説明

液体吐出装置

【課題】環境温度に対する液体の吐出特性を容易に安定化させることが可能な液体吐出装置を提供する。
【解決手段】インクを貯留するインクタンク31と、インクタンクと連通してインクタンク内のインクを供給するインク供給管32と、インク供給管から供給されたインクをノズル開口から吐出する記録ヘッド11と、を有するインク吐出ユニット3を備えたプリンターであって、ノズル開口を外部に露出した状態でインク吐出ユニットを覆う循環流路55を形成し、循環流路内に水56を充填し、この水を循環させてインク吐出ユニット内のインクの温度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体吐出ヘッドのノズル開口から液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズル開口から液体状のインクを記録紙等の記録媒体(吐出対象物)に対して吐出・着弾させてドットを形成することで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体吐出装置が応用されている。
【0003】
ところで、上記のプリンターでは、環境温度が変化することに起因したインク粘度の変化によって、ノズル開口から吐出されるインクの量や飛翔速度などの吐出特性が変動することがあった。そのため、各ヘッドユニット毎にインクヒーター及び温度センサーを備え、温度センサーが検知した温度に基づいて各ヘッドユニットのインクヒーターを予め設定した温度となるように制御する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、記録ヘッド内のインクを加熱するための液体(熱媒体)を流通する液体流路を、記録ヘッド内のインク流路と隣接させて配置した構成が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−223144号公報
【特許文献2】特開2008−055716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の各ヘッドユニット毎にインクヒーター及び温度センサーを備える構成では、構造や制御が複雑になり、液体の吐出特性を容易に安定化させることができなかった。また、上記特許文献2の記録ヘッド内に供給されたインクの温度を液体流路によって制御する構成では、液体流路内の液体の熱をインクに熱伝達させるために、記録ヘッド内のインク流路と液体流路とを隣接させる必要があるが、記録ヘッド内におけるインク流路と液体流路との配置が限られてしまうために、熱伝達の温度範囲が狭くなって温度がバラつくなどの不都合があった。これにより、インクの温度を制御可能な範囲が限定され、環境温度の変化に対してインクの吐出特性を安定化させることが十分にできなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境温度に対する液体の吐出特性を容易に安定化させることが可能な液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部と連通して当該液体貯留部内の液体を供給する液体供給路と、
前記液体供給路から供給された液体をノズル開口から吐出する液体吐出ヘッドと、
を有する液体吐出ユニットを備えた液体吐出装置であって、
前記ノズル開口を外部に露出した状態で前記液体吐出ユニットを覆う循環流路を形成し、該循環流路内に熱媒体を充填し、この熱媒体を循環させて当該液体吐出ユニット内の液体の温度を調整することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ノズル開口を外部に露出した状態で液体吐出ユニットを覆う循環流路を形成し、該循環流路内に熱媒体を充填して、この熱媒体を循環させて液体吐出ユニット内の液体の温度を調整するので、液体貯留部から液体吐出ヘッド内に至る一連の流路内において液体の温度を一定に調整することができる。このため、液体吐出ユニット内の液体を吐出に適した粘度に調整できる。この結果、ノズル開口から吐出される液体の量や飛翔速度などの吐出特性を容易に安定化させることができる。
【0009】
上記構成において、前記液体吐出ヘッド内の液体の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出した温度に基づいて前記熱媒体の温度を調節する熱交換部と、
温度調節した前記熱媒体を前記循環流路内に循環させる循環駆動部と、
