノズルを構成する絶縁体にかかる場合この電極がなくともElectrowetting効果は起こると期待される。しかし、本基本例では、より積極的にこの電極を用いて制御することで、吐出制御の役割も果たすようにしたものである。ノズル21を絶縁体で構成し、先端部におけるノズルの管厚が1μm、ノズル内径が2μm、印加電圧が300Vの場合、約30気圧のElectrowetting効果になる。この圧力は、吐出のためには、不十分であるが溶液のノズル先端部への供給の点からは意味があり、この制御電極により吐出の制御が可能と考えられる。
【0068】
前述した図9は、本発明における吐出開始電圧のノズル径依存性を示したものである。液体吐出装置として、図11に示すものを用いた。微細ノズルになるに従い吐出開始電圧が低下し、従来より低電圧で吐出可能なことが明らかになった。
【0069】
上記各実施形態において、液体吐出の条件は、ノズル−基材間距離(h)、印加電圧の振幅(V)、印加電圧振動数(f)のそれぞれの関数になり、それぞれにある一定の条件を満たすことが吐出条件として必要になる。逆にどれか一つの条件を満たさない場合他のパラメーターを変更する必要がある。
【0070】
この様子を図19を用いて説明する。
まず吐出のためには、それ以上の電界でないと吐出しないというある一定の臨界電界Ecが存在する。この臨界電界は、ノズル径、溶液の表面張力、粘性などによって変わってくる値で、Ec以下での吐出は困難である。臨界電界Ec以上すなわち吐出可能電界強度において、ノズル−基材間距離(h)と印加電圧の振幅(V)の間には、おおむね比例の関係が生じ、ノズル−基材間距離を縮めた場合、臨界印加電圧Vを小さくする事が出来る。
逆に、ノズル−基材間距離hを極端に離し、印加電圧Vを大きくした場合、仮に同じ電界強度を保ったとしても、コロナ放電による作用などによって、流体液滴の破裂すなわちバーストが生じてしまう。
【実施例1】
【0071】
<第1の実施の形態の実施例>
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例においては、上記第1の実施の形態の液体吐出装置20として、以下の表1に示すように、ノズル21の先端部から基材Kまでの距離hが150,85,55[μm]であるもの、つまり1/h2の値が4.4×10−5、1.4×10−4、3.3×10−4のものを形成した(実施例1〜3参照)。また、対照として、前記距離hが30[μm]であるもの、つまり1/h2の値が1.1×10−3のものを形成した(比較例1参照)。なお、これら実施例1〜3及び比較例1における距離hの値を計測したところ、液体吐出装置の機械的精度と、基板Kの表面のうねり等とによって±5[μm]の誤差が生じていた。
また、これら実施例1〜3及び比較例1において、溶液には「銀ナノペースト」(商品名:ハリマ化成株式会社製)を用いた。また、ノズル21として、先端部の内部直径が1[μm]であるガラス製のノズルを用いた。また、吐出電圧電源31による矩形パルス電圧は350[V]とした。更に、基材Kとして、ガラス板を用いた。
【0072】
【表1】
【0073】
これら実施例1〜3及び比較例1の液体吐出装置によって溶液を1000滴吐出し、基材Kの表面に着弾したドットの径、つまり着弾径を計測した。これら着弾径のバラツキの変動率(=標準偏差/平均値)を求めたところ、上記表1のようになった。なお、着弾径の計測は、ドットの画像を画像処理した後、画像中のドットの外径を計測することにより行った。ドット画像の撮影には、キーエンス社製のレーザー顕微鏡を用いた。
【0074】
表1から分かるように、1/h2の値が4×10−4以下である実施例1〜3では、着弾径の変動率が5%より小さく、良好な結果が得られた。更に、1/h2の値が2×10−4以下である実施例1,2では、着弾径の変動率が2%以下であり、より良好な結果が得られた。一方、1/h2の値が4×10−4より大きい比較例1では、着弾径の変動率が10%であり、良好ではない結果となった。
以上から、1/h2の値を4×10−4以下、好ましくは2×10−4以下とすることにより、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、その結果、ドットの形状をより均一化できることがわかる。
【実施例2】
【0075】
<第2の実施の形態の実施例>
本実施例においては、上記第2の実施の形態の液体吐出装置20として、以下の表2に示すように、前記距離h[μm]とノズルの直径R[μm]との組合せ(h,R)が(230,2.5)、(130,2.5)、(80,2.5)、(230,6)、(130,6)、(240,9)であるもの、つまり1/(1+5R/h)の値が0.95,0.91,0.86,0.88,0.81,0.84であるものを形成した(実施例4〜9参照)。また、対照として、前記距離hとノズルの直径Rとの組合せ(h,R)が(30,2.5)、(80,6)、(30,6)、(140,9)、(80,9)、(30,9)であるもの、つまり1/(1+5R/h)の値が0.71,0.73,0.50,0.76,0.64,0.40であるものを形成した(比較例2〜7参照)。なお、これら実施例4〜9及び比較例2〜7における距離hの値を計測したところ、液体吐出装置の機械的精度と、基板Kの表面のうねり等とによって±5[μm]の誤差が生じていた。
また、これら実施例4〜9及び比較例2〜7において、溶液には「銀ナノペースト」(商品名:ハリマ化成株式会社製)を用いた。また、ノズル21として、ガラス製のノズルを用いた。また、吐出電圧電源31による矩形パルス電圧は350[V]とした。更に、基材Kとして、ガラス板を用いた。
【0076】
【表2】
【0077】
これら実施例4〜9及び比較例2〜7の液体吐出装置によって溶液を1000滴吐出し、基材Kの表面における着弾径を計測した。これら着弾径のバラツキの変動率(=標準偏差/平均値)を求めたところ、上記表2のようになった。
【0078】
