説明

液体吐出装置

【課題】 吐出口基板の変形に伴う液体の吐出方向のずれが発生しにくく、吐出口部の目詰まりによる不吐出を検出できる液体吐出装置を提供する。
【解決手段】 液体吐出装置は、エネルギー発生素子10が液体を吐出するためのエネルギーを発生した際に、吐出口4から液体が吐出された場合と比べ、吐出口基板3が液体の吐出方向に向かってより凸となる場合に、吐出口部4aに詰まりがあると判断する判断部39を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置、特にインクジェット装置は、現代のビジネスオフィスやその他の事務処理部門において広汎に使用されている。インクジェット装置は、ドロップ・オン・デマンド型と連続噴射型に大別される。
【0003】
ドロップ・オン・デマンド型のみならず連続噴射型のインクジェット装置においても、吐出口での異物付着やインク増粘等により目詰まりが生じて、インクが吐出されない不吐出が発生する恐れがある。特に、ラインヘッドにより記録の高速化を目指す場合は、不吐出補完が難しいため、不吐出検出の必要性がより高くなる。
【0004】
特許文献1は、圧電材料で構成した吐出プレートの変形に伴う起電力を検出することにより、記録中にインク吐出の異常の有無を判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の液体吐出装置では、液体が正常に吐出されたときの、吐出口基板(特許文献1に記載のノズルプレート33)の変形量よりも、その変形量が小さいときに、液体が正常に吐出されなかったと判断するものである。そのため、特許文献1の図5に示されるように、吐出口基板には、スリット33aが設けられており、液体の吐出に伴って吐出口基板が変形やすい構成となっている。このように吐出時に変形が生じやすい吐出口基板を用いると、吐出口基板の変形によって液体の吐出方向のずれが生じる可能性が高くなり、記録媒体への液体の着弾位置ずれが起き、画質が低減する恐れがある。
【0007】
そこで、本発明は、吐出口基板の変形に伴う液体の吐出方向のずれが発生しにくく、吐出口部の目詰まりによる不吐出を検出できる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口が設けられた面と、前記吐出口を含む吐出口部と、を有する吐出口基板と、前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、前記エネルギー発生素子がエネルギーを発生した際に、前記吐出口から液体が吐出された場合と比べ、前記吐出口基板が液体の吐出方向に向かってより凸となる場合に、前記吐出口部に詰まりがあると判断する判断部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吐出口基板の変形に伴う液体の吐出方向のずれが発生しにくく、吐出口部の目詰まりによる不吐出を検出できる液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】連続噴射型インクジェットヘッドの吐出口付近の模式断面図
【図2】連続噴射型インクジェット装置のシステム図
【図3】連続噴射型インクジェットヘッドの吐出口の列に沿った模式断面図
【図4】吐出プレートと記録媒体の位置関係を示す模式平面図
【図5】連続噴射型インクジェット装置の電気構成図
【図6】実施例1の吐出プレートの吐出口付近の模式断面図と模式平面図
【図7】吐出プレート上のひずみゲージの配線パターンとその拡大図
【図8】図7の拡大図
【図9】配線パターンの動作原理図を示す電気回路
【図10】ブリッジ回路
【図11】吐出プレートの吐出口付近の模式断面図と模式平面図
【図12】吐出プレートの吐出口付近の模式平面図とブリッジ回路図
【図13】ひずみゲージ5に関する制御構成を示すブロック図
【図14】記録中に目詰まり検知する手順を示すフローチャート図
【図15】実施例2の半導体ひずみゲージを設けた吐出プレートの構成の模式断面図と模式平面図
【図16】実施例3の吐出プレートの吐出口付近の模式断面図と模式平面図
【図17】温度補正動作のフローチャート
【図18】実施例4の吐出プレートの吐出口付近の模式断面図と模式平面図
【図19】実施例5のドロップ・オン・デマンド型インクジェットヘッドの模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示する。ただし、例示する実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する主旨のものではない。
