説明

液体吐出装置

【課題】混色防止フラッシングにおける液体の無駄を抑制することができる、液体吐出装置を提供する。
【解決手段】インク吐出装置10は、第1サイズ検出部46b,46cが検出したサイズが第2サイズ検出部46aが検出したサイズよりも大きいときには、第1インクカートリッジ40b,40cに連通されたノズル22b,22cから強制的に吐出させるインクの量を第2インクカートリッジ40aに連通されたノズル22a,22bから強制的に吐出させるインクの量よりも少なくした第1のフラッシング動作を実行させるように複数の駆動部34を動作させるフラッシング制御部(制御部F)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド内に逆流した液体を強制的に排出する機能を有する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液体吐出装置の一例として、インクジェットプリンタのインク吐出装置が公知である。一般的なインク吐出装置は、インクを吐出する複数のノズルと、複数のノズルのそれぞれに個別に対応して設けられた複数の駆動部とを有するインク吐出ヘッドを備えており、印刷時には、各駆動部が選択的に動作されることによって各ノズルから用紙に向けてインクが吐出される。また、メンテナンス時には、インク吐出ヘッドのノズル形成面にノズルキャップが装着された後、ノズルキャップ内の空気が真空ポンプで吸引されることによって、インク吐出ヘッド内の増粘したインクや気泡がノズルからノズルキャップ内に強制的に排出される。
【0003】
増粘したインクや気泡を強制的に排出する処理は、一般に「パージ」と称されているが、真空ポンプで吸引する方式の「パージ」では、ノズルキャップ内が負圧になるため、真空ポンプの停止後にノズルキャップ内の圧力が上昇することによって、ノズルキャップ内のインクが各ノズルを逆流するおそれがある。したがって、複数色のインクを吐出するカラー印刷対応のインク吐出装置では、ノズルキャップ内で混合された各色のインクがノズル内のインクに混入して「混色」を生じるおそれがあり、印刷時に混色したインクが吐出されると、印刷品質が著しく損なわれる。
【0004】
そこで、従来では、特許文献1に記載されているように、「混色防止フラッシング」と称される各駆動部による強制的なインクの吐出動作(すなわち空吐出動作)を「パージ」の後に実行することによって、ノズル内に逆流したインクを本来吐出すべきインクと共にノズルから排出するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−73076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、インクカートリッジの交換手間の軽減等を望むユーザーのニーズから、或る特定色のインクについては、他の色のインクよりも初期容量が遥かに大きなインクカートリッジが提供されるようになり、インクジェットプリンタについては、標準的な容量のインクカートリッジと大容量のインクカートリッジとが選択的に装着できる構成が考えられている。このようなインクジェットプリンタにおいては、或る色のインクが大容量インクカートリッジから供給され、それ以外の色のインクが標準的な容量のインクカートリッジから供給される状況が生じる。
【0007】
本件発明者は、この状況に直面したことで、装着されたインクカートリッジが大容量である色のインクと標準的な容量である色のインクとを同じ条件で混色防止の空吐出をすると、インクカートリッジが大容量である色のインクの空吐出量が混色を防止するために必要な吐出量よりも多くなり、この色のインクの無駄が生じることに気付いた。
【0008】
すなわち、本件発明者は、鋭意検討の結果、各ノズルにおける液体の逆流の程度は、ノズルに連通されたインクカートリッジの液面とノズルの吐出口との高低差(水頭差)によって変動し、インクカートリッジの液面の高さがノズルの吐出口の高さよりも低いほど、ノズルの上流側に位置するインクに作用する圧力が低くなり、逆流の程度が大きくなることを知見し、この知見に基づいて、初期容量が小さいインクカートリッジでは、液面の高さが相対的に低くなって逆流の程度が大きくなるため、空吐出量を多めに設計することが望ましく、初期容量が大きいインクカートリッジでは、液面の高さが相対的に高くなって逆流の程度が小さくなるため、空吐出量を少なめに設計することが望ましいことを認識するに至ったのである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、初期容量が異なる複数種類の液体カートリッジが使用される環境において