を備える構成を採用することができる。
【0010】
この構成によれば、熱媒体循環機構は、液体吐出ヘッド内の液体の温度を検出する温度検出部と、温度検出部の検出した温度に基づいて熱媒体の温度を調整する熱交換部と、温度調節した熱媒体を循環流路内に循環させる循環駆動部と、を備えたので、液体吐出ユニット内の液体の温度を精度良く調整することができる。これにより、ノズル開口から吐出される液体の量や飛翔速度などの吐出特性をより安定化させることができる。
【0011】
上記構成において、前記循環流路は、前記液体吐出ユニットと前記熱媒体とを隔てる可撓性膜体を介して形成する構成を採用することができる。
【0012】
この構成によれば、循環流路は、液体吐出ユニットと熱媒体とを隔てる可撓性膜体を介して形成するので、可撓性膜体を介して熱媒体を液体吐出ユニットに接触させることができ、熱媒体による液体噴ユニットの短絡を防止できる。
【0013】
上記構成において、前記液体吐出ユニットを収容する筐体を備え、
前記筐体内の少なくとも一部に前記循環流路を配設する構成を採用することができる。
【0014】
この構成によれば、液体吐出ユニットを収容する筐体を備え、筐体内の少なくとも一部に循環流路を配設したので、液体吐出ユニットの熱容量に応じて筐体内における循環流路の容積を設定することで、熱の伝達効率を維持しつつ、循環流路に充填する熱媒体の量を削減することができる。
【0015】
上記構成において、前記可撓性膜体の液体吐出ユニットとは反対側が多孔質構造である構成を採用することができる。
また、前記可撓性膜体内にビーズ状の微小粒子を充填することにより多孔質構造にする構成を採用することができる。さらに、前記可撓性膜体内にゲル剤を充填することにより多孔質構造にする構成を採用することができる。
【0016】
上記構成によれば、可撓性膜体の液体吐出ユニットとは反対側を多孔質構造にしたので、充填する熱媒体の量を削減できる。また、熱媒体を膜内の隅々にまで行き渡らせることができ、液体吐出ユニットの液体に対する保温効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターの構成を説明する断面図である。
【図2】インク吐出ユニットの構成を説明する平面図である。
【図3】インク吐出ユニットの構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの要部断面図である。
【図5】図3中の領域Aの拡大図である。
【図6】プリンターの電気的構成を説明するブロック図である。
【図7】第2実施形態におけるインク吐出ユニットの構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。なお、本実施形態では、液体吐出装置(液体噴射装置)の一形態である画像記録装置、詳しくは、ノズル開口群を等間隔で吐出対象物(又は記録媒体)となる記録紙の最大記録幅に相当する長さに配置した長尺な液体吐出ヘッド(以下、記録ヘッドという)を搭載したインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという)を例に挙げて説明する。
【0019】
図1は本発明に係るプリンター1の概略構成を説明する断面図、図2はプリンター1におけるインク吐出ユニット3の周囲の平面図である。本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット7による記録紙4の搬送方向(相対送り方向。以下、第一方向X)に直交する方向(以下、第二方向Y)に複数の記録ヘッド11(本発明の液体吐出ヘッドの一種)を配列して構成されるインク吐出ユニット3(本発明の液体吐出ユニットの一種)と、記録紙4(吐出対象物の一種)を積層状態で収納する給紙トレイ5a及び装置下部に設けられた下段給紙カセット5bからなる給紙部5と、これらの給紙部5a,5bから給紙された記録紙4をインク吐出ユニット3の下方を通過させて排紙トレイ10側に搬送する搬送ユニット(紙送り機構)7と、インク吐出ユニット3によって記録が行われ、搬送ユニット7側から排出された記録紙4を保持する排紙トレイ10とを備え、インク吐出ユニット3を第一方向Xに走査することなく記録紙4の記録領域の全幅にテキストや画像等を記録できるように構成されている。
【0020】
また、装置本体2の内部には、各部の電気的な制御を行うプリンターコントローラー65が設けられている。このプリンターコントローラー65は駆動信号発生回路73(図6参照)を有し、この駆動信号発生回路73からの駆動信号を信号ケーブルを通じて各記録ヘッド11に出力する。