【0012】
(実施例1)
本実施例では、液体吐出装置としての連続噴射型インクジェット装置の一例について詳説する。
最初に、連続噴射型インクジェット装置の構成について、図2を用いて説明する。図2は、連続噴射型インクジェット装置のシステム図である。連続噴射型インクジェット装置は、インクジェットヘッド25(液体吐出ヘッド)、インクタンク27、圧力付与手段26、インク供給管29、インク排出管28、インク搬送管34からなる。インク排出管28はインクジェットヘッド25内で回収されたインクを排出する。インクタンク27はインク排出管28を経た回収インクを受け入れると共に、貯留したインクを圧力付与手段26のポンプ作用によりインク搬送管34、インク供給管29を経てインクジェットヘッド25に連続的に供給する。
【0013】
インクジェットヘッド25の吐出口4の列に沿った模式断面図を図3に示す。図3のように、インクジェットヘッド25は、基台8、圧電素子10(エネルギー発生素子)、振動板9、インク供給口12、圧力室1、吐出プレート3(吐出口基板)、吐出口4、帯電電極20、偏向電極21、インク回収ガター22を有している。吐出プレート3の材料としては例えばポリイミドが用いられる。エネルギー発生素子としての圧電素子10は、吐出口4から液体を吐出するためのエネルギーを発生する。吐出口4から吐出液滴6が吐出される。帯電電極20と偏向電極21、インク回収ガター22は、各吐出口4ごとに対応して設けられている。各帯電電極20は筒状であり、その中で選択された吐出液滴6を所定の帯電量で帯電する。各偏向電極21は2枚の電極板からなり、帯電された吐出液滴6をインク回収ガター22に偏向する。インク回収ガター22は偏向した吐出液滴6を受け入れて捕獲した上で回収する。
【0014】
吐出プレート3と記録媒体24の位置関係を示す模式平面図を図4に示す。図4に示すように、吐出プレート3には複数の吐出口4が、記録媒体の搬送方向に対して角度θを傾けて等間隔で形成されている。また、各吐出口4の列は、記録媒体24の全幅Lに対応した範囲に、複数設けられている。
【0015】
連続噴射型インクジェット装置の電気構成図を図5に示す。図5のように、インクジェット装置の電気構成は、励振回路30、帯電制御回路31、高圧電源32からなる。励振回路30はインクジェットヘッド25内の圧電素子10を高周波励振する。帯電制御回路31はインクジェットヘッド25内の各帯電電極20に接続され、記録画像情報に基づいた帯電信号を出力する。高圧電源32はインクジェットヘッド25内の各偏向電極21に対して高電圧を印加する。各偏向電極21の電極対をDC電源に接続することで、電極間に一様な電界が形成される。
【0016】
次にインクジェット装置の動作について説明する。参照する構成図は、図2と図3と図5である。連続噴射型インクジェット装置では、圧力付与手段26を駆動することにより、インクタンク27内のインクをインク供給管29経由でインクジェットヘッド25内の圧力室1に所定の圧力で連続的に給送する。励振回路30からの高周波電圧印加で振動する圧電素子10により、振動板9を高周波励振し、各吐出口4から流出する各インク流に振動を与える。この振動に同期して、各帯電電極20を通過する間に各インク流の先端部は順次分離し液滴化する。このようにして、飛翔方向に一定間隔で順次液滴化された吐出液滴6の流れを形成する。次いで、帯電制御回路31で制御される各帯電電極20により、飛翔する各吐出液滴6は所定の帯電量で帯電される。ここでは、吐出液滴6は、帯電液滴と非帯電液滴とに区分される。帯電液滴は、それぞれの偏向電極21により各インク回収ガター22へ偏向されて、各インク回収ガター22に捕獲される。非帯電液滴は、そのまま直進して記録媒体24に着弾する。所定方向に記録媒体24を搬送しながら、上記のように、吐出液滴6の飛翔方向を選択することで吐出液滴6が選択的に記録媒体24に着弾され、画像の記録が行われる。インク回収ガター22に捕獲された各帯電液滴は、再使用のために、インク排出管28を経てインクタンク27内に回収される。
【0017】
次に、吐出口4を含む吐出口部4aに目詰まりがある場合とない場合の吐出プレート3の変形について説明する。図3の連続噴射型のインクジェットヘッド25の吐出口4付近を拡大した模式断面図を図1に示す。吐出口部4aは、吐出口4を含み、吐出口4と圧力室1とを連通する部分である。