、各液体カートリッジに関する混色防止のための空吐出量を適正に定めることができ、液体の無駄を抑制することができる、液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、複数のノズルと、前記複数のノズルのそれぞれに個別に対応して設けられ、前記複数のノズルから液体を選択的に吐出させる複数の駆動部とを有する液体吐出ヘッドと、前記複数のノズルのうち少なくとも1つに連通され、内部に液体を収容する第1液体カートリッジと、前記複数のノズルのうち少なくとも他の1つに連通され、内部に液体を収容する第2液体カートリッジと、サイズの異なる複数種類の前記第1液体カートリッジが選択的に装着される第1カートリッジ装着部と、サイズの異なる複数種類の前記第2液体カートリッジが選択的に装着される第2カートリッジ装着部と、前記第1カートリッジ装着部に装着された前記第1液体カートリッジのサイズを検出する第1サイズ検出部と、前記第2カートリッジ装着部に装着された前記第2液体カートリッジのサイズを検出する第2サイズ検出部と、前記第1サイズ検出部が検出したサイズが前記第2サイズ検出部が検出したサイズよりも大きいときには、前記第1液体カートリッジに連通された前記ノズルから強制的に吐出させる液体の量を前記第2液体カートリッジに連通された前記ノズルから強制的に吐出させる液体の量よりも少なくした第1のフラッシング動作を実行させるように前記複数の駆動部を動作させるフラッシング制御部とを備える。
【0011】
一般に、液体カートリッジの初期容量は、サイズが大きいほど大容量であり、サイズが小さくなるほど小容量になることから、液体カートリッジのサイズと初期容量との間には、一定の相関関係があると考えられる。そこで、この構成では、第1および第2液体カートリッジのサイズを検出し、第1液体カートリッジのサイズが第2液体カートリッジのサイズよりも大きいときに、第1液体カートリッジの初期容量が第2液体カートリッジの初期容量よりも大きいと看做して、インクの逆流の程度が小さいと考えられる第1液体カートリッジに関する空吐出量を少なくしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体吐出装置によれば、各液体カートリッジのサイズに基づいて各液体カートリッジに関する空吐出量を調整しているので、初期容量を検出するための煩雑な検出装置は不要であり、簡単かつ安価に製造することができる。また、初期容量が異なる複数種類の液体カートリッジが混在する環境においても、各液体カートリッジに関する空吐出量を、各液体カートリッジのサイズ(すなわち初期容量)に基づいて適正に調整することが可能であり、混色防止フラッシングにおける液体の無駄を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は第1実施形態に係るインク吐出装置の構成を示す平面図である。
【図2】図2は第1実施形態に係るインク吐出装置の構成を示す断面図である。
【図3】図3(A),(B)および(C)のそれぞれは、「混色防止フラッシング動作(すなわち第1のフラッシング動作)」におけるインクカートリッジのサイズと空吐出量との関係を示す図である。
【図4】図4は第1実施形態に係るインク吐出装置の「メンテナンス処理」を示すフロー図である。
【図5】図5(A)は第1実施形態に係るインク吐出装置の「パージ動作」を示す断面図であり、図5(B)は第1実施形態に係るインク吐出装置の「リリース動作」を示す断面図である。
【図6】図6(C)は第1実施形態に係るインク吐出装置の「ワイピング動作」を示す断面図であり、図6(D)は第1実施形態に係るインク吐出装置の「混色防止フラッシング動作(すなわち第1のフラッシング動作)」を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施形態に係る「液体吐出装置」について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態に係る「液体吐出装置」は、「液体」としてのインクを用紙に吐出する「インク吐出装置」であるが、本発明は、フィルタ基材等に着色液を吐出する「着色液吐出装置」のような他の「液体吐出装置」にも適用可能であり、本発明を「着色液吐出装置」に適用する場合には、以下の説明で記載した「インク」を「着色液」に読み替える。また、以下の説明で記載した「下方」とは、インクを吐出する方向を意味し、「上方」とは、その反対の方向を意味する。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態に係るインク吐出装置10は、「吐出対象物」としての用紙Pを印刷領域Qに搬送する用紙搬送部Aと、印刷領域Qに搬送された用紙Pに画像を印刷する印刷部Bと、「パージ動作」に寄与するパージ部Cと、「ワイピング動作」に寄与するワイプ部Dと、「第1のフラッシング動作」としての「混色防止フラッシング動作」に寄与するフラッシング部Eと、これらを制御する制御部Fとを備えている。以下、これらの構成について具体的に説明する。