表2から分かるように、1/(1+5R/h)の値が0.8より大きい実施例4〜9では、着弾径の変動率が5%より小さく、良好な結果が得られた。一方、1/(1+5R/h)の値が0.8以下である比較例2〜7では、着弾径の変動率が5%以上であり、良好ではない結果となった。
以上から、1/(1+5R/h)の値を0.8より大きくすることにより、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、その結果、ドットの形状を均一化できることがわかる。
【0079】
また、表2からは、ノズルの先端部の内部直径が小さいほど、距離hの変化に起因する着弾径の変動率が小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明に係る液体吐出装置及び液体吐出方法は、ノズルの先端部から基材までの距離の変化に関わらず、基材及びノズル周辺の電界強度の変化を抑制するのに有用であり、特に、微小液滴形成及び吐出量の安定性を高め、かつ吐出応答性を改善し、かつノズルの先端部に高電圧を印加するのに適している。
【符号の説明】
【0081】
20 液体吐出装置
21 ノズル
25 吐出電圧印加手段
26 液体吐出ヘッド
K 基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、
1/h2<4×10−4
を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記距離hは、
1/h2<2×10−4
を満たすことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とは、
1/(1+5R/h)>0.8
を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
前記距離hは、500[μm]以下であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]を、
1/h2<4×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項6】
前記距離hを、
1/h2<2×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の液体吐出方法。
【請求項7】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とを、
1/(1+5R/h)>0.8
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項8】
前記距離hを、500[μm]以下とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することを特徴とする請求の範囲第5項〜第7項の何れか一項に記載の液体吐出方法。
【請求項1】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、
1/h2<4×10−4
を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記距離hは、
1/h2<2×10−4
を満たすことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とは、
1/(1+5R/h)>0.8
を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
前記距離hは、500[μm]以下であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径が25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]を、
1/h2<4×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項6】
前記距離hを、
1/h2<2×10−4
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の液体吐出方法。
【請求項7】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドとして、内部直径Rが25[μm]以下の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有するものを用い、
前記内部直径R[μm]と前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]とを、
1/(1+5R/h)>0.8
とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することにより前記ノズルから前記液滴を吐出させることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項8】
前記距離hを、500[μm]以下とした状態で、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加することを特徴とする請求の範囲第5項〜第7項の何れか一項に記載の液体吐出方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【国際公開番号】WO2005/014290
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512921(P2005−512921)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010833
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/010833
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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