【0018】
図1(a)に示すように、吐出プレート3に形成された吐出口部4aに目詰まりした物質がない場合、前記したように、圧力室1内のインクが矢印で示す圧力2により吐出口4からインク流となって噴出し、高周波振動によりインク流から吐出液滴6が形成される。ここでは、「インク(液体)が吐出される」ということは、図1(a)のように、吐出口部4aに目詰まりする物質がなく、正常に吐出液滴6が形成されることを意味する。
【0019】
一方、図1(b)に示すように、吐出口部4aに目詰まりした物質7がある場合、目詰まりした物質7上に新たに圧力2が加わり圧力2が加わる面積が増えるため、目詰まりした物質7がない場合と比べて吐出プレート3の変形量が大きくなる。ここで、「吐出プレート3の変形量が大きくなる」ということは、吐出プレート3がインク吐出方向(図1の下方向)に向かってより凸になるように、吐出プレート3にひずみが生じることを意味する。
【0020】
目詰まりによって発生する新たな力をF、吐出口4の開口面積をS、液室内の圧力2をP、大気圧をP0とすると、F=S×(P−P0)である。なお、異物付着やインク増粘によって吐出口4の目詰まりが生じるため、目詰まりした物質7は吐出プレート3の材料と比べて通常は剛性が桁違いに小さく吐出プレート3との締結力も弱いので、吐出プレート3の剛性を高くしない。したがって、吐出口部4aに目詰まりがなく、インクが吐出される場合には吐出プレート3は変形しにくく、目詰まりがある場合には、吐出プレート3はインク吐出方向に向かって凸の形状となる。上記のような吐出プレート3の変形量の差を検知することで吐出口部4aの目詰まりの有無を検出する。吐出プレート3の変形量を測定するための変形量測定素子としてのひずみゲージ5を設けており、このひずみゲージ5により吐出口4の周囲のひずみを検出する。
【0021】
ひずみゲージ5を設けた吐出プレート3の構成について、図6を用いて説明する。図6は、吐出プレート3の吐出口4付近の(a)模式断面図と(b)模式平面図であり、(a)は(b)のA−A断面図である。ひずみゲージ5は、吐出プレート3の吐出口4が設けられた側の面上に形成されている。ひずみゲージ5は、例えば、金属はくなどの電気抵抗体である。金属はくを用いたひずみゲージ5は、吐出口4の周縁に金属はくを形成し、この金属はくの両端に配線13を形成してなる。
【0022】
吐出プレート3上のひずみゲージ5の配線パターン33は例えば図7(a)のようになる。図7(a)の仕様は、解像度が600dpi、吐出口列数が60列、1列あたり200ノズルである。図7(a)の拡大図を図7(b)に示す。図7(b)に示すように、記録媒体24の搬送方向に関する、吐出プレート3の上半分のひずみゲージ5の配線パターン33を吐出プレート3の外側へ搬送方向に引き出し、下半分を吐出プレート3の外側へ搬送方向と逆方向に引き出す。図7(b)の拡大図を図8に示す。寸法に関しては、例えば、図8に示すように、吐出口4のピッチL1が42.3μm、吐出口列上の隣接する二つの吐出口4の間隔L2が169.2μm、ひずみゲージ5の外周直径L3が10μm、配線パターン33の幅L4が10μmである。複数のひずみゲージ5を直列に接続している配線パターン33aは定電流源(不図示)に接続されている。また、個々のひずみゲージ5の両側の配線パターン33bは電圧計(不図示)に接続されており、一定の電流が流れた時の個々のひずみゲージ5に生じる電圧を測定することができる。
【0023】
配線パターン33の動作原理図を示す電気回路を図9に示す。ひずみゲージ5である抵抗は定電流源36に接続されており、ひずみゲージ5に一定の電流が流れる。そのとき、ひずみゲージ5に生じる電圧を電圧計35で測定する。
【0024】
ひずみゲージ5の金属はく形成はたとえば蒸着法等の気相めっきで行う。金属はくを形成しない部分にはマスクを形成して、気相めっきを行うことにより、被膜金属である金属はくが所望部分に蒸着され、金属はくが形成される。
【0025】
次は、ひずみゲージ5の基本原理について説明する。ひずみゲージ5は被測定物のひずみを抵抗体の電気抵抗変化に変換する素子である。抵抗体の長さをL[m],断面積をS[m]とすると、抵抗率ρ[Ω・m]から、全抵抗値R[Ω]は、R=ρL/Sとなる。ここで、抵抗体が伸びると、長さは長くなり断面積は小さくなり、抵抗が増加する。逆に縮むと、長さは短くなり断面積は大きくなり、抵抗が減少する。抵抗率はどちらの場合も変化する。抵抗体が伸びたときの、抵抗増加分と長さ増加分との関係を求めると式(1)で表せる。ただし、ΔRは抵抗変化分、ΔLは長さ変化分、ΔSは断面積変化分、ρ’は変化後の抵抗率である。