【0016】
[用紙搬送部Aの構成]
図1に示すように、用紙搬送部Aは、用紙Pを印刷領域Qに導く搬送経路12と、搬送経路12において印刷領域Qよりも上流側に配置された上流側搬送ローラ14aと、搬送経路12において印刷領域Qよりも下流側に配置された下流側搬送ローラ14bと、搬送ローラ14a,14bを所定のタイミングで回転させる駆動モータ16とを有している。駆動モータ16で搬送ローラ14a,14bを回転させて、用紙Pを印刷領域Qに搬送すると、用紙Pが印刷部Bの下方に位置し、用紙Pに対する印刷が可能になる。なお、以下の説明では、用紙Pの搬送方向を「副走査方向Y」といい、副走査方向Yに対して直交する方向を「主走査方向X」という。
【0017】
[印刷部Bの構成]
図1に示すように、印刷部Bは、インク吐出ヘッド20と、インク吐出ヘッド20にインクを供給するインク供給部24と、インク吐出ヘッド20を搭載するキャリッジ26と、キャリッジ26を往復移動させる走査部28とを有している。
【0018】
インク吐出ヘッド20は、図2に示すように、ノズル22a,22bおよび22cが形成されたノズル形成面22を有する流路ユニット30と、流路ユニット30に接合された駆動ユニット32とを有している。流路ユニット30は、インクを色ごとに収容する複数のマニホールド(図示省略)を有しており、複数のマニホールドのそれぞれに対してインクを吐出する複数のノズル22a,22bおよび22cが連通されている。つまり、イエロー(Y)のインクを収容するマニホールドに対して複数のノズル22aが連通されており、シアン(C)のインクを収容するマニホールドに対して複数のノズル22bが連通されており、マゼンダ(M)のインクを収容するマニホールドに対して複数のノズル22cが連通されている。なお、インクの「色数」および「色の種類」は、特に限定されるものではなく、2色または4色以上であってもよいし、ブラック(BK)のインクが用いられてもよい。また、各マニホールドに連通されるノズル22a,22bおよび22cの数は、少なくとも1つであればよく、ノズル22a,22bおよび22cが1つの場合には、マニホールドは省略されてもよい。
【0019】
駆動ユニット32は、ノズル22a,22bおよび22cのそれぞれに個別に対応する駆動部34を有しており、駆動ユニット32には、ドライバIC36を介して制御部F(図1)が電気的に接続されている。制御部FからドライバIC36に制御信号が付与されると、ドライバIC36から各駆動部34に対して駆動信号が付与され、各駆動部34に対応するノズル22a,22bおよび22cからインクが選択的に吐出される。
【0020】
インク供給部24は、図2に示すように、イエロー(Y)、シアン(C)およびマゼンダ(M)の3色のインクを収容する3つのインクカートリッジ40a,40bおよび40cと、インクカートリッジ40a,40bおよび40cが着脱自在に装着されるカートリッジ装着部42a,42bおよび42cと、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのそれぞれのインクを流路ユニット30(図2)の対応するノズル22a,22bおよび22cに供給する3本のインクチューブ44a,44bおよび44cと、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのサイズを検出するサイズ検出部46a,46bおよび46cとを有している。
【0021】
インクカートリッジ40a,40bおよび40cのそれぞれは、略直方体状の容器本体48a,48bおよび48cを有しており、容器本体48a,48bおよび48cの下部側面には、インクチューブ44a,44bおよび44cが連通されるインク出口50a,50bおよび50cが形成されている。また、容器本体48a,48bおよび48cの上面には、「サイズに関する情報」を含むバーコード等のような標示52a,52bおよび52cが印刷または貼着等によって付されている。そして、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの上方には、標示52a,52bおよび52cから「サイズに関する情報」を読み取ることによってサイズを検出する光学センサー等のようなサイズ検出部46a,46bおよび46cが配設されている。