【0021】
上記給紙トレイ5aは、上下方向に移動可能に構成されており、記録紙束の上面(最上部の記録紙4の上面)が常にピックアップローラー6と一定圧で当接するように筐体2に対する上下方向の位置が制御されている。そして、インク吐出ユニット3による記録動作の実行タイミングに応じて、記録紙束の最上部から記録紙4がピックアップローラー6により引き出され、分離ローラー12と分離パッド13とにより一枚毎に分離されて下流側へ給送されるようになっている。記録紙4は、図示しない紙センサー間を通った後、上下一対のレジストローラー14a,14bのニップ部に突き当たる。なお、下段給紙カセット5bからの記録紙4は、複数の中間ローラー15を経由してからレジストローラー14a,14bのニップ部に到達する。これにより、記録紙4の先端姿勢が揃い、記録紙4のスキューが補正される。その後、レジストローラー14a,14bは、規定のタイミングで記録紙4を互いにニップした状態で1枚ずつ搬送ユニット7側へと給送し、記録紙4が搬送ユニット7の搬送ベルト17に到達してから所定のタイミングでニップ状態を解放する。
【0022】
搬送ユニット7は、図示しない駆動モーターの駆動力によって回転される駆動ローラー18と、駆動ローラー18よりも上流側に配設された従動ローラー19と、駆動ローラー18及び従動ローラー19の間に張設される無端状の搬送ベルト17と、搬送ベルト17に張力を付与するテンションローラー20と、押えローラー21とにより構成されている。テンションローラー20は、駆動ローラー18と、従動ローラー19との間に配設されて搬送ベルト17に内側から当接し、ばね等の付勢部材の付勢力により搬送ベルト17に張力を付与している。また、押えローラー21は、搬送ベルト17を挟んで従動ローラー19の直上に配設され、搬送ベルト上の記録紙4を搬送ベルト17側に押し付けて、記録紙4の搬送ベルト17に対する密着性を高める。
【0023】
駆動ローラー18は、インク吐出ユニット3の記録動作に同期して駆動されることで搬送ベルト17を回転させ、記録紙4をインク吐出ユニット3の下方を通過させて下流側へと搬送するように構成されている。また、搬送ベルト17の回転量は、エンコーダーによって検出されるようになっている。そして、このエンコーダーの検出信号は、エンコーダーパルスとしてプリンターコントローラー65に出力される。
【0024】
記録紙4に対し一方の面のみに記録を行う場合は、一方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7から排紙トレイ10へと排紙される。一方、記録紙4の両面に記録を行う場合は、一方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7の下流に配設されたフラッパー22により、用紙反転経路R2へ搬送される。記録紙4が用紙反転経路のUターン部Tまで到達した後、搬送方向を転換させ、記録紙4は再度レジストローラー14a,14b、搬送ベルト17へと順次送られて他方の面の記録が終了した後、搬送ユニット7から排紙トレイ10へと排紙される。
【0025】
インク吐出ユニット3は、図2に示すように、ヘッドホルダー24に複数の記録ヘッド11を第二方向Yに配設するように構成されている。そして、本実施形態においては4つの液体吐出ユニット3a〜3dが、ヘッド長手方向を第二方向Yに揃えた姿勢で第一方向Xに一定の配置間隔で取付枠25に取り付けられている。
【0026】
各記録ヘッド11のノズル形成基板(ノズル形成面)46(図4参照)には、インクを吐出するノズル開口53(図4参照)を第二方向Yに沿って複数列設してノズル列を構成し、このノズル列を第一方向Xに複数並設している。1つのノズル列は、例えば360dpiのピッチで開設された360個のノズル開口から成る。そして、各記録ヘッド11には合計2列のノズル列が第一方向Xに並べて形成されている。上述のように本実施形態における記録ヘッド11のノズル形成基板46は、平面視において第二方向Yに長尺な形状となっている。そして、ヘッドホルダー24に取り付けられた状態において、平面視におけるノズル形成基板46の長辺方向が第二方向Yに平行となるように構成されている。
【0027】