R+ΔR=ρ’×(L+ΔL)/(S−ΔS) (1)
ここで、金属の場合、抵抗率の変化(ρ−ρ’)は微小なので、式(2)で表せる。
R+ΔR≒ρ×L/S+{ρ’/(S−ΔS)}×ΔL (2)
従って、式(3)が成り立つ。
ΔR/R=(ρ’/ρ)×{S/(S−ΔS)}×(ΔL/L)
=Kg×(ΔL/L) (3)
このひずみ(ΔL/L)に対する抵抗変化(ΔR/R)の係数Kgがゲージ率と呼ばれている。この抵抗変化を電圧に変換する電気回路としては、図9に示した回路の他に、ブリッジ回路がある。
【0026】
抵抗変化を電圧に変換するブリッジ回路について、図10を用いて説明する。図10のように、各抵抗をR1、R2、R3、R4[Ω]とし、入力電圧をEi[V]とすると、出力電圧Eo[V]は、式(4)のようになる。
Eo=(R1×R4−R2×R3)/{(R1+R2)(R3+R4)}×Ei (4)
いま、抵抗R1をひずみゲージ5とし、ひずみによりR1がΔRだけ変化したとすると、式(5)となる。
Eo=((R1+ΔR)R4−R2×R3)/{(R1+ΔR+R2)(R3+R4)}×Ei (5)
ここで、R1=R2=R3=R4=Rとすれば、式(6)が成り立つ。
Eo=((R+ΔR)R−R×R)/{(2R+ΔR)2R}×Ei
≒(1/4)×(ΔR/R)×Ei (6)
したがって、ΔRが小さな変化においては、出力電圧が抵抗変化分ΔRに比例することになり、ひずみに比例した電圧が得られる。
【0027】
次に、吐出口4の周縁の円周のひずみを金属はくで検出する場合の例について図11を用いて説明する。図11は、図3の吐出プレート3の吐出口4付近を切り出した(a)模式断面図と(b)模式平面図であり、(a)は(b)のB−B断面図である。切り出した吐出プレート3のサイズと厚さはそれぞれ30μm四方、3μmで、吐出口4は直径8μmの円で、吐出口4の周縁の円周は25133nmである。吐出プレート3の材料としてポリイミドを用い、密度を1400[kg/m3]、ヤング率を3.3GPa、ポアソン比を0.33とした。目詰まりした物質7の材料特性として、密度を1000[kg/m3]、ヤング率を0.17GPa、ポアソン比を0.30とした。なお、目詰まりした物質7は吐出プレート3の材料と比べて剛性が桁違いに小さいものとし、吐出プレート3の剛性を高くしないものとした。吐出口4に目詰まりがある場合とない場合において、この吐出プレート3の吐出口4が設けられた面に垂直な方向に、吐出プレート3に1MPaの圧力2(図1参照)がかかったときの、吐出口4の周縁の円周のひずみをシミュレーションにより求めた。
【0028】
シミュレーションの結果、目詰まりなしのとき、吐出プレート3の吐出口4が設けられた側の面の吐出口4付近において、インクジェットヘッドの長手方向であるX方向の変位は22μmであった。一方、目詰まりありのとき、吐出プレート3の吐出口4が設けられた側の面の吐出口4付近において、X方向の変位は28μmであり、目詰まりなしのときより、吐出プレート3が大きく変形した。それぞれの変位量があったとき、目詰まりなしのときの吐出口4の周縁の円周は25271nm、目詰まりありのときは25309nmとなり、ひずみは0.1%となった。
【0029】
次に、上記のひずみ0.1%の検知をブリッジ回路を用いて行う例について、図12を用いて説明する。図12は、吐出プレート3の吐出口4付近の模式平面図とブリッジ回路37である。なお、模式平面図は図6と同様で、ブリッジ回路37は図10と同様である。例えば、抵抗体の長さLが25.1μm、抵抗体の断面積Sが1μm×厚0.01μm、抵抗体の抵抗率ρが490nΩm(金属はくがCu−Ni合金の場合)のとき、抵抗体の抵抗Rは式R=ρ・L/SよりR=1.23kΩとなる。ひずみ(ΔL/L)が0.001(0.1%)、ゲージ率(Kg)が2のとき、抵抗体の抵抗変化ΔRは、式(3) よりΔR=24.6Ω(ΔR/R=0.002)となる。なお、ゲージ率は金属の電気抵抗体の場合、2〜4.5である。ブリッジ電源電圧Eiが2Vのとき、ブリッジの出力電圧Eoは式(6) よりEo=1mVとなる。
【0030】