【0022】
ここで、標示52a,52bおよび52cに含まれる「サイズに関する情報」とは、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのサイズが、「大」、「中」および「小」のいずれに属するかを示す情報であり、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの初期容量が「大容量」、「中容量」および「小容量」のいずれに属するかを間接的に示す情報である。したがって、サイズ検出部46a,46bおよび46cは、標示52a,52bおよび52cからインクカートリッジ40a,40bおよび40cのサイズを読み取ることによって、それらの初期容量を間接的に読み取ることができる。
【0023】
なお、サイズ検出部46a,46bおよび46cは、サイズごとに異なる位置に形成された突起を機械的に検知することによって「サイズに関する情報」を読み取るように構成されてもよいし、また、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの外形または輪郭を光学的または機械的に検知することによって「サイズに関する情報」を読み取るように構成されてもよい。
【0024】
カートリッジ装着部42a,42bおよび42cは、サイズの異なる複数種類のインクカートリッジ40a,40bおよび40cが選択的に装着される部分であり、本実施形態では、少なくとも「大」、「中」および「小」の3種類のインクカートリッジ40a,40bおよび40cが選択的に装着されるように構成されている。カートリッジ装着部42a,42bおよび42cが配設される位置は、最も大きなサイズ(本実施形態では「大」)のインクカートリッジ40a,40bおよび40cが装着された場合でも、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのそれぞれの内部における初期の液面高さがノズル22a,22bおよび22cの吐出口の高さよりも低くなり、かつ、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの底面が同じ高さになるように設計されている。
【0025】
なお、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの底面は、必ずしも同じ高さに位置している必要はなく、異なる高さに位置していてもよい。これによって、「小」のインクカートリッジ40aの初期の液面高さが、「大」のインクカートリッジ40b,40cの初期の液面高さと同じかそれよりも高くなったとしても、「大」のインクカートリッジ40b,40cの液面が降下する速度は、「小」のインクカートリッジ40aの液面が降下する速度よりも遅いため、使用を開始してしばらくすると、「大」のインクカートリッジ40b,40cの方が液面高さが高くなって、インク吐出ヘッド20におけるインクの逆流の程度が小さくなる。
【0026】
なお、本実施形態では、図2および図3(A)に示すように、イエロー(Y)のインクカートリッジ40aが「小」、シアン(C)のインクカートリッジ40bが「大」、マゼンダ(M)のインクカートリッジ40cが「大」となっているが、これらのサイズは適宜変更可能であり、たとえば、図3(B)に示すように、インクカートリッジ40a,40bおよび40cが、それぞれ「小」、「中」、「大」であってもよいし、図3(C)に示すように、インクカートリッジ40a,40bおよび40cの全てが同じサイズ(「大」、「中」または「小」)であってもよい。また、「特大」および「極小」等のようにインクカートリッジ40a,40bおよび40cの種類を増やしてもよい。
【0027】
キャリッジ26は、図1に示すように、副走査方向Yへ長く延びる略直方体状の部材であり、インク吐出ヘッド20を保持するホルダー部56と、ホルダー部56と一体に形成され、後述するガイドレール60a,60bのそれぞれに摺動自在に取り付けられる摺動部58a,58bとを有している。
【0028】
走査部28は、図1に示すように、キャリッジ26と共にインク吐出ヘッド20を主走査方向Xに往復移動させるものであり、キャリッジ26をガイドする2つの長尺板状のガイドレール60a,60bと、一方のガイドレール60bの長手方向一方端部に設けられた主動プーリ62aと、一方のガイドレール60bの長手方向他方端部に設けられた従動プーリ62bと、主動プーリ62aと従動プーリ62bとの間に掛け渡された環状の駆動ベルト64と、主動プーリ62aを回転させる駆動モータ66とを有しており、駆動ベルト64に対してキャリッジ26が固定されている。本実施形態では、搬送経路12を挟んだ両側のうち一方にパージ部Cが配置された「ホームポジションP1」が位置しており、他方にフラッシング部Eが配置された「フラッシングポジションP2」が位置していることから、走査部28は、少なくとも「ホームポジションP1」と「フラッシングポジションP2」との間をインク吐出ヘッド20が往復移動し得るように構成されている。