図2に示すように、本実施形態においては、第1の液体吐出ユニット3aと第2の液体吐出ユニット3bとが対となり、また、第3の液体吐出ユニット3cと第4の液体吐出ユニット3dとが対となっている。対を成す2つの液体吐出ユニット3は、第二方向Yで見て全体としてノズル開口が360dpiで並ぶような配置間隔で記録ヘッド11が互い違いに2段の千鳥状に並ぶような配置レイアウトとなっている。なお、1つの液体吐出ユニット3における記録ヘッド11の個数は、プリンター1が対応可能な記録紙4の最大サイズに応じて決定される。取付枠25は、矩形枠体状の部材であり、金属等によって形成されている。この取付枠25の枠内は空部29となっており、この空部29内に液体吐出ユニット3の各記録ヘッド11が配置されるようになっている。
【0028】
図3は、インク吐出ユニット3の構成を示す断面図である。インク吐出ユニット3は、インク(本発明における液体の一種)を貯留するインクタンク31(本発明における液体貯留部の一種)と、インクタンク31と連通して当該インクタンク31内のインクを供給するインク供給管32(本発明における液体供給路の一種)と、インク供給管32から供給されたインクをノズル開口53(図4参照)から吐出する記録ヘッド11とを有し、ノズル開口53を外部に露出させた状態で筐体33内に収容されている。インクタンク31は、筐体33の内部に配置され、エアーポンプ等によるインクタンク31内の加圧によって、インクタンク31内に貯留されているインクがインク供給管32を通じてインク吐出ユニット3の各記録ヘッド11に供給(圧送)されるように構成されている。インク供給管32は、例えば、シリコーン等の合成樹脂で作製された可撓性を有する中空部材であり、このインク供給管32の内部には、各インクタンク31に対応するインク流路が形成されている。
【0029】
図4は、記録ヘッド11の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド11は、ヘッドケース35と、このヘッドケース35内に収納される振動子ユニット36と、ヘッドケース35の底面(先端面)に接合される流路ユニット37等を備えている。
【0030】
ヘッドケース35は、例えば、エポキシ系樹脂により作製された中空箱体状部材であり、その先端面(下面)には流路ユニット37を固定し、ケース内部に形成された収容空部38内には、アクチュエータの一種である振動子ユニット36を収容し、先端面とは反対側の上面側には、駆動基板39が配置される。また、ヘッドケース35の内部には、その高さ方向を貫通してケース流路40が形成されている。このケース流路40は、インク供給管32を介してインクタンク31側からのインクを共通インク室50に供給するための流路である。そして、ヘッドケース35の上面には、各ケース流路40の上流端として流入開口部41が突設されている。この流入開口部41には、インク供給管32が接続される。
【0031】
振動子ユニット36は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子42と、この圧電振動子42に駆動基板39からの駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル43(配線部材)と、圧電振動子42を固定する固定板44から構成される。圧電振動子42は、圧力発生室52の一部を区画する可撓面(振動板48)に接合されている。そして、この圧電振動子42は、駆動信号の印加により伸縮して圧力発生室52の容積を膨張又は収縮することで、圧力発生室52内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動の制御によりノズル開口53からインクを吐出させることができる。
【0032】
なお、ヘッドケース35の基端面(上面)に取り付けられた駆動基板39は、プリンター本体の駆動信号発生回路73(図6参照)からの駆動信号を受け、この駆動信号をフレキシブルケーブル43を通じて振動子ユニット36の圧電振動子42へ供給するための駆動信号を中継する基板である。この駆動基板39には、後述する温度センサー(本発明における温度検出部の一種)が接続されて、この温度センサーの検出温度(熱起電力)に応じた温度検出情報を出力する温度検出回路75(図6参照)を備えている。
【0033】