次は、目詰まり検知動作の例について図13、図14を用いて説明する。図13は、ひずみゲージ5に関する制御構成を示すブロック図である。図14は記録中に目詰まり検知する手順を示すフローチャート図である。
【0031】
図13に示すように、ひずみゲージ5は電圧出力回路38に、電圧出力回路38はインクジェット装置に設けられた判断部39に接続されている。なお、電圧出力回路38としては、上述した図9や図12の構成等を用いることができる。ひずみゲージ5の抵抗変化に基づき出力された電圧やこれに対応する吐出プレート3の変形量から、以下のように、判断部39が吐出口部4aの目詰まりの有無を検知する。
【0032】
記録を開始したあと、記録中、ひずみゲージ5で吐出プレート3の変形量を検知する(図14のST1)。判断部39は、検知した変形量を目詰まりなしのときの変形量である所定値と比較し、双方の差を算出する(図14のST2)。なお、目詰まりなしのときの変形量は記録開始前にひずみゲージ5で検知して、記憶しておく。変形量の差が閾値以上なら、判断部39は、目詰まり有りと判定する(図14のST3)。このとき、変形量に対応する出力電圧値を比較してもよい。目詰まりを検知した後、記録動作を中断し、吐出口4からインクを吸引する、吐出口4からインクを予備吐出する等の回復動作を行う(図14のST4)。差が閾値以上でない(図14のST3)なら、記録動作終了でない限り(図14のST5)、記録動作を続行する。図14では、記録中に目詰まりを検知する場合について説明したが、記録動作を行う前に上述の目詰まり検知のための動作を行ってもよい。
【0033】
上述のように、吐出口4の周縁の円周のひずみを金属はくで検知し、目詰まりがあるときとないときのひずみの差を算出することにより、目詰まり検出が可能になる。
上述の構成によると、インク吐出時において吐出プレート3が変形しにくいので、吐出プレート3の変形に伴うインクの吐出方向のずれが発生しにくく、また、吐出口部4aの目詰まりによる不吐出を検出できる。
【0034】
また、吐出プレート3にひずみゲージを設ければよいので、吐出方式によらず、吐出口4の目詰まりを検出することができる。特に、上述した連続噴射型のインクジェットヘッドでは、連続的に液滴を吐出するように圧電素子10が高周波励振されるので、吐出口部4aに目詰まりがある場合に、吐出プレート3に変形が生じやすく、目詰まりの検知が行いやすい。
【0035】
また、吐出口4ごとにひずみゲージ5を設けることで、各吐出口4について個別に目詰まりを検出することができる。また、大掛かりな装置構成が不要で、低コスト化を図ることが可能である。
【0036】
(実施例2)
本実施例では、ひずみゲージ5として、金属はくの代わりに半導体ひずみゲージを用いた例について説明する。実施例1と同様の構成については説明を省略する。
半導体ひずみゲージとは、金属抵抗体の代わりにシリコン半導体の抵抗を用いたひずみゲージ5である。半導体ひずみゲージとして、吐出プレート3の吐出口4が設けられた側の面上に電気的な絶縁膜を介して形成した多結晶シリコンのピエゾ抵抗体を用いた例を説明する。ピエゾ抵抗体に伸縮が起こると、ピエゾ抵抗効果により抵抗が変化し、抵抗値の変化が金属はくの抵抗に比べて大きく、小型化できる特徴をもっているため、高密度に配置された吐出口4の周縁に設ける場合に適している。
【0037】
図15は、半導体ひずみゲージを設けた吐出プレート3の構成の、(a)模式断面図と(b)模式平面図であり、(a)は(b)のC−C断面図である。図15のように、半導体ひずみゲージは、ピエゾ抵抗体、すなわち、ひずみゲージ5を絶縁膜14を介して、吐出プレート3上の吐出口4の周縁に形成し、ひずみゲージ5の両端に配線13を形成してなる。
【0038】
半導体ひずみゲージの製造は、例えば、吐出プレート3上に絶縁用の酸化シリコンと多結晶シリコンのひずみゲージ5を蒸着によって形成する。半導体ひずみゲージを吐出プレート3上に貼付する方法としては、接着剤を使う方法が一般的であるが、蒸着等の気相めっきにより直接、半導体ひずみゲージを形成する方法が適している。その方法(薄膜製造技術)として、例えば、P−CVD(プラズマ化学気相成長)の技術がある。
【0039】
半導体ひずみゲージの原理は実施例1と同様である。異なるのはゲージ率( Κg )である。半導体ひずみゲージの場合、ゲージ率が100以上可能なので、ここでは100として計算する。ひずみ(ΔL/L)が0.001(0.1%)のとき、式(3) よりΔR/R=0.1となる。ブリッジ電源電圧Eiが2Vのとき、ブリッジの出力電圧Eoは式(6)よりEo =0.05Vとなる。