【0029】
なお、本実施形態の印刷部Bは、「シリアル方式」であるが、これに代えて、固定されたインク吐出ヘッドに対して用紙Pを移動させながら印刷を行う「ライン方式」が採用されてもよい。
【0030】
[パージ部Cの構成]
図2に示すように、パージ部Cは、キャリッジ26の停止時にインク吐出ヘッド20のノズル形成面22を覆うノズルキャップ70と、ノズルキャップ70の内部空間(以下、「キャップ空間」という。)Sから空気および廃インクを吸引する吸引部72と、ノズル形成面22にノズルキャップ70を装着し、または、ノズル形成面22からノズルキャップ70を離脱させるキャップ操作部74と、「パージ制御部」としての制御部Fとを備えている。
【0031】
ノズルキャップ70は、キャリッジ26の停止時にインク吐出ヘッド20のノズル形成面22に対向して位置する平面視略四角形の板状のキャップ本体80と、キャップ本体80の外周部上面から立ち上がって環状に形成されたリップ82とを有している。そして、キャップ本体80の中央部には、排出孔84が形成されている。
【0032】
吸引部72は、廃インクタンク90と、廃インクタンク90の入口90aと排出孔84とを連通する廃インク流路92と、廃インク流路92の途中に設けられた吸引ポンプ94と、廃インク流路92の途中の吸引ポンプ94よりも上流側に設けられた遮断弁96とを有している。したがって、遮断弁96を開いて吸引ポンプ94を駆動すると、キャップ空間S内の空気および廃インクが、吸引ポンプ94に引かれて排出孔84から排出され、廃インク流路92を通して廃インクタンク90に排出される。
【0033】
キャップ操作部74は、ノズルキャップ70を昇降させることによって、キャッピング状態とアンキャッピング状態とを切り換えるものであり、ノズルキャップ70の底面から下方に突出して形成された操作棒100と、ノズルキャップ70を下方に向けて付勢するコイルバネ102と、底部にラックギア104aを有する略三角形のカム104と、ラックギア104aに噛み合うピニオンギア106と、ピニオンギア106を回転させる駆動モータ108とを有している。したがって、駆動モータ108でピニオンギア106を回転させると、カム104が上下方向に対して直交する方向に移動され、操作棒100およびノズルキャップ70がカム104の傾斜面104bに沿って上昇または降下される。
【0034】
「パージ制御部」としての制御部Fは、ノズル形成面22にノズルキャップ70を装着するようにキャップ操作部74を動作させ、その後、吸引部72を動作させるものである。なお、一連のメンテナンス動作における「パージ動作」については後に詳細に説明する。
【0035】
[ワイプ部D]
図2に示すように、ワイプ部Dは、インク吐出ヘッド20のノズル形成面22に接触して、ノズル形成面22に付着したインクを拭き取るワイプブレード110と、ノズル形成面22にワイプブレード110を接触させ、または、ノズル形成面22からワイプブレード110を離間させるブレード操作部112と、「ワイプ制御部」としての制御部Fとを備えている。
【0036】
ワイプブレード110は、ゴム等のような弾性材料からなる板状のブレード本体110aと、ブレード本体110aの下部に取り付けられたブレードホルダ110bとを有しており、ブレード操作部112は、ブレードホルダ110bに取り付けられた雄ねじ部材112aと、雄ねじ部材112aに螺合された雌ねじ部材112bと、雌ねじ部材112bを回転させる駆動モータ112cとを有している。したがって、駆動モータ112cで雌ねじ部材112bを回転させると、その回転方向に応じて雄ねじ部材112aおよびワイプブレード110が上昇または降下される。
【0037】
「ワイプ制御部」としての制御部Fは、ノズル形成面22に付着したインクをワイプブレード110で払拭するようにブレード操作部112を動作させるものである。なお、一連のメンテナンス動作における「ワイピング動作」については後に詳細に説明する。
【0038】
[フラッシング部E]