流路ユニット37は、ノズル開口53が開設されたノズル形成基板46、インク流路を形成する流路形成基板47、流路形成基板47の開口面を封止する振動板48を積層した状態で接合して一体化することにより作製されており、共通インク室50からインク供給口51及び圧力発生室52を通りノズル開口53に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成するユニット部材である。共通インク室50から分岐する圧力発生室52は、ノズル開口53毎に形成されており、インク供給管32側からケース流路40及び共通インク室50を介してインクが供給されるように構成されている。この流路ユニット37は、ノズル形成基板46を下側(記録紙に相対する方向)に向けた姿勢でヘッドケース35の先端面に接合される。したがって、このノズル形成基板46が記録ヘッド11におけるノズル形成面(ノズル面の一種)となる。
【0034】
さらに、本発明のプリンター1は、図3に示すように、液体吐出ユニット3内のインクの温度を保温する熱媒体循環機構54を備えている。熱媒体循環機構54は、ノズル開口53を外部に露出した状態でインク吐出ユニット3を覆う状態で循環流路55を形成し、この循環流路55内に水56(本発明における熱媒体の一種)を充填し、この水56を循環させながら熱交換することにより、当該インク吐出ユニット3内のインクの温度を保温するように構成されている。この熱媒体循環機構54は、インク吐出ユニット54内のインクの温度を検出する温度センサーと、温度センサーの検出した温度に基づいて水56の温度を調整する熱交換器58(本発明における熱交換部の一種)と、温度調整した水56を循環流路55内に循環させるポンプ59(本発明における循環駆動部の一種)と、熱交換器58及びポンプ59を制御する制御部71(図6参照)と、を備えている。なお、本発明における熱媒体は、水56に限らず、例えば、油やアルコールなどの液体であっても良い。即ち、本発明の熱媒体は、通常使用する環境温度において不凍であって、比熱の高い流体であれば良い。
【0035】
循環流路55は、筐体33の外部に配置された外部循環流路55aと、当該外部循環流路55aと連結し、筐体33の内部に配置された内部循環流路55bとからなる。外部循環流路55aは、内部循環流路55bに対して水の入口と出口となる開口を連通させる環状に形成されており、その途中に熱交換器58及びポンプ59を配置している。
【0036】
図5は、図3中の領域Aの拡大図である。内部循環流路55bは、インク吐出ユニット3(図面では記録ヘッド11)と水56とを隔てる膜61を介して、この膜61を挟んで反対側の空間である膜61内に収容(充填)されたビーズ62(本発明における微小粒子の一種)同士の間の隙間として形成されている。本実施形態における内部循環流路55bは、膜61を介してインク吐出ユニット3と接触した状態で筐体33の全域に亘って設けられている。膜61は、可撓性を有する袋状に形成されており、当該膜61を隔てて膜61内の水56と、インク吐出ユニット3とを細部にまで入り込んだ状態で密に接触させている。なお、ビーズ62は、例えば1〜3mm程度の粒子径のプラスチック粒からなり、膜61内に複数収容されることで、膜61内を多孔質構造にしている。したがって、内部循環流路55bのビーズ62間の隙間は、水56が流動する流路として機能する。
なお、本発明の内部循環流路55bは、膜61内にゲル剤を配置していても良い。このように、膜61内にゲル剤を配置して構成した循環流路では、ビーズ62を配置して構成した内部循環流路55bよりも、膜61内がより細かい多孔質構造に形成されるので、膜61を介してインク吐出ユニット3と水56とを接触させる面積が広くなり、インク吐出ユニット3内のインクと水56との熱伝導効率が高められる。
さらに、本発明の内部循環流路55bは、膜61内にビーズ62やゲル剤を配置する構成に限らず、熱媒体となる流体中に金属やカーボン等の微粒子を均一に分散させ、熱特性を付与した機能性流体を充填する構成であっても良い。即ち、本発明における多孔質構造を形成する微小粒子の径は、流体の流動特性を考慮して適宜選択することが可能である。
【0037】
温度センサーは、例えば熱電対からなり、温度検出回路75と電気的に接続されている。本発明の温度センサーは、記録ヘッド11に配置され、記録ヘッド11内のインクと直接または間接的に接触する位置に設けられている。このように構成された温度センサーは、温度検出回路75からの電気信号に基づいて、記録ヘッド11内のインクの温度を検出する。なお、本発明の温度センサーは、記録ヘッド11に配置する構成に限られず、インクタンク31やインク供給管32に配置しても良い。即ち、本発明の温度センサーは、インク吐出ユニット3内のインクの温度を検出できれば良い。特に、インクが吐出されるノズル開口53付近に温度センサーを配置する構成では、ノズル開口53内のインクの温度を検出でき、吐出する直前のインクの温度検出が可能となる。