【0040】
上述のように、金属はくの出力電圧が1mVに対して、半導体ひずみゲージは0.05Vであり、金属はくより半導体ひずみゲージのほうが感度が高い。
【0041】
(実施例3)
上述の実施例では、温度変化を考慮していない。ひずみゲージは温度変化によって抵抗値が変化するため、温度補正が必要である。抵抗体の長さが25100nm、断面積が幅4000nm×厚500nm、抵抗率が490nΩm(Cu−Ni合金)、抵抗温度係数が50ppm/度の場合、インクジェットヘッドの作動温度の範囲でブリッジ出力電圧は約2×10−4 mV/℃の割合で変化する。
本実施例は、温度補正を行うことが可能であり、上述の実施形態と同様の点については記載を省略する。
【0042】
図16は、吐出プレート3の吐出口4付近の(a)模式断面図と(b)模式平面図で、(a)は(b)のD−D断面図である。図16のように、吐出プレート3の吐出口4が設けられた側の面上に、吐出プレート3上の温度を検出するための温度センサ15(温度測定素子)を設ける。また、温度と補正データとを対応づけた補正テーブルをメモリに記憶しておく。検出した温度をもとに補正テーブルを参照しながら補正データを読み出し、この補正データにより、インクジェット装置に設けられた補正手段が出力値を補正する。
【0043】
図17を用いて、温度補正動作について説明する。まず、温度センサ15から温度出力値を取得し、温度出力値に対応する補正データを取得する。つまり、温度出力値と補正データとを対応付けた補正テーブルをもとに補正データを取得する(図17のST1)。補正データを取得した後に温度センサ15の温度出力値に対応する吐出プレート3の変形量を検知する(図17のST2)。このようにして、吐出プレート3の変形量とその補正データとを取得した後に補正演算を行い(図17のST3)、補正演算の結果を出力する(図17のST4)。
【0044】
上述のような補正演算を行うことにより、吐出プレート3の変形量の検知手段の感度を温度特性に応じて補正することが可能になる。言い換えると、補正データは吐出プレート3の変形量の検知手段の感度の温度特性に基づいて設定される。
【0045】
(実施例4)
本実施例では、温度補正方法の他の例について、図18を用いて説明する。上述の実施形態と同様の点については記載を省略する。
図18は、吐出プレート3の吐出口4付近の(a)模式断面図と(b)模式平面図であり、(a)は(b)のE−E断面図である。実施例3とは別の温度補正方法としては、ダミーのひずみゲージ16(別のひずみゲージ)を用いる方法がある。図18に示すように、吐出口4の周縁に設けたひずみゲージ5の他に、ひずみゲージ5と同じ寸法のダミーのひずみゲージ16を設ける。ダミーのひずみゲージ16は、吐出プレート3の吐出口4が設けられた面の、吐出口4とは離れた、変形しにくい部分に設け、ひずみの影響をできる限り受けないようにする。なお、ひずみゲージ5の配線13、ダミーのひずみゲージ16の配線13は、それぞれ個別のブリッジ回路に接続する。このように構成すれば、ダミーのひずみゲージ16では温度変化による抵抗値の変化のみを検知でき、この変化を用いて、インクジェット装置に設けられた補正手段が、ひずみゲージ5で検知される抵抗値を補正する。このようにして、ダミーのひずみゲージ16を用いて温度補正ができる。
【0046】
(実施例5)
本実施例では、ドロップ・オン・デマンド型インクジェットヘッドについて説明する。図19に、ドロップ・オン・デマンド型インクジェットヘッドの一例として、撓みモードピエゾヘッドの模式断面図を示す。インクジェットヘッド125は、圧電素子110、振動板109、インク供給口112、圧力室101、吐出プレート103、吐出口104、リザーバ134、ダイアフラム(振動膜)135からなる。圧電素子110は励振回路(不図示)により、例えば20kHzで低周波励振される。ダイアフラム135はインク圧力変動を吸収する。
【0047】
次にドロップ・オン・デマンド型のインクジェットヘッド125の動作について説明する。初期状態では、吐出口104にインクメニスカスとよばれるインク液面が位置し、インクメニスカスはインクジェットヘッド125内部の静的な負圧状態につりあう形で凹形状となっている。圧電素子110に低周波電圧を印加すると、振動板109が撓み、圧力室101内のインクに急激な圧力上昇が生じ、吐出口104より液滴が吐出される。吐出動作直後に生じるインク振動による流れにより、インクが消費された分のインクがリザーバ134から圧力室101内に供給される。圧力室101内の吐出口104付近のインクの圧力変動量は、例えば約800kPaである。