図1に示すように、フラッシング部Eは、「混色防止」のためにインク吐出ヘッド20内に逆流したインクをノズル22a,22bおよび22cから強制的に吐出する「第1のフラッシング動作」としての「混色防止フラッシング動作」と、「乾燥防止」のためにインク吐出ヘッド20内のインクをノズル22a,22bおよび22cから強制的に吐出する「第2のフラッシング動作」としての「乾燥防止フラッシング動作」とに寄与するものであり、複数の駆動部34(図2)と、搬送経路12を挟んだノズルキャップ70の反対側に配設され、ノズル22a,22bおよび22cから強制的に吐出されたインクを受けて吸収するフラッシングフォーム120と、「フラッシング制御部」としての制御部Fとを備えている。
【0039】
「混色防止フラッシング動作(すなわち第1のフラッシング動作)」を実行させる際には、「フラッシング制御部」としての制御部Fは、サイズ検出部46a,46bおよび46から任意に選択した2つのうち一方を「第1サイズ検出部」とし、他方を「第2サイズ検出部」としたとき、「第1サイズ検出部」が検出したサイズが「第2サイズ検出部」が検出したサイズよりも大きいときに、「第1サイズ検出部」に対応する第1液体カートリッジに連通されたノズルから強制的に吐出させる液体(インク)の量(すなわち空吐出量)を、「第2サイズ検出部」に対応する第2液体カートリッジに連通されたノズルから強制的に吐出させる液体(インク)の量(すなわち空吐出量)よりも少なくするように複数の駆動部34を動作させる。
【0040】
つまり、図3(A)に示すように、本実施形態では、サイズ検出部46a,46bおよび46cが、それぞれ「小」,「大」および「大」を検出することから、制御部F(すなわちフラッシング制御部)は、ノズル22bおよび22cから強制的に吐出させるインクの量KbおよびKcを、ノズル22aから強制的に吐出させるインクの量Kaよりも少なくするように複数の駆動部34を動作させる。
【0041】
また、図3(B)に示すように、サイズ検出部46a,46bおよび46cが、それぞれ「小」,「中」および「大」を検出した場合には、制御部Fは、ノズル22c,22bおよび22aから強制的に吐出させるインクの量Kc,KbおよびKaを、この順番に少なくするように複数の駆動部34を動作させる。そして、図3(C)に示すように、サイズ検出部46a,46bおよび46cの全てが「大」を検出した場合には、制御部Fは、ノズル22a,22bおよび22cから強制的に吐出させるインクの量Ka,KbおよびKcを均一にするように複数の駆動部34を動作させる。
【0042】
さらに、図示していないが、サイズ検出部46a,46bおよび46cの全てが「中」を検出した場合には、制御部Fは、ノズル22a,22bおよび22cから強制的に吐出させるインクの量Ka,KbおよびKcを、全てが「大」である場合よりも多く、かつ、均一にするように複数の駆動部34を動作させ、サイズ検出部46a,46bおよび46cの全てが「小」を検出した場合には、全てが「中」である場合よりも多く、かつ、均一にするように複数の駆動部34を動作させる。
【0043】
一方、「乾燥防止フラッシング動作(すなわち第2のフラッシング動作)」を実行させる際には、「フラッシング制御部」としての制御部Fは、サイズ検出部46a,46bおよび46cの検出結果にかかわらず、全てのノズル22a,22bおよび22cから同量のインクを吐出するように複数の駆動部34を動作させ、蒸発により粘度が高くなったインクを同時に排出する。なお、この動作におけるインクの吐出量は、必ずしも同量である必要はなく、インクの粘度等に応じて適宜変更されてもよい。
【0044】
[制御部F]
図1に示すように、制御部Fは、「用紙搬送部A」の駆動モータ16、「印刷部B」の駆動部34(図2)、サイズ検出部46a,46b,46cおよび駆動モータ66、「パージ部C」の吸引ポンプ94および駆動モータ108、「ワイプ部D」の駆動モータ118、「フラッシング部E」の複数の駆動部34等の駆動部品を制御するものであり、図示していないが、各種の演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)および各種のプログラムまたはデータを記憶する記憶装置(RAM、ROM)等を有している。そして、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM、ROM)等に対して、上記駆動部品のそれぞれが電気配線122a〜122gを介して電気的に接続されている。
【0045】
[印刷動作]
図1に示すように、インク吐出装置10の印刷動作が開始されると、搬送ローラ14a,14bが回転されることによって、用紙Pが印刷領域Qに所定のタイミングで搬送される。また、駆動ベルト64が回転されることによって、キャリッジ26およびインク吐出ヘッド20が主走査方向Xに往復移動される。そして、ドライバIC36からインク吐出ヘッド20の複数の駆動部34に駆動信号が与えられることによって、当該駆動部34に対応する複数のノズル22a,22bおよび22cからインクが選択的に吐出され、用紙Pに画像が印刷される。