【0038】
熱交換器58は、外部循環流路55aの途中に配置されており、ペルチェ素子などの熱交換素子を有している。この熱交換器58は、制御部71(図6)と電気的に接続されており、温度センサーによる温度検出信号が供給された制御部71からの電気信号を受けて、温度センサーが検出したインク吐出ユニット3内のインク温度に基づいて水56を冷却または加熱する。例えば、熱交換器58は、記録ヘッド11が発熱して温度センサーによって検出された温度が、予め設定されたインクの吐出に適した値よりも高温であるときには、熱交換素子と水56との間で熱交換を行うことで、水56を冷却する一方、温度センサーによって検出された温度が、予め設定されたインクの吐出に適した値よりも低温であるときには、水56を加熱するように設定されている。つまり、熱交換器58は、温度センサーの検出したインク吐出ユニット3内のインクの温度に基づいて水56の温度を調整する。
【0039】
ポンプ59は、熱交換器58と同様に外部循環流路55aの途中に配置されており、制御部71(図6)と電気的に接続されている。このポンプ59は、制御部71からの電気信号を受けることで、内部循環流路55bの出口から吸引した水56を熱交換器58に圧送し、熱交換器58によって温度調節された水56を、入口から内部循環流路55b内に戻し、膜61を介してインク吐出ユニット3内のインクの温度調整を行わせる。
【0040】
次に、プリンター1の電気的な構成を説明する。
図6は、プリンター1の電気的な構成を示すブロック図である。本実施形態におけるプリンター1は、プリンターコントローラー65とプリントエンジン66とで概略構成されている。プリンターコントローラー65は、ホストコンピューター等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インターフェース(外部I/F)67と、各種データ等を記憶するRAM68と、各種制御のための制御プログラム等を記憶したROM69と、EEPROMやフラッシュROM等からなる不揮発性記憶素子70と、ROM69に記憶されている制御プログラムに従って各部の統括的な制御を行う制御部71と、クロック信号を発生する発振回路72と、インク吐出ユニット3の各記録ヘッド11へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路73(駆動信号発生手段の一種)と、印刷データをドット毎に展開することで得られたドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド11に出力するための内部インターフェース(内部I/F)74とを備えている。
【0041】
プリントエンジン66は、記録ヘッド11と、紙送り機構(搬送ユニット)7とから構成されている。また、プリントエンジン66には、上記温度センサーが接続された温度検出回路75と、熱交換器58と、ポンプ59とが含まれる。この温度検出回路75は、温度センサーの検出信号をA/D変換し、温度検出情報として制御部71に出力するように構成されている。
【0042】
ここで、プリンター1では、圧電振動子42によるノズル開口53からのインクの吐出などによって記録ヘッド11内が加熱して、この記録ヘッド11の温度が次第に上昇する。これに伴って記録ヘッド内のインクの温度が上昇することにより、インクの粘度が変化(低下)してしまう。これにより、何らの対策を講じていない場合には、ノズル開口53から吐出されるインクの量や飛翔速度などの吐出特性が変動する虞があった。また、ノズル開口53毎のインクの温度の違いに応じてインクの吐出特性のバラツキが生じる虞があった。例えば、インクの粘度が低下すると、そのインクを吐出するノズル開口53から吐出されるインクの量が増加してしまう。或いは、インクの温度が予め設定した吐出に適した温度よりも低い場合には、インクの粘度が上昇してノズル開口53から吐出されるインクの量が減少してしまう。
【0043】