【0048】
ドロップ・オン・デマンド型においても、吐出口104を含み、吐出口104と圧力室101とを連通する吐出口部104aに目詰まりがある場合とない場合において、吐出口104付近の吐出プレート3の変形量の差が生じる。したがって、上述した実施例と同様に、ひずみゲージ115を吐出口104付近に設けることにより、吐出口4付近の吐出プレート103の変形量を検出できる。
【符号の説明】
【0049】
3 吐出プレート(吐出口基板)
4 吐出口
4a 吐出口部
5 ひずみゲージ(変形量測定素子)
10 圧電素子(エネルギー発生素子)
25 インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)
39 判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口が設けられた面と、前記吐出口を含む吐出口部と、を有する吐出口基板と、前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、
前記エネルギー発生素子がエネルギーを発生した際に、前記吐出口から液体が吐出された場合と比べ、前記吐出口基板が液体の吐出方向に向かってより凸となる場合に、前記吐出口部に詰まりがあると判断する判断部と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記面には、前記吐出口基板の変形量を測定するための変形量測定素子が設けられており、
前記判断部は、前記変形量測定素子により測定された値に対応する前記変形量が、前記吐出口から液体が吐出された場合の前記変形量よりも大きいときに、前記吐出口部に詰まりがあると判断することを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記面には、前記吐出口基板の変形量を測定するための変形量測定素子が設けられており、
前記判断部は、前記変形量測定素子により測定された値に対応する前記変形量が、所定値よりも大きい場合に、前記吐出口部に詰まりがあると判断することを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記変形量測定素子は、ひずみゲージであり、該ひずみゲージが、前記吐出口の周縁を囲うように設けられていることを特徴とする請求項2または3記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記ひずみゲージは、前記面に設けられたCu−Ni合金の電気抵抗体であることを特徴とする請求項4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ひずみゲージは、シリコン半導体の抵抗を用いた半導体ひずみゲージであることを特徴とする請求項4記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記面には、温度を測定する温度測定素子が設けられており、
該温度測定素子により測定された温度に基づいて前記変形量測定素子により測定された値を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項2乃至6いずれか一項記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記面のうちの、前記吐出口から離れた部分に、前記ひずみゲージとは別のひずみゲージが設けられており、
該別のひずみゲージにより測定された値に基づいて、前記ひずみゲージにより測定された値を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項4乃至6いずれか一項記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−143934(P2012−143934A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2926(P2011−2926)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】