【0046】
[メンテナンス動作]
インク吐出装置10を継続的に使用すると、インク吐出ヘッド20の内部のインクが増粘したり、インク吐出ヘッド20の内部のインクに気泡が混入したりすることによって、インクの吐出不良を生じるおそれがある。そこで、本実施形態では、定期的に、或いは、任意の時期に、制御部Fによって図4に示す「メンテナンス処理」が実行される。
【0047】
「メンテナンス処理」が開始されると、まず、ステップS1において「パージ動作」が実行される。つまり、図5(A)に示すように、まず、走査部28によってインク吐出ヘッド20が「ホームポジションP1」に移動され、続いて、キャップ操作部74によってノズルキャップ70が上昇され、ノズル形成面22にリップ82が当接される。その後、遮断弁96を開いた状態で吸引ポンプ94が駆動され、キャップ空間S内の空気が吸引される。すると、キャップ空間S内に負圧が発生し、インク吐出ヘッド20内の増粘したインクや気泡が当該負圧に引かれてノズル22a,22bおよび22cからキャップ空間S内に排出される。キャップ空間S内に排出された廃インクは、廃インク流路92を通して廃インクタンク90に排出される。
【0048】
「パージ動作」が完了すると、ステップS3において遮断弁96が閉鎖され、ステップS5においてキャップ空間S内の負圧が抜けるまでその状態が保持される。負圧が抜けるまでの所定時間が経過すると、ステップS7において「リリース動作」が実行される。つまり、図5(B)に示すように、キャップ操作部74によってノズルキャップ70が降下され、ノズル形成面22からノズルキャップ70が離脱される。また、ステップS9において吸引ポンプ94による空吸引(すなわちワイプ前空吸引)が行われ、キャップ空間S内に残留していた廃インクが廃インクタンク90に排出される。
【0049】
そして、ステップS11において、「ワイピング動作」が実行される。つまり、図6(C)に示すように、まず、ブレード操作部112でワイプブレード110が上昇されることよってワイプブレード110がノズル形成面22に当接され、その後、走査部28によってインク吐出ヘッド20が主走査方向Xに移動される。すると、ワイプブレード110がノズル形成面22に対して相対的に移動され、ノズル形成面22に付着したインク等が払拭される。
【0050】
ステップS3〜S9の各工程では、キャップ空間S内の圧力が負圧から大気圧まで上昇するため、キャップ空間S内の廃インクが各ノズル22a,22bおよび22cを逆流するおそれがある。また、ステップS11の工程(ワイピング動作)では、ワイプブレード110によってノズル形成面22に付着したインクがノズル22a,22bおよび22c内に押し込まれるおそれがある。そこで、次のステップS13では、走査部28によってインク吐出ヘッド20が「フラッシングポジションP2」に移動され、続くステップS15において「混色防止フラッシング動作(すなわち第1のフラッシング動作)」が実行される。
【0051】
「混色防止フラッシング動作」が開始されると、図6(D)に示すように、まず、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのサイズがサイズ検出部46a,46bおよび46cによって検出され、その後、複数の駆動部34が駆動されることによって、当該サイズに従った所定量のインクがノズル22a,22bおよび22cからフラッシングフォーム120に強制的に吐出される。つまり、サイズが大きいインクカートリッジほど、それに関するインクの空吐出量が少なくなるように、複数の駆動部34の動作が制御される。なお、インクカートリッジ40a,40bおよび40cのサイズは、これらがカートリッジ装着部42a,42bおよび42cに装着された時点で検出されてもよい。また、「混色防止フラッシング動作」において吐出されるインクの量は、空吐出の回数を変更することによって調整されてもよいし、1回の空吐出の量を変更することによって調整されてもよい。
【0052】
「混色防止フラッシング動作(すなわち第1のフラッシング動作)」が完了すると、ステップS17においてインク吐出ヘッド20が「ホームポジションP1」に移動され、ステップS19において吸引ポンプ94による空吸引(すなわちキャッピング前空吸引)が行われ、ステップS21において「キャッピング動作」が実行される。つまり、キャップ操作部74によってノズルキャップ70が上昇され、ノズル形成面22にリップ82が当接される。