このため、上記制御部71は、温度センサーによる検出温度、即ち、温度検出回路75からの温度検出情報に基づいて熱交換器58に電気信号を供給して、当該熱交換器58により内部循環流路55b内の水56の温度を、温度センサーが検出したインク吐出ユニット3内のインク温度に基づいて、予め設定されたインクの吐出に適した温度に調整する。そして、制御部71は、ポンプ59に電気信号を供給して、熱交換器58によって温度調節された水56を循環流路55a,55b内に循環させる。このため、インク吐出ユニット3と内部循環流路55b内の水56とが膜61を介して接触し、インク吐出ユニット3と、内部循環流路55b内の水56との間で熱移動が行われる。これにより、インク吐出ユニット3内のインクの温度が予め設定されたインクの吐出に適した値に調整される。この結果、インクタンク31から記録ヘッド11のノズル開口53に至る一連のインク流路内においてインクの温度を一定に保温することができ、インク吐出ユニット3内のインクの粘度を調節することで、ノズル開口53から吐出されるインクの量や飛翔速度などの吐出特性を容易に安定化させることができる。
【0044】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態におけるプリンター1の構成を説明する断面図である。この第2実施形態においては、内部循環流路55bが、インク吐出ユニット3と接触した状態で筐体33内の一部に設けられていることに特徴を有する。第2実施形態の内部循環流路55bは、インク吐出ユニット3の熱容量に応じて筐体33内における内部循環流路55bの容積を設定することで、熱の伝達効率を維持しつつ、内部循環流路55bに充填する水56の量を削減することができる。
なお、本発明プリンター1は、循環流路55内の水56が、インク吐出ユニット3の熱容量を十分に吸収できる容積を有していれば、熱交換器58及びポンプ59は必ずしも備えていなくても良い。
【0045】
そして、本発明は、複数の駆動信号を用いて吐出制御が可能な液体吐出装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレー製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…プリンター,3…インク吐出ユニット,11…記録ヘッド,31…インクタンク,32…インク供給管,33…筐体,53…ノズル開口,55…循環流路,56…水,58…熱交換器,59…ポンプ,61…膜,62…ビーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部と連通して当該液体貯留部内の液体を供給する液体供給路と、
前記液体供給路から供給された液体をノズル開口から吐出する液体吐出ヘッドと、
を有する液体吐出ユニットを備えた液体吐出装置であって、
前記ノズル開口を外部に露出した状態で前記液体吐出ユニットを覆う循環流路を形成し、該循環流路内に熱媒体を充填し、この熱媒体を循環させて当該液体吐出ユニット内の液体の温度を調整することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッド内の液体の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出した温度に基づいて前記熱媒体の温度を調節する熱交換部と、
温度調節した前記熱媒体を前記循環流路内に循環させる循環駆動部と、
を備えたことを特徴する請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記循環流路は、前記液体吐出ユニットと前記熱媒体とを隔てる可撓性膜体を介して形成することを特徴する請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体吐出ユニットを収容する筐体を備え、
前記筐体内の少なくとも一部に前記循環流路を配設したことを特徴する請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記可撓性膜体の液体吐出ユニットとは反対側が多孔質構造であることを特徴する請求項3又は請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記可撓性膜体内にビーズ状の微小粒子を充填することにより多孔質構造にしたことを特徴する請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記可撓性膜体内にゲル剤を充填することにより多孔質構造にしたことを特徴する請求項5に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−214924(P2010−214924A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67568(P2009−67568)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】