【0053】
また、定期的に、或いは、任意の時期に「フラッシング制御部」としての制御部Fによって「乾燥防止フラッシング動作(すなわち第2のフラッシング動作)」が実行され、全てのノズル22a,22bおよび22cから蒸発により粘度が高くなったインクが同時に排出される。
【符号の説明】
【0054】
A… 用紙搬送部
B… 印刷部
C… パージ部
D… ワイプ部
E… フラッシング部
F… 制御部
P… 用紙
Q… 印刷領域
X… 主走査方向
Y… 副走査方向
10… インク吐出装置(液体吐出装置)
20… インク吐出ヘッド(液体吐出ヘッド)
22a,22b,22c… ノズル
22… ノズル形成面
24… インク供給部
26… キャリッジ
28… 走査部
30… 流路ユニット
32… 駆動ユニット
34… 駆動部
36… ドライバIC
40a,40b,40c… インクカートリッジ(液体カートリッジ)
42a,42b,42c… カートリッジ装着部
46a,46b,46c… サイズ検出部
70… ノズルキャップ
72… 吸引部
74… キャップ操作部
94… 吸引ポンプ
96… 遮断弁
110… ワイプブレード
112… ブレード操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルと、前記複数のノズルのそれぞれに個別に対応して設けられ、前記複数のノズルから液体を選択的に吐出させる複数の駆動部とを有する液体吐出ヘッドと、
前記複数のノズルのうち少なくとも1つに連通され、内部に液体を収容する第1液体カートリッジと、
前記複数のノズルのうち少なくとも他の1つに連通され、内部に液体を収容する第2液体カートリッジと、
サイズの異なる複数種類の前記第1液体カートリッジが選択的に装着される第1カートリッジ装着部と、
サイズの異なる複数種類の前記第2液体カートリッジが選択的に装着される第2カートリッジ装着部と、
前記第1カートリッジ装着部に装着された前記第1液体カートリッジのサイズを検出する第1サイズ検出部と、
前記第2カートリッジ装着部に装着された前記第2液体カートリッジのサイズを検出する第2サイズ検出部と、
前記第1サイズ検出部が検出したサイズが前記第2サイズ検出部が検出したサイズよりも大きいときには、前記第1液体カートリッジに連通された前記ノズルから強制的に吐出させる液体の量を前記第2液体カートリッジに連通された前記ノズルから強制的に吐出させる液体の量よりも少なくした第1のフラッシング動作を実行させるように前記複数の駆動部を動作させるフラッシング制御部とを備える、液体吐出装置。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルが形成されたノズル形成面を覆うノズルキャップと、
前記ノズル形成面に前記ノズルキャップを装着し、または、前記ノズル形成面から前記ノズルキャップを離脱させるキャップ操作部と、
前記ノズルキャップ内の空気を吸引する吸引部と、
前記ノズル形成面に前記ノズルキャップを装着するように前記キャップ操作部を制御し、次に、前記ノズルキャップ内に負圧を発生させるように前記吸引部を制御し、その後、前記ノズルキャップを前記ノズル形成面から離脱させるように前記キャップ操作部を制御することで、ノズル内のインクを排出するパージ動作を行なわせるパージ制御部とを備える、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルが形成されたノズル形成面に接触して、前記ノズル形成面に付着した液体を拭き取るワイプブレードと、
前記ノズル形成面に前記ワイプブレードを接触させるとともに、その接触状態で前記ワイプブレードを前記ノズル形成面に対して相対移動させるブレード操作部と、
前記ブレード操作部を制御して前記ワイプブレードにより前記ノズル形成面を払拭するワイピング動作を行なわせるワイプ制御部とを備える、請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記フラッシング制御部は、前記パージ制御部によるパージ動作が実行され、次に前記ワイプ制御部によってワイピング動作が実行された後に、前記第1のフラッシング動作を実行させる、請求項3に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51177(P2011−51177A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200947(P2009−200